剣の世界で私は叫ぶ   作:苺ノ恵

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赤鼻のトナカイ〜黒の剣士
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 〜第26層  宿屋〜

 

 

 

 

 

 俺と千反田は、先日行われた、第25層のボス戦の総評と今後のボス戦に関する考察、及び方針について議論していた。

 

「___アインクラッド解放隊・壊滅…。まあ、25層のボス相手にあれだけの死者を出したんだから当然か」

 

「事実上、攻略組からの脱落…ですか?」

 

「いくら二大派閥の一柱とはいえ、主力を失ってはどうにもならんだろう。徹底した社会主義は、巡り巡って個の能力を抑制する結果になったわけだ」

 

「【リソースを最大限広く分配すべし】ですね。なんと言いますか…キバオウさんも悪い方ではないと思うのですが…」

 

「リーダーの資質があることと、リーダーの役割を果たせることはイコールじゃない。ドラゴンナイツ・ブリケードのリンドの方が結果を残している分、まだリーダーらしいことをしている」

 

「【トッププレイヤー達が希望の象徴として最前線に雄々しく立つ】…こちらはどちらかというと資本主義ですかね?」

 

「どちらも部分的な独裁制を容認している感は否めないがな。リンドのディアベルへの入れ込み様ははっきり言って異常だ」

 

「髪まで蒼く染めて、会議の際の立ち振る舞いまでそっくりでしたからね。キリトさんの話が絡むと感情的になるのが戴けませんが」

 

「それでも、今後はDNBがボス攻略の主力になる。より個々の能力が要求される戦い方を強いられるだろうな」

 

 最近、アスナが加入した血盟騎士団なるギルドも徐々に台頭してきてはいるようだが、頭数ではDNBに遠く及ばない。レイド戦に於いて数は明確な武器になるからだ。

 

「…キバオウさん…早まったことをされなければ良いのですけど…」

 

 デスゲームからの開放という目的を果たすのか。はたまた、現在の地位を守るために保身へと走るのか。いづれにしろ、目的と地位を天秤にかけて、地位を選ぶ奴にろくな奴はいない。

 

 考え得る最悪のシナリオは、シンカーの派閥がキバオウ率いるアインクラッド開放隊に吸収され、社会主義を上回る最悪の体制を強いることだ。

 

「このままいけば、間違いなく盲目的な共産主義者共の爆誕だな。政府(ルール)の機能が停止した国(ギルド)にそれ以上の繁栄は訪れない。先に待つのは衰退と崩壊の未来だけだ」

 

「シンカーさんが持ち堪えて下さればあるいは?」

 

「それだけの気概があれば、アインクラッド解放隊のリーダーはキバオウではなくシンカーになっていたはずだ。それが応えでもある」

 

「人の世はままなりませんね」

 

「…せめて俺の周囲の世の中だけは平穏であってくれることを願う」

 

「どうしてそこで私を見るんですか?」

 

 鏡を見てくれ。そこには千反田えるがいる。な?分かるだろ?

 

 この後、千反田に小一時間、視線の意味を教えろと付き纏われたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 〜第26層 町外れの酒場〜

 

 

 月に一度の定期報告。

 

 もとい、情報提供はアルゴと俺の交わした契約のようなものであり、俺に拒否権はない。それでも、ただ情報を搾り取られるだけではない。時には有益な情報を渡してくる。

 

 …飼い慣らされている。時折渡される、甘い甘い飴玉に、俺はわかっていつつも踊らされ続けてる。

 

 人間は環境に順応する生き物だ。特に、自分にとって利益になることや、幸福を感じることであれば、それまでの信念すら捨てて、郷に従ってしまう。

 

 かつて、とある国では捕虜に対して洗脳を行なっていた。その国の思想に理解を示す演説をすると、高待遇な扱いを受けるというシステムだ。拷問による痛みから逃れるためではない。祖国を否定し、中傷するしか生き残ることができなかったわけでもない。ただ、捕虜達は祖国よりも素晴らしい国があると。自らの口上で唱えてしまうのだ。そこにはもはや、かつての祖国に対する忠誠など欠片もなく。郷に入った敬虔な信徒が誕生していくのである。

 

 詰まるところ、俺は郷に足を踏み入れて、絡めとられている最中というわけだ。しかも厄介なことに、これがなかなかどうして心地良い。無知だった頃の不安感が、情報を得ることで薄れるのだから当然かもしれないが。

 

 俺は既に情報の奴隷なのだろう。だからこそ、情報の統治者である彼女に俺は逆らえない。

 

 …もし、このデスゲームから解放されたとしても、俺は誰かのシステムに組み込まれた歯車として、顔も名前すらも知らない第三者の利益のため、身を粉にして働くことを強いられるのだろう。

 

