太平洋戦争の終盤、広げた版図の南洋の島々を失った我が国は連日のように空襲を受けていた。
テニアンからやってくる“超空の要塞”は焼夷弾と通常爆弾を街に、工場に、住宅地に、鉄道に雨のように降らした。
もちろん、『護れ大空』で“照空燈や高射砲、聴音監視阻塞網”と歌われた防空システム自体はあったものの、もうどうにもならなかったのである。
敵機の大編隊が我が物顔で飛び行き、市街を赤く染め上げる様を見つめることしかできなかった帝国軍人の気持ちが今分かった。
突如出現した第14使徒は即応態勢にあった第1高射群のペトリオット、高射特科の中SAM、ホーク改を浴びても平然と飛んでいる。
邀撃に上がったF-15J戦闘機が閃光と共に翼から火を噴いて市街へと墜ちてゆく。
射出座席が作動しパラシュートが見える。
しかし尾翼をもがれたもう一機は、市街を避けるようによろよろと飛んで山肌へと墜落する、最後まで射出座席は作動しなかった。
「総員第一種戦闘配備、地対空迎撃戦用意」
「エヴァパイロット到着、直ちに発進準備!」
1時間前、箱根駒ヶ岳で使徒が出現したという知らせを受けて学校から国連軍の高機動車に飛び乗り、ネルフ本部に駆け込んだ。
駒ヶ岳防衛線と呼ばれる芦ノ湖東岸、強羅を繫ぐ防衛ラインをすでに越えられていることから、スクランブル発進という事もあってプリブリも無しにエヴァの中にいた。
地上のネルフ情報班、観測所や国連軍・戦略自衛隊との“リンク16(V2)”戦術データリンクシステムから出動した国連軍の様子が送られてくる。
プラグに画像伝送装置からの映像と、発令所を経由した戦域画面が表示される。
既に住民避難のための時間稼ぎに国連第二方面軍、戦略自衛隊の総力を上げた戦いが始まっていた。
対空誘導弾装備のF-15の損耗が激しく近接するのは危険と判断されたようで、対艦誘導弾装備のF-2支援戦闘機が百里から発進、長射程高火力での攻撃を行っているようだ。
対艦ミサイルが使徒の体表でいくつも爆発するが悠々と飛び、顔のようなところを光らせる。
だが、遠くでミサイルを放って離脱するF-2には当たらない。
的が小さくて素早い戦闘機に怪光線を直撃させるのは難しいらしく、掠めるような至近弾で撃墜しているようだ。
そうした様子と第3使徒の反省から戦自と陸自の重戦闘機部隊にはお声が掛からないのかデータリンク上でも姿を見ない。
一方、対地目標に対しては無類の強さを誇り、射撃火点を的確に狙い撃って十字の火柱をいくつも立ち上げていた。
「第三東京分遣班、沈黙」
空自の高射群が怪光線の応射を受けて壊滅したという報告が飛び込む。
続いて到着した足の速い戦自の即応機動連隊、特科大隊が火砲の射撃直後に怪光線で消滅した。
戦域画面から次々と消えていく部隊記号のアイコン。
出来る事なら地上の部隊に今すぐ加勢したいが、それでも勝率は低い。
射出直後に攻撃されてエヴァを喪失する可能性から、ジオフロントで待ち伏せを行うという方針が取られたのだ。
直上の天井都市は、第三新東京周辺の市街は?と葛城三佐に聞いたが無言で首を振られた。
つまり、「あきらめろ」ということだ。
開けた場所では国民の生命、財産をなげうってでも勝てるかどうかわからないのだ。
高射特科の展開していた県道75号を超え、湖尻観測所および要塞群、迎撃ビル群の集中砲火をものともしないヤツは第三新東京市、ジオフロント直上都市に怪光線を放った。
「第18までの装甲板貫通!」
日向さんの報告が聞こえた。
通信ウィンドウに映る綾波、アスカの目が見開かれる。
「うそっ!」
「いよいよか……」
3か所のA.Tフィールド中和地点に配備され、手にはポジトロンライフル20番を装備している。
放射線が云々と言ってる場合ではなく、持てるだけの火力をぶつけようということになったのだ。
アスカと綾波に数少ない20番を持たせ、俺は初期型のポジトロンライフルを装備して脇には剣付きパレットガンやソニックグレイブ、無反動砲を並べていた。
「アスカ、綾波、アイツは硬いぞ連携していこう」
「はっ、わかってるわよ。アンタこそ足引っ張んないでよね」
「了解、碇くんとアスカの援護をすればいいのね」
「うん、弾が切れたら武器を投げつけてもいい、投擲はヒトの得意分野だからね」
「レイ、シンジは良いけどアタシにはぶつけんじゃないわよ」
「そう、ダメなのね」
「俺は良いのかよ……」
冗談めかしたアスカと綾波の掛け合いにフフッと笑いそうになったときに、葛城三佐の指示が飛ぶ。
「シンジ君、アスカ、レイ、目標がジオフロントに侵入した瞬間に攻撃、いいわねっ!」
「了解!」
三人の声が重なる。
次の一撃でヤツは入ってくるだろう。
その時、天井都市区画が爆発してビルがボロボロと落ちてくる。
爆炎の中から映画『スクリーム』のマスクを思わせる気味の悪い顔が現れ、続いて白黒赤の三色の胴体が破孔から姿を見せる。
真っ先に本部防衛ビルの多連装ロケット砲が火を噴き、使徒の表面で爆ぜる。
A.Tフィールド中和下でこれかよっ!
