剣の世界で私は叫ぶ   作:苺ノ恵

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 〜始まりの街 教会〜

 

 教会というものは、何だか不思議な雰囲気に包まれた場所だと漠然に思ってしまう空間です。神社や御宮と同じ、神様を祀る場所なのに、その中身が大きく異なるように感じるのは私だけなのでしょうか。いえ、そもそも、神様を祀るという考え方からして、既に私の宗教的感覚は日本古来の伝統に影響を受け切っているのでしょう。

 

 神様と共存する。

 

 大切にしているものには魂が宿ると言ったお話は誰もが一度は耳に挟んでいることでしょう。私はこの考え方の方がしっくりときます。お米の一粒には7人の神様が宿っているのです。粗末にしてはいけません。そのように思うと、私たち日本人というのは、複数存在する神様をより日常の中に落とし込んで、より人々に近い目線で、神様という存在を捉えているように思います。

 

 神様を崇める。路を尋ねる。

 

 神様を絶対的なものとして。精神的な導として。手を組み、頭を垂れる。迷える仔羊とは、自らの意思で行動する、その権利・選択を神様に移譲するということなのでしょうか?それで本当に神様は路を示して下さるのでしょうか?神様とは、私たちの人の意思を見守る存在であって、意思を決定する存在では無いのではないでしょうか。そんな、西洋の宗教的様式を勝手な想像で塗り固めてしまうと、どうしても違和感が拭いきれません。

 

 きっと信仰という行いについては、共感こそして良いものの、否定したり、強制してはダメなことなのだと思います。それはきっと隣人の存在を許さないのと同義の主張だと思うからです。正しくて、間違ってて。信じて、信じられなくて。そんなあやふやで、答えの無い問いすらも、この場所に来れば、何ということはない。ただ生きていく上で当然の悩みだと根拠のない安心感を得られる。人の想いが結ばれる場所と、人の罪が懺悔される場所。清濁合わせ持ったこの場所は、やはり教会と呼ぶに相応わしい場所なのでしょう。

 

 女神を模した像は、高い位置に置かれ、壇上には神官のNPCが存在する。木製の長椅子が連なる石畳とのコントラストは見事という他ありません。

 

 その中で、一箇所だけ。おおよそ本来の教会の風景には無い光景が広がっている。

 

「___では、この問題は…ヒロくんに答えてもらいましょうか?」

 

「えー!何で俺?ミカでいいじゃん!エル先生、俺が算数苦手なの知ってるでしょ?」

 

「苦手だからといっていつまでもそのままにしておくと後で困りますよ?分からないことは恥ずかしいことじゃありません。分からないままにしておくことが恥ずかしいことなんです」

 

「じゃあ、いつエル先生はノート先生に告白すんの?いつまでもノート先生の気持が分からないのは恥ずかしいことじゃ無いの?」

 

「では、この問題はミカさんに解いて頂きましょうか」

 

「あ、逃げた」

 

 ここには、幼い子供たちが住んでいます。SAOという監獄に囚われてしまった彼らが、現状を正しく認識して正しい行動を自分で判断しろと強いることは、あまりにも酷なことです。アズリカという女性プレイヤーが彼らを導かなければ、一体どうなっていたことか。彼女の尽力もあり、有志を募りながらこの教会で孤児院を運営することができている。私たちもその有志の中の1人で、定期的にここを訪れては、アズリカさんに教師役を頼まれ、こうして舌足らずな拙い教鞭を振るっているわけです。

 

 しかしながら…最近の子供たちは油断なりません。邪な考えがない分、ストレートに疑問をぶつけてきます。先ほどのヒロくんの疑問も全く以て正論です。ですが、それに答えられないのが高校生なのだと。大人になり切れない。子供とも呼べない。そんな私が、男女の恋慕について我がもの顔で語ることなどできる訳もなく。ヒロくんの疑問に応えられるほどの経験もない、自身の奥手さを呪いつつ、先程の私の発言を有耶無耶にするため。強引に算数の得意なミカさんを解答者に指名する。後からアズリカさんにこの時の話を聞くと、生徒の皆さんが口を揃えて、ボス戦に挑む人の表情ってやっぱり凄いと話題になっていたようです。…どれだけ私は必死だったのでしょうか?

 

「…こうして…こうだから…答えは51」

 

「はい、正解です。次の問題ですが___」

 

「…でも、エル先生とノート先生はお付き合いしてないから…51(恋)じゃない?」

 

「先生は怒ったので今日のケーキはなしです」

 

「えーー!!大人げねえ!」

 

「…抗議…断固として抗議する…!…大人の横暴を許すな…!」

 

 皆さん、折木さんがいる時は真面目に授業を受けて下さるのに、どうしてか私1人だと頻繁にこの話題で苛められてしまいます。苛めはダメです。ダメなんです!

