「恋って…何だろうな?」
「は?気持ち悪いんで、とりあえず病院にでも行ってきたらどうですか?」
「通院してキモさが治るなら喜んで行く」
「気持ち悪いこと言ってる自覚はあるのがホントにタチ悪いんですよね…」
「お前も三日で随分と俺に慣れたな。猫を被るのも大変だったろ?」
「ノートさんと話してると、そういうの無駄だって心底思ったので」
「理解してくれたようで、俺は嬉しいよ」
「そういうのが気持ち悪いんですって」
「で?世間一般でいう恋って何だと思う?」
「それは…片想い、両想いに限らずドキドキすることじゃないですか?自分だけを見て欲しいとか。好きって言って欲しいとか。触れ合って、相手の一番近くの深いとこにいたいとか。たまに喧嘩して相手の知らない一面に触れられて、また仲良くなったりして」
「分かった。もう十分だ。…薔薇色成分過多で吐きそう…」
「じゃあ何で聞いたんですか?」
「今追ってる事件調査に、当たらずとも遠からず関係しててな。被害者男性の心情がどうにも掴み切れなくって」
「それって私が聞いてもいい話ですか?」
「この三日でお前のプレイヤースキルはある程度まで向上した。こと対人戦に於いては同レベルの一般プレイヤー相手なら簡単にあしらえる。レッドプレイヤーに狙われても時間稼ぎ程度はできるだろ?」
「何で私なら事件に巻き込んでも問題ないみたいな話の流れになってるんですか?嫌ですよ。要らない火種を撒かないで下さい」
「もしもの話だから大丈夫だ。この三日で例のギルドの構成員は全員キリトが捕獲したし。こちらを探ってくるような目もない。俺とキリトはある程度頭の螺子が飛んでる自覚があるから、本当に、純粋に一般的な意見が聞きたいだけなんだ」
「キリトさんを貴方と一緒にしないで下さい」
「…お前のそのキリト至上主義。早めに治さんと、いつか痛い目見るぞ?」
「だって、キリトさん。今はフリーじゃないですか?だから私が美味しくいただいても何も問題はない訳で」
「妹と同世代の子に手を出すのは、男として以前に。世間体的にどうかと思うが…」
「常識は打ち破るためにあるんです」
「倫理は守れよ?…それに…いや、何でもない」
「何ですか?また何か私を怒らせるようなこと思い付いたんですか?」
「どちらかというと落ち込むようなことかな?」
「じゃあいいです。聞かなかったことにします。___それで?被害者の男性についてでしたっけ?」
「ああ。男性をA氏。その恋人をB氏と置く。A氏とB氏はとあるギルドに目を付けられた。そのギルドはB氏のレアアイテムの奪取が目的だった。ギルドの罠に嵌められたB氏は、A氏の命と引き換えにそのレアアイテムをギルドに渡した。その後、B氏は大量発生したモンスターに襲われ命を落とした」
「ちょっと待って下さい。疑問が2つあります。まず、男性のAさんはそのギルドに拘束されていたのか、それとも、猶予も残されていない命の危険に晒されているような状態だったのか?それによっても、恋人であるBさんの行動も変わったかとと思います」
「俺も資料でしか情報を得ていないから細かいことは言えんが…やり方は何でも良いと思う。シリカがプネウマの花を獲得した帰り道で遭遇したタイタンズ・ハントみたいに、集団で囲って圧力を掛けるとかな。寧ろ、遭遇戦のような形の方が犯人からすれば都合が良い。人質を取るのは有効だがリスクもある。こちら側に対応策を考える時間を与えてしまうからな。ターゲットに隙を与えないためには、圏外で、偶然を装った犯行に及ぶのが確実だ」
「では、Bさんは殺されそうになったAさんを守るために、相手の要求に応じたと?」
「そう推測される。事実、生き残ったA氏は弱かった自分を相当悔やんだみたいだな。気持ちは分からんでもない」
「…では、二つ目なんですが。Bさんの死因はモンスターの攻撃によるものであって、PKではないんですか?」
「A氏によると、アイテムを渡したらあっさりと二人は解放されたらしい。その後にモンスターの大群に襲われた訳だが」
「それだと、AさんはBさんを置いて逃げたんですか?普通に考えると、二人とも逃げ切るか、逃げられないかですよね?」
「元々、B氏は戦闘向きのプレイスタイルじゃなかったらしい。今でこそ必須の携帯アイテムになっているが、当時は転移結晶も高価で、攻略組と違ってギリギリの勝負をしてきた訳じゃないB氏には、転移によって生き残る選択肢も初めからなかったということだ。A氏は最後までB氏を守って戦い、そしてB氏を守ることは終ぞ叶わなかった」
