「……さてさて、とりあえず惑星ジャルマの首都にやって来た訳ですが……あ、そこのファントン星人のオッチャン! 串焼き一つ下さい!」
「へい! 串焼き一つお待ち!」
現在惑星ジャルマでに潜入任務中である俺こと宇宙警備隊員アークは、大通りの脇で屋台をやっていたファントン星人から串焼きを一本買って食べながら街を歩いていた……ふふふ、これぞ地球での任務で磨いた現地潜入術『とりあえずお気楽な旅行者のフリをしとこうぜ』だ。
誰も道で串焼きを食べ歩きしている男が宇宙警備隊員だとは思うまい……流石食へのこだわりが凄いファントン星人だな。屋台の串焼き一つに物凄い手間が掛かっているのが分かるぐらい美味い。
(しかし、先程のファントン星人と言い、ヒューマノイドタイプへの擬態もせずに街中にいる非ヒューマノイドタイプの種族がチラホラいるな。報告にあった通り多くの宇宙人が合法的に入星して暮らしているってのは本当の事みたいだな)
実際、道を歩いていると見覚えのある宇宙人が普通に歩いていて、それを見たヒューマノイドタイプのジャルマ人も特に気にしていない事からそれを当たり前の物として受け入れているのが分かる……ちなみに俺は潜入用に擬態精度を最大にした人間態を取ってるけど。
確か惑星ジャルマが銀河連邦に加盟したのは“三十年前”で宇宙進出と惑星外との交流が始まったのはその“二十年前”だったから、僅か五十年程で少なくとも首都では普通に他惑星との交流が出来る環境に整えたという事になるか。
……正直言ってこれは宇宙的に見ても物凄く早い事なんだよな。他惑星との交流が始まった最初の頃は常識や価値観の違いで色々と問題が起きて、それを一つ一つ解決していく事で宇宙社会で通用する文明にしていくんだが。
(少なくともたった五十年ちょいで
まあ、結果として惑星ジャルマは星間貿易の中継地点として商取引や観光業などで栄え、異星人が街中に居るのが当たり前になるレベルでえ非常に早く宇宙社会に進出する事が出来た訳だが……その分だけ異星人の犯罪者が入り込み易くなったみたいだな。
……最もそう言った異星人に対応する為の防衛・諜報組織はちゃんと整備されており、今もタロウ教官達を含む銀河連邦のエージェントと協力して【ドルズ星人】の行方を捜索しているみたいだが。
(それでも社会制度の急速な変動に対応しきれていない面もあるみたいだけどね。タロウ教官も宇宙警備隊員や銀河連邦のエージェントが入り込んだ事は向こうに漏れてる可能性が高いと予想してたから、俺を極秘裏に潜入させたんだしね。……事が起きるまでは怪しまれない様に旅行者のフリをして待機なんだけど。俺の出番が来ないなら越した事は無いんだが)
「さて、それじゃあ次は……ん?」
そんな風に考え事をしながら俺は人気の少ない道を歩いていたのだが、そこで前方から一人の少女が何やらフラフラした足取りで歩いているのが見えた……見た目は10歳ぐらいで金髪碧眼に水色の服とリボンを身に付けて“赤い靴”を履いているという、まあ何処にでもいそうな普通の少女ではだった。
……それ故に、そんな普通の少女が茫洋とした目をしながら足取りも覚束ない状態でこんな人気の無い道を歩いているのは明らかに不自然ではあったが。道にでも迷ったのかも知れないし、とりあえず声を掛けてみるか。
「おい、そこの少女、大丈夫か「……ばたんきゅ〜〜〜〜……」って、おいっ⁉︎」
そう思って声を掛けた直後、その少女は突然地面に向かってぶっ倒れてしまったのだ……慌てて俺は少女の元へと向かって助け起こしながら無事を確認する為に呼び掛けた。
「おい! 君大丈夫か!」
……ぐぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜……
……そうしたら少女のお腹からそんな音が聞こえてきた……ひょっとして空腹で倒れたのか?
