奇談モンスターハンター   作:だん

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3節(10)

言ってのけるイルゼ、ドヤ顔である。

「姐さん……」

先程までの異様な空気は何処へやら。ディーンが流石に驚いた様な声を出す。

対するイルゼは、珍しく口角を上げてふふんと鼻を鳴らしながらそれに応える。

「驚いたか。オレもだ」

「アンタもかよ……」

ドヤ顔のまま返すイルゼに、思わず突っ込むディーンである。どうやら、イルゼ自身も先の腕輪に効果が如何程のものか解っていなかったらしい。

その様な状態で、ドラギュロスの冥雷が降り注ぐ只中に飛び込んで来るのだから、大した度胸である。

よく見れば、イルゼのドヤ顔も結構なレベルで引きつっていた。

ただ、何にしても助かったのは事実だ。

ディーンは、再三の攻撃の悉くが不発に終わったためであろう。様子見に移るためか、自分達から距離を置く様に離れた場所へと舞い降りるドラギュロスを視界に納めると、少しだけ張り詰めていた緊張感を緩めるのであった。

「それにしてもすごいな。さっきのアレ、一体なんだったんだ?まるで光の盾って感じだったが」

遠目からこちらの様子を伺う幻の冥雷竜を視線の端に捉えたまま問う。

「まさしく、光の盾でございますよディーン様」

「えっ!?」

その問いにイルゼの代わりに応じたのは、赤衣のルカであった。

「ちょっ、ちょっと待ってください!」

「何か?」

驚いて声をあげたリエに、事もなげに返すルカ。

当然である。イルゼがたった今使ったのは、ムラマサが緋鷹(ひだか)と名付けた、まさしく光の盾。

リエにはどういう理屈か理解出来ないが、腕輪にはめ込まれた宝玉が発生させる、緋色に輝く光の壁により衝撃を防ぐ、まるで魔法の様な超科学(オーバーテクノロジー)なのだ。

