例え世界が壊れても、お前を選ぶなんてありえない   作:月兎耳のべる

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流行りの要素とタグをぽんぽん取り入れた薄味小説です。
薄めすぎて味ないかもしれません。
読みづらかったらごめんなしあ。





【みねうて! 大文字高校助太刀部!』 全キャラ好感度MAX撫子ENDルート生配信RTAはーじまーるよー】

 

佐野円堂「皆さん初めまして。『佐野(さや) 円堂(えんどう)』と言います。両親の仕事の都合でこの町に越してきました。皆さんと1日も早く仲良くなりたいと思っています。宜しくおねがいします」

 

 桜舞い散る美しき『春の月』。

 高校生活二年目に突入したオレらの前に。そいつはやってきた。

 

 身長は170cmはあるかないかの痩せとデブの中間の体型。

 肩まで伸びた黒髪はその目元すら覆い隠し、どこか一昔前のエロゲ主人公を彷彿(ほうふつ)させる。

 しかしてそんな見かけと相反して緊張の素振りも見せないハキハキとした自己紹介。変わらぬ表情。簡潔な紹介ながらも、その第一印象は驚くほど印象的であった。

 

 突然の知らせを受けた生徒達は驚きを隠せずにざわざわと騒ぎ出し、オレもまた新たな出会いに興奮し、思わず前の席に座る『一華』に話しかけていた。

 

「オイオイ、この寂れた高校に唐突な転校生。これは波乱の予感がするぜ一華」

 

「……」

 

「数多の恋愛シミュレーヨンを攻略してきたオレの考えが確かなら、アイツは間違いなく嵐を呼ぶ転校生だ。頭脳明晰語学堪能。古武術に精通しており、生き別れの妹がいる。幾千もの戦場を越えて尚不敗で、だけどその経歴は誰にも開かせない。今回、ヤツはこの高校に巣食う謎の化け物を退治するために仮初(かりそめ)の身分を甘んじて受け入れて――」

 

「私の考えが確かなら、お前はエスパーを遥かに通り越して精神病に肩まで浸かっている。もう入院しても無駄だから今すぐそこの窓から飛び降りる事を推奨するけど」

 

「過ぎたる能力は人に排斥される運命……か。オレは悲しいよ一華、幼馴染のお前ならオレを理解してくれると思ったのに」

 

「草も生えない」

 

 後ろすら振り向かずに言い放ったれた相変わらずの冷たいお言葉。

 チビで眼鏡でボサ髪ショートで口が悪くて人見知りのコイツはいつになったら愛想という言葉を覚えるのだろうか。

 

「――あー、席はそうだな。じゃあ『立浪(たつなみ)』。お前の隣でいいな」

 

「えっ。あーハイ。いっすよ」

 

 おぉっと、山田先生がいきなりオレの席の隣をご指名か。

 これで一華の隣とかだったら面白かったんだが……一華こっちをじっと見てどうした? 

 あぁもしかして代わって欲しいのか? それなら代わってやってもいいぞ土下座するんだったらなぁ! はーっはっはっは――

 

あ――っっっっでぇ!?

 

「ごめん肘が滑った」

 

「うるさいぞお前らー。じゃあ周りのやつは佐野に教科書とか見せてやるようにな。まだ教科書が届いてないらしいんだ」

 

 オレが鳩尾に肘を受けて悶絶している中、新入生は気が付けば隣に座っており。そして心優しい事に机に突っ伏すオレに気遣って声をかけてきてくれたではないか!

 

佐野円堂「大丈夫?」

 

 シンプルな一言だ。

 だが毎日に及ぶ一華の邪智暴虐に晒されるオレにとっては、骨の髄まで染み渡る一言であった。

 

「……へへ、格好悪い所を見せたな転校生。だが大丈夫だ、オレはまだ戦えるさ。コイツの恐怖政治に負けたりなんて、しねえ……!」

 

「何が恐怖政治だ何が。いきなり人聞きの悪い事を言わないでくれる?」

 

「暴力による言論の弾圧、これが恐怖政治でなければ何と言う!」

 

「お前のそれは言論じゃなくて悪意ある妄想っていうんだよ。また1つ賢くなったな? ……騒がしくてごめんなさい。私の名前は『紫花(しばな) 一華(いちか)』。よろしく」

 

「おっと、そうだそうだオレも自己紹介しておこうか。オレは『立浪(たつなみ) (くさ)』だ。ソウちゃんって呼んでくれよな! マイ・フレンド!」

 

○ソウちゃんと喜んで呼ぶ。

●普通に挨拶する。    

 

佐野円堂「よろしくね、二人共」

【この選択肢は上を選ぶと本来なら草の好感度が上がる筈ですが、バグのせいで上がりません。よって返答文字数の少ない下を選びます。】

 

 二人で揃って自己紹介をしたのだが、ソイツはオレの茶目っ気にもただ簡潔に返答するだけで正直面食らった。結構なノリで初手をかましたのだが、まさかの涼し気な顔で全スルーである。

 こいつ……もしかしてクール系主人公で高校デビューするつもりか? いいだろう、そっちがその気ならすぐに化けの皮を引き剥がしてやるぜ!

 

「オイオイオーイ、フレンドよ。そこはソウちゃんって呼んでくれてもいいんだぜ? 恥ずかしがる必要はねえ、クラスじゃみんなオレの事ソウちゃんソウちゃんって呼ばれてるし、オレもその呼び名が気に入ってるんだ。だから」

 

「佐野君も気の毒だね、こんな24時間365日うるさい奴の隣だなんて。今すぐ別の席に代えて貰うように言っておこうか? ちなみに今コイツが言ってたの嘘だから気にしないで。(くさ)って呼べばいいから」

 

「ちょいちょいちょーい、幼馴染の一華さん? 開幕ネタバラシやめてくれますぅ?」

 

「ちなみに今の幼馴染ってのも嘘だから」

 

「そこは本当だからな!?」

 

「立浪ー、紫花ー、お前らの夢は漫才師か何かかー? もっと真っ当な職につきたいんだったら先生の言うこと聞いとけよ馬鹿野郎どもが」

 

「はーい先生」

「すみません先生」

 

 叱られたので交流は中断。余計に叱られたと言わんばかりの一華の殺意の目をスルーしながら、オレは隣席の転校生にまた後でな、と伝えた。

 高校二年目の春、見慣れたクラスメイトの中に一人混ざった異色の転校生! オレはゲームで見たような展開に胸を躍らせながらも、次の休憩時間からめちゃめちゃ濃密に交流を深め、即『絆MAX』にしてやろうと固く誓ったのだった。

 

 

 

 

 § § §

 

【まずは歩くギャグキャラ草から攻略します。こいつは即堕ちする上、絆アイテムが本攻略のマストアイテムになります。春の間に堕としてしまいましょう。】

 

 転校生、佐野円堂――見た目からして完全にクール系主人公だと思っていた奴だが、実は中身もかなりのクール系主人公であった事が判明した。

 登校初日だから緊張していてもおかしくないのに、クラスメイト達に質問攻めにあっていてもその全てに的確、かつウィットな答えを返せる胆力を見せつけてきた。

 

 質問への回答から分かる奴のプロフィールは下記の通りだった。

 ・誕生日は2月10日。AB型。

 ・大都会から来た。

 ・両親は仕事で忙しくて、今は親戚の家に住んでいる。

 ・住んでる所は学校のすぐ近く。

 ・趣味という趣味はない。

 ・部活は今の所何に入るか考えていない。

 

 今の所ありきたりな経歴しかないようだが、オレの勘は奴が只者ではないとひっきりなしに伝えてくる。

 そしてその勘が言っている――佐野がこの『大文字学校』に嵐をもたらす存在であるという事を!

