レイシフトしたフランスで遭遇したジャンヌと共に、ダンテ達は霊脈のある場所へ移動した。召喚サークルを設置すると同時に、このジャンヌから話を聞くためだ。
「ジャンヌ・ダルクが、もう一人……?」
「────恐らくは」
立香のつぶやきにジャンヌがそう返す。
「私の現界……私がこの時代に現れたのはつい数時間前です。なので物理的にもフランスを襲う竜の魔女たりえませんし、もちろんそんな記憶もありません。……その、私の記憶が正しければ…ですが」
「随分と曖昧な言い方だな」
近くの木に背を預けていたダンテがそう口を挟む。すると通信機越しにオルガマリーの声が聞こえてきた。
『それは彼女の霊基が不安定だからね。今の彼女はカルデアの彼女と比べて能力は軒並み低く、スキル等も使えない状態にある。恐らく現界したばかりな上に契約者となるマスターがいないからでしょう』
「なるほど、つまりは『はぐれサーヴァント』というわけか」
オルガマリーの説明を聞いたアルトリアがそうつぶやく。その言葉に対しジャンヌは頷いた。
「お恥ずかしい話です。自分が英霊であるという自覚すらも薄い。言うなれば『サーヴァントの新人』のような気分なのです……」
そう言ったジャンヌの表情は暗い。まあ訳もわからず現界してしまったのだから、そうなるのも無理はないだろう。
「あの……ジャンヌさんはこれからどうするんですか?」
立香がジャンヌに問う。彼女がなぜこの時代のフランスに召喚されたのかはわからず、やるべきこともない。ならこれからどうするのか、それがわからなかった。
しかしジャンヌは強い決意を秘めた表情で口を開いた。
「………それだけは決まっています。再びオルレアンを解放し、竜の魔女を排除する。啓示は無く、手段も見えず、ただ一人であろうとも、ここで背を向けることはできませんから」
『よく言いました私!』
ジャンヌの言葉を聞いた
とりあえず目的が同じであることがわかったので、ダンテ達はジャンヌに自己紹介する。そしてお互いに手を取り合ったところで、今夜は野宿するために召喚サークルを設置、カルデアから補給物資やエミヤによる手料理を受け取る。
そして夜中。
全員が寝静まる中、ダンテはパチリと目を覚ます。
「…………」
立香達が起きていないことを確認すると、ダンテは起き上がってその場から離れて森を出る。
「行くのかしら?」
不意に背後から声を掛けられる。振り向くとアナスタシアが立っていた。どうやらついてきていたらしい。
「ああ、やり忘れたことがあったからな」
「そう。なら私達は後で合流するわ」
そう言って拠点へと戻っていくアナスタシア。その後ろ姿を見送ると、ダンテはバイク型の魔具『キャバリエーレ』を呼び出し、それに跨って走り出す。
しばらくキャバリエーレを走らせて辿り着いたのは、昼間にワイバーンの群れの襲撃を受けた砦である。
ダンテはずっと疑問に思っていた。
竜の魔女とやらは行動を見るからにフランスへ復讐しているようである。なら都市部を狙って襲撃すればいい話だ。
しかし竜の魔女とやらはザコとはいえワイバーンの群れをこんな小さな砦へと向かわせてきた。おそらくそこには何らかの意図がある。
ダンテはそれを確かめるために砦へと戻ってきたのである。
砦の中に入ってみれば先ほどまでの辛気臭い雰囲気は何処へやら、多少ではあるが活気が戻っていた。
ダンテが砦の中を歩いていると、ふと一人の女性に目が向く。その女性は一般の農民のようなのだが、なぜか………ジャンヌと同じ気配がする。
周囲の人々の表情は明るいのにその女性だけは暗い。苦しんでいるようにも見える。
気になったダンテはその女性に声をかけた。
「Hey、大丈夫か?」
「!? あなたは………」
「ああ、ただの旅人さ。周りは明るいのにお前だけ暗かったから声をかけさせてもらった」
