宇宙に輝くウルトラの星   作:貴司崎

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話数が5話になったので、短編から連載に変更しました。


宇宙科学技術局とアークの“チカラ”(後編)

 そうして実験室を出た俺は皆さんが待つ研究室に戻って来ていた……さて、あの姿の事をカラレス教官にどう説明しようか。何分見た目が少し“アレ”だからなぁ。

 ……そう、俺が切り出す言葉に悩んでいると、その前にヒカリさんがカラレス教官へ説明を行ってくれた。

 

「まあ、見てもらった通りアレがアークの能力だ。……身体の色が変わると同時に強力な念力・亜空間へのゲートの生成・特殊環境への高い適応能力を獲得するというものだが」

「その前に少し聞かせてくれ。……アークがあの姿になる事で肉体や精神に何か変調などはあるのか?」

 

 その説明の途中でカラレス教官からそんな質問があった……真っ先に俺への悪影響を心配してくれるとはやっぱり教官は良い人だな。

 ……まあ、それに明らかに闇堕ちとかしそうな見た目だしなぁ。

 

「それに関しては、これまでの実験後には必ずメディカルチェックとカウンセリングを行っているが特に異常は発見出来ていないな」

「まあ、ゾフィーもその辺りの事をかなり心配していたから、そこは特に念入りにやってるぜ」

「あの姿になっている間もエネルギーやバイタルは安定していますしね」

 

 その質問に対してヒカリさん、フレアさん、トレギアさんがそれぞれ特に問題は無いと答えてくれた……実際使っている側としてもおかしい所は何一つ無く、この“チカラ”が自分のモノである事が当たり前の様に使える感覚なんだが、上手く言葉にするのが難しいからな。

 そして、その事を聞いてカラレス教官は安心した様に頷いた。

 

「そうか、お前達がそこまで言うなら大丈夫そうだな。それに最初は少し面喰らったが、あの亜空間を開く力……アレはゾフィーの『黒の力』と同質のモノだろう?」

「恐らくはな。同じ力が息子であるアークに受け継がれたと考えるべきだろう」

「ゾフィーと違って全身の色が変わるからな。異常を心配するのは当然だろ」

 

 そう、サージさんとフレアさんが言った通り、実は親父も俺と同じ様に『闇の亜空間』を開く能力を持っているのだ。そして、親父がその力を使う際には頭の一部が黒く染まるので、俺のこの姿も親父から受け継いだものである可能性が高い様である。

 尚、親父はかつてその『黒の力』をM87光線に乗せて放って、空間上にあらゆる物を吸い込む闇の亜空間を作り出して敵をその中に放逐したり、そのM87光線をブラックホールに打ち込んでそれを証明させたりしていたらしい。

 ……では何故ここまでこの姿をひた隠しにしているのかと言うと、さっきから何度も言っている通り()()()の問題なんだよなぁ……。

 

「俺のは親父と違って全身のシルバーの部分が真っ黒に染まるからな……お陰で完全に()()()()()()()()()になっちゃうからなー」

「まあ、赤と黒だから、事情を知らない者が見たら誤解しかねない姿だからねぇ」

「それに体色の変化自体が珍しいからな。俺もゴライアンの力を封じていた時にはシルバー族になっていたが、アレはエネルギーを失った結果だからアークのモノとは結構違うからな」

 

 この光の国では基本的に体色による差別などはほぼ無いのだが、唯一の例外として赤と黒の組み合わせ──かつて光の国に唯一反逆したウルトラ族『ベリアル』の色に関しては忌避される傾向があるのだ。

 だから、親父には自分はまだ宇宙警備隊の隊長になったばかりだし、そんな時に息子の俺がこんな姿になったらあらぬ誤解を抱かれる可能性があるから、士官学校を卒業するまでこの姿は公の場では封印しておけと言われているぐらいだしな。

 ……と、そんな事を言ったらヒカリさんとカラレス教官が口を開いた。

 

「いや、ゾフィーの事だから自分の事よりも息子が変な目で見られるのを心配しているんだろう。今はアイツが隊長になったばかりだから、その息子のお前も嫌でも目立つからな」

「それに、ゾフィーはその力に溺れてしまわない様に気を使っているのもあるだろう。あの『黒の力』は強力すぎるからアイツ自身も使用を戒めているからな」

「まあそうでしょうね。親父は色々口下手ですから。……と言っても、この『黒の姿』になると俺の場合むしろ()()()()から、言われなくてもあんまり使わないんですけどね」