 

 故にオレは奴の秘密を深るため自分から校内の案内を買って出る事にした!

 幼馴染の一華もそんなオレの殊勝な心がけに関心してくれたのだろう、先生のいる前で「二人で校内の案内をします!」と大声で宣言したところ、滅茶苦茶渋い顔をして快諾してくれた。

 

「じゃあ一通りの場所を教えるぞマイ・フレンドよ。まずは『職員室』だ! オレの後についてきてくれ!」

 

佐野円堂「分かった」

 

「何であんなにテンション高いんだ……佐野君、別にあの馬鹿を見習ってダッシュする必要はないから。まあどうしても走りたいって言うなら止めないけど」

 

【Tips】

  十字キーで移動ができます。

  もしも走りたい場合は十字キー+✕ボタンで

  走る事ができます。

  走って立浪の後を追ってみましょう!

 

 まずは案内開始早々、開幕ダッシュを決め込んだ!

 奴の運動神経はオレの予想が正しければ抜群の筈……! まずはそこを見極める!

 教室の前から駆け出して最適な角度でコーナリング、そして階段を三段飛ばしで駆け下りて1階の長い廊下を全力ダッシュ! 最早庭とも言えるこの学舎で最適化に最適化を重ねた移動ルート構築、例え奴が運動神経抜群であろうとも地の利を持つオレを抜かすことは流石に出来ないだろう!

 

 ――そう思っていた時期がオレにもありました。

 

 最後のストレートをダッシュするオレの耳が突如拾ったのは追随する謎の擦過音。

 廊下を擦るような音と一瞬の停滞、それが間断なく後ろから聞こえてくるのだ。何の音だ、と振り向いた時には――オレはその顔を驚愕で歪める羽目になった。

 その存在とは……特徴のない中肉中背の体の持ち主、頑なに目を隠し続ける髪の持ち主、そう佐野である! 奴は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ!

 

 円堂は唖然とするオレを置いてそのまま目的地である職員室の前に到着。

 そして涼し気な顔でオレの到着を待っていた。

【視聴者の皆様はお馴染かもですが、移動はスライディングが一番早いです。今後ローリングを覚えるまでは全てスライディングで移動します】

 

「へ、へぇ~中々やるじゃねえかマイ・フレンド……ま、まあ今のは小手調べだしな……次は『美術室』だ!」

 

 い、今のは油断しただけさ。まだ案内は終わっていない! 次にオレは3階の奥の美術室に向けて猛然とダッシュを始めた!

 

 恐るべしは佐野か、オレのダッシュに反応して即座にスライディング移動をし始めた。

 残念ながら直線では奴のスライディングの方が速読が上……だが階段は三段飛ばしテクをマスターしたオレの方が上の筈! 大文字高校の『スピードオブスピード』と呼ばれたオレの速さ、きっちり見せつけてやるぜ。

 

 しかし、オレの目測は甘いと言わざるを得なかった!

 なんとヤツと来たら階段すらもスライディングで駆け上がってオレとの差をぐんぐんと引き離して行くのだ。コイツ、まさかここまで……!

 

「ちぃ、やるじゃねえかマイ・フレンド! だがなぁ、3階美術室前は美術部連中のゴ…芸術品が色々置いてある! あの障害ぶ、芸術品を避けて移動出来るかな!?」

 

【Tips】

  ○ボタンでジャンプができます。

  障害物がある場合はジャンプで 

  移動すると良いでしょう。

 

【Tips】

  L1ボタンと十字キーで進行方向に

  スライディングもできます。 

  回避に使ったりと、色々な場所で

  活躍するかもしれません。

 

 

 今日の美術室前は狙い通りゴミ山盛り! 人とは思えない彫像、落書きにしか見えない絵画、謎のオブジェが点在したこの廊下を最適ルートで移動出来るかぁ!?

 

――何で出来てるんだよぉ!?

 

 結果は奴の圧勝だった。

 オレは美術部どもの置いてあったオブジェに足を取られて転倒し、オレが起き上がった時には美術室前であの涼しげな顔を見せていた。

 

「貴様の実力、もしかしたら本物かもしれねえな……次がラスト! 『旧校舎』、3F、『多目的室前』にご招待だァ!」

 

 次こそ本気だ! この校舎で1年過ごして見つけたオレだけが知る研究会最短ルート!

 新校舎と離れた位置にある旧校舎、本来なら1階まで降りなければいけないだろうがあえて2階中央の窓から飛び出して、庭の木伝いに着地すれば大幅ショートカットが可能! 更に旧校舎は取り壊しも予定されているせいでオンボロだ! 間違えたルートを通らねば足止め間違いなし! そしてその正解ルートを佐野は知る由もない! この勝負、最初からオレの勝ちは決まったようなものだ!

 

 くくく、奴め。試合放棄か?

 オレより前に出ていないと思ったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! そちらが早々に諦めるというのなら圧倒的な差を見せつけるだけよ!

【3回目のかけっこは初見プレイヤーが勝つことが想定されていませんが、壁抜けをすれば造作もなくクリア可能です。壁抜けにはコツがいります】

 階段を降りて二階へ! 廊下中央までダッシュしておもむろに窓めがけてジャンプ! 木の枝に足を乗せたら勢いを殺さずに地面へと着ぢゅっ、転倒! いや、この程度屁でもねぇ! 旧校舎に繋がる道を猛然と駆け抜けて、下駄箱通りは右端! 階段は必ず二段飛ばし! そして二階奥の部屋までジグザグ走行! 穴の空いた床を的確に避けて移動だ!

 

 研究会前は未だに誰の姿も見えない! 間違いないコレはオレの勝ちだ! ゴールまであと10mもないところでオレはスピードを落とす。

 ふっ、オレと来たら大人気なかったな、研究会の存在すら知らねえ素人に本気を見せるとは……。

 

「だが貴様のスピード、オレに匹敵するものだというのは認めておくぜ……! 間違いなく貴様は強敵だった」

 

佐野円堂「立浪君も中々早かったよ」
 

 

「へっ……よせやい、オレも本気になるくらいだったんだぜ。ひょっとしたら大文字高校のスピードオブスピードの名を渡せる……かも…………?」

 

 気が付けば奴、円堂は助太刀研究会の前に立っていた。

 

 最速を極めた筈のオレが気がつかない内に、抜かして先回りしたというのか!? 何というスピード、何という技術! コイツやっぱり只者じゃあねえ!

