奇談モンスターハンター   作:だん

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3節(12)

 イビルジョーの口からブレスが吐き出され、先程までよりも広範囲を黒いガスの様な龍のエネルギーが薙ぎ払う。

 

 しかし、当然の様にその効果範囲にフィオールの姿は無い。

 

 彼は先の動きで、大胆にもイビルジョーの顎下を潜り抜けて、そのブレスの効果範囲から脱していたからである。

 

「まったく、恐れ入るぜ」

 

 レオニードが刮目しながら口を開く。

 イルゼも同意見だ。

 

 もし、自分がイビルジョーの立場だったとしたら、とてもじゃないがフィオールを捉えられる自信が無かった。

 

「だろ? 俺達もよく訓練がわりに組手をするんだけどさ」

 

 フィオールの体捌きに魅入っている二人へ向けてディーンが口を開く。

 まるで、我が事を自慢するかの様に、その声音は得意げであった。

 

「盾を捨てたフィオールには、正直俺は一度も勝てた事がない」

 

 それを聞いた二人には、さほど驚く様なことには感じられなかった。

 

 当然だろう。

 あんな芸当ができる人間に、そもそも勝てると思う方がおかしいのである。

 

 まぁ、もしディーンの瞳の色が変わった状態なら、勝負の行方は分からなくなるだろうが、それはまた別の話である。

 

「おい! いつまでサボっている気だ?」

 

 ブレスをかいくぐり、胸部へ無数の突きを繰り出し、一旦イビルジョーから距離をとったフィオールから声がかかる。

 

「おっと、いけねぇ!」

 

 ディーンが一瞬だけ、怒られた小僧の様に首を引っ込めて見せたが、すぐフィオールに向かって「悪ぃ悪ぃ!」と声をかけるや、イルゼに向き直り、言った。

 

「なぁ、姉さん。すまないけどソイツ、貸してくんない?」

 

 言ってディーンは、何を言いだすかといった表情のイルゼを指差すのだった。

 正確には、イルゼの背中に背負われたもの。

 

 指が指し示す先にあるもの。

 その指に導かれて、イルゼとレオニードが視線を移した先には……

 

 

・・・

・・

 

 

「フンッ!」

 

 幾度目になるか。

 フィオールがイビルジョーの攻撃を躱し様に、銃槍の石突きでその横面に一撃を加える。

 

 打撃の反動で一旦距離をとるフィオール。

 確かに、傍目にはフィオールが圧倒している様に見えた。

 

 だが、その実。勝負は拮抗していたのだった。

 

 理由は単純。怒り喰らうイビルジョーの硬質化したその皮膚である。

 

 先の猛攻も、今現在までに繰り出しているカウンターも、実は有効打にはなっていなかった。

 

 原因は単純明快。武装の貧弱さである。

 

 だが、こればかりは是非に及ばずといったところであろう。

 何せ、ハンターとして未だ一年少々のフィオールだ。

 

 ディーン達と出会ってからより活発に狩りにおもむくようになり、武装も同じ実績の新人に比べれば、はるかに優秀なモノを揃えている。

 

 だがしかし、相手は辺境最凶である。

 

 いかに武術で暴力を圧倒しようと、スティールガンランスの斬れ味と攻撃力では、怒り喰らうイビルジョーには役不足。

 

 実は先程からダメージらしいダメージが、イビルジョーには通っていないのである。

 故に途中から、フィオールは戦闘方法を変更した。

 

 刃の付いた先端部分での突きや、隙の多い砲撃ではなく、槍の“腹”や石突きでの打撃へと変更したのである。

 

 目的は打撃でスタミナを失わせることだ。

 

 スパッと傷を開き、出血や筋組織などの破壊によってダメージを与える切断攻撃と違い、打撃での攻撃においては、モンスターのスタミナを消費させる効果が期待できる。

 

 ジャブも、貰いすぎると足にくる事がある。

 

 所謂(いわゆる)脳障害の一種だが、脳への酸素供給が滞り、モンスターの疲労が加速すると言う効果が、昨今になって確認されてきているのだ。

 

 それによってイビルジョーが力つきるのを待つ戦法である。

 

 だが、それは打撃に適したハンマーや狩猟笛などでの話。

 ガンランスの腹での打撃に、そこまで高い効果は期待できないのも、また事実であった。

 

 このままでは、ジリ貧である。

 だがしかし。

 

「ハンマー級の重量があれば別……かもな!」

 

 改めてフィオールに攻撃を仕掛けようとしていたイビルジョーの、その虚ろな朱色の眼光が、急にブレた。

 

 イビルジョーが突然攻撃のパターンを変えたのではない。

 

 ディーンである。

 

 イビルジョーの側面から走りこんできたディーン・シュバルツの一撃が、脳天から恐暴竜を叩き伏せたのだ。

 

