奇談モンスターハンター   作:だん

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4節(1)

 ───事態は、誰の予測よりも逼迫(ひっぱく)していた。

 

 

「大ピンチって奴?」

「大ピンチでしょうか?」

「大ピンチとしか言いようがないな……」

 

 ディーンが、エレンが、そしてフィオールが、それぞれ雁首(がんくび)突き合わせて言う。

 

「このまま此処(ここ)で、いなくなるまで待機……という訳にはいきませんか?」

 

「そりゃ名案(みょうあん)だな。そこの池の魚を食い尽くすのが早いか、此処が発見されるのが早いかって()けなら、かなりおもしろい賭けになるぜ」

 

(ギャンブル)じゃなくて自殺行為だな、それは」

 

 エレンが怖ず怖ずと切り出した希望的観測(アイディア)は、ディーンとフィオールにあっさりバッサリ斬って捨てられた。

 

「あう……」

 

 軽くショックを受け、エレンが少し涙目になっている。

 

強行突破(きょうこうとっぱ)は……できると思うか?」

 

「お前が隊商(キャラバン)全てを担いで、ケルビよりも速く走ってくれれば、いける“かも”しれんな」

 

 ディーンの意見も、やはり現実的とは言えない。

 

「……む」

 

 腕を組んで少し押し黙るディーン。

 

「ディーンさんなら出来そうな気がしますね」

 

「ふむ。やってみる価値はアリか……」

 

「……あり得んわ」

 

…本気で検討するな、天然ども。

 

 何故か乗り気になる二人に、フィオールが苦い顔でツッコんだ。

 

 まぁ、今彼等が置かれた状況を考えると、下らない話でもしないとやってられないのだろう。

 

「んな事言ったって、此処で隠れてても(らち)があかねぇよ」

 

 ディーンが口をとがらせる。

 

「そんな事は解っているさ。だが、我々だけならまだしも、隊商の方々を守りながら、無事に此処を突破しなければ意味がないからな……」

 

 無理難題(むりなんだい)とはまさにこの事、フィオールの言葉に、三人は再び頭を付き合わせるように唸るのだった。

 

 

・・・

・・

 

 

 ここは、アルコリス地方。

 通称『森と丘』と呼ばれる、開けた場所が多いエリアである。

 

 ディーン達が今居るのは、シルトン丘陵(きゅうりょう)(のぞ)むシルクォーレの森の入り口付近にある、ちょっとした空間であった。

 

 周りを木々や岩、池に囲まれ、出入りは小さいトンネルのみという、大型モンスターにとっては不可侵領域(ふかしんりょういき)である。

 (えさ)となる小動物も少ないため、ランポス種等の小型鳥竜種もめったに訪れないので、ハンター達がベースキャンプとして利用する空間である。

 

 ムラマサの不安は見事に的中し、ドンドルマやメルタペットには立ち寄らずの強行軍で此処までやってきた隊商は、このアルコリス地方にて、(くだん)の驚異とはち合わせてしまったのであった。

 

 はち合わせたと言っても、実際に“それ”を目にしたわけではない。

 

 “羽音(はおと)”が聞こえただけである。

 

 巨大な翼が空をかき混ぜる、重い音だった。

 

 切り立った崖に面した、幅の広い道を進行しているときであった。

 

 おそらく、すぐ隣のエリアであろう。森へと入っていく道の先に、何か巨大な“モノ”が降り立ったのだろう。

 

 あちらより先に気付けたのは、まさに僥倖(ぎょうこう)以外の何物でもない。

 

 もし、“それ”の方が先にこちらを発見していたら、重い荷物を運んでいる竜車──草食種のアプトノスに引かせる荷車を連れたこちらは、身動きがうまくとれないまま補足され、積み荷や非戦闘員である商人達に、甚大(じんだい)な被害を出していたことだろう。

 

 ディーン達は極力息を潜め、足音を殺して、やっとの思いでこのベースキャンプへとやってきたのだった。

 

 この場所には、ハンター達がここで狩りをする際に利用するための、小型コテージが設置されている。

 

 商人達はそこに待機してもらって、ディーン達はベースキャンプ入り口で作戦会議といった形だ。

 

 竜車はベースキャンプを出たすぐ近くに、(ほろ)をかけて置いてある。

 盗賊の心配がないこの状況では、その程度で充分盗難の危険はない。

 

 竜車を引いていたアプトノスは、少々惜しいが、放してしまった。

 アプトノスもベースキャンプ入り口のトンネルには入れなかったし、側に繋いでいるアプトノスが“あれ”をおびき寄せては本末転倒である。

 

「どう思う?フィオール」

 

 ディーンが先程とは一転して、真面目な表情でフィオールに問う。

 

 即ち、“あれ”は “何”であろうか……と。

 

「さぁな。私も推測でモノが言えぬ状況であることは変わらん。季節柄(きせつがら)としては、イャンクックであってくれる可能性が高い(はず)だが……」

 

