1493年のフランスにレイシフトしたダンテ達、現地の人々がいると思われる場所へと向かっていた。
「………妙だな」
現地の人々がいると思われる場所へ向かっている途中、ダンテはそうつぶやく。
オルガマリーとロマニの話によれば今の時代は百年戦争の休止期間らしく、どこも戦争は行われていないとのこと。
しかしダンテの感覚は違和感を感じ取っていた。
戦争が行われていないにも関わらず大地は荒れ果て、風には焦げ臭い臭いが乗っている。明らかに戦争が行われている証拠だ。
それにはアナスタシアとカーマ、ティアマトとアルトリアも気がついているらしく、表情を険しくしている。
しかし戦いに慣れていない立香とマシュは気がついていない様子だ。
(こういう時に限って嫌な予感は当たるんだよな)
そんなことを思いながら歩いていると、遠くに砦のようなものが見えてきた。
砦は攻撃を受けているのか、壁の所々は崩れ落ち、黒煙が薄く昇っている。
明らかに先ほどまで戦いが行われていたようである。
「とりあえずまずは話を聞いてみるか」
「でも言葉は通じますかね?」
ダンテの言葉に立香がそう返してくる。
それもそのはず、ここは中世のフランス。当然言語はフランス語のみであり、立香が話す日本語はおろか世界共通語である英語すら通じない。
なのでダンテ達の言葉がこの時代の人間に通じる可能性は限りなく低かった。
「でもやるしかないんですよねぇ」
『はい。想いを伝えるのに言葉は大切ですから』
『そうだ。例え時代も世界も違えど、言葉は大切だ。俺も言葉が足りず、よく周囲に誤解を与えてしまっていた』
カーマのつぶやきに通信機越しにパッションリップとカルナが同意する。
どちらにせよ話しかけなければ何もわからないので、ダンテ達は砦の中へと入っていく。
砦の中には兵士や避難してきたであろう市民が多くいたが、その誰もが疲弊しきっていた。
「これは…酷いですね……」
砦の中の惨状を見たティアマトが悲しむようにつぶやく。
ティアマトの言う通り砦の中の被害は外よりも明らかに大きく、所々が爪で抉られたような痕や牙でかじられたような痕、さらには炎で焼かれたような痕までも残っている。
それは明らかに人間によるものではない痕跡だった。
「これは……上空から襲撃を受けたか」
砦の中の惨状を見てアルトリアが冷静に分析する。彼女の言う通りこの被害は明らかに上空から襲撃されたものである。そうでなければ外よりも中の被害が大きいことに説明がつかない。
『まずは話を聞いてみよう。そうすれば何かわかるかもしれない』
通信機越しにロマニがそう言ってくるので、それを聞いた立香が頷き、地面に座り込んでいる兵士に近づく。
「ボ、ボンジュール。ちょっといいですか?」
「お前達は………?」
「えっと旅の者です。訳あってここに立ち寄ったのですけど、ここで一体何があったのですか?」
辿々しいフランス語で会話する立香。兵士も少し怪訝そうでありながらも警戒するわけでもなく話してくれる。
「……蘇ったんだ」
「蘇った?」
「ああ。聖女『ジャンヌ・ダルク』が蘇ったんだ。
『本当なのですか!?』
恐怖に染まった兵士の叫びに、カルデアにいるジャンヌが驚きの声を上げる。
しかしそうなるのも無理はない。
何故なら、この時代のジャンヌ・ダルクは
………
……
…
一旦状況を整理するために一度砦の外へ出たら怨霊と思わしきガイコツ共が襲いかかってきたので、カーマとアルトリアに見守らせながら練習がてら立香とマシュに戦わせている中、ダンテはカルデアと通信していた。
「この時代のお前はすでに死んでいて、蘇ってもいない。それで間違いないな?」
『はい、神に誓ってありません』
ダンテの言葉にジャンヌはそう返してくる。その言葉に嘘偽りは無さそうだ。
「オルガマリー、ジャンヌのマテリアルを見せろ」
『ええ、今転送するわ』
その言葉の直後、ダンテが持っていた通信機にジャンヌのマテリアルが表示される。
ジャンヌ・ダルク。
