奇談モンスターハンター   作:だん

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4節(2)

「野郎……」

 

 ディーンが奥歯を()みしめるように、低く(うな)る。

 

最初(ハナ)っから、俺達の存在に気づいていやがったな」

 

「どうやら、その(よう)だな」

 

 忌々(いまいま)しげに言うディーンの言葉を、フィオールが肯定する。

 

「えぇっ!? では何故、私達が隊商(キャラバン)の皆様と一緒にいるときに、襲いかからなかったのでしょう?」

 

 ディーン達の会話に、エレンが驚いて当然と言えば当然な疑問を口にする。

 

 確かに彼女の言うとおり、彼等が隊商を引き連れている状態ならば、隊商を守りながら戦わざるを得ず、素早く動けないディーン達は甚大(じんだい)な被害を被ったであろう。

 

 だが、リオレウスはそれをしなかった。

 

 何故か?

 

 ──それは。

 

「まず我々に脅しをかけ、足止めして護衛(ごえい)の私達を誘き出し、片付けた後にゆっくりと残りを狩り殺す為でしょう」

 

 ハンターならば、誰もが知る火竜リオレウス。

 

 ()の飛竜種は、高い戦闘力だけではなく、狡猾(こうかつ)さをも()ね備えているのだ。

 

 もし、ディーン達が隊商を連れている状態で襲いかかれば、勿論獲物(えもの)にはありつけるだろう。

 

 だが、彼等の内の誰かを殺し、(とら)え、補食する間に、他の者にはきっと逃げられてしまうのは間違いない。

 

 そこでリオレウスは、(わざ)と自身の存在をほのめかし、戦闘力の無い者を足止めさせ、護衛であるディーン達を(おび)き出したのだ。

 

 そして、彼等がリオレウスの存在を確かめにベースキャンプから出て来たところを、上空から大きく山陰を旋回して、背後から奇襲をかけたのである。

 

「なめた真似しやがって……!」

 

 フィオールの推察(すいさつ)を聞き、同じ結論に達していたディーンが静かに怒りを(あら)わにする。

 

 確かに、強大な飛竜種の(ゆう)、火竜リオレウスからすれば、人間などは矮小(わいしょう)な存在でしかないのだろう。

 

 だが、ディーン達はハンターである。

 

 リオレウスのとった行動は、彼等の力を全く驚異と見なしていないのと同じこと、侮辱(ぶじょく)も良いところだ。

 

 ディーンが憤慨(ふんがい)するのも無理はない。

 

 しかし、相手は空の王者と名高いリオレウス。

 

 しかもあの知性の高さと大きさである。恐らくは彼等の同胞(どうほう)の中でも、上位の部類に入ると思って間違いないだろう。

 

 この近辺(きんぺん)にいたであろうランポス達も、火竜に駆逐(くちく)されたのだろう。

 恐らく、先に()べた飛竜の巣に行けば、彼の()い残しであろう鳥竜種の骨の山が(おが)めるに違いない。

 

「ディーン、落ち着け。熱くなるな」

 

 フィオールが奥歯を噛み締めるディーンをいさめる。

 

 その間にもリオレウスは一歩、二歩と、ゆっくりと距離を詰めてきているのだ。

 彼自身の間合いまでは、どうやら徒歩でその間を埋める気のようであった。

 

「わかってるさフィオール。だが、彼方(あちら)さんは()る気満々みたいだぜ?」

 

 そうフィオールに返すディーンも、もう後に引く気は皆無(かいむ)の様である。

 ふと見れば、今まで黙っていたエレンも、ボウガンの弾倉に弾を込める最中だ。

 

…まったく。

 

 この状況で、(たくま)しすぎる奴らである。

 

 ディーンは別格としても、いつの間にかエレンまで、大した胆力(たんりょく)だ。

 もっとも、エレンに至っては、彼等……否、ディーンについて行こうと必死なだけかもしれないが……

 

