エヴァ体験系   作:栄光

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銃剣を磨け

 デブリーフィングの空気はとても重かった。

 参加者は三角巾と添え木の痛々しい葛城三佐、頭に包帯を巻いている赤木博士、そしてチルドレン3人、作戦課員数人だ。

 いつものメンバーであるマヤちゃんと日向さんは指揮官負傷につき、代行業務で大忙しだ。

 

「21時13分、初号機の攻撃にて第13使徒のA.Tフィールド消失、殲滅が確認されました」

 

 作戦課員の大野二尉によって淡々と進んでいくデブリーフィング。

 銃剣刺突からのめった刺しシーンは情操教育的に良くないと判断したのか、静止画だ。

 初号機が銃剣を構えて直突するシーンだ。

 銃剣道の試合なら、“喉に一本”でキレイに勝ってるところだが、そうじゃなかったんだな。

 俺が、第13使徒を“解体”する光景に立ち会った綾波や作戦課員の顔色が悪い。

 一方、保護され偵察隊の小型(パジェロ)に乗って前線指揮所まで行き、本管中隊の女性自衛官(ワック)から、毛布にジュースにいろいろ貰っていたアスカは、この空気に困惑する。

 

「レイ、顔色悪いわよ」

「アスカは碇くんのアレ、見てないもの」

「シンジ、何したのよ」

「ここから、喉から後頭部まで突き刺したけど、仕留められなかったから止まるまでめった刺しにした」

「うわっ、えっぐ。仮にも人乗ったエヴァでしょ、アンタ加減ってもんが無いの?」

「ノド突き刺されて、ゾンビじみた抵抗して来たらそりゃこうなるよ」

「で、パイロットは?」

「21時31分、フォースチルドレン、宮下サトミの搬送を開始」

 

 俺が引き抜いて横たえたエントリープラグから搬出される彼女の姿が映し出される。

 変質し粘液状となったLCLにまみれたクラスメイトに、アスカが葛城三佐に詰め寄った。

 

「宮下って、うちのクラスじゃない! ミサト、どういうことなのよッ!」

「ごめんなさい、あなた達には伝えられなかったの」

 

 葛城三佐は悲しそうな顔をして言う。

 赤木博士も俺の方を見ている。

 まあ、言わんとしてることはわかったけどさ。

 

「シンジ君にも何度も聞かれたわ、でも……」

「アレが“いわくつきの機体”だから、ですよね」

「そうよ、何かあった時にあなた達に辛い思いをさせないように」

 

 処理するなら、パイロットについて知らないまま実行したほうがまだマシだというミサトさんやリツコさんなりの配慮だったんだろう。

 この空回りした思いやりに憤ったのがアスカだ。

 

「誰が乗ってるか分かんなかったら、アタシたちが平気で攻撃できると思ってたの!」

「アスカ、落ち着いてよ」

「何よシンジ! あんただってちょっと前までじめーっとした顔してたくせに!」

「シンジ君も、おそらくこうなることを分かっていたのよね」

「あんた、知ってたって言うの」

 

 アスカは何も知らせず手を汚させようという“だましうち”のような仕打ちに怒髪天を衝く有様で、声を掛けた俺も巻き込まれそうな勢いだ。

 そんな時に赤木博士が言った一言で完全に標的が俺に向いた。

 誤解からアスカとの関係がこじれても嫌なので正直に言うことにした。

 

「パイロットが誰かはわからなかったけど、参号機に何かあるような気はしていた、だから覚悟していたんだ」

「じゃあ何、アンタ使徒の付いてた機体に誰かを乗せて殺す気だったの?」

「ああ、俺に出来るのがそれしかなかった、だから手を汚すのは俺だけでいい」

 

 激痛

 

「バカにしてんじゃないわよ」

 

 アスカに頬を殴られた。

 

「ちょ、ちょっとアスカ」

「どうして、アタシたちに相談しないのよアンタは!」

 

 葛城三佐が止めに入ろうとしたが、アスカはひと睨みして俺の胸倉をつかむ。

 

「俺だって、エヴァに乗る誰かを助けたかったよ、でも殺してしまう可能性の方が高かった、その時に人殺しになるのは“大人”の仕事だ!」

「何が大人よガキシンジ! アンタ一人で戦ってるつもり?」

「みんなで戦ってるよ、でも俺はアスカに、綾波に重い罪の意識なんて背負わせたくないんだよ!」

 

