ティアマトと共に適当にカルデアを散策し始めたダンテ。
現在二人は適当な通路を歩いていた。
「なるほど、現世の建物というのはこういう風になっているのですね」
ダンテの隣を歩くティアマトはキョロキョロと周囲を見回しながら興味深そうにそうつぶやく。今の今まで何もない世界にいた彼女にとって、この世界にあるもの全てが新鮮なものである。
大人の女性のような姿をしているのに反応そのものは子供なので、ダンテは微笑ましく思う。
「? どうかしましたか、ダンテ?」
「なんでもねえよ」
首を傾げながらこちらを見てくるティアマトにダンテはそう返す。
すると何処からか何やら良い香りが漂ってくる。
「これは………誰かが料理してるな」
「料理……人間達が生きていく上で必要な栄養分の補給行為ですね?」
「まあそうなんだが、どっちかっていうと生きていく中での楽しみの一つだな」
ティアマトの言葉にダンテはそう返す。しかしイマイチピンとこないのか、ティアマトは難しそうな顔をしていた。これなら教えるよりも実際に体験させた方がいいだろう。
ダンテはティアマトを連れて良い香りが漂ってくる方へと歩き出す。そして辿り着いたのはカルデアの『食堂』だった。
「む、君は確かスパーダの息子のダンテだったか」
「そういうお前はエミヤだったか?」
ダンテが良い香りの発生源である厨房を覗けば、そこには立香が召喚した弓兵のサーヴァント『エミヤ』がいた。どうやら良い香りの根元はエミヤが料理していたかららしい。
「お前が料理するなんて意外だな」
「なに、サーヴァントが料理しても何もおかしくはないだろう。元を正せば人間なのだからな」
「それもそうか」
エミヤの言葉にダンテはあっさり納得する。現にダンテのところにいるアナスタシアは元サーヴァントであるがスマホで写真を撮るにが好きだし、現サーヴァントであるカーマも甘いスイーツなどを嬉しそうに食べていたりする。それを考えればエミヤが食堂で料理していたところで何もおかしいところはない。
「ところで、君達は何をしているんだ?」
「ああ、散歩がてらカルデアを歩き回っていたら良い匂いがしてな。ちょっとここに寄ってみただけだ」
「なるほど。現在カルデアは人が少ないからな、たとえサーヴァントであろうとできることはせねば。幸い私は料理ができる。なので司令官殿やダヴィンチ女史に許可を貰って食堂を管理させてもらうことにしたのだ」
ダンテの言葉にエミヤがそう返してくる。確かに料理ができる人物がいればカルデアの食事事情も良くなるというものだ。
「お前に一つ頼みたいことがあるがいいか?」
「何かな?」
「ティアマトが食事をしたことがないっていうからな。何か食べ物を作ってやってくれねえか?」
「それはいかんな。人生の大半を損していると言っても過言ではない。少し待っていてくれ」
そう言って厨房へと引っ込むエミヤ。
ダンテとティアマトが適当な席に座ってしばらく待っていると、エミヤがおぼんを持ってダンテとティアマトの元に来た。
「ありきたりなものだが、どうぞ」
そう言ってティアマトの前に置かれたおぼんに乗っていたのは白いご飯に味噌汁、ほうれん草の卵とじというThe・和食といったメニューである。
しかし初めて見る食事にティアマトは興味津々らしく、目を輝かせて自分の前に置かれたものを見ていた。
「遠慮なく食べたまえ」
エミヤがそう言うと、ティアマトはおぼんに添えられている箸を手に取る。そして白いご飯をひとつまみして、その口の中に入れた。
「────ッ!」
その瞬間、ティアマトは驚きのあまり目を見開く。
初めての味覚。
初めての食感。
初めての至福感。
なるほど、これが『食事』というものか。
なんて、なんて素晴らしいものだろう!
