奇談モンスターハンター   作:だん

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1節(2)

 ちなみに、ハンター達がマタタビをアイテムポーチの中に入れておくのは、アイルーの亜種にあたる亜人、手癖の悪いメラルー達から、他のアイテムを守るための囮としてである。

 

 それにしても何にしても、いかんせんボり過ぎだろう。

 

 と、思いながらも、キラキラと目を輝かせるネコチュウの手前と、持ち前の人の良さから、商人の言い値で買い取ってしまったミハエルであった。

 

…まぁ、ネコチュウは満足してくれているみたいだし、良しとしないとね。

 

 そんなことを考えていたせいか、ミハエルはほんの少しの間、前方のネコチュウから注意をそらしてしまった。

 

 と言っても、ものの数秒有るか無いかだ。

 

 だが、その数秒の間に、一つの事件が起きてしまった。

 

「ンニャッ!?」

 

 ドン、という音がして、前を歩くネコチュウの方を見れば、黒い毛並みの猫型亜人種、メラルーとぶつかってしまい、尻餅をついたネコチュウの姿があった。

 

「おっと、コレは失敬(しっけい)したのニャ」

 

 ぶつかった相手は、慇懃(いんぎん)にそう言うと、地べたに座り込んだ形のネコチュウに右手を差し出し、彼を助け起こした。

 

「いやはや、アチシとしたことが、前方不注意でしたのニャ。申し訳ニャい」

 

 アチシと言うからには、どうやら女性のメラルーのようだ。

 

「い、いや、オイラもよそ見をしていたのニャ。こっちこそゴメンナサイなのニャ」

 

 差し出された右手をとって立ち上がり、ネコチュウも目の前のメラルーに謝罪する。

 

一瞬、何か()られたかと不安になってしまったが、どうやらこのメラルーは、いい人(猫?)の様である。

 

 少しでも疑った自分を恥ずかしく思いながら、ネコチュウは笑顔で助け起こしてくれたことに礼を言うのであった。

 

「大丈夫かい? 二人とも」

 

 そんな二人の頭上から、ミハエルが声をかける。

 

「ンニャ。オイラは大丈夫ニャ」

「アチシも心配いらニャいのニャ」

 

 心配してくれたミハエルに応える二人であった。

 

 その様子を見たミハエルは、にっこりと微笑むと、「そうか、それは良かった」と切り出して……

 

 

「じゃあ、左手でクスネたモノを、彼に返して上げてくれないかな?」

 

 

 そう、言葉を締めくくる。

 

 その後の展開はめまぐるしかった。

 さっきまで人(猫?)の良さそうな顔をしていた女メラルーだが、途端に踵を返すと、脱兎(だっと)の如く駆けだしたのだ。

 

 ミハエルの反応も素早い。

 

 あまりの出来事に、目を白黒させるネコチュウをその場に、一目散に逃げ出したメラルーを追って走り出だした。

 

 そんな二人に一泊遅れて、ネコチュウも駆け出す。

 抱えた紙袋がやけに軽いことに、今更ながらに気がついたからだ。

 

「待つのニャー!!」

 

 怒気を含んだ声を張り上げながら走るネコチュウ。

 

 だが、先行する二人の脚は、人のごった返すメインストリートにおいても、減速する事はない。

 見失わないようにするのが精一杯で、追いつくなど到底無理だろう。

 

 しかしだ。

 諦めるわけにはいかない。

 

 何を盗られたか確認するまでもなく、十中八九“あの”マタタビである。

 

「許さなニャいニャー!!」

 

 再び叫ぶと、ネコチュウは彼らを追いかけることに全精力を注ぐのだった。

 

 

・・・

・・

 

 

…まずいな。思いの(ほか)足が速い。

 

 追う側のミハエルは、内心焦りを覚えてきていた。

 

 広い往来(おうらい)を行き交う人々の合間を、まるで布の繊維を縫う針の様にすり抜けながら、一向に縮められぬメラルーとの距離に、である。

 

「うわっ!?」

「きゃあっ!?」

 

 突然目の前で、疾風のごとく駆け抜けるミハエルに、何人もの通行人が驚きの声を上げる。

 

「ごめんなさ~いっ!」

 

 形だけでも謝罪の言葉を残しながら、ミハエルは走りつづける。

 

 メラルーとの差は約二間(にけん)と半。

 

 実質、足の速さはミハエルの方が圧倒していると言えよう。

 

 だが、相手は小柄なメラルーである。

 

 走行を妨害する人混みの影響は、ミハエルとは比べるまでもなく低い。

 

 むしろこの人混みの中で、メラルーを見失わずに追い続けているミハエルの体捌きこそ、驚嘆すべきである。

 

 事実、追われる側のメラルーの方は、ミハエル以上に焦っていた。

 彼女としては、この人混みに紛れてしまえば、間抜けな同胞とその連れからは、簡単に逃げきれると踏んでいたのだろう。

 

