剣の世界で私は叫ぶ   作:苺ノ恵

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週末、待てなかったから投下。


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 〜2024年2月26日 47層主街区 フローリア〜

 

 第50層が開放されて一月が経ったある日。

 

 俺は47層主街区フローリアを訪れた。そこに、目的のプレイヤーがいるからだ。

 

「不躾にすまない。ここにビーストテイマーのプレイヤーがいると聞いたんだが、今どこにいるか知らないか?」

 

 俺はすれ違った2人組の男性プレイヤーに声を掛けた。が、素気無くあしらわれてしまう。その反応を見た俺は、この2人が件のプレイヤーについてなんらかの情報を持っていると踏んだ。俺は路地裏に隠れ、隠蔽スキルを使用する。そして、2人組の後をつけると、彼らはとある宿屋前の噴水で腰を落ちつけた。

 

 頻りに視線を宿屋に向けている様子から、俺の勘も捨てたもんじゃないなと苦笑する。俺は隠蔽を解き、宿屋の扉を開く。

 

 俺は依頼主から聞いた情報を元に、件のプレイヤーを探す。そこには丁度、聞いた通りの容姿を持つ少女がいた。

 

 紅を基調とした装備に、髪をツインテールにした、愛らしい雰囲気を纏う少女。彼女が今回、俺が目的としているプレイヤーだ。

 

「食事中にすまない。君がビーストテイマーのシリカさんで間違いないか?」

 

 シリカさんは顔を上げると、警戒した表情に若干の怯えを滲ませながら口を開く。

 

「はい…。そうですが、貴方は?」

 

 俺は彼女の心象を少しでも軽くしようとフード取り、膝をついて目線を合わせる。そして、恐らく今現在、彼女が一番信用できる奴の名前を出した。

 

「俺はノート。黒の剣士キリトから、お前の護衛を依頼された。まあ、3日限りの契約だがよろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「キリトさんから信頼できる奴を送ると聞いてはいましたが…まさか攻略組の【ホームズ】さんが来てくださるとは思いませんでした」

 

「…こんな所にまで俺の黒歴史は浸透してるのか…」

 

 ノートさんが酷くゲンナリとした表情で頭を抱える。そのせいで、スクランブルエッグを刺していたフォークが揺れ、卵がお皿の上に落ちてコロコロと転がる。

 

 昨日、死んでしまったピナを生き返らせるため、47層の思い出の丘へキリトさんと赴き、テイムモンスター蘇生アイテム【プネウマの花】を入手した。その帰り道中、タイタンズハンド、オレンジギルドと言われる犯罪ギルドの襲撃を受けた。ですが、攻略組のトッププレイヤーであるキリトさんは大勢のプレイヤーに囲まれていたのにも関わらず。一度も剣を振ることなく、全員を黒鉄宮送りにした。キリトさんは依頼とは言え、私を犯人をおびき寄せるための餌にしたことに対して酷く罪悪感を感じている様子だった。また、私の知名度が危ない方向に広まっていることも教えてくれた。ビーストテイマーは数が少ない。龍種のモンスターを従えてるともなればその注目度は他の比ではない。もし、他の犯罪者ギルドに目をつけられると、私の命が危うくなる。キリトさんはそう言っていました。

 

 だから、キリトさんは今回のお詫びも兼ねて、そういった犯罪性の高い手段や方法に対する対応策に長けたプレイヤーを紹介すると言ってくれた。…私としては、キリトさんがずっと隣にいて守ってくれたら、それが一番安心できると思った。でも、キリトさんは私たちにできないことをしてる。デスゲームをクリアするために、命を危険に晒してまで攻略に挑戦し続けてる。それを私が独り占めしようというのは、いくら何でも嫌な女が過ぎるから。私はキリトさんに嫌われたくない。嫌な女だと思われたくない。だから、私はキリトさんとの繋がりがこれきりになりたくなくて、彼の申し入れを了承した。

 

 そうして今、攻略組の探偵。ノートさん、通称【ホームズ】さんが私の目の前にいる。キリトさんの話では、怠惰で覇気がなく、人の気持ちを逆撫でする人だと聞いていたけど、根はいい人のようで、今まで私を訪ねてきた人たちとは違った雰囲気を纏う人だった。何というか、下心が見えない?私に興味が全くなさそうなのに、適切な距離感を保ってくれているような。そして、時折合わせられる眠たげな瞳は、言葉に出していない胸の内まで把握してしまうような。そんな、特別な力を感じる人だった。

 

 私は項垂れるノートさんを励ますためにフォローの言葉を探す。

 

「か、かっこいいじゃないですか?それって、すごく頭の良い人って皆さんが認めているってことですよね?すごいです!」

 

 私の必死のフォローに、より腐っていく目。何故?

