奇談モンスターハンター   作:だん

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1節(7)

 シュンギクと呼ばれたメラルーは、自分の言い分が全く通じていないことに、ヤレヤレと大きなため息をついて見せようとする。

 

 だが、ズキリと顔に走った痛みに、うまく表情を変えることが出来なかったようだ。

 

 その様子に気付いたシラタキが、「いったいどうしたのニャ?」と問いかける。

 よく見れば、黒い毛並みでよくわからなかったが、シュンギクの目の周りは、わりとおっきな青痣(あおあざ)が出来上がっていた。

 

「い、いえいえ。大したことじゃニャいですニャ。ちょっと乱暴な女性に遭遇しまして……」

 

「とか言って、ま~た手癖の悪さが出たんじゃニャいのかニャ?」

 

 しれっと言ってのけようとするシュンギクであったが、シラタキのツッコミはイタいところを突っついたようであった。

 

「ニャんの事でしょう? アチシにはニャンと思い浮かびませんのニャ」

 

 あからさまにとぼけてみせるシュンギク。

 そんな彼女をジト目で見つつも、シラタキは改めて、ディーン達にシュンギクを紹介するのであった。

 

「さて、お次は俺の番かな。俺は……」

 

「まぁまぁレオ。君の紹介は、私にさせてはくれないかね?」

 

 シュンギクの挨拶も終わり、今度は見慣れぬ装備の男が名乗ろうとしたときであった。

 

 響きの良いバリトン質の声が、それを一旦遮った。

 そしてその声は、ディーンとエレンもよく知る人物の物であり、急にかかった声の人物の名は、驚いた二人の声によって呼ばれることとなる。

 

「マーサ!?」

 

「マーサさん!? どうしてレクサーラに?」

 

 名を呼ばれた人物。マーサこと、義足の元ハンター、ムラマサは「やあ、二人とも」と片手を上げて応えてみせるのだった。

 

「さっき、おまえ達と入れ違いにギルドにやってきてな。私も驚いたよ」

 

 そして、その彼の後ろから続いて口を開いたのはフィオールである。

 

「何でも、私達がこの街にいる間に、合流したかったらしい」

 

 そう続けるフィオールであったが、それがどんな用件であるかは、まだ聞かされてはいないようだ。

 

「おいおい、再会を祝すのも良いけど、俺の紹介をしてくれるんだろうマーサちゃん。さっきからさんざお預け食らっちゃってんだけど」

 

 たまりかねてか、見慣れぬ装備の、レオと呼ばれた男が冗談混じりに言う。

 

「ああ、スマンスマン。紹介しよう、彼の名はレオニード・フィリップス。私の古い友人でね」

 

 それを聞いたムラマサが、苦笑混じりに紹介すると、レオニードはやはりシニカルな笑みを浮かべながら、やたら芝居がかった仕草で彼等にお辞儀をするのであった。

 

「レオでいいぜ。よろしくな!」

 

 顔を上げたレオが、気さくな風に言う。

 その話の流れで、フィオールとムラマサも、改めてイルゼ達へと挨拶をすませるのだった。

 

「彼は、メゼポルタで活躍するハンターでね。同業の君達ならば、猟団(りょうだん)“ラストサバイバーズ”の噂くらい、聞いたこともあるだろう?」

 

 自らの挨拶をすませ、レオの紹介を再開したムラマサの言葉を聞いた途端、ディーン達やイルゼが表情を変えた。

 

 

 ラストサバイバーズ。

 

 

 いつの頃からか、狩人達の間で語り草になっている、凄腕達の集団の名前であり。

 天災とさえ言われて恐れられている、古龍種(こりゅうしゅ)さえをも退け、幾つもの偉業を成し遂げてきた集団である。

 

 今、ディーン達の目の前にいるこの男は、そのメンバーだというのだ。

 

 驚かない訳にはいかない。

 

「大袈裟だぜマーサちゃん。俺なんざぁ、まだまだ未熟者さね」

 

 そう言って、謙遜するような素振りを見せるレオであったが、その瞳に宿す自信は、隠そうともしていなかった。

 

 イメージのわかない読者の皆様には、説明せねばなるまい。

 それにはまず、話の中に出てきた“メゼポルタ”の事から語らせていただくことにする。

 

 ハンター達の活躍の場、この広大な辺境と呼ばれる場所において、ギルドを有する最大の都市ドンドルマ。

 ハンターズギルドの最高責任者である、大長老と呼ばれる竜人族の長が統治するこの都市は、辺境内で最も多くのハンターを有している。

 

