奇談モンスターハンター   作:だん

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2節(6)

 一旦距離をとったベルキュロスは、眼前のハンター達を明確な脅威と認識を改めた様である。

 

 こちらの出方を伺うためか、ギロリと注意深く様子を伺うかのように、ディーン達を、いや、ラストサバイバーズを睨みつけていた。

 

「ココちゃん。アイツ、相当力のある個体だ」

 

 ラファール・ダオラを背中のマウントに戻したレオニードが、ベルキュロスを睨み返しながら言う。

 

 頷くコルベットも、概ね同意権の様だった。

 

「ボウヤ、大丈夫かい?」

 

「ああ。平気だ。助かったよDDD(トライディー)

 

 合流したディーンに声をかけるDDDに、ディーンが応える。

 

 エレン以上に小柄であるが、こう見えてディーンよりも十歳近く年上である。ボウヤ扱いに対しての文句は特に無かった。

 

「にしても、大したもんだなボウズ! ベルキュロスは初見だろ? それでああも動けるとは大したもんだ」

 

 ベルキュロスから意識をそらさずに、オズワルドが賛辞をくれるが、ディーンとしては複雑であった。

 

 特に先程などは、DDDのライトボウガン、バール・ダオラの超速射によって救われたのだ。

 

 流石は最先端(フロンティア)が髄一と名高いラストサバイバーズのトップ四人である。

 古龍種に匹敵すると言われるベルキュロスを相手に、少しも動じたりはしない。

 

 レオニードも前回共に戦った時よりも、はるかにいい動きをしていた。やはりこれが本来の彼の実力なのだろう。

 

 ちなみに先程の超速射であるが、メゼポルタの優秀な職人達が作り上げた一部のライトボウガンに搭載されている機能の一つであり、速射と呼ばれる連射機構を更に強化し、一瞬でマシンガンのように弾倉内全ての弾丸を撃ち尽くす事が出来るのだ。

 

 威力は高いが、超速射中はその反動(ブロウバック)を耐えるために両脚を踏ん張って堪える必要があり、ライトボウガンの最大の売りである機動性が失われるという欠点があるのだが、欠点を補って余りある威力はご覧の通りだ。

 

 さて、褒められてなお悔しがるそぶりのディーンに対し、ツァイベル夫妻の反応は概ね好評であった。

 

「おうおう! いいねぇその負けん気っぷり。男はそうじゃなきゃな!」

 

 ガハハと笑いながら言うオズワルドに、彼の新妻も笑みで同意を示すのだった。

 

「さぁ皆さん。どうやらおしゃべりはここまでのようですよ」

 

 一瞬流れた和やかな空気も、コルベットの声で瞬く間に引き締まる。

 眼前の舞雷竜が様子見から攻勢に転じたのだ。

 

 振り上げた翼に生えた触手が、ディーン達めがけて振り下ろされるが、充分に距離を置いた彼らからすれば、見え透いた攻撃に他ならない。

 

 余裕を持って回避する彼ら、左右に散った片方へと、今度は反対側の翼の触手が襲いかかる。

 

 一撃で駄目なら連続でと言う考えだろう。

 

 しかし、標的に定められた側、コルベットとレオニードはそれすらも読んでいた。

 巧みにベルキュロスの懐側へ転がって二撃目も躱してみせる二人は、ガラ空きの胴体に向けて反撃を試みる。

 

 しかし。

 

「よせっ! もう一発来るぞ!」

 

 発せられたDDDの声に反応した二人は、迷わず反撃を諦めてそのままベルキュロスの傍を走り抜けた。

 

 直後である。

 

 

 バチィィィィンッッッッッ!!!

 

 

 ベルキュロスが一瞬飛び上がったと思うと、高圧電流をまとった両脚を甲板上に叩きつけたかと思うや、五(けん)ほどの半径に電撃が(ほとばし)ったのだ。

 

 電流はまばゆい光を放ち、一瞬の間に飛行船甲板上に張り巡らされた落雷用設置のおかげで放電されるが、間近に居たのであれば、下手をすれば感電死である。

 

 だが、レオニードとコルベットはDDDの飛ばした注意のおかげで、一瞬早く安全圏へと離脱できていた。

 

 そしてそこにできた隙に向けて疾駆する二つの影。

 

 ディーンとオズワルドである。

 

 長大超重量の得物を扱う二人は、甲板上の放電が終わるや否やのタイミングで舞雷竜へと接近するや、ディーンが左の翼に、オズワルドが右の翼へと取り付き、己が得物を叩きつけた。

 