 

 非難轟々、顰蹙猛襲。

 

 もはや学級崩壊の様相を呈してきたところで、教会の大きな扉が蝶番の音を響かせて開かれる。

 

「__騒がしいな?…エル。お前どんな授業してるんだ?」

 

「ノ、ノートさん…」

 

 一番来て欲しくないタイミングで、一番来てはならない人が顔を覗かせました。

 

 まずい…まずいです!!

 

 私の予想をそのままに、ヒロくんがいの一番に口を開く。きゃー!やめてー!?

 

「ノート先生!エル先生酷いんだよ?今日はケーキなしだって!」

 

「お前はいつものことだろ?何を今さら慌ててるんだ?」

 

 ヒロくんはよくヤンチャをする子なので、悪いことをするとご褒美のおやつ抜きになる常習犯です。折木さんはいつものことだろと言わんばかりの顔で言いました。…子供にも容赦がなさすぎなのでは?…もしかして、それが子供たちが折木さんの言うことを良く聞く理由なのでは?私が教育という分野の奥深さを痛感しているうちに今度は優等生のミカさんが口を開く。

 

「…今日は、みんなが食べちゃダメだって…」

 

「何?………」

 

 やめてください。そんな目で私を見ないで下さい。被害者は私です。精一杯の、囁かな抵抗だったんです。というかミカさん?何ですかその本気で落ち込んでますみたいな雰囲気は?さっきまでノリノリで私に断固抗議するとか言ってましたよね?そうですよね?

 

 いくら恨み言を並べようと事態は好転しない。かと言って弁明もできない。それ即ち自爆と同義だから。

 

 なので私は必死に目で訴える。私は悪くないです。悪いのは私たちの関係を揶揄って苛めてくるみんな…いや。いつまでも自分の気持ちをはっきりさせない私………。あれ?そもそも私がこんなに困ってるのは折木さんが原因なのでは?そうですよね?そうですよ。そうに違いないです。私をこんな気持ちにさせた折木さんのせいです!折木さんが悪いんです!!

 

 滅茶苦茶になった思考と暴走する私の顔色に折木さんは何を感じたのか分かりませんが、不意にメニューを操作しだすと、バスケットを取り出しました。その中にはフルーツサンドが色鮮やかに敷き詰められ、生徒の皆さんの視線を鷲掴みにしました。折木さんはそのうちの一切れを摘むと、皆さんの目の前で食べ始めました。「お、美味いな」と小さく呟いた折木さんは、再度バスケットを掲げると言いました。

 

「今日は俺が買って来たやつを食えばいい。ただし、真面目に授業を受けたやつだけだ。ふざけたやつの分は俺が食べておいてやるから」

 

 折木さんの言葉を合図に、皆さんが一斉に机へ向かいます。先ほどまで無法地帯と化していた空気が、戦場に近い緊張感を漂わせています。そのあまりの変貌具合に私は若干たじろぎながらこれを好機と参考書を持つ手に力を込めた。

 

「そ、それでは、授業を再開しますね?」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 キバオウと別れたのち教会を訪れた俺は、扉を開いて中から聴こえてくる子供たちの声に眉を顰める。俺ははっきり言って子供が苦手だ。思考回路が滅茶苦茶だし、感情を理性で制御仕切れない。省エネをモットウとする俺にとって、子供の溢れんばかりのエネルギーと行動力は、天敵と言ってもいい。しかし、ここの子供たちは案外聞き分けがいい奴らだ。若干名、言うことを聞かない奴もいるが、精神的苦痛を与えればすぐに大人しくなった(注‘おやつ抜き)。

 

 しかしながら、今日の授業の荒れ方は異常だ。また千反田の地雷をヒロのやつが踏み抜いたか?

 

 俺が騒動の只中にいる千反田に目を向けると、千反田はその大きな目を輝かせた後に青ざめて急に焦り出した。…忙しないな、お前。

 

 俺が千反田の奇行を観察していると、生徒たちが各々騒動の理由を口走り始める。ちょっと待て、俺は聖徳太子じゃないんだ。1人ずつ話せ…あ、もういいやめんどくさい。全員興奮していてよく聞き取れなかったが、要約すると千反田が全員おやつ抜き(現在17時)にしたとのこと。…まあ、怒るわな。理由を聞こうにも、千反田が凄い顔で俺を見てるし。何だ?呪いか?呪い殺す気かお前は?