「すごく、すごく美味しいです!」
「それはよかった。作った甲斐があったというものだ」
ティアマトの言葉にエミヤがフッと笑ってそう返す。その間もティアマトは食事を続ける。
終始無言で食べ続けるティアマトを、ダンテとエミヤは微笑ましく眺めるのだった。
………
……
…
「~~~♪」
食堂で初めての食事をしたティアマトは至福感に満たされたらしく、御機嫌な様子でダンテの隣を歩いていた。あまりの御機嫌さに鼻唄まで歌っているほどである。
そんなわけでダンテとティアマトは再び散歩に戻る。
しばらく歩いていると、何処からか金属同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「? 何の音でしょうか?」
「これは……誰かが戦ってる音だな」
ティアマトの言葉にダンテはそう返す。そしてその金属同士がぶつかり合う音が聞こえてくる部屋に入った。
するとそこは青空と草原という、何処からどう見ても施設内とは思えない風景が広がっていた。
そしてその中央では立香が召喚したサーヴァントであるカルナとヘラクレスがそれぞれ槍と大剣で戦っていた。
「む、お前はスパーダの息子のダンテか」
するとダンテとティアマトが入ってきたことに気がついたのか、ヘラクレスとの戦闘を中断したカルナが近づいてきて声をかけてくる。
「おっと、インドの大英雄サマにギリシャの大英雄サマか。声をかけてくれるとはありがたいものだ」
「何を言う。人類のためにたった一人で魔界と戦ったかの魔剣士に比べたら、俺達など足元にも及ばん。それは再び魔帝を封印したお前に対しても同じだ」
ダンテの軽口にカルナが表情一つ変えずにそう返してくる。
しかしスパーダはともかくダンテとしては母の仇討ち兼気に入らなかったからムンドゥスの野郎をぶちのめしただけであり、そこまで言われるようなことはしていない。
ダンテは話題を変えるようにカルナに聞いた。
「ところでお前達はここで何してるんだ?」
「ああ、せっかくギリシャの大英雄と相見えることができたのでな、一つ手合わせをしていたところだ」
カルナの言葉に反応するかのようにヘラクレスがグッとサムズアップする。どうもこのバーサーカーは少し人間臭いところがある。まあそこが良いのだが。
「そうか。まああんまやりすぎるなよ? リツカが心配するからな」
「善処しよう」
カルナの言葉を聞いたダンテが立ち去ろうとしたとき、不意にカルナに呼び止められる。
「そうだ。是非ともお前とも手合わせを願いたいのだが、如何だろうか?」
「生憎だが今はティアマトと散歩中でな。またの機会にしてくれ」
カルナの言葉にダンテはそう返す。
ダンテとしてもぜひとも神代の大英雄と戦ってみたいところだが、今はティアマトと散歩中なので、そちらをほっぽるわけにもいかない。
「そうか。呼び止めてすまなかったな」
「気にすんなよ。じゃあな」
そう言ってダンテはティアマトと共にその場から立ち去る。すると再び金属同士がぶつかり合う音が響き出した。
「ふふっ」
「どうかしたか?」
すると不意にティアマトが笑ったので、気になったダンテはティアマトに聞く。
「いえ、大したことではありません。子供達の成長が嬉しく思えて、つい」
どうやらカルナとヘラクレスが手合わせしていることを嬉しく思えたらしい。
その姿はまさに子の成長を喜ぶ母そのものだ。いや、ティアマトにとっては全てが自分の子供なのだろう。
「………」
ふと、ダンテは母のことを思い出す。
世界を救ったとはいえ悪魔であるスパーダと結ばれた人間の女性。
女手一つでダンテとバージルを育ててくれた母。
その最期はあまりにも呆気ないものであった。
だからこそ、自分はデビルハンターとなり、母親の仇討ちのためだけに生きてきた。
(だが、今は守らなきゃなんねえからな)
雛鳥のようについて来る小娘二人に慕ってくる甥っ子、そして仏頂面でありながらなんだかんだ心配してくる双子の兄貴。
今の自分には守らなければならないもの達がいる。そのためならば、敵が何であろうとぶちのめすのみだ。
「どうかしましましたか、ダンテ?」
不意にティアマトが心配そうに聞いてくる。それにより意識が現実に戻ったダンテは笑いながら言った。
「なんでもねえよ。それより散歩の続きと行こうぜ」
「はい」
ダンテの言葉にティアマトが頷く。
そして二人はカルデアの散策を再開した。