「Aさんは…攻略組だったんですか?」
「どうしてそう思った?」
「ノートさんの言い回しがそんな感じだったので。それに、転移結晶はあったんでしょ?一つだけ」
「正解だ。A氏は自分の持っている転移結晶をB氏に渡して、B氏が逃げるまでの時間を稼ごうとした」
「でも、恋人を置いて行けなかったBさんは転移結晶を使うことを躊躇した」
「結果はさっき言った通り。A氏はそのままモンスターにやられて命を落とす。B氏も彼女の後を追おうとしたが、偶然通りかかった他のプレイヤーに助けらて急死に一生を得た訳だな」
「もう一個、質問いいですか?」
「何だ?」
「どうしてこれが事件になるんですか?アイテムの強奪は兎も角。モンスターにやられたのなら不慮の事故では?」
「俺も最初はそう思った。だが、事件の報告書を読み込む内に、不可解なことが見えてきた」
「不可解なこと?」
「一つはタイミングの良さだ。レアアイテムをギルドに狙われたことも。アイテムを渡したら相手がすぐさま引いたことも。そして何より、その時間、その場所にモンスターが大量発生したことも。これだけのイレギュラーが同時刻に偶然起こったとは考え辛い。それに___本当にB氏はモンスターに殺されたのか?」
「え?でも、被害者の本人が言ってるんですから。そこを疑い始めたらどうしようもないのでは?」
「ああ。だから、最初の疑問に戻るんだ。恋っていうのは、もしかして、狂気的な呪いに近しいもの何じゃないのかってな。シリカ。お前はどう思う?キリトがお前の目の前で死んだとして。お前は一体何を思う?」
「私は……そうなってしまった原因を。何より、キリトさんを守れなかった自分の弱さを許せないと思います。………そっか。だからAさんは…」
「皮肉なもんだよな。一番守りたかったものを守れず。死にたいけど死に切れず。だが、約束だけは果たさなければならない。約束を果たすには、事実を捻じ曲げる他なかった。それが、亡くなった彼女への最大の裏切りと知りながら。それでも、アイツは強く在り続けなければならなかった…」
「ノートさんは、それを知ってどうするんですか?真実を突き止めて。何をするんですか?」
「やるべきことを手短にする。他に、何もない」
〜恋の意味 終〜
◆◆◆
〜2023年10月18日 36層 郊外の廃墟区域〜
強固な石造りが特徴的な建物が乱立する内地(圏内)とは裏腹に、廃墟区域(圏外)では、崩れた石壁が路面を舐めており、足場の悪い道が続いていた。
もとは、戦争時の兵力分散を目的とした舗装路で、四方の内三方を囲む迷路のような構造は侵入者である俺たちを、そう簡単には逃してくれない。
俺は自分の命よりも大切なものを守るため、必死に駆ける。少し開けた場所には遮蔽物となる廃墟があり、俺は彼女の手を引いて石壁の陰に身を隠す。こういう時ばかりは、kobの目立つ白マントに入った赤の刺繍に恨み言をぶつけたくなってしまう。
俺は辺りを警戒しつつ、転移結晶を取り出して隣で不安そうな顔をしている彼女に、結晶を手渡す。少し触れた彼女の手が震えていることに気付き、俺は極力優しい声で彼女を諭す。
「いいか?俺が奴らの気を引いてる隙に、どこでもいいから転移するんだ。それから、宿屋に立て籠もって、俺からメッセージが届くまで、圏内から一歩も出ないようにするんだ」
俺の言葉に目を丸くした彼女。ユナは俺の手を転移結晶ごと握ったまま離そうとしない。
「え?待って、それじゃ、えいくんは?」
ああ。それだと、俺が死んだらユナはずっと引き篭りになってしまうな。そんな、この場に似つかわしくない気の抜けた考え事までしてしまう始末。意外と俺は、彼女のために死ぬのは怖くないらしい。そのことを嬉しく思いつつ、俺は大した事じゃないと努めて明るく振る舞う。
「万が一の時はノートさんを頼るんだ。あの人なら、安全な場所まで連れて行ってくれるから」
「嘘でもそんなこと言わないで!!」
ユナの良く通る声が、廃墟区域に反響する。視界の悪いこのコンディションで、相手に自分たちの位置情報を伝えるのは悪手以外の何物でもない。俺は最早、焦る気持ちを隠す余裕もなく、ユナに早く逃げるよう必死に伝える。
「っ!いいから!早く行け!」
俺の必死の懇願も虚しく。ユナは俺の手を離さない。離してくれない。
「嫌!絶対に嫌!!逃げるなら二人で!えいくんが闘うなら私も闘う!!」
「っ!?くそっ!…こっち!」
俺は索敵のスキルに反応があった方向とは反対の方角に駆け出す。俺はユナを引き寄せると、彼女の膝の下に手を通し、もう片方の手で彼女の背中を覆うように支える。