 俺とアスカの口論に周りの作戦部員がどう止めようかと悩んでいるようだ。

 だけど、俺の言いたいことを聞いたアスカは胸倉から手を放してくれた。

 そして無言でドカッとパイプ椅子に座った。

 言葉が見つからないけど止めようかどうか悩んでたらしい綾波も、椅子に座る。

 そこでばつの悪そうにしてる赤木博士と葛城三佐、アンタらも共犯なんだぞ。

 

「続けなさいよ」

 

 アスカの一言に、宮下さん収容以降の経過報告が始まる。

 いつも通り千切れ飛んだエヴァの部位や破損武器の回収作業(通称:ゴミ拾い)をやった俺がネルフ本部に帰りついたのが深夜の2時頃だ。

 そこから返り血を浴びて真っ赤に染まったエヴァ初号機の除染が開始、俺が寝たのもそれくらいだろう。

 翌日の6時より段階的に避難命令解除、野辺山地区の除染作業開始。

 第13使徒戦はこれをもって終結とする。

 

 通常であればここで葛城三佐や赤木博士の講評が入るところだが、当時不在であったためか今回は省略された。

 こうして、第13使徒戦におけるデブリーフィングは始まった時よりも重い空気のまま終了した。

 

 

 

「うまく、行かねえよなあ」

 

 デブリーフィングが終わると俺は自販機コーナーのベンチで一人、ぼんやりと過ごす。

 アスカに殴られて熱を持っていた頬からようやく赤みが引いた。

 頬を冷やしていた缶コーヒーをちびちびと飲みながら、今後について考える。

 

 原作シンジ君はエヴァに立てこもり、恫喝したから強制排除された。

 さっきのアスカみたいに“だましうち”されたと考えても無理はないよな。

 だからと言ってエヴァに立てこもれるシンジ君は大したタマだと思う。

 

 それはさておいて、原作ではシンジ君入院、重営倉、除隊の流れで具体的な日数がわからない。

 シンジ君が除隊……もといパイロット抹消で第三東京を去る時に第14使徒がやってくる。

 うろ覚えだけどミサトさん、リツコさんのケガからして1か月も2カ月も拘束されてなさそうだ、長くて2~3週間っぽい。

 

 原作アニメと違うのは俺が最初から出られるのと、零号機の腕が吹っ飛んでないことくらいだ。

 だけど、原作アスカが今となっては珍しいノーマルのパレットガンと無反動砲で全力射撃しても全く効果が無かった。

 防御もさることながら、近接戦はよくしなる平たい腕、遠距離は高威力の怪光線ときた。

 エヴァ3機で袋叩きにしようにも厳しいぞこれ。

 

 初号機の暴走で喰われた使徒だけど、この世界でその戦法は使えない。

 中身俺だし都合よく暴走が起こってくれるかどうかもわからない、なによりS2機関の獲得はゼーレに目を付けられる出来事になるからな。

 ゲンドウの失点ポイントはちょこちょこあったものの“S2機関取得”と“ロンギヌスの槍喪失”そして“零号機喪失”がダメ押しだったような気がする。

 アダムのコピーのエヴァにS2機関、「神を作る気か」的なことを言ってたような。

 下手こいてゼーレのお呼び出し、あるいは拉致暗殺なんてパターンは避けたい。

 そう、加持さんのように……。

 

「よう、シンジ君」

「うわぁ! びっくりした」

「うわぁ、とはご挨拶だな、アスカとやり合ったんだって?」

「そうですけど、まあ、こんなナリですから仕方ないのかな」

「ここじゃ目が多すぎる、ちょっと付き合ってくれないか」

「構いませんよ」

 

 俺は突然目の前に現れた加持さんに連れられて、ジオフロントの一角にあるスイカ畑にやって来た。

 

「最近、どうだい」

「何がですか?」

「アスカだよ、俺へのラブコールも少なくなったし寂しいなぁ」

「加持さんにはミサトさんがいるじゃないですか、よりを戻したんでしょ」

「葛城とヨリを戻したって誰に聞いたんだ」

「アスカとリツコさんですよ」

「だから、最近シンジ君の話ばっかりなんだな。両手に花なんて羨ましいぞ」

「両手に花っていうけど、二人とも本命は別に居るんでしょ」

「リッちゃんはともかく、アスカは君に会って変わったよ」

「変わりましたね、今日、俺は驚きましたよ」

 

 アニメアスカなら下降線に入って卑屈になり、孤立してそれが更にシンクロ率低下などの悪循環を招き、どんどん負けが込んでくる頃だろう。

 だけど、今、一緒に戦っているアスカは仲間想いの女の子だ。

 原作との差異と言えば、綾波がアスカと話すようになってお姉さんやってるのと、俺がアスカと仲がいいということくらいか。

 原作アスカならトウジがフォースチルドレンになることに腹を立ててたり、ことあるごとに一人でやろうとしていた。

 私は子供じゃない、私を見て……から、他人や仲間を頼れって、成長したよな。

 