「目標正面の敵、集中射ッ……撃てェ!」
俺の叫びに、アスカと綾波もポジトロンライフルを撃った。
A.Tフィールド中和効果と、陽電子による消滅が第14使徒を焼いた。
「顔を狙え!」
「わかったわ」
「分かってるっちゅーの!」
表面を炙られ、発光しようとした顔面に向かってアスカと綾波の射撃が命中する。
怪光線を撃たせないようにチクチクと撃っていたが、最強の使徒というだけあって意志は不屈かこっちに近づいてきている。
ポジトロンライフルの弾が切れ、アイツの腕の射程圏内に入った時が最期だ、怪光線でピカドンか腕でバッサリいかれる。
コア付近を狙って弾幕を張っていた俺のポジトロンライフルの弾が切れた。
躊躇せずポジトロンライフルを捨てた俺は、ロンギヌスの槍を投擲する零号機の姿を思い浮かべながら脇にあったソニックグレイブを投げた。
エヴァの
淡く光るA.Tフィールド中和光を貫き、腰のような部位に深く突き刺さる。
コアを外した!
続いて二本目を投げつける。
顔っぽいところの真下に刺さったが、綾波の撃った陽電子で燃え尽きる。
「ヤバっ!」
射撃が一瞬止み、嫌な予感がして飛びのくと目の前に白く平たい腕が突き刺さった。
原作アスカのように首を刎ねられる一歩手前だったのだ。
「アスカ、綾波ッ!」
「弾切れよッ!」
「あと、3発」
アスカは20番を捨てると無反動砲を両脇に抱え持ったバズーカ職人、いわゆるバズーカ惣流スタイルで弾幕を張ってくれる。
射撃が効いていない。ないよりはマシだが決定打にはなりえない。
やっぱり、
ふと、何処かで聞いた誰かの言葉が蘇った。
『戦車は動いて射撃しかできないが、人型戦車は原型である人と同じく多彩な戦術を使えるから強いのだ』と。
使徒が出来なくて、人間が出来ること。
ヒトは大きな牙もなく、握力に優れた腕も、素早い脚も、空を飛ぶ翼も、強固なA.Tフィールドさえない小さな生き物だ。
しかし、どうしてこんなに地上で繁栄できたのか。
それは集団で武器を使って戦術を駆使して、己の体より何倍も大きく強い相手に挑めたからだ。
相手がマンモスでも、ライオンでも、戦車でも、使徒でさえ同じこと……。
三方向からパレットガン、無反動砲、ポジトロンライフル20番で射撃し、
こちとら、ユニゾン訓練やら日頃の訓練で連携はバッチリなんだよ!
