宇宙に輝くウルトラの星   作:貴司崎

8 / 89
ちょっと遅れましたが、ようやく書きあがりました。


光の国を守れ! バット星人襲来!(後編)

 ──────◇◇◇──────

 

 

 触角宇宙人 バット星人

 宇宙恐竜 ゼットン 登場! 

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 そこは全体的に暗く、様々な機器や外に宇宙空間を映し出すモニターなどが配置されている場所──今回ウルトラの星への侵攻を企てたバット星人連合の宇宙船、その旗艦のブリッジである。

 そして、ブリッジの中央にある艦長席には今回の作戦においてバット星人連合軍の指揮官を務め、光の国にホログラムで姿を現した【バット星人デルザム】が座っていた。

 ……彼はそこで先行部隊の戦況報告を聞きながら各艦に指示を出していた。

 

「……そうか、光の国の各重要拠点に侵攻させた囮部隊はほぼ壊滅、宇宙港に派遣した橋頭堡確保の為の先行部隊はウルトラ兄弟によって劣勢を強いられているか。……問題ない、我等本艦隊は既に宇宙港への降下準備を終了している。先行部隊はそのまま遅滞戦闘を継続して時間を稼げと伝えろ」

「ハッ! 了解しました」

 

 今回、バット星人司令官デルザムが行った作戦はまず隠密機能のみに特化した無人ホログラム発生特化機でウルトラの星の警戒網を潜り抜け宣戦布告を行い、それによって混乱している間に速度の速い高速艦で光の国へと先制攻撃をかけて本隊が侵攻する為の橋頭堡を確保すると言うものであった。

 また、他にも光の国各地の重要拠点に無人兵器を主力とした攻撃を仕掛ける事で防衛戦力を各地に分散させ、主目的である宇宙港の確保を行いやすくする戦術も取っていた。

 

「準備が出来次第降下部隊は無人機を先頭にして降下を開始しろ。無人機の空爆で地上を攻撃した後、量産型ゼットンを搭載したカプセルを順次投下せよ。……敵も馬鹿では無い、降下部隊に対する迎撃はあると考え地上と周囲の警戒は密に」

「了解です! 周辺監視を強化します!」

「承知しました! 順次降下を開始します」

 

 艦隊司令を任せられるだけあってデルザムは将として非常に優秀であり、バット星でも侵略や武力行使を積極的に行うべきであると言う『武断派』と呼ばれる派閥の長をしている程である。

 ……しかし、今回のウルトラの星侵攻は彼等『武断派』だけでなく、バット星にあるもう一つの派閥も関わっていた。

 

「司令官、後方支援に当たっていた『養殖派』の舟からの通信です」

「……繋げ」

 

 通信担当のバット星人が告げたその言葉に、デルザムは眉を顰めながらその相手との通信を繋ぐ様に指示を出した。

 ……すると、ブリッジのモニターに一人のバット星人の姿が映し出された。

 

「……何の用だ、グライス」

『いえ、どうやら不利な戦況の様ですので援軍は必要ではないかと思いまして」

「不要だ。既にこちらの援軍を派遣している」

 

 モニターに映ったバット星人の名前は【グライス】、今回の作戦においてバット星にあるもう一つの派閥『養殖派』から派遣された艦隊のリーダーである……この二つの派閥は、バット星に置いてゼットンの養殖に対するスタンスの違いから生まれたものである。

 ……今から少し昔、様々な惑星を侵略していたバット星人だったが、元々そこまで戦闘能力の高い種族ではなかった所為で不利な状況に追い込まれてしまっていた。その状況を打破する為に当時のバット星は優れた生化学技術を活かして、同盟関係にあったゼットン星人との共同による『ゼットンを戦闘兵器へと改造する』と言う計画を実行したのだ。

 その計画は成功してバット星の戦力は改造強化されたゼットンによって大幅に増し、再び宇宙に覇を轟かせる事が出来たのだが……そこで『ゼットンの性能は今のままで十分であり、現行の量産を進め侵略を推し進めるべきである』という武断派と、『ゼットンはまだまだ性能向上の余地があり、侵略活動を抑えめにして生化学の研究を発達させるべきである』という養殖派が生まれ、対立関係が出来たのだった。

