エヴァ体験系   作:栄光

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ゆく者、残る者

 白い庁舎の裏手にある体育館に陸自と空自の部隊、そして特別儀じょう隊が整列している。

 その中に礼服姿の葛城三佐と俺がネルフ代表として立っていた。

 

 第12使徒戦後くらいに急ごしらえで作られたサードチルドレン用の黒い礼服を着用している。

 今朝、家を出るときにそれを見たアスカが「パパそっくりね」なんて笑ったけど、やめてくれ。

 

 黒い礼服に式典用の白手袋とマジで小さいサイズのゲンドウ制服だこれ。

 それに黒い船型のギャリソンキャップが付く。

 これは赤ベレー帽の一般ネルフ職員と違ってカッコいい。

 リツコさんいわく、チルドレンの男子礼服には一般職員用の青とか副司令みたいな司令部付の茶色とか複数案あったらしいが、結局立ち位置の特殊性から司令と同じ黒になったという。

 アスカと綾波の女子用の礼服はサイズこそ小さい物の、式典で葛城三佐が着ている物と同じだ。

 そんなおろしたての礼服に袖を通して、第2東京の新東京駐屯地の追悼式典に参列しているのだ。

 

 “国連軍特殊災害殉職者合同追悼式典”という横断幕が掲げられ、その下に日章旗と水色の国際連合旗が掲げられていた。

 舞台上に作られた祭壇には白い花と殉職隊員の遺影が3列に並んでいる。

 空自の戦闘機パイロット、高射群の隊員、陸自の第2高射特科群、第1高射特科隊、第34普通科連隊、第1偵察隊と部隊ごとに区切られていた。

 第三新東京市を警備隊区にもつ第34普通科連隊は合同演習でも顔を合わせていたから、何人も見覚えのある顔があった。

 

 ああ、あの若い陸士の兄ちゃんお亡くなりになったのか。

 

 もちろん参列している部隊の人も俺の事を知っているので、式典前に話をした。

 そこで彼らの最期を聞くことができた。

 シェルターへ避難中の一団が高圧送電鉄塔の倒壊によって分断された。

 34普連の隊員たちは町に進出し、孤立した高齢者を助けようとしたところ怪光線の流れ弾に巻き込まれたという。

 

 同じく陸自の方面高射の特科群隊員たちは中SAMやホーク改、師団高射の特科隊は3トン半トラックや高機動車ベースの近SAM・短SAMを撃ち続けたそうだ。

 

__自分たちが撃たねば、敵性体は逃げ惑う人々に攻撃を浴びせるかも知れない。

 

 そう言い聞かせて一歩も引かず、反撃に発射機が燃え尽きるその瞬間まで駒ヶ岳防衛線や県道75号線で戦った。

 だから、空自、陸自ともに発射機(ランチャー)周りに居た隊員が多く犠牲になったのだという。

 

 航空支援を行ってくれていた戦闘機パイロットでも知り合いが墜ちている。

 第12使徒にスクランブル発進を掛けたり、爆撃機の護衛として何度か現れた彼だったが、最期は市街地に墜ちるまいと山肌に機体を引っ張った。

 彼の誤算は攻撃を喰らった際、射出座席がどういうわけか正常に動かずにそのまま激突してしまったことだろう。

 偶然にも彼がアサインされた機体が墜ちるところを、光学観測所の映像越しに見ていたのだ。

 

 こういった話を聞くと、やり切れない思いが募る。

 式が始まり、内閣総理大臣、防衛庁長官、国連軍第二方面軍司令と言った方々が入場してきた。

 

『来賓入場、部隊気を付け、敬礼!』

 

 ザッと立ち上がり、先頭の指揮官が挙手の敬礼を行う。

 

『なおれッ!』

『続きまして、国歌の斉唱を行います。ご参列の皆さま、ご起立ください』

 

 国歌斉唱の後に、殉職者の名前と階級の記された名簿を奉納する。

 

「二等空尉、狭山ショウヘイ殿。三等空佐、森川カツヒロ殿。空士長、山本コウヘイ殿……」

 