 ディーンがまるで片手剣を振るうかの様に、右腕一本で飛び込みながらの袈裟懸けから切り上げへのコンビネーションを見舞うや、跳ね上がった刃を翻しての水平斬りを放ちながらその場を跳びのいて一瞬のうちに安全圏へと離脱する。

 

 オズワルドも、背中のマウントに炎王大剣を着けたままの状態で右翼の真下へ走り込むや、自身の射程内に入った途端抜刀。

 

 裂帛の気合いとともに自慢の大剣を振り下ろした。

 

「どおぉりゃあぁっっっっ!!」

 

 背中のマウントから大剣を外す引っかかり(・・・・・)を利用した、鞘を用いぬ抜刀術。

 

 読者諸君からすれば、“デコピン”の要領で想像していただけばわかりやすいだろうか。

 

 マウントの引っかかりが充分な“溜め”の効果を、オズワルドの一撃に乗せる。

 

 ハンター間で俗に“抜刀会心”と呼ばれる技術(スキル)によって、その一撃は大剣の銘の通り、暴君と化す。

 

 対するベルキュロスは、両翼を襲うあまりの痛みに仰け反ってしまうが、それだけで終わるほど、甘い相手ではない。

 

「っ!? オズ! 離れろ!」

 

 異変を感じ取ったのは、長年の経験が磨き抜いた第六感のなせる業か、レオニードが剛剣を振り下ろしたばかりのオズワルドへと叫ぶ。

 

 しかし、距離が近すぎた。

 

 痛みに仰け反ったベルキュロスは、反撃とばかりに驚くべき行動に出たのだ。

 

 ふわりと少しだけ上昇したかと思うと、なんと空中で自身の体内に流れる電気を、あたりへ一気に放出したのである。

 形容し難い甲高い音を立て、浮かび上がったベルキュロスを中心に雷の結界が生み出され、逃げきれなかったオズワルドを巻き込んだのだ。

 

「オズっ!?」

 

 悲鳴にも似た声がDDDから上がる。だが、

 

「彼なら大丈夫ですよ」

 

 そう言って駆け出すのは、コルベットであった。

 

 見れば、レオニードもそれに続いている。

 ベルキュロスは、もう二回程体内電気を放出させると、息を切らしたかの様に着地する。

 そこへと仕掛けるのだ。

 

「すごいな……」

 

 甲板から船室へと降りる出入り口で、イルゼがそう呟いた。

 

 成り行き上、ここまで同行していた彼女だが、愛剣はディーンに壊され、砂漠で負傷した左肩が未だ万全とは言い切れない為、こうして戦闘には参加せず、ディーン達の戦いをムラマサと共に見守っていた。

 

 彼女の足元には、おっかなびっくり戦いの様子を伺うオトモのシラタキとシュンギクの姿もある。

 

 彼女がすごいと評したのは、ラストサバイバーズの面々の動きである。

 先程は、一瞬冷やっとしたが、オズワルドはどうやら、甲板に炎王大剣を突き立てて即席のアース替わりとし、自身へのダメージを最小限にとどめた様だ。

 

 入れ替わりにコルベットとレオニードがベルキュロスに攻撃を仕掛け、オズワルドにはDDDが生命の粉塵を振りかけている。

 

 なんだかんだ言って甲斐甲斐しい新妻であるのはさて置き、抜群の連携だ。

 

「よく、あんな奴らと顔が繋がっているな?」

 

 そう言うイルゼの声の先には、義足での全力疾走を余儀なくされ、加えて日々の運動不足に少々息を上げていたムラマサの姿があった。

 

 彼は「いやあ」と頭をかいてみせるのだが、最前線(フロンティア)の筆頭猟団に顔が効くということ自体、考えてみれば驚くべきことなのである。

 

「偶々、ココさん達と一緒に狩りに出る機会があっただけだよ」

 

 そう言うムラマサに、心の中で食えない男だと呟くイルゼであった。

 

「だが彼らの戦い方は、大いにディーン君には刺激になるはずだよ。どうやら、あのベルキュロスは非常に力を持っている様だけど、相手がラストサバイバーズじゃあ役不足だね」

 

 古龍種や、それに匹敵する程強力なモンスター達の中には、その中の一部の個体に常軌を逸して強力な個体が生まれる事があると言う。

 

 人里を襲うことはほとんど無いのだが、ごく稀に運悪くその個体に遭遇してしまい、手も足も出せずに蹴散らされてしまうハンターや隊商などの被害は確実に出ているのである。

 

 そして、そういった常識はずれに危険な存在。

 特に危険な個体の討伐も、メゼポルタギルドの仕事の一つなのである。

 