 

「お、オレの負けだ……円堂。いや、マイ・フレンド。貴様にこそ『スピードオブスピード 

の名前がふさわしい……!」

 

【称号】

 『スピードオブスピード』を獲得した。

  移動速度がいつもの倍になるぞ!

【本RTAのマスト称号①です。移動速度は命】

 

「どこに行ったと思えば……やっぱりここに居た。で、何この雰囲気。今度は何やらかしたんだい?」

 

「今ここに1つの世代交代が起きたというだけさ、一華。やはり円堂は一味違うぞ……!」

 

「そうかい。で、ここに佐野君を呼んだって事は……勧誘するつもりか?」

 

 ふっ、流石は一華……伊達にオレの幼馴染をやってきた訳じゃねえな。そうさ、ここまでの紹介は前座に過ぎない!

 

「マイ・フレンド、校内最速の異名を持つオレを越えた男の中の男よ。貴様に頼みがある……! どうか我らが『助太刀研究会』に参加して欲しい!」

 

佐野円堂「助太刀研究会?」
 

 

「活動拠点旧校舎三階多目的室! 活動時間帯は24時間365日! 学校の内外問わず駆けつけます! トラブル悩み事なんでもござれ! 我らが『大文字高校』の縁の下の力持ち! それこそが助太刀研究会だ!」

 

 オレは後ろにある教室、その扉に貼られた「助太刀研究会」の紙を見せつけて宣言した。

 ここは生徒会の存在しない我らが大文字高校における唯一の自治組織!

 日頃の生徒たちの不満!悩みを一身に引き受ける場所なのである!

 

「我らが大文字高校はお察しの通り小さい……全校生徒100名も満たぬ片田舎の定員割れ公立高校。生徒会と言う物など存在せず、今まで生徒たちは鬱憤を積み重ねる日々を過ごす他なかった……!」

 

「そんな現状を憂いたオレは1年前、この研究会を立ち上げた! 助太刀研究会! 生徒の、生徒による、生徒のための互助組織! 大文字高校での活動をより快適にするために活動をし続けたのだ!」

 

「しかし残念な事に! 同じ志を持つ人は少なかった! 皆が皆不満を抱きつつもくすぶり続けるだけのボンクラだらけ! 学校や生とのために立ち上がろうとしたその人数は……『4人』! 6人集まらなければ部活としても認められないのだ!」

 

「マイ・フレンド、まだ出会ってまもないがオレには分かる。貴様が何よりも強い意思を持ち、そしてこの時の止まった学校に変革をもたらすであろう逸材である事が!」

 

 いまだ表情の1つも変わらない佐野に、オレはまるで告白するかのように片手を差し出してお辞儀をした!

 

「さぁマイ・フレンド、この手を取って伝説の一歩を踏み出そうじゃないか!」

 

 ――決まった。

 噛むこともなく連ねた宣言。まさしく名言。

 後世に残してもいい演説だったとオレは認めるだろう!

 

「……はぁ。草がいきなり変な事言いだしてごめん。代わりに謝っておく」

 

「おい、どうして謝り出す!?」

 

「そりゃ謝るよ。いい佐野君。今しがたコイツが言った事は8割型誇張だからね」

 

「こちょ……は、はっはっは一華君何を持ってそんな事を……」

 

「実質活動時間は1日平均1時間未満。過去の活動実績はほぼ何もなし」

「校外活動の経験はゼロで、依頼が来るのは稀に稀」

「依頼の中身もイタズラ、暇つぶしが9割。本気の悩みは1割未満」

「暇な時間はあてがわれた教室で漫画を読んで、ゲームをするだけの駄弁り場――それが助太刀研究会の実態。志高く環境改善を願っている存在など、この場所には誰一人いないよ」

 

「一華! 貴様もまた研究会の一員だと言うのにどうしてそんな事が言える!」

 

「一員だからこそ言えるんだって。佐野君がギャップに失望する前に伝えておくのは最低限の礼儀でしょ――あ、ちなみに私は悲しいことにこの研究会の一員だけど、この場所を体のいいサボリ場としてしか見ていないから」

 

「……うん。いやまて。待てマイ・フレンド。違うんだ早まるな。一華はそうかもしれないが少なくともオレは違うぞ!?」

 

「へぇ。じゃあ聞くが草、お前が持ち込んだ漫画の数々、あれは活動には不要じゃないかい?」

 

「あ、あれは……そう、参考書だ! それにあれらは各部室に転がっているいらない物をリサイクルしているだけであって買い足しなんてしてないし、ただ様々なシチュエーションをポップカルチャーを通じて勉強をだな」

 

「給湯器、ベッド、お菓子、冷蔵庫、扇風機、テレビ――あれらは何? あれもいっぱしの研究会には不要じゃ?」

 

「あれは、我々の活動が滞りなくすすめるような……その、環境改善の一貫だ!」

 

「週5のうち、1日しか集まる事もないのに? 部員が全員集まった試しもないのに?」

 

 くぅぅ、一華、今日は執拗に追求するじゃあないか! いつもはそんな研究会で好きなようにくつろいで居るというのにさぁ!

 

「一華、一華よ……ちょっと落ち着こうか。キミは誤解している。確かにオレ達の活動は少なかった、が。今までは準備期間だっただけさ。オレは確信している! 彼が入会することで我らが助太刀研究会は本領を発揮するのだ!」

 

「ちなみにこいつが必死になって佐野君を引き止めるのは、研究会から部への昇格による予算目当てだから」

 

「ぴきっ」

 

 お、おぉぉぉ、どどど、どうしてそそそそれを!?

 い、いや待て違うんだ。これは本当に理由があってだな!

 

「いまの反応で理解ったよね佐野君。この研究会に未来はない。前途あるキミはここ以外にするべきだよ」

 

「言外にオレに前途がないような言い方はやめろ! マイ・フレンド、頼む入ってくれ!? な!?」

 

●喜んで入会する。      

○考えさせてください…。   

 

佐野円堂「入会するよ」
 

【ここで下を選んでも草に延々と懇願され続けるだけです。上を選びましょう】

 

「賢明だね。そうした方が……うん? ちょっと待って、今何て言った?」

 

「っしゃおらぁぁあああぁあぁ!!」

 

 っしゃおらぁぁあああぁあぁ!! 

 やはり佐野はオレの見込んだ男だった!

 佐野イズマイ・フレンド、いや、マイ・フレンド・フォーエバー!

 

「か、考え直して佐野君。こんな雑草の口車に載せられてはいけないって。ここ以外は全てまともな部活動だ……いや、佐野君がこんなただの溜まり場でダラッとしたいというのなら止めはしないけど……」

 

佐野円堂「研究会の理念に惹かれました。

 これから学校の為に尽力します」

 

 

「佐野君!?」

 

 はっはっは、あの一華が目をひん剥いてやがる。やはり佐野は只者じゃあないな! どこまでマジか分からないが……。

 まあ何はともあれこれでめでたく部への昇格にリーチがかかった! 今はそれを純粋に喜ぶとしよう!