 自分には社畜の才能があるのかと絶望に打ち拉がれたのも束の間。アルゴが興味深い内容を切り出してきた。

 

「__テイム?調教ってことか?」

 

「ナンでも、脳波パターンの近いモンスターとは共感値(シンパシー)が高い状態になって、仲間と認識サレルみたいダナ。最近だト、ドラゴン系のモンスターをテイムシた女ノ子がチョットした話題にナッテたナ」

 

 ドラゴンを手懐ける少女。ちょっとカッコいいな。

 

「テイムしたモンスターは戦闘に参加できるのか?」

 

「あくまで、ブレスとか回復なんかの補助的な役割ラシイゼ。モンスターを戦わせて主人は後ろに隠れてル、なんてクズプレイはムリってワケだ」

 

 俺の考えは分かっているとでも言うように、鼻で笑いながら答えるアルゴ。もはやこの程度で怒りを覚える俺ではない。

 

「モンスターをテイムしまくって、そいつらをボスに嗾けてクリアできたら。死者も出ず、GMの間抜け顔も拝めて実に悦ばしい限りだったのにな…」 

 

「茅場を擁護するツモリはサラサラないんだケド、ノー坊。お前はRPGの醍醐味を全否定してるよナ。絶対ゲームを愉しめないタイプだ」

 

「放置したまま強くなって、いつのまにかクリアできてるようなゲームシステムが理想なんだが」

 

「人はそれをクソゲーと呼ブらしいゾ」

 

「それって人生ってことじゃないのか?」

 

「お前はモウ一回、エルたんにしばかれて来い」

 

「勘弁してくれ。あの薔薇色お嬢様の隣にいるだけでもギリギリなんだ。もしMPがこの世界にあるのなら、俺のMPは常にレッドゲージを免れないだろうな」

 

「単にノー坊のメンタルが貧弱なだけジャないノカ?」

 

 何を返しても罵倒される未来しかない。俺は精神的安寧を守るため、強引な話題転換を図る。

 

「…もういい。話を戻すぞ。そのモンスターテイムって意図的に可能なものなのか?」

 

 アルゴはつまらないと言うような表情を見せて、ストローを加えながら答えた。

 

「オイラの知ってる限りでは不可能ダナ。テイムに成功したプレイヤー達も狙ってやってたわけじゃない。…ただまあ、テイムできるモンスターには共通点がある」

 

「共通点?」

 

 アルゴはニッと口の端を引いて笑みを浮かべる。口から離したストローには彼女の歯形がついていた。

 

「ソレはナ___」

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 〜第27層 迷宮区〜

 

 

 あの日、アルゴと話していた内容が脳裏に過ぎる。コイツとの出会いはそれだけ突然だった。

 

「__真っ白なハリネズミさん、ですね」

 

 千反田が、攻撃してこないモンスターの存在に気づき、俺に声を掛ける。千反田がしゃがんで、小さなハリネズミとの目線を合わせようとする。すると、ハリネズミは鼻をひくひくと動かした後、千反田の両膝の上に飛び乗った。

 

「ひゃあ!?」

 

 千反田から嬌声に近い叫び声が上がる。俺はフードから覗く彼女の頬に朱がさしていることに気づかないフリをしつつ、先ほどの彼女の問いかけに首肯する。

 

「だな…。これが色違いのモンスターか」

 

 一ヶ月前にアルゴが言っていたテイム可能なモンスターの共通点。それは通常種と異なるカラーリングであることだった。

 

【Hypnotism hedgehog 〜ヒプノティズム ・ヘッジホッグ〜】

 

 直訳すると、【催眠術ハリネズミ】

 

 通称、【殺人ハリネズミ】

 

 背中に携えた、針を飛ばしてくるモンスターで攻撃力は低いのだが、刺されたプレイヤーは何かしらの状態異常が付与されることになる。毒や転倒状態ならマシだが、睡眠や麻痺となるとその危険性は跳ね上がる。最近はレッドプレイヤーと呼ばれる人殺しをするプレイヤーの手口として。睡眠PKや麻痺状態のままモンスターの密集地に置き去りにして殺すなどの悲惨な事件が横行している。

 

 経験の浅い、人数の少ないパーティだと、全員がこのハリネズミの針の餌食となり、命の危機に繋がりかねない。

 

 ただし、そのような危険なモンスターは出現数が極端に少ない。

 

 だからこそ、俺たちは今回遭遇した、色違い殺人ハリネズミの登場に大いに驚いた。

 

「前に見た奴は紫だったよな?目も血走った黄色で。いかにも自分は危ない敵だっていう感じの」

 

「ええ。でも、この子はまるで私たちみたいですね?針を含めて全身が白くて目は紅い。か、可愛すぎですっ…!!」

 

 千反田がハリネズミの可愛らしい見た目に保護欲を唆られたのか悶え始めて、若干息が乱れる。

 

