奇談モンスターハンター   作:だん

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4節(4)

「オラオラオラァッ!!」

 

 逆袈裟(さかげさ)に斬り抜けるや、勢いそのままに反転すると、そこから突き、一旦刃を引いて切り上げ、跳ね上がった刃を翻して左から右に払うと同時に、バックステップにて距離をとる斬り下がりと、太刀の基本の型にそった三連撃。

 

 しかし、そこはディーン・シュバルツ、型通りで終えたりなどしない。

 

 否、してやらない。

 

「……っ!!」

 

 地に足が着くや、とった距離を再び(ゼロ)にする高速の踏み込み。加速と体重をエネルギーに変えて、両手で握った太刀に乗た一撃が、リオレイアの左脚部に深い裂傷を刻みつける。

 

 ディーンは止まらない。

 

 振り下ろした太刀を右片手に持つと、すぐさま右脇腹へと柄を引き寄せる。反対に、離された左手は勢いよく振り抜く。

 

 降り抜かれた左手と交差するように、彼の左足が跳ね上がり、自らが刻みつけたリオレイアの左脚に斜めに走る刀傷に、その向こう(ずね)を叩きつけた。

 

 

 グギャアァッッッ!?

 

 

 飛竜種相手のローキックである。

 

 ディーンの振り上げた脚の高さから考えると、人間からすれば充分ハイキックなのだけれど……

 

 だが、この強烈な蹴りに流石の雌火竜リオレイアも悲鳴を上げ、大地に膝を突いてしまった。

 

 読者の方には、ローキックが地味な技に思われるかもしれない。

 

 しかし、ボクシングで『左を征する者が世界を征する』と言われるように、タイ式キックボクシング、ムエタイではこの下段蹴(テッ・ラーン)を征する者が世界を征するとまで言われた、重要な技なのだ。

 

 そもそも、生き物を動かしている筋肉には、各部位に境目(・・)が存在する。

 

 脚を伸ばす為の筋肉と曲げるための筋肉の隙間に襲いかかるその衝撃は、筋肉のクッションを無視して神経へと直撃する。

 

 どうやらそれは、人も飛竜種も同じ様だ。

 

 リオレイアは左脚部に襲いかかる予想外の激痛に、立ちあがりたくても立ち上がれない。

 

 そしてその隙を見逃すような間抜けは、この場には存在しない。

 

 先行する二人から一拍遅らせたフィオールが、がら空きの顔面へと強襲する。

 

 一点を狙った三段突きが、雌火竜の堅い鱗を弾き飛ばす。

 

 フィオールは突き出した槍と共に前方へ流れかけた体制を、右へ体一つ分ステップして、強引に引き戻すやさらに三段、同じ要領で左ステップの後にもう三段と、都合九連撃を目にも鮮やかに放つ。

 

 堪えきれずに、リオレイアが長い首を大きく持ち上げてフィオールの猛攻から逃れる。

 

 持ち上がったその頭部に狙いを定める、小柄な影が一つ。

 

 エレンである。

 

 彼女の構える猟筒(りょうづつ)の銃口が、フィオールの攻撃から逃れた雌火竜の顔面目掛けて、容赦なく弾丸を発射する。

 

 轟音と共に射出された弾丸が、狙い違わずリオレイアの頭に直撃する。

 

「皆さんっ!!」

 

 着弾を確認したエレンが叫ぶ。

 その声を聞いた三人が、一斉にリオレイアから距離をとった刹那。

 

 

 ドォォンッ!!

 

 

 リオレイアの頭部を中心に爆発が起こる。

 

 炸裂した徹甲榴弾の爆風さめやまぬ間に、再び三人の戦士がリオレイアに襲いかかる。

 

 しかし、小さき人間になすがままにされる陸の女王ではない。

 わき上がるその怒りを、リオレイアは咆哮に変えて解き放つ。

 

 

 ギャオオオオオオォォッッッ!!

 

 

 飛竜種の生態の一つ、バインドボイス。

 

 人の身ではあらがいがたき轟音が響き渡り、耐えきれずディーン達は耳を塞いでかがみ込んでしまう。

 

 その隙を逃さず、なんとか視界を回復させたリオレイアは、自身を取り囲むハンター達の包囲網から逃れるため、巨大な翼を翻し、その巨体を重力の(くびき)から解き放った。

 

 風圧に押され、接近していたディーン達三人は後退を余儀なくされる。

 

 リオレイアは驚くべき事に、激痛にうまく動かせぬ脚で大地に立たず、その両翼をもって低空ホバリングして見せたのだ。

 

 その膂力(りょりょく)たるや、計り知れない。

 

「なんて奴ニャ……!?」

 

 乱戦になっては流石に出る幕がなく、少し離れた場所で戦いを眺めるばかりのネコチュウが呻くように言う。

 

「来るよっ!」

 

 ミハエルが警戒の声を飛ばす。

 

 リオレイアが怒りに満ちたその(まなこ)を、まずは正面に立つフィオールへと向けたのだ。

 

 対するフィオールは、目を合わせれば(たちま)ち、その存在の大きさに飲まれそうになるのを懸命に堪えながら、右手に持った大盾を構える。

 

 睨み合いは刹那の時。形勢変わって、攻める飛竜と守る人間。

 

…いざ、勝負!

