Fate/Grand Devil   作:ユリゼン

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#14 狂気の守護聖人

 「────こんばんは皆様、寂しい夜ね」

 

 長い紫髪、引き締まった肢体を露にする神聖な雰囲気を湛えた女性サーヴァントが目の前に相対する。

 先ほど戦ったライダーのサーヴァント、聖女マルタである。

 

 「──── 参ったな。囲まれてるぞ。くそっ、嫌だなぁ。害するために発せられる音って言うのは……甲高いトランペットみたいだ」

 「わかるのですか? アマデウスさん?」

 

 アマデウスの言葉にマシュが聞く。

 彼の言う通り、ダンテ達を囲むようにして無数の死霊やワイバーンがあちこちにいる。

 

 「そりゃあ解るさ。僕は音楽一本で英雄になった男だぜ? 空気の波を読むなんて字面を読むが如しさ。マシュにリッカ、ジャンヌの寝息に生体音、寝返りの音や胸が衣服を擦る音、下着が股ぐらに食い込む音まで完全に僕の記憶野に蓄音済みさ!」

 「「「なっ──!?」」」

 

 アマデウスの発言に顔を真っ赤にさせる立香、マシュ、ジャンヌ。ダ・ヴィンチといい、偉大な人物は変態しかいないのだろうか?

 

 「無礼者、私の身体は髪の毛一本までダンテのものです。今すぐ私の情報をそのお粗末な頭から消しなさい」

 「ダンテ、この変態音楽家の頭を撃ち抜いていいですか? 大丈夫、すぐに終わらせますから」

 

 一方のアナスタシアとカーマはアマデウスに対して殺意満々である。所々変な言葉が聞こえたような気がしたが、この際気にしないことにする。

 

 「皆さんごめんなさい。監督役の私が謝ります。でも我慢して? 彼から音楽をとったら変態性しか残らないのだもの!」

 

 マリーが一応代わりに謝罪するが、正直フォローになっていない。まあフォローできないことをやらかしているので、アマデウスを擁護するつもりはない。

 

 「もちろんスパーダの息子とマリアが真夜中の密会で仲睦まじく話してるのもバッチリ聴いてるぜ? 本当ならあらん限りの下ネタ罵倒を叩きつけてやるところだが、残念なことにスパーダの息子はマジで『汚い』音が聴こえないんだ」

 「当たり前よ。ダンテはとっても紳士な方だもの!」

 

 アマデウスの言葉にマリーがそう反論する。

 その気持ちは嬉しいのだが、今ここでそんなことを言ってしまうと────

 

 「ねえ、そのお話を後で詳しく聞かせてくださらないかしら?」

 「お礼はもちろん私達の愛をたっぷりあげますよ?」

 

 ────アナスタシアとカーマがニッコリと笑みを浮かべながらアマデウスに詰め寄る。どうやらダンテが自分達に何も言わずにマリーと二人っきりだったことに激怒しているようだ。

 

 「君達二人に話したいところだけど、さすがの僕でも今だけは口を閉ざすこととしよう」

 

 幸いアマデウスは二人がマジギレしていることに身の危険を感じたらしく、ダンテとマリーの会話を話すことはしなかった。

 まあ後で無理矢理に聞き出されるのだろうが。

 

 「……よい仲間達ね。私達とは大違い」

 

 ダンテ達のやりとりを見て清らかに笑うマルタ。とてもあの不良娘の手下とは思えない。

 

 「あの不良娘がマスターじゃ、お前達の仲がギスギスするのも頷けるな」

 「ええ、本当にそう」

 

 ダンテの言葉にやはり清らかに笑いながらそう返してくるマルタ。

 すると険しい表情を浮かべていたジャンヌがマルタに問う。

 

 「……何者ですか、あなたは?」

 「何者……? そうね、私は何者なのかしら? あのお方の言葉を聞いて聖女たらんと己を戒めていたのに、こちらの世界では壊れた聖女の使いっ走りなんて」

 「壊れた聖女……」

 「ええ、彼女のせいで理性が消し飛んで凶暴化しているのよ。今も衝動を抑えるのに割と必死だし」

 

