奇談モンスターハンター   作:だん

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2節(6)

「マーサの奴にとっちゃ、ただただ続ける為だけに鍛冶屋を継ぐ気にはなれなかったんだそうだ。そんで、半ば家出同然でシキの国を飛び出してハンターになったのさ」

 

 加工屋の言うには、マーサはハンターとしてこの村で活動していた時も、どうやら代々名工刀鍛冶としての血はくすぶっていたらしく、自分で素材を取ってきては、あ~でもないこ~でもないと散々鍛冶屋の錬成作業に口を出し、しまいには自ら(つち)を手に取ることもあったそうだ。

 

「俺としちゃ、足を負傷してハンター業を続けられなくなった奴には、折角身につけど技術があるんだから鍛冶屋になれと言っていたんだがね。お前さんのおかげで、なんだかんだゴネていた奴もやっと重い腰を上げたよ」

 

 そう言い終えて気持ちよさそうにハハハと笑う旦那。

 

「重い腰ねぇ……」

 

 事情を知らなかったディーン達には、その重い腰はとても軽やかに上がったように見えた。

 

(おう)とも。何にせよ、俺にとってもうれしい話さ」

 

 旦那は本当にうれしそうに語る。ハンターと加工屋。きっと長年の付き合いなのだろう、彼の言葉にはそれ以上の温かさがあり、ディーンはまるで自分も認めてもらえたように感じ、つられて顔がほころぶのだった。

 

 その後、気分をよくした加工屋の旦那は、格安でディーン達の装備の手配を行ってくれた。 

 

 特に武器においては、破格(はかく)のイロをつけてくれて、彼らを大いに驚かせ、また喜ばせたのだった。

 

 

・・・

・・

 

鉄刀(てっとう)神楽(かぐら)】か……」

 

 ディーンが口にしたのは、新たに自分に手渡された身の丈ほどの大太刀の銘である。マカライト鉱石や鉄鉱石、大地の結晶などと呼ばれる様々な種類の鉱石を組み合わせて鍛え上げられた鋼鉄の太刀で、背中に感じるその存在感は、今まで使っていた骨を削った程度の物よりも大きく感じられた。

 

 今、彼らは再びハンターズギルド前の広場に戻ってきている。

 

 加工屋にて各々の装備を調えた後、ミハエルとネコチュウは一行の案内を再開し、彼らを村の様々な所へ連れて行ってくれた。

 

 村人達の家が建ち並ぶ居住区や、広場よりゴンドラのようなもので山を下った場所にある農場。さらには村の上層部にある天然の温泉まで見て回り、広場に戻ったときには高かった太陽が大分傾いていた。

 

 途中に寄ったポッケ農場と呼ばれるその農場では、村に駐屯するハンター達に、その場で定期的に採取できる素材を提供してくれるらしく、農場を管理するアイルーから使用においての説明を受け、フィオールは「便利なものだ」としきりに感心していた。

 

「それにしても、ここまで待遇(たいぐう)がいいと、逆にプレッシャーを感じちまうな」

 

「そうだな。確かにちょっと恐縮(きょうしゅく)してしまうな」

 

 新しい太刀に触れながら口を開くディーンにフィオールが応える。

 

「そうですね。結局私の装備まで(ほとん)無料(ただ)同然(どうぜん)の値段で手配して下さいましたし。こんなにしてもらって良いのでしょうか……」

 

 逆に悪い気がしますとエレンからもそんな言葉がでた。

 

 装備の手配は行ったものの、彼らの格好は特に変化はない。今日は身体のサイズを計るに(とど)め、明日受け取りの段取りとなったのだ。

 

 ディーンにはバトルシリーズと呼ばれる防具、エレンにはチェーンシリーズと言う防具を手配してもらった。

 

 また、ハンターになったとは言え、そもそも荒事(あらごと)とは全くの無縁で育ってきたエレンには、ディーンやフィオールのように先陣きってモンスター達と切り結ぶような事は不可能だろうと言うことで、武装はライトボウガンと呼ばれる種類の武器となった。

 

 よって彼女の右肩には、猟筒(りょうづつ)という火縄銃のようなフォルムのライトボウガンが背負われていた。

 

 フィオールはココット村にいたときに稼いだ資金や素材で、ザザミ装備の破損分を作り直すことにしたようだ。

 

「みんながそれだけ君達に期待しているんだよ。なんて言ったって、村のハンターの誰もが倒せなかった轟竜ティガレックスを初見(しょけん)で倒しちゃうんだから」

「ホントだニャ。これは期待するニャって方が無理ニャ相談だと思うニャ」

 

 ミハエルとネコチュウが笑顔で言葉を返す。

 

 彼らポッケ村の村人達にとっては、いつ村に襲いかかってくるかわからないティガレックスは死活問題であったのであろう。

 