 

 実は俺の『黒の姿』なのだが、この姿になると元の姿と比べて身体能力が大体半分くらいに弱体化してしまう上、更に光線技が使えなくなってしまうのだ。

 皆さんの研究結果では『肉体が亜空間の展開や念力の行使などに特化された所為で、逆にいくつかの能力が弱体化しているのではないか』との事だが……。

 

「正直言って、元の姿の方が直接戦闘能力は高いですね。……一応、黒の姿でも冷気や氷みたいなマイナス方向のエネルギー制御は出来る様なので、サージさんから氷の技を習ったりしていますけど」

「俺の見立てだと、元の姿と比べて黒の姿の方がマイナス方向のエネルギー制御能力は高い様だ」

「ふむ……あの闇の亜空間もゾフィーが作ったものより安定していた様だし、黒の姿はより亜空間の生成に適応した結果なのかもしれないな」

「ゾフィーのモノは空間を無理矢理こじ開ける感じだけど、アークの黒の姿は自由に亜空間を操作出来るって感じだしな」

 

 そんな感じで皆さんが俺の『黒い姿』の事を色々と考察していった……俺がこんな闇堕ちしそうな能力を持っているにも関わらず、ごく真っ当に過ごせているのはここに居る皆さんの尽力も大きいだろう。

 ……そんな中で、突然トレギアさんが俺に一つの提案をして来た。

 

「そうだアーク君、君の『黒い姿』に名前をつけてみるのはどうだろうか?」

「名前ですか?」

 

 ……少し意外な提案だったから思わず聞き返してしまった。しかし、名前か……確かにずっと『黒い姿』って呼んでたしな。

 

「ああ、いつまでも『黒い姿』じゃ味気ないだろう? それに宇宙警備隊の戦士は自分の作ったオリジナル技に名前をつける事はよくある事だし、将来君が宇宙警備隊でその力を振るう時にキチンとした名前があった方がいいだろう」

「いいんじゃないか? レポートを書くのもそちらの方が楽そうだし」

「それに、その『黒い姿』をお前自身の技って示す事にもなるだろうしな。それに名前を付けた方が愛着も湧くだろうし、何よりカッコいい……俺の《αΩ》とか《β》とか《γ》とか」

「まあ、俺も自分の技に《リオート》や《ミラーシ》《ザミルザーニィ》などの名前を付けているからな。そういうのもいいだろう」

「いや、お前達のはちょっと捻り過ぎだろ。……アーク、技名とかは使う本人が分かりやすいのが一番重要だからな」

 

 フレアさんとサージさんの技名に対してカラレス教官からツッコミが入ったりしたが、概ね俺の『黒い姿』に名前をつける方向に決まったらしい……流石にお二人程センスのある名前をつけるのは俺には無理そうだが……。

 しかし名前か、どうするかな……超能力が得意だから『ミラクルタイプ』……はたまた黒くて亜空間を開くから『ブラックホールフォーム』……うーむ、ちょっと時代や世界観が違う気がする。もう少しシンプルな感じにしよう。

 

「……それじゃあ、この『黒い姿』の事は“リバーススタイル”、いつもの姿の時は“シルバースタイル”で」

「成る程、リバーススタイル(黒い裏)シルバースタイル(銀の表)か……イイ名前じゃないか」

「ああ、分かりやすくていいと思うぞ」

 

 トレギアさんとカラレス教官から賛成されたし、他の皆さんも『アークが自分で考えた名前ならそれで良いだろう』という事になったので、これからは俺の黒い姿の事を『リバーススタイル』、いつものシルバー族の姿の時を『シルバースタイル』と呼称する事に決まった。

 

「それじゃあ名前も決まって話もひと段落した事だし、今日の残りの検査もやってしまいたいんだが良いだろうか?」

「はい、体力も回復出来たので大丈夫ですよ」

「では、次は『リバーススタイル』での俺が教えた凍結系能力の試験をするか」

「その後は俺が教えた肉体変化の技術の試験もやるぜ」

「いや、アークは明日も士官学校で訓練なんだからもう少し手加減してだな……」

 