 

『成る程、流石は音に聞こえたデルザム将軍。……しかし、我々としてもこのまま後ろで待機したままというのは格好が付かないので、援軍を送らせてほしいのですが』

「連携の取れない援軍を送られても邪魔になるだけだ」

 

 ……そして、ご覧の通り二つの派閥の仲はお世辞にも良いとは言えない状況であった。

 

『ええ、それは分かっております。……ですから、我々は本命である宇宙港には援軍を送らず、光の国の重要拠点を攻撃する囮の方に戦力を送りたいと思っているのです。具体的にはこちらの観測で位置を特定出来た“光の国の避難シェルター”に攻撃を掛けようかと、お優しいウルトラ戦士達の注意を逸らすにはもってこいでしょう』

「……どうやって攻撃を仕掛ける気だ? ヤツらもシェルターは最優先で防御しているだろう」

『私が作り上げた“テレポート特化のゼットン”を使ってカプセルをシェルター直上までテレポートさせて一気に投下させようかと』

「……よかろう、好きにせよ」

『お任せ下さい、司令官殿』

 

 その様な会話の後に通信は切られモニターも消えた……派閥同士の中の悪さと相手の慇懃無礼な態度から、ブリッジのクルーには相手の態度に顔を顰める者もおり、そのうちの一人が声を上げた。

 

「よかったのですか? あの様な……」

「構わぬ。ヤツの行動が成功しようが失敗しようが、こちらに不利益は無い。……それに、アレは自己顕示欲の強い科学者だ。“自分の作品”が失敗する記録を残す事は避けるだろうし、今回の目的である『命の固形化技術』を何としてでも手に入れたがる筈だ。……それよりも本命の宇宙港の確保に全力を尽くせ」

「ハッ! 失礼しました!」

 

 不満を述べるクルーをデルザムは理にかなった返答とその威厳で黙らせた……派閥同士の中は確かに悪いが、艦隊の司令官を務めるほどに優秀なデルザムはそれを理由に判断を誤る事は無かった。

 ……光の国に投射したホログラムの態度とは全く異なるが、アレは()()()敵の挑発とこちらを軽く見せる事を目的としたブラフである。

 

「何としても光の国から『命の固形化技術』を接収するのだ。我が息子もヤツらがえこ贔屓している地球に侵攻し、今頃そこにいるウルトラ戦士と地球人供を粛正している筈だ。……あの技術さえ手に入れれば、もう二度と()()()の様な悲劇はバット星には起きぬ。各員、この戦いに全力を尽くせ」

「「「ハッ!」」」

 

 デルザムの発言は殆どブラフと言ったが、あのホログラムの発言の中でも『ウルトラ族は宇宙の裏切り者である』と言った部分に関しては彼の本心である……彼の妻は少し前に病で命を落としており、それとほぼ同時期に光の国が『命の固形化技術』を開発して秘匿した事が、この侵攻作戦の司令官に立候補した大きな理由になっているのだ。

 ……今でも彼の内心では光の国が『命の固形化技術』を公開していれば妻の命は助かったという思いがあり、その技術を辺境の蛮族である地球人には施した彼等への憤りがあった。

 

「司令官! 無人降下部隊の準備が整いました!」

「よし、では順次降下させよ。……相手は曲がりなりにも宇宙の番人を語るウルトラ戦士どもだ、決して油断はするな」

「ハッ!」

 

 ……とはいえ、彼はそんな内心を表に出す事は無く、部下に的確な指示を出しながら着々とウルトラの星への侵攻を進めていたのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

「……やれやれ、愚かなモノだ」

 

 消えたモニターに対してそう呟いたのは、俗に『養殖派』と呼ばれる者達を率いる【バット星人グライス】であった……彼は今バット星人連合艦隊の後方で『養殖派』の旗艦で、その顔に隠しきれない嘲笑を浮かべていた。

 

「デルザム司令官は基本的に優秀な軍人なのだが、どうにも身内に関する事には判断力が落ちる様だ。……だから、我々が()()()()()()()()()()『命の固形化技術』やウルトラの星の情報を鵜呑みにしてしまう」

