奇談モンスターハンター   作:だん

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終章

「さ、帰ろうか」

 

 ルークの亡骸は存在しない。

 

 代わりに彼の装備の一部だけ岩山のエリアの一角に埋め、彼の持っていた鬼斬破を墓標がわりに突き立てた簡易の墓からこちらへと振り返り、勤めて明るくリコリスがそう言って、七人になってしまったハンター達は帰路へと着いたのだった。

 

 

・・・

・・

 

 

「それにしてもディーンちゃん。お前さん本当に出鱈目だな」

 

 明朝になって漸く到着した、ギルド手配の竜車に揺られながら、レオニードがディーンに声をかけた。

 

「全くだ。忘れるなよ少年。オレのフルミナントブレイド」

 

「わかってるって! 姉さんの大剣は、必ず弁償すっから!」

 

 先輩組からのちょっかいに、ディーンは勘弁してくれと声を上げる。

 あの後、彼らはベースキャンプに到着するや一斉に力尽き、なんとかレオニードが気球へと帰還の手配へを望む信号弾を打ち上げたのを限界に、全員が朝までぐっすり大爆睡を決め込んでいたのであった。

 

 気球上のムラマサが、眠らされていた古流観測所職員に代わってレクサーラへとその手配を回し、急ぎ到着した竜車の御者は、せっかくアプノトスに必死に鞭打って駆けつけたにも関わらず、日が昇って彼らが起きだすまで、完全に待ちぼうけを食わされていたのは内緒の話である。

 

「ははは! まぁ、今回の報酬はディーンちゃんの分は期待しない方がいいかもな」

 

 ニヤニヤと笑いながら、レオニードが言うと「だからわかってるってばさ」と、ディーンがむくれてみせるのであった。

 

 実際、イルゼもそこまで怒ってはいない。

 ディーンをはじめ、新人組のめまぐるしい活躍で、あの絶望的な状況から生還できたのは間違いないのだ。

 

「でも、ホントみんな凄かったよ!」

 

 リコリスがそう言って、会話に加わる。

 

「ディーン君とフィオールさんの最後の大技、見てて痺れちゃったもん!」

 

 エレンもね。と続けて、隣に座るエレンへと声をかけるものだから、当のエレンは真っ赤になって俯いてしまった。

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

「確かに、この馬鹿のタイミングに、ああも完璧なタイミングで合わせられるのは、エレンさんしかいないでしょうね」

 

 ひたすら恐縮するエレンをフォローするついでに、涼しい顔でディーンを弄るのを忘れないフィオールである。

 

「なんだとぉ!」

 

 抗議の声がディーンから上がるが、皆の笑い声に包まれ消えてゆく。

 

 彼等は生還したのである。

 

 ルークの犠牲は尊いが、それでもあの状況下でこれだけの人数が無事に生き残ったことは、奇跡的としか言いようがない。

 

  リコリスは墓前で泣き崩れる様な事はしなかった。

 涙はそれよりも前に、夜空の下で流し尽くしたから。

 

 平気かと問われれば、彼女はきっと強がるだろうが、強がれる程には平気なのである。

 

 砂漠に散った命を見送る彼岸花(リコリス)は、その悲しみを乗り越えて魂を一層美しく輝かせるのだ。

 

 そしてその輝きは、彼女の周りにいる気高い魂に迎え入れられていた。

 

「これから、どうするんだい?」

 

 ひとしきり笑いあった中で、リコリスにだけ聞こえる様な音量で、ミハエルが問いかけてきた。

 

「そうだね。ウチはハンターを辞めたりはしないよ。妹を探さなきゃいけないし」

 

「そっか」

 

 やはり、この砂漠で出会った彼岸花は強い。

 

「でしたら!」

 

 おそらく、二人の会話が聞こえていたのであろう。

 エレンが意を決して話に割り込んでくる。

 

「わ、私たちと一緒に来ませんか? 拠点はポッケ村になりますけど、私達の活動範囲も広がってますし」

 

 同情だけではない。

 もちろん、それも有るだろうが、エレンはこの気高い魂を持つこの少女の事が好きなのだ。

 

 友人になりたい。そう思ったのだ。

 

