巨大な爆炎に飲み込まれた砦。
幻想種の頂点に君臨するドラゴンによるものなので、普通なら跡形も無く吹き飛ぶことだろう。事実、ドラゴンに砦を吹き飛ばすように命令したもの達は砦が跡形も無く吹き飛んだことを信じて疑わなかった。
そして黒煙が晴れて姿を現したのは消し飛ばされた砦の跡──────ではなく、煤一つ付いていない無傷の砦だった。
予想外の光景に襲撃者は驚愕する。その隙が仇となり、空中に突然無数の赤い魔石が出現し、流星の如くワイバーンに襲いかかり大半を消滅させる。
突然の反撃に襲撃者達も反応が遅れ、赤い魔石の直撃を許し地面に墜落する。
そしてそこで目にしたのは禍々しい魔剣を携えた、真紅の悪魔だった。
………
……
…
ダンテの予想通り敵はこの砦を襲撃してきたが、ダンテが予め設置しておいたミラージュソードを礎とした魔力障壁によりドラゴンの攻撃は防がれ、さらに魔具『Dr.ファウスト』によるレッドオーブの雨を降らせたことで敵勢力の大半を消し去り、さらには襲撃者達にもダメージを与えることができた。
────そして今、ダンテの目の前には漆黒の衣服と鎧を身に纏ったもう一人のジャンヌ・ダルクが睨んできている。
「おいおい、これが噂の『竜の魔女』だって? こいつは聖女というよりただの不良娘じゃねえか」
ダンテは魔剣ダンテを肩に担ぎ笑いながらそう言うが、黒いジャンヌは歯軋りをしながらダンテを睨むだけだ。
するとダンテのそばに野営していたアナスタシア達がナイトメアの力による空間の移動を行なって姿を現した。
「あら、本当に襲撃してくるなんて恐れ知らずな聖女サマね」
「滑稽ですねぇ。あの程度の攻撃で消せるとでも思ってたんですかぁ?」
黒いジャンヌの姿を見たアナスタシアとカーマがクスクスと笑いながら煽りまくる。それにより黒いジャンヌは見てわかるほど青筋を浮かべていた。
「……ああ、目障りだわ。耳障りだわ」
不意に黒いジャンヌがそうつぶやく。声は剣呑であるが、その目は怒りや憎しみといった負の感情で満ちていた。
「何も疑いもせずに周りから祭り上げられ、都合の良い代弁者に仕立て上げられていた愚かなジャンヌがいるのもそうだけど……何よりあなたがここにいるのが気に入らないのよ、
「おっと、竜の魔女サマも俺のことを知ってるのか。それは光栄なこった」
黒いジャンヌの言葉にダンテは仰々しくお辞儀する。そのわざとらしい態度に黒いジャンヌの怒りはさらに高まり、もはや爆発寸前だ。
しかしそこでこちらのジャンヌが戸惑いの表情を浮かべながら、黒いジャンヌに問いかけた。
「あなたは……あなたは本当に私なのですか……?」
「………ハッ」
ジャンヌのその問いに冷静になったのか、黒いジャンヌが鼻で笑う。そしてジャンヌを見下しながら口を開いた。
「まさかこんなにも愚かだったなんて、本当にあの時の私はどうかしていたわ。当然でしょう? 国のために戦ったのに、国は私を『魔女』として殺した。だから私は『竜の魔女』としてこのフランスに復讐するのです」
「だからって、人理を滅ぼすのはおかしい!」
笑いながら話す黒いジャンヌに立香がそう叫ぶ。すると興が削がれたかのようにつまらなさそうに黒いジャンヌが口を開いた。
「………何、あなたが例の人類最後のマスター? 戦いのたの字も知らない小娘が? ほんとくだらなさすぎて笑う気も起きないわ」
「俺からしたらお前こそ戦いのたの字も知らない小娘だと思うけどな」
