私は今、モヤが立ち込める何処とも理解らない場所を歩いています。
ぼーっと前だけを見て進んでいくと次第にモヤが晴れてきて、どこかの高台のような場所で立ち止まると、ぼやけて見えなかった景色が一瞬にして現れました。
「…………えっ?」
私の前には何かによって破壊された建物がいくつも倒れていて、まるで廃墟をみているような気分です。
廃墟の真ん中には広場が…………。
いえ。ソコにあったモノが全て消えて広場になってしまっている場所があって。
その広場には1人の女の子が立っていました。
女の子は凄く悲しげな顔をしていて、まるでこの惨状が自分のせいだと言いたそうでした。
女の子は空を睨みつけながら、天に手をかざすと―――――。
世界が白い光りに包まれて全てが消えてしまいました。
「……………………ここは?」
私は気が付くとベッドの中にいました。
「…………夢? まったく、夢ならもっと楽しい夢を見たかったのに」
時計を見るとまだ夜中の3時を回ったくらいで、良い子はまだ寝てなくちゃいけない時間ですね。
まあ私が良い子かどうかは置いといて。
手を伸ばして大きなアクビをすると。
ポタリ。
と水滴がしたたり落ちて、シーツに薄いシミを作りました。
「これは…………汗?」
どうやら凄く汗をかいてしまっていたようで、手にはびっしゃりと汗がついていました。
「ふぅ。これは今日も朝からシャワーを使った方がいいかも…………」
すぐ近くから寝息が聞こえてきたので横を見ると、いつの間にか私のベッドに潜り込んでいたリニスが幸せそうな顔で寝ていました。
「…………そういえば夢で見た女の子に似ているような?」
たしか物を抱いて寝ると、それに宿った記憶が夢に出てくるとかなんとか本で読んだことがあった気が…………。
つまり私がさっきまで見てた夢はリニスの記憶…………って、流石にそんな事は無いですよね。
それに嫌な夢を他人のせいにするのは良くないです。
―――――ひとまずの目的地である教会までの駅は後2駅。
リニスと遊ぶ事が出来るのは次の駅で最後かもしれないので、寝不足で遊べないみたいな事になったら大変です。
私は今度はいい夢が見れたらいいなと思いながら、再び眠りに落ちて行きました。
私達が寝ている間も列車は進む。
振り返る事も無く、ただひたすらに前に。
最後に待つ終着駅に向かって。
「さくら~。おっきろ~」
「ぎゃふっ!?」
私の今日の目覚めは、突然仕掛けられたフライングボディプレスによって訪れました。
不意打ちで技をかけてきた不届き者の正体を確かめるべく眠たい目を少しずつ開けていくと、そこには何故か不機嫌そうな表情をした女の子がいました。
「…………あの。なんでそっちの方が不機嫌なんですか?」
「だって桜が起きないと、朝ごはんが食べられないじゃない」
部屋に掛けられている時計を確認すると、時刻は朝の8時をちょっと回った所。
どうやら少し寝坊しちゃったみたいです。
昨日変な夢を見たせいで夜中に起きてしまったからかもしれません。
というか絶対そのせいです。
私は悪く無いです!!
「まったく。今日は変な夢は見るわ、無理やり起こされるわで散々な日です」
私は軽く背伸びをしながら「ふぁああ」とあくびをして、ベッドから降りました。
「あっ!? お寝坊さん、はっけ~~~ん!」
「ウサギに時計でも取られたのか?」
私が起きたことを確認した和希さんと望さんが挨拶してきました。
どうやら私以外はすでに全員起きているみたいです。
「すみません、寝坊しちゃって。別に私を待たずに先に食べて貰ってても良かったんですが」
「私はそれでも良かったんだが、そいつが皆一緒じゃないと嫌だって聞かなくてな」
「リニスが?」
「やっぱり皆で食べたほうが美味しいじゃない」
「うん。望も皆で一緒に食べた方がいいと思うよ」
そう言いながら望さんは朝ごはんが待ちきれないのか、ポテチをボリボリと食べていました。
「あの。お菓子を食べるとご飯が食べられなくなっちゃいますよ?」
「ちっちっち~。望レベルになるとお菓子は別腹になるから大丈夫だって~。それにお姉ちゃんがいない今じゃないと朝ポテチを楽しめないし~」
「あっ!? じゃあ私も朝ポテチ貰おっかな~」
リニスも望さんからポテチを分けて貰って、朝ごはん前なのにお菓子を食べ始めちゃいました。
「まったく。しょうがないですね」
けど。私が起きるまで待っててくれたのは、ちょっぴり嬉しいです。
みたいな事を考えながら、私はふと机の上を見たら皆でゲームをしていた形跡がありました。