「俺が出来なかったことを、シンジ君、君がしたんだ」

「加持さん、アスカには同じような立場の友達が居なかっただけですよ」

「いいや、君だからアスカは成長できたんだ。ありがとう」

 

 いつもの世間話と違った雰囲気を感じる、どこか影があるような。

 

「……どうしたんですか。まるで遺言みたいな」

「遺言か、死ぬ気はないよ。まだわからないことがあるんだ、それを知るまではね」

「真実は人の数だけ、()()が都合のいいように記すものなんですよ。加持さん」

「手厳しいね」

「加持さん、それとも“不都合な真実”にミサトさん巻き込みます?」

「そうだな、でも葛城は……この話はやめよう」

「そうしましょう、お気をつけて」

「……シンジ君、いや“アンタ”は何を知ってるっていうんだ」

「トンキン湾事件の真相とかそういったネタはね」

「また古いネタだ」

「マジな話、エヴァンゲリオンそれも相棒の表層しかわかんないですよ」

「それもそうか」

 

 俺と加持さんはハハハと笑うと、手を振って別れた。

 

 原作知識はもう穴だらけうろ覚え、アニメの映像の断片が浮かぶくらいだ。

 PS2版“エヴァ2”をやり込んでいた時のように最深度情報なんて出てこない。

 もっとも、ゲームのフレーバーテキストみたいな薄っぺらなものなんて加持さんも要らないだろう。

 数学のテストで途中式の無い回答だけ答えるようなもので説得力の欠片もない。

 それならゼーレ、委員会が書いたダミー情報の方が幾分かマシだな。

 少なくともこの世界が虚構(アニメ)の下で成り立ってるなんてトンデモ話よりは。

 

 

 

 数日ぶりに中学校に行くと、ケンスケとトウジが出迎えてくれた。

 

「シンジ、エヴァには誰が乗ってたんだよ」

「センセ、アカンかったんか……」

「パイロットは生きてたけど、もう走れないかもな」

 

 あの日から欠席の続くクラスメイトを思い浮かべた二人は黙り込んでしまった。

 参号機起動実験の日から宮下さんは入院生活とリハビリだ。

 痛みの走る手足を懸命に動かして前に、前に進もうとする彼女の姿。

 エヴァにさえ乗らなければ、こんな辛い思いをすることはなかったはずだ。

 泣きたいだろう、この世の理不尽を訴えたいだろう。

 でも、俺が行くといつも笑顔を作ってくれるのだ。

 

「キッツいなあ……」

「ああ」

 

 トウジはそう呟く、俺も同感だ。

 フォースチルドレンの名前こそ伏せられていたけど、父親の端末で第13使徒戦の顛末を知ったケンスケは何も言えないようだ。

 だって、憧れのエヴァパイロットになるという事を知ってしまったんだから。

 死ぬ一歩手前まで追い詰められ、時に使徒に乗っ取られ、しまいには人を殺す覚悟を強いられる。

 俺や綾波、アスカがたまたま上手くいった成功例ってだけで、エヴァに乗るのは実験含めて基本的に命がけなんだよな。

 そのへんの話はケンスケに懇々(こんこん)としたから、この期に及んでエヴァに乗りたいなんて馬鹿なことは言わないだろう。

 そして迎えたホームルームで本日の欠席者が読み上げられる。

 

 綾波、宮下さん。

 

 週番のトウジがプリントを届けるように言われるが、二人ともネルフ関連の欠席だ。

 綾波はリツコさんと実験(ダミープラグ関連?)だし、宮下さんは診察日だ。

 

「トウジ、プリント俺が病室まで持って行くから、放課後になったら渡してくれ」

「おう、任せたでセンセ」

 

 アニメではトウジの週番って参号機が()()()だったけど、疎開していったクラスメイトが原作と違ったんだろうか。

 辛気臭く重いムードをいつまでも引きずっていても仕方ないし、俺は明るく振る舞うことにした。

 その事もあってか午後にもなると、何事も無かったかのように学校生活をしていた。

 虫除けを始めて以降いつもワザとらしく絡んで来るアスカも、今日は大人しい。

 彼女なりに気を遣ってくれてるんだろうか。

 

