#6 散策
『グランドオーダー』が発令されてから、カルデアは慌ただしくなっていた。それもそのはず、人理修復のために七つの特異点を特定するため、スタッフ一同が動き回っているからだ。
そしてその最初に向かう特異点が特定されるまで、ダンテ達は割り当てられた自室で待機していた。
立香は一人用の部屋だが、ダンテはアナスタシア とカーマと同部屋だったのに加え、ダンテの召喚に応じたアルトリア・オルタ、パッションリップ、巴御前、さらには向こうから勝手にやって来たティアマトが『一緒の部屋じゃなきゃ嫌だ』と駄々をこねたので、仕方なく大人数でも過ごせる大部屋で生活することとなった。
そんなわけだからダンテの生活する部屋は賑やかなもので────
「おいマスター、腹が減ったぞ。何か食べ物を献上しろ」
「あの、マスター……少し肩を揉んでもらってもいいですか……? ちょっと肩が凝っちゃって………」
「この『すまほげぇむ』というのは興味深いですね! このような小さなものでここまで奥深いものができるとは驚きです!」
────見事なまでに寛ぎまくっては何かとダンテに構われようとしていた。
しかしダンテは現在召喚に応じた三人ではなく、ティアマトと話していた。
「………そうですか。スパーダは最期の時まで人間の味方をしていたのですね」
ティアマトが憂いを帯びた表情でそうつぶやく。彼女はダンテの前に現れるまでずっと『虚数世界』という何もない場所にいたらしく、スパーダがたまたま訪れて以降ずっと彼のことを気にしていたらしい。
「まあな。つっても親父はとんでもない置き土産を残してくれてな、おかげで何度も尻拭いをさせられたもんだ」
ダンテはため息混じりにティアマトにそう言う。
実際スパーダが遺したものによってダンテはバージルと殺し合いじみた兄弟喧嘩をしたり、変な宗教団体から狙われたり、かつてスパーダの知り合いだったという悪魔から決闘を申し込まれたりと、散々な目に遭ってきた。
そしてそれらが落ち着いてようやくのんびり過ごせると思ったらコレである。
ダンテの話を聞いたティアマトはクスクス笑いながら口を開く。
「ふふ、スパーダはこちらでも変わらなかったようですね」
「まあな。でも今でも誇りに思うし、尊敬もしている」
ティアマトの言葉にダンテはそう返す。実際スパーダのことを今でも誇りに思っているし、尊敬もしている。周囲からは『スパーダを超えた』と言われるが、ダンテからしたらスパーダが成した偉業を超えることなどできないと思っている。
「スパーダも幸せものですね。こうして今でも息子に誇りに思われているのですから」
ティアマトの言葉にダンテは肩を竦める。こうして面と向かわれてそう言われると小っ恥ずかしいものがある。
ダンテはそれを悟られないように立ち上がると、そのまま出入口の方へと向かう。
するとティアマトが聞いてきた。
「ダンテ、何処か行くのですか?」
「ああ、っとっくら散歩でもしようと思ってな」
「でしたらわたしもついていってよろしいですか?」
「構わんぜ。じゃあ少し出てくる」
「ええ、気をつけていってください」
ダンテの言葉に幼い少女の姿のカーマがそう返してくる。
その言葉を聞いたダンテはティアマトと共に自室を出て、カルデア内の探索に出た。
………
……
…
カルデア内の探索に出たダンテとティアマトだが、先の爆破事件により大多数の職員やマスター候補が死亡、もしくは意識不明の重体による冷凍保存により、館内はガランとし静寂に包まれていた。
また爆破事件の影響なのか、ダンテ達が潜入した時よりも薄暗く感じる。もしかしたら電力を供給する場所もやられたかもしれない。
そんなわけで散歩がてら適当な区画に入るダンテ。するとそこにはオルガマリーとダヴィンチ、その他数名のスタッフがいた。
「よお、こんなところで何してるんだ?」
ダンテがそう声をかけると、オルガマリーとダヴィンチが振り向いた。
「やあダンテ、こんなとことまでどうしたんだい?」
「暇だったからな、ちょっとした散歩さ。ところで何やってるんだ?」
ダヴィンチの言葉に笑いながら返したダンテはそう聞く。するとオルガマリーが難しい顔をしながら口を開いた。
「実はレフの爆破によって発電システムにまで影響が出てて、電力が十分に供給されないの。どうにか解決したいんだけど、全然安定しなくて………」
そう言ったオルガマリーの視線の先には、一心不乱にコンピューターを弄るスタッフの姿が。
その光景を見ていたダンテはふと口を開く。
「………要は電力さえあればいいんだな?」
「え? え、ええ、莫大な電力が外部から供給されれば、電力の問題は解決できるんだけど……」
「そうか。なら善は急げだ」
オルガマリーの言葉を聞いたダンテはそう言うと、自分の中に眠る魔具の一つを呼び起こす。
するとダンテの身体から魔力の球が一つ現れ、次の瞬間三つの首を持つ巨大な狼型の悪魔が現れた。
この悪魔の名は『キングケルベロス』。かつて魔界の大樹『クリフォト』でダンテと戦い敗れ、魔具となった悪魔である。
『ほう、我をこの姿で呼び出すとは珍しいな、我が主人よ』
キングケルベロスが無機質な声でそう言う。
そんなキングケルベロスにダンテは笑いながら言った。
「今回はそっちの姿での力が必要だからな」
『我の力が必要か。して、何をすればよいのだ?』
「ちょいとお前の雷の力を分けて欲しいんだよ。ここの電力を安定させるためにな」
ダンテがそう言うと、キングケルベロスがオルガマリー達の方を見る。オルガマリーとスタッフはおろか、ダヴィンチでさえも神秘中の神秘である悪魔、それも人語を解する上位級の悪魔を見て言葉を失っていた。
しかしキングケルベロスは気にすることなく口を開く。
『………ふむ、話は理解した。人理が焼却されてしまった今、ここが最後の砦であると。我は人間供がどうなろうが知ったことではないが、主人が力を貸すというのなら我もそれに従おう』
キングケルベロスはそう言うと、のっしのっしと歩いて発電システムに近づく。そして片前足を発電システムに触れると、紫色の雷が弾ける。
そして次の瞬間、発電システムがゴウンゴウンと駆動音を鳴らしながら動き出した。
『これでここの電力は安定するはずだ。ついでに我が魔力も注いでおいた。到底消えることはあるまい』
「……まさか我々が頭を悩ませていた問題を文字通り指先一つで解決してしまうなんてね。さすがは神秘中の神秘だ」
キングケルベロスの言葉を聞いてダヴィンチが苦笑いしながらそう言う。オルガマリーに至っては呆然としていた。
『問題が解決したのであれば我は戻る。また何かあったら我を呼ぶといい』
キングケルベロスはそれだけ言い残すと、魔力の球となってダンテの中に戻る。
魔力の球が消えると、ダンテはオルガマリー達に聞いた。
「これで問題はないな?」
「ああ、君のおかげだ。感謝するよ」
「そうか。なら俺達は散歩に戻るとするぜ」
ダンテはそう言ってティアマトと共にその場から離れ、カルデア内の散策に戻った。