 そのドンドルマから、少し郊外へと移動したところにある山脈、その中腹を削り取ったように出来た開けた空間に、(くだん)のメゼポルタ広場が存在する。

 

 ドンドルマをはじめ、各地のハンターズギルドの管理するモノとは、一線を画する依頼をこなすその場所を、関係者達からは俗に“最前線(フロンティア)”と呼ばれることも多い。

 

 そのメゼポルタのハンターズギルドの大きな特徴の一つとして、“猟団(りょうだん)”と言う物があり。

 

 他の各ギルドで活動するハンター達が、ほとんどチーム単位で活動しているのに対し、このメゼポルタでは、より大人数の団体を猟団として認め、その活躍により様々な特典や、援助を行っているのだ。

 

 では何故、メゼポルタが他のギルドでは行っていない、猟団というシステムがあるのかと言うと。

 

 その理由は至極単純である。

 

“徒党を組まないと、やっていけない程の依頼が多い”からだ。

 

 前線(フロンティア)の名の通り、メゼポルタのクエストのその殆どが、未だ未知の領域の多いこの辺境の地において、前人未到の区域に踏み込んでいくような依頼が多い。

 

 当然危険度が桁違いに高く、通常とは肉質や弱点の異なる、変種(へんしゅ)と呼ばれるモンスターや、未知のモンスターと遭遇することもあるという。

 

 その為か、メゼポルタで活躍するハンター達は、どれも皆優秀であり、彼等ハンター達をサポートするギルド陣営も、選りすぐりの人員が派遣されているらしい。

 

 今、レオニードが身につけている物も、恐らくはメゼポルタでしか受けられぬクエストから得た素材で、尚且つメゼポルタの優秀なスタッフでしか作れぬ防具なのであろう。

 

「話はマーサちゃんから聞いてるぜ。なかなかの有望株だって話じゃないか」

 

 皆の視線を一身に受けるレオニードだが、そんなことは気にもとめていないかのように語る。

 

「ラ……ラストサバイバーズのレオニードだって……?」

 

 ようやくと、フィオールが驚きの声を口に出す。

 彼だけではない、ハンターになりたてのディーンやエレン、それに、今の今までロクに表情を変えなかったイルゼにいたっても、その名に驚きを隠せなかった。

それほどの人物なのである。

 

「ホンモノ……だよな?」

 

 イルゼの口上も、彼女にしては珍しいことなのであろうが、自信なさげだ。

 

「彼は間違いなく本物だよ。私が保証しよう」

 

 本人に代わってそれに応えるのはムラマサだった。

 

「正真正銘、ラストサバイバーズのレオニード・フィリップス、その人だ」

 

 そう言って、改めてレオニードを皆に紹介し直すムラマサ。

 

「その人って、だからそんなご大層な人物じゃないってばマーサちゃん。確かに良い猟団に置いてもらっちゃいるが、俺なんてぺーぺーにすぎないんだからさ」

 

 相変わらず謙遜するような言い分であるが、レオニードの言い分が、謙遜にしては皮肉的過ぎることを知らぬ者など、この場には居なかった。

 

 

 レオニード・フィリップス。

 

 

 どんな苦境からも、たったの一人も死者を出さずに生還してくると言う、現実離れも甚だしい記録を誇る猟団、“最後の生還者達(ラストサバイバーズ)”の切り込み隊長の名を知らぬハンターなど、この界隈(かいわい)にいるのであろうか。

 

 多種多様な対モンスター用の武器種を使いこなし、例え相手が堅牢な鎧を思わせる鎧竜(よろいりゅう)グラビモスであろうと、その防御に風穴をあける彼の手腕は、ハンターズギルドの中では有名である。

 

「ま、俺なんかの事はどうでもいいのさ。そんなことよか、君がディーンちゃんかぁ。マーサちゃんから話は聞いているよ」

 

 だがレオニードは、どうやらこれ以上自分の事を話す気はないらしく、話を突然ディーンへとふるのだった。

 

「ちゃ……ちゃん?」

 

 急に話をふられたディーンは、まさか自分までも“ちゃん”付けで呼ばれるなどとは思っておらず、少々狼狽(うろた)えてしまった。

 

「はっはっは。彼の癖みたいなものだよディーン君。私も最初は戸惑ったがね」

 

 そんなディーンの様子を見たムラマサが、笑いながら説明してくれた。

 

 当のレオニードは「そっちの方が可愛いだろ?」などと嘯(うそぶ)いてみせている。

 

「そんかわし、俺のことは遠慮なくレオって呼び捨てでいいからさ」

 

 にっ、と白い歯を見せて笑うレオニードに、ディーンは呼ばれ慣れぬ呼称への抗議を、苦笑混じりにあきらめることにするのだった。

 