 放課後になり、トウジとアスカから事情を聴いたであろう洞木さんに励まされて、俺は学校を出る。

 ネルフのVIP用特別室という事もあって差し入れは自由だ。

 病院ではあまり出ないような甘い物を買って持って行く。

 引き戸を開けて病室に入ると、彼女はテレビを見ていた。

 連続テレビ小説だろうか。

 声をかけると、いつもより嬉しそうだ。

 

「碇くん、退院が決まったよ」

「えっ、本当」

「来月、痺れが引いたら学校にも行けるんだって」

「それはよかった、今はどう?」

「何とか、歩けるようにはなったよ。まだ杖いるけどね」

「そうか、頑張ったんだな」

「えへへ」

 

 入院からおおよそ1週間で歩けるようになった宮下さんの頑張りには驚いた。

 足がつって痛い状態が両足で同時発生するようなもので、立つのも辛いはずなのに……。

 水羊羹を食べながら、学校の話やアスカたちの話をする。

 

 アスカと綾波もお見舞いに来たそうで、「アタシは謝らないけど、元の生活に戻れるといいわね」なんてアスカなりの激励をして帰ったらしい。

 一緒に来た綾波は「ごめんなさい、どう言えばいいのかわからない」と言っていたそうだ。

 

 今回の一件は手を下した俺と、いわくつきの機体でテストをしたネルフ管理職の責任だ。

 アスカと綾波が謝る必要はないけど、エヴァパイロットに“選ばれてしまった”ところに思うところがあったのだろうか。

 お見舞いに来てくれたのが嬉しかったという彼女は、とてもいい子だと思う。

 

 宮下さんのお見舞いを終えると、いつものように赤木研究室へと向かう。

 試作武器の意見を求められていたからだ。

 ついでにプリントを渡そうと思ったが綾波はというと試験終了後、レポートを書いて先に帰ってしまったらしく居なかった。

 

 よく二次創作ではいろいろと新武器が登場するものだが、現実問題として予算には限りがあり次々と新武装を開発できないのだ。

 その為に取捨選択をするわけだが、リツコさんに見せられた新武器のアイディアはツッコミどころが多かった。

 “全領域兵器マステマ”という複合型兵装と“デュアルソー”という巨大チェーンソーだ。

 そう、PS2のゲームで見たキワモノ武装だ。

 

 マステマは機関砲に大きな刃とN2弾頭のロケットを取り付けた代物で、俺が余りにも剣付きパレットガンで戦果を挙げているがゆえに試作してはどうかというところに来てしまったらしい。

 

 違う、これじゃない……。

 

「どう、シンジ君」

「コレ、近距離戦で斬りつけるにしても、N2ロケットが邪魔だし……なんというか、中途半端ですね」

 

 OICWやら、K11複合小銃やらJSF計画といった例があるように、複合型武装、統合ナントカ計画って言うのは死亡フラグが立っている。

 開発コストが高騰し、複雑で開発が難航したあげくポシャる可能性がめちゃくちゃ高い。

 JSFもなんとかF-35という機体を生み出したが2010年位までは金食い虫で、多国共同開発って言うのは失敗じゃないかなどと言われていた。

 あれもこれもの“十特ナイフ”というのは兵器業界ではどっちつかずの欠陥品になる可能性が高い。

 

「そうね、じゃあシンジ君はどんな武器がいいの」

「剣付きパレットガンの銃剣の長さをあとちょっと伸ばしてくれるだけでいいです」

「やっぱり、そういうと思っていたわ、他に良いアイディアはないかしら」

「ソニックグレイブの柄の先にN2爆雷を取り付けて()()()()とか」

「それ、エヴァが巻き込まれるじゃない」

 

 原作では綾波が爆弾を抱え、第14使徒に肉弾攻撃を行ったのだ。

 そういう状況なら、ちょっとでもリーチが長いほうが有利だろう。

 “棒付爆雷”や“梱包爆薬”などで複数方向から肉薄、襲撃するのは対戦車戦闘の基本だ。

 

「防御の硬い使徒のコアを貫く対装甲武器としては使えそうだと思ったんですけど」

「却下ね」

「ですよね」

 

 リツコさんにあっさり却下を喰らった。

 それもそうだ、第14使徒みたいな“攻守ともに万全で肉弾特攻もコア防御膜で無効化するような相手”なんて考えつかないだろうしな。

 ここでアイディアが通っても実物が出来るまでには時間がかかる、ダメだ。

 

「第五使徒戦で使った戦自のFX-1はどうしたんですか?」

「あれは砲身と受電部が過負荷で焼けてスクラップよ、どうして?」

「分隊支援用の対戦車銃みたいなやつがあればいいなと」

「それなら、大出力ポジトロンライフルがあるわ」

 