 

 攻め手のリオレイアが、その強靭な膂力を持って、翼の羽ばたきのみで蜻蛉(トンボ)を切る。

 

 

 ──蜻蛉切(サマーソルト)

 

 

 雌の火竜のみが行う、宙返りによって下から跳ね上がった尻尾で標的を蹴散らす、リオレイア最大の攻撃である。

 

 本来は地面に足の着いた状態から、2、3歩助走をつけて放つのだが、どうやら空中にホバリングしている状態でも放つことができるようだ。

 

 地面を擦るように襲来する雌火竜の尻尾。

 

 先端は重石(おもし)のように大きくなっており、猛毒を含む刺が乱立している。

 

 直撃すれば、いかな頑丈な盾蟹(たてがに)の甲殻で作り上げたザザミシリーズと言えど、ひとたまりもない。

 

 ──直撃すれば、の話であるが。

 

 

 ガィンッッッ!!

 

 

 来るとわかっている攻撃に対応できぬフィオールではない。

 

 フィオールが右手に構えた大盾は、土煙(つちけむり)を巻き上げて強襲する尻尾の一撃を、ものの見事に頭上へと受け流していた。

 

 正面切って受け止める様な愚は犯さない。膝を中心に、全身をバネのようにしならせ、衝撃を受け流す。

 

 これぞ、対大型モンスター戦における、盾の使い方の真髄(しんずい)と言えよう。

 

 リオレイアは、下から上へ振り抜いた勢いでそのままに一回転、再び空中でもとの体勢を取り戻す。

 

「まだだフィオール! まだいやがるぞ!!」

 

 ディーンの鋭い声が飛ぶ。

 

 目を合わせたリオレイアの瞳には、攻撃失敗の落胆はない。

 

 

 ──(しか)るに。

 

 

 ギュンッ!!!

 

 

 空気が弾けるような音と共に、雌火竜の強靭な尻尾が跳ね上がった。

 

 蜻蛉切(サマーソルト)の2連発。

 

 一発目は防がせて、大勢の崩れる相手を本命の二撃目で粉砕する気なのだろう。

 

 何とも知恵の回る事である。

 

 ……だが!

 

「見ているさっ!」

 

 そう、この攻撃は見切っている。

 

 再度、地をすり跳ね上がる尻尾。

 

 しかしフィオールは、先程のように大盾を構えて衝撃に備える事はせず、トンと一歩後ろに下がってみせた。

 

 だが、たった一歩分では、迫り来る尻尾の射程範囲から逃れる程の距離は稼げない。

 

…ぶつかる!?

 

 エレンやネコチュウが、そう思って顔を伏せ駆けた。

 

 ──しかし。

 

 

 ブォンッ!!

 

 

 低く風を切る音のみを残して、リオレイアの尻尾は再び空を切ったのだ。

 

 これには、流石のリオレイアも驚いたことであろう。

 

 フィオールはバックステップにより一歩後退し、尻尾が自身に直撃せんとするその刹那、左へと瞬時に(たい)をズラし、右手の大盾で巧みに尻尾の起動を逸らしたのだ。

 

 達人と呼ばれる戦士の見切りは、時に相手の次の手を予測……否、予知すると言われ、古く王国等では千里眼(フューレン)畏怖(いふ)されていたが。

 

 まさに、驚くべきフィオールの千里眼(フューレン)である。

 

 この一撃が必殺となると踏んでいたリオレイアは、流石に大きな隙を作ってしまっていた。

 

 正面に立つフィオールからは絶好の好機だ。

 

 しかし、フィオールは反撃に出られなかった。

 

 ディーンは言ったのだ。まだ“いやがる”ぞ、と。

 

「ディーンっ! どっちだ!?」

 

 フィオールが叫ぶ。

 前方の雌火竜に集中していた自分こそ、“もう一匹”には格好の獲物だ。

 

「九時の方向!」

 

 聞こえた声に従って、無我夢中で背後へと大盾を向ける。

 

 防御が間に合ったのは僥倖(ぎょうこう)でしかない。

 

 ものの一秒と経たぬ間に、フィオール目掛けて遙か上空から、耳をつんざく咆哮と共に赤き巨影(きょえい)が飛来した。

 

 雄火竜(おすかりゅう)リオレウスである。

 

 狡猾(こうかつ)な空の王者は、(つがい)のリオレイアとの戦いに気を取られているハンター達の隙をつくため、ずっと上空で見張っていたのだ。

 

 二度にわたるリオレイアとの攻防を制したフィオールとは言え、この不意打ちは流石に完全に威力を殺すことはできず、後方へ大きく弾かれてしまう。

 