 それが討伐されたという事は、本当に喜ばしい事であったのだろう。

 

 ディーン達は案内された方々で手厚い歓迎を受けた。

 

「さて、ちょっと遅くなっちゃったけれど、最後にみんながこれからお世話になると思うハンターズギルドに案内するよ」

 

 ミハエルが少しもったいぶって言う。

 

…いよいよか。

 

 ディーンは勿論、エレンも自身にグッと緊張が走るのを感じる。二人のハンターとしての人生がついに始まるのだ。緊張しない方がおかしいのかもしれない。

 

「と言っても、目とはニャ()の距離ニャんだけどね」

 

 ニャシシと笑いながら茶化すネコチュウに「なんだよ、折角(せっかく)気取ったのに」とミハエルは苦笑い。

 

 つられてつい笑ってしまった二人は、お陰で少しだけ緊張が和らいだような気がした。

 

 入り口をくぐると、ハンターズギルドの中は思ったより狭くなく、小規模ながらもギルドとして最低限以上の機能を果たしているようだった。

 

御免下(ごめんくだ)さい」

 

 先頭をいくミハエルが挨拶をしながら入ると、入り口から左手にたてられたカウンターの側に立って話をしていた数人が振り返った。

 

「あら、ミハエル君いらっしゃ~い」

 

 随分ゆったりと、悪く言えば間の抜けた声で返事をした人物は、すらりとした長身をもつ標準以上の美女であった。

 

 もとから細長いのであろう瞳は柔和(にゅうわ)()を描き、亜麻色(あまいろ)の髪をポニーテールのように結わいており、その(しゅ)を引いた用に赤い唇は常に微笑を(たた)えている。

 

 雰囲気のある美人であり、一見してほぼ人間の姿をしているが、彼女の両耳は人間のそれとは大きく異なり、左右に大きく突出している。

 

 オババとはタイプは違えど、彼女も竜人族なのであろう。

 

「そちらの方々ね~。期待の超大型新人って言うのは~」

 

 彼女の普段からの癖なのであろう、胸の前で囲うように組まれた腕の片方で頬杖をつき、小首を傾げる仕草が実に絵になっていた。

 

 それにしても、エラい持ち上げられようである。ギルドまで乗っけっからこれでは、ちょっとやそっとの働きでは、村の人々を大いに落胆させてしまうだろう。

 

「はい! 加工屋の旦那さんもマーサさんも大いに期待してました」

 

 三人の気持ちを知ってか知らずか、ミハエルが嬉しそうに期待感を(あお)るような事を言う。

 

 まだ会って少ししか話していないが、彼に悪意はないのだろう。このミハエル・シューミィという男、善意が服着て歩いているような者である。

 

「そんニャ訳で、彼らに村を一通り案内してきたニャ」

 

「あらそうなの?二人ともご苦労様ぁ~」

 

 竜人族の女性はやはり少々間延びした声で彼らを(ねぎら)うと、報告してくれたネコチュウの頭を撫でてあげる。

 

 撫でられたネコチュウは、ゴロゴロと嬉しそうにのどを鳴らすが、そんな彼にかかる声があった。

 

「ネコチュウ殿、情けない声を出されるでない。それではただの猫と変わらぬではないか」

 

 ──からん。と、声に付随(ふずい)して大きめの鈴の音が鳴る。多少鼻にかかったような声音だが、響きは凛としたものだった。

 

「ニョわ!? ネコートしゃん!」

 

 声の主が誰か悟り、ぎょっとなったネコチュウは、慌てて逃れるように自分を撫でる手から遠ざかった。

 

 ──からん。

 

 鈴の音を鳴らして竜人族の女性の陰から、その声の主が進み出た。

 

「……アイルー?」

 

 声の主が猫に似た亜人種であった事に驚いて、エレンが思わず声を上げる。

 

 ディーンもフィオールも、少なからず驚いた。

 

 理由は喋り方である。

 

 進み出た白い毛並みのアイルーは否定したが、そもそもアイルーと言う種族自体が、外見上では人語を解する猫そのもの。

 

 ぶっちゃけ猫が服着て歩いているような者である。

 

 マタタビで腰砕けになったり、先ほどのネコチュウように気持ちいい時に喉が鳴ったり、ニャーと鳴いたり、仕草もまっるっきり猫なのだ。

 

 当然と言おうかなんと言おうか、口調も猫らしく『ニャ』とか『ミャ』等がどうしても混じる。

 

 しかし、現れたアイルーはその限りではなかった。

 

 どうやら、エレンの言葉が若干気に障ったらしく、ネコートと呼ばれたわざわざ口に拳骨(げんこつ)を添えてゴホンと咳払いをする。

 

「も、申し訳ありません」

 

 慌てて低頭(ていとう)するエレン。

 