それをまさか、この見るからに怪しい風体の男が知っているとでも言うのだろうか。

御堂(ミドウ)の御曹司は緋鷹と名付けましたか。些か捻りに欠けますが。ふむ。中々良い名ですね、草紙ヶ谷(・・・・・)のお嬢さん」

「なっ!?」

今度こそ、リエは息を飲んだ。

この男、何者なのだ。

何故、門外不出の筈の“工房”の技術を知った様な口を聞き、何より、名乗ってもいないリエの御家(おいえ)と御堂の名を言い当てたのか。

押し黙るリエに、ふっと吐息を零しながらも、ルカはディーンに向けて説明を続ける。

「先程の光の盾は力場精製器(フィールドジェネレーター)と申しまして。空中に分布している特殊粒子を集約し、腕輪の……」

と、そこまで説明したルカは、「すまん、ルカ」との声に遮られた。

見れば、語り聞かせる相手の顔が珍妙なものになっている事に気付く。

「何行ってるのかさっぱりわからねぇ」

「むう。シュレイド公用語(ひょうじゅんご)で頼む」

ディーンとイルゼが二人して眉を()の字にして言うものだから、フードの奥から覗く彼の口元に苦笑が浮かぶのだった。

「まぁ、魔法の盾と思っていただいて差し支えないでしょう」

結局、ルカはそう締めくくった。

「……貴方……」

この男、間違いなく“工房”の事を知っている。

「コレも、その例の“工房”のモノなのか?」

「ああ、おやっさんから預けられたものだ」

戦慄するリエを他所に、へぇ、と感心するディーンであったが、それもほんの少しの間だ。

ドラギュロスがいつまでも様子見を続けてくれる訳はない。それに、どうやらかの幻の冥雷竜はディーン達を見逃すつもりは毛頭無いようである。

「ま、何にせよ先ずはアイツだな」

「ああ」

得てして悪い意味で大雑把な二人は、緋鷹をとても便利な道具くらいにしか思わなかったのだろうか、すぐに意識をドラギュロスへと切り替えたようだった。

どうやら、ルカとディーンが呼ぶこの赤衣の男も、それ以上答える様子もないようだ。

歯がゆい思いが湧き上がるが、今現状のんびりと話し込んでいる暇なぞ存在しない。

冥雷の主は待ってはくれなさそうである。

「おい、ぱっつん」

ふと、急に声がかかり、リエが声の方へ目を向けた瞬間であった。

「えっ!?うわわっ!?」

反射的に上ずった声が出てしまう。

唐突に視界へと緋色の宝玉輝く腕輪が飛び込んで来たのだ。詮無いことである。

リエに声をかけた人物、イルゼは何を思ったのか自身の右手首にはめてあった緋鷹を外し、リエへと放ったのだ。

なんとか顔にぶつかる前に受け止めることができたが、突然の事だったのでリエは思わず惚けた顔をイルゼに向ける。

緋鷹(そいつ)はお前が使え」

と、イルゼは相変わらずのぶっきらぼうで言い放つ。

「オレが任されたのは、幻鎖(あっち)だからな」

そして、ドラギュロスの首にぶら下がったままの幻鎖をアゴでしゃくるように指してみせる。

「それに、もともとおやっさんは、そいつをお前に任せるつもりだったからな。オレより適任って事だろ?」

そう言葉を続けるイルゼの三白眼は、今までと同じ様な、それでいて、今までよりも少しだけ優しげなふうであった。

壁役(まもり)は、任せるぞ」

そう言ってイルゼは、リエから視線を外し冥雷竜へと意識を向ける。

不意打ちであった。

先程まで完全にお荷物であった自覚からか、頼りにされて純粋に嬉しかった。

少しだけ涙がにじむ瞳が、イルゼの隣に立つディーンをとらえるが、彼もイルゼの意図を汲み取ったのだろう。

一瞬だけ握りこぶしをリエに向けて見せると、イルゼにならって冥雷竜に向き直るのだった。

「わかりました。任せてください」

応える声に、リエは二人が背中越しに笑った様に感じるのであった。

 

「しかし姐さん。大丈夫なのか?」

此方を伺うドラギュロスを見やりながら、ディーンがイルゼに問う。

「何がだ?」

「あの黒いヤツ」

返して指差すディーンの指の先には、冥雷竜の首に巻き付いた、極小の鉄輪で連なった鎖に繋がってぷらんぷらん揺れている黒い棒切れがある。

「あれ、大型モンスターの動きを封じるのが目的だろ?」

「そうらしいな」

「だとしたら、とんだ欠陥品なんじゃねぇか?」

先のリエの失敗を思い出しているのだろう。ディーンの疑う様な声に、イルゼは不敵に笑い「まぁ、心配するな」と返す。

「どちらにしろ、まずはアレを取り返すのが先決だ。少年、先行してヤツの注意を引きつけてくれ」

「あいよ」

珍しく策でもあるのだろう、イルゼからそう言われ、ディーンが応えたその時である。

「そうそう、ディーン様方。注意で思い出しましたが、私からもひとつ、注意がございます」

いざ、と駆け出そうとしたディーン達に、ルカが唐突に話しかけてきたので、ディーン達は出鼻をくじかれてしまった。

「なんだよ?」

聞き返すディーンの声が苛立たしげであったが、ルカは至って悪びれもせずに言う。

「その緋鷹ですが、光の盾には回数制限があるのでご注意ください」

「はあっ!?」

思わずディーンが背後のルカに振り返る。

「か、回数制限だと?」

「ええ。ご覧いただいた通り、緋鷹が作り出す光の盾は、先の冥雷ブレスですらビクともしない超高出力です。使い続ければ当然、エネルギー切れを起こすのは道理ですので、くれぐれも多用はお控えください」

確かに、言われてみればごもっともなのであろう。

先程から当の冥雷ブレスに晒され続けていたディーンだから尚更理解できる。

あの超高出力のブレスを、いとも簡単に防いで見せるほどのとてつもない性能なのだ。無制限に使える方がおかしい。

「もって、あと数回程でしょう。御用心を」

全くもって長短偏りまくりの性能である。

使用制限のある盾なぞ、一体誰が使いこなせると言うのだろうか。

…ああ、もう!なんでここにアイツがいないかね!