驚く女性にダンテは笑いながらそう返す。そして隣にドカッと座った。
しばらく無言が続くが、先にダンテが口を開く。
「………竜の魔女が気になるか?」
「……ッ!!」
その言葉にビクリと肩を震わせる女性。この上なくわかりやすい反応であった。
「そりゃそうだよな。何せ竜の魔女はフランスを滅ぼそうとしている復讐者。次に襲ってくるのはここかもしれねぇ」
「あの子は……ジャネットはそんなことをしません!!」
ダンテの言葉に女性がそう返してくる。その言葉には怒りの感情が篭っていた。
それもそうだろう。何せこの女性は間違うことなき
「ああ、別にジャンヌを貶すために言ったわけじゃない。あいつの勇姿は知っているからな」
「は、はあ………?」
笑いながらそう言うダンテにジャンヌの母親はよくわからないといった表情を浮かべる。まあ『ジャンヌはサーヴァントとして現界している』と言ったところで信じることはないだろうから言わないのだが。
「それで、一体何をそんなに暗くしてんだ?」
ダンテがそう聞くと、ジャンヌの母親は少し間を空けてから口を開いた。
「………あの子は『主の啓示』を受けてフランスのために立ち上がりました。そして私も喜んであの子を送り出した。………でも、あの子の結末は魔女の烙印を押されて火刑に処されるという救いの無いもの」
ジャンヌの母親の言葉をダンテは口を挟むことなく聞き続ける。
「今でこそ思うのです。『主を否定してでもあの子を止めるべきだったのではないか?』と………」
『お母さん………』
ジャンヌの母親の懺悔にカルデアのジャンヌが悲しげに声を漏らす。
何が正解だったのかなどダンテは知らないし、知ろうとも思わない。だが、これだけは言えるだろう。
「……あいつは死ぬ時まで『誇り』を持っていたことだろうよ」
「え………?」
「竜の魔女はともかく、『ジャンヌ・ダルク』という小娘は『フランスを救いたい』という想いを抱いて戦いに出た。そして『フランスを救った』という誇りを抱いて死んだ。それだけは変わりない」
「……ジャネット………」
ダンテの言葉にジャンヌの母親は静かに嗚咽を漏らす。
「さあ、お嬢さんはもう帰って寝な。今夜は冷えるからな」
そう言うと嗚咽を漏らしながらも頷いて立ち去るジャンヌの母親。
ジャンヌの母親の姿が見えなくなったところで、通信機からジャンヌの声が聞こえる。
『ダンテさん、ありがとうございます。私の代わりにお母さんに言葉を伝えてくれて』
「気にすんな。俺は思ったことを言っただけだ」
『フフッ、ではそういうことにしておきますね。ところで、ダンテさんは何をしにここに戻ってきたのですか?』
「ちょっとやり忘れたことがあっただけだ。『備えあれば憂いなし』って言うだろ?」
ダンテはそう言いながら魔剣ダンテを手に持ち、魔力を篭める。すると魔剣ダンテの刀身から紅い魔力でできた剣『ミラージュソード』が無数に現れ、四方八方へと飛んでいく。
────これでやるべきことはやった。あとはその時が来るのを待つだけだ。
ダンテは魔剣ダンテをしまうと、その場に座ったまま仮眠を取った。
………
……
…
────どれほど時間が経っただろうか。気がつけば夜は明け、朝日が昇っていた。
「……来たか」
ダンテは短くつぶやく。
遠くからこちらに向かってくる無数の気配。そのうちの一つは禍々しい魔力を帯びており、さらにはサーヴァントの気配も感じる。
ダンテが欠伸を漏らしながら砦を出れば、遠目にこちらに向かってくるワイバーンの群れと、一体の巨大な黒いドラゴンの姿が見える。
やがてドラゴンの口に魔力が集まっていき、こちらに向かって魔力の球を吐き出す。
────そして次の瞬間、ダンテのいる砦が巨大な爆炎に呑みこまれたのだった。