 どうやら黒いジャンヌは召喚したサーヴァントを凶暴化させているらしい。それでもこうして自我を保っている辺り、マルタの精神は相当強靭なものだ。

 

 「だから罪無き人々を殺すのは仕方がなかった、そう言いたいのかしら?」

 「……返す言葉もないわね。無実でありながら野卑な兵士に惨殺された皇女様」

 

 アナスタシアの剣呑な言葉にマルタは申し訳なさそうにそう返す。

 理由はどうあれ、彼女達は罪無き人々を殺した。その事実が消えることはない。

 

 「ならどうしてここに出てきた? 懺悔でもしに来たのか?」

 「まさか。懺悔をしに来たわけでも、命乞いをしに来たわけでもない。ましてや『仲間にしてください』なんて口が裂けても言えないわ。いつ後ろから刺されるかわからない危ないサーヴァントと一緒にいたって、気が休まらないでしょう?」

 「なら、どうして………?」

 「……本当はあなた達の監視が役割だったのだけれど、最後に残った理性が『人類最後のマスターを試すべきだ』と囁いている。だから私はその理性に従って、あなた達に試練を与える」

 

 そう言ったマルタは先ほどとは打って変わって真剣な表情になる。それと同時に抑えていたであろう魔力を解放した。

 

 「あなた達の前に立ちはだかるは“竜の魔女”。()()()()()に騎乗する、災厄の結晶。私ごときを乗り越えられなければ、彼女に刃が届くことはない」

 『邪悪な竜? ────まさか、嘘でしょう?』

 

 マルタの言葉にオルガマリーが何かに気がついたのか、声を震わせながらそうつぶやく。

 

 『いえ───有り得ないわ、()()()()()()()()()()なんて……』

 「………なるほど、『ファヴニール』ですね」

 

 オルガマリーの言葉を聞いて、いつの間にか戻ってきていたティアマトがそうつぶやく。どうやらその究極の悪竜とやらのことを知っているらしい。

 

 「知っているのか?」

 「ええ。悪竜や邪竜の代名詞。財宝を護り、災厄を振り撒くもの。それがファヴニール」

 

 ダンテの言葉にティアマトがそう返す。どうやら黒いジャンヌはそのファヴニールとやらを従えているらしい。

 

 「私を倒しなさい。躊躇いなく、正義の刃を私の胸に突き立てなさい」

 

 そしてマルタは十字架の杖を掲げて口を開いた。

 

 「我が真名はマルタ! さあ出番よ、大鉄甲竜タラスク!」

 

 そう言い放った瞬間、地響きと共に地面から巨大な竜が姿を現す。

 巨大な甲羅、太い六本足、強靭な牙と爪、それらを兼ね備えた姿は対峙するものを圧倒させる。現に初めて対峙する立香とマシュは身体を震わせていた。

 

 

 ────しかし、ダンテは違う。むしろ獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 

 「ドラゴンか。今まで悪魔どもは腐るほど殺してきたが、ドラゴンとやり合ったことはなかったな」

 「まあ現代に悪魔を除けば幻想種なんて存在しないしね」

 

 ダンテの言葉にアナスタシアも特に恐れることなくそう返す。

 そして立香とマシュの方を向いて言った。

 

 「安心なさい。あなた達には皆がついています。なのであなた達は彼女が施した試練に全力で応えなさい」

 「は、はい!」

 「わかりました!」

 

 アナスタシアの言葉に立香とマシュが気を引き締めてそう返す。

 

 「ならリツカとマシュはジャンヌと共にマルタの相手だ。ティアマトとアルトリアはマリーとアマデウスと共に雑魚どもの一掃、俺とアナスタシアとカーマでドラゴン退治だ」

 

 ダンテの指示に皆が頷く。

 

 

 こうして狂気に蝕まれた聖女との戦闘が幕を開けた。

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