 べいん、と。

 やや奇妙な音を立て、強烈な打撃をイビルジョーに加えたディーンの獲物は、彼の使っていた鬼斬破ではない。

 

「やはり、お前もそう言う結論になるか」

 

 かけられたフィオールの声に「まぁな」と応えるのは、イルゼから借り受けたフルミナントブレイドを左肩に担いだディーンであった。

 

 

・・・

・・

 

 

「アイツめ……」

 

 そして、少し離れていた所では、ディーンに自身の愛剣を貸し与えた、いや、正確に言えば半ば強奪されたイルゼ・ヴェルナーが呻いていた。

 

「なんて使い方だ」

 

 彼女の三白眼では分かり難いかもしれないが、若干眉間に寄った眉根と、こめかみに浮かび上がった血管が、その不機嫌さを表していた。

 

「ぶっ叩くために使うなら、“ちゃん付け”のドン・フルートでもいいだろうが」

 

 毒吐くイルゼの言い分はもっともである。

 隣のレオニードも、苦笑するしかない。

 

 それもそのはず、ディーンは大剣の刃を立てず、先程のフィオール同様、剣の腹の部分でイビルジョーの頭部を強打したのであった。

 

 確かに、今回のケースでは有効だろう。

 

 ディーンの鬼斬破も、イビルジョーの硬い皮膚に対しては、高い効果はきたいできないだろうからだ。

 それに、壁打ち(ツェッケ)とも呼ばれる大剣での打撃攻撃は、確かにギルドが推奨するモンスターハントの戦法の中にもあるにはある。

 

 あるには、あるのだが……。

 

「まぁ、あんな大上段から盛大にぶっ叩くような事は、ギルドは兎も角、加工屋さんなんかは絶対に認めてはくれないだろうなぁ」

 

 苦笑気味に同意して見せるレオニードだが、不機嫌なイルゼがギロリと三白眼で睨み返してくるので、「さ、さぁ〜て、と。援護援護〜」などとわざとらしく言いながら、ディーンとフィオールへ向けて、演奏での援護を開始する。

 

「フン」

 

 あからさまに逃げの手を打ったレオニードにそれ以上八つ当たりはせず、イルゼは戦闘に意識を戻す。

 

「壊したら承知しないからな、少年」

 

 呟くが、おそらくはあの出鱈目な男のことだろう。

 “そっち”に関してはほぼ、絶望的だった。

 

 

・・・

・・

 

 

「オラァッ!」

 

 イルゼの絶望感などなんのその。

 

 ディーンの両手に握られたフルミナントブレイドは、強烈な壁打ち(ツェッケ)の反動で、再びべいんっと奇怪な音と響かせる。

 

 バッティングスイングよろしく、ディーンはイビルジョーの頰を強かに打ち付けたのだ。

 

 しかし、やられっぱなしの怒り喰らうイビルジョーではない。

 顔面を叩かれた仕返しにと、太い尻尾を振り回して反撃に転じる。

 

 フィオールの様な千里眼(フューレン)を持たぬディーンは、流石にこのタイミングでの回避は不可能である。

 

 だが、ディーンもなすがまま攻撃を受けるほど愚かではない。

 振り抜いた大剣の勢いそのまま一回転し、そのまま砂漠の上に突き立てて即席の防御壁とする。

 

 どしんと重たい衝撃が彼を襲うが、ダメージには至らない。

 

 斜めに突き立てたフルミナントブレイドが、イビルジョーの剛尾の衝撃を、うまく上方へ受け流したのだ。

 

 その傍を、今の攻撃をやり過ごしていたフィオールが駆ける。

 狙うは胴体。尻尾を振り抜いた残心状態の、その脇腹である。

 

「ッ!!」

 

 鋭く吐き出された呼気と共に、繰り出される水平付き。そして……

 

 

全弾発射(フルバースト)ッ!」

 

 

 轟音を上げ、スティールガンランスが弾倉内に無理矢理装填された全ての弾丸を吐き出す。

 

 前途の様に隙の多い技ではあるが、それは独りで相手取っていたばあいでの話だ。

 しかし今フィオールには、これ以上とないほどの相棒が居るのだ。

 

 流石の怒り喰らうイビルジョーといえども、衝撃に弾かれ脚をもつれさせた。

 

 イビルジョーの見せた隙は一瞬。だが、それを見逃す手などない。

 

 反動を脚を踏ん張って堪えるフィオールを、今度はディーンが追い越した。

 

 そこでディーンがとった行動に、イルゼとレオニードは勿論、今度はフィオールまでもが驚かされる事となる。

 

「ウラァッ!」

 

 走り込みながら器用に左回転。その回転に乗せて繰り出したディーンの袈裟懸けの一撃が、先の砲撃でもつれた脚を踏ん張って、転倒を免れたイビルジョーの首筋を強打する。

 

 べいんっ、と鉄板がひしゃげる様な(イルゼにとっては)嫌な音が響いたと思うや、その刹那、もう一つの音が響き渡ったのだ。

 

 

 (ザン)ッ!!