 そして、まんまとせしめた桁外れに高価なマタタビを、ゆっくりと堪能する腹積もりだった。

 

「いい加減、あきらめるニャー!」

 

 つい、そんな言葉が口からこぼれるが、真剣な表情で彼女を追いかけるミハエルは、それに応えることはない。

 

 応える余裕がないだけなのだが、追われるメラルーには、それが不気味であった。

 

 

 ──だからであろう。

 

 

 メラルーの意識は、逃げるべき前方ではなく、後方のミハエルへと移っており、その為彼女は、前方で走り来る自身を待ち構える人影に気付かなかったのだ。

 

「でやっ! 教育的指導!」

 

「……ミャっ!?」

 

 声が聞こえて、前に向き直ったメラルーの視界が突然暗転(ブラックアウト)する。

 

 同時に顔面……主に鼻っ柱に強烈な痛みが走り、自分が顔面から“何か”にぶち当たった事を理解した。

 

 それが証拠に、顔面を支点に強制的に停止させられたその勢いで、四肢がまるでレントゲン写真を撮る時の様に、前方へと投げ出される。

 

 原因は、突き出された拳骨(げんこつ)

 

 ボクシングで言うところの、ボディストレートの要領で繰り出された右の拳が、走り去ろうとしたメラルーの顔面にめり込んでいた。

 

 ……何というか、こう……めきゃっ、と。

 

 人間相手ならばボディだが、相手は小柄なメラルーである。高さはちょうど顔面の位置であった。

 

「うわぁ……」

 

 あまりに綺麗に炸裂した右ストレートに、追っていたミハエルも何とも言えぬ声をだす。

 

 走っている勢いの上に、カウンターで右ストレートだ。

 もう、滅茶苦茶痛そうである。

 

 明○の矢吹のクロ○カウンターよりも痛いのではないだろうか……

 

 メラルーの痛みを想像してしまったミハエルは、ついつい盗っ人である彼女に同情してしまった程だ。

 

 顔面に拳骨を打ち込まれたメラルーは、ずるずると拳から崩れ落ち、「ミャう~ん……」と唸って大の字にノビてしまった。

 

 その拍子に、左手に握ったままの“例のマタタビ”がこぼれ落ちたのを、ひょいっと拾い上げると、今し方メラルーをノックアウトした人物が、ミハエルへと歩み寄って言った。

 

「ハイ、これ。気を付けないとダメだよっ」

 

 そう言って笑顔を作る。

 

 ミハエルにマタタビを差し出した人物は、先の強烈な右ストレートからは想像できぬ程、整った容姿をした少女であった。

 

 年の頃は、同性のエレンと大差無いだろう。

 意志の強さを表すかのように、ややつり目がちの琥珀色(こはくいろ)の瞳。瞳と同じ色の長い髪は、頭の後ろで二つに分けて結ばれたギザミシックルと言う髪型の、明るく魅力的な表情の娘だ。

 

「あ、ありがとう。助かったよ」

 

 マタタビを受け取ったミハエルは、少女のあけすけな態度に若干ドギマギしながらも礼を言う。

 

「イヤイヤなんの。ウチが手を出さなくても、キミならその内追いついてただろうしね。……お節介だったかな?」

 

 どうやら、先の追跡劇を見て加勢してくれたようだ。

 巧みに先回りしたその手腕、見た目以上に腕が立ちそうである。

 

「いや、そんな事はないよ。本当に助かっちゃった」

 

 謙遜してもう一度「ありがとう」と言うミハエルに、少女は「そうかなぁ?」と、両手を腰に当て、小首を傾げながらイタズラな表情で言う。

 

「ウチの知ってる同業さんでも、あの人混みの中でメラルーを追い続けるようなマネができる人なんて、そうそう居ないけどな~」

 

 ──同業さん。

 

 その言葉の通り。彼女もミハエル達と同じ、ハンターであった。

 

 誰が見ても、少女の格好を見れば、ハンターであることは一目瞭然である。

 

 赤い甲殻種(こうかくしゅ)盾蟹(たてがに)ダイミョウザザミの素材で構成されたザザミシリーズを身にまとい、腰の後ろには、黄土色の皮脂や牙で構成された、片手用の剣。

 

 おそらくだが、牙に神経毒をもつ鳥竜種(ちょうりゅうしゅ)、ゲネポスの素材から錬成された、デスパラライズであろう。右腕の籠手(こて)には、剣とセットで作られる盾もセットされている。

 

 フィオールが少し前にザザミシリーズを使っていたが、男性用の“ソレ”がアメフトの格好を想像させるのに対し、女性用のザザミシリーズは、それを応援するチアガールの様である。

 サンバイザーの延長のようなデザインのヘルムに、ミニスカートのような腰回りと、“いかにも”なデザインだが、露出した太もも以外は、防具として隙が無い。

 

