【対魔忍RPG】――殲血の紅姫――心願寺紅 作:unko☆star
紅は一度センザキに戻って衣服をあらため、この日の午後に再び河原崎邸を訪れた。
屋敷の門を叩くと、すぐに駆けつけてきた使用人が紅を座敷に通し、やがて天心が満面の笑みをたたえてやってきた。
「昨夜は大変失礼いたしました。急な任務で…」
「いやいや、対魔忍とはそういうものじゃよ。しかし、こうも早く来てもらえたということは、無事に厄介ごとを片付けられたということじゃな」
「いえ、まだこれからです」
そう言って紅は、天心にアタッシュケースを差し出した。
「なんじゃ、これは…?」
「ご存じのはずです。これは先日、先生が大嶺志狼様に渡したお金なのですから」
天心の老顔が、火鉢の灰のような色に変わった。
「大嶺さんは昨夜、ヨミハラのマフィアの残党に討ち取られました。いえ、わざと討たれました」
「なっ…」
「いえ、私に打ち明けられたのは大嶺さんの奥様です。大嶺さんは最期まで先生への義を通し、一人で全てを背負って命を落とされました」
「奥様…澪波さんから、全てを聞きました。先生の過去の過ちについて――」
紅が淡々と告げる。
座敷に通されてからずっと、紅は天心と目を合わせていなかった。
「それは、口にするのもおぞましい鬼畜の所業――」
「異 常 性 愛 者」
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河原崎天心には、幼児性愛の嗜好があった。
はじめて女児を毒牙にかけたのは17歳の時。それ以来、
これらの所業が表ざたにならなかったのは、ひとえに天心が優秀な対魔忍であったからに他ならない。
五車にも、戦友の心願寺玄庵にも知られることのない、まさに秘密の趣味であった。
しかし、天心が妻を持ち、父親となり、やがて孫も生まれるころになると、天心のなかの悪魔も徐々に力を失っていった。
だが、一度身を焦がした邪悪な炎は簡単には消えない。
8年前、大嶺が凶行に走ったあの日、天心はヨミハラで一人の少年に出会っていた。
一人で路地をうろついていたため、迷子かと思って声をかけたのだが、運悪くこの少年の外見は天心の“タイプ”であった。
瞬く間に、数十年前に消えたかに思えた黒い炎が天心を包み、悪魔が蘇った。
(ぼうや、迷子かい?おじいちゃんがお家を探してあげよう)
(迎えが来るまで、おじいちゃんの部屋で休んでいきなさい。新作ゲームもあるよ)
天心は少年を安ホテルの一室に連れ込んだ。
(さあ、おじいちゃんの言うことを聞いてくれたらゲームをあげるよ)
(オチンチン見せて)
それから数時間にかけて、天心は少年を嬲りつくした。
しかし、数十年ぶりに解き放たれた悪魔の劣情は激しく、かつては無意識にしていたはずの力の加減を完全に忘れてしまっていた。
天心が我にかえったとき、目の前には頸を折られ、糸の切れた人形のようになった少年が横たわっていた。
(事故で人を殺めてしまった。死体を隠してもらいたい)
大嶺が任務でヨミハラにいることを知っていた天心は彼を呼び寄せ、死体の処理を命じた。
かつては自らで行っていたことだが、今の自分にかつてのような優秀な対魔忍としての能力が備わっていないことを、先ほどの行為で実感していたためであった。
(孤児だったお前を拾い、五車に移ってからも援助を続けていたのは誰か…忘れてはおるまい?)
大嶺は渋々ながらも承諾し、天心は急いでヨミハラを脱出した。
不幸な少年が、お忍びで家を抜け出していたマフィアのボスの息子だとわかったのは、この後のことであった。
たとえ遺体を秘密裏に処理できたとしても、マフィアのボスは血眼になって息子の行方を捜すだろう。
そしていずれは真実が明らかになり、天心に追及の手が及ぶはず。マフィアの捜査網は人間界の警察など及びもつかないほど強力なのだ。
かくして、大嶺は自分ひとりにマフィアの目を向けさせるため、あの大芝居を打った。
全てが済んだのち、妻の澪波にもなにも告げずに出奔したが、澪波もまた対魔忍の出であり、すぐさま夫の居場所を突き止め、地の果てまでも供をすると誓った。
それこそが、8年前の真実である。
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「大嶺さんは戦災孤児だったところを先生に保護され、五車の対魔忍となったのちも援助を受けていたそうですね。事件を握りつぶしたのも、同じように先生が恩をかけたものたちの仕業でしょう」
「…帰れ」
紅から目を逸らしたまま、天心がぼそりと呟く。
「夫は最期まで先生に尽くし、先生からのご恩に報いようとしました。そのことを忘れないで欲しい…と、澪波さんから伝言を預かっています」
「帰れ」
「本日参ったのは、澪波さんからの伝言をお伝えするためと、このお金をお返しするためです。どうか――」
「出ていけ!!」
天心が声を張り上げ、仁王立ちとなった。
紅は畳に両手をついて残りの言葉を告げた。
「どうか、大嶺さんのことを、忘れないでください。失礼致します」
座敷を後にしようとする紅の背中に向けて、天心が震える声で呼びかけた。
「おのれと、おのれの祖父がわしから受けた恩を忘れるなよ。よいか」
「もちろんです。今日の私があるのは、すべて先生のおかげ。なにがあろうとそれは変わりません。……しかし、ひとつだけ」
紅が振り向き、この日はじめて天心の目を見据えて言い放った。
「天心先生………あなたはクソだ」
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数日後。
祖父、玄庵の墓前に詣でる紅の姿があった。
どんよりとした鉛色の空から、霧のような雨が延々と落ちてくる。
紅の表情もまた、そのような空模様を写し取ったかのように暗かった。
(天心先生がしたことは、許されるべきではありません…。ですが、結果的に私は、大恩ある方を裏切ってしまったことに…。私も、おじいさまにも…)
(しかし…。私の…私の“義”は…)
ふわり、と誰かの手が頭を撫でた気がした。
頭に手をやると、それは近くのヤマボウシの樹から落ちた一枚の葉っぱであった。
(おじいさま…)
紅はヤマボウシの葉を墓に供え、両手を合わせて祖父の墓を拝んだ。
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――
それから半年のうちに4度、紅は刺客の襲撃を受けた。
刺客たちは傭兵くずれのごろつきであったり、プロの暗殺者らしき手練れの部隊であったり様々だったが、紅は決して命を奪うことなく、すべて一人で退けた。
誰が刺客を送り込んでいるのか、その見当もついていたが、誰にもそのことは話さず、ただひたすら敵を追い払い続けた。
それはまるで、たった一人で恩人の罪を背負い続けた大嶺志狼の姿そのものであった。
そして年が明けた2月、紅は従者の
「明日から、静かになりそうだな…」
恩師の死に対して、紅はただ一言呟いたのみであった。
その日以来、刺客の襲撃はぴたりと止んだ。
「異常性愛者」「あなたはクソだ」というインパクト抜群の猿語をなんとかして使ってみたいな~、と妄想を膨らませたらこんなSSができあがりました。
待ち伏せは剣客商売のなかでもとくに好きな作品なんですが、三冬の妊娠が公になったり、又六が本格的に秋山親子の相棒になったり、シリーズ全体で見てもターニングポイントになった一遍だと思います。
ドラマ3期のラストエピソードでもありますね。
というか、収録されている9巻自体が名作揃いというか…。「討たれ庄三郎」や「冬木立」も大好きなんですよね…。
サマーガチャ第2弾の話はするな。ワシは今メチャクチャ機嫌が悪いんじゃ。