剣の世界で私は叫ぶ   作:苺ノ恵

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過去のユナ視点
◇◇◇
現在のノーチラス視点という構成です。




018.5

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「    !!?」

 

 鋭く伸びた細剣が喉元を貫き、叫び声すらあげられない。痛みはないのに、身体の内側に異物が混在する圧倒的な違和感が、私の脳に警告を与え続ける。

 

 私はもがく。

 

 髪を掴む手を両手で、必死に相手の腕を掴むがびくともしない。なら、今尚私のHPを削り続けてる喉元の違和感を緩和するため。私は相手の武器を握る。急激に減っていくHPバーが、私の心拍数を加速させる。ドクドクと流れる血液が。激しく鼓動する心臓が。私の残された時間を刻んでいくかのように。

 

 細剣が更に押し込まれる。

 

 後頭部に可笑しな感触があった。剣先が頭蓋にコツっと当たった瞬間。妙な解放感と共に、全ての力が抜けた。

 

 死を覚悟した。

 

 その時に、私が感じたのは死にたくない、という思いよりも。最愛の幼馴染みを案じる感情だった。私が死んだら、彼はどうなるのか?私と同じように殺されるのか?いやだ!絶対に駄目!

 

 この瞬間、私は死の恐怖を忘却する。ただ、大切な人を守りたいと思う一心で思考を加速させる。

 

 私は歯を食い縛って拳を固める。

 

『こうだったよね?えいくん?』

 

 相手の右手首を右手で掴み、左の拳を肘に叩き込む。反射的に肘が逆側に曲がるのを防ぐため、身体を半身廻した相手の状態を見計らい。相手の後頭部に左足を掛ける。左手を相手の肘に絡め、全力で関節を極める。人体の構造に則り、相手は体勢を崩して地面に膝を突く。それはつまり、私の足が地面に着くことと同義だ。

 

 私は、腰に装備していた短剣を引き抜くと、掴まれていた髪を切り落とす。同時に、相手の後頭部に掛けていた左脚で顔面に蹴りをたたき込む。その勢いで、後方に飛び退き、喉を貫通していた細剣を外す。

 

 相手と距離をとってHPバーを確認すると、約2割のHPが残っていた。

 

 私はまだ生きている安堵と同等の驚きを感じずにはいられなかった。

 

 先ほどのような、拘束から抜け出す力なんて私にはなかった。それができたのは、かつて私たちに戦い方を教えてくれた人がいたからだ。眠そうな目で、めんどくさそうにしながら、それでも丁寧に、私たちが理解できるまで、無償の善意で教えてくれた人が。

 

 私がえいくんに視線を向けると、彼はポカンとした表情で私を見ていた。

 

『大丈夫』

 

 無音の言葉を彼に送る。

 

 声が出てくれないのだ。

 

 無理もない。声帯を潰されてるのだろう。喉から空気の洩れる音が聞こえる。これじゃあ、助けを呼ぶのも難しい。

 

 自身の状態を確認したのも束の間。相手が再び私に接近する。私は考える。私ではコイツに勝てない。私は生き残れない。私は死ぬ。死ぬまでの時間で。私はどうしたらいいのか?私は何をすべきなのか?…答えは決まってる。

 

 右手を背に回す。そして____

 

 

 

 

 〜彼女の選択〜

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「______あああぁぁぁぁ!!!」

 

 悪夢が醒める。

 

 ベッドから身体を起こし、喉元に手を伸ばす。

 

 痛みを錯覚するほどに、脳が熱を発しているのにも関わらず、指先は驚くほどに冷たい。身体が震える。恐怖が蘇る。俺は身体を折り畳み、両耳を塞いで目を瞑る。

 

 何も見たくない。

 

 何も聞きたくない。

 

 何も感じたくない。

 

 もう、生きたくない。

 

 死ねよ。

 

 早く死ねよ俺!

 

 ユナがいない世界で。

 

 俺が生きていい理由なんて…ないんだよ…。

 

 その時、俺の手に柔らかな温もりが重なった。

 

「…ノーチラスさん?」

 

「………ミウ?」

 

 目を向けると、部屋着になった彼女がいた。風呂から上がったばかりらしい彼女の身体は少し高揚しており、女性と少女の狭間に揺れ動く背徳的な魅力を内包していた。

 

 彼女は俺の肩に両手を置くと、ゆっくりと俺の背中に身体を重ねる。そして、彼女の綺麗な声が、俺の耳を震わせる。

 

「はい。ミウです。私は、ここにいます」

 

 震えがおさまる。彼女の体温が。感触が。香りが。存在が。俺に安らぎを与えてくれる。

 

 ユナが亡くなって、久しく感じていなかった。人の温もり。

 

「…ごめん。少し取り乱した。もう大丈夫だから……ミウ?」

 

 少しばかりの冷静さを取り戻し、別の意味で冷静さを欠こうとしている自分がいることを自覚し、俺は彼女から身体を離そうとする。

 

 しかし、彼女は離れない。離れようとはしない。俺の胸の前で組んだ腕に、一層の力が籠る。

 

 耳に触れる吐息が熱い。いつしか彼女の呼吸が、どこか艶かしいものになっていると気付いた時。俺はもう既に溺れていたんだと思う。

 

「あの…こんな時に、こんなこと言うの、卑怯だって思うんですけど………。ノーチラスさん……私じゃ駄目ですか?」

 

「え……?」 

 

「私じゃ、ユナさんには、敵いませんか?」

 

「何を言って…?」

 

「優しくて、綺麗で、歌が上手で、いつも笑顔で…。ユナさんと比べて、こんな私なんかじゃ、逆立ちしたって敵いっこない。そんな私じゃ、貴方の隣には居られませんか?」

 

「やめろ、ミウ。俺は…」

 

 俺は彼女が言わんとしていることに気付き、形ばかりの抵抗を示す。その全てが間違いだった。俺は彼女を突き放すべきだったんだ。いや、そもそも、彼女との関係はあのカフェで終わらせるべきだったんだ。でも、もう何もかも遅い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 煙草の味がした。

 

 重なった唇に。絡まった舌先に。俺は彼女を受け入れてしまったことを自覚した。

 

「ノーチラスさん。私は貴方が好きです」

 

「…俺はユナが好きだ。俺は、君のことを好きにはなれない」

 

「はい、知ってます」

 

 再び、煙草の味。

 

「ユナさんを誰よりも愛してる貴方だから…私は、貴方を愛したいって思ったんですから」

 

「……俺は君に何を返せばいい。君の想いに応えられない俺に、何ができる?」

 

「貴方の心はユナさんのものです。なら、私には______」

 

 

  

 〜煙草の味 終〜

 

 




人間味を前面に出した話を書きたいと思ったら、こんなドロドロとした話になってしまいました。

編集前は明らかにR18だったので、R15レベルまで大幅に描写を削ったら文量短くなってしまった…。

短いのでサブタイトルは018.5ということにしました。

また次回もよろしくお願いします。
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