元は田舎の娘だったが、敬虔な信者であったためにある時『神の声』を授かり、オルレアンを救うため旗を持ち、フランスに救世主として立ち上がった世界に名を知らしめた旗の聖女。
その勇猛果敢な奮戦と与えられた啓示により、僅か一年という速さでオルレアンを解放した奇蹟を起こせし聖なる乙女。
しかし彼女の尊厳は敵国であるイングランドに捕らわれ、ありとあらゆる手段を以て貶められた。
賠償金惜しさに味方から裏切られ、「私は神の声を聞いていない」というその声を引き出す為に、ありとあらゆる冒涜と凌辱が行われた。
精神も肉体も陵辱され、その最期は土に還る事すら赦されず、火炙りに処されたという悲劇の少女。
「………あなた、ここまでされてよくルーラーになれましたね」
ダンテと共にジャンヌのマテリアルを見ていたアナスタシアが若干引き気味にそう言う。むしろここまでされているのに真っ当な英霊でいられること自体が奇跡といっても過言ではない。
普通なら憎悪に支配されて怨霊となるか、良くてアナスタシアと同じアヴェンジャーになるかである。最悪悪魔と成り果てる可能性だってある。
『まあ当時の私が何を思って死んでいったのかはわかりませんが、少なくともこの私は憎しみを抱いて死んでいったりはしていませんよ』
「………強いのですね。私とは大違い」
ジャンヌの言葉にアナスタシアがそうつぶやく。しかしそれは仕方のないことだと思う。
ジャンヌは自らの意志で戦争に参加して処刑された。それに対しアナスタシアは自分の意志とは関係なく兵士によって惨殺され、サーヴァントとして召喚されてからも魔術師によってその身体を陵辱された。
ルーラーと悪魔になった違いはそこだとダンテは考える。
(これは帰ったらアナスタシアを甘やかさなきゃいかんな)
そう思ったダンテは話題を変えるように口を開く。
「そうなると『竜の魔女』を名乗る聖女サマは一体何者だ? 兵士共の怯えようからして偽物とは考え難いが」
『そこなのよね。ジャンヌの逸話にドラゴンが関係しているものは無いし、そもそもその時代にドラゴンは存在しないわ』
ダンテの言葉にオルガマリーがそう返してくる。
サーヴァントは基本的に生前の逸話に沿った力を持っていることが多い。それを踏まえるとジャンヌがドラゴンを使役することはあり得ないのだ。
すると考え込んでいたティアマトがポツリとつぶやいた。
「……可能性の話ですが、そのジャンヌ・ダルクが聖杯を所持しているとか………?」
「………やっぱりそこに行き着くよなぁ」
ティアマトの言葉にダンテはため息混じりに同意する。
何をどう考えてもそのジャンヌが聖杯を所持しているとしか考えられない。むしろそれだからこそジャンヌがドラゴンを使役することができると考えられる。
「そうなるとその聖女サマを探し出さなきゃな」
『そうだね。当面の目的は例のジャンヌ・ダルクの捜索としよう』
今後の方針が決まったところで、ガイコツ共と戦っていた立香達がちょうど戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「おう、お疲れさん。勘は掴めたか?」
「はい、盾による峰打ちの極意………見えたような気がします」
「盾で峰打ちってのもおかしな話ですけどね」
マシュの言葉にカーマが呆れ気味にそう返す。
しかしあまり人を殺させるような真似をさせたくないので、その峰打ちが有効活用できるのならそれに越したことはない。
戻ってきた立香達に今後の方針を伝えようとした時────
────── ギャアアァアァアァアァ!!!──────
────上空から耳をつんざく咆哮が響き渡る。それと同時に遠目に無数の黒い影がこちらに迫ってきているのが見えた。
「やれやれ、噂をすればだな」
『この反応、間違いない!! ワイバーンよ!!』
オルガマリーの言葉通り、この砦に向かって無数のワイバーンが迫ってきていた。
ダンテにとっては敵にもならないが、今の立香とマシュにとっては強敵になり得るだろう。さらに砦には戦えない人々もいるので、砦での戦闘は避けたいところだ。
「……まあ、肩慣らしにはちょうどいいか」