 

【Infomation】

 『助太刀研究会』に入会した。

  放課後、暇な時に顔を出してみよう。 

  時々イベントが発生するぞ!

 

 

 

 § § §

 

【本格的に草を攻略します。草は常に行動をともにすれば速攻でMAXに出来ます】

 

 こうして我々助太刀研究会に新たなメンバーが加わった!

 研究会の部への昇格まであと一歩……残りのメンバーは追々探すとして、探す間に新メンバーを逃すつもりはない。

 オレはパーソナルゾーンなど関係なしに佐野に絡みまくり、友好度をあげようと試みた。

 幸いな事に佐野はオレのウザ絡み一歩手前の行為に快く答えてくれるばかりか、自分の方から話しかけてきてくれた!

 奴もオレと一刻も早く親交を深めたいのだろう……だというのなら遠慮しないぜマイ・フレンド!

 

「マイ・フレンド、研究会での初仕事だ! まずは……部室の掃除だな!」

 

佐野円堂「分かった」
 

 

 新メンバー、つまり一番の若輩であることをいい事に、事あるごとに雑用を命じた。

 奴は嫌な顔ひとつせず、洗練された動きで瞬く間に、かつ完璧に雑用を終わらせた。

 

「マイ・フレンド、その問題は分かるか? オレにはわからん!」

 

佐野円堂「我が命の (また)けむかぎり 忘れめや いや日に()には (おも)()すとも」
 

 

 席が隣であるのをいい事に、事あるごとに声をかけた。

 奴は素知らぬ顔でどんな難問も全問正解。オレにはない聡明さを披露しだした。

 

「マイ・フレンド、一緒に昼食買いに行こうぜ! 購買部は激戦区だ、早いもの勝ちだから気をつけろよ!」

 

佐野円堂「競争なら負けないよ」
 

 

 奴が弁当を持参しない事をいい事に、事あるごとに昼を誘った。

 奴はお得意のスライディング走法(と言うか移動は常にスライディングだ)で常にオレより先に食堂につき、好きなパンを獲得していった。(気の所為ではなければ、奴の移動スピードは前より格段にあがっていた)

 

「マイ・フレンド、一緒に帰ろうぜ!」

 

佐野円堂「勿論だよ」
 

 

 住んでる所が近い事をいい事に、事あるごとに帰路を同行した。

 奴は帰るときまで全力疾走だ。常にオレをスライディングで置きざりにして見えなくなってしまうが、それは些細な事だ。

 

「マイ・フレンド、一緒にトイレ行こうぜ!」

 

佐野円堂「構わないよ」
 

 

 奴は断らない。

 

「マイ・フレンド、その面は難しいぞ! まずは先に弱点を……何!? オレが言わずとも先に……貴様、やりこんでるな!」

 

佐野円堂「答える必要はない、でしょ?」
 

 

 奴は失敗をしない。

 

「マイ・フレンド! この前貸してくれた漫画楽しかったぜ! ……今度はオレも秘蔵の本を貸してやるからな」

 

佐野円堂「楽しみにしてる」
 

 

 奴はあらゆる個人のツボを抑えており。

 

「マイ・フレンド! 昨日は助かったぜ……隣町の草野球チーム、唖然としてたぜ。33-4で大勝だなんて、中々出来るもんじゃねえよ!」

 

佐野円堂「マグレだよ」
 

 

 奴は運動もピカイチで。

 

「マイ・フレンド! うちのニャー子を助けてくれて、マジでありがとうな……! お前がとっさに手術してくれなかったらどうなってた事か……!」

 

佐野円堂「無事に生まれてくれて良かった……」
 

 

 奴はどんな状況でも絶対に動じない。

 

 奴が入学してからたかが一週間。されど一週間。

 だと言うのに絡みまくったせいか、オレは一週間どころか年単位で過ごしたような気分を味わっていた。

 ()()()()()()()()()町対抗草野球でも八面六臂の大活躍を見せた事や、()()()()()()()()()ニャー子が急に子供を作っていたりしても動じずにお産を手伝ってくれた事も含め、最早この一週間はオレにとって一生忘れられない思い出だろう。

【草のイベントは時系列がぐちゃぐちゃです。冬でも真夏に飛ぶことがあります】

 

「マイ・フレンド……いや、『マイ・ベスト・フレンド』――オレ、お前が友達でいて本当に良かったよ。これを受け取ってくれ」

 

 

 だから、オレはある日の放課後。

 奴を屋上に呼び出していた。

 

【アイテム】

  『ぼろぼろのミサンガ』を獲得した!

  コミュ不足なんてなんのその!

  親交の少ない相手でも踏み込んだ

  話をする事が出来るぞ!

【マストアイテム②です。この小汚いアイテムが猛威を振るうのは夏からです】

 

「……恥ずかしい話だが、オレは昔極度の人見知りだった」

 

「唯一話せる相手と言ったら一華だけ。それ以外にはだんまりで、あまりにも人見知り過ぎて虐められてたりもした」

 

「だけどな。子供の頃、これをある人に貰ったんだ。その人も昔は極度の人見知りで虐められてたらしいけど……自力で克服して今では超有名なコメディアンになっていた」

 

「その人はオレにミサンガを渡してこう言ったよ。『馬鹿を見たっていい、むしろひたむきな馬鹿になれ。周りから笑われ続けてもひたむきであれば、いつかお前は誰かに振り向かれるだろうから』ってさ」

 

「このミサンガにはその人とオレの誓いが含まれてるんだ……もうしっかり話せてるお前に渡す必要はないかもしれないが、何だろう。お前にだけはオレの大事な物を受け取って欲しいってゆーか……な、何か恥ずかしいなコレ!」

 

「ま、まあ何だ。これからもよろしくな! マイ・ベスト・フレンド!」

 

佐野円堂「こちらこそよろしく!」
 

 

 オレと佐野は夕日照らす屋上で、がっちりと握手をしあった!

 出会ってから一週間という短い期間でも、オレの中では10年連れ添ったような強固な絆が出来たと実感していた。

 やはり、オレの目に狂いはなかった! 佐野よ。この高校生活最高の物にしような!

 

【Infomation】

 『立浪草』との関係が

 『絆MAX』になった!

  彼との熱い友情はいつまでも

  続くだろう……。

【これにて草の攻略が完了です。流石はチョロチョロですね。もうコイツとはほぼ話す必要はないので、次の日から紫花っちを攻略してゆきます。】

 

 

 § § §

 

 

 

「……何してるんだ草? 根無し草みたいにうろついてたお前が研究室に根を貼るような真似して……とうとうオンボロ旧校舎とともに土に還る事を決めたのかい?」

 

「失礼な事を言うな一華……オレは最近悲しいだけだ」

 

「そうなんだ。じゃあ私は用事を思い出したから帰るよ」

 

 失意の縁にあるオレに対する幼馴染の風当たりは相変わらず厳しい。

 椅子にも座らず、研究室の床の上で力なく寝転がったオレを見て、早々に出て行こうとする一華にオレはゴキブリもかくやのスピードで(すが)り付いた!