 

「呼び名もだが注目度が問題だ。有名になっていいことなんて一つもない…。ああ…しばらく引き籠っていたい…。全世界が俺の名前を忘れてくれるまで隠居したい…」

 

 どうやらキリトさんが言ってたことは正しかったようです。

 

「えっと…それで。私はこれからどうしたらいいですか?やっぱり、外には出ずに部屋に籠ったままの方が良いですか?」

 

 強引に話を転換すると、ノートさんはのそりと顔を上げるとモソモソと食事を再開しながら話し始める。

 

「いや、敢えて外に出る」

 

「?それだと危ないんじゃ…」

 

「お前ほどの有名人が雲隠れしたら、確実に話題になる。アイドルが活動休止を突然言い出した時のファンの反応と同じだ。ファンは必ずその理由を知りたくなる。知るためには多少汚いことでも平気でやる。隠し事があると人はそれを掘り出して知ろうとする生き物だ。PKプレイヤー共は特にその傾向が強い。人の感情が理解できない分、あの手この手でその真意を欲する。自分は持ってないから、他人から奪ってしまおうってことだ。ある意味、人間性の亡者とも言える。シリカが人間味に溢れてるなら尚のことだ」

 

「人間味…。人らしいってことですか?」

 

 ノートさんは、付け合わせのプチトマトをフォークの先で転がした後、一思いに突き刺した。

 

「例えばそうだな…。シリカ、本当は俺なんかじゃなくてキリトに守って欲しいんだろ?」

 心臓を掴まれたかと思った。咄嗟のことに言葉が出ずにいるとトマトを飲み込んだノートさんが言葉を継いだ。

 

「もっと言えば、それをキリトに伝えてしまうことで、自分のキリトに与える心象が悪くなることを恐れてる。そのため、キリトの提案に快く乗りながら、あいつと知り合いの俺とのコネを持って置くことで、あいつとの繋がりを守ろうとしている。…まあ、こんなところか?今言ったのは全部状況証拠からくる俺の推測・妄想だ。誰にも言う気はないし、気分を害したなら謝る」

 

 嫌な汗が額に滲む。この人がホームズと呼ばれる所以の一端を垣間見た気がした。私は心の内を当てられたというのに、意外と落ち着いていられる自分に驚いた。ここ数日の経験で少しでも人として成長できたということだろうか。私は自分を嘲笑するように眉を下げる。

 

「……いえ。私が面倒で嫌な女なのはホントのことですから…この数日で、よく思い知りました」

 

「…この世にめんどくさくない女なんていないだろ?」

 

「?」

 

「もっと言えば、面倒じゃない人間なんていない。そんな人間がいるとすれば、それは誰に対しても、自分じゃない誰かにとって都合のいい人間でしかない」

 

「都合のいい…人間」

 

「そんな生き方、虚しいだけだろ?」

 

 食後の紅茶が配膳される。私たちはしばらく無言でカップを傾けた後、話を再開した。

 

「ノートさんは、どうして攻略組に?」 

 

 単純に、私が聞きたいと思ったことだった。私はこれからの三日間のことよりも、ノートさんのことを聞いてみたいと思い始めていた。キリトさんが信頼している人を私も知りたくなったのだ。ノートさんは猫舌なのか。両手でカップを覆い、息を吹きかけて冷ましながら紅茶に口をつけては舌を赤くしていた。言葉のチョイスと行動の幼稚さにギャップを感じ、つい微笑ましくなってしまう。

 

 ノートさんは冷めるまで紅茶は一端諦め、私の質問に答えることに専念する。

 

「好奇心の化け物がいたから。そいつを見捨てる理由も覚悟も、俺にはなかったから、かな」

 

「【白夜叉姫】…ノートさんにとって、大切な人なんですね」

 

「…自分じゃよく分からん。あいつも俺なんて少し頭の回る同級生くらいの認識しかないだろ。期待するだけ損だ」

 

「期待はしたんですね?」

 

 私の返答に虚を突かれたのか。ノートさんは目を逸らしながら紅茶に口をつけてまた火傷してた。動揺してる姿を見ると何だか不思議な満足感が得られる。ニヤニヤと口角が緩むのを自覚して咄嗟に手で口元を隠すとノートさんが私にジト目を向けていることに気がつく。

 

「…なんか妙に生き生きとしてるな?さっきの意趣返しか?」

 

 その通りなのだが、先程のような心臓を掴まれるような衝撃はない。精神的優位は私にある。私は勝ち誇るように余裕たっぷりの表情で、紅茶を煽ってから口を開く。

 