「あれ? ゲームをしながら待ってたんですか?」
「ああそれ? 実は桜ちゃんを起こす係をそれで決めてたんだよ」
「…………どうせならボディプレスをしない人が良かったです」
机の上には勝敗表も置いてあって、そこにはゲーム大会の名前も書いてありました。
第1回 ねぼすけをフライングボディプレスで起こす係 決定戦…………と。
「ボディプレスされるの確定!?」
それから私達は朝食を食べるスペースを空ける為に、机の上のゲームを片付けてから何を食べるか決める事にしました。
「えっと。朝食はどうしましょうか?」
「じゃあ私はチーズケーキがいい!」
「…………それはおやつです」
ポテチを食べて更にケーキまで食べたら本当におやつだけでお腹いっぱいになってしまいます。
「そういえば。さっき部屋の端末におすすめメニューが届いてたぞ」
「端末に?」
和希さんに言われるまま、私は部屋に設置してある端末を操作してホログラム画面を表示すると、軽快な音楽と共に期間限定 お好み焼き弁当の広告ムービーが流れはじめました。
「おおっ!? これは凄く美味しそうです!」
「じゃあ私はこれ~」
「望もこれにする!」
「私は何でも良いぞ」
「わかりました。では、お好み焼き弁当3個とナン弁当にします!」
「ああ。それで構わない」
…………………えっと、この状況は。
「――――どうかしたのか?」
「やっぱりお好み焼き弁当を4つ注文します」
忍さんだったら「何で私だけ違うのよ!」ってブチギレツッコミが飛んで来たのに…………。
流石、和希さん。
クールなスルーっぷりです。
本当にどのお弁当でも良かったんだと思いますが、せっかくだし全員同じのにしましょう。
という事で、ムービーの最後に出てきた注文画面から数量を4にして注文を確定。
―――――そして、待つこと数分後。
部屋に設置してある配送ボックスに、調理場からベルトコンベアーで何かが運ばれてきました。
配送ボックスを開けると、そこには出来たてほっかほかのお弁当が4つ置いてあったので、とりあえずテーブルに運ぶ事にします。
配膳を終えると、和希さんが麦茶2個と紅茶1個とジュース1缶を冷蔵庫から取り出してオボンに乗っけて持ってきてくれたので、飲み物の用意も完了。
では準備が全部終わったので。
「いただきま~す」
早速、朝食を食べましょう。
お弁当の蓋を開けると、箱の中にはご飯とおかずのお好み焼きが半分ずつ入っていました。
真ん中には大きめの揚げたミートボールみたいなのも乗っていて、こっちもなかなか美味しそう。
多分お好み焼きを最初のおかずに食べて、中盤にミートボールでアクセント。
――――みたいな感じで食べる為に用意されている物だと思いますが、私はそんなコックさんの思惑には乗らず、いきなりミートボール直行です!!
「では、早速」
「おおー。桜ちゃん、いきなり攻めるね~」
「ここは最初から真ん中に置いてあるメインので行きます!」
ミートボールを取って口に運び、軽く味わってからお好み焼きへ。
…………と思ったのですが、なんだかちょっと食感が普通のミートボールとは違うような。
ミートボールにしては中身がとろりとしてホクホクしてて、中心部には他の具材が…………。
「ああっ!?」
「わわっ。もう、急にどうしたの?」
「大変です!? ミートボールだと思ってたのに、たこ焼きでした!」
「…………そんなの別にどっちでもよくない?」
「全然違います! たこ焼きって解ってたたら最後のシメに取っといたのに…………」
「望は逆に先に食べる派かなぁ~」
真ん中のがたこ焼きだと判明した瞬間。
望さんは箸でたこ焼きを掴んで食べ始めました。
「あっ!? ほんとだ」
「今回は考えが甘かったです」
「え? どういう事?」
「お好み焼きと言えば大阪」
「広島風もあるけどね~」
「そして、お好み焼きと一緒に入ってる丸いものと言ったら、たこ焼きしかないじゃないですかーー!」
まあ食べてしまった後で今更どうする事も出来ないので、こうなったら駅に付いたら速攻でタコ焼き屋さんに行かないと!
私は少しだけしょぼくれながら、次にお好み焼きを食べる事にしました。
「こ、これは!?」
豚玉。
…………いえ、これはイカも入ってるミックスお好み焼き!?
なるほど。
これだとおかずがお好み焼きだけなのも納得がいきます。
豚とイカの絶妙なバランスが最高で、ご飯を食べる手が止まりません。
「ごちそうさまでした」
今回のお弁当はかなり当たりです!