秘密の来訪
……広大な宇宙、その銀河系にある惑星の一つである地球──そこに数多く存在する国家の一つである日本の一地区にあるごく普通のカレー屋さんの店内。
そこでは何人かの客が席でカレーを食べながら、店内に取り付けられているテレビのニュースを眺めていた。
『……それでは次のニュースです。昨日、東京郊外の工場地帯に現れた【地底怪獣 グドン】がCREW GUYS JAPANと、先日地球に現れた新しいウルトラマンによって撃破されました』
そのニュースでは遠くから撮影したのか画像は荒く撮影対象も小さかったが、CREW GUYSの新戦闘機【ガンフェニックス】がグドンを攻撃する映像や、赤と銀の巨人──ウルトラマンメビウスが左腕から光剣を展開してグドンを斬り裂く映像も映されていた。
その映像が終わると、今度は記者会見でGUYS JAPANの『トリヤマ補佐官』という中年の男性が今回のGUYSの作戦に付いて説明を行う映像が流れ出した……のだが、先程の戦闘シーンと比べてインパクトが薄いからか、殆どの客がテレビから目を離して手元のカレーを食べる事に集中し始めた。
『……えー、つまりですね、これからもGUYSとしては皆様の生活をお守りする為に全力を尽くす所存で……』
「……ふーん、あの戦闘機の機能についてははぐらかす感じか。……まあ、アレはどう見てもこの星の技術じゃないだろうから機密だろうしなぁ」
しかし、そんな店内のカウンター席で一人だけカレーを食べる手を止めて、テレビに映るトリヤマ補佐官の記者会見を真剣な表情で眺めている“一人の金髪碧眼で長身の青年”が居た。
……その男性は明らかに外国人と分かる外見な事もあって妙に目立ってしまっており、隣の席に座っていた年配の男性から声を掛けられる事になった。
「よう、外国人のにいちゃん。テレビ見るのも良いがこのままだとカレーが冷めちまうぜ」
「あっと、そう言えば食べている途中でしたね。ちょっと食事には慣れてな……じゃなくて、テレビの内容が気になってしまって。……せっかく美味しい食事なんだから温かいうちに食べないとですね」
そんな風に声を掛けられた彼は、どう見ても外国人といった見た目によらない流暢な日本語で返しながら再びカレーを美味しそうに食べ始めた……それを見て興味を持ったのか、或いは元からお喋り好きだったのか年配の男性は更に彼へと話しかけてきた。
「にいちゃん日本語上手だねぇ。この国に住んで長いのかい?」
「いえ、このほ……この国に来たのはつい最近の事ですよ。ちょっとした仕事の関係でして。日本語は職場の先輩に教えてもらって頑張って勉強しました。あとこの国に来たら是非カレーを食べるべきだとも言われましたが」
そんな金髪の青年の茶目っ気が効いた返しがお気に召したのか、年配の男性はカレーを食べながらも話を続けていった。
「はー、そりゃあ運が無いねぇにいちゃん。最近怪獣が再び現れ始めたこの国で仕事なんて」
「まあ仕方ないですよ、自分で選んだ仕事ですからね。……それにこの国の人達は怪獣が現れたのにパニックも起こさずきちんと生活してますしね」
「そりゃあ、ほんの二十五年前ぐらいまでは毎週の様に怪獣が現れて、そいつらを防衛軍の皆さんやウルトラマン達が倒してくれていたからなぁ。……流石に先日現れた怪獣にCREW GUYSが全滅したって聞いた時は、昔MACが全滅したニュースを見た時ぐらい驚いたけどな」
その男性はまるで昔の事に思いを馳せる様に語り、金髪の青年もそれに合わせる様に相槌を打ちつつ男性の話を興味深そうに聞いていた。
「でもニュースを見た限り復活したみたいですね」
「そうだなぁ。多分新メンバーだろうにちゃんと怪獣も倒してるし見事なもんだ。……この新しいウルトラマンも最初は危なっかしい戦い方だったけど、昨日は結構やれてたし」
「本当ですね。……最初は
「にいちゃん中々面白い事を言うなぁ」