ダンテのチャチャに再び青筋を浮かべる黒いジャンヌ。そしてついに怒りが頂点に達したらしく、怒りに満ちた声でつぶやいた。
「……ええ、決めました。今決めましたとも。そのウザったい口を今度こそこの砦もろとも焼き尽くしてくれる!」
そして黒いジャンヌは手を掲げて口を開いた。
「来なさい、我が
その瞬間、ダンテ達の周囲を取り囲むように四体のサーヴァントが姿を現す。その光景に立香とマシュ、ジャンヌは身構えるが、ダンテ達は相変わらず笑みを浮かべたままだ。
「ほう、復讐者の真似事だけでなく、マスターの真似事までしているようだな。サーヴァントを従えれる気分はどうだ、炎上女?」
「黙れぇッ!!!」
愉悦の笑みを浮かべたアルトリアの挑発がトドメを刺したらしく、黒いジャンヌの怒りが頂点どころか限界突破する。それと同時に黒いジャンヌが従えるサーヴァント達が襲いかかってくるが、アナスタシア、カーマ、アルトリア、ティアマトの四人が飛び出してサーヴァント達の進攻を防ぐ。
「オルガマリー、あいつらの真名を探れるか?」
『ええ、全力で探るわ! そっちも気をつけて!』
ダンテの言葉にオルガマリーがそう返してくる。
こうして初めてのサーヴァント戦が火蓋を切って落とされた。
………
……
…
アナスタシアは鉄製のドレスを身に纏った女性と思わしきサーヴァントと交戦していた。
サーヴァントが手や杖を振るう度に血のような魔力が襲いかかってくるが、アナスタシアはその尽くを大鎌や槍に変化させたナイトメアで防ぐ。
『クラス・アサシン、真名を『カーミラ』。またの名を『エリザベート・バートリー』。『血の伯爵夫人』と呼ばれ、ハンガリーにて多くの少女を拷問の上に殺害、その血を浴びた吸血鬼伝説のモデルとなった女性』
「少女の生き血を浴びて永遠の若さを求めた哀れな女性ね」
オルガマリーの言葉を聞いたアナスタシアはカーミラの攻撃を尽く防ぎながらそうつぶやく。
それに対してカーミラは不敵な笑みを浮かべた。
「……あなたのその白い肌、とても素敵だわ。その身体に流れる血はさぞ美しい赤なのでしょうね」
「残念だけど、私の血はもう真っ黒なの。だから浴びたらその美しい肌が醜く焼け爛れてしまうわ。────ああでも、今のあなたにはさぞお似合いでしょう。だってあなたはサーヴァントはおろか、人としての道も踏み外しているのだから」
「────言わせておけば!」
アナスタシアの言葉が琴線に触れたのか、カーミラの攻撃が激しくなるが、アナスタシアの前では全てが無意味に終わる。
悪夢の皇女と血の伯爵夫人の戦いはさらに苛烈を極めた。
………
……
…
カーマは現在、十字架の杖を携えた女性のサーヴァントと交戦していた。
女性が杖を振るう度に光弾が放たれるが、同じく青白い光弾で打ち消しては巨大なヴァジュラを操って反撃する。
『クラス・ライダー、真名は『聖マルタ』。かの救世主を歓待し、救世主の言葉に導かれて信仰の人となった人物。フランスに移り住んでから人々を苦しめる暴虐の竜を祈りと十字架によって動けなくし退治したことで有名よ』
「へぇ、かの救世主と親交のある人物ですか」
オルガマリーの言葉を聞いたカーマはそうつぶやくが、マルタは何も言おうとせずにカーマに向かって杖を振るってくる。カーマはその杖をヴァジュラで受け止めると、ニヤニヤと笑いながら口を開いた。
「哀れですねぇ。人々を救うはずの聖女が魔女の手先として救うべきはずの人々を殺し回る。このことを知ったらかの救世主も嘆き悲しむんじゃないですかぁ?」