 スクラップから部品取りされ、再設計されたそいつは銃身を短縮して立派な二脚と銃床、そして内部陽電子加速器が取り付けられた、いわばスタンドアロン型のFX-1モドキだった。

 

「それって、すぐに使えますか?」

「今、九割方完成しているけど、実戦投入はまだ無理よ」

「じゃあ、現時点、今すぐ使える最強の火器って何ですかね」

「ポジトロンライフル20番ね、それなら2丁あるわ」

 

 狙撃眼鏡(そげきがんきょう)のついたEVA用ポジトロンライフルに見えるが、後期型という事もあって出力も大幅に上がり、初期型とはほぼ別物らしい。

 俺の中では第15使徒戦で投入され、半狂乱のアスカが乱射しているイメージしかない武器だ。

 この頃にはもうあらかた出来てたんだな、そうでもなければ間に合わないか。

 あのときジオフロント内防衛線に配備するほど余裕なかったんだろうな。

 

 歩兵による対戦車戦闘の基本戦術として用いられるのが対戦車火器と肉薄攻撃の組み合わせだ。

 対戦車地雷で足止めし、小銃手が周囲を視察する車長や装填手の狙撃を行い、無反動砲手、LAM手が側面、背後のボサからひょっこり現れて装甲の薄いところを抜いてくるのだ。

 バトラー交戦装置がピーピー鳴って光り、撃破判定に気づいたときにはもう敵は居ない。

 そう、演習において普通科隊員に戦車が狩られるパターンのひとつだ。

 現在の自衛隊では安全管理上、爆薬などを戦車に投げ込む肉薄攻撃は行われていない。

 しかし、かつての対米戦、対ソ連戦では迫りくるM4戦車、T-34戦車に対し日本兵は肉弾となって突入、敵戦車ともろともに散華(さんげ)していった。

 戦車を使徒に置き換え、第14使徒戦では狙撃手を置いて、援護の下で近接しての袋叩きを考えているのだ。

 

「シンジ君、どうしたの」

「目つぶし程度のパレットライフルがいつまで有効なんだろうなって考えると、効果のある中距離支援砲が欲しいなと感じます」

 

 第13使徒戦でも、綾波と俺の射弾はほとんどエヴァの特殊装甲板で弾かれていた。

 ようは威力が無いので使徒に対し先制攻撃が出来ないのだ。

 理想はファーストアタック・ファストキル、先に攻撃して使徒の反撃が行われる前に素早く撃破する。

 もっとも、衛星軌道上の第15使徒は不可、逆に第16使徒ではそうしないと同化されて乗っ取られる、これは言わないけど。

 

 リツコさんは俺の考える“先制攻撃・早期撃破論”を聞いて納得したようだ。

 そして、次の使徒戦の時に取り出しやすい位置においてくれることになった。

 

 本題であった新武装案はどちらも没となり、代わりにパレットライフル改用銃剣が作られることとなった。

 肩のウェポンラックに収める必要のあったプログナイフの改造ではなく、専用品なのだ。

 89式小銃用のナイフ形銃剣から64式小銃の「これぞ剣」といった形の銃剣になった感じだ。やったぜ。

 

 俺がこうしている間にも“最強の使徒”の襲来は刻一刻と近づいてきていた。

 




基本説明不足、感情的になって事態が悪化するのが原作……。
あと、ケンスケはどのレベルまで閲覧しているんだろうか。
オヤジの情報保全ガバガバじゃねえか。
シンジ君への電話で「盗聴されています」っていうアナウンスでブツ切りは笑った。

用語解説

トンキン湾事件:ベトナム戦争開戦のきっかけ、1964年8月4日、駆逐艦マドックスが北ベトナム軍の襲撃を受けたとする事件。のちにアメリカの捏造である事がわかった。

OICW:XM29、5.56㎜弾と20㎜エアバーストてき弾が撃てる複合型小銃、値段が高騰し、威力も中途半端という事から2004年に白紙となった。

K11複合型小銃:韓国が計画していた複合小銃、やはり高コストでいろいろと問題多発。いつの間にか白紙に。

JSF:統合打撃戦闘機計画、空軍・海軍・海兵隊の戦闘攻撃機の複数機種を一本化しようという計画、国際共同開発という事で数か国を巻き込んだ計画となった。

LAM:パンツァーファースト3こと110mm個人携帯対戦車弾。
バトラー交戦装置:レーザー発振器と受光部で構成される交戦訓練装置。精密電子機器のため取り付け取り外し、状況中の取り扱いにめちゃくちゃ神経を要する。

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