「やれやれ……お前達と居ると、退屈と言う言葉を忘れそうになる」

 

 苦笑(くしょう)気味(ぎみ)に、もう半ば自棄糞(ヤケクソ)気味とも言うのだろうが、フィオールも背中に背負ったパラディンランスを展開させ、大盾を前に構える。

 

「そりゃどうも。お()めの言葉、痛み入るぜ」

 

「フッ、()(もの)が……来るぞ!!」

 

 その(ほお)に苦笑いを残して言うフィオールが、一気に表情を引き締める。

 リオレウスが自身の間合いに入ったのだ。

 

(おう)っ!!」

 

「はいっ!!」

 

 ディーンとエレンの返答が、開戦の狼煙(のろし)となった。

 

 

・・・

・・

 

 

 ──くすくす。

 

 ディーン達が火竜と退治する崖沿いの道の上。彼等が飛竜の巣と呼んでいた山の(いただき)に、その頂の(へり)に小さく腰掛ける“存在(モノ)”が、ようやく始まった喜劇(みせもの)にほころぶように嘲笑(わら)う。

 

「さぁさ、今度はどんなびっくりが見れるのかしら」

 

 

 ──くすくす。

 

 

 鈴が転がるようなその笑い声には、全くと言っていいほど邪気がない。

 

 まるで、道化師(クラウン)が次になにを見せてくれるのか、楽しみでしょうがない童女(どうじょ)の様に……。

 

 それ(ゆえ)異様(いよう)

 

 つきたった岩山の頂上。人の手の届かぬ場所にあるその童女。

 

 その場の何よりも真白(ましろ)い肌に真白(ましろ)く長い髪、そして真白(ましろ)いドレス。

 

 唯一瞳だけが真紅(しんく)。その真紅の瞳を愉快(ゆかい)げに細め、眼下(がんか)で身の程を超えた強敵と対峙(たいじ)するディーン達を眺めている。

 

「ここまで御膳立(おぜんだ)てするのには、ちょっと苦労したんだから、しっかり頑張って(もら)わないと困ってしまうわ」

 

 腰掛けた縁に(さら)された白く可憐(かれん)脚線(きゃくせん)が、童女の心境(しんきょう)を反映するかのように、ふらふらと揺れていた。

 

 そんな彼女にかかる声が一つ。

 

(まった)くです。付き合わされた(わたくし)としても、此処(ここ)で彼等に終わられてしまっては()()がございません」

 

 低く、よく通る声の主は、真白(ましろ)き童女とは真逆(まぎゃく)(あか)い男であった。

 

 深紅(しんく)外套(がいとう)にみを包み、フードを目深(まぶか)にかぶっており表情は(うかが)えないが、声色からして、少々呆れの入った苦笑といったところであろうか。

 

「もう! 意地悪(いじわる)言わないでよ。いいじゃない、漸くあの人を見つけられたんだもの。少しくらい楽しんだって」

 

 白き童女が、背後からかけられた皮肉に頬を膨らませる。

 縁からぶら下がった彼女の素足も、それの感情合わせてブンブンと振り子の勢いを増す。

 

 その姿に、少々あきらめの入った嘆息(たんそく)をし、赤衣(せきい)の男は眼下のディーン達に視線を向けた。

 

「わざわざ生態系を無視して、何故(なにゆえ)火竜をこの地に追い込むのかと思えば、このような(たわむ)れとは……」

 

 その目に、火竜の吐き出す炎のブレスをかわし、果敢(かかん)にリオレウスに切りかかるディーンが映る。

 

 12年前に救った幼子(おさなご)は、どうやら立派に成長していたらしい。

 

 フードの奥から僅かに覗く唇に、先程とはまた違った笑みが浮かぶ。

 

「気になる?」

 

 それをめざとく見つけた童女が、先程のお返しとばかりに、意地の悪い笑みを浮かべて赤衣の男に問いかける。

 

 赤衣の男は、図星(ずぼし)をつかれた事に対してフッと吐息を漏らした。

 

姫君(ひめぎみ)にはかないませんな」

 

 そう応えると、赤衣の男は降参の意思表示として、両手を上げてみせる。

 

「ええ。白状すれば、先程から彼等がどれほどの者なのか、今後どのように成長していくかが、気になって仕方がありません」

 

 自嘲(じちょう)気味に笑いながら言う赤衣の男。

 

「彼“ら”?」

 

 …彼……“お兄様(ディーン・シュバルツ)”だけではなくて?