「あのお方を侮辱するなぁ!!」
カーマの挑発にキレたマルタが杖を振るいカーマを吹き飛ばすが、カーマは空中で一回転し軽やかに着地する。そして指をクイクイッと挑発する。
愛の女神のヴァジュラと主婦の守護聖人の杖がぶつかり合う金属音が響き渡った。
………
……
…
アルトリアはサーベルを操る騎士と斬り結んでいた。
アルトリアの黒い聖剣と騎士のサーベルがぶつかり合う度に火花が飛び散る。
『クラス・セイバー、真名はおそらく白百合の騎士『シュヴァリエ・デオン』。ルイ十五世が設立した情報機関『スクレ・ドゥ・ロワ』のスパイだけでなく軍所属の竜騎兵連隊長やロンドンでは最高特権を持つ特命全権大使等も務め、フランスの王妃とも面識があった伝説的な人物』
「男装の麗人…いや、女装の貴人か。どちらにせよ親しみを感じるな」
オルガマリーの言葉にアルトリアはそうつぶやく。そして斬り結びながらデオンに向かって口を開いた。
「しかし、かつて王妃が愛したフランスに牙を剥くとは、貴様が敬愛する王妃に対するこれ以上の裏切りは無いだろうよ」
「知ったような口を聞くな!」
アルトリアの挑発に怒ったデオンの剣撃が激しくなるが、アルトリアは涼しい表情でデオンのサーベルをいなしていく。
黒き騎士王の黒き聖剣と白百合の騎士の白銀のサーベルの斬れ味が劣えることはなかった。
………
……
…
ティアマトは漆黒の衣装を身に纏った金髪の男性のサーヴァントと交戦していた。
金髪のサーヴァントは持っていた銃槍だけでなく、自らの身体を変化させたり、無数の杭を出現させたりと多彩な攻撃を仕掛けてくるが、ティアマトは己の魔力で作り上げた光弾やレーザーで反撃する。
『そのサーヴァントのクラスは安定してないから判明してないけど、攻撃方法を見る限り真名はおそらくルーマニアの王『ヴラド三世』と思われるわ! 凄絶な貴族への粛清と敵国に課した串刺しの逸話をもち、『吸血鬼』のモデルとされた人物よ!』
「ほう、我が委細を語るか」
オルガマリーの言葉が耳に届いたのか、ヴラド三世が感心するようにつぶやく。その間も苛烈な攻撃がティアマトに襲いかかる。
「見たところ、貴様も我と同じ怪物。それがなぜ無力な人間共に与する?」
「簡単なことです。それは私が『母』だから」
自分は全ての命の『母』だ。『母』であるなら子供達を救い守るのが使命である。
「それに
ティアマトはそう言うと、魔力を右手に収束させる。そして光を放ったかと思うと、ティアマトの右手には魔剣スパーダに瓜二つの大剣が握られていた。
「────なので、あなたはここで仕留めます」
「────おもしろい。我が首を捉えてみるが良い」
そう言った瞬間、ティアマトの大剣とヴラド三世の銃槍がぶつかり合う。そして二体の怪物は再び激戦を繰り広げた。
………
……
…
四人がぶつかり合っている中、ダンテ、立香、マシュ、ジャンヌの四人は黒いジャンヌと戦闘を行なっていた。
「おぉおぉおぉお!!!」
憎悪と憤怒を形にした乱打がマシュの盾を打ち据える。
「くうぅうぅ!!」
一撃一撃が重いために、一歩ずつ後ろに後退りしてしまう。しかしこれ以上退がってしまうと立香が殺されてしまうため、マシュは力を振り絞って懸命に耐える。
すると横からダンテが魔剣ダンテを振るい、黒いジャンヌを吹き飛ばす。しかし当たる瞬間に黒い槍で防いだのか、傷が付くことはなかった。
「邪魔するなぁッ!!」