頭をかきむしりたい衝動を必死に押さえ込むディーンの脳裏には、慇懃な彼の親友のすまし顔が浮かんでは、彼本人に掻き消されていた。

「だってよ!りえぞー!」

「心得ていますっ!って言うか何ですか、りえぞーって!?」

居ない人物についてどうのこうのは無駄な事だ。

ディーンはリエの抗議を無視して冥雷竜目掛けて走り出す。

「ちょっ!?聞いてるんですか!?」などと叫ぶリエの声すら追いつけぬ、赤い突風とかしたディーン・シュバルツが、迎え撃つ形のドラギュロス眼前に躍り出た。

「さぁ、仕切り直そうぜ!」

交差する彼らの瞳に乗せて、ディーンが呟く。

それに応じる冥雷竜が、ディーンの繰り出すであろう斬撃に備え、ふわりと舞い上がる。

おそらく、地面に冥雷を帯電させる蹴りによる反撃に出るつもりなのだろう。

一撃で勝負を決めるのではない。

宙空からの蹴りと地面に張り巡らす冥雷の双方からディーンを攻め立てるつもりだ。

しかし、此度はディーンの読みに軍配があがる。

「そう来ると思ったぜ!」

交差するディーンと冥雷竜の視線に乗せて発せられた声が、ドラギュロスの耳朶に届くか届かないかといった矢先、ディーンの姿が()の竜の視界から消失する。

彼の出鱈目な超加速が成せる業だろう。

だが、この幻の冥雷竜は標的を失っただけで迷い、途中で攻撃を中断するような愚は犯さない。

おそらく左右の何方かから仕掛けて来るであろう攻撃を食うことを覚悟の上で、そのディーンの動きごと対応する腹づもりだ。

 

バチィッ!

 

冥雷が地面に漆黒の輝きを穿つが、次の瞬間ディーンがとった行動は、ドラギュロスの予想を越えたものだった。

「あらよっと!」

なんと、ディーンはドラギュロスの左側面から飛び掛かり、彼の竜の(たてがみ)をむんずと掴むや、ひらりとその首の上に跨ったのである。

今までにしてこなかった動きに、流石に驚いた冥雷竜は、鎌首をぐるんと巡らしてディーンを振り落とそうとするが、両足でガッチリと首を挟んでその身を固定しているディーンはなかなか離れはしない。

「返してもらうぜ!」

言うや、大太刀を握った右手とは反対の手で器用に腰から剥ぎ取りナイフを引き抜くと、ドラギュロスの首に巻きついて居た幻鎖に切っ先を引っ掛けた。

よっ、と声を上げると同時に、あの硬い甲殻に食い込んでいた幻鎖が解け、はらりと地面に落下して行く。

それを見たディーンは、今度は剥ぎ取りナイフを腰に戻し、空いた左手で力一杯ドラギュロスの鬣を引っ張り上げた。

 

ギャオオオッッッ!!!

 

頭皮を引っ張られる痛みと怒りに、ドラギュロスが吠える。

馬鹿力で引っ張られた影響で持ち上がった首に引っ張られるように、ドラギュロスの巨躯が浮き上がる。

そこに出来上がったスペースを走り抜ける影があった。

粗野なる紫(ヴァイオレット・ラフ)”、イルゼ・ヴェルナーだ。

彼女は器用に地面と、空中の冥雷竜と、そして地面に帯電している冥雷の間を疾走し、落下した幻鎖を掴み取ってその場を一気に離脱する。

「取ったぞ、少年!」

「はいよ!」

イルゼの声を聞いたディーンが両足の拘束を緩め、振り回された首の勢いに乗ってドラギュロスから飛び退いた。

ドラギュロスは怒りに満ちた目で飛んで行くディーンを睨み付けると、彼の落下を待たずにディーン目掛けてブレスを放たんと大きく息を吸い込んだ。

しかし驚くべき事にディーンは、ドラギュロスのこの反撃も予測していた。

彼が飛んで行く先には、黒髪の少女の姿。

「りえぞーシールド、展開!」

「何ですか、それはっ!」

バッと左手をパーにしてドラギュロスに突きつけるようにして着地したディーンの前に立ったリエが、怒声と共に左腕に装着した緋鷹(ひだか)を発動させる。

 

ピィィィィンッッッ!!