 

 姫君と呼ばれた童女の問いに、男は(うやうや)しく(こうべ)()れて肯定した。

 

御意(ぎょい)にございます姫君。彼の(かたわ)らの少女も、あの槍使いの青年も、(わたくし)にはとても(まぶ)しく見えます」

 

 言葉を(つむ)ぐ赤衣の男の視線は、その(げん)にそってエレンを、そしてフィオールを捉える。

 

 視線の先の彼等……

 

 エレンは懸命に立ち位置を変え、火竜の射程外から弾丸を撃ち込んでいる。

 

 フィオールは勇敢にもリオレウスの真正面に立ち、大盾で身を守りつつ、火竜へと槍を繰り出している。

 

「ふぅん……貴方がそうまで誉めるなんて珍しいわね。私にはよくわからないけれど」

 

 男にならって、童女はエレンとフィオールを見るが、彼程の“存在(モノ)”が褒め称える理由までは掴めなかった。

 

「ふふふ。姫君にはまだ、彼等の魂の輝きは解りますまい」

 

「フン、だ。貴方の言い回しは、詩的(してき)過ぎなのよ!」

 

 再び形勢が不利になり、童女が()ねたように口をとがらせる。

 解っていたことだが、やはり口ではこの男にはかなわないようだ。

 

 そんな白き童女の様子に苦笑しながら、赤衣の男はディーン達に視線を戻し、拗ねた幼児の気を引くように話題を元に戻した。

 

「まぁいずれにせよ、彼等がどこまで戦えるか、我ながら不謹慎(ふきんしん)極まりない限りですが、とても楽しみではあります」

 

 それを聞いた白き童女は、コロッと機嫌を直し「そうでしょう?」などと、華やいだ笑顔で聞き返してきた。

 

「彼等の方にも援軍が向かってるみたいだけど、こっちの駒にも伏兵が居るわ。この後、どんな展開になるのかしらね? 楽しみだわぁ」

 

 援軍と彼女が呼んだ青年が、オトモのアイルーを引き連れてこの狩り場に向かっている事は、赤衣の男も感知していた。

 

 ディーン達に勝るとも劣らぬ魂の輝きの持ち主。

 

 彼が到着することで、状況はディーン達に好転するであろう。

 

 しかし、白き姫が駒と呼んだ存在は火竜リオレウスの中でも、選りすぐりの上位種である上に、姫の言うとおり、此方がこの狩り場に追い込んだ火竜は一匹ではない。

 

…やれやれ……我が(あるじ)には、(わたくし)はそうとう怒られてしまうでしょうね……

 

 赤衣の男は胸中でそう呟くと、瞳を輝かせる白き姫の視線を追った。

 

 口元には、この場に不釣り合いなほど優しげな笑みを浮かべて……

 

…ディーン・シュバルツ。何よりも偉大で、誰よりも誇り高き魂を継ぐ者よ。

 さぁ、この窮地を、貴方はどう乗り切ってみせる?

 

 赤衣の男のフードの奥の表情は見えない。

 しかし、その口元の笑みは、意味深めいたものであった……

 

 

・・・

・・

 

 

 ガギンッッ!!