 

「貴様、そこまで来たら『どうしたのよ?』とか悩み聞く所だろ! 何でそんな塩対応なんだよ!? それでもオレの幼馴染か!?」

 

「抱きつくなそのまま枯れ果てろ雑草が。お前が幼馴染になったのはこの私の一生の不覚であり汚点だ10秒以内にどかないと除草剤をぶちまけるぞ」

 

「除草剤を持ち歩く女子高生ってなんだよ!?」

 

「ゼロ」

 

「ぐあああぁぁぁあ――っ!?」

 

 オレは顔面にヘアスプレーを浴びて悶絶したが、断固として一華にしがみつき続けた結果、どうにかして悩み相談のテーブルに着かせる事は成功した。

 

「はぁ……それで何がどういう悩みなんだい。10文字まで聞いてあげるからちゃっちゃと言ってくれないかい」

 

「短すぎる……いや、まあ言ってしまえばあれなんだ……その。佐野が最近冷たい」

 

「1文字オーバーだから帰る」

 

「こらえて! こらえなさって!」

 

 マジで席を立とうとするとか塩対応過ぎるだろう!?

 どうして以前にも増して塩っ気が強いんだ……はっ、そうか。まさか一華。貴様、オレが最近構わなかったから嫉妬して――!

 

「……何だいそのニヤついた顔。滅茶苦茶不愉快」

 

「いーや、何でも。何でもないさ……まあそれはともかくマジで聞いてくれ。オレとマイ・ベスト・フレンドの話を」

 

「正直あんまり聞きたくないんだけど。二人って最近カップルもかくやの勢いでつるんでるよね、惚れた腫れたの話ならマジで勘弁して欲しい」

 

「ち、ちがっ、んな訳ねーだろ! アイツとオレは男同士で……!」

 

「本気でやめてくれない?」

 

 アイツは没個性の塊みたいな顔してるとは言え別にブサメンとは思わないしむしろ整ってるけど、オレにその気はない!

 ……まあ、アイツの頼りがいとか付き合いの良さとかはオレが女だったら惚れてたかもだけど……じゃなくてだな。

 

「ンウォッホン。まあ、オレと佐野は最早フレンドの域に留まらずにベスト・フレンド――魂を交わしあった心の友と言ってもいいのはご存知だと思うが」

 

「もう金魚のフンみたいにベったりにね。でも冷たいって……何? 喧嘩したって事か?」

 

「喧嘩上等だ! 魂の友たるアイツとは喧嘩しようが秒で和解出来る自信がある――拳と、情熱でな! ただ、喧嘩しようにもその心当たりがないんだよな……ほら見ろよ」

 

「何、これみよがしに腕上げて……ん? 草、いつも付けてるミサンガはどうしたんだ?」

 

「佐野にやった」

 

「はぁっ!? あれは草の大事な――!」

 

「いいんだ。オレはアイツとの友情と信頼に応えたいから渡した」

 

 一華はオレのミサンガのルーツを知っている数少ない人間の一人だ。

 一時期は一華もオレの事を色々世話焼いてくれてたっけか。

 

「……まあ、草が良いなら良いけど。それで?」

 

「うん。まあミサンガを渡したんだ。そしたら何か知らないけど次の日からぱったりと会話がなくなった」

 

「ふーん……ねぇ、つかぬことを聞くけどミサンガは時々洗ったり?」

 

「ミサンガは自然に切れるまで付けっぱなしが基本だろ。肌身離さず身につけてたぜ!」

 

「それじゃないから。草のミサンガが何か臭くて、それが(しゃく)に障ったんじゃない?」

 

「くふぅッ!?」

 

 ま、まさかのオレの大事なアイテムのせいだとォ!?

 いや、馬鹿な……そんな異臭のするような事は……いや、汗とか泥とか色々吸ってるのは認めるけど。小学生の頃からつけっぱだったけど……!

 

「あ、あーごめん……今のは冗談だからね、うん冗談。多分そんな事ないから、ね? それ以外の理由があるんだよきっと」

 

「……そこでマジの取り(つくろ)いするのやめてくれ。オレの心が死ぬ……」

 

「ただねぇ……仮にもそのミサンガは大事な物だっていう事は伝えてあるんだろう? だとしたら佐野君はいきなり邪険にする事はないと思うんだけど」

 

「だよなぁ……オレもベスト・フレンドの人となりを知って、そんな事するわけ無いと思ってるんだが……授業中に声をかけても反応ないし、休憩時間は『ごめん後で』って袖にするし、一緒に帰ろうとしても『また今度』って断るし……ここ最近はベスト・フレンドと共に過ごす時間が皆目見当たらないんだ!」

 

 その断りムーヴも全く持って徹底しているからいっそ笑えてくる。

 早朝はオレが家まで迎えに行く前に出かけているし、授業中は徹底的に無視。休憩時間が始まったと同時に連続スライディングでオレの前から姿を消し。昼食になると教室の隅にジャンプとスライディングを繰り返してどこかへ文字通り消える。研究会に顔を出しても一切合切会う事はないし、一緒に帰ろうとした時には学校には影も形も見当たらない。

 

「ただ忙しいだけじゃないかな。佐野君、放課後は図書室に居たり、近くのコンビニでバイトしてる所も見かけてるし」

 

「それ知らないんだけどぉ!?」

 

 図書室勉強にコンビニバイト!? 親の都合で転校とは言っていたが生活が苦しいのか奴は!?

 畜生水臭いぜ、オレだったら幾らでも金を貸すのに……いや、それよりも何故一華がそれを知っている!?

 

「貴様、オレと言うベスト・フレンドを置いて佐野とお近づきに!」

 

「馬鹿なの? 死にたいのかい? ただ偶然が重なってるだけ。佐野君が勉強してるところに出くわしたり、何気なくコンビニ行こうとしたら居たり」

 

 むぅ……確かに一華の様子は平常心そのもののようだが……でもオレには分かっているんだぞ。最近マイ・ベスト・フレンドの関心が一華に向きつつある事を。オレと過ごさぬ代わりに一華に話しかける頻度が増えている事を!

 

「くっ……マイ・ベスト・フレンド、お前はすでにオレは攻略済みだと言いたいのか……! まさかハーレムエンドでも目指しているのか!」

 

「さも当然のように私を勘定に含めるな。あとお前も勘定に含まれようとするな」

 

「?」

 

「その何言ってるか分からないって顔をするの本気でムカツク」

 

 いやいや当然オレも攻略対象の一人だろう。

 最近の恋愛シミュは男性ルートももれなく完備している。(まあ匂わす程度の友情で止まるが)

 さしずめ佐野が主人公ならオレはサブヒロイン、そして一華はメインヒロインというところだろう!