 

 最も省エネに事態を収束させるため、俺はフルーツサンドを生贄とする。さらばだ…俺のシャインマスカット…。効果は的面。その後は大きな騒動も起こることなく、授業を終え、俺たちは褒美を子供たちに渡し教会を後にする。その際、何やらヒロが俺に話しかけてきたが、ミカにラリアット食らってプロレス技掛けられてた。…最近の子供は恐ろしいな…。そして千反田。何を焦ってる。は?何を聞いたって?何も聞こえなかったぞ?…は?ちゃんと聞け?何でお前が怒る?

 

 などなどあり。

 

 今現在俺たちは、亡くなったプレイヤー達の供養のため、始まりの街地下にある石碑へ向かっている。何故かむくれたままの千反田を元の状態に戻すため、俺の貴重なエネルギーをわざわざ浪費し、雑談をしながら街中を練り歩いた。しばらく経つと千反田の機嫌も元に戻り、話題は月夜の黒猫団に移った。

 

「じゃあ、良いホームが見つかったのですね?よかったです」

 

「ケイタって案外、即決できる肝の据わったタイプなんだな。キバオウ相手にも腹芸かましてたしな」

 

「え?街中で宴会芸をしたんですか?」

 

「そういう意味じゃない…。含むところがあって、キバオウのご機嫌とりをしてたってことだ。社畜必須スキルだ。ご愁傷様だな」

 

「折木さん?そういうことは言ってはダメです」

 

「へいへい…。そういえば千反田。あいつら新しいパーティメンバーを見つけたらしいぞ」

 

「はい。そうですね」

 

「そうですねって…お前、知ってたのか?」

 

「サチさんとメッセージをしていた時に伺いました。折木さんには暇を取らせないようにこの後ある、祝ホーム購入記念会で紹介したいって」

 

「ほう…。まあ、人数が増えることは別に悪いことじゃないしな。どんな奴なんだ?」

 

「………さあ?私も存じ上げていないので、私にとってもサプライズですね」

 

「あいつらなりの粋な演出ってことか。…というか千反田?それを俺に言ってしまったらサプライズにならんだろ?」

 

「ケイタさんが6人と言ってしまったんですからもう良いのでは?」

 

「確かに…。あいつらの根回しが杜撰すぎて若干心配なんだが?」

 

「それもまたパーティの色でしょう?隠し事ができないのは皆さんが素直で善人の証拠です。美徳じゃないですか」

 

 階段を下りると石碑はすぐそこにある。俺たちはメニューを操作し、花束を取り出すと石碑前中央の献花台に花を置く。小さく黙祷した後、俺たちはこの半年間で散っていったプレイヤーたちの名前を目で追っていく。俺は先ほど千反田が言っていたことに関して、返答するように口を開く。

 

「なら、生き残ってる俺たちは、あいつらがこれからも善行を重ねられるように。いろいろやっていくだけだな」

 

「…そうですね」

 

「ただし、省エネに、だ」

 

「折木さん台無しです…」

 

 そうしてお互い目を合わせ、どちらかともなく笑い出す。いつか、自分たちが命を落とすことになっても、後続の奴らがきっと、俺たちの意思を継いでくれる。死に急ぐ気はサラサラないが、それだけでも、命を賭ける理由には十分だった。

 

「…では、そろそろ行きましょうか?祝賀会へ!」

 

 千反田が楽しげな笑みを浮かべる。それもそうか。今日は月夜の黒猫団門出の日。あいつらの成長を見守ってきたものとしては嬉しくないはずがなかった。俺は再度、ディアベルたち、死んでいった仲間たちに別れを告げるため石碑に目を向ける。そのことを千反田には悟られたくなくて、祝賀会用の花を買い忘れたかもしれないと戯けて見せる。

 

「花は今置いた奴以外にも買ってたよな?無かったらもう一回買いに行ってから…ん?_______________」

 

 その時俺は、全身の血の気が引いた。俺の異変に気づいたのか。千反田が声を掛ける。

 

「?折木さん?」

 

 俺は迷った。自分の目がおかしくなったのかと。何かの間違いだと。そう言ってしまおうかと、本気で悩んだ。その果てに出た答えは、驚くほど淡泊な言葉だった。

 

「千反田…祝賀会は中止だ」

 

「え?どうしてですか?何かメッセージが届いたんですか?」

 

 俺は千反田の質問には答えず、代わりに花束を出した。祝賀会用に豪勢な彩りで飾り付けられた花束を。

 

 

 