黒いジャンヌは今度はダンテに標的を定め黒い槍と黒い炎で襲いかかるが、ダンテはその全てを魔剣ダンテで受け止めていく。
「おお怖い怖い。そんなにキレてると美人が台無しだぜ?」
「黙れぇぇぇぇっ!!」
ダンテの軽口によりさらに攻撃が激しくなるが、ダンテが圧されることはなかった。
さらにここでジャンヌが明後日の方向から飛び出し、黒いジャンヌに襲いかかる。ジャンヌが襲いかかってきたことに気がついた黒いジャンヌはダンテから離れると、ジャンヌの攻撃を受け止めた。
「づぅぅうぅうぅう!!」
「あぁあぁあぁあぁ!!」
鍔迫り合う旗と旗。
白と黒。
救国の聖女と竜の魔女────
「邪魔をするな!! オマエなんてどうでもいい!!」
「マスターは、やらせない!!」
「やああああっ!!」
ジャンヌと黒いジャンヌが鍔迫り合いをしていると、マシュが黒いジャンヌを吹き飛ばそうと突撃する。
「邪魔だぁあぁあぁあ!!!」
その瞬間黒いジャンヌから紅蓮の業火が放たれ、周囲を一瞬にして焦土に変える。
「焼かれろ! 燃えろ! 塵になれッ!!」
「先輩!」
「マスター!」
立香を守らんとマシュとジャンヌが業火を受け止めるが、業火はさらに勢いを増していき、いよいよ二人にも限界が訪れる。
────しかし立香は慌てることなく口を開いた。
「────みんなを守って、『ジャンヌ・ダルク』!!」
「────お任せを、マスター!!」
その言葉と共にカルデアから呼び出されたジャンヌが立香の目の前に現れる。そして一切の穢れの無い白き旗を掲げた。
「我が旗よ、我が同胞を護りたまえ! 『
その瞬間、聖女の祈りが結界となって紅蓮の業火から三人を護る。
「今です、ダンテさん!!」
「良くやった、嬢ちゃん」
ジャンヌがダンテの方を向くと、そこには魔剣ダンテに大量の魔力を帯びらせたダンテの姿があった。
「こいつを喰らいな」
ダンテがそう言って魔剣ダンテを振り抜くと、魔力が斬撃となって黒いジャンヌに襲いかかる。
突然の護りと攻撃に虚を突かれていた黒いジャンヌは反応が遅れ、ダンテが放った魔力の斬撃が直撃し吹き飛ばされる。そして片膝をつきながらも着地すると、忌々しそうにこちらを睨んできた。
「痛い目を見ないうちにとっとと帰りな。今回は見逃してやる」
ダンテは魔剣ダンテを消すと、笑いながらそう言う。
今はまだ決戦の時ではない。立香の戦力が整った時こそが決戦の時だ。
「────そうですね、今回はここまでにしておきましょう」
そう言うと黒いジャンヌはワイバーンを呼び出し、その背中に飛び乗る。
「あなたたちの惨めな健闘に嘲笑を。よく頑張りました。あなただけのようですね、厄介なのは」
そう言うと黒いジャンヌを乗せたワイバーンは大空へと飛び去る。
「さようなら……虚仮にしてくれた礼は、必ず返してやる!!」
それだけ言い残し、黒いジャンヌの姿は消える。それと同時に四人と交戦していたサーヴァントの気配も消え去った。
こうして初めての戦闘はこちらの勝利で終わり、砦にいた人々を守ることもできたのだった。
「────素敵、素敵! なんて素敵なのでしょう! まるでおとぎ話の勇者のよう!」
「一人滅茶苦茶なやつがいるなぁ。本当に会うのかい?」
「もちろん! お話ししたいわ! 仲良くしたいわ!」
「────だって私の宝を護ってくれたのだもの!」
レッドオーブってデビルメイクライの世界だとただのお金的アイテムだけど、Fate視点で見ると簡単に悪魔を召喚できるとんでもない触媒ですよね。