 返すフィオールの声は、もしかした“そうであってほしい”という願いめいたものに聞こえたかもしれない。

 

 怪鳥(かいちょう)イャンクック。

 

 鳥竜種の中では大きい方だが、並み居る大型モンスターの中では、最も小さな部類に入るモンスターである。

 

 桃色の甲殻(こうかく)や巨大な(くちばし)を持つ、二本足に巨大な翼の大きな鳥といった風貌(ふうぼう)であり、最大の特徴である襟巻(えりま)き上の巨大な耳を立て、ギョロリと覗く瞳でクワカカと(くちばし)を鳴らすその姿は、まさしく怪鳥の名に相応しい。

 

 鳥竜種だが、他の飛竜種に共通した動きを見せるため、飛竜種として扱われることも多く、飛竜種としては小型で体力も低い為、ハンター達には登竜門(とうりゅうもん)的な存在となっている。

 

 巨大な嘴は、下部が大きくしゃくれており、上部が被さるようになっていて、それをスコップのように使い、土中の虫等をすくって食べる。

 

 大きな体を小さな昆虫で維持するために、年に一度、雄同士が縄張(なわば)り争いをして、餌場を分担する習性があり、その為、餌場に入ってくる侵入者には警戒のため攻撃を仕掛ける修正があった。

 

「イャンクックね……」

 

 フィオールの口から出たその言葉を繰り返すディーンだが、如何(いか)にも()せぬといった表情である。

 

 気持ちはわかる。フィオールだって同じ考えだろう。

 

「兎に角、だ。確かにディーンの言うとおり、このまま此処でじっとしていてもジリ貧でしかない」

 

 考えてばかりいても仕方がない。フィオールはそう言い、目の前の二人の仲間を交互に見ると、意を決して言葉をつないだ。

 

「ここはまず、この危機的状況を確認、そして打破する為、打って出ようと思うが、ご両人の気概(きがい)如何(いか)に?」

 

 古風な言い回しを選ぶときは、この男が(きも)()えた時にでる癖か、(ある)いは自らを律するときの(まじな)いであるということは、この一ヶ月でディーンもエレンも見知っている。

 そして、そんなフィオールの言葉に対して、首を横に振る様な者はこの場にはいなかった。

 

「無論です」

 

「誰に聞いてやがる」

 

 エレンはしっかりと意志の固まった瞳で、ディーンは不敵に唇をつり上げて見せながら、(ほとん)ど二つ返事でフィオールに応える。

 

重畳(ちょうじょう)

 

 フィオールも彼等に負けず、力強く頷き返すと、コテージにて待機してもらっている商人達に、自分達が偵察にでる(むね)を伝えに行くのだった。

 

 だが、この時彼等は、いざ向かわんとする狩り場、“森丘”に待ち受ける脅威の存在が、自分達の予想を(はる)かに超えている事を知らない。

 

 彼等が出会い、共に戦うようになってから今日に至るまでの、最大の試練がこの先に待ち受けていた。

 

 

・・・

・・

 

 

 ここアルコリス地方は、ミナガルデやドンドルマ、メルタペット等の大きな拠点も近く、多くのハンター達が訪れ、狩り場として利用されている。

 その為、先のベースキャンプのような施設が至る所に用意されているのだが、今回の場所はその中でも大きめな方らしい。

 

 ココット村にいた頃、よくこの“森丘”へとやってきていたフィオールは、ベースキャンプへと続くトンネルを抜けがてら、ディーンとエレンにそんな話をしてくれた。

 

「それにしても、いい眺めだな~」

 

 トンネルを抜けた先にある景色に、不謹慎(ふきんしん)と知りながらも、感嘆(かんたん)の声が出た。

 

「本当ですね。あ、川の向こう岸にもあんなにたくさんアプトノスがいますね」

 

 ディーンの呟きに、エレンが返す。

 

 先程は、兎に角隊商(キャラバン)の皆の安全確保に気が取られていたので、今の今まで景色を眺める余裕など無かった。

 

 (いな)。本来は、今現在もそんな余裕など無い。

 

「二人とも、無警戒(むけいかい)()ぎるぞ」

 

 フィオールに注意され、ディーンとエレンは揃って首を(すく)めると、表情を引き締めるのだった。

 

 一行は、シルクォーレの森を迂回(うかい)するように、川沿いに切り立った丘の道、先程隊商(キャラバン)を連れて進んできた道を、再び行くことにした。

 あえて視界の開けた道の方が、相手を発見しやすいと踏んだ為である。

 

 壁沿いに、少しでも物陰に隠れながら、慎重に進む。

 

「フィオール。この上にも道があるみたいだぜ?」

 

 坂道を登り終えた所、少し高い段差になっているが、登れなくはない所に、奥に続く道を見つけたディーンが、フィオールに問いかける。

 

「ああ、そっちには切り立った崖があってな。飛竜の巣へと登り切ると繋がっている洞窟があるのさ」

 

「飛竜……ね」

 

