Fate/Grand Devil   作:ユリゼン

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#8 散策 その3

 食堂で小腹を満たし、神代の英雄二人の手合わせを見学したダンテとティアマトは、再びカルデア内の探索に戻る。

 

 「半人半神の英雄様か。大昔には本当に神様がいたんだな」

 「そうですね。まあ当時は神と人が同時に存在することが当たり前の時代でしたから」

 

 ダンテの言葉にティアマトがそう返す。悪魔は少なくとも2000年前よりも存在しているのは確かなので、そこにさらに神と呼ばれる存在がいたとなると、どれだけ混沌とした世界になっているのだろうか?

 

 「そう考えるとサーヴァントとはいえ、あいつらと一度本気で戦り合ってみてえな」

 「む、いけませんよダンテ。手合わせとはいえあなたが怪我してしまったらスパーダに合わせる顔がありません」

 

 ダンテのつぶやきにティアマトがムッとした表情でそう返してくる。どうもこいつはダンテに対して過保護気味である。まあ恩人の息子だからというのもあるだろうが、それにしては少しやり過ぎだと思う。まあダンテの気のせいかもしれないが。

 

 「そんな簡単に怪我なんてしねえよ」

 「わからないじゃないですか。相手は人間でありながら神の力を持っているのです。悪魔であるあなたの天敵なのですよ」

 「そんなベタな弱点なんかねえよ」

 

 なぜ悪魔だからといって神の力が弱点になるのだ? むしろそれなら攻撃を喰らったらどうなるのか知りたいものだ。まあこんなことを言ったらティアマトが烈火の如く怒るか、衝撃のあまり失神するかのどちらかなので、お口にチャックするのだが。

 

 「あら、お二人ともどうかされましたか?」

 

 すると不意に声をかけられる。声のした方を向くと、そこには立香が召喚したサーヴァント『ジャンヌ・ダルク』が立っていた。

 

 「おっと、救国の聖女様に声をかけられるとは光栄だな」

 「私はただ主の声に従って戦っただけです。それに比べたら人々の声を聞き、自らの意志で立ち上がった魔剣士スパーダの方が偉大ですよ」

 

 ダンテの言葉に笑みを浮かべながらそう返してくるジャンヌ。聖職者なのに悪魔を褒め称えていいのだろうか?

 

 「ところでお二人はここで何をなさっているのですか?」

 「なに、暇だったから散歩しているのさ。ジャンヌこそ何やってるんだ?」

 「私も暇を持て余していたので少し散歩をしていたところです。………ああ、そういえば」

 

 そう言ったジャンヌが急に真剣な表情になって話題を変えてきた。

 

 「先ほどスタッフの方が言っていましたけど、第一特異点がもう少しで特定できるそうですよ」

 「そうなるともうすぐでレイシフトするわけか」

 「そうなりますね。マスターの方はマシュさん以外は状況に応じて私達を呼び寄せるということになってますが、ダンテさんの方はどうされますか?」

 「特には考えてねえな。アナスタシアとカーマはついてくるだろうから、あと一人くらいを連れてく感じか」

 

 向こうで戦闘になった場合ダンテに合わせられるのはアナスタシアとカーマの二人のみなので、二人を外すという選択肢はない。というか何してでも二人はダンテのそばを離れないだろう。

 あとはダンテが召喚したサーヴァントから一人連れていくといった具合か。

 

 「ダンテ」

 

 そこで不意にティアマトが口を開いた。

 

 「『レイシフトするな』とかは言うなよ?」

 「むしろ逆です。レイシフトするならわたしもついていきます」

 

 その予想外の言葉にダンテだけでなくジャンヌまでもが驚愕する。

 しかしティアマトは二人を気にすることなく続ける。

 

 「あなたが人理を取り戻すために戦いに行くのは理解しています。なので『戦いに行くな』とは言いません。ならばわたしもついていき、ダンテのために戦います」

 「駄目だ………と言っても聞かねえよな」

 

 ティアマトの言葉にダンテはため息混じりにつぶやく。

 

 「わかった。その代わり危ねえと思ったら無理矢理にでも下がらせるからな」

 「ありがとうございます。絶対にあなたを傷つけさせませんから」

 

 ダンテの言葉にティアマトが決意の篭った口調でそう言ってくる。

 ティアマトがここまで強情になるのは、おそらくスパーダに対して何も恩を返せなかったから、せめて息子であるダンテを守ろうという想いから来ているのだろう。

 もちろんダンテもティアマトを傷つけさせるようなことはしない。

 

 「仲がよろしいのですね」

 

 ジャンヌがフフッと笑いながらそう言ってくる。それに対しダンテは肩を竦めるだけだった。

 

 「さて、じゃあそろそろ戻るとするか」

 「では、私そろそろ戻ります。いつでも戦いに行けるように準備しなければいけませんので」

 

 そう言ってジャンヌは駆け足で立ち去る。その後ろ姿を見送ったダンテとティアマトも自室へと戻っていった。

 

 

………

……

 

 

 カルデアの探索を終えたダンテとティアマトはアナスタシア達と合流すると、食堂で食事を取る。そしてダンテ以外はそのまま浴場へと向かい、ダンテは一人自室でのんびりと過ごす。あいつらと風呂なんかに入ったらアナスタシアとカーマ、あとティアマトに襲われかねない。

 

 そしてアナスタシア達が戻ってきたところで、ようやくダンテは一人で浴場へと向かった。

 