……そんな感じでしばらく彼等の話は続いていたが、青年の方が先にカレーを食べ終わった事でその話は終わりになった。
「あ、もう食べ終わったので代金を払わなければいけませんね。……色々なお話を聞かせて貰ってありがとうございました」
「おうそうかい。……って、自分で言っておいてカレー食べるの忘れて話をしたんじゃ立つ瀬がねえな。にいちゃんも仕事大変だろうが頑張りなよ」
「ええ、頑張らせていただきます」
そう言って青年は残ったカレーを慌てて食べる男性を背に会計を済ませて店から出て行ったのだった。
──────◇◇◇──────
「……さて、最初は少し不安だったメビウスの方も大丈夫そうだな。緊張も抜けて本来のスペックに戻っていたし、グドンを被害が出ない場所に移してたしな。……しかし『地球ではカレーを食べるべきだ!』と昔ウルトラマンさんに熱弁された事があるから食べてみたが結構美味しかったな。これなら人間態での食事を趣味にする同族が多いのも頷ける」
そうしてカレー屋を出た青年──我らが宇宙警備隊員アークの人間態はそんな独り言を呟きながら街を歩いていた……ちなみに外見を外国人の姿にしたのは覚えた日本語が多少おかしくても誤魔化せるだろうと思ったからである。
……実はこのアーク、セブン21直伝の変身術を習得しているので人間態の外見を自由に変えられるのだ。ただし人間態時の偽装能力などはセブン21には遠く及ばないが。
「まあ親父もコーヒーを飲むのが好きだと言っていたし今度は喫茶店にでも行ってみようか。……ただ、何故か嫌いな物は『野外でのバーベキュー』とか言ってたんだよな。なんでそんなピンポイントな……」
そうして人間態のアークはただの観光に来た外国人に見える様に街を眺めながら歩いて行く……これだけ見ると彼が食道楽の為に地球へと来た様に見えるかもしれないが、当然宇宙警備隊としての仕事──地球で反応が確認されたハンターナイトツルギの捜索及び説得という任務を帯びてやって来ているのだ。
……こうして街をぶらついているのも現在の地球や地球人の状況を確認して今後どう動くべきかを思案する為なのであり、決して食道楽の為では無いのだ。
「うむ、思ったより食事は楽しいし、次はラーメンとか食べてみたいな。後はお寿司と天ぷらと……」
…………多分。
「……む、またこのエネルギー波か」
だが、街を歩いていたアークは突然何かを感じ取ったかの様に空を眺めると、街の観光を中断してなるべく人のいない郊外へと足を進めていった。
……そして彼は人気のない郊外の丘の上に着くと懐から小型の機械を取り出して何やら操作し始めた。
「……先日のグドン、そして更に前のディノゾールが呼び出された時に支部で観測されたエネルギー波は間違いなくボガールが怪獣を呼び寄せる際のモノだな。やはりヤツもこの地球にやって来ているか。……ヒカリさんのエネルギー波形が微妙に変わった事から、おそらく地球での活動の為に地球人と融合したっぽいし……」
そんな独り言を呟きながらアークは小型の機械──以前から使っていた宇宙科学技術局謹製のエネルギー探知装置の改良型であるヒカリ・ボガールのエネルギーを感知する事に特化した装置──を操作して行く。
……元局長であるヒカリを連れ戻す為、宇宙科学技術局が忙しい中でアーク達が得たヒカリとボガールのデータを元にして可能な限りの改良を施したその探知装置の能力は凄まじく、瞬く間に先程のエネルギー波からボガールの位置を逆探知していく。
「……ボガールの位置は問題なく分かりそうだが、それで問題は
そうして機械の操作を終えたアークは何故か頭を抱えてため息を吐いていた……さて、彼がここまで悩んでいる理由を説明する為に少し時を遡ってみようか。
──────◇◇◇──────
……メビウスが地球に派遣された少し後の事、その地球を管轄下に入れている宇宙警備隊の銀河系支部の一室で宇宙警備隊隊長ゾフィーと宇宙保安庁のセブン21とアークは真剣な表情で何かを話し合っていた。