 昔。ハンターになる以前の彼女には、そんな存在は居なかった。

 いや、彼女からはそう思う人物はいたのだが、相手はそれでも彼女の立場を尊重する姿勢を崩してはくれなかったから、もしかしたら一方通行だったかもしれない。

 

 

 初めての友達。

 

 

 もちろんディーン達仲間はいる。

 だが、同性の、同じ目線の友達は彼女にはいない。

 

 リコリスと友達になりたい。

 そう強く願っていた。

 

「も、もちろん。リコリスさんが良ければ、なんですけれど……」

 

 最後は尻すぼみになってしまうエレンの声。

 

…ほんとうにこの()は。

 

 ふ、と。

 自然とリコリスの顔がほころぶ。

 

「いいよ! ウチで良ければ。むしろこっちがお願いしたいくらいだよっ! キミ達のチームに入れてくれないか?」

 

 リコリスが二つ返事で応えると、銀髪の少女に同性でもドキッとするほどの笑顔が浮かぶ。

 

 リコリスもまた、エレンと同じ考えだったからである。

 この純粋な少女の事が、大いに気に入ってしまったのだ。

 

「歓迎するよ」

 

 反対側のミハエルがそう言って笑いかけてくれる。

 

 確かに、尊いものを失った。

 けれども、かけがいのない出会いがあった。

 

 彼も、その一人である。

 

「俺の過去の事もあるしな。協力するぜ!」

「ええ。今後ともよろしくお願いします」

 

 向かいのディーンとフィオールも揃って歓迎してくれた。

 

 リコリスは胸の悲しみが、ほんの少しだけ軽くなった気がして、「うん! よろしく!」と元気に応えるのであった。

 

「なんだ、リコリスちゃんに先を越されたか。ディーンちゃん達は、ラストサバイバーズがスカウトする予定だったのに」

 

「ま、タイミングを改めて出直すんだな」

 

 その微笑ましい様子の新人組に、先輩組のレオニードが大仰におどけて見せ、イルゼもまた軽口を挟んで笑いを呼び込むのだった。

 

 

・・・

・・

 

 

「みんな! よく帰って来た!」

 

「心配したのニャー!」

 

 レクサーラへと到着し、竜車でまっすぐ中央大通り(メインストリート)を抜けて、レクサーラのハンターズギルドへと到着した彼等を、ムラマサが両手を広げて、ネコチュウが満面の笑顔で出迎えてくれた。

 

 彼らの後ろにはイルゼのお供であるシラタキとシュンギクの姿も見える。

 

「ただいま、マーサ」

 

「ネコチュウさん。御心配おかけしました」

 

 ディーン達はムラマサへと応え、生還できたことを喜び合った。

 

「マーサちゃんの言う通りだったよ。ディーンちゃん達はすげぇ! 今すぐラストサバイバーズに入って欲しいくらいだぜ!」

 

「ああ、私も実際にこの目にするのは初めてだったが。確かに凄かったよ」

 

 やや興奮気味に語るレオニードに、若干苦笑気味に返すムラマサ。

 

 彼の口から、気球上で起きたことは語られなかった。

 二人から「しばらくの間は内密に」と頼まれていたことと、自分でも説明しにくかったからである。

 

「そうだ、マーサ。すまねぇんだけど……」

 

 ディーンが申し訳なさそうに話しかけて来るので、マーサは「わかっている」と応え、イルゼの大剣の分も含め、任せるようにと返すのであった。

 

「その件で、レオ。一旦君と一緒にメゼポルタまで出向きたいんだが、構わないかね? 良ければイルゼ君もどうだい? 君の大剣も勿論、肩の治療もここより優秀な医療スタッフがいるはずだ」

 

「ああ。勿論構わないぜ? イルゼちゃんもそうしなよ」

 

 ムラマサの提案にレオニードが便乗すると、イルゼも特に反対するでもなく頷いた。

 

「ああ。よろしく頼む」

 

「まぁた無茶でもしたんじゃニャいのアネゴ?」

 

 そう言って半顔で茶々を入れるのはシュンギクであるが、対するイルゼはふっと笑って「そうだな」と応えるのみであった。

 