さっきからジュウジュウと顔を焼くポジトロンライフルが嫌になったのか零号機のほうに向きを変えようとする。
その隙に俺は手元にあった剣付きパレットガンを拾うと、効かない事がわかっていながらも弾幕を張りつつ近づく。
さらに本部防衛ビルのロケット弾が嫌がらせのように降り注ぐ。
ついに零号機の20番が弾切れとなった。
「零号機、武器交換に入ります」
「シンジッ!」
「おう!」
第14使徒はどうやら初号機、零号機、弐号機の順番で脅威を感じているらしく、綾波が次のポジトロンライフルを拾う隙をみてこっちに腕を伸ばそうとするのだ。
「うおりゃあ!」
それを見たアスカが撃ち切った無反動砲を捨て、力いっぱいスマッシュホークを投げつけた。
ギュンギュン縦回転して第14使徒の脇腹に直撃した。
左腕の付け根に刺さり、赤い血を噴き上げる第14使徒。
「痛いじゃないか」とばかりにクルリと左旋回して弐号機へと向きを変えるヤツに、俺は駆け出していた。
「こっちがガラ空きだぁ!初号機、吶喊します!」
奴の気を惹くために剣付きパレットガンを構え、全力で突入する。
これなら、たとえ腕を吹っ飛ばされようが慣性力で使徒へと吹っ飛んでいく。
ダッシュ、幅跳び前、すり足、走る、ダッシュ、突くと脳内で組み立て、初号機に伝える。
そして、一か八か奴がこっちを向ききる直前に左前方へと大きく飛んだ。
予想は大当たりで俺のすぐ右横を白い腕が過ぎ去って行く、こっちはそのタイプ
だが第4使徒や第13使徒と違うのは、伸び切った腕を戻すスピードが段違いに速い。
シュパッという擬音が似合いそうなほど素早く縮み、目と鼻の先の俺を突こうとした。
単機でいたなら原作アスカみたいにやられていただろうが、俺には二人の、そして多くの仲間がいる。
武器交換を終えた綾波のポジトロンライフルが、焼けただれた使徒の顔面を捉えた。
「先走んないでよ、バカシンジ!」
とは言いつつも、アスカも予備の剣付きパレットガンを乱射しながら使徒の側面から突入してきた。
紫と紅のエヴァが二機が突っ込んできていることに対して腕を伸ばすか、光線を放つか逡巡したのだろうか。
一瞬の隙に初号機が第14使徒に辿り着き、A.Tフィールドの壁を抜けた銃剣が使徒のコアへと突き進む。
甲高い音を立てて散る火花。
コアへたどり着いたはずの銃剣の切っ先には茶褐色の膜があった。
やられたっ!
分かっていたこととはいえ呆然とする俺に使徒は腕をパタパタと展開して伸ばそうとする。
「させるかぁ!」
横から弐号機が飛び込んできて、俺の鼻先を掠めるように銃剣が突き出された。
使徒の顔の付け根にグッサリと突き刺さり、赤い血が噴き出す。
弐号機にスピードの乗った体当たりを喰らわされた使徒は後ろへと倒れた。
「こんのぉおおお!」
馬乗りになると素手で使徒を殴り始める弐号機。
「アスカっ! こいつを使えっ!」
「プログナイフ!」
俺の機体のナイフをアスカに手渡すと、叩きつけるようにコア周りや顔をめった刺しにし始める。
まるで第13使徒戦の時の俺を見るようだ。
「アンタ如きに負けらんないのよアタシは!」
顔にナイフを突き刺す弐号機に反撃しようと動いた右腕に俺はすかさず銃剣を突き刺し、中で掻きまわす。
援護射撃に徹していた零号機もスマッシュホークを兵装ビルから取り出し、近寄って来た。
「レイッ! やっちゃって!」
弐号機が使徒の上から降りたところに鈍く光るスマッシュホークが振り下ろされる。
コア防御膜の上から何度も破砕斧が叩きつけられ、腕を動かそうとすると銃剣を突き刺され、焼け爛れバキバキに砕けた顔から怪光線を放つこともできない。
新しい顔を創ろうにも俺やアスカが銃剣で突き、抵抗を許さない。
エヴァ量産機のアレを思い出しそうになるエヴァ三機での凄惨極まるリンチ、群れの力というリリン最大の武器に最強の第14使徒も綾波にコアを叩き割られ、光の柱となった。
そう、人は槍や斧でマンモスを追い回していた頃からずっと武器と集団戦術を使い続けている。
使徒を捕食してS2機関を作り上げることもなく、ヒトがヒトであるまま勝利したのだった。