 

 そう、彼等『養殖派』は自分達が入手したウルトラの星の情報を彼等が私利私欲で行動していたり、戦えばバット星側が有利である様に聞こえる様に歪めて『武断派』に伝えていたのだ……更に妻の死を悲しんでいたデルザムとその息子にウルトラの星への攻撃を誘導する様な情報操作も行なっていた。

 ……尚、実際に『養殖派』が入手した情報を総合すると、現有戦力でウルトラの星に攻め込んでもこちらが高確率で敗北すると試算されている。

 

「想定よりは『武断派』も頑張っているがそろそろ近隣の星から宇宙警備隊の援軍も来る頃であろうし、そうなれば()()()()主力艦隊は壊滅しデルザムは死亡するだろう……これでバット星の主導権は我ら『養殖派』の物だ」

 

 彼等『養殖派』の目的は、デルザムとその息子をウルトラの星の戦力を以て謀殺してバット星の主導権を奪う事であった……一科学者として個人的に『命の固形化技術』が欲しいというのも嘘ではないが、グライスはリスクとリターンを正確に判断出来る程の頭脳があった。

 ……尤も『武断派』の方には、グライスの事を『自己顕示欲が強いマッドサイエンティストである』と思わせる様に情報を流しているが。

 

「まあ、私がマッドサイエンティストである事も別に嘘ではないのだがね。……地球に派遣された息子の方も随分やる気を出していた様だが、アレは父親のコネに胡座をかきブクブクと肥え太った親とは似ても似つかぬ程の無能。援軍として送ったゼットンも見るに耐えない不細工な出来でしかなかったし、あの程度ならキッチリウルトラ戦士が始末してくれるだろう」

 

 そんな事を言いながら、彼は自身が率いる艦隊にいつでも撤退出来る様に少しずつ『武断派』の艦隊から離れておく様に指示を出していた……尚、この『養殖派』艦隊はその為に人員は最少限度しか乗っていないオートメーション艦艇のみで構成されており、彼の乗る旗艦も彼一人で動かせる仕組みである。

 ……それと同時に、彼は手元のコンソールを操作して先程通信で言った囮部隊の派遣を実行した。

 

「まあ、せめてもの手向けに囮の援軍ぐらいは出してやるさ。……私が開発した三体の試作ゼットンの運用試験には丁度いいだろうしな」

 

 そうして彼が操作を終えると一隻の『ゼットン搭載用カプセル』が艦底から射出され、それは暫く直進すると直ぐに消滅した。

 

「ふむ、ゼットンのテレポート能力を増幅して敵陣に送り込む『強襲派遣システム』は正常に作動した様だな。後は試算ゼットン達が実戦でどの程度の能力を発揮するかだが……一応、データ上の総合性能的には三体とも()()()()()()()()()()()()()()()()()()と同等程度の能力はあるはずだが……」

 

 ……こうして、戦えぬ者達と訓練生が集まる避難シェルターに、三体の絶望(ゼットン)が舞い降りる事になってしまったのだった。

 

 

 ──────◇◇◇──────

 

 

 俺──アークはメビウス達いつものメンバーと一緒に避難シェルターの警備を続けていた……先程から各地から聞こえる爆発音の頻度と規模が大きくなり始めているし、どうやら本格的に戦闘が始まっている様だな。

 ゴリアテやフォルトには色々言ったが、本音を言うと俺もそこまで精神的に余裕がある訳じゃない。ただ、親父やウルトラ兄弟が頑張っているのに、その指導を受けている俺が無様を晒す訳にもいかないから気合を入れているだけである。

 ……そんな俺達のところに訓練生達の様子を見て回っていたカラレス教官が顔を出した。

 

「アーク、メビウス、ゴリアテ、フォルト……お前達は大丈夫そうだな」

「ハイッ! 宇宙警備隊の先輩達が頑張っている以上、僕達も怖気付いては要られませんから!」

 