 ひとりひとり階級と名前が読み上げられていく中、後ろの遺族席からしゃくりあげるような、すすり泣きが聞こえてくる。

 彼ら一人一人に人生があり、家族が居て、愛する人たちが居たのだ。

 

 __ことに臨めば危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえることを誓います。

 

 入隊時の服務の宣誓で、自衛官は責務の完遂のために命を懸けることを誓う。

 でも、隊員家族の事を考えると、やっぱり辛いものがある。

 防衛共済会から遺族厚生年金や遺族基礎年金が出る。

 たしか77万円くらいであり、配偶者や子供はそれを元にその後の生活を過ごしていかなくてはならないのだ。

 遺族席の奥さんが抱く赤ん坊は父無し子として生きていかなくてはならないと思うと、つくづく俺は無力だなと感じた。

 

「……陸士長、天川ヨシト殿 以下、124柱を名簿奉納します」

『名簿奉納、国連軍司令』

 

 読み上げた代表の幹部自衛官が、第二方面軍司令に薄い金属で出来たプレートを渡す。

 そして、祭壇に方面軍司令が名簿板を奉納した。

 

『拝礼、黙とう』

 

 黙とうの後、内閣総理大臣の追悼の辞を聞く。

 続いて防衛庁長官、国連軍第二方面軍司令と追悼の辞を聞いた。

 いずれも我が国の平和と独立を守り抜き、危険を顧みず任務の完遂のために命を落とした隊員に哀悼の意を表し、ご家族には最大の配慮をさせていただきます。といった内容だ。

 代表者である内閣総理大臣によって献花が行われ、来賓退場。

 多くの犠牲を出した第3使徒戦、数隻の海自艦艇と乗員を失った第6使徒戦に続き、三回目となる大規模追悼式典はこうして終わった。

 

 式典終了後、新東京駐屯地の売店でアスカや綾波、ケンスケらのお土産を買い込む。

 駐屯地の売店には“まんじゅう”や“せんべい”といった土産物のほかに、訓練用品メーカーが出している迷彩バッグなどいろいろなものが売っているのだ。

 七味入りロシアンルーレットまんじゅう『炎の大作戦』とか、国際貢献まんじゅうとか。

 ケンスケへの土産である新迷彩のバックパックに加え、いつの間にか速乾迷彩Tシャツ、黒靴下を買っていた。

 帰りの車の中、信号待ちでミサトさんは後部座席に積んだお土産を指さす。

 

「シンジ君、迷彩好きなの?」

「ケンスケがね、本庁行きを知ってわざわざ電話してきたんですよ」

「相田君って空母に来ていた」

「そうです」

「で、せんべいとかお饅頭は?」

「こっちがアスカで、こっちが宮下さん、綾波とリツコさん分」

「ちょっとシンジ君、リツコと私で扱いに差が無い?」

「リツコさんにはお世話になってますし、ミサトさんは今日一緒に来てるじゃないですか」

「こないだのお寿司だって、リツコにはわざわざ包んでくれたのに」

「あれは綾波と一緒に住んでるからです」

「ちぇー、やっぱりシンジ君うちで引き取っとくんだった」

 

 拗ねたようなしぐさを見せるミサトさん。

 元同年代として「うわキツ」とは思わないし、飲み会の席なんかじゃ可愛く見えるんだろう。

 しかし、上司の急なぶりっ子に部下としては苦笑いしかない。

 

「本人目の前にして言いますソレ? ていうか、加持さんもよく誘ってるって聞くんですけど」

「あいつ、シンジ君やアスカに何言ってんのよ……」

「あのあと、海鮮居酒屋に誘ったけど即行飲みまくって結局寿司食べられなかった話とか」

「シンジ君、それは忘れて、忘れなさい、命令よ」

「あの、本部廊下でアスカと綾波も聞いてるんで無理です」

 

 狼狽具合からミサトさん的にはいろいろあったくさいのだが、加持さんはそこまで言っていない。

 単に「葛城のヤツ、急に寿司が食べたいっていうから誘ったんだけど……」としか言ってないのだ。

 両手で頭を抱えて「ああああ」とか言ってるミサトさん。

 酔っぱらった後の醜態を思い出して悶えるのは良いけど、信号変わってるから! 