 どうやら、奴が空から攻撃できるこの場にリオレイアを待ち伏せさせていたのも、計算ずくらしい。

 

 つくづく知恵の回る奴である。

 

「大丈夫かい、フィオール君」

 

「ああ、大事ない。盾の上からの衝撃だ。かすり傷一つ無い……だが」

 

 駆け寄って助け起こしてくれたミハエルに応えるフィオールの表情は硬い。

 

 それもそのはずである。

 

 視線の先では、再三の不意打ちを仕損じ、苛立ちも(あら)わに、雄火竜がゆっくりと大地に降り立つところだった。

 

 遂に、合流してしまった。

 

 スペースはそれ程広くないこの場所に、火竜の(つがい)が揃ってしまったのだ。

 

 身を隠す場所も少なく、都合の悪いことに、先のトンネルをはじめ飛竜一匹通る分には充分なスペースがある。

 

 戦うにも不利、逃げるにも不利。

 

…万事休すか。

 

 ギリっと、奥歯をかみしめるフィオール。

 

 すぐ後ろで、ミハエルが生唾(なまつば)を飲み込む音が聞こえる。

 

 少し離れた距離にいたディーンとエレン、ネコチュウも険しい顔で集まってきた。

 

 エレンやネコチュウに至っては、明らかに青ざめている。

 

 一体どうすればいい?

 

 この場の誰もが同じ気持ちかもしれない。

 

…たった一人をのぞいて。

 

「ネコチュウ! さっきの角笛貸してくれ!」

 

 皆が集った途端に、ディーンが口を開く。

 

「ミャ!? い、いったいどうする気ニャ?」

 

「いいからっ!」

 

 半ば引ったくるようにネコチュウから角笛を受け取ると、ディーンは一同から一歩前に出るように立ち、漸く大地におり立った火竜の番を睨みつけた。

 

 見れば、リオレイアも左足の激痛から立ち直ったようだ。

 

 一同の誰もが、問いかけたネコチュウの言葉通り、いったい何をする気なのだろうと思ったときであった。

 

「今から俺が、雄の方を引き付ける。その隙に、みんなはもう一回閃光玉で雌を足止めしてくれ」

 

 ディーンの口から飛び出した言葉は、その場の皆を驚かすには充分であった。

 

 つまりディーンは、あの強大な雄火竜リオレウスを、一人で相手取ると言うのだ。

 

「無茶だよ、ディーン君!」

 

「そうニャ! あまりにも出鱈目(デタラメ)ニャ」

 

 ミハエルとネコチュウが悲鳴じみた抗議の声を上げる。

 

「こんな狭い場所であの二匹を同時に相手にするよか、幾分(いくぶん)マシだ」

 

 しかしディーンは、切って捨てるように言って、いざ仕掛けんと腰を落とす。

 

「………」

 

 確かに出鱈目な作戦であろう。

 

 しかし、あの轟竜戦を目にしたフィオールには、なぜだか不思議と、その出鱈目さに納得できてしまう自分に内心驚いていた。

 

「抜かるなよ、ディーン」

 

「……!? フィオール君!?」

 

 フィオールの口から出た、ゴーサインともとれる言葉に、ミハエル達は驚いて彼を凝視する。

 

 しかし、フィオールはそれに動じず、ディーンを見つめていた。

 

「応よ! 俺があの王様野郎(おうさまやろう)を引きつけてる間に、とっとと奥さんの方を片付けちまいな。もっとも……」

 

 不敵に言ってのけるディーンは、そこで一旦言葉を切ると、横顔だけ振り返る。

 

「俺の方が先に倒しちまうかも知れねぇがな」

 

 フィオール達から見えるその横顔に、言葉の通りに不敵な笑みを称え、ディーン・シュバルツは言い放った。

 

「上等」

 

 不遜な物言いに、フィオールの口元もつり上がる。

 

 そうこうしているうちに、眼前の火竜達がいざ此方へ襲いかからんとしている。

 

 最早、問答の時間はない。

 

「行くぜみんな! 気合いを入れろッ!!」

 

 ディーンが叫び声を上げ、太刀を背中に納めたまま、先陣を切って走りだした。

 

 ほかのメンバーも覚悟を決めて飛び出す。ただし、正面目掛けるディーンとは別かれ、右から回るように。

 

 散開したハンター達に、一瞬火竜達の視線が泳ぐ。

 

「手前ェの相手はこの俺だッ!」

 

 その一瞬の隙をつき、ディーンは進路上に転がっていた、握り拳大の石をつかみ取るや、そのままアンダースローの要領で投擲する。

 

 うなりを上げて飛ぶその石は、まるで吸い込まれるように雄の火竜の鼻っ柱に直撃して砕けた。

 

 リオレウスの硬い鱗には大したダメージに至らないであろうが、彼のプライドを刺激するには充分効果があったようだ。

 

 リオレウスは怒りに満ちた瞳をディーンに向けると、翼を広げて一声()えると、完全にディーンを標的と認めたようだ。

 

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