奇談モンスターハンター   作:だん

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4節(10)

 ランスの柄の先端を右手で、左手は柄の刺突部分側ギリギリに添え、左足を前に出し、やや前傾に構える攻撃型(アタッカースタイル)だ。

 

 構えるパラディンランスはほぼ水平に。瞳は頭上でホバリングするリオレイアを見据えるフィオール。

 

 対するリオレイアは、既に次の一撃を撃たんとしている。()の雌火竜は気付いていないのだ。フィオールの本当の狙いが何であったのか……

 

 いや、もし気付いていたとしても、今このタイミングでは、リオレイアは撃たざるを得ないのだ。

 

 二撃目の蜻蛉切(サマーソルト)を。

 

主菜(メインディッシュ)を振る舞ってやる。存分に喰らうがいい」

 

 その言葉が引き金(トリガー)になる。

 そしてそれこそが、フィオールの真の狙い。

 

 ギュゥンと大気が引っ掻き回され、再びリオレイアの尻尾が地を這って跳ね上がる。

 

 否、跳ね上がらんとするその刹那であった。

 

 

無双(ドライ)……ッッ!」

 

 

 フィオールの足元が爆発したかのような土煙を巻き上げ、まるで撃ち出された弾丸の様にフィオールが跳ぶ。振り抜かれんとする尻尾目掛けて一直線に。

 

 

「……三段(ヴィンダー)ッ!!」

 

 

 裂帛(れっぱく)覇気(こえ)に乗せて繰り出した神速の一本突き。

 

 その突きが、今まさにトップスピードに乗る直前にある、雌火竜の尻尾のど真ん中に突き刺さったのだ。

 

 空中のリオレイアの体勢は、丁度垂直になった状態。

 この後回転の遠心力と同時に尻尾を振り抜き、標的(フィオール)に叩きつけるハズだった。

 

 しかしそれは、フィオールのたった一発の突きによって阻まれたのである。

 

 しかも、“尻尾が伸びきって、()つ、最大限の力を出すために、筋肉が張り詰めた状態に”だ。

 

 目一杯に膨らんだ風船が一本の針で破裂する様子を想像していただきたい。

 更に言えば、先程までフィオールは、執拗に背後をとって尻尾にダメージを与えていた。

 

 様々な要因が積み重なった結果はどうなるか、それは至極(しごく)単純にして、壮絶なものとなる。

 

 

 ブチィッッッ!!

 

 

 繊維質の物が引きちぎられる嫌な音と共に、ハンター達を苦しめていた雌火竜の尻尾が、中程からぶっつりと途切れ、本体と永遠に離別した。

 

「ッ!?」

 

 ミハエルの驚きは、最早声にならぬ。

 驚愕、只その一言である。

 

 それは、蜻蛉切(サマーソルト)の勢いを殺しきれずに、切断された尻尾を地面に残したまま空中でひっくり返ってしまったリオレイアも同じ事であろう。

 

 いや。もしかしたら、あまりの事に理解が追いついていないのかも知れない。

 

 しかし、空中で死に体を晒す雌火竜に、丁度真下に位置する槍士(ランサー)は、無様に地面に叩きつけられる事すら許しはしなかった。

 

 フィオールは言った、無双三段(ドライヴィンダー)と。

 

 巨龍(きょりゅう)退治の英雄、フィン・マックールの得意とする槍術(そうじゅつ)神髄(しんずい)は、鉄壁を誇る防御に(あら)ず。

 

 むしろ盾を捨て、両の腕で操る槍による、(じゅう)にして(ごう)なる攻めの手こそ、マックールの槍の真骨頂。

 

 一撃目(アインス)が、仕手(して)の持つ最速の突き。そしてそこから繋ぐ超高速の三連撃。

 

二撃目(ツヴァイ)!」

 

 突き出された槍を引き戻す動きは、そのまま次の攻撃へと昇華される。

 

 フィオールの懐まで戻された槍は勢いをを止めない。

 引き手の勢いそのまま、フィオールはぐるんと縦に円を描くように回転(ターン)する。

 

 その動きに導かれたのは、槍の()の先端、石突(いしづ)きの部分である。

 大上段から翻った石突きが、空中でひっくり返って背中を晒す雌火竜に襲いかかった。

 

 

 ガリガリガリガリッッッ!!

 

 

 乾いた音を撒き散らして、突き立った石突きが雌火竜の背中を抉り抜ける。

 雌火竜の背中に生えた無数の棘が、走り抜ける槍の石突きによって砕かれていく。

 

 しかし、砕けた棘の破片が、真下にいたはずのフィオールに降り注ぐことはなかった。

 

 何故なら、フィオールは既に上段から石突きを振り抜くと同時に、リオレイアの真下から移動していたからだ。

 

 縮地(しゅくち)の領域と言える速度で、長い首の先端、後頭部下まで至ったフィオールの体勢は既に、最後の一撃を放つ直前の状態であった。

 

三撃目(ドライ)ッッ!!!」

 

 鋭い声と共に、ぶおんと風を切ったフィオールのフルスイングが、刹那の時に空中で静止する雌火竜の横っ面を、盛大な音を巻き上げて強かにぶっ叩いた。

 

 

 バゴォォォンッッッ!!