 

「ミサトさん、青、青です」

 

 クラクションを鳴らされ、ミサトさんは急発進した。

 うなるネルフの業務車カローラフィールダー。

 おっ、後ろの黒いシビック、ピッタリつけて煽ってくるな。

 

「ネルフの業務車と分かって煽ってくるなんて上等じゃない、シンジ君、飛ばすわよ」

 

 煽り運転に遭遇して恥ずかしさから脱したミサトさんは、そのまま峠を流していく。

 アニメやゲームでもミサトドライブは凄いという描写があったけど、今がその時か。

 タイヤが流れ、ラジオからはユーロビートが流れ、窓の外には山肌、ガードレール、標識が流れていく。

 アンダーステアを出しながらも緩い右コーナーをぬけ、()()()左コーナーに突入する。

 業務車はオレンジの中央線を越えて、真っ白なガードレールに吸い込まれていく。

 

 __ああ、死ぬのか俺。

 

 思わず足を突っ張ってフロアマットを踏みしめる。

 死ぬ覚悟する暇もなく、業務車は衝突……しないで尻を振って慣性ドリフト。

 強い横Gが襲い、バケットシートもないため運転席側に吹っ飛びそうになった俺は思わずドアノブにしがみ付く。

 隣をちらりと見るとミサトさんは「これだから業務車2号(カローラ)のヤワい足回りは嫌なのよね」なんて言ってる。

 思ったより粘っていたが、ミサトさんの“恐怖をどっかに置いてきた”と思うレベルのヤバいコーナリングにドンドン離れていくシビックEG9。

 気付けば甲府市、富士吉田、御殿場と安全運転とは程遠い運転で、あっという間に第三新東京市に戻って来た。

 まったく、ひどい目に遭ったぜ。

 

 フラフラになりながらもネルフ本部を歩いているとめちゃくちゃ見られている。

 ゲンドウみたいな礼服姿が注目を集めているようで恥ずかしい。

 作戦課に行くと休憩中の日向さんが声をかけてきた。

 

「シンジ君じゃないか、どうしたんだい」

「式典の帰りにミサトさんの峠攻めに付き合わされたんですよ……」

「それってダウンヒルアタック?」

「走り屋漫画の世界でした」

「いいなあ……葛城さん、僕が乗ってるときは大人しいから」

「日向さん、コーナー3つで失神すると思われてるんじゃないですか」

「ははは、シンジ君こそずいぶん頑張るじゃないか」

「エヴァに乗ってるせいで耐性ついて、気絶も出来ず流れる景色にビビりっぱなしです」

「そうなんだ、いやー、僕も全開の葛城さんの隣に乗ってみたいよ」

 

 日向さんは発令所でも漫画雑誌を読んでいて、結構漫画やサブカルネタに詳しい。

 そんな日向さんと“とうふ屋のハチロク漫画”の話で盛り上がり、葛城ミサト最速伝説について話していると加持さんがやって来た。

 加持さんの登場に、日向さんは愛想笑いをして発令所の方へと去っていった。

 好きな人の彼氏だからなあ、気まずいか。

 

「あれ、葛城は?」

「加持さん、ミサトさんならアスカと綾波の訓練見て帰るって言ってましたよ」

「そうか、なら今度にするかな。ところでシンジ君はこれから帰りかい?」

「そうですね、今日はもう帰ります」

「ならちょっと話があるんだ」

 

 

 加持さんとともに、スイカ畑へとやってきた。

 周りが開けており、接近する人影を容易に発見できることから密談するにはもってこいの場所だ。

 

「シンジ君、使徒がどうして第三新東京市を目指してやってくるかわかるかい」

「また唐突ですね、加持さん」

「住民の事を気にしている君を見ていると、伝えなくちゃならないと感じてね」

「使徒を誘引する何かが地下にあるんでしょ、住民は要塞都市のための擬装網ってところですか」

 

 俺と加持さんはジョウロで水をまきながら話す。

 遠くから見れば男二人で農作業してるようにしか見えない。

 集音マイクで音を拾おうにも水を地底湖からくみ上げる揚水ポンプの水の音で聞こえないという立地条件だ。

 テレビやラジオの音は軽減できても、水の音は周波数上ノイズキャンセラーソフトで処理できないのだ。

 