「第14使徒、パターン青消滅!」
日向さんの報告に、エヴァ三機で力を合わせて撃破した使徒の姿を見る。
使徒を貪り食ったわけでもないのにグッチャグチャの酷い有様で、マヤちゃんがこっち(大画面側)を見ようとしないレベルだ。
とくにネギトロめいた状態にしたのがスマッシュホークを使った綾波さんである。
戦闘時の興奮が去り、冷静になって来ていた俺はふと考える。
あれ、第13使徒戦で情操教育的に悪影響与えちゃったか……と。
撤収作業が終わり、国連軍や総務省からの被害報告が上がってきた。
22時の第一報時点で“名前の分かる民間人死者”が52人、行方不明者1174人、重軽症者2113人、うち第三新東京市民の死者36人、行方不明者491人。
犠牲者の多くが天井都市区画のシェルターに身を寄せていた住民で、そのほかは避難が間に合わず彼我の攻撃に巻き込まれてしまったようだ。
行方不明というのはシェルターや装甲板もろとも使徒の怪光線で跡形も残らず
時間が経つにつれて数が増えることはあっても減ることはないんだろうな。
国連軍の被害であるがF-15が10機撃墜され6人が殉職、高射特科部隊で53人、高射群で41人、避難誘導に当たった普通科連隊で19人、偵察隊で5人が殉職した。
機動戦闘車で駆け付けた戦略自衛隊の情報は入らないが、部隊規模的に人員数も陸自のレコンや戦車大隊と変わらないだろうから大体予想はつく。
おそらく、この間の合同演習で一緒にやっていた人たちも含まれている。
まるで、遠くの地域の台風被害報道のように他人事、数字で死者を見ている自分に気づいた。
俺の感覚はマヒしてしまったのか、涙もでないや。
安全化が終わるまで地上に出られないという事もあって、アスカ、綾波は“パイロット用仮眠室”に泊まりだ。
俺も乾式除染作業によってジオフロント内の自室へ戻れず“一般仮眠室”へ向かった。
仮眠室は護衛艦のようなカーテンの付いた二段ベッドが複数ある部屋で、特別勤務者が待機に使っている。
薄暗く、蓄光テープがぼんやり光るベッドの間を抜け、奥のひとつに入って横たわるとカーテンを閉めた。
壁の通信端末のリーダーにIDを通す。
こうして個人位置を認識させることで、非常時に端末を通じて呼び出しを掛けてくれるのだ。
しばらく二段ベッドの上段を見てぼんやりとしていたが、そのうち瞼が落ちて眠っていた。
爆音が聞こえてきた。
見上げるとジオフロントの天井都市が吹き飛び、白い使徒の顔がこっちを覗き込んでいる。
ケタケタと笑うような音を出し、こちらをずっと見ている。
まるで、矮小なお前に何ができる? とでも言わんばかりにジッと、天井都市の破孔から。
俺にはエヴァも銃もなく、碇シンジの肉体しかない。
黒い眼窩の奥が光り始める、最期の瞬間、第14使徒がニタリと笑ったような気がした。
跳ね起きる。
寝汗でぐっしょりとシーツが濡れ、体が痒い。
壁に備え付けられた時計を見ると、まだ午前4時でジオフロント内も薄暗い。
二度寝をする気にもなれず、使用済みシーツを回収箱に放り込んで俺は自販機コーナーへと歩きだしていた。
休憩に入った徹夜組、特別勤務オペレーターが数人いて、その中の一人に声を掛けられた。
「シンジ君、こんな時間に何しているんだい」
「戦闘のせいか早起きしてしまって。ところで青葉さんこそ、今日は特別勤務じゃないんですか?」
「俺も戦闘管制やったから、今日は勤務免除で休みさ」
どうやら、発令所での特別勤務を終えてこれから家に帰るようだ。
青葉さんは昨日の昼から使徒との戦闘、そして22時を過ぎて特別勤務者2人と2時間ごとに勤務、休憩、仮眠の勤務だ。
第一直なら20時~22時勤務、22時~0時まで休憩、0時~2時まで勤務、2時~4時まで仮眠、4時~6時まで勤務だ。
第二直は22時~0時まで勤務、0時~2時まで仮眠、2時~4時まで勤務、4時~6時まで休憩という第一直を補うような勤務態勢だ。
0600を迎えるとオペレーターの引継ぎが行われ、中央作戦司令部付の青葉さんも例外ではない。