 

 フィオールのパラディンランスが、リオレウスの堅い甲殻に弾かれる。

 

 渾身の一撃の衝撃は逃げ場を失い、放ったフィオール本人に返ってくる。

 

 たまらず仰け反るフィオールに、ぶぉんと空気を切る低い音と共に、火竜の強靭な尻尾が襲いかかった。

 

「ぐぅっ!?」

 

 体制を大きく崩し、ガードもままならないフィオールは、振り回された尻尾に(したた)かに()()えられ、大きく弾き飛ばされた。

 

「フィオールさん!?」

 

 エレンが悲鳴めいた声を上げるが、フィオールは何とか立ち上がり、リオレウスから距離を取って体勢を整えた。

 

大事(だいじ)()い。心配無用だ」

 

 やせ我慢を口にしてみせ、ポーチから回復薬(かいふくやく)を取り出して一息で呷る。

 

 薬草を(せん)じて、滋養効果のあるアオキノコと混ぜた液体が、傷の痛みをかなり和らげてくれた。

 

 だが、如何(いか)にハチミツも加えて効果を高めているとはいえ、火竜の攻撃力はすさまじく、いつ致命傷を被ってもおかしくはない。

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

 間合いの外に弾き飛ばされたフィオールに代わり、ディーンが一気にリオレウスへと疾駆する。抜き身の鉄刀を片手に、矢のような速さで。

 

 あっという間に、比較的肉質の柔らかい顔面へと駆け込んだディーンの鋭い斬撃が走る──。

 

 

 ザギンッッ!!

 

 

 右側面から飛び込むように繰り出される袈裟懸(けさが)けが、リオレウスの頬っ面に裂傷を刻みつける。

 更に返す刃が、今たどった軌跡(きせき)をなぞるように跳ね上がり、刻みこんだ裂傷に、更に刃をえぐり込ませた。

 

「……っ!!」

 

 ディーンの斬撃は止まらない。

 

 右上に駆け抜けた大太刀を今度は逆手(さかて)に握り返し、真一文字に振り抜くと同時に、火竜の真正面から背後へと跳び抜けた。

 

 リオレウスの頭部へと集中させる、目にも留まらぬ三連撃だ。

 

「エレンっ!!」

 

 背後に回ったディーンが声を上げる。

 

 ディーンの苛烈な連撃に、思わず(たたら)を踏んだリオレウス。その一瞬の隙に、がら空きの頭部に銃口を向けるのは、エレン・シルバラント。

 

 

 ──照準(ロックオン)っ!!

 

 

 その銃口から吐き出された弾丸が、狙い(たが)わずにリオレウスの顔面に吸い込まれた。

 一拍(いっぱく)遅れて、着弾した弾丸が爆発する。

 

 これにはリオレウスも驚いたらしく、甲高い声を上げて仰け反った。

 

 エレンの撃った弾丸は徹甲(てっこう)榴弾(りゅうだん)

 

 標的に着弾後、弾丸内の爆薬が炸裂して破片を撒き散らし、対象への大ダメージを狙う弾である。

 

 近接武器を持つ者の居るチームでは、味方に誤って被害を出す危険性がある為、使用どころの難しい種類の弾なのだが、ディーンの様にあっと言う間に徹甲榴弾の効果範囲から離脱する程のスピードを誇る前衛(フォアード)ならば話は別である。

 

「エレン、効いてるぜ! もう一度だ!」

 

「はい!」

 

 切り抜け、一旦リオレウスから距離を取っていたディーンのかけ声に、エレンが応える。

 

「行けるか、フィオール?」

 

(おう)! タイミングはそっちに合わせる。仕掛(しか)けるぞ!」

 

 戦列に復帰したフィオールが、リオレウスの正面に再び立つ。

 

 リオレウスを(はさ)む形の太刀士(サムライ)槍士(ランサー)。火竜まで距離、それぞれ約15メートル強。

 

 リオレウスは、自らに立ち向かう小さき人間三人に対し、威嚇(いかく)するように唸り声を上げる。

 

 彼等の鼓動が大気を振動させ、それがカウントダウン代わりになっているかのような錯覚を覚える。

 

……3

……2

…………1っ!!

 

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