命あるものは眠りにつき、命なきものが動き出す夜の時間。
立香達が静かに眠りについている中、ダンテは木を背もたれにしながら夜空を眺めていた。
「────アイツには確かに憎しみがあった」
昼間に戦った黒いジャンヌ・ダルク。
国に裏切られ、国への復讐を行う聖女。
目に映るもの全てを憎悪する復讐の塊。
確かに彼女の憎しみは本物だ。しかし同時にダンテはその憎しみに
「黒いジャンヌの憎しみは
あの黒いジャンヌの憎しみは表面上だけで、『心の底から憎い』というものが感じられない。永い時間の末、スパーダの血を憎むことが本能となってしまった悪魔と真逆とも言ってしまってもいい。
だとしたらあの黒いジャンヌの憎しみの元は何だ? 違和感の正体は何だ?
「………まあ今考えたところでどうしようもないか」
ダンテは考えるのを止めると、そのまま眠りにつこうとする。
しかし、そこへダンテに話しかけるものが一人。
「もし、偉大なる魔剣士の御子息様?」
「あん?」
声のした方を向けば、そこには昼間に出会い共に行動するようになったはぐれサーヴァントであるマリーがニコニコと笑顔を浮かべながら立っていた。
「うふふ、マリーさんです! 夜分にお姿を見かけたので、ついお声をかけてしまいました」
「マリーか。こんな夜中にどうしたんだ? トイレならここじゃないぜ」
「ああ、いえ違うの。先程までジャンヌやマスターとお話ししていたのだけど、皆眠ってしまったので。けれど、友達が増えた昂りがおさえきれなくて………それで、もしよかったらあなたのお話を聞かせてくださらない?」
どうやらダンテ達と出会えたことが嬉しくて、まだ誰かとおしゃべりしたいらしい。まるで遠足が楽しみで眠れない子供そのものだ。
ダンテは笑いながら口を開いた。
「ああ、いいぜ。何が聞きたい?」
「何がいいかしら? あなたの楽しかったことは聞きたいし、大変だったことも聞きたいし………ああ、たくさんありすぎて困っちゃうわ!」
「そうかそうか、そんなに聞きたいか。ならとっておきの話を聞かせてやろう」
「まあ! それは楽しみだわ!」
ダンテの言葉にマリーが喜ぶ。
それを見たダンテは上機嫌になり、とっておきの話(主に親父の失敗談やお袋の尻に敷かれていたこと等)を話し始める。
ダンテが一つ一つ話をする度にマリーはクスクス笑っていき、そしてついには腹を抱えて涙を浮かべながら爆笑し始めた。
「あ、あはは! ま、待って! 本当に待って! おかしすぎて死んでしまいそうだわ!」
「おいおい、こんくらいで音を上げてちゃあこの先ついてこれないぜ?」
ヒィヒィ言いながら爆笑するマリーにダンテも笑いながらそう返す。人々の間では伝説の魔剣士として褒め称えられているスパーダだが、ダンテから見ればよくお袋の尻に敷かれていたイメージしかない。まあそれは家族だからこそ知っているスパーダの姿だから、こうして話すことができるのだ。
「ウフフ、でも意外でした。魔剣士の御子息様はかの魔剣士様のことを慕っていらっしゃいますのね」
「あん?」
「だって偉大なる魔剣士様のことを話してる時、あなたはとっても素敵な表情をなさっていらしゃったから」
マリーが微笑みながらそう言ってくる。自分としては尻拭いさせられてきた仕返しにスパーダの恥ずかしい話を暴露していたのだが、どうやらマリーにはダンテがスパーダのことを慕っているように見えたらしい。
まあでも、それは当たらずとも遠からずだ。
「………まあな。親父はあんなんだったが、俺は誇りに思ってるし今でも尊敬している。周りは俺のことを『スパーダを超えた』とか言ってるが、俺としては親父を超えることなんざできねえと思ってる」
力はスパーダを超えているだろう。しかしスパーダが成した偉業は超えることができない。だからダンテは今でもスパーダのことを誇りに思っているし、尊敬もしている。バージルも口には出していないが、同じことを思っているだろう。
「じゃあ、今度はあなたのお話を聞かせてくださらない?」
「俺のか?」
「ええ。だって偉大なる魔剣士様のことは知ることができたけど、まだ魔剣士の御子息様のことは何も知らないのだもの」
「………仕方ねえな。なら俺のことも話してやるよ。それと俺のことはダンテと呼んで構わん。魔剣士の御子息様なんて大層な呼び方は性に合わんからな」
そうしてダンテは今までのことを語り出す。
ごく普通の家族として幸せな生活を送っていたこと。
ムンドゥスが復活し、母親を殺されバージルと生き別れたこと。
復活したムンドゥスを倒し、母の仇を取ったこと。
依頼のために訪れた街で甥と出会ったこと。
そして生き別れたはずのバージルと再会し、何度も兄弟喧嘩という名の殺し合いをしてきたこと。
「────そんなわけで、今もじゃじゃ馬娘二人と一緒に便利屋をやってるのさ」
そう言って自分のことを語り終えるダンテ。その間珍しくマリーは一切口を挟まずに静かにダンテの話を聞いていた。
「……素敵」
「あん?」
「とっても素敵。だってあなたの人生はすごく刺激的だもの。かつての私のような決められたレールの上を歩いているわけではないのだから」
そう言ったマリーの表情は何処か儚げであった。おそらく生前の自分の人生を思い出しているのだろう。それに関してダンテは口を挟むことはない。
「ねえ、ダンテ? 私も彼女達のようにあなたの元に行くことができるかしら?」
「どうして俺の元に来たいんだ?」
「あなたの話を聞いていて、あなたのすぐそばであなたが紡ぐ伝説を見届けたいの。………駄目かしら?」
「そいつはなんとも言えねえな」
マリーの言葉にダンテは肩を竦めながらそう返す。
「俺の元に来るか来ないかを決めるのはお前の意志次第だ」
「私の意志次第……」
「ああ。もし俺の元に来たいんだったら、自分の運命を跳ね除けてでもお前の方から来るんだな。そうしたら喜んで迎え入れるぜ」
ダンテがそう言うとマリーがポカンとした表情になる。そして笑顔を浮かべて口を開いた。
「────ええ! ありがとう! あなたの呼び声が聞こえたら何が何でもあなたの元に行くわ!」
そう言った次の瞬間、ダンテの頬に何か柔らかいものが触れる。
それがマリーの唇だと理解するのに、ほんの少しだけ時間を要してしまった。
「─── あ、ごめんなさいダンテ! 私、つい癖でベーゼしてしまうの。無礼でした、ごめんなさい」
「……こいつはたまげた。まさかお嬢ちゃんからの不意打ちを受けるなんてな」
「お嫌でしたか………?」
「まさか。俺はか弱いレディからヤバイ女まで大歓迎だ」
そう言いながらわしゃわしゃとマリーの頭を撫でるダンテ。
女運にはなかなか恵まれないが、こういうもなかなか悪くない。まああの二人がこのことを知ったら悪魔も泣き出すほど怒り狂うだろうが。
夜はさらに深け、このまま穏やかに朝を迎えると思われていたが────
「「!」」
ダンテとマリーは同時に気配を感じ取る。
敵、おそらく昼間戦った敵サーヴァントの一体だろう。どうやら皆が寝静まった夜を狙ってきたらしい。
「私、皆を起こしてきますわね!」
「ああ、頼む」
走って皆を起こしに行くマリー。
その後ろ姿を見送ったダンテは立ち上がり、敵サーヴァントの気配がする方へと歩き出したのだった。