剣の世界で私は叫ぶ   作:苺ノ恵

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 〜思い出の丘 一面の花畑にて〜

 

 

 

 

 

 

「か…可愛いい!」

 

「キュー!」

 

 シリカとキュビーが戯れている。どうやらキュビーは女性の感性に刺さる見た目をしているらしく、シリカも洩れずにその愛らしさの餌食となっていた。

 

「そういえば、シリカのテイムしたモンスター…ピナだったか?後どのくらいで復活するんだ?」

 

 キュビーの興が乗り始めたのか。シリカの装備の凹凸を足場に、クライミングをするかのように身体を登り始める。シリカは背中に回ったキュビーを捕らえるため身体を捩るが、そう簡単に見つけられるキュビーではない。どこに行ったのかと首を捻りながら、キュビーを捜索するシリカは、器用に俺の質問に返答する。

 

「ピナの心ってアイテムにプネウマの花を使ったら、ピナが卵の状態になったんです。5日で孵るということなので、今日を含めて後三日の予定ですね」

 

 シリカは必死に全身を見渡すが、残念。キュビーはシリカの頭の天辺で仁王立ちしている。その様子を観ていると思わず笑ってしまいそうだったので、俺は巫山戯た話題で誤魔化す。

 

「竜種は卵生ってことか。なら、哺乳類に近いキュビーに同様のことをしたら…一体どうなるんだろうな?」

 

 俺の言葉にびっくりしたのか。はたまた、首元から服の中に潜ったキュビーに対して驚いたのか。シリカは目を丸くしながら、必死に俺の蛮行を止めようとしてくる。

 

「だ、ダメです!キュビーちゃんはやらせませんよ!…あ、ちょっと、そこは!」

 

 キュビーよ…。必ず、初対面の女性プレイヤーの身体は弄らんと気が済まんのかお前は…。シリカの声音に若干の湿りが混ざる。擦り合わせた大腿と身をよじりながら腹部で身体を抱く両手。おおよそ、情操教育に非常に宜しくない光景が俺の前に展開されかけていた。俺に幼女趣味はない。即刻、待ったを掛けた。

 

「キュビー、そのくらいにしといてやれ」

 

「キュイ」

 

「どこから出てきてんだお前は…」

 

「ううぅぅぅ…」

 

 スカートの中から顔を出したキュビーは、再びシリカの身体をよじ登ると、案外居心地が良かったのか。彼女の頭頂部に腰を落ち着けた。寛ぎ始めたキュビーに対し、先程の痴態に羞恥心を抑えられずにいるシリカ。身体を抱いたまま蹲っている。

 

 俺はそんな彼女にかける言葉が見当たらず、目下の作業に集中することにした。

 

 シャッター音がなる。

 

 メニュー画面についている、スクリーンショット機能で、眼前に広がる壮大な花畑の風景を先ほどからこうして写真データに収めているのだ。

 

「……そんなにたくさん撮ってどうするんですか?」

 

 シリカは沈黙がかえって居た堪れなくことに気付いたのか。自分から静寂を打破するための一手を仕掛ける。ジト目で俺の行動に対する疑問を投げかける。その目はやめてくれ。俺が不審者みたいじゃないか。

 

 ただでさえ、この場のカップル率の高さに。薔薇色濃度の濃さに辟易していたんだ。これ以上、俺の誇り高い省エネ精神を汚すわけにはいかない。俺はそんな考えから、生徒を引率する教師役気分で撮影に臨んでいた。だが、側から見れば、幼気な少女を連れ回している目の腐った男だ。笑えないぞこの状況。

 

 せめて、彼女と明朗会活な会話に勤しんで、ちっぽけな世間体を死守することにする。…小さいな、俺。自虐心が悪化する前に、シリカの質問に答える。

 

「一層にいる子供たちにと思ってな。以前、ここの話をしたら観たい、行きたい、連れて行けって聞かなくて…。流石に危険だから、写真を撮って来るってことで子供たちの溜飲は下げさせた」

 

「ふーん…ちょっと意外です」

 

「何がだ?」

 

 話をして羞恥心が薄れたのか。シリカは俺のメニュー画面を覗き込んでどんな写真を撮っているのか確認して来る。そして、どういう風に撮れば綺麗に撮れるかなどを教えてくれる。この辺りは流石女子というべきか。可愛さや美しさへの追求に余念がない。…千反田にこういうのは皆無だからな。これが普通の女子像なのだろう。

 

 勝手に俺があるべき平凡な女子像とやらに納得していると、シリカは俺の取り直した写真を確認し、頷きながら答えた。

 

「ノートさんとはまだ会って数時間の付き合いですけど、子供が苦手な人なのかなって思っていたので」

 

「理由を聞いてもいいか?」

 