 

 

 その一撃は、常人には想像だに出来ぬ衝撃をもってして、雌火竜を吹き飛ばした。

 

 錐揉(きりも)みするかのように吹っ飛んだ雌火竜の巨体が、石壁にぶち当たる。

 

 

 ──マックール(りゅう)槍術(そうじゅつ)無双三段(ドライヴィンダー)

 

 突き、石突き、薙払(なぎばら)い。

 

 槍における三点の攻撃方全てを瞬時に解き放つ大業(おおわざ)である。

 

 もし、フィオールの持っていたランスが、長柄(ながえ)の先に刃を持つ本来の形の“(やり)”であったのなら、切断されていたのは尻尾だけでなかったかも知れない。

 

「待たせたなミハエルッ!」

 

 ランスを振り抜いた残身(ざんしん)の状態から、フィオールがミハエルに向けて声を飛ばす。

 

 お前の出番(ばん)だ、と。

 

「そんなに待ってないよっ!」

 

 軽口で応えるミハエル。

 この期において、驚きのあまり出番に遅れるような愚を犯すような男ではない。

 

 既に赤い闘気(オーラ)を幻視させていた彼は、まるで撃ち出された弾丸のように疾駆する。

 

 狙うは言うまでもない。石壁にぶち当たった後、腹から地面に落ちた雌火竜リオレイアの顔面である。

 

「でやああぁぁぁッッ!!」

 

 起きあがる隙すら与えるつもりはない。

 飛びかからん勢いでリオレイアの頭部に取り付いたミハエルが、ここぞとばかりに刃の雨を降らせる。

 

 それによって舞い散る血の華が、雌火竜の生命を目に見えて削り取っていくのがわかる。

 

…このままではまずい。

 

 雌火竜の心境を言葉に代えるのであれば、きっとこうであろう。

 

 ミハエルの乱舞の中、リオレイアは最後の力を振り絞って立ち上がると、よろよろとした足取りで彼等から逃げるように歩き出した。

 最早、この強靭な雌火竜の生命(いのち)は風前の灯火である。

 

 今こそ好機。ミハエルもフィオールも、このチャンスに一気に勝負を決めにかかった。

 

 だが、しかし。

 

 追い込まれているとはいえ、流石は上位種である。

 瀕死のリオレイアは、何とか二人の攻撃を振り切ると、両翼を大きく広げて飛び立ったのだ。

 

「……チィッ」

 

 仕留め切れなかった苛立ちを、舌打ちにして吐き捨てるフィオール。

 最早リオレイアのその身は、手の届かぬ遙か上空にある。

 

 向かう先は十中八九彼等の巣であろう。

 

 彼等飛竜種に代表される大型モンスターは、睡眠を取ることによって、失われた体力、生命力を大きく回復させることが出来る。

 勿論、それには時間を要するのだが、一説によると、長時間睡眠をとることによって、切断された尻尾ですら生え替わることがあるという。

 

 その為か、多くの飛竜種は生命力が(いちじる)しく低下すると、自らのテリトリー内にある比較的安全な場所に戻って睡眠をとる習性があるのだ。

 

 (しか)るに、脚を引きずるほどのダメージを被ったリオレイアは、ほぼ間違いなく巣に戻るはずなのである。

 

「……残念。倒しきれなかったか」

 

 ふう、と一息ついて、双剣を背中に戻したミハエルが言う。

 

「そうだな、流石は陸の女王といった所か」

 

 フィオールも背中にランスを戻して応える。応えながら、先程弾き飛ばされた盾を回収することも忘れない。

 

「それにしても、凄い(わざ)を見せてもらったよ」

 

 ミハエルが、盾を回収して背中のマウントに戻すフィオールに声をかけた。

 

「雪山の案内人として、今までいろんなハンターを見てきたけど、まさか防御を捨てるランサーなんて初めて見たよ」

 

「私も、他人(ひと)に見せたのは初めてだよ」

 

 苦笑気味に応えるフィオールだが、すぐに思い直して表情を引き締めた。

 

「さぁ、後はエレンさんとネコチュウの手際に期待するとして、急いで私たちも奴を追おう」

 

「諒解。それじゃあ、エレンちゃん達に合図を送るよ」

 

 フィオールの言葉にミハエルが頷き、腰のポーチから取り出した信号弾を空へ向かって打ち上げる。

 二人は、紫色に明滅する光弾が上空に無事上がったのを確認すると、エレンとネコチュウの待つ飛竜の巣へと急ぐのであった。

 

 

