剣の世界で私は叫ぶ   作:苺ノ恵

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「___俺の名前はディアベル。気持ち的に、【騎士】やってます!」

 

 壇上に立ち、攻略会議の舵取りを買って出たのは、青髪と人の良さそうな物腰が特徴的な青年だった。その明るい振る舞いを見て、どうにも辟易した俺の舌は、こぼす筈のなかった心情を吐露する。

 

「あいつとはどうにも仲良くできそうにないな…」

 

 俺の独り言を隣に座っていた千反田が耳聡く捉える。視線は壇上に向けたまま、俺にだけ聞こえる声音で話しかけてくる。

 

「どうしてですか?」

 

「エネルギー消費の激しい生き方だから」

 

「悪い人ではなさそうですよ?」

 

「性格の良し悪しは兎も角、ああいう人を上手く引き込んで使う人間っていうのは、どうにも信用しきれない」

 

「いいことではないですか?会社にだって社長や部長といった職務はありますし、役割を持つことは大切です」

 

「一理ある。だが、信用と信頼は別だからな」

 

「どういう意味ですか?」

 

「ただの目立ちたがりの馬鹿な偽善者か。何かの目的を隠すための隠蔽工作をする道化か。権力で集団を統治しようとしている人間が先陣を切ろうとしている。俺にはあいつが上杉謙信のような活躍ができるとは到底思えないな」

 

「正確には上杉謙信は毘沙門天の化身、神仏の代行者として戦場に立ち、家臣を鼓舞していたと言われるので権力を振りかざすような行いはあまり印象深くないのですが。確かに矢除けの加護とまで呼ばれた逸話は今回のディアベルさんに共通する点はあるのかもしれません」

 

 文字通りデスゲームという戦場の矢面に立つディアベルというプレイヤー。先陣を馬で掛けた謙信に目掛けて射られた矢が、謙信を避けるように軌道を変えた。そんな逸話を彼は再現しようとしているのか。

 

「やり方はどうであれ、人に支持される。それだけで権力は得られる。使い方を誤らなければ、マンパワーほど得難いものはないからな」

 

「そういう意味では折木さんの言う省エネに繋がるのでは?自分は動かない選択肢もあるんですよ?」

 

「あいつの場合にはそれが適用されるだろうが、俺には無理だ」

 

「?何故ですか?」

 

「俺の何処に人を惹きつけられるだけの魅力がある?」

 

「………ごめんなさい」

 

「こういう時だけ物分かりが良くて大変よろしい。___ともあれ、自己の利益無くして人は動かない。現状、リスクしかない攻略組のリーダーになる利益って、一体なんなんだろうな?」

 

 昨日、俺たちがボス部屋の探索で得た情報をディアベルが会議に集まったプレイヤー達に伝達し共通認識を生み出す。途中、βテスターのSAO開始時の対応に関して疑問の声も上がったが、黒人プレイヤーの一言もあり事態は熱を帯びる前に鎮火された。

 

 あいつは場の空気を掴むのが得意らしい。締めは常套句である【ゲームクリアの証明】だ。これほど分かりやすく、人を乗せるやり方なのに、使える人間は選ぶなんて神様とは随分と理不尽な存在なんだな。そんな能力欲しいとも思わないが。

 

 盛り上がるプレイヤー達との温度差を感じつつ、会議の進行を見守っていると、珍しく千反田が結論を出した。

 

「それも、明日には分かることです」

 

「…そうだな」

 

 攻略会議は筒がなく進行していく。

 

 __と、ここでディアベルがパーティについての提言をした。

 

 4人1組の編成。

 

 コミュニケーション能力の最奥が見られる瞬間だな。これほど残酷なふるいは未だ嘗てないだろう。

 

「千反田、アテはあるか?」

 

「そうですね…」

 

 千反田は辺りを見渡し、会議場上段の席で話している男女のプレイヤーを見つけ出す。

 

「あの方たちはどうでしょうか?丁度男女半々になりますし、向こうにとっても悪くない話では?」

 

「だな。じゃあ任せる」

 

「え?折木さんが交渉するのでは?」

 

「こういうのは苦手なんだ」

 

「…分かりました。クリーム2瓶で手を打ちます!」

 

「最近、お前のことがアルゴに見えてきたよ…」

 

「え?3瓶にして下さるんですか?」

 

「悪かった。もう情報屋のことは言わないから、さっさと交渉してきてくれ」

 

「一緒にいきましょう。そうしたら先ほどの手打ちは解消です。大丈夫です。私の後ろに居てくれるだけいいので」

 