 

 

 ディーンの行動に、フィオール達が瞠目する。

 

 響き渡ったのは斬撃の音。

 

 なんとディーンは、“左腕一本”でフルミナントブレイドを振り下ろし、残った右腕で鬼斬破を抜刀。

 フルミナントブレイドの軌跡を追いかけて斬撃を叩き込んだのだ。

 

 しかも、ディーンの動きはまだ止まらなかった。

 

「ッッ!!」

 

 振り抜かれた鬼斬破の切っ先が地面すれすれで翻り、今度は元来た軌道を駆け上がる。

 イビルジョーの首筋に薄っすらと刻まれた裂傷を、再度抉り抜けた。

 

 そして……

 

 

 べいんっっ!!!

 

 

 ディーンの左足が更に深く踏み込まれたと思うや、フルミナントブレイドまでもが翻り、下からの打撃としてイビルジョーを打ち付けたのだ。

 

 

「「なっ!?」」

 

 

 遠目で見ていた先輩組が驚愕する。

 出鱈目といえばあまりに出鱈目。

 

 ディーンは“左腕一本”で対大型モンスター用の巨大な剣を、通常両腕でも不可能とされる連撃をもって操ってみせたのだ。

 

 この衝撃に、流石の怒り喰らうイビルジョーも声をあげて後退した。

 

「畳み掛けるぜ!」

「応!」

 

 ディーンの声に、先程までの驚きを脅威の平常心をもって封じ込めたフィオールが続く。

 確かに驚愕に値するディーンの剛腕である。

 

 しかし、それでもこの怒り喰らうイビルジョーを倒しきるにはまだ足りない。

 

 相手はあまりにも強大である。ディーンがフルミナントブレイドと鬼斬破を二刀同時に使おうと、やはり武装面での不利は覆らない。

 

 攻め続けなければならないのだ。

 二人の若きハンターが駆ける。縦横無尽に。

 

 ディーンはその苛烈さ、豪胆さをもって。

 フィオールはその技巧、洗練さを魅せて。

 

 翻る大太刀と大剣。

 その刃の間隙を縫って鋭い突きの一撃が恐暴竜を襲う。

 

 大重量の武器を手に目まぐるしく動き回るハンター達に業を煮やしたのか、イビルジョーはハンター達の動きを止めるために、大音量の咆哮を上げた。

 

 

 ヴオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッッッ!!!

 

 

「グッ!?」

「チィッ!?」

 

 流石のディーンとフィオールも、三半規管を狂わせるレベルの大音量には、顔を歪ませて片膝をつく。

 

 バインドボイスである。

 

 二人とも大きく息を吸い込むイビルジョーをみとめ、いそいで距離をとったが、効果範囲の外までは逃げ切れなかった。

 

 淀んだ朱色の眼光が輝く。

 好機と見たのか、イビルジョーが遠ざかった二人へ向けて、ドスドスと二、三歩前進するや、再び大きく息を吸い込んだ。

 

 龍のエネルギーを放出するブレス攻撃。

 

 そう認識する二人だが、先のバインドボイスで狂わされた三半規管が、未だに悲鳴を上げている。

 

…間に合うか!?

 

ディーンとフィオールの首筋に、ぞくりと悪寒が走り抜けた。その時であった。

 

「させませんっ!」

 

この場にそぐわぬ可憐な声が聞こえたかと思うと、二人とイビルジョーの間に、彼らハンターが見慣れた球体が投げ込まれた。

 

 

 ぼんっ。

 

 

 閃光玉だ。

 と、二人がすぐさま目を閉じると同時に生じる小さな太陽が恐暴竜の視界を焼き尽くす。

 

 突然の出来事に対処できずに、イビルジョーが悲鳴を上げて後ずさった。

 

「何やってんだエレンっ!?」

 

 瞬時に消失した閃光から瞼を開けたディーンが、聞こえた声の主へ振り返って叫ぶ。

 

 そう。

 ディーン達の窮地に駆けつけ、閃光玉を投じて彼らの危機を救ったのは、ミハエルと共に前線を退いたエレン・シルバラントであったのだ。

 

「ディーンさん! それから皆さん!」

 

 ディーンの怒声とも取れる声を押し返すように、エレンは普段の穏やかな彼女らしからぬ声音で叫ぶのだった。

 

「時間がありません! 作戦があるので聞いてください!」

 

 エレンが続けた、ミハエルによって提案された作戦は、歴戦のハンターをも唸らせるには、充分な内容であった。

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