・・・

・・

 

 

「ミャ!? エレン、ミハエル達の合図ニャ!」

 

「はい。どうやら作戦通りにリオレイアを弱らせたみたいですね」

 

 流石ですと続けたエレンは、リオレイアに付着したペイントボールの臭いが、徐々に近づいてくるのを感じ取って、その身に走る緊張感を高めた。

 

 所は代わり、此処はエレンとネコチュウが待機している飛竜の巣の入り口付近である。

 

 臭いはぐんぐん近づいてきて、あっと言う間に巣の中へと入っていった。

 

 

 ──ゴクリ。

 

 

 隣のネコチュウが、緊張に生唾を飲み込む音が聞こえる。

 いや、もしかしたら自分のものかも知れない。

 

「じゃ、じゃあ。オイラが先行して、アイツがちゃんと眠ったかどうかを偵察してくるニャ」

 

 小柄で目立ちにくいアイルーであるネコチュウが、偵察役に名乗り出る。

 

「わかりました。気をつけてくださいね」

 

 同じく緊張した面持(おもも)ちで返すエレンに、「ニャ、にゃんぷし」と彼流の返答をすると、おっかなびっくりネコチュウが洞窟内へと消えていった。

 

 一人待つ形になったエレン。

 まるで一分一秒が一時間にも二時間にも感じられた。

 

 先程までもずっと待機していたのだが、いざ自らの出番となると、緊張感もひとしおである。

 

 しばらく──と言っても、ほんの数分とみたぬ時間であろうが、偵察にでたネコチュウが戻ってきた。

 

 彼は、より一層緊張した顔で、一度だけ首を縦に振った。

 

 遂に、作戦開始である。

 

 エレンもネコチュウに頷き返すと、そばに置いてあった大タル爆弾Gを抱え上げる。

ずしりと両腕にのし掛かる重みが、自身の責任の重みのような気がした。

 

 

・・・

・・

 

 

 洞窟内は、思いのほか明るかった。

 頭上にはぽっかりと大きな穴が開いており、そこから陽光が差し込んでいるからであろう。

 

 足下には、誰の物かも解らぬ骨が散乱し、一歩一歩進むごとにガラガラと(いや)な音が洞窟内に響きわたる。

 

 そんな中、かなりの広さを持つ空洞の、中心よりやや手前側に、傷だらけの巨体が横たわっていた。

 散々皆を苦しめた尻尾は、真ん中付近で千切れており、全身これ傷だらけ。特に、顔面と背中は見るに耐えない。

 

 まさに満身創痍といった様相の、雌火竜リオレイアである。

 

 歩く度に耳障(みみざわ)りな音を立てる足場に、エレンとネコチュウは(キモ)を冷やすが、一度睡眠状態に入った飛竜種の眠りは深く、少々の物音程度では起きあがってはこなかった。

 

 かと言って、油断など出来ようハズもない。

 傷だらけで寝ているとはいえ、その圧倒的な存在感は健在なのだ。

 

 

 ──ゴトリ。

 

 

 エレンが寝ている雌火竜の胴体そばに、担いだ大タル爆弾Gを設置する。

 地面に置く瞬間に鳴り響いた音が、いやに大きく聞こえたが、雌火竜は起きあがってくる気配を見せなかった。

 

「……ふう」

 

 安堵の吐息が思わずこぼれる。

 

 この調子であと三つ。迅速に、且つ静粛(せいしゅく)に設置せねばならないのだ。

面と向かって戦闘するのとは別の、言いようの無いプレッシャーに、胃が締め付けられる思いに耐えながら、二人はなんとか都合四つの大タル爆弾Gを設置する事が出来た。

 

「……オッケーニャ~」

 

 最後の四つ目をセットしたネコチュウが、小声でエレンに言う。

 

「お疲れ様ですネコチュウさん。では、ネコチュウさんは離れてください。ボウガンの弾で起爆させます」

 

「にゃんぷし」

 

 同じく小声で返すエレンに応えると、ネコチュウはそそくさと彼女の背後に移動した。

 

 ネコチュウが安全圏に移ったことを確認したエレンは、背中のライトボウガンを構えると、銃身に弾丸を装填してスコープを覗き込んだ。

 

 脳裏には、この作戦を説明してくれたミハエルの言葉が蘇る。

 

『僕達が、何とかしてリオレイアの体力を削って、巣へと追い返す。巣に帰ったリオレイアは、きっと眠りにつくだろうから、エレンちゃんとネコチュウは眠ったリオレイアに、ありったけの大タル爆弾をお見舞いしてやってほしいんだ』

 

 イメージの掴みきれていない読者諸君の為に、補足をさせていただこう。

 

 ハンターの基礎であるのだが、飛竜種の生態の一つとして、飛竜が睡眠状態に入ると全身の筋肉が弛緩(しかん)して、全くの無防備になるという事柄がある。

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