「…わかった」

 

 アルゴの名前を出すと千反田は機嫌が悪くなる。注意しておこう。

 

 俺たちは溢れ組の二人の元に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

「___さて、これで一応パーティは組めたが…四人は無理そうか…」

 

 無茶なレベリングをしていた細剣使いの女性プレイヤーをパーティに誘えたものの、他はもうパーティを組み終えており、溢れ組の俺たちは二人のパーティで攻略に参加することになるなと妥協し掛けていた。

 

 そんな俺たちの元に二人のプレイヤーが近寄ってくる。二人ともフードの付いた装備を目深にかぶっており、如何にも怪しげな様子だったが、女性プレイヤーのフードから覗く綺麗な銀髪と穏やかな声音で、そのプレイヤーが有名人だと気付いた。

 

「突然すみません。私は【エル】といいます。こちらは私のパーティメンバーの【ノート】さん。もし良かったら私たちをお二人のパーティに加えて頂けないでしょうか?」

 

 情報はアルゴから聞いていた。最前線で闘う女性プレイヤーがいると。そして、その隣で彼女を守る盾となる手練れのプレイヤーがいると。

 

 悲しいかな。寡黙で根暗っぽい細剣使いならいざ知らず、妙齢の女性相手では俺の言語機能も上手く維持できない。人と話す時、吃るのは廃人ゲーマーの性か…。舌が縺れそうになりながらも、俺は失礼のない様に先方の依頼を受諾する。

 

「あ、勿論です。こちらこそよろしくお願いします。俺は【キリト】です。こっちの細剣使いが【アスナ】。ちょっとおかしな奴ですけど剣の腕は確かなので気にしないでください」

 

「……」

 

 俺がアスナの紹介をした時、当の本人が訝しげな視線を俺に向けていた。だが、すぐに視線を外すと先方の二人に会釈をした。俺にはぞんざいな態度だった癖に…。

 

「キリトさんにアスナさんですね。分かりました。これからよろしくお願いしますね!」

 

「こ、こちらこそ」

 

 ディアベルがパーティにナンバリングして明日の集合時刻と場所を伝えた後、会議は終了となった。

 

 即席のパーティとはいえ連携は大切だ。すぐにお互いのスタイルについて話し合おうと思っていたのだが、細剣使いは話は終わったとでも言わんばかりに足早に会場を去ろうとしていた。

 

(あいつ…。まあいいか。元々、話を聞くような感じじゃなかったし)

 

 俺が視線を戻すと隣にいたはずのエルさんの姿も消えていた。

 

「あれ?エルさんはどちらへ?」

 

「お前の相方を追いかけて行ったぞ?」

 

 俺の疑問にノートさんが答えてくれた。 体格は俺と然程変わらないのに、言葉に芯があると言うか、気怠さの中に強さが見え隠れしているような不思議な声だった。

 

「気づかなかった…」

 

「アイツは好奇心の化け物だからな。突飛な行動はするし頭の中は天然だが、超の付くお人好しだ。あの子のことは任せて大丈夫だろう」

 

 意外だった。アルゴから聞いた話だともっと完璧超人の近寄り難いみたいな印象だったから。

 

「あいつはこの間、迷宮区で偶々エンカウントして、偶々会議場の近くの席に座っていただけで相方ではないんですが…。ノートさんはエルさんとパーティを組んで長いんですか?」

 

「元々俺たちは同じ学校の部活仲間でな。知り合いだからパーティを組もうってなるのにそんなに時間は掛からなかったな」

 

「知り合いだから?」

 

「ん?何か変か?」

 

「い、いえ。全然」

 

 ノートさんはノートさんでちょっと不思議な人だな。考え方が独特というかなんというか。

 

「言い辛ければタメ口で構わない。変に気を使われるとこっちも気疲れする」

 

「…ああ。分かった。これからはノートって呼ぶよ」

 

「そうしてくれ。___ともあれ、妙なことになったな」

 

「妙?」

 

 ノートはディアベルを見ながら、それでいて他のモノを見てるような目で独りごちた。

 

「今回のボス戦の布陣だ。俺たちの役割は取り巻きの処理。だが、前線が疲弊し、陣形が崩れた際のケアがこの距離だと間に合わない可能性がある。俺は兎も角、ディアベルがエルの実力を知っていない筈がない。ここに俺たちを配置する意図があるようでどうにも気に入らない」

 

「単に、パーティの編成順じゃないのか?ノートの考えもなくはないけど、あくまで推論だろ?」

 