「気を悪くしないでくださいね?ノートさんは良くも悪くも理屈すぎるんですよ」

 

「理屈すぎ…か」

 

「感情は理屈じゃありません。ですが、ノートさんはそれを理屈で制御できてしまってる。言葉の端々からも伝わるんですよ。ああ、やっぱりこの人普通じゃないなって」

 

「俺からしたら、どうしてお前らがそんなに衝動的に動けるかの方が疑問だがな」

 

「それこそ理屈じゃないからですよ。損得勘定なんか抜きにして。だた、自分がそうしたいと思ったから。だから、人は動けるんだと思います」

 

「…そこだけはよく分からん。合理的じゃない。リスクに対するリターンが見合っていない。枠に嵌まらない、理解できないものに従うなんて俺にはできん」

 

「人の心を理に当て嵌めようなんて、神様でも傲慢が過ぎます。それに、ノートさんは分からないんじゃなくて、見ようとしてないだけでは?」

 

「…痛いところを突くな?」

 

「その写真だって、その子たちのことを思って撮ってるものですよね?そんな人が、どんな打算があって動くのかなって思ったら、想像に難くないので」

 

「子供は正直だからな。飴を用意しとけば大人しくなる」

 

「そうやってはぐらかすのが癖なんですね?…私、認識を誤ってました」

 

「何が?」

 

「ノートさん、本当は子供が大好き何ですね?とっても不器用なだけで」

 

「………その理屈なら、俺はお前のことが大好きということになるが?」

 

「誰が幼児体型ですか?」

 

「いや、そんなこと言ってな___」

 

 風が吹く。

 

 広鮮やかな花弁が宙を彩る。

 

 咄嗟にシャッターを押す。

 

 一瞬の花畑を切り取る。

 

 撮った写真を確認して小さくガッツポーズをとる。

 

 そして、俺は固まる。

 

 今し方、撮った写真を目の前の彼女に観られ、更なる怒りを買う。

 

 一体、何が撮れていたのか。

 

 それは、彼女の名誉のためご想像に任せることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _______水色だったな。

 

 

 

 

 

 

 〜一瞬の花を永遠に 終〜

 

 

 

 ◆◆◆

 

 〜同時刻 51層 草原フィールド〜

 

 1人の女性プレイヤーが草原に立つ。

 

 白と真紅の和装は、どこか巫女を思わせる装いだ。

 

 期せずして、同系統のカラーリングになったことを少し恥ずかしく、それ以上に嬉しく思いつつ。彼女は転移のエフェクトとともに現れた友人の姿を観て微笑む。

 

「こんにちは、アスナさん。その後、お加減は如何ですか?」

 

「こんにちは、エルさん。お陰様でkobでもなんとかやっていけてます。今日はすいません。お忙しい中、わざわざ御足労いただいて」

 

「いえ、私も時間を持て余していて。丁度、レベル上げに行こうと思っていたので」

 

 甘栗色の長髪に、レイピアを携えた女性の名はアスナ。血盟騎士団の副団長でもあり、彼女の鋭い刺突から付けられた異名は【閃光のアスナ】。普段、攻略会議で見せる鋭い眼光は影を潜め、まるで姉と再会した時のような、そんな柔らかな表情を浮かべる。

 

「そういえば、ノートさんはどうされたんですか?」

 

 アスナからすれば、共にレベル上げにいくのだから、人数の多い方が効率的。また、ノートはアスナにとって、気のおけない数少ないプレイヤーの1人だ。てっきりエルと共に来るものかと思っても不思議はない。

 

 そんな純粋なアスナの疑問に対し、少し表情に影を落としたエルは今回不在にしているノートのことを話始める。

 

「昨日、キリトさんから連絡が来たんです。同じビーストテイマーのプレイヤーがテイムしたモンスターを失って困っていると。キリトさんがそのビーストテイマーの方と蘇生アイテムを入手しに行ったらしいのですが。キリトさんにはその後、他のご予定があったらしく、そのテイムモンスターが蘇生されるまで、ノートさんについていてもらえないかと」

 

「…うちのキリト君がすいません」

 

「いえ、アスナさんが謝ることでは」

 

「でも、どうしてキリト君はわざわざノートさんにそのことを?彼、あまり自分のことは話したがらないので」

 

「私もノートさんから全て伺ったわけではないんですが…どうやらそのビーストテイマーさんは下層では有名な方らしくて。せめてテイムしたモンスターが蘇生するまでは護衛が必要とのことでして」

 

「ああ…確かに…追っかけとか、出待ちとか、パパラッチとか…。知名度が上がる毎に余計な厄介ごとには巻き込まれやすくなりますよね…。エルさんも大変じゃないですか?」

 

「いえ、私は特にそういったことは?」

 

「え?でも、エルさんのこと…【白夜叉姫】のことを知らない人なんて、ほとんどいない筈ですよ?」 

 