 フィオールの言葉を繰り返すように呟くディーン。

 

「この時期は、飛竜も巣くっていないはずだから、今はランポス辺りが代わりに巣くって……」

 

 そこまで言ったところで、フィオールも(ようや)く、ディーンの危惧(きぐ)する所を真に理解する。

 

 対岸のシルトン丘陵(きゅうりょう)には、たくさんアプトノスが居たので気がつかなかった。

 

「フィオール。この時期は、ランポスが(・・・・・)飛竜の巣を使ってる事が多いんだよな。ってことは、巣から近いこの道には、ランポスの姿があってもおかしくは無いんじゃないか?」

 

 そうだ、先程は緊急事態の為気付けなかったが、今ようやっと気がついた。

 

「何故、俺達は未だにそのランポスに遭遇しない(・・・・・)

 

…なんたる迂闊(うかつ)

 

 何度もこの狩り場に訪れたフィオールだ、その事(・・・)の表す意味が、彼には用意に想像がついた。

 

 もし、先刻(せんこく)の大きな“羽音”の主がイャンクックであったのならば、今のようにランポスが居なくなると言うことはない。

 

 前記の通り、土中の虫を漁るイャンクックと、主に草食種を得物とするランポスとは、根本的に獲物がかち合うことはないのだ。

 

 必然、彼等が同じ狩り場に同時に存在する形になる。

 

 では今回のように、ランポスが一匹も見えないという状況とは如何なる事か。

 それは……

 

「皆さん! 上です!!」

 

 エレンが鋭い声を上げた。

 

 ()しくも彼等の出会いの時と真逆(まぎゃく)の構成となったが、そんな事考える暇など在りはしなかった。

 

 

 グギャアアアァァァァッッ!!!!

 

 

 三人が、一斉(いっせい)に倒れ込むようにして身を伏せたその頭上を、大気を割らんばかりの咆哮(ほうこう)をあげ、暴風を伴った赤い巨影(きょえい)が高速で通り過ぎる。

 

「まさか!?この時期に此処にコイツが居るはずがない!!」

 

 すぐさまその身を起こしたフィオールが、信じられない面持ちで声を(あら)げる。

 

 彼等を仕留め損なった赤い巨影は、崖沿いの幅広な道を滑走路(かっそうろ)()わりと言わんばかりに、飛行機の軟着陸(なんちゃくりく)のように少々滑走するや、勢いそのまま再び空へと舞い上がる。

 

 再度、大空から此方を狙うつもりらしい。

 

「チッ、気の早ぇ奴も居たもんだぜ……」

 

 飛び立った巨影を睨みつけ、ディーンが吐き捨てる。

 

()な予感はしていたが、最悪の形で当たりやがった。

 

 運命とやらを決めつけた存在が、もしもこの場にいるのなら、フルパワーで36発はブン殴ってやる。

 

 そう堅く心に誓うディーンを後目(しりめ)に、大空を旋回(せんかい)する赤き翼は二度目の強襲(きょうしゅう)に移らんとしていた。

 

 全身を(おおう)う甲殻は赤く、その巨体を空へと持ち上げる力強い両翼(りょうよく)。長い首や尻尾からなるその全長たるや、20メートルに届くかもしれない。

 

 数ある飛竜種の中にあって、伝説の(ドラゴン)を最も彷彿(ほうふつ)させるその勇姿(ゆうし)

 

 

 ──火竜(かりゅう)リオレウス。

 

 

 “空の王”の通り名を欲しいままとするその強大な力の権化(ごんげ)が、今まさにディーン達に牙を向けんとしている。

 

「来ますっ!」

 

 エレンが叫ぶのを合図にするかのように、旋回していたリオレウスの巨躯(きょく)(ひるがえ)る。

 

 

 グギャアアアァァァァっっ!!!!

 

 

 急降下(ダイヴ)

 

 あれだけの巨体が宙を舞い、そしてそれが落ちてくるのだ。

 

 生じるエネルギーや、人の身の想像を遙かに凌駕(りょうが)して(なお)……(まさ)る。

 

「……くっ」

 

「チィッ!」

 

「きゃあっ!?」

 

 先の不意打(ふいう)ちとは違い身構(みがま)えていた為、全員が直撃を避けることができた。

 

 だが、火竜の巻き起こすその風圧たるや(すさ)まじく、その場の誰もが荒れ狂う空気の渦に飲まれ、吹き飛ばされぬように身を固めて耐えるのが精一杯であった。

 

 ディーン達を蹴散(けちら)らし損ねた火竜リオレウスは、着地の勢いを殺すべく、そのままある程度の距離を()け、ディーン達からは大分離れた位置で(ようや)く停止すると、ゆっくりと此方(こちら)に振り返った。

 

 青き一対(いっつい)の眼球が彼等を睨みつける。

 

 大地に降り立った赤き空の王者のその姿は、見るものにその圧倒的な存在感を見せつけるかの(ごと)く、威風堂堂(いふうどうどう)としたものであった。

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