「ニャンか、うちの馬鹿がだいぶお世話にニャったようですにゃ」

 

「そんな事はないさ。私達も随分と助けられた」

 

 そんな様子を見ていたシラタキがフィオールに話しかけるのに対し、彼はやはり涼やかに応えるのであった。

 

 

・・・

・・

 

 

 そうこうしているうちに、ギルドからの報酬や獲得素材の分配も終わり。ムラマサ達を伴ったレオニードが、先にメゼポルタへと発つ事となった。

 

「じゃあな、みんな。ディーンちゃんの武器については、俺が責任持って猟団長に協力を約束させるから、準備が出来次第ポッケ村へ迎えにいくよ」

 

 そう言ってレオニードが右手を出す。

 

「ああ、ありがとう」

 

 その手を握り返しながら、ディーンが応えると、他の面々もそれぞれに別れの言葉を交わして、先輩組を見送った。

 

 

・・・

・・

 

 

「さて、俺たちはどうする? 先ずはメシでも食いにいかねぇか?」

 

「賛成だね。僕もお腹減っちゃって」

 

 彼等が発った後でディーンがそう提案すると、ミハエルがそれに賛同の意を示す。

 

「そうだね! ディーンくん。今日くらいはエレンにお腹いっぱい食べさせてあげたら?この子今回頑張ったじゃない?」

 

「お前はエレンの恐ろしさを知らんからそんなことが言えるんだよ」

 

「あ、あはは」

 

 リコリスが茶化すように言うのを、半顔で言い返すディーンであるが、それに続いて「第一、エレンはいつも頑張ってるしな」などと言うものだから、エレンはもう恐縮するんだか照れるんだかで大変な有様であった。

 

「みんな。くっちゃべっていないで移動するぞ。あんまりのんびりしてたら、店が混雑する時間になってしまう」

 

 そんな彼等を苦笑気味に諌めるのはフィオールである。

 

「それじゃあ、早速食堂に出発ニャ! ボクはこんなことも有ろうかと、みんニャが狩りに出ている間、しっかりとレクサーラを“りさーち”しておいたのニャ!」

 

 言って元気よく右手を上げるネコチュウに、皆が笑みをこぼして続こうとした、その時であった。

 

 

 バタンッ!

 

 

 レクサーラギルドの入り口にある両開きのスイングドアが勢いよく開かれた。

 

 何事かと目を向ける一同の視線の先には、余程急いでここまで来たのであろう。両手を膝の上に置き、型で息をする金髪の女性の姿があった。

 

 何だ。

 と、ディーン達が声を出そうとする前に、驚愕の表情と共に突然の来訪者の名を呟くものが居た。

 

「……コル?」

 

 

 エレンである。

 どうして、といった表情で彼女を見るエレンの声に、もう一人の意外な人物が反応した。

 

「コル? もしや……」

 

 そう言ったのは、フィオールであった。

 まさかフィオールが反応するとも思わなかったのか、エレンが更に驚いた表情でフィオールを見る。

 

 そのエレンの仕草は、根拠はないが自分の予想の裏付けに感じられ、フィオールが確認の意味を込めて、突然の来訪者の名を口にした。

 

「……コルナリーナ。コルナリーナ・ビスカヤー」

 

「えっ?」

 

 コルナリーナ。

 そう呼ばれた流れるように大きくウェーブのかかったブロンドを揺らして顔を上げる。

 

「フィーちゃん?」

 

 彼女自身も、まさかここに彼がいるとは思わなかったのか、その瞳を驚きに見開いて居た。

 

 

「「「フィーちゃんっ!?」」」

 

 

 フィオール以外の面々が、コルナリーナと呼ばれたブロンドの美女が発した彼の呼称に、いろんな意味での驚愕の声を上げる。

 

 だが、当のコルナリーナはそんな彼等を尻目に、フィオールのそばに立つエレンの姿を見とめると、気を取り直して叫ぶのだった。

 

「大変です、エレンシア様!

今すぐ此処からお逃げください!」

 

彼女の声は、まさに風雲急を告げるといった響きを持って、彼等をさらなる激動へと誘うかのようであった。

 

 

 

 

…To be Next Stage.

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