「……お、おなかすいた……たべもの……」
「まさかの行き倒れかよ。……しかしこんな少女が? とりあえず容態を……」
そうして俺は念の為に擬態の精度を落としてから医療用に習った簡易検診能力『ウルトラメディカルチェック』よって彼女の身体情報を確認し……。
──────◇◇◇──────
「バクバクモグモグハグハグムシャムシャ!!!」
「……あー、ほら、そんなに急いで食わなくても食い物どっか行ったりしないから。もう少し落ち着いて食え」
それから俺はとりあえずお腹が空いているらしい少女に飯を食わせる為に近くのレストランにやって来ていた……あー、もう口の周りがベトベトじゃん。ナプキンナプキン……。
「……ちょっと拭くからじっとしてろ」
「ンモ? ……ありがとうね、お兄ちゃん!」
満面の笑みでそれだけ言った少女は再びテーブルに並べられたお子様ランチセットを食べ始めた……この様子だと食べ終わるまでは話を聞けそうに無いし、しょうがないから俺も注文したステーキセットを食べながら待つとするか。
……そうして暫くして少女がテーブルの上に乗った食事を一通り食べ終わってドリンクのクリームソーダをチビチビ飲み始めたので、俺はとりあえず少女から話を聞く事にした。
「それで、まずは名前を聞いておこうか。……ああ、俺の名前はアーク、只の旅行者(今の所)だよ」
「わたしはアリス! 8歳だよ! ……あ、ごはんを食べさせてくれてありがとうね! アークおじちゃん!」
おじちゃん……年齢は大体7000歳ぐらいだけど、ヒューマノイドタイプ換算なら大体二十数歳ぐらいなんだけどなぁ。擬態の見た目もそのぐらいの年齢に設定してあるし。
……それはともかくとして、とにかく彼女──アリスの“事情”をなんとか聞き出さないとな。
「それじゃあアリス、君は何故あんな所に倒れていたんだい?」
「……うーん……わかんない! 気がついたらアソコにいて、歩きまわったらすごくおなかがすいてて……」
そのアリスの話を一通り聞いた所、彼女は気が付いたらこの首都の街中に居たらしく、そのままずっと歩き続けていたら段々と疲れて空腹になって行き、丁度俺の目の前に現れたその時に倒れたと言う事の様だ。
……少なくとも子供らしく思った事を素直に話しているだけっぽい彼女からは嘘を付いている気配はしないし、おそらく俺の目の前に現れたのも“偶然”なのだろうが……。
「それじゃあアリス、君の住んでいた家とかご両親の事とかは分かるかな?」
「えーっとね、アリスの家はマンションの5階にあって、エレナおかーさんとケビンおとーさんと一緒に住んでいたんだよ! 同じマンションに住んでた“いーくん”や“ちーちゃん”と一緒に遊んだりした!!! それと今度から小学校に通うんだって!!!」
子供だからか自分の興味がある事を話す上に時系列も色々と前後するので少し聞き取り難かったが、彼女はこの惑星ジャルマのマンションに両親と一緒に住んでいた何処にでもいる三人家族だった様だ。
……と、そこまで話した所でアリスは何かを思い出したかの様に不安そうな顔をして俯いた。
「……やっぱりわたしがまいごになったこと、おとーさんとおかーさんは心配してるかなぁ。……でもおうちの場所わからないし……」
「……なら、俺が一緒に探してやろうか?」
「えっ⁉︎ ほんとう、おじちゃん!」
そんなしょんぼりとしているアリスを見かねて俺がそう提案すると、彼女は一転して顔を綻ばせながら前を向いた……と言っても、俺はこの惑星に来たばかりだし地理とかもさっぱりなのだが。
……“普通”このレベルの文明を持つ惑星であれば自動案内機能ぐらいはあるので問題にはならないのだが、彼女の場合は
「……む、教官からか。すまないが知人から連絡が来たから少し席を外すぞ。大人しくここで待っている様に」
「はーい」
そうこうしている内に
……それにタロウ教官からの連絡を彼女に聞かせる訳にはいかないしな……。
──────◇◇◇──────
そういう訳で俺は店のトイレに行くと、辺りに人の気配がしない事を確認した上で空いている個室に入って通信に出た。
「……もしもしタロウ教官、アークです」
『ああ、私だ。……それで“例の少女の様子は?』
「とりあえずレストランに連れて行ってお子様ランチを食べさせておきました。今はクリームソーダを飲んでますよ。……ああして見る分には普通の少女にしか見えませんね……本当に」
『……そうか……』
……正直、今の俺の声音はさっきまでと違って内心の怒りを隠しきれていない物なのだろうが、こちらの“事情”を察してくれているタロウ教官はそれを咎める事も無くむしろ沈痛な声を出すだけだった。
「それで事前に送っておいた彼女──アリスの生態データから何か分かりましたか? 身元とか」
『ああ……お前から送られて来た指紋と顔認証データをこちらで惑星ジャルマの住民データバンクで問い合わせた所、該当するデータが見つかった。……彼女の名前は『アリス・ミラー』、父親である『ケビン・ミラー』と母親である『エレナ・ミラー』と共に