無論、その話し合いの内容は地球に向かったらしいヒカリ──ハンターナイトツルギへの対応だったのだが、生憎魔が悪く既にメビウスが地球に向かってしまった事が話をややこしくしていた。
「……つまりゾフィー隊長、今回の地球におけるヒカリ博士の説得任務は『アークが単独で地球に赴いて行う』という事ですか?」
「うむ。……メビウスを既に派遣してしまった以上、更なる追加の人員をまだ銀河連邦に加盟していない地球に派遣するのは宇宙警備隊の立場的にも難しいからな」
「ただでさえ地球には既にウルトラ兄弟が四人も滞在してますしね」
実のところ宇宙警備隊は宇宙の治安維持の為にかなりの独自行動権を有してはいるが、だからといって明確なルール違反はおろか暗黙の了解や不文律などを無視した行動をとり続ければ、当然ながら銀河連邦などの味方側の勢力にも不信感を抱かれてしまう。
故に一見ウルトラ兄弟は好き勝手に地球を贔屓している様に見えるかもしれないが、その裏では可能な限り規則を遵守したり関係各所への根回しを行なっていたりもするのだ。
……最も、これだけが理由なら色々と無理をすればアーク以外にも追加の人員を送り込む事ぐらい出来なくは無いのだが……。
「……それに例の『エンペラ軍団』を名乗る者達……まだ確定ではないがその規模と戦力からして限りなく“黒”に近い様だ。……そして奴等は現在宇宙各地で銀河連邦所属の惑星や施設などに攻撃や侵略を行なっているから、警備隊の殆どの人員……特にベテランはそちらに割り振らねばならん」
「……事件の重要性や規模は地球にいるヒカリ博士やボガールよりもエンペラ軍団の方が上になりますか」
「既にメビウスを派遣している以上、今のところは何も無い地球に更に追加のベテラン隊員を派遣する余裕は無いか。……ヒカリさんの状態も考えると送り込む人員を増やせば良い訳でも無いからな……」
そう、メビウスが地球に赴くのと前後する形で宇宙の様々な場所で『エンペラ軍団』を名乗る者達が活動を始めてしまったのだ……それに対応する為、宇宙警備隊はそのリソースの殆どをそちら側に向けなければならなくなったのである。
……そしてこれらの事情を聞いたアークが何かを考え込んでしまったので、ゾフィーとセブン21は『流石に新人の彼にとっては難しい案件だから、考えを整理する時間も必要だろう』としばらくそっとしておく事にして自分達も今後の事を話し合い始めた。
「……これは私の勘なのだが、おそらくこの騒動は『エンペラ軍団』が“何か”を行う為の陽動である可能性が高いと思う。セブン21にはそちらの調査に回ってほしい」
「確かに、連中の規模に反してやっている事は活動範囲が広いだけの小競り合いですからね。その可能性は高いでしょう」
「…………」
ゾフィーとセブン21がそんな会話をしている横で当事者のアークは引き続き考え込んでいたが、やがて意を決したかの様に顔を上げて二人へ話しかけた。
「……まあ、地球に送れる追加の人員が“新人でありヒカリさんと面識があって説得出来る可能性もあって、更にいざとなれば浄化も出来る”俺ぐらいしかいないのは理解しました。……とりあえず基本方針としてはもう一度説得して、必要なら再びボガールの共同討伐を申し入れる方向性でやってみようと思います」
「前回はボガールの邪魔が入ったから上手くいかなかったが、やはりあの復讐の鎧をどうにかする為にはボガールを倒す事で彼の復讐心を薄れさせる必要があるだろうからな。……だが、以前見た彼の復讐心を考えると接触は慎重を期す必要があるだろうな」
「ボガールには怪獣を呼び込む能力がある以上、呼び出された怪獣やそれと戦うであろう地球人やメビウスとの対応も考える必要もある」
アークはまとめ終わった考えをゾフィーとセブン21に話して行き、その案を聞いた二人は新人ながらよく考えられている提案に賛同しながらも、経験の薄さから来る提案の不備を指摘しつつその案を詰めていった。