いつもの3人でいるとは限らず、勤務シフトによってはアニメでいうところのモブオペレーターが座っている。
青葉さんは特別勤務者ではなかったのだが使徒が出てきたため深夜残業、第二直の時間帯で勤務していた。
「あと2時間で
「いやいや、いつも体張ってるシンジ君たちにはかなわないよ」
「僕は戦闘職種ですからね、でも皆さんの後方支援なしではどうともなりませんよ」
「謙虚なんだね、シンジ君」
「そんなことはないですよ、エヴァなんていう大きな兵器
「でも、シンジ君は凄いぞ、痛い思いをして死にそうにもなって、あの国連軍とも共同戦線を張れるんだ」
いちパイロットが現場の隊員たちといくら仲良かったって、組織間が手を組まなきゃ共同戦線は張れない。
決裁権のある人が国連軍に対する連絡チャネルを作ってくれなきゃ組織人としてはどうしようもないのだ。
「それだって、皆さんが国連軍とのパイプを繫いでくれなきゃどうしようもなかったですよホントに」
「俺や副司令だって碇司令がオッケー出さなきゃどうしようもなかったよ」
「ネルフって縄張り意識が強そうだと思っていました」
「シンジ君が来る前はもっと凄かったよ、ネルフの特権をいろんなところで使ってた」
「指揮権を奪い取ったりですか?」
「そうだよ、第3使徒の時には国連軍の将官相手に碇司令、不敵な笑みさ」
「『そのためのネルフです』って?」
「よくわかったねシンジ君、一言一句同じだよ」
「まあ、軍人さんとしては研究所上がりの集団に任せたくはないでしょうからね」
「それもそうだ。テロがあったっていうのに侵入者要撃システムの予算だって降りないしね……」
青葉さんは国連軍のプライドの問題だと思っているようだが、実際はネルフ本部施設直接占拠時に障害になるという事で委員会、ゼーレが承認のハンコをつかないのだ。
ゲンドウの造反がバレたうえで裏死海文書のシナリオ完遂、エヴァシリーズが完成すれば即サードインパクト&人類の融合をする気なのだゼーレの爺様方は。
原作だと青葉さんはネルフ直接占拠の最中にそのことに気づくのだ。
「最後の
司令部付ってだけあって青葉さん、鋭いなアンタ。
大正解。
しかし彼は見た目中学生の、それもこの間エヴァに乗ったクラスメイトを殺しかけた少年に言う事じゃなかったと青くなった。
「冗談だよ、気を悪くしないでくれよシンジ君。疲れてんだな俺」
「いえ、頭の片隅に置いておきますよ、情勢的に何があるかわからないんで」
「情勢、か。せめて俺達大人が何の憂いも無いようにしてやれたらいいんだけどな」
「そうですね、僕はともかくとしてアスカや綾波にはね」
「シンジ君って本当に二人のこと好きなんだな」
「戦友だし、女の子だからね。幸せになってもらいたいな」
コーヒー片手に青葉さんとあれこれ話していると結構時間が経っていたようだ。
「おっと、もうこんな時間だ、引継ぎに行かないと。じゃあな!」
青葉さんは持っていたコーラの空き缶をゴミ箱に突っ込むと発令所の方へと去っていった。
今晩の特別勤務者と引継ぎをやるのだろう。
引継ぎでは
自衛隊の駐屯地を守る警衛勤務の場合こんな感じだ。
「警衛司令、〇〇曹長」「警衛陸曹、〇〇三曹」「第一歩哨、〇〇士長」といった具合に役目と階級を告げ、以下何名のものは「警衛勤務を下番します」と申告する。
新たに勤務に就く上番者も「上番します」と申告し、その後に申し送りをする。
「外柵に市民団体のものと思われる反戦ビラが落ちていた」とか、夜間に不審な電球光が見えたとかそういう警備情報であったり、「本日は視察が来るので駐屯地の顔たる正門歩哨は端正かつ威容をもって勤務せよ」などという予定や注意事項などの伝達がおこなわれる
ネルフのオペレーターはどういった引継ぎをやってるんだろうな。
見に行ってみようかと思ったが、戦闘明けのチルドレンが発令所に行ったところで気を遣わせるだけなのでやっぱりやめた。
『ガス濃度低下、線量クリアによって地表区画からジオフロント第一層までの立ち入り制限を解除します』
