奇談モンスターハンター   作:だん

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1節(6)

「わかりました」

 

 エレンはそう言って、そっと自分の可愛い“妹”を抱き締めた。

 

「ローラじゃ。わらわは、姉上にそう呼んで欲しい」

 

「……わかったわ。ローラ」

 

 そう優しい声をかけられたファルローラ……いや、ローラは、くすぐったそうに笑う。

 「じゃあローラ? 私の事も、エレンシアとは呼ばないでもらえますか?」

 

 そう言われたローラは、キョトンとした表情で大好きな姉を見上げる。

 

「私はね。“エレン”って言います。エレン・シルバラント。そう望んで、そう生きるんです。もう虚位(いないはず)のお姫様じゃありません。辺境の地で大型モンスターを狩猟するモンスターハンター。エレン・シルバラント。それが今の私なんです」

 

 それを聞いたローラは、今度こそ素直に瞳を輝かす。

 

「その話が聞きたかったのじゃ! 今のエレン姉様のことを教えてたもれ、エレン姉様!」

 

「もちろんです」

 

 本当に嬉しそうに、ローラがエレンに尋ねると、エレンは優しく微笑んで、彼女の頭を撫でてやるのであった。

 

 

・・・

・・

 

 

 それから、エレンとファルローラは、たくさん話をした。

 

 姉妹として、今まで過ごせなかった時間を取り戻す様に。

 

 ローラはエレンの話に、感動し、驚愕し、興奮し、歓喜し、恐怖し、泣きに笑った。

エレンは、初めて自分自身の自慢話をした。

 

 なんと、仲間内の家事全般は、自分が一挙に担っていること。まあ、ネコチュウというアイルーにだいぶ手伝ってもらって居るのだが。

 

 ポッケ村の彼らの拠点。

 シューミィ宅のお隣に建つ、かなり大きな空き家を使わせてもらい、皆で共同生活を送って居ること。

 

 本で読んだ知識はあったものの、実践するとこれがまた知識通りにはいかなかった。

 

 最初はかなり苦戦し、ネコチュウにだいぶ迷惑をかけた。

 だが、その甲斐あってか、料理腕には自信がある事。いつも皆に美味しいと言ってもらえる事が、凄く嬉しい事。

 

 ローラにも食べさせてあげたいと言うと、ローラ姫も絶対食べさせてもらうのじゃと興奮していた。

 

 いざ狩りとなった時は、自分の立ち回り、仲間内での役回り。そして、大切な仲間たちの話などもした。

 

 ローラの一番期待していた話だけに、食らいつきっぷりは凄まじかった。

 

 ローラが憧れる英雄、フィン・マックールの嫡男。

 

 若き“達人”フィオール・マックールの槍の冴えが、どれだけ素晴らしいか。

 王宮の女たちがああだこうだと噂にするマックールの槍の真髄を、宮中で誰にも相手にされずに引きこもって居た自分が、誰よりも目にしていることに、こっそり優越感をおぼえている事を伝え、存分にローラを羨ましがらせた。

 

 そのフィオールが、舌を巻く程の“天才”が居る。これにはローラも仰天した。

ミハエル・シューミィ。

 

 フィオールが認める天賦の才。双剣を扱う才能はもとより、ミハエルの真骨頂はその発想力で、皆が窮地に陥りそうな時には、常に彼の機転が突破口であったこと。

数々の狩りの話の中で、ローラが特にワクワクさせられたのが、ミハエルの機転であった。

 

 絶妙なタイミングで閃光玉を投げて相手の視界を封じ。いつの間に仕掛けたのか、いとも容易くモンスターを罠へと誘導し、自身もしっかりと前線に立って戦う、驚くべき働きに、話だけで大いに関心するのであった。

 

 そして、まさしく今日できた生まれて初めての同年代のお友達。

 リコリス・トゥルースカイ。

 

 誰よりも悲しみ、誰よりも辛い時にこそ、絶対に希望を捨てない芯の強さに、本当に救われたこと。

 特に、昨晩の砂漠の死闘の話は、ローラは目に涙まで浮かべて聴き入っていた。

 