 

独特の甲高い音を響かせて出現した光の盾が、ドラギュロスのブレスをせき止めた。

リエが発動させた緋鷹は三連続の冥雷ブレスを容易く防ぎきったのだ。

「すげぇな……」

先程も見たのだが、一体全体どんな原理が働いているのか。ルカが魔法の盾と表現したが、まさしく魔法の様である。

「少年、ぱっつん、こっちだ!」

ブレスを防いだ二人にイルゼの声がかかる。

見ると彼女は幻鎖のボタンを操作し、鎖を棒の中に戻して走り出していた。

棒の内部に搭載された超小型のモーターが、極細の鎖を巻き上げる。

イルゼは素早くドラギュロスをディーン達と挟み撃ちにするように位置取ると、棒の内部に巻き込んだ鎖を、何を思ったのかドラギュロスとは真逆の方向へと射出した。

バシュッ、と小気味良い射出音を上げ、漆黒の鎖が(はし)り、不死の霊峰の山肌に深々と突き立つの見て取ったディーンに、漸くイルゼの考えが理解できた。

彼の顔に理解の光が灯ったのを遠目に見て取ったイルゼは、そう言う事だと言わんばかりに鎖が飛び出した方と反対側を、ディーンに向かって軽く振って見せるのだった。

「なるほどな。そう言う使い方か」

「えっ……ああっ!?」

どうやらリエの方も、自分が幻鎖を間違えて使っていたことに気づいたようだ。

「決めるぞ、少年!」

叫び、再び駆け出すイルゼ。

その声に反応するドラギュロスは、何事かと一旦大地に降り立って、自分に向かってくる人間に向き直る。

イルゼは恐れることなく真っ直ぐにドラギュロスへと向かっていくと、彼の竜が彼女に向けて振り返る前、ちょうど真横を向いた瞬間にその鎌首の真下に滑り込んだ。

スライディングの要領で滑り込んだイルゼを援護するべく、ディーンがドラギュロスの目の前に躍り出ると、その鼻っ面を薄く斬り裂いた。

痛みというよりは、その行為に憤慨したのだろう、視線をすぐにディーンに向けたドラギュロスだが、その一瞬の隙を突いたイルゼがその手に持っていた幻鎖の棒の部分、本体の部分を放り投げた。

幻鎖の本体は鎖の尾を伸ばしながら、冥雷竜の首を一周してイルゼの手元に戻ってくる。

それを掴んだイルゼは再び駆け出してドラギュロスの真下から素早く脱出すると、出来上がった鎖の輪っかがしっかりとドラギュロスの首にかかっていることを確認し、幻鎖本体の、鎖が伸びている方とは逆側にあるボタンをぐっと押し込んだ。

 

バシュッ!

 

途端に反対側からも発出される漆黒の鎖。

先端の(つぶて)が山肌に突き立ったその時、冥雷竜は初めてイルゼの思惑を知って彼女を睨みつけた。

ディーンから視線を外し、鎌首をイルゼの方に向けるドラギュロスだったが、来たるブレスに対抗せんとイルゼの前に立ちはだかるリエの後ろで、ニヤリと釣り上がる口角を見た途端、彼の視界が激しく揺らぐ。

「詰んだぞ、冥雷竜」

イルゼが幻鎖本体の中心部のボタンを押したその瞬間であった。

不死の霊峰の大地から伸びていた鎖が、瞬く間に幻鎖本体へと巻き込まれて行く。

大地に突き立った礫は、その身から(くさび)を突き出しており、冥雷竜の力を持ってしても抗えぬほどの拘束力を持ってその首を絞め上げた。

それだけではない。

読者諸君はチェーンソウという物をご存知だろうか。

極小の鉄輪で構成された鎖は、本体へと巻き戻される事により、まさしく回転鋸(チェーンソウ)と同じ効果をもたらした。

 

ギャオオオオオオオッッッッッッ!!??

 

あまりの痛みに幻の冥雷竜の口から絶叫がほとばしる。

これが、幻鎖本来の使い方。

頑丈且つ極細の鎖がもたらすおそるべき殺傷力を秘めた拘束。

相手が幻の冥雷竜でなければ、この段階でその首が落ちていたに違いない。

 

ズゥンッ!!

 

一気に巻き戻された鎖の為、ドラギュロスが首から血煙を上げて大地に縛り付けられる。

だが、大地をめくり上げるほどの膂力を持つ彼の竜だが、彼の眼前に構えた男を前にしてこの状況はまさしく“詰み”であった。

「あばよ」

その声は、大地に鎖で縛られた冥雷竜の首元から聞こえた。

「お前、本当に強かったぜ」

静かに冥雷竜の耳朶に届いたディーンの声は、それが精一杯の手向けであるかの様に、尊敬の念に満ちていた。

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