 と、そんなこんなで俺は残りの試験をこなしていくのだった……途中、カラレス教官から色々物言いが入ったりしたが、このぐらいなら特に問題無いと俺が取りなしておいた。

 俺が宇宙警備隊員を目指している理由は自分の事を色々と気にかけてくれた彼等に応えようと思ったからだからな。このぐらいはどうという事は無い。

 ……それにウルトラ兄弟による地獄の特訓フルコースと比べれば、宇宙科学技術局の検査と士官学校の訓練のはしごぐらい本当にどうという事は無いしな! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 さて、そんな訳で本日の検査を一通り終えた俺は、宇宙科学技術局内にある休憩室で皆さんと一緒に寛いでいた。

 

「ふむ、俺が教えた冷気系能力はそれなりに上手く使えているようだな」

「剣術に関しても、まあ及第点は与えてやれるだろう」

「ありがとうございます、サージさん、ヒカリさん」

 

 ちなみにヒカリさんは昔剣術を習っていた事があるらしく、サージさんとは同門の剣術仲間だったらしい。なので俺は検査のついでに彼等から剣術や光剣の生成技術などを学んだりしているのだ。

 

「俺が教えた肉体を光の粒子に変化させる技術も『リバーススタイル』の時にはある程度使えるみたいだな。……まあ、あれもウルトラ念力による肉体変化の応用だからな」

「『リバーススタイル』時には肉体のエネルギー性質がマイナス方面に変化しているからだと計測されていますし、マイナス性質のエネルギーの方が変化し易いという考えも出来ますね」

 

 そしてフレアさんはトレギアさんと一緒に先程の実験結果の考察をしていた……尚、これを見たカラレス教官は『あのフレアがすっかり技術屋になっているな』と半分関心、半分驚きの表情で語っていた。

 ……と、そこで休憩室にとある意外な人達が顔を出したのだ。

 

「ヒカリはいるか? 例の武器の試験が終わったから来て欲しいと言われて呼びに来たんだが……」

「ふむ、アークがいるという事は例の検査だったか。これは出直した方がいいか?」

「マンとセブンか。いや、検査はもう終わったしこの後そっちにも顔を出そうと思っていたところだ」

 

 そう、現れたのは栄えあるウルトラ兄弟の次兄と三男、ウルトラマンさんとセブンさんだったのだ……メビウスがいたら感激して色々騒がしくなりそうな光景だな。

 ……しかし、彼等は地球で重症を負って療養中だと聞いていたのだが……。

 

「お久しぶりです、マンさん、セブンさん。もう動いて大丈夫何ですか?」

「久しぶりだなアーク。俺もセブンも地球で負った怪我に関しては既に完治したさ。……今はリハビリも兼ねて宇宙科学技術局で新武器のテストをしているんだ」

「今、地球で任務に付いているジャックに送る予定の武器だから、地球での活動経験がある我々がテストを行うのがいいだろうと言われてな。……俺達としても、代わりに地球での任務に着いたジャックの助けになるのならと請け負ったのだ」

 

 ちなみにトレギアさんに聞いたところ、今宇宙科学技術局ではお二人が試験している万能武器『ウルトラブレスレット』を始めとして、地球の様な過酷な環境での行動を補助する様々なアイテムの開発にかなり力を入れているらしい。

 どうやら、お二人が療養する事になった事で、ウルトラ兄弟クラスの隊員でも過酷な環境での長時間活動は危険が大きいと考えた宇宙警備隊隊長(ウチの親父)が提案したとの事。

 

「私も過酷な外宇宙での長時間の活動を可能にするエネルギーコンバーターの開発に関わっているからね。……それに、いずれはそういった環境でも問題無く活動出来る様になるアイテムを作ろうとも思っているんだ」

「成る程……忙しそうなら俺の検査も少なくなりますかね」

「いや、君の『リバーススタイル』状態は擬似的に再現された地球の環境でも長時間活動出来る様だからね。そのデータがあれば研究も進むかもしれないし、むしろ検査が増えるかもね」

 

 はー、流石は光の国を支える屋台骨である宇宙科学技術局だな。親父も彼等がいなければ宇宙警備隊の任務は成り立たないって言ってたし、この星の最重要機関と言っても過言では無いって感じだ。

 ……そうして休憩が終わって俺とカラレス教官は帰り、他の皆さんは業務に戻ろうとしていたところで、更にこの休憩室に一人の技術局職員が入って来たのだ。

 

