剣の世界で私は叫ぶ   作:苺ノ恵

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剣の世界〜ビーター
001


 

 古今東西。ありとあらゆる事象は、常に歴史を積み重ねては、時の流れを冷酷に突きつけてきた。人としての生を受けた自分に、何か為すべきことがあるのだとすれば、俺にとってそれは恐らく他人のため。省エネを尊ぶ己の惰弱さを認識しているからこそ、俺は誰かのためにしか動けないのかもしれない。

 

 傲慢な少女がいた。

 

 知的好奇心の塊と称しても差し障りないのかもしれんが、俺にはその呼び方のほうがしっくりくる。

 

 何でもかんでも、己の琴線に触れる事柄に関しては自身が納得するまで、何処までもその応えを追求し続ける。その力は否が応にも周りの『力』を巻き込んでいく。

 

 そう。それが俺。

 

 『千反田える』という傲慢な少女に巻き込まれた力である『折木奉太郎』なのだ。

 

 ここに記されているのは単なる古典。過去の人間が未来に残そうとした。その時確かに存在した事象を書き記した、人の想いの残滓。

 

 前置きが長くなったが、ここからが本文だ。書き出しにセンスがないのは当然なので期待しないで欲しい。この文集のタイトルに則って、俺もこの言葉をプロローグのシメに使ってみる。

 

 

 

 私は、叫ぶ____

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 空が紅い。無数の六角形が敷き詰められた天井は、息苦しい雑音とともに、血のような根源を吐き出す。根源はマントの姿を形作り、この世界の管理者として俺たちに言った。

 

 【プレイヤー諸君。私の世界へようこそ】

 

 一つ。ログアウトボタンが消失しているのはシステムの不具合ではなく、『SAO』本来の仕様である。

 

 一つ。ゲーム内での死は現実での死を意味する。

 

 一つ。浮遊城アインクラット第百層のボスを攻略した時、その時生き残っている全てのプレイヤーはこのゲームから解放される。

 

 一つ。これは、【デスゲーム】である。

 

 困惑、嘆き、怒り、悲しみ。

 

 混沌と化す【始まりの街】中央広場に集められたプレイヤー達。

 

 【以上で、チュートリアルを終了する。諸君らの健闘を期待する】 

 

 剣の世界の管理者【茅場昭彦】はその言葉を最後に姿を消す。

 

 そこからは、もはや見るに絶えない光景が広がっていた。

 

 地面に蹲り、死への恐怖に震えることしかできない者。GMの警告を無視して浮遊城から身を投げた者。嬉々として、この状況を受け入れる者。プレイヤーキルを望む者。魔女狩りを始めようとする者。

 

 その様子を俺は、ただ見ていた。

 

 自分もデスゲームの渦中にいる者だというのに、その思考は不思議と冷めている、変な感覚だ。

 

 掌を見た。

 

 俺の手だ。だが、俺の本当の手ではない。

 

 ポリゴンで構成されたこの身体を自分と認識するのは、何故か抵抗があった。

 

「折木さん…」

 

 袖が引かれる。プレイヤーの心情は、そのままアバターに反映される。なら、俺の袖を掴み、震え、涙を流しながら、罪人のような顔で俺の名前を呼ぶ彼女の心情を、俺はもう理解しているのだろう。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…!」

 

 期せずして、千反田はデスゲームへの片道切符を渡す道化として、茅場に利用された。

 

 俺は別にいい。

 

 俺は結局、灰色の人間だ。

 

 薔薇色のお前たちとは違う。

 

 どれだけ焦がれようと、俺はお前たちのようにはなれない。

 

 誰かが犠牲にならなければならないのであれば、俺のような人間が適任だ。

 

 だが、だからこそ。

 

「千反田」

 

 お前は生きなくてはいけない。

 

 人生を謳歌する、その力があるお前は、誰よりも幸せになって、生きるべきなんだ。

 

「行くぞ」 

 

 俺の言葉が予想と違ったのか、少し困惑しながら千反田は俺に聞き返す。

 

「…行くって…何処に…」

 

 再度確認するが、俺は折木奉太郎。省エネがもっとうの男子高校生だ。やらなくていいことはやらない。やらなければならないことは手短に。この信条に則り俺は、言葉通り、手短にやることにした。

 

「百層のボスを倒しに」

 

 

 

 _SAO攻略 1日目 脱落者 76名 生存者 9924名_

 

 




調べたらWeb版のプレイヤー数は5万人、ライトノベルでは1万人らしいですね。

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