少なくとも両親の名前は彼女が話していたそれと一致しているな……だが、“二十年前まで暮らしていた”という事はやはり……。
「……彼女から聞いた両親の名前と一致しますね。……それで、その二人は?」
『……データによるとミラー夫妻は今から
「やはりそうでしたか……」
予想していた通りの報告とは言えアリスの笑顔を見た後だと心が痛いな……しかも、彼女に纏わる“最も重要な問題”はそんな事では無いからな……。
『……それで、そのアリス君の様子には本当に問題は無いんだな? ……
「少なくとも今の所は怪獣に変化して暴れるなどの異常は起きていませんし、彼女と会話して反応を見た限り自分が改造されている事は知らないみたいです。……それどころか火災で両親が亡くなった事も記憶に無い、或いは消されている様です」
……そう、最初にアリスに会った時に行ったウルトラメディカルチェックに於いて、俺は彼女の肉体が事前に見た【ドルズ星人】の資料にあった【うろこ怪獣 メモール】に改造されている事に気が付いてしまったのだ。
……無論、直ぐに俺はこの事をタロウ教官に伝えた後、資料によると【メモール】は凡そ五十時間後に怪獣化する時限機構が組み込まれている事を思い出して、万が一の時の為に彼女の側に付いている事にしたのだ。
「しかし、彼女の見た目の年齢は8歳のままでしたし、自分が怪獣である事の記憶も完全に無い様でしたが……」
『そこは【ドルズ星人】が何か細工をしたのかもしれん。……とにかく、こうなってしまった以上はお前の潜入調査任務も中止だ。彼女に関してはお前が暫く付き添って、万が一に備えてなるべく人気の多い都市部から離しておいてくれ』
「そちらで保護は出来ないんですか? 或いは彼女を元に戻す方法とかは……」
『……済まない。只の迷子の保護ならともかく、怪獣に変身してしまう人間を保護しておける施設や人員はこの星には無い。……加えてドルズ星人に改造された人間を元に戻す事は光の国の技術でも不可能だ』
……まあ、分かっていた事ではあるんだがな。一度改造された人間はドルズ星人自身ですら元には戻せないと聞くし……とりあえずドルズ星人のクソ野郎共は絶許(怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒)
……とりあえず惑星ジャルマ防衛軍の中でタロウ教官が手配してくれた信頼出来る人員と、彼女に『万が一の時』があっても対処出来る場所にある施設へ向かう様に指示を受けた。
「……分かりました、もし彼女に“万が一の時”があった場合には俺が
『……済まない、アーク』
「いえ、何とかする方法が無くはないですし……それにこのタイミングで【メモール】にされた少女が出た事が偶然とは思えません」
『ああ、ドルズ星人が我々の調査に勘付いて“何か”を仕掛けてきたと見て間違いないだろう。……ドルズ星人は必ず俺が然るべき報いを受けさせる。だからそちらも頼んだぞ』
そうしてタロウ教官との通信が切れた後、俺は思わず顔に手をやって天を仰いでしまった……この宇宙警備隊員の仕事を志した時からこんな“胸糞悪い事件”に遭遇する事も覚悟はしていたんだがな。
……実際にこの手の事件に遭遇してみると本当に心が色々とキツい。世界はいつだってこんな筈じゃなかった事ばっかりだな。
あとがき・各種設定解説
アーク:只の潜入任務……の筈だった
・ウルトラマンお約束の偶にある胸糞悪い系ストーリーが始まってしまった人、平静に見えて内心では滅茶苦茶怒っている。
・アーカイブとかで胸糞系事件の情報も色々見てきたのだが、実際に遭遇するとなまじ頭が良いからかこの先の展開まで予測出来てしまい少々グロッキー気味。
惑星ジャルマ:結構発展している
・以前に銀河連邦所属惑星の強い働き掛けで連邦入りしたと言ったが、その働き掛けを行った星がその後もジャルマの社会秩序安定の為に色々と援助したのでこの様な発展を成せている。
・まあ、只の善意では無く独立させるだけして治安を悪化させて放置とかすれば悪評が立つから手を貸したとか、貿易の中継地としてある程度の発展や治安維持が成されておく必要があったという理由もあるが。
・その都合上、首都や宇宙港のある都市部を優先して開発して言ったので、地方都市などはやや発展が遅れている模様。
タロウ:現在はドルズ星人とエンペラ軍団幹部の動向を掴んだ所
・アークの方に人員を回せないのはドルズ星人に加えて現地の犯罪組織の一斉摘発に向けての準備に人員は割かれているからでもある。
アリス:赤い靴履いてた……
・二十年前にドルズ星人の一派に誘拐されて怪獣に改造されてしまった少女で、両親はその時に殺されている。
・その姿がそのままで記憶も無いのは『その方が宇宙警備隊員などの善人集団には有用だから』とか言うドルズ星人のクソみたいな策略によるもの。
・何故街中にいたのかなどの理由に関しては次回。
読了ありがとうございました。
多分、次回の話以降からが色々な意味でアークにとっての“分岐点”になる予定です。