 着ていた衣服を脱ぎ捨てロッカーに放り込むと、戸を開けて浴場へ入る。そして湯船に身体を沈めた。

 

 「こうして風呂に入るのは日本以来だったか………」

 

 基本的にダンテはバスタブでシャワーを浴びるのみであり、お湯に浸かるというのは仕事で日本に行った時ぐらいである。

 それにしてもこの湯船に浸かるという行為、なかなかに良いものだ。こんなものまで無かったことにしてしまうとは、人理焼却というものは到底許せるものではない。

 

 ダンテが湯船に浸かっていると、不意にガラガラッと戸が開く音が聞こえてくる。どうやら誰かが入ってきたようだ。おそらく男性スタッフ辺りが来たのだろう。

 

 そう思いながら振り向くとそこには予想外も予想外、なんと人類最後のマスターである藤丸立香がいた。

 

 「………あん?」

 「………わあああああっ!?」

 

 一瞬の沈黙と共にお互いに硬直。

 ダンテはまさか立香が入ってくるとは思っておらず、立香の方はまさかダンテが入っているとは思ってもいなかったので、どちらも無防備な状態でいた。

 そしてその予想を裏切られたことによりダンテは呆け、立香は顔を真っ赤にして悲鳴を上げる。

 

 「ダ、ダ、ダンテさん?!」

 「なんだ、リツカか」

 

 タオルで前をなんとか隠しながら慌てふためく立香に対し、ダンテはただそうつぶやくのみ。

 なぜダンテが年下の少女の裸を見ても動じないのか? それはカルデアに来る前からダンテがシャワーを浴びている時にアナスタシアとカーマが毎回素っ裸で突撃してくるから耐性ができてしまったのである。それを除いてもダンテは確かに女性は大歓迎だが、自分から襲いかかるようなゲスな真似はしない。

 

 よってダンテが立香に興奮することは微塵たりともあり得ない。

 

 「そんなところにいたら風邪引くだろ。早く風呂に入ったらどうだ?」

 「え、あ、はい!」

 

 ダンテの言葉に立香がハッとし、恐る恐るダンテの隣に浸かる。

 

 「「……………」」

 

 しばらく二人の間に無言の時間が流れるが、先に口を開いたのは立香だった。

 

 「あ、あの、マシュやオルガマリーさんから聞いたのですけど、ダンテさんって人と悪魔の子供なんですか?」

 「ああ、そうだ。親父が悪魔でお袋が人間だ」

 

 立香の質問にダンテはそう返す。すると立香が呆けたような表情で言った。

 

 「なんか意外です。悪魔と人間の子供だから角とか尻尾とか生えてるのかと思ってました」

 「お前のイメージはマンガとかアニメとかが混ざってるな。今どきそんな悪魔なんて少ない方だぞ。中には人間そっくりな悪魔なんかもいるからな」

 「あはは、そうなんですか………」

 

 ダンテの衝撃発言に立香は苦笑いすることしかできない。まあ魔剣士の息子がそう言っているのだから、実際そうなのである。

 

 「「……………」」

 

 再び二人の間に沈黙が流れるが、今度はダンテが先に口を開いた。

 

 「リツカ、緊張してるな?」

 「………やっぱりわかっちゃいますか?」

 「まあな」

 

 立香の言葉にダンテはそう返す。

 何せずっとそわそわしているし、表情も何処か固いのだ。誰がどう見てもすぐにわかるだろう。

 

 「………正直怖いんです。冬木の時はマシュやオルガマリーさん、クー・フーリンさんが力を貸してくれたからどうにかでぃたけど、七つの特異点全部が上手くいくかわからなくて………もし失敗しちゃったらどうしようって………」

 

 膝を抱え今にも泣きそうな声でそう言う立香。

 

 立香はダンテと違ってただの人間の少女だ。『世界を救う』なんて大義名分を一人で抱えるには荷が重すぎる。そのことはオルガマリー達もわかっているだろう。

 しかし立香はカルデア唯一のマスターであり、世界に残された最後の希望である。なので人理を元に戻すためには立香がやらなければならないのだ。

 

 

 

 

 ────とはいえ、ここぐらいでは弱音を吐くことも許されなければやってられないのも事実である。

 

 ダンテはポンと立香の頭に手を置く。そして口を開いた。

 

 「リツカに一つアドバイスだ。お前は『生き延びる』ことだけを考えろ」

 「生き延びることですか………?」

 「ああ。それだけ考えてれば大抵のことはどうにかなっちまう。生き延びることに慣れてきたら力を付ければいい。そうすればさらに生き延びることができるようになるからな」

 

 これは幼い頃から独りで生き続けてきたダンテの経験則だ。

 適当かもしれないが、『何がなんでも生き延びる』という想いを捨てなければ後のことはどうにでもなったりするものである。

 

 「……わかりました! 生き延びることを考えてやります!」

 

 ダンテの言葉に立香が少し元気を取り戻したのか、ふんすと鼻息を強くしながらそう返してくる。

 

 「その意気だ。それに俺達もいるからお前だけなんでもかんでも背追い込まなくていいぜ」

 

 ダンテは笑いながらポンポンと立香の頭を優しく叩く。やはりこういうガッツが無ければ何も成し遂げられないのだ。

 

 「さて、俺はそろそろ上がる。リツカも適当に出て休んどけよ?」

 「は、はい!」

 

 立香の返事を背に、ダンテは浴場から出るとバスタオルで身体を拭き、衣服を身に纏うと自室へと戻っていく。

 

 

 

 ────最初の戦いは、すぐそこまで迫っていた。

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