 家事全般の師匠でもある。アイルーのネコチュウ。

 愛らしい外見に似合わず、いざという時はとても勇敢なオトモアイルーとなる事。

アクの強い面々の中、皆のフォローに奔走する優秀なサポートに、エレンは「実は、私の一番の先生と思っています」と伝えると、ローラは是非共自分の専属に雇いたいと駄々をこねて、エレンを存分に困らせた。

 

 きっと、やっと心を開いてくれた姉に甘えたかったのだろう。

 

 他にも一緒に戦ってくれた先輩ハンターのイルゼとレオニード。

 

 ムラマサをはじめ。

 得体の知れない自分を迎え折れてくれたポッケ村の住人たち。

 

 そして、自分を変えるきっかけをくれた青年。

 

 ディーン・シュバルツのこと。

 

 沢山話をした。

 

「ディーンとは、あの赤い鎧の無礼者じゃな?」

 

 自分の事を“わがまま”呼ばわりした事を、未だに気にしているのだろう。

 そんな様子の妹に少しだけ苦笑して、エレンは「そうですよ」と頷いた。

 

「確かに、貴族や王族からしたら、ちょっと無礼な人かも知れませんね」

 

 おそらく、王都に到着したら其処彼処(そこかしこ)で無礼者呼ばわりされそうだと想像して、思わずくすりと笑うと、エレンは少し不機嫌そうな顔になったローラへと応えた。

 

「でも、私にとっては恩人なんです。ディーンさんが居てくれたから、今の私で居られるんです。こうしてローラとも仲良しになれたのも、きっとディーンさんのおかげなんですよ?」

 

 そう言って嬉しそうに笑う大好きな姉。

 

 彼の部屋の掃除が物凄く大変な事。

 

 起こさないと起きてこないくせに、夜遅くまで、やれトレーニングだ、やれ面白い読み物だ、やれ酒盛りだと言ってなかなか寝てくれない事。

掃除をすれば逆に散らかし、洗い物をすればよく皿をわり、洗濯をさせれば力を入れすぎて布を破く。

 

 取り柄は出鱈目な戦闘力の脳筋男。

 

 でも、いざという時は、絶対に仲間を助け、奮い立たせ、誰よりも先頭に立って立ち向かう。

 

「だから、ちょっと口が悪いですが、ディーンさんの事、嫌いにならないでください」

少しだけ苦笑気味に、それでも本当に魅力的に笑う姉表情を、年頃の娘達はきっと、ある感情の名で呼ぶのだろう。

 

 だが、この世間とは離れた生活を余儀なくされて居た姫達は、それに気づかずに話に華を咲かせるのであった。

 

 

・・・

・・

 

 

 その日の夜の事である。

 

 レクサーラから竜車で発った一行は、街道沿いの開けた場所で夜営をする事にした。

 目指す王都ヴェルドは大陸の南部のレクサーラから遥か北西へと向かわねばならない。

 

 ディーン達の活動するこの大陸の北西の端に位置する。

 

 シュレイド地方へと入るには連なるヒンメルン山脈を越えた西側にあり、レクサーラから向かうには、どうしても1週間ほどの時間を要するのだ。

 

 その間、ジォ・ワンドレオ。メリタペット。ミナガルデと大都市を経由する長旅となる。

 一刻も早く王都へと向かう予定であっため、すぐにレクサーラを発った第三王女一行であったが思いの外大部隊である事が災いし、第一の経由地点、ジォ・ワンドレオ目前での夜営を余儀なくされたのである。

 

 何人かの兵士が見張りをし、使用人達が王女達の食事を用意している最中に、ちょっとした事件が起こった。

 

 

 ガッシャーン!