「…そうだな。まあ、ただのぼやきだと思って聞き流してくれ」

 

「…ノートって枯れてるって言われないか?」

 

「言われるが否定する。俺は省エネなだけで枯れてはいない」

 

「分かった。折れてるんだな」

 

「何をしたり顔でほざいてるんだコミュ障」

 

「な!?ノートだって同じだろ!」

 

「違うって言うならエルと話をする時は目を見て話せ。胸ばかり見るな。変態認定されるぞ?」

 

「むっ…!?し、仕方ないだろ!お前らフードを被ってて此方から目なんて見えないんだから!」

 

「それでも初対面の女に向かって胸ガン見はダメだろ。思春期なのは分かるが」

 

「大きなお世話だ!」

 

 なんなんだこいつは。妙に図星をついてくるのが上手い。どこまでも理詰めで用意周到に人を弄ってくる。

 

 俺が取り乱しているのを横目に見て鼻で笑ったノートは、席を立って闘技場の方を指差した。

 

「取り敢えず決闘でもするか。お互いの力量を確認するにはそれが最も効率的だ」

 

「上等だ。ボコボコにしてやる!」 

 

「お手柔らかにな」

 

 これ以上、何か言われる前に俺は先に闘技場目掛けて駆け出した。

 

 ムカつくし腹が立った。でも、不思議と悪い気はしなくて。俺はノートとの会話に、どこか心地よさを感じていた。そんな自分がいることを自覚して、余計に腹が立つのであった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

「待ってください!アスナさん!」

 

「…なんですか?」

 

 まだ何か用ですか?

 

 そう言わなかったのはまだ私に少しだけ余裕が残されていたからなのか。CPU以外の女性から話しかけられたのは実に一ヶ月ぶりのことだから無意識に気を遣ったのかもしれない。

 

「私とデートしましょう!」

 

「………は?」

 

「私とデートにいきましょう!」

 

「聴こえてます。…なんで私なんですか?ノートさんを誘えばいいじゃないですか?」

 

 お付き合いしてる男性の名前を出せば少しは狼狽えるだろう。そこで間髪入れず、エルさんの申し入れを拒絶すればいい。そう考えていた私の発想は大きく裏切られることになる。

 

 エルさんはフードに手を掛けると、綺麗な銀髪を露わにしながら、大きな瞳で私の心を揺さぶった。

 

「貴女のことが気になります。これでは、理由になりませんか?」

 

 不思議な人だった。この人の言葉には本当に裏表がなくて、見てられないほどに純粋な人なんだと、なんの脈絡もなく思ってしまった。

 

 私はエルさんの視線から逃げるように、フードの縁を持って彼女の頭に被せる。身長は私の方が高いのに、彼女と比べると自分の方がよっぽど子供っぽく感じられる。変な感じ。

 

「……デートはしません。…でも、私の行くところとエルさんが行くところが偶然重なってしまうのは仕方ありません」

 

 だから、こんな風に妥協してしまった。

 

 エルさんは嬉しそうに口元を綻ばせながら私の手を握ってくる。

 

「はい。仕方ありませんね!」 

 

 フードを被せておいてよかった。彼女の無邪気さは同性の私から見ても目の毒だ。

 

「アスナさんはこれからどちらに?」

 

「食事を済ませてからレベル上げに行こうかと…」

 

「奇遇ですね!私も全く同じ予定です!じゃあ、いきましょうか!」

 

「ちょ、ちょっと!?エルさん?一人で歩けますから、離して下さい!」

 

「アスナさんの手はすべすべで柔らかくて気持ちいいので嫌です」

 

「きっ…!?恥ずかしいから実況しないで!」

 

 手を引かれて歩いて行く。一ヶ月ぶりに感じた人肌の温度に、荒み切っていた心のささくれが癒されて行くようだった。

 

 お姉ちゃん…。

 

 兄しか兄妹のいない自分にとって、ありもしない感覚。そんな不思議な気持ちを彼女に抱き始めていた。

 

 でも、この時の私はただ彼女に振り回されるだけで精一杯だった。気がつけば私は笑っていた。

 

 SAOという世界に来て。始めて楽しいと、そう思えた日だった。

 

 

 

 

 

 

 




前夜どころか昼間までしか書けなかった…。

キリアスの登場です。

細かい設定や時系列の矛盾は無視して勢いだけで書き上げてます!

遅くなりましたが感想をくださった皆様ありがとうございます。

更新頑張ります。
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