陽電子砲射撃によるジオフロント内の放射能汚染箇所に酸素化合物や四フッ化炭素といった除染ガスを吹き付け汚染箇所を気相化、フッ化するという
前にリツコさんに聞いた話によると、広範囲に付着、吸着してしまったトリチウムや核分裂生成物などに除染ガスを吹き付けて揮発させて、反応したガスを放射性物質吸収缶に吸着、無害化する機材に通すというサイクルで行われるそうだ。
湿式除染より放射性廃棄物が少なく、広範囲にできますというのがウリの技術で陽電子砲などを複数有するネルフはそのための専門部隊を持っている。
俺達がぶっ放したポジトロンライフルなんかは、使用後チャンバーに入れられプラズマ励起ガスなどで乾式除染処理されることで整備員の被曝を防いでいるそうだ。
そうした話を聞くうちに、あれっ? ジェットアローンの運用問題なくねえか? と思ったが、こんな大規模なガス利用乾式除染はネルフしかできないとのこと。
ほとんどの所では汚染箇所を削り取る乾式除染だったり、水や酸液などによる湿式除染が主流なのだ。
恐る恐るジオフロントに出てみると、防護服を脱いで一息ついているネルフ職員が至る所で見られ、ガイガーミュラー計数管を持った職員がホットスポットが無いかを調査している姿も見られる。
そして俺の部屋に帰ると、建物の前にオレンジ色のテープが張られていた。
嘘だろおい……。
地下F区6番地の居住区は戦闘の衝撃で至る所にヒビが入り、崩落していたのだ。
当然、俺の住んでた建物も大きくひび割れ、赤い張り紙が張られていた。
“危険! この建物は崩壊する危険性があります、立ち入らないでください ネルフ管理部”
碇シンジ14歳(28歳)、まさかの部屋を失う。
使徒のバカヤロー!
原作を見て考えていたが、第14使徒戦の大損害は火力不足というよりはエヴァ稼働機数の少なさと逐次投入による各個撃破が大きいと感じた。
シンジ君が最初から搭乗していれば、アスカが綾波と連携していれば、ダミープラグを使わず最初から零号機を投入していれば……というところに行きついてしまうわけで。
あの状況じゃ弐号機に、突撃する零号機の援護射撃をしてと指示を出すくらいしかできないわけだが。
用語解説
護れ大空:1933年に発表された戦時歌謡、当時の防空システムや要撃機について歌われている。愛国高射愛国機も本土空襲が始まると、もはやどうにもならなかったのだ。
超空の要塞:B-29“スーパーフォートレス”爆撃機、硬い、速い、そして高く飛ぶ爆撃機。マリアナ諸島から本土に来襲。当時の技術力では迎撃は難しく、要撃機が上がりきる前に絨毯爆撃を終えて去っていく。
第1高射群:中部航空方面隊の防空を担う高射群、入間基地所属で使徒襲来以降、第三東京に臨時の分遣班を派遣していた。
リンク16:NATO、国連軍との戦術データリンクシステム。リンク11やその後継のリンク22など複数の形式があり、UHF帯域を使用する。(V2)はネルフ対応、エヴァに搭載されたバージョンを指す。
乾式除染:除洗剤を用いない方法で汚染された服を脱ぐ、レーザーで汚染箇所を溶かして吹っ飛ばす、吸着マットで拭きとるなどの方法。除染ガスを用い気体状にして除去する方法も発明されているようだ。
除染ガス:広範囲の放射能汚染や接近困難な原子力施設の除染を目的として開発された技術、特許請求番号JP2002162498A。陽電子砲が実用化されているエヴァ世界では必須の技術のようだ。
上番・下番:役目に就くことと退くこと、定年退官された方が『自衛官を下番しまして』とおっしゃることもある。警備員でも上番・下番は使うようだ。
戦車は動いて~:ゲーム『高機動幻想ガンパレード・マーチ』の教官、坂上先生の授業より。人型戦車“士魂号M”の特徴についての一節、人型戦車の出来る事の例に挙がった“武器を捨ててキックする、横にジャンプする、壁を上る、後ろに剣で攻撃する”……全部エヴァで出来ることである。
なおガンパレはエヴァ2と同じ制作会社であり、自由度の高いゲームである。突然出撃が掛かったりするけど。
……分かりにくい小ネタは動画サイトで検索して見てもらえれば幸いです。