「私たちにギルドホームはありませんし、それに私だと気づく方はほとんど攻略組の方です。これまで、徹底してきた甲斐がありました。継続は力なり、ですね?」

 

 エルは頭に両手を当てながらコロコロと笑う。その意味に気付いたアスナは感嘆の声を漏らす

 

「___あ、そっか、フード。私も被っておくべきでしたかね?」

 

 【白夜叉姫】というプレイヤーの存在は知っていても。その容姿を。エルというプレイヤーに関する情報は非常に少ない。これまで、異常なまでに顔を晒さなかったのは、こういった弊害を回避するためでもあったのだ。同性のアスナから見ても、エルは美少女だ。戦闘の姿を観ていなければ白雪姫という愛称で呼ばれていても何も違和感はないほどに。エルはアスナの独白に食いつくように拒否の意向を見せる。

 

「いえ、それはアスナさんの愛らしいお顔が見えなくなるので嫌です。やめてください」

 

「…私だって、エルさんのお顔、もっとちゃんと見たいです」

 

「ごめんなさい。室内ならまだしも屋外では…。ノートさんからの言いつけなので」

 

「…どうしてそこまで素性を隠そうとするんですか?エルさんなら、フードをとれば殆どのプレイヤーは好意的に接して来る筈です。そうすれば…貴女を死神呼ばわりする一部の人たちもきっと考えを改めて__」

 

 

 

「アスナさん」

 

 エルの柔らかく。しかし、どこか感情の抜け落ちたような声音がアスナの耳管を震わせる。アスナは熱から覚めたように、己の失言を恥じ、すぐさまエルに謝罪する。

 

「っ!?…ごめんなさい、私…」

 

「いえ。貴女が私のことを大切に想って下さっていることは私が一番よく分かっています。でも…だからこそ私は極力、素顔を晒すわけにはいかないんです」

 

「それって、どういうことですか?」

 

「アスナさんは現実世界で人が亡くなる理由で一番最初に何が思い浮かびますか?」

 

 エルからの突然の問いかけに、躊躇いながらも返答するアスナ。

 

「…病気や災害、でしょうか?どちらも多くの人の命を奪うものです」

 

 正解です。と、どこか教師の空気を思わせて戯けて見せるエル。しかし、ですがと続いたその後のエルの言葉にアスナは全身の血が凍りつくような恐怖を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人です。人が人を殺める」

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 〜黒鉄宮送還後 キリトのログより抜粋〜 

 

『ノート。ちょっといいか?』

 

『お前の方から連絡とは珍しいな。どうした?例の件に動きがあったか?』

 

『35層で例のオレンジギルド・タイタンズハンドの構成員を捕らえた』

 

『上々の成果だな。それで?』

 

『姿を観たわけじゃないが。黒鉄宮に奴らを送還してる途中、こちらを伺うような視線を感じた』

 

『奴らのゆすりや殺しの手口は4ヶ月前に歌姫を殺害したものと同種のものだ。しかし、奴らのレベルではその手口で使用する必要なアイテムの自力入手は、当時の情勢を考えても事実上不可能。現場の痕跡と状況証拠からも、第三者の介入があったと見るべきだ』

 

『俺もそう思う。今回も、奴らはプネウマの花と言われるレアアイテムを狙って動いていた。前回の【鎮魂の奏具】強奪事件。あれも実行犯は今回のギルドだが、持ち主のプレイヤーを殺害したのは別の人物だ』

 

『ラフィン・コフィン。嗤う棺桶とは、よく言ったもんだな。全くもってクソったれな連中だ』

 

『殺害されたプレイヤーの恋人が、なぜその情報を今まで言わなかったのかが謎だが、これで奴らの尻尾が掴めるかもしれない』

 

『キリト。今回は俺が現地に行く。適当な理由をつけて、今回渦中にいるテイマーの子に顔をつないでおいてくれ』

 

『危険じゃないか?このまま俺が同行した方が』

 

『お前は顔が割れすぎている。それじゃあ、敵さんも出せる尻尾も出しはしない。少し装備の質を下げて、フードをとれば、誰も俺だと気付かん』

 

『分かった。じゃあ、俺は今回の件で攻略組の方で何か情報が出回ってないか、アルゴと連携して情報を集める。何かあったらすぐに俺を呼べ。いいな?』

 

『了解した。神様の汚点。人間の失敗作共相手だ。精々俺もスクラップの一員にならないよう気を付ける。頼んだぞキリト』

 

 

 

〜とあるキリトのメッセージログ 終〜 

 




来週にはヴァイオレットエヴァーガーデンが劇場公開ですね。

自分はコロナが怖くてFateの三章すら観に行けていませんが、円盤購入予定なので我慢します(涙)

今回もありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。
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