「すみません、ヒカリさん。……また()()()()です」

「……ハァ……またか」

「アイツら本当にしつこいですね。……というか、こちらには回さずに外交部門の方で処理する問題でしょう」

 

 その職員が簡潔に告げたその言葉に、ヒカリさんやトレギアさんといった技術局職員達が一様にウンザリとした表情でため息を吐いたのだ。

 

「どうしたんだヒカリ、何かあったのか?」

「いや……実は、最近バット星人達が「光の国は『命の固形化技術』を全宇宙に公開すべきだ!」と言って来る様になってな。基本的に外交部門の方が対応していたのだが、最近になって技術局の方にも直接文句を言って来る様になって来たんだ」

「そもそも『命の固形化技術』は光の国でも『プラズマスパーク技術』に匹敵する機密情報なのだから、公開なんて出来る訳が無いでしょうに」

「ま、下手に公開すると宇宙のバランスを崩しかねない技術だからな。……そもそもバット星人みたいな侵略活動を積極的にやってる連中に教えられる訳ないし」

 

 セブンさんが発したその疑問にヒカリさん、トレギアさん、フレアさんが本当にウンザリした雰囲気で答えてくれた……確か『バット星人』は惑星ぐるみで他の星への侵略を積極的に行なっている宇宙警備隊でもマークされている種族だったな。

 ……まあ、そんな連中に宇宙警備隊がある光の国が技術供与なんて出来る訳が無いのは当然なんだが。

 

「そもそも『命の固形化技術』だって必ず死者を蘇らせられると言うほど万能では無いし、その危険性から使用には宇宙警備隊総本部の許可が必要な技術だから俺達に文句を言われてもどうしようもないんだがな」

「私とハヤタを救った時でもゾフィーとウルトラの父が方々に掛け合ってくれたそうだからな。……しかし、この光の国に何度もそんな文句を付けて来るとは……」

「随分とキナ臭い話だな。……ヤツらも侵略活動を行なっている以上、光の国に目を付けられやすくなる行動は控える筈だが……」

 

 ヒカリさんのその言葉にマンさんとカラレス教官が各々の意見を述べた……確かに妙な話だな。宇宙警備隊の主力である光の国にちょっかいを掛ける様な連中はこれまで殆ど居なかったんだが……。

 

「とりあえず、俺はそのクレームを適当に捌いてから行くから、他のみんなは先にウルトラブレスレットの実験室に向かってくれ」

「分かりました」

「それじゃあアーク、忙しそうだし俺達はそろそろお暇するか」

「そうですね、カラレス教官」

 

 そういう訳で、今日の検査は終わり俺達は解散して各々の職場や自宅に戻っていった……しかし、最後は何かキナ臭い話だったな。厄介事にならなければいいんだが……。




あとがき・各種設定解説

アーク:タイプチェンジの名前を(無難に)付けた
・これを期に他のオリジナル技にも名前を付けようかと思っている。

リバーススタイル:アークの中にある『黒の力』を解放した状態
・明らかになっている長所は『ウルトラ念力の大幅強化』『闇の亜空間に繋がるゲートの展開』『環境対応能力の上昇』『マイナス方面のエネルギー制御能力・肉体変化能力などの上昇』と言ったところ。
・ただし、デメリットとして『身体能力の大幅減少』『光線技の使用不能』があるので直接戦闘能力は落ちる。
・アーク自身にもまだ分かっていない事が多いので隠された力(後付け設定)がある可能性も。

ゾフィーの『黒の力』:出展『ウルトラマン超闘士激伝・新章』
・『初期のゾフィーの頭部にあるトサカが黒かった』というネタをゾフィー強化の能力として流用した良設定。
・この作品においても激伝と同じ様に『皆の規範になるべき宇宙警備隊隊長としては相応しく無い力』として封印している。

トレギア:研究メンバーの中ではアークと歳が近いのでよく話をする関係
・光と闇についての考察はアークの検査をした事で更に重視する様になっている。

ヒカリ:人間で言うとレオナルド・ダ・ヴィンチみたいな万能の天才
・テレビでは宇宙剣豪と呼ばれるザムシャーとやり合えるだけの剣術を有していた為、この作品では昔剣術を習っていた設定に。

サージ&フレア:自分達の特殊な技術を受け継げそうなアークへの指導にはかなり乗り気

バット星人:次回のフラグ


読了ありがとうございました、次回は本格的な戦闘シーンを入れていきたいと思います。

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