 

「はぁ……それで相談は終わりでいい? 私もう帰るから。草はいい加減そのクソみたいなゲーム脳は本気でやめたらどうだい」

 

「ゲーム脳とは失礼な! 今の所オレの恋愛シミュ観と佐野の行動、特徴は一致しているぞ。オレの分析が正しければ一華、このままだと貴様は佐野に秒で好感度を積み上げられて――あっという間に堕ちる!」

 

「――」

 

「わー待て待て落ち着け! 除草剤はやめろ除草剤は!」

 

 無言でスプレーを取り出そうとする一華を何とか押し留めると、一華はカバンを抱えて教室を後にしようとしていたので、やる事のないオレもまた奴に続いて帰路につくことにした。

 

「大体怒るのが筋違いだろうに、貴様のような口の悪いチビでも佐野なら拾ってくれるかもだぞ?」

 

「余計なお世話だ枯れ果てろクソが」

 

「マジで口悪ぃなぁ!? ま、まあほら……あれだもしも佐野が拾わないってんなら……お、オレという存在が? 拾ってやっても?」

 

「……久々に最悪の気分にさせてくれてどうもありがとう。心配しなくても例え世界が壊れても、お前を選ぶなんてありえないから」

 

「おぅふ……」

 

 

 

 § § §

 

 

 

 新緑彩る春真っ盛り。

 旧校舎を根城とする我らが助太刀研究会に、雄叫びが広がった

 

「ちょおぉっとぉ、(ソウ)ちゃん! 新規メンバーが増えたってなんで言ってくれないのよぉ!?」

 

「お、おぉ……葛か。よく来たな……」

 

 教室の扉に頭をぶつけそうな程の長身。

 Tシャツが弾けとばんばかりの全身筋肉。

 頭は天パ、まつげはカール、たらこの唇濃い口ヒゲ。

 そのひと目見たらまず忘れない特徴で主に男性から畏怖を抱かれ、女性からは親しまれる存在。それこそが彼――いや彼女、『風仙(ふうせん) (かずら)』である。

【ここで葛が登場します。私はホモじゃないですがこのキャラは撫子の次に好き。】

 

佐野円堂「どちらさま?」
 

 

 一華と机を向かい合わせて一緒に勉強をしていた佐野が首を傾げれば、立ち入った葛が目にも留まらぬ速さで佐野のもとへ移動。そして奴の手を取って顔を近づけていた。

 

「あらやだやだやだぁ、君が新入生!? 可愛い~~~っ、まるで子猫ちゃんみたい! アタシは風仙葛って言うの! 気軽にカズちゃんって呼んでね!」

 

「葛、圧。圧が強すぎる。鼻息浴びせすぎだ。マイ・ベスト・フレンドが困ってるだろ」

 

「ま。ごめんなさいね、アタシったらつい興奮して……」

 

「相変わらずだねカズちゃん。久しぶり、二ヶ月ぶりくらいじゃない? 今度はどこに花嫁修行に行って来たの?」

 

「一華ちゃんも久しぶりね! 今度は音楽部の方にお琴を習いに行って来たの!」

 

 この筋肉モリモリマッチョマンの淑女、助太刀研究会が暇があることをいい事、定期的に様々な部活に修行に出かける求道者である。

 本人曰く花嫁修業との事だが、見かけるたびに何故か増える傷跡、そして鍛え上げられていく筋肉に武者修行としか思えないのは公然の秘密だ。

 

「それにしても久しぶりだな葛……より完璧な淑女に近づけたようで何よりだ」

 

「そんなお世辞はどうでもいいの草ちゃん。それよりもどうして教えてくれなかったのかしら?」

 

「お、おぉそ、その事か! いやな、マイベスト・フレンド――佐野の事を紹介しなかったのは謝る。ただこれは葛の修行中に雑念を混じらせてしまうのもどうかと思ってだな……」

 

 嘘だ。本当は佐野の身を案じてである。

 この葛という男、花嫁修業をしているだけあって結婚願望が非常に強い。そしてその対象は言うまでもないが異性ではなく同性である。

 オレは佐野の生涯の友であるがゆえに、責任を持って佐野の貞操を守らねばならないのだ……!

 

「あらやだ、そうなの?」

 

「そうだともそうだとも!」

 

「そう……ごめんなさいね草ちゃん、貴方の気遣いを疑ってしまうなんて……」

 

 幸いなことに。彼……いや、彼女は腕っぷしこそ強くてかなり性癖があれだとしても根は正直かつ単純だ。オレのその場しのぎの繕いでもどうにか信じてくれる。……オイ、一華はその白々しそうな目をやめろ。

 

「でもこんなに可愛い子だったら行ってくれればすぐにでも修行切り上げて会いに来たのに! あぁんもう、佐野ちゃん?と過ごせる時間ロスしちゃったわぁ!」

 

 お、おぉ珍しい……あの動じないクール佐野が後ずさってるぞ。

 あんな態度で表す佐野は初めてみた……!

 

佐野円堂「そ、そう言えば。研究会はこれで全員?」
 

 

「ん? あぁそう言えば……まともに言ってなかったね、研究会メンバーの事」

 

「それもそうだったな……マイ・ベスト・フレンド、実はこの研究会メンバーは後一人居るんだ」

 

「『あざみ』ちゃんねぇ。あの子は中々に気まぐれな子よんっ」

 

 アイツは研究会に誘って2つ返事で入会したは良いが、ある日を境にめっきり来なくなった飽きっぽい少女だ。

 葛の奴がレアキャラだとするならば、あざみに至ってはウルトラスーパーレアと言ってもいいだろう。何せ、あいつは学校すら躊躇なくフケてしまう筋金入りの不良娘でもあるから。

 

「そうそうそれよりも! 佐野ちゃんとお話してすっかり忘れちゃったけど……『目安箱』に依頼が入ってたわよ!」

 

「お、おぉぉぉ! 久々に依頼が来たのか!」

 

 ばん、と我々が集まる机に載せられる1枚のルーズリーフ。

 4つに折りたたまれたそれを、オレは待ちきれないとばかりに広げて皆に見せる。

 そして集まった我々の視線に晒された『助太刀依頼』の内容は――!

 

助太刀研究会の皆様へ

  昨日、大切な手帳を学校のどこかになくしました。

  黒革包装で、カバーの右下にネズミのマークが

  書いてあります。

  どうか人の目に触れる前に探し出してください。

  よろしくお願いします。

1年B組 信楽ひな子より

 

「……3ヶ月ぶりの依頼だね。久しぶりな割にはまともな依頼内容」

 

「イタズラ目的の投書が多かったものねぇ……とは言え、例えそうだとしてもちゃんと目安箱くらい毎日確認しなさいよ、草ちゃん!」

 

「う……面目ない……というか何故オレが叱られる!? 一華も連帯責任!」

 

「確認はいつもオレがするーって言ってたのは草じゃなかったかな?」

 

「くっ、そう言った記憶がない事もない……! わ、分かった。こうしよう……今度からは研究会のメンバー全員が気がついたら確認する事にしよう! 会長からのお願いです!」

 

【Tips】

  旧校舎1階にある下駄箱に『目安箱』が設置

  されています。その箱の中には助太刀依頼が

  入っている事があるので、定期的に確認

  しておきましょう。

 

「さて……我々助太刀研究会の初めての活動らしい活動の時間だ。今回は落とし物捜索だからそんなに大掛かりじゃないが、依頼人は早めの解決を望んでいる! みんなで手分けして探そうじゃないか」

 

「任せて頂戴!」

 

「まあ依頼が来たって言うのならやるしかないか」 

 

佐野円堂「分かったよ」

【この会話を切っ掛けに校舎裏の隅にアイテムが配置されます。速攻で取りに行きましょう】

 

 オレの一声と共に全員が潔く応じてくれる。非常に頼もしい事だ!