 亜人種とはいえ、猫に凄まれて謝罪する、世にも珍しいご令嬢の姿があった。

 

「これこれネコートさんや、折角来てくれた御仁(ごじん)をそんなにいじめるでない

よ」

 

 最後に現れた人物は、ディーン達も見知った顔であった。

 

 ポッケ村の村長ことオババである。杖を片手に、相変わらずの柔らかい微笑を浮かべながら、同じく柔らかくネコートを諭すように言うと、ネコートは「む。これは失礼を(いた)した」とエレンに折り目正しく頭を下げた。

 

「い、いえ!私の方こそ、気分を害されるようなことを言ってしまって……」

 

「いやいや、私も少々大人気なかった。許していただきたい」

 

 恐縮するエレンと、先程の反省と謝るネコートが互いにペコペコと低頭しあう。その様子はなかなかにシュールな光景である。

 

「あらあら二人とも~。それじゃ(らち)があかないわよ~」

 

 見かねた竜人族の女性が仲裁(ちゅうさい)して、ひとまずの区切りとなるまで、二人はまるで餅をつく(きね)のように頭を下げあっていた。

 

「コイツ、ホントに貴族のお嬢様だったんかね?」

 

「……私に聞くな」

 

 そんな様子を見ていたディーンの呟きに、フィオールは少々困った表情で返すのだった。

 

 

・・・

・・

 

 

「さて、と~。自己紹介がまだだったわね~」

 

 ポンと手を打って、竜人族の女性が仕切り直す形で言った。

 

「改めまして~、ようこそポッケ村のハンターズギルドへ。私はここのギルドマスターをさせてもらってるの~。皆からは『マスター』とか『姐さん』なんて呼ばれているわ~」

 

 名前を言わないのは、ディーン達もそう呼べという意味であろう。

 

 臙脂色(えんじいろ)のタイトな服にロングスカート、その上から白を基調としたパレオを左肩から膝元にかけて巻いていて、その出で立ちはエキゾチックな彼女の雰囲気を引き立ていた。

 

 マスターは引き続き、ネコートを手のひらで指す。

 

「彼女はネコートさん。彼女とオババ様は好意でギルドに協力してくれていて~、ギルドで対応しきれない依頼なんかは彼女達が斡旋(あっせん)してくれるのよ~」

 

 紹介されたネコートは「よろしく頼みます」と慇懃(いんぎん)なれど素っ気なく言った。

 

 ネコートの動きにあわせて、からんと胸元についた握り拳大の鈴が鳴る。

 

 彼女もポッケ村の住人達のように、ポポの皮を加工した素材で作られたマントを身につけ、襟元で止めている位置に件の鈴が付いていた。

 

 実を言うと、この時までディーン達新参者三人組は、ネコートが雄なのか雌なのか区別が付かなくて困っていたのだが、それはまた別の話。

 

「オババ様はさっき会ったろうから紹介はいらないわね~」

 

 そう言って各人の紹介を終えたマスターに、今度はディーン達が応える番となり彼らの自己紹介がすむと、マスターからギルド内の説明と兼用でハンター登録を行うという下りとなった。

 

「さて、それじゃぁ儂等(わしら)はこれにて(いとま)させてもらうとするかの」

 

 それに合わせ、オババとネコートが帰宅する事となった。外を見れば、いつの間にやら日も沈んでいる。

 

 オババ達は村の上層部にある温泉の近くに居を構え、共に暮らしているそうだ。

 

「お送りしましょうか?」

 

 そう言うミハエルに「よいよい、ネコートさんもおるしの」と応えると、オババ達は出口へと向かって歩き出した。

 

「そうそう、マスターが先程説明してくれたがの、儂等もヌシ等にクエストを斡旋してやれるが、まぁ近隣の村人の苦情処理みたいなものよ。気が向いたら声をかけておくれ」

 

 出口前でふと立ち止まると、オババは思い出したように言う。

 

「今日はいろいろありがとうオババ」

 

「今後ともよろしくお願いします」

 

 そんなオババに、ディーンは元気よく、エレンは丁寧に、フィオールは黙礼で応える。

 

「ふむ」

 

 そんな三人を見て何かを思ったのだろうか、会釈だけしてオババについて行こうとしたネコートも立ち止まって口を開いた。

 

「オババ様と同じく、わたくしもクエストを斡旋していますが、わたくしの取り扱っているクエストは危険度の高いものが殆どです。ある程度実績を積んでからの斡旋となるでしょう。貴殿等(きでんら)の今後の活躍を期待します」

 

 ネコートがこの様に話すのは以外だったのか、ディーン達以外の面々が驚いたような顔をする。

 

諒解(りょうかい)だ。早くアンタから斡旋してもらえるように頑張るよ!」

 

 そうとは知らず、ディーンは再び元気よく返すのだった。

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