 

 

 ディーン達を収容していた護送車から、派手な破砕音が鳴り響いたのだ。

 

 すわ、何事かと騎士達が殺到する中、ひょっこりと何事もなく竜車から顔を出したのはディーンであった。

 すわ、脱獄かと気色(けしき)ばむ騎士達に対し何故かファルローラ姫が「よい」と静止した為事無きを得たのだった。

 

「ディーンさん!?」

 

 驚いた顔で、エレンが駆け寄って来る。

 

「おー! エレン、無事だったか〜」

 

 右手を上げて「よっ!」などと呑気に口走るディーンの後ろから、ぞろぞろと仲間達が続いて出てきて、最後に若干げっそりしたコルナリーナが出てきて「出鱈目だわ〜」とうな垂れていた。

 

「コ、コルナリーナ殿……これは、一体……?」

 

 ファルローラの爺やが恐る恐る尋ねると、彼女は引きつった笑みを浮かべながら「いやまぁ、なんと言いますか」と言葉を濁すのみであった。

 

「鉄格子の中ってのも飽きたんでな。今日はここで夜営するんだろ? 食料の調達と、周りに大型モンスターの気配がないか、調べに行こうぜ?」

 

 などと、何事もなかったように言うディーンに、背後のフィオールとネコチュウが「やれやれ」と肩をすくめ、残りの二人は苦笑していた。

 

 おそらく、拘束用の鉄格子をディーンが蹴破ったのだろう。しかも、これはエレンの予想だが、先程の「よっ!」とほとんど同じ軽い感じで、だ。

 

 それは、後ろの仲間達の反応を見る限り、だいたい合ってそうである。

 

「あ、あはは……そうですね」

 

 きっと同乗していたコルナリーナは心底驚いたに違いない。

 

 どうやら彼女の気配りで、ディーン達以外にあの中に乗っていたのはコルナリーナのみだった様だが、マックール卿直々に手ほどきを受けたいという彼女をして、ディーンの出鱈目っぷりは驚愕に値する様であった。

 

「コル……? 大丈夫?」

 

 声をかけてみると、「あはは〜。お姉さん、ちょっとアイデンティティ崩壊の危機かもです〜」などと呟いていた。後でフォローが必要だろう。

 

 当の本人であるディーンはケロっとしているのだから、彼女みたいに見えないところで絶え間ぬ努力を重ねてきたタイプには、天敵のような男であるに違いない。

 

「もう。もう少し待っていただければ、私から塊状してくださるようにしましたのに」

 

 でも、正直こうしてディーン達と再会できたのは嬉しい。

 

「悪ぃ悪ぃ。そっちの様子がわかんなかったもんだから、つい」

 

 つい、で鉄格子破ってしまうものだから始末に負えない。

 ディーンだけは犯罪者になって欲しくないものである。牢屋がいくつあっても足りない。

「もう、しょうがないですね」と、何だかんだ許してしまうエレンもエレンなのではあるが。

 

「あ、そうだ!」

 

 ふと、思い出したようにエレンが顔の前で両手を合わす。

 

 彼女の背後に控えていた小さな姫君の存在を思い出したからだ。

 

「ディーンさん。皆さん。ちゃんとご紹介させてください」

 

 そう言って嬉しそうに言うエレン見た仲間達、そしてコルナリーナは、何かを察したようにつられて顔をほころばすのだった。

 

「ほら、ローラ。いらっしゃい」

 

 エレンに手招きされ、珍しく恥ずかしそうにディーン達の前へ歩みでたファルローラは、自分が捕らえろと命じてしまった者達の前で、何ともバツの悪そうな顔で彼等を見渡すと、「み、皆の者、苦しゅうない」となんとか威厳を保とうと声を上げるが、エレンの仲間に紹介されるという、なんとも初めての経験に緊張しているようであった。

 

 そんな妹の可愛らしい様を見てくすりと笑うエレンは、改めて、今日生まれて初めてできた家族を、彼等に紹介するのであった。

 

「私の“妹”のファルローラ。ローラ姫です。皆さん、仲良くしてあげてください」

 

 いつになく晴れやかなエレンの声に、ディーン達から歓声にも似た肯定の声が上がり、後ろに控えたコルナリーナは、本当に嬉しそうに笑うのであった。

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