 さぁてそれじゃあ今日中にぱぱっと解決しちゃいますか!

 

「それじゃあどの辺りを探しに行く?」

 

「そうねぇ……旧校舎、っていうのはまず無いだろうから、新校舎中心に探す事になるだろうけれども……まずは依頼人に会って心当たりを聞かない事にはね」

 

「カズちゃんに賛成。まだその子が学校に残ってるかは不明だけど、この学校の中で手帳を1つ探し出すのは並大抵の苦労じゃないと思う」

 

 ごもっともだな。だとすればまずは依頼人に……んん?

 佐野の姿がどこにもいないぞ? 奴はどこに行ったんだ?

 

「佐野君、またどこか行っちゃったんだ」

 

「あら本当。気が付いたら……もう探しに行っちゃったのかしら?」

 

「恐らくは。佐野君ってあの大人しそうな見た目に反して即断即決即実行な行動派だからね、いつも全力だよ」

 

「うむ。奴の一挙一投足は無駄がない! 無駄な行動は一切しないし、会話も最低限に済ませる。まるで生き急いでいるかのようなひたむきさがマイ・ベスト・フレンドの尊敬出来る点だな!」

 

「あんなに可愛い顔をしてるのに、そうだったのね……でも大丈夫かしら? 闇雲に探すだけじゃ見つかりっこないっていうのに」

 

「ふふふ……奴は不可能を可能にする男。手がかりが無くとも、既に心当たりがあるのかもしれないぞ!」

 

「何その無駄な信頼感。流石に佐野君でもそれは……」

 

 一華も言葉を濁すけど、強く否定はしないという事はそうなるかもと思っているのだろう。

 そりゃそうだろうな。近くに居ればこそ分かる奴の有能さは、まさしく天性の物。数十分後には葛もその傾げた首を、ヘドバンの如く縦に振っている事だろう!

 

「と、噂をすればマイ・ベスト・フレンド!」

 

 扉が全開になるのも待ちきれずに連続スライディングで研究会に入ってきた佐野。奴はオレめがけて瞬く間に間合いを詰めると、表情1つ変えずにあるモノを手渡してきた。

 むぅ……これは!

 

「「依頼人の手帳!?」」

 

「さ、流石はマイ・ベスト・フレンド……! くぅ、これだからお前って奴は最高なんだ!」

 

佐野円堂「少し大変だった」

 

 聞けば佐野はこの短時間で直感に従って探し回って見つけたらしい。

 最低でも2日はかかると思っていたこの依頼を初日で解決なんて……尋常じゃねえぜ!

 

「……素直に驚いた。中々に出来る事じゃないと思う」

 

「お、お゛ぉぉお゛ぉぉぉぉ、凄い! 凄いわ佐野ちゃん! ハグしていい? していいかしら!?」

 

佐野円堂「遠慮しておきます」

 

 ヘドバンしながら近寄ろうとする葛から的確に距離を取る佐野!

 奴の手柄は確実に我らメンバーの心を掴んだ事だろう。かくいうオレはもう心酔レベルだ! 何度でも惚れ直しちまうぜ!

 

「なにはともあれ佐野、助かったぜ。依頼人にはオレの方から伝えておく! ありがとうな!」

 

【Result】

  依頼『落とし物①』解決!

  クリア:+10

  早期解決ボーナス:+5

  単独解決:+5

  

  『助太刀ポイント』を20獲得した!

 

【infomation】

  助太刀ポイントを貯める事で、

  様々な特典を得る事が出来ます。

  依頼を沢山解決して、珍しいアイテムや

  研究会の拡張、スキルの獲得を

  目指して見ましょう!

 

【この日を境に研究会に依頼が舞い込むようになります。届いた依頼はさくさく攻略しましょう】

 

 

 

 § § §

 

 

 

 そうしてオレ達研究会メンバーの本格的活動が始まった!

 何故かぷっつりと途絶えていた助太刀依頼は葛が来た瞬間からじゃんじゃか舞い込むようになってきていた。

 

 ――いや違うな。活発になった理由は間違いなく佐野のおかげだろう。

 

 奴のおかげで我が研究会の依頼解決スピードは平均1~2日、そして依頼解決率はまさかの100%!

 依頼をすればたちどころに、かつ確実に解決する事から校内でも助太刀研究会の名前はぐんぐん浸透し、一躍有名になったのだ。

 今では以前では考えられない程の依頼が大量に舞い込んでくるようになっている!

 

 それにしても驚くべきは佐野の解決力だろう。

 投書される内容は『落とし物探し』のような物ががある一方で『運動部の助っ人』や『勉強を教えてくれ』と変化球があれば、はたまた『ソシャゲのレベル上げを頼む』と言った私利に走った物もあれば、『明日を晴れにしてくれ』という、何だこれ!? と目を疑う内容も多い。だが佐野はその全てをほぼ独力で、そして早期解決をことごとく成し遂げていくのだ!

 

「剣道なんて初めてやる上になんで私が大将に!?」

 

佐野円堂「紫華さん、僕が最初に全部倒しますので」

 

【Result】

  依頼『ソードマスター②』解決!

 『助太刀ポイント』を30獲得した!

 

 

「θ? Ε? Ω? 佐野ちゃん、何でこんなよくわからない記号の羅列に意味が分かるの!?」

 

佐野円堂「真剣ゼミを履修しといて良かった……」

 

【Result】

  依頼『大学受験への道②』解決!

 『助太刀ポイント』を30獲得した!

 

 

「……ソシャゲってこう、もっと華やかかと思ったけどアレだな。何か虚無だな」

 

佐野円堂「ひたすら無心にボタンを押すのがコツだよ」

 

【Result】

  依頼『千里の道も一歩から①』解決!

 『助太刀ポイント』を20獲得した!

 

 

「草ちゃん。この依頼本気でどうするつもり? お天気キャスター呼んでくる?」

 

「むぅ……オレが気象予報士だったら何とかなったんだが」

 

「その職業どっちも天候操作の力はないから。降水確率100%を変えるなんてそれこそ神様でもないと無理だよ……この依頼は断るのが妥当」

 

「……一華、マイ・ベスト・フレンドは諦めてないようだぜ」

 

「? 佐野君、今更一体何をしようと……して……それってまさか!?」

 

佐野円堂「てるてる坊主……」

 

【Result】

  依頼『明日天気にな~れ!』解決!

 『助太刀ポイント』を50獲得した!

