【対魔忍RPG】――殲血の紅姫――心願寺紅 作:unko☆star
紅は対魔忍の男を背負い、墓地からやや離れた場所にある古い倉庫に運び込んだ。
かつては地元の工務店が様々な資材を保管していた場所だったのだが、それが潰れてから現在まで借り手がつかず、敷地内は荒れ放題になっている。
男は紅より一回り大きな体格をしていたが、その体は驚くほど軽かった。
吐血はしたものの外傷はなく、持ち物は刀と大きなアタッシュケースのみであった。
(この男、ずいぶん前から病に侵されているらしい…。おそらくは、死病…)
他に倒れていた三人はいずれも峰打ちで叩きのめされており、放っておいても命に別状はない、と紅は判断した。
(つまりこの男は、病に侵された体であの三人と戦い、一切の手傷を負わずに峰打ちで仕留めたことになる…。かなりの手練れだな…)
周囲を警戒しながら、仰向けに寝かせた男の顔を改めて観察する。
太い眉に細い目、高めの頬骨といった“いかにも”な優男の顔立ちだが、いたるところに刻まれた皺がそれを10歳も20歳も老けて見えさせる。
髪は綺麗に整えてある一方で頬から顎にかけて無精ひげが目立っており、どうもちぐはぐな印象を受ける。
対魔忍として戦いに明け暮れた日々が、男の風貌をこのように作り変えてしまったのだろうか…。
「う………」
ふいに、男がうめき声を上げ、ゆっくりと目を開いた。
「目が覚めましたか」
「あ……」
「ご安心を。私も対魔忍だ。あなたをここに運んでからだいぶ時間が経ちましたが、どうやら追手はかけられていないらしい」
「対…魔忍……」
「はい。心願寺紅と申します」
「心願寺…?」
男が上体を起こす。
「もしや、“殲血の紅姫”…?」
「まあ…そのように呼ばれることも…」
殲血の紅姫とは、紅が必殺技“絶技・旋風陣”で敵をなます切りにし、全身に大量の血を浴びることから付けられた異名である。
無論、本人がそう名乗っているわけではないが――。
「危ないところを助けて頂き、有難うございました。私は
「刀をお返しします。それと、こちらも――」
「おお…」
大嶺は紅から差し出された刀よりも先にアタッシュケースに飛びつき、念入りに状態をあらためると、深い安堵のため息をついた。
「本当に…有難うございます。ほんとうに――」
言葉が嗚咽交じりになる。
(やはり、このケースに入った品物を運ぶ任務中だったのだな…)
紅が大嶺を病院に運び込まなかったのも、ひとえに彼の任務の支障になってしまう可能性を考慮したためであった。
運び屋としての任務は絶対秘匿が常識であり、安易に人の目に触れることは避けなくてはならない。
ここがセンザキであれば付き合いのある闇医者に診せることもできたのだが、田んぼと畑に囲まれた田舎町ではそうもいかない。
「助けて頂いたうえ、大変恐縮なのですが…。私、先を急がねばなりません」
「もう少し休んでいかれては…。随分、体を酷使されているようだ」
「ええ、まったくその通りで…。私の人生も、だいぶ残り少なくなっているようです」
そう言いながらも、大嶺の顔には微笑が浮かんでいた。
覚悟を決めた人間の顔に宿る、力強い微笑であった。
「ですが、これだけは…。これだけは、何としても送り届けなければならないのです」
「――そうですか」
大嶺は手早く身支度を整え、大事そうにアタッシュケースを抱えた。
「もう、お目にかかることは無いでしょうが…。このご恩、決して忘れません」
紅に向かって一礼し、頭を上げるか上げないかのうちに、その姿は煙となって消えていた。
――――――
――――
――
数日後。
紅はアジトに友人の篠原まりを招き、彼女の作った団子を楽しんでいた。
「ふむ、みたらし団子も手作りだとこんなに香ばしくなるのか…。この出来立ての味は、なかなか真似できないだろうな」
「そ、そうですか?えへへ…」
まりは顔をふにゃけさせ、紅の淹れた緑茶を口に含む。
この団子のレシピはとある人物の遺品から学んだのだが、彼女の真面目さも手伝い、今ではほぼ完ぺきに習得するに至っている。
「しかし、自分の家でこんなに山盛りの団子を見るのは初めてだな…。わざわざあやめや
「えっ?」
「うん?もしかして全部私に作ってきてくれたのか…?」
「あ、いえいえ!もちろん、皆さんのぶんですよ!ええ!」
(わたし、いつもこれくらいは一人で食べちゃうけど…。やっぱり、食べすぎ、だよね…)
(うぅ~。紅さんに対してなんて恥ずかしいところを…)
メガネを手で上げ下げしながら作り笑いをするまりだったが、かえってそれが動揺していることをバレバレにしていた。
「そうだ紅さん、頼まれていたものなんですが…」
そう言ってまりがカバンから取り出したのは、赤いファイルだった。
表紙に『五車』の文字と五車学園の校章が描かれている。
「ありがとう。五車を追放されている身としては、あまり他の対魔忍について調べることは不得手なものでな」
「そんなこと言わずに五車まで来てくれたらいいじゃないですか…。これだって、校長先生がちゃんと許可して渡してくれたんですよ。紅さんなら安心だって」
「…そうか」
ファイルを受け取った紅の顔に微笑が浮かんだ。
「ただ…」
「なんだ?」
「その…大嶺志狼さんの資料、私も拝見したんですが…。どうやら紅さんと同じで、五車を追放処分になっているみたいです」
「追放されている…?」
「詳しいことはその中に書かれているんですが、その、かなり酷い事件を起こしてしまったらしくて…」
紅の脳裏に、あの夜の大嶺の姿が浮かぶ。
泣きそうになりながら礼を述べ、煙となって消えたあの男が、どのような事件を引き起こしたというのか――?