「!?え、えいくん!?」
「黙って!ユナは足が遅いんだから!こうするしかないだろ!」
小声で叫ぶという、我ながら器用な芸当をこなしつつ俺は再び駆ける。幸いにも、つい数日前まで攻略組の一員として戦ってきた俺にとって。ユナの身体を持ち上げて走ることくらい造作もない。kobで二軍落ちしてしまったとは云え、これまで培ってきた経験値とステータスは裏切らない。俺は索敵スキルを使用し、常に周囲の警戒をしながら障害物を飛び越え。時にはスライディングで潜り抜け。リアルで練習してきたパルクールの技術をこれでもかと披露して、追っ手を振り切る。
再び開けた場所に出て、ユナにマップの確認をしてもらっている間、索敵スキルで辺りをスキャンする。地面にプレイヤーやモンスターの足跡はない。少なくとも肉眼で確認できる範囲で周囲に敵影はなし。俺は心ばかり深く息を吐き出し、気を引き締めるように、ユナを抱き抱える力を強める。
「進路クリア。周囲に敵影見えず。ユナ?後、どのくらいで廃墟区域を抜けられる?」
俺は周囲の警戒のため、地図を見る余裕がない。ユナに現在地と目的地との距離を聞くと、彼女にしては珍しくモゴモゴと、歯切れの悪い返事をしてきた。
「え、えと。も、もう少ししたら、噴水のあるとこが見えるはずだから。後、200メートルちょ、ちょっと…」
「了解。そこまで行けば圏内だ。もう少しだけ我慢してくれ」
「う、うん。ちょっと残念な気もするけど…」
「何言ってんだ。こんな時に______」
それは突然だった。
サクッと。
首に右方向から飛来した何かが当たった。
その瞬間、全身に電流が走るような感覚が駆け抜けた。
俺は急激に動かなくなる身体を懸命に動かし、ユナの後頭部に手を移動させ、彼女が地面に頭を打たないようにする。
逃げろと口を懸命に動かすも声が出てくれない。地面に転倒した彼女が俺の状態を理解すると必死で俺の身体を揺すってくる。
「きゃっ!?ちょっと、落とさないでよ、えいくん!…えいくん?えいくん!?」
右側に倒れたのが失敗だった。彼女からは麻痺毒の塗られたナイフの存在が確認できない。彼女は突然の俺の転倒に動揺し、麻痺の解除にまで思考が追いついていない。
ユナの背後の景色がブレる。
俺は逃げろと叫んだ。
しかし、喉から出たのは、掠れた空気の溢れる音だけだった。
次の瞬間、ユナの身体が弾き飛ばされる。
ユナは突然の衝撃に受け身も取れず、地面を転がって、瓦礫の山に身体を叩きつけられる。帽子がとれ、彼女の綺麗な髪が塵に塗れる。
俺は力を振り絞って、腰に常備している麻痺の解除結晶に手を伸ばす。しかし、虚空から現れたプレイヤーによって、結晶を破壊されてしまう。
鋭い刺突による攻撃。
汚れ、古びたフードから覗く、紅い光。
そして、右手の甲に刻まれた、嗤う棺桶の紋章。
ラフィン・コフィン___
そのプレイヤーは俺を一瞥すると、その口をニヤリと引き伸ばし、倒れているユナの方に歩き始める。
やめろ!ユナに近づくな!!
「え?い、嫌、やめて!?こないで!?」
両手を突いて起き上がったユナの髪を掴むと、彼女を宙にぶら下げる。そして、彼女の喉元に巨大なアイスピックのような武器を突きつける。
ユナは顔を青ざめさせて。
震えながら俺の名前を呼ぶ。
「えいくん…助けて…えいくん…!」
やめろ…!やめてくれ!お願いだ!それだけは…!
俺は痺れ、動かない身体を無理やり動かし、地面を這ってでも前に進む。
そんな俺を見て、さらに笑みを深めたそのプレイヤーは、俺にとって史上最悪の言葉を口にする。
『It's showtime.』
棺桶が、嗤った______
〜投稿前の作者〜
さてと。書き上がったし投稿しよっかな。
…ん?お気に入りに登録者数350?ああ、他の人の作品ね。間違えた間違えた。
………おかしいな?タイトル乗っ取られた?
え?これ?…え?(大混乱)
閑話休題
一時的に日間ランキング9位に乗った時は心臓が破裂するかと思いました。
こんなにも多くの方々に読んでいただけるなんて感謝の一言では言い表せません。
せめてものご恩返しとして、お目見汚しにならない程度には恥ずかしくない作品を綴っていけたらと思います。
アニメではアリシゼーション編が完結し、プログレッシブの制作が発表されました。
これからもsaoのいちファンとして、皆さんと一緒にsaoという名作を楽しんでいけたらと思います。
今後ともよろしくお願いします。
P.S.ザザ…貴様だけは許さん!(←作者の理不尽な怒り)