「成る程……じゃあ、メビウスへはどう説明すれば良いでしょうか?」
「流石にボガールやヒカリの事を話さない訳にもいかないだろうが、地球への赴任早々に話した場合、新人である彼への負担になって思わぬミスをするかもしれん。……話をする事は確定だが時期や状況は見極める必要があるだろう」
「まあ了解。……って、俺も新人なんですが」
「だが、この一件をどうにか出来る可能性が一番高いのもお前だと私は考えている。メビウスとも仲が良いし、ヒカリとも面識がある」
そうして単純な戦闘だけでなく様々な状況で宇宙警備隊の任務を行なってきたゾフィーとセブン21は、その経験を活かしてアークに様々なアドバイスをしていった。
また、今回の一件では慎重な舵取りが必要だと思っているアークは、内心『初めての単独任務に行く新人がやるもんじゃないだろう』と思いつつも二人の言葉を全力で頭に叩き込んでいく。
……そして、一通りの話が出尽くした所でゾフィーは“宇宙警備隊隊長としての言葉”をアークに告げた。
「最後にアーク、今回の件でお前が最優先にするべきは『
「……了解しました、ゾフィー隊長」
「頼んだぞ、アーク」
……そんなやり取りを最後に二人との話し合いを終えたアークは、その後に丁度届いたエネルギー感知装置を受け取ってから地球へと向かっていったのだった。
──────◇◇◇──────
こうして地球に降り立ったアークは人間態に変身して秘密裏に地球の状況とボガール・ヒカリ両名の情報を探っていたのだ……その間、
「……とりあえずメビウスに事情を話すのはもう少し様子を見てからにするか。まずはヒカリさんに接触して何とか説得かな。……いや、先にボガールの動向も探った方がいいかな。この前はヤツの横槍のせいで説得が失敗したし……」
そうして一先ずの予定を建てたアークは手始めに改良型エネルギー探知機を使って『先程ボガールが怪獣を呼び込むエネルギー波を出した場所』を割り出すと、早速その場所へと向かう事にしたのだった。
あとがき・各種設定解説
アーク:初単独任務(ハードモード)
・実の所、カレー屋とかに行ってみたのは気分転換も兼ねての事だったり。
・ただそれでもゾフィー隊長……父親からの期待に応えようと、そして宇宙警備隊員としての職務を成そうとかつてなく本気だったり。
壮年の男性:アークが初めて会話した地球人
・若い頃に怪獣頻出期を経験しており、更に間近で防衛チームやウルトラマンの戦いを見た事があるので彼等には友好的。
トリヤマ補佐官:メビウスにおける作者の推しキャラ
・記者会見ではメテオールの事とかCREW GUYSのメンバーが実質ほぼ民間人な事などを誤魔化しつつ、記者達に悪印象を持たれない様に乗り切るという仕事を成し遂げている。
メビウス:現在原作2話「俺達の翼」が終わった辺り
・初陣のやらかしは緊張していた事よりも、地球に来る直前に“助けられなかった人”がいたから焦っていた事が大きい。
ゾフィー:公の場では公私をきっちり分ける
・実の所、宇宙中で起きている問題に対応する為に働き続けており、アークを単独で送り込んだのもそれしか手が無かったからである。
・ただそれでもアーク……自分の息子なら宇宙警備隊員としての職務をやり遂げるだろうという信頼があるのも事実である。
エンペラ軍団:こいつらの所為で宇宙警備隊がパンクしかけてる
・実の所、こいつらの殆どが何時ぞやのマグマ星人と同じく雇われたか唆されたチンピラ崩れや宇宙犯罪者達である。
・尚、彼等が宇宙中で騒ぎを起こしているのは、宇宙警備隊の目を逸らし動きを封じる事を目論む暗黒四天王の一人『知将』の策。
読了ありがとうございました。
メビウス本編の見直しがまだ終わっていないので更新は不定期になると思いますが、今後もよろしくお願いします。