 そう言ったモンスター達の戦闘力や凄まじく、メゼポルタ以外のギルドで名声を欲しいままにしていたハンター達の、その悉くを返り討ちにしており、依頼(クエスト)を管轄しているメゼポルタが最前線(フロンティア)と呼ばれる所以でもあった。

 

「ニャるほど。道理でみんニャ、メゼポルタ行きを嫌がる訳ニャ」

 

 ムラマサからの説明を受け、シュンギクが得心いったとばかりにウンウン頷いてはいる。

 

 実際、常に人手不足が問題とされている最前線(メゼポルタ)において、なかなか思う様にハンターが集まらないのは事実なのだった。

 

 まぁ、メゼポルタは様々な超高難度の依頼(クエスト)が殺到している為、一概に凄腕用の依頼(クエスト)だけが凄い訳ではないのだが、それはまた別の話である。

 

 だが、実際鳴り物入りでメゼポルタへとやってきたハンター達は、その高々とそそり立った鼻っ柱ごと、心をへし折られて引退していくのであるから、その脅威性は疑いようがない。

 

 当然、折られるのが心だけでなく、生命(いのち)そのものである事も、少なくはないので、随時人手不足になるのも詮無き事なのかもしれない。

 

 それがこの辺境の地の最先端(フロンティア)なのであった。

 

「だが、ラストサバイバーズはそいつらすらも退ける力があるんだろ?」

 

 視線を彼らから外す事なく、問いかけるイルゼに、ムラマサは「ああ」と肯定の言葉を返す。

 

 特異個体だけではない。

 

 彼らは常に最前線の中の最前線に立ち、戦い続けてきたのである。

 

 ディーン達は、その彼らに会わせる価値がある。そう思った自分の判断は間違いではない。

 

 そのラストサバイバーズに混じって舞雷竜に立ち向かうディーン・シュバルツの勇姿をその目に移しながら、ムラマサはそう思うのであった。

 

 

・・・

・・

 

 

 そしてついに、ムラマサやイルゼ達が見守るこの戦いに、決着が着こうとしていた。

 

「いい加減に……っ!」

 

 ディーン目掛けて、渾身の力を込めた触手の一撃が振り下ろされる。

しかし、既にその動きを見切っていたのであろう、ディーンは危なげなくその一撃を回避するや、なんと驚くべきことに、甲板に叩きつけられた触手の上にひらりと飛び乗ったのである。

 

「しやがれぇっっ!!」

 

 そのままディーンは触手の上を走り、右手に握った飛竜刀【紅葉】を走り込んだ勢いそのままに、舞雷竜の頭部へと叩き込んだのだ。

 

 

 バキィインッッッッ!!!

 

 

 鳴り響く破砕音と共に、ベルキュロスの頭部に生えた一本角が砕け散る。

 

 一瞬その瞳に(あお)幽光(ゆうこう)を宿したその一撃は、大した斬れ味を持たぬ飛竜刀を、稀代の業物へと昇華したのだ。

 

 だが、その代償も小さくはなかった。

 

 刃を振り抜き、確かな手応えを感じたディーンが、ベルキュロスの首元を蹴ってかの竜から飛び退ったその時、ピシと乾いた音を立てて、その刀身に消して小さくない亀裂が走ったのであった。

 

「チィッ」

 

 舌打ちするディーンが、空中で強引に身体を捻って着地し、痛みのあまり苦しむベルキュロスを睨みつける。

 

「どうだっ!」

 

 口からほとばしるの声は舞雷竜に向けてのものではない。

 共に戦う先人達(ラストサバイバーズ)へのものだ。

 

「期待以上ですよ」

 

 応えるのはその団長である。

 

 コルベット・コダールが、ディーンが砕いた角の辺り目掛け、長大な突撃槍(ランス)を繰り出す。

 

 目にも留まらぬ三連撃。

 

 ディーンの親友、英雄の息子フィオール・マックールに勝るとも劣らぬ精密な三連突きが、ベルキュロスを襲う。

 逃れようのない猛攻に苦しむ舞雷竜だが、彼を襲う苦痛はそれだけでは終わらなかった。

 

「そら、だから言っただろう!」

 

 続く仕手(して)はレオニードである。

 

 三連突きの残心の姿勢にあるコルベットの肩を踏み台にして跳び上がると、ディーンとコルベットが大きなダメージを与えた頭部に目掛け、さらなる斬撃を見舞うのだ。

 

 身体ごと縦に回転し、さながら人間回転鋸(チェーンソー)の様に、その甲殻を抉りに抉る。

 

 だが、舞雷竜にも意地があった。

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