 そのように話していると、俺のメニューウィンドウに【hypnotism hedgehogをテイムしますか?】という文面が現れる。

 

 俺は恐る恐るYESボタンを押す。

 

 すると、ハリネズミは千反田の腕を伝い、彼女の肩まで駆け上がると、俺の肩に飛び移り、そのままフードの中に滑り込んできた。

 

「うお!ちょ、やめろ!首元でウロウロするな!」

 

 俺の言うことを聞いたのか。ハリネズミは俺の胸ポケットに収まり、顔だけヒョコッと覗かせる形で落ち着いた。

 

 その様子を見ていた千反田はワナワナと震えながら俺に迫る。というより、ハリネズミに詰め寄る。やめろ。怯えてるだろ。

 

「折木さんっ!!」

 

「どうした千反田?あまり大きな声を出すな。こいつが怖がる」

 

「この子はシロちゃんです!こいつなんて呼ばないで下さい!」

 

「お前シロちゃんなのか?」

 

 フルフルと首を振る。かわいい。

 

「違うらしいぞ?」

 

 シロちゃん(千反田命名)の愛嬌に千反田の心臓は大きなダメージを追う。これが状態異常か…恐ろしいな(違う)。

 

 千反田は胸を押さえて、それでもと食い下がる。

 

「はうっ!…だ、だめです!シロちゃんは、その子は私の子なんです!」 

 

 全力でフルフルと首を振る。かわいい。

 

「もう諦めろ千反田…。たまに触らせてやるからそれで我慢しろ」

 

 ブンブンと首を振るシロちゃん(千反田命名)。…そんなに嫌なの?

 

 俺とこいつの仲良さげな雰囲気が気に入らなかったのか、遂には千反田は駄々を捏ね始めた。

 

「折木さんズルイです!不公平です!鬼畜です!」

 

「待て。俺は最低かもしれんが鬼畜ではない」

 

「女の子から可愛いものを取り上げて、どの口が言いますか!」

 

「言い辛いんだが…こいつどうもお前のこと苦手っぽいぞ?」

 

「がーん!!何故!?」

 

 自分で言うのか。それを言うのか?

 

 まあ、俺の脳波パターンと似てるってことは、性格も似てるってことだ。…つまりはそういうことだ。

 

「取り敢えず名前を決めないとな」

 

「話はまだ終わってませんよ!」

 

 俺は千反田を無視して、ハリネズミの頭を撫でる。 

 

「___【キュビズム】…キュビー。俺はお前をそう呼ぶ。嫌か?」

 

 ハリネズミ…キュビーは、小さな目を細めると、キュイと鳴き、ポケットの淵に顎を乗せてスヤスヤと寝始めた。省エネなところもそっくりらしい。

 

 【キュビズム】とは美術用語の一つである。

 

 1907年〜1914年にかけてパリで起こった現代美術の大きな動向。キュビズムではルネサンス期以降用いられてきた、一点透視図法(固定した一つの視点から描く方法)ではなく、立体派と言われる様々な角度から見たイメージを画面に収める図法が用いられていた。それまでの二次元での表現から三次元への表現へと変わり、「形態の革命」と呼ばれた。

 

 そして1907年にジョルズ・ブラックの描いた「エスタック風景」をマチスが『小さな立方体(キューブ)の塊』と言ったのがキュビズムの語源の由来と言われている。

 

 フルダイブ技術によって、まさに形態の革命を起こした、SAOというゲーム。

 

 ポリゴンで構成されたアバターである、小さな立方体の塊である、俺たちやNPC、それにモンスター。

 

 そして、多角的な視野で物事を捉え、生き残ろうと努めてきた俺の意思。

 

 そのことを忘れないため、俺はこの名前に決めた。

 

「キュビー…これからよろしくな」

 

 新しい仲間の加入に、俺は第一階層で袂を分つこととなった少年の顔を思い浮かべた。

 

 あれは必要なことだった。そう自分に言い聞かせて、俺は前を向く。いつかお互いに納得し、理解し合える日が来ることを信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対にシロちゃんの方がいいです!シロちゃんの方が可愛いです!私は認めません!」

 

 …今回の件について千反田が納得するかはまた別の問題なわけだが、今はこれでいいのだろう。

 

 いいよな?良しとしてくれ。

 

 27層 迷宮区でのキュビーとの出会いであった。

 

 

 

 

 

 〜ノートはビーストテイマーになる 終〜




サチを助けるべきか…原作に沿うべきか…悩みすぎて胃に穴空きそう…。

キュビーちゃん…私に針を刺して、執筆高速化の状態異常を付与してはくれまいか?(末期)

今後もどんどん作中時間を進めてエタることの無いよう勢いだけで書き上げるので、温かい目で見守っていただけると幸いです。

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