【この依頼は予定日の前日までに10個てるてる坊主を作ると確定で晴れます】

 

「……からっと晴れたね」

 

「……からっと晴れたわね」

 

「うおおおおおお、流石はマイ・ベスト・フレンド! そこに痺れる、憧れるぅ!!」

 

 

 それでも舞い込む処理が追いつかない程の大量の依頼の数々!

 それはかつてオレが立てた理念に沿う事態ではあるが、研究会設立きっての異常事態でもあった。

 しかしてその尽くを佐野がやっつけていくのだからもう我々は言葉も出ない。

 日に日に上昇していく研究会の評判。

 充実していく部屋の設備の数々。

 そして止まることのない学校内外からの依頼の数々――気が付けば佐野が入会して二ヶ月も経たぬうちに、この研究会は佐野を中心として活動をするような形になっていた。

 

「佐野君。あんまり根を詰めすぎないようにね、あ。これ依頼の一覧。分かる範囲で難易度のランクをつけておいたから」

 

佐野円堂「ありがとう紫華さん」

 

「佐野ちゃぁん、私の花嫁修業仲間からの依頼があるんだけど、この依頼を受けてくれないかしら?」

 

佐野円堂「構わないよ」

 

 一華も葛も、そんな積極的かつ献身的な佐野の行動にあてられたのか毎日研究会に顔を出してくるようになり、時に佐野を頼り、時に佐野を助けるように努め始めたし。

 そればかりではなく、研究会で過ごす時間が増えた事で、プライベートでも共に過ごす時間が格段に増えていた!

 

「はっはぁぁー! このコーナリングはどうだ――あががががが!? 一華、やめろぉ! 味方をショットしてどうする味方を!」

 

「ごめん。目の前でうろちょろしてうざくてつい癖で」

 

「佐野ちゃぁあぁん、私達これじゃあ負けちゃうわぁぁ!」

 

佐野円堂「お願いだから抱きつくのは辞めて」

 

 放課後、外が暗くなるまで研究会備え付けの古いゲーム機で白熱したり。

 

 

「どぅぅぅるるァァァァッ!! ストライクじゃぁぁぁいッ」

 

「かずちゃん(オトコ)(オトコ)出ちゃってるよ」

 

「で、出たー! 葛の空飛ぶ魔球! 超低空でボーリングの玉を飛ばす滑走方法! その破壊力からボーリング上の出禁リスクもある荒業だぁぁーッ!!」

 

佐野円堂「流石にあれは出来ないな……」

 

 休日、町を紹介がてらボーリング場で遊んだり。

 

 

佐野円堂「どうぞ、何もないつまらない部屋だけど」

 

「おぉ、ここがマイ・ベスト・フレンドの家……! 思ったとおりメチャクチャ整理整頓されてるな!」

 

「……へぇ~。ここが佐野君の家なんだ」

 

「すぅ~~~~はぁぁ~~~~すぅぅぅ~~~~っ、佐野ちゃんのスメル……(かぐわ)しいわぁ」

 

「葛ァ! 自重しろ葛ァ!」

 

 お互いの家にお邪魔して、助太刀依頼について馬鹿話をしながら話し合ったりした。

 

 それは以前と比べれば格段に慌ただしく忙しい日々であることは間違いない。だけどこの春から始まった毎日は決して退屈でも苦痛でもなく、ただただ笑いとわくわくに溢れた日々である事もまた間違いではなかった!

 

 オレ自身が発足した研究会、その中心が佐野になった事や、相変わらずオレと二人だけだと誘いを全て断って来る事などもう些細な事だ。

 皆とこうして笑いあう日々がいつぞやにプレイしたオレの憧れを詰め込んだ青春恋愛ゲーのようで。そんな憧れを追体験しているようで何に増しても嬉しくて仕方がなかった。

 

 

 

 

 そんな忙しなくも充実した日々を過ごしていったとある日の事だ。

 オレはある出来事に出くわしてしまう。

 

 

 

 

「――ふふ。キミって真顔でそんな面白い事を言うんだ」

 

 それはオレがテストの補修で居残りをした帰りの事だ。

 夕方と夜の境目、いわゆる逢魔が時に学校から帰ろうとする佐野と一華の二人の姿を見かけた。

 

 同じく帰宅しようと考えていたオレである。見かけたのなら輪の中に颯爽と混ざろうとしたのだが……気が付けば、オレはその足を止めていた。

 何でだろうか、特に大きな理由はなかったが……その時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いい加減タメ口でいいって? 十分にタメ口な気がするけどね……何か遠慮があるって、いや、草はほら。雑草だからあんな感じに接してるのであってさ」

 

「まだ距離を感じて仕方がないって……だってほら、キミっていつも頑張ってるじゃない? 私はただでさえ口悪いから佐野君を傷付けちゃうのはどうかと思って」

 

「傷なんて付かないって? 嘘。本当に無敵の人なんてどこにも居ないって私は知ってる。如何にキミが完璧超人でも限度がない訳がないのさ。それこそロボットでもない限りね」

 

「はぁ……呆れた。試しに罵倒してみてくれって本当、どういうお願い? 仮にも友達にするような内容じゃないよ、変態なの? バーカバーカ。……あ」

 

「……くっ、無性に負けた気がする……せめてその澄まし顔はやめろっ!」

 

 いつもむっつりとした顔を変えない一華が見せた喜怒哀楽の表情。そこに嫌がったりする様子は全く見られない。

 それを当然のように受け止める佐野の顔はやはり無表情だ。

 

 ……研究会のメンバー同士が仲睦まじくなるのは素晴らしい事だ。

 佐野という素晴らしい人物とはオレと同じように、一華も葛も深い関係になって貰いたいとは思っているし、佐野の手腕にかかればどんな相手でもたちどころに親友になるのもおかしくはないだろう。

 

 

 だけど――――

 

 

「はぁ……はいはい、今後も頼りにしてるよ。()()君」

 

佐野円堂「任せてよ()()

 

 この短期間で進みすぎた二人の仲に。

 どうしてだろう、オレは小さな胸の痛みを覚えて仕方がなかった。

 

 

【これで現時点の一華の好感度はほぼMAXです。一華含む女性ヒロインはキーイベントをこなすことで絆MAXになりますので。あとは夏のイベント待ちですね。】




『みねうて! 大文字高校助太刀部!』は2021年3月30日にMINATO(現・ミナトホールディングス)から発売された恋愛シミュレーションゲームである。

プレイヤーは田舎にある『大文字高校』に転校し、『助太刀研究部』という場所で個性的なキャラクター達と1年間親交を交わしあっていく。
3Dシミュレーションであり、様々なやり込み要素が存在する一方で、使い古されたキャラクター像、どこかで見たようなストーリー展開、古臭いUI、多数存在する内在バグ等、ユーザーはまるで2000年代初頭の作品であるかのような印象を覚えることだろう。

発売後の評価も低迷し続け、売れ行きこそ悪かったものの、その内在バグに着目したユーザーがRTA(リアルタイムアタック)動画を上げたことで発売から4年後の2025年、RTA界隈において人気が爆発した。
2027年の現在でも根強い人気を誇り、着々とクリアタイムの更新と新規バグが発見され続けている。

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