ダンテはそう言うと、エボニーとアイボリーを抜く。そして立香とマシュに言った。
「お嬢ちゃん達は休んでな。ここから先はR指定だ」
「リツカ、マシュ、見ていなさい。今からダンテが戦うわよ」
ダンテの言葉にいつの間にかナイトメアを呼び出したアナスタシアが続けてそう言う。見ればカーマは愛用の弓矢を、アルトリアは黒い聖剣を、ティアマトは両手に赤黒い魔力を集めて戦闘態勢に入っていた。
「
ダンテは獰猛な笑みを浮かべると、ワイバーンの群れに向かって大きく跳躍した。
………
……
…
主人からの命令により力無き人間共を蹂躙すべく砦を襲撃しようとしていたワイバーンの群れだったが、その群れに向かって一人の人間が向かってきている。すぐさまワイバーンの群れはその人間を標的に定めた。
幼体とはいえ幻想種の最高位であるドラゴンにたった一人で挑むとは、何と愚かな人間だろうか。
すぐにその身体を八つ裂きにしてやろう。
ワイバーンはその人間に向かって牙を、爪を振り下ろそうとして────
──────ガガガガガガガガガガガガッ!!──────
────次の瞬間、無数にいたワイバーンの群れの大半が一瞬にして消え去った。
どのワイバーンも全身に穴が穿たれ、地面に落下して絶命したのだ。
突然のことにワイバーンの群れは混乱を来す。そしてすぐにその人間を殺そうとするが、その人間の姿が何処にも見当たらない。
ワイバーンの群れがそれぞれ周囲を見回していると、何かを叩くような音が響く。音のした方を向くと、人間がワイバーンの一匹の背中に乗ってこちらを挑発していた。
その愚かな行為に他のワイバーン達は怒り、その人間に向かって一斉に火球を放つ。しかし人間は軽々と避け、背中に乗られていたワイバーンだけが火球の餌食となった。
人間はまるで空中を舞うかのようにワイバーンの攻撃を避け回っては、その悉くを穿ちワイバーンを殺していく。
みるみるうちに数が減っていくワイバーンの群れは、いつしかこの人間に恐怖を抱いていた。
────いや、これは本当に人間なのか? 無力に、無様に逃げ回っていた人間共と同じ存在なのか?
そんなことを感じたワイバーンの一匹もついに穿たれ、地面へと落下する。幸か不幸か、穿たれたのは翼だったので死ぬことは無かった。だが生き残ったのは自分しかおらず、その他は全て死んでいる。
すると目の前にあの人間が現れる。そしてワイバーンの顔に得物を向ける。
見上げたワイバーンは、見てしまった。人間の背後にいる赤黒い影を。人間ではないその姿を。
………ああ、そうか。こいつは人間なんかではない。ドラゴンよりももっと恐ろしいものだ。
こいつは────
次の瞬間、雷鳴のような音と共に最後の一匹だったワイバーンの眉間に穴が穿たれたのだった。
………
……
…
無数にいたワイバーンの群れだったが、結局ダンテ一人で全て狩り尽くしてしまった。
「あー……もうちょい楽しめると思ったんだがな」
ドラゴンの仲間であるワイバーンだというのだから少し期待していたのだが、いざ戦ってみればそうでもなかった。まあこれに関してはダンテがもはや強過ぎるために、仕方のないことと言えるだろう。
そのダンテの強さを見ていた立香とマシュは口をあんぐりと開けて言葉を失っていた。そりゃ空中で滅茶苦茶に動き回りながら撃った銃が全て命中しているのだから、そうなるのも無理はない。
そんなわけで一匹残らず撃ち抜いたワイバーンは、食糧として全て砦にいる人々へと渡した。これだけあれば少しは活気が戻ることだろう。
「それじゃあ例の聖女サマを探しに行くとするか」
そう言って砦を出発しようとした時────
「お待ちください!!」
────背後からダンテ達を呼び止める声が響く。
ダンテ達が振り向くと────
「えっ……!?」
「嘘……!?」
「……こいつはどうなってんだ?」
そこに立っていたのは、見間違うはずの無い人物である鎧を身に纏った少女────
「お願いがあります……私にそのお力をお貸しください!!」
────オルレアンの乙女、ジャンヌ・ダルクが立っていた。