「それより聞いたぜ~ぇ? 自分の太刀を二本も折っちまったんだって? しかも、“相手に折られた”わけでも、“扱いが悪くて折れた”わけでもねぇ。扱う獲物の方が耐えられない程の馬鹿力だってな?」

 

 そんなディーンの様子などお構いなしに、レオニードは言葉を紡ぐ。

 

「あ、あぁ。そうだな」

 

 少しだけたじろいだ様子のディーンに、レオニードは彼を見る目に一層の笑みを乗せるのだった。

 

「……ふむ、面白いじゃないの。マーサちゃんから連絡をもらったときには半信半疑だったけど、さっきの出鱈目(デタラメ)な動きを見て納得したぜ」

 

 そう言ってレオニードは、一瞬だけずいっとディーンの眼前まで顔を近づけて見せると、すぐさま引っ込んで、今度はムラマサへと向き直る。

 

「決めたぜマーサちゃん。アンタからの要請、受けようじゃないの。早速ココちゃんに連絡入れておくよ」

 

「おお、そうか! それは有り難い」

 

 レオニードの言葉を聞いたムラマサが、喜びの声を出すが、ディーンをはじめ、周りの皆からすれば、一体何の話か解らぬ事であった。

 

「ああ、みんなすまないな。我々だけで話を進めてしまった。実は……」

 

 そんな周りの様子を察したムラマサが、事情を皆に説明しようと口を開き書けたときであった。

 

 

 ──ポロン。

 

 

 風に乗って聞こえてきた旋律が、ムラマサの言葉を遮り、皆の注意をさらっていったのだった。

 

「……何でしょう?」

 

 エレンが聞こえてきた旋律の方向へと視線を向けて呟く。

 聞き間違い出なければ、この柔らかい音色の響きは、ピアノの物であるはずだ。

 

 しかし、いかにスペースが有り余っている中央広場とはいえ、砂漠の町であるここレクサーラにまでわざわざ持ち込むほどの物かと言えば、些か不釣り合いなようにも思える。

 

 だが、響き渡る旋律の方向、彼等のいる位置から噴水を挟んだ反対側には、この旋律を奏でているのであろうピアノの巨躯(きょく)は見あたらなかった。

 

「ピアノの音色……だな、これは……」

 

 エレンと同じ考えであったのであろう、フィオールも不思議そうに口を開く。

 

 本来ピアノに代表される、劇場(ステージ)などで活躍するような楽器は、本土と呼ばれる都市国家内、しかも、そこの中流階級以上の生活をする者くらいしか、そうそうお目にかかれるものではなく、この旋律がピアノの物であると気付いたのは、エレンとフィオールくらいだったのだが、他の面子も、聞き慣れぬ楽器の音色である事くらいはわかるらしかった。

 

 吟遊詩人(ぎんゆうしじん)演目(パフォーマンス)にしては少々異色だな、と。

 皆が思う中、たった一人だけ、皆と違った反応をする者が、彼等の中に一人。

 

「……この曲……」

 

 ディーンである。

 

 思わず口に出た呟きは、風に乗って流れてくるメロディーに紛れて消えてしまいそうであったが、彼のそばに立つエレンの耳には届いていた。

 

「ディーンさん、知ってる曲なんですか?」

 

 彼の呟きを聞いたエレンが、ディーンに問いかける。

 

 エレンはもちろん、その場の皆も知らぬ曲である。

 

 自然と皆の視線がディーンへと注がれるが、当のディーンは心ここに在らずといったふうで、しばし流れてくる旋律に聞き入っていた。

 

「……やっぱり、間違いない……」

 

「えっ?」

 

 再び呟くディーンだが、エレンが聞き返すのも聞かず、なにを思ったのか、急に地を蹴って駆け出したのだった。

 

「あ、ディーンさん!?」

 

 突然走り出したディーンに、エレンが驚きの声を上げる。

 他の者も、一体彼がこの旋律になにを思ったのか、訳が分からなかった。

 

「な、なんだ? ディーンちゃん、どうしちゃったのさ?」

 

「私にもさっぱりです。アイツがああまで我を忘れるなんて姿は、見たことがないので」

 

 ディーンが走っていった方向を眺めるままのレオニードの言葉に、続けるフィオールの声も、少なからず驚きの色があった。

 

「兎に角、我々も行ってみた方が良さそうだな」

 

 いち早く気を取り直したムラマサの提案に、反対意見を出す者はいない。

 

「ディーンさん、一体どうしちゃったんでしょうか……」

 

 心配そうに呟くエレンの声に、応えられる者はいなかった。

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