 声を掛けて来たカラレス教官に対し、相変わらずハイテンションのままのメビウスが勢いよくそう答えた……尚、俺とゴリアテとフォルトはその勢いにちょっとついて行けなかった。

 

「特にメビウスは良くやっているな。……こんな非常事態にパニックになる者が出なかったのは、お前が他の訓練生を勇気づけてくれた事も大きい」

「ありがとうございます! ……でも、僕がみんなを勇気づける事が出来たのはアークが『俺達には俺達でやるべき事があるんだからまずはそれをやるべきだ! そうする事が宇宙警備隊やウルトラ兄弟達を助ける事に繋がるのだから!』と言ってくれたお陰なんです!」

「ちょっと待て、俺はそんなこっぱずかしい事は言ってないぞ! 勝手に捏造すんな!」

 

 俺はただ『自分の仕事があるんだからそっちをしっかりやれ』的な事しか言ってないだろ! この天然ボケメビウスめ! 貴様のウルトライヤーにはゴミでも詰まってんのか! ……後、ゴリアテとフォルトは笑うな貴様ら!

 ……と思ったらカラレス教官も口元を押さえて笑ってるし! 

 

「クックック……いや、確かに自分に出来る事をまず確実にやるのは重要な事だからな。いい言葉だと思うぞ」

「……だから、俺はそんな事を言ってないですって……」

「いやいや……ククッ、良いセリフだと思いますよ」

「プププ……格好いいからそっちを言った事にしようぜ」

 

 ええいっ! みんな揃ってこの非常事態に……後メビウス! 首を傾けたまま疑問の表情を浮かべるな! お前が原因だろ! 

 ……そんな感じで空気が程よく緩んだところで、カラレス教官が表情を真剣な物に変えて言った。

 

「戦局は今のところ膠着状態だが、もうじき外回りに出ていた隊員達が戻ってくるだろうしそうなれば敵も押し返せるだろう。……それまで、もう少しの間頑張ってくれ」

「「「「ハイッ!」」」」

 

 そう言ったカラレス教官は他の訓練生の様子を見るために飛び去って行った……さて、後もう少しの辛抱だし頑張らないとな。

 ……そう、俺達が改めて気合いを入れ直した直後、避難シェルター上空付近に()()()()()()()()そのまま俺達より少し離れた地面に墜落した。

 

「ッ! 何だ⁉︎」

「いきなり現れたぞ……まさか、テレポートか⁉︎」

 

 俺達は余りにも突然の事態に状況を把握出来ず動けなかった……その間にも突如現れた落下物──何かが入っているらしき小型のカプセルの様な宇宙船の装甲が内側から爆ぜて、中に乗っていたモノ達が姿を現した。

 

「……ゼェットォォォォン……」

「……そんな……アレは……」

 

 その独特の鳴き声と共にまるで電子音の様な奇妙な音と僅かな呼吸音を発しながら現れたのは、黒い身体に黄色い生体機関、手足の一部は白い蛇腹状になっていて、頭部には捩じくれた触覚が生えた怪獣…………否、宇宙恐竜……! 

 

「……宇宙……恐竜…………ゼットン……ッ」

「「「……ゼェェェットォォォォォォォォン!」」」

 

 ……俺がかろうじて呟いたその言葉に答える様に、謎のカプセルから現れた()()のゼットンは雄叫びを上げたのだった。




あとがき・各種設定解説

バット星人デルザム:非常に優秀な司令官でカリスマ性もあり部下からも慕われている
・だが身内には甘く、政治的センスは戦闘センス程ではないので今回の様になってしまった。

バット星人グライス:今回の黒幕
・バット星における生化学関係の天才で政治や情報操作のセンスも非常に優れている。
・本人としてはゼットンの研究だけやっていたいのだが、その環境確保が必要なら手段は選ばない。

改良型ゼットン:ちゃんと“あの鳴き声”で鳴く
・テレポート特化は一体だけで、他の二体はそれぞれ違う方面に特化しているらしい。

アーク&メビウス達訓練生:絶賛大ピンチ


読了ありがとうございました。
もう一方の小説との兼ね合いもあって、この作品の更新頻度は週1ぐらいになると思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。