 会ったばかりのミハエルだが、この装備は活発そうな彼女に、とても似合っていると感じられた。

 

「……ニ、ニャふぅ。や、やっと追いついたニャ~……」

 

 そんな少女の言葉に、苦笑いを浮かべたまま、どう返したものかと、応えに(きゅう)していたミハエルの元へ、何とも情けのない声を上げて、ヘロヘロのネコチュウが追いついて来て、肩で息をする。

 

「ど、どうニャ……?取り返せたかニャ……?」

 

 ゼェゼェと息を切らせながらも、気になることはマタタビらしい。

 

 そんなネコチュウに、浮かべた苦笑をより困ったような表情にしながら、ミハエルはネコチュウに、取り戻したマタタビを渡すと、奪還に加勢してくれた恩人がいることを伝えるのだった。

 

「うん。無事に取り返せたよ。彼女の手助けのおかげでね」

 

 言って、ネコチュウに少女を紹介するように、手のひらで少女を指す。

 

「これは、ニャんとお礼を言えば良いニョか……本当にありがとうございましたニャ。……えぇと……」

 

 助けてもらった恩人に、礼を言ってお辞儀をするネコチュウだが、相手をどう呼んだものか一瞬言葉に詰まってしまう。

 

「あ、そう言えば。まだ名前も聞いてなかったね。僕はミハエル。ミハエル・シューミィ。彼は友人のネコチュウです。今回は本当に助かったよ。ありがとう」

 

 その様子を見たミハエルが、申し遅れたと自己紹介をする。同じく紹介されたネコチュウも、ぺこりと少女に頭を下げた。

 

「そんな、お礼を言われる程の事はしてないよ。ウチはリコリス・B・トゥルースカイ。リコリスって呼び捨ててくれていいよ。ミハエルさんにネコチュウ君」

 

 改まって礼を言われた少女、リコリスは、少し照れたようにパタパタと手を振って返す。

 

 そんなリコリスに、ミハエルもネコチュウも大いに好感を持つ。

 

「よろしく、リコリス。僕のこともミハエルでいいよ。“さん”付けで呼ばれると、なんだかこそばゆくてさ」

 

「アハハッ、そうだね。ウチも同感。“さん”付けで呼ばれるの、全っ然慣れないんだ~」

 

 そう言って朗らかに笑うリコリスにつられて、ミハエル達も自然に笑顔になるのだった。

 

「二人とも、レクサーラには狩りの為に来たんでしょ? もう終えたのかな?」

 

「うん。こっちは無事に成功したよ」

 

 自己紹介も終わったところで、リコリスから話を切りだしたのは、ハンター同士の情報交換の為であろう。

 

 どのモンスターを狩ったのか、どんな構成のパーティであったか、どんな戦法で勝利を収めたか等、知り得る有益な情報は多い。

 

「へぇ~。パーティ結成三ヶ月そこら、しかも、内三人がまったくの新人なのにも関わらず、あの水竜ガノトトスを倒したんだ~?」

 

 ミハエル達の話を聞き終えたリコリスが、感嘆に瞳を丸くする。

 

 実際、ディーン達のチームの活躍は目を見張るものがある。

 

 水竜ガノトトスは、その巨大さと、水中を自在に移動する特性から、かなりの強敵なのだ。普通の新人が徒党(ととう)を組んだところで、そう簡単に倒せる相手ではない。

 

 それを、ハンターになって高々三ヶ月程度の新人同士が組んだチームが倒すことなど、そうそう聞かない話である。

 

 第一、チームの中で一番ハンター歴が長いフィオールでさえ、約一年そこいらである。

 

「すごいね、キミ達。こりゃ、思いの外幸先いいかも……」

 

 しきりに感心するリコリスであったが、最後に少し気になることを呟いた。

 

 それがミハエル達の表情を、少し怪訝(けげん)そうにさせたらしい。

 

 それに気づいたリコリスは、アハハとバツが悪そうに頭をかいて笑うと、「実はね」と、姿勢を改めて声を出した。

 

「ちょっと、困ったことになっちゃててさ。キミ達の力、貸してくれないかな?」

 

 上目遣いにミハエルを見上げて、両手を顔の前で合わせ、まるで拝むように、しかも可愛らしい顔立ちの女の子に言われては、断りにくくなるのが男の悲しい(さが)である。

 

 特にミハエルは、その男の中でも極まって人が良いのだ。

 

「う、うん。とりあえず、話を聞かせてもらうよ」

 

 そう応えはしたものの、完全にリコリスのペースに乗せられている形である。

 狙ってそうさせているわけでもなく、どうやらリコリスは、自身の魅力に対して無自覚な様だ。

 

 ──まぁ、むしろそっちの方がタチが悪い事もあるだろうが。

 

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