「いえいえ。聡明なノートさんほどじゃありません。でも、女の子はそういう話にはずっと敏感なんですよ?」

 

「…いたよ。ここにも面倒な奴が…」

 

「何か言いましたか?」

 

「いえ、何も」

 

 気がつけば私はすっかり、ノートさんのことを気に入っていた。キリトさんとはまた違う。前に立って守るんじゃなくて、斜め後ろから文句を言いつつ私の話をしっかりと聞いてくれるような安心感を覚えてしまう。

 

「__それじゃ、お互い腹を割って話したところで本題だ。俺は君を護衛する他に2つ目的があってここに来た」

 

「一つはキリトさんから伺ってます。ノートさんもビーストテイマーなんですよね?だから、【プネウマの花】を入手したいって」

 

「ああ。シリカには思い出の丘の道案内を頼みたい。道中にレベル上げを兼ねてPKへの対処法やナイフの扱いを教えるつもりだ」

 

「そういえば、ノートさんの武器って短剣の中でもリーチの短いナイフですよね?どうしてなんですか?」

 

「単に俺のプレイスタイルに合う形を模索した結果だ。個人的な考えだが、俺はソードスキルがあまり好きじゃない。できれば使わずに攻略したいとすら思ってる。俺はせいぜいボスの鼻先をウロチョロして、タゲを取っては逃げ回るだけの下っ端の仕事だからな。攻撃力はあまり必要ないんだ。それこそ、重装備や重い剣なんて邪魔にしかならない」

 

「あはは。ちょっと分かる気がします。ノートさんって剣士さんって感じじゃないですもんね?」

 

「ちなみに、何に見える?」

 

「んー…シーフとかどうでしょう?」

 

「こんな目立つ髪色の盗賊がいてたまるか」

 

「___それで、もう一つの目的って何でしょうか?」

 

「それは…まあ、追々話す。時間も限られていることだし、そろそろ移動するか」

 

「はい。分かりました。あれ?ノートさん?扉はこっちですよ?」

 

「ん?ああ、そこからは出入りしない。二階に行くぞ」

 

「何でですか?」

 

「芸能人の真似事をするため、かな」

 

「どういうことです?」

 

「こっちの話だから気にするな。行くぞ」

 

「でも、二階からどうやって外に出るんですか?」

 

「窓からに決まってるだろ?」

 

「そんな当たり前みたいに言われても…」

 

 斯くして、私とノートさんの3日限りの冒険が始まったのでした。

 

  

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

  

 

 

 弦を弾くことで空気が震える。

 

 白魚の手が心地よい音程とリズムを奏でる。

 

 穏やかな歌声が音楽を紡ぎ出す。

 

 弱さを受け入れて。

 

 不安を勇気で乗り越えて。

 

 その先にある明日を、君と一緒に見たい。

 

 人々の心が調律される。

 

 僕にはそんな彼女の姿が、すごく眩しく見えた。

 

 戦えない僕に、剣士としての価値はない。

 

 立ち上がれない僕に、挑戦する資格はない。

 

 俯いた先には、不均一に並んだ煉瓦の隙間が作る幾何学模様。

 

 涙はでない。

 

 後悔できるだけのことを、僕はしてないし、この先もできはしないのだから。

 

 歌が止まる。

 

 何だ、折角気を紛らわせていたのに、もう終わりか…。

 

 コツコツとブーツが地面を叩く音が聞こえる。

 

 その音は段々と僕に近付いてくる。

 

 木漏れ日を遮る深い影が僕を覆う。

 

 顔を上げると、大きな帽子を被り、ギターのような楽器を背にした少女がいた。

 

 彼女はにこりと微笑むと、僕に手を差し出した。

 

「そんなとこで聴いてないで。もっと近くで聴いてよ」

 

 無意識に彼女の手を取ってしまった。

 

 僕は手を引かれるまま彼女に導かれた。

 

 そこは特等席だった。

 

 再び、歌が始まる。

 

 僕は奪われた。

 

 目を、耳を、そして心を。

 

 黒くドロドロと胸にこびり付いて消えなかったナニかが消えていく。

 

 涙が溢れては消えていく。

 

 音楽が終わる。

 

 アンコールを背に彼女は去っていく。

 

 拍手すら忘れて。

 

 外聞すら放り出して。

 

 僕は彼女の名前を聞いた。

 

「君!な、名前は?」

 

 振り向いた彼女は先ほどと同じようにニコリと微笑んだ。

 

「私は_____」

 

 

 

 

 

 

 

  




評価と感想ありがとうございます。

すごく励みになります。

今回もご一読いただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願いします。
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