 俺は迷わず献花台に置いた。

 

 

「え?___そんな………っ!!?」

 

 千反田が俺の行動を怪訝に思い、そしてその意味に気づいた。

 

 俺は石碑に近づき、右の拳を固め、全力で打ち付ける。破壊不能オブジェクトのポップが浮き上がり、消える。俺はこの拳の先にある名前を見たくなどない。その意味を理解したくない。そんな俺が口に出した言葉は__

 

「どうしてだよ______ケイタ」

 

 ホームの鍵を大事そうに握りしめて嬉しそうな顔でこちらに向かって手を振る。そんな痛々しいほど希望に満ち溢れた姿が閉じた瞼に映り込む。そんな月夜の黒猫団リーダーへの問いだった。

 

 

 月夜の黒猫団 リーダー ケイタ 以下4名死亡

 

 

 彼らの名には、無慈悲な線が刻印されていた。

 

 もう二度と、彼らに会うことはない。

 

 もう、会えない。

 

 

 

 

 

〜献花台に、祝いの花束を 終〜

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 〜ある日のガールズトーク メッセージ〜

 

 

 

 Sachi:『ご無沙汰してます。エルさん。今、連絡よろしいでしょうか?』

 

 L:『お久しぶりです。サチさん。その後、黒猫団の皆さまにおかれましてはいかがお過ごしでしょうか?』

 

 Sachi:『お陰様で、ゲーム攻略にもなれてギルド運営も徐々に軌道に乗ってきました』

 

 L:『それは何よりです。今度、近いうちにお会いできますでしょうか?』

 

 Sachi:『本当ですか?嬉しいです!実は今度ケイタがギルドホームを購入する予定なので、その時の記念パーティに、是非エルさんも出席してください』

 

 L:『そうなんですか?おめでとうございます!!分かりました。お祝いの品をご用意させていただきますね』

 

 Sach:『そんな。気にされないで下さい。エルさんに対する私たちの感謝の意味も込めた催しなんですから。主賓のつもりでお越し下さい。それに、エルさんにご紹介したい人もいるので』

 

 L:『サチさん…もしかして大人の階段を登られましたか?』 

 

 Sachi:『え?t、違います。わたしそんなk』

 

 L:『冗談です。なら、その方とはその時にしっかりとご挨拶させていただきますね』

 

 Sachi:『あ、ありがとうございます』

 

 L:『サチさんは、もう大丈夫でしょうか?』

 

 Sachi:『?』

 

 L:『ちゃんと眠れていますか?もう、怖くないですか?』

 

 Sachi:『…正直、戦うことは怖いです。私は弱いし、みんなの足を引っ張ってばかりです。いつ死ぬかも分からなくて、毎日が怖いです。それでも、私は死なないって言ってくれた人がいるんです。私を、守ってくれるってキリトが、そう言ってくれたんです』

 

 L:『キリトさん?もしかして黒い装備の中性的な顔立ちの方ですか?』

 

 Sachi『はい。まさかエルさんのお知り合いの方ですか?』

 

 L:『はい、私もノートさんも彼のことは存じています。そうですか、キリトさんが』

 

 Sachi:『あの…エルさん。キリトって攻略組ですよね?』

 

 L:『?はい。今までずっとボス戦をともにしてきた戦友です。パーティを組んでいた時期もありました。ですが…以前ノートさんと言い合いになってからはずっとソロで攻略に挑み続けて。ノートさんとは話すら拒まれて、私との会話も事務的なやり取りだけでして…。せめて、お二人には和解していただいて、もっと親睦を深めて欲しいと思っているところです』

 

 Sachi:『…でしたら、サプライズに2人を仲直りさせるのはどうでしょうか?ノートさんの性格では事前に伝えるといらっしゃらないのでは?キリトと喧嘩してるなら尚更です』

 

 L:『サプライズ!?それはいい考えですね!お二人がどんなお顔をされるのか私、気になります!』

 

 Sachi:『では、ノートさんには祝賀会への参加の旨だけお伝えしてください。キリトのことはくれぐれもご内密に』

 

 L:『分かりました。全力を尽くします!』

 

 Sachi:『私も今から当日が楽しみです。では、今後ともよろしくお願いします』

 

 L:『はい。よろしくお願いします。おやすみなさい。またお会いできる日を楽しみにしています!』

 

 

 

〜メッセージログから抜粋〜

 

 

 

 




次回はキリトくんに奉太郎が尋問する回ですかね(果して面白いのか…?)

シリアス:ラブコメの比率は6:4くらいが目標です。

また次回もよろしくお願いします。
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