「そうなるな、ところでターミナルドグマっていうのは?」

「何にも聞いてません、赤木博士からはセントラルドグマに使徒を入れるなっていう説明しか受けてないです」

「そのセントラルドグマの最下層、ターミナルドグマには白い巨人がいる」

 

 白い巨人とはターミナルドグマに磔にされ、ロンギヌスの槍が突き刺さってる“リリス”だ。

 ミサトさんと二人で見に行ったんだろうか。

 

「僕は()()()()より、()()()()の方が好きだな」

「茶化さないでくれよ、シンジ君」

「聞いたら“後戻り”させてくれないんでしょ」

「ははは、まあ、そうなるな」

 

 加持さんはどうあっても秘密に巻き込む気だなこりゃ。

 

「その白い巨人と使徒が接触したらサードインパクトが起こるって?」

「ご明察、地下のアダムと使徒が接触したら、サードインパクトだ」

「アダムにエヴァ、聖書のネタならアダムからエヴァが出来たって事ですか」

「そうだ、()()で見つかった()()使()()()()()のコピーがエヴァなのさ」

「まあ、意志らしきもののある兵器なんて、裏に何かありますよね」

「意外と淡泊なんだな、シンジ君は」

「おおかた、ミサトさんが『エヴァって何なの』とか気にしてるんでしょ」

「葛城はたった一人、南極でセカンドインパクトを生き残ったんだ、父親の犠牲のもとにね」

「それが“使徒への復讐”という動機になってるんですよね」

「それだけでもないんだが、おおむねその通りだよ」

「ま、葛城さんの動機は“どうだっていい”んです、俺はね、国民を守るためにはたとえ使徒のコピーだろうが何だろうが使いますよ」

「どうだっていい、か。ならシンジ君はどうしてそんなに住民の事を気にするんだい」

「憑依している俺が、どこかの“自衛官”だったからですよ加持さん」

「そいつは驚いた、でも自衛官もただの()()()()()のひとつにすぎない」

「加持さん、あなたが()()()()()かはわかりませんが、自衛官が護るべきものを忘れたらそれはただの武装した集団です」 

 

 __お前たちは、武器を持った()()のそこら辺の兄ちゃんじゃないんや。国民を愛する自衛官なんや。 

 

 それは新隊員教育で教えられて以来、ずっと俺の芯にある言葉だ。

 

「俺たちは護るべき国民がいるからこそ、危険を顧みず、命を懸けて戦えるんだ」

「そうか、だから“アンタ”はエヴァに乗ってるんだな」

「ええ、戦闘職種としてね。戦車乗りはプライドが高いんです」

「いいことを聞いたな、なら、葛城とアスカを守ってくれないか」

「加持さんこそ“保全隊”かどこかの情報職種(エス)なんでしょ。何食わぬ顔で生き残って情報を持ち帰るのが主任務でしょうが」

「コイツは一本取られた、アンタなら俺のことよく知ってそうだ」

「前々から“アルバイト”とか匂わせておいてそりゃないよ、加持さん」

「まったくだ、お互い()()同士うまくやろう」

「そうですね、俺は内偵やってるわけじゃないけどね」 

 

 加持さんは今こそ“内務省調査部”の顔をしているが、“ゼーレのスパイ”という顔もある。

 必要以上に情報を漏らさないほうがいいだろう。

 

「アンタなら良いセン行きそうなんだけどな」

「加持さん、俺は覆い隠された真実の探求より、今そこにある“虚構の平和”を守り抜くことで精いっぱいなんですよ」

 

 俺が憑依者であることなんて証拠もないし、知られたところでどうという事も無い。

 ゼーレが憑依者というエサに喰いついたところで、いち隊員が知ってる情報なんて限られているし、まあまあ成果を出しているから消されはしないだろう。

 

『新世紀エヴァンゲリオン』というアニメ世界の知識がある、この一点さえ知られなければなんとでもなるのだ。

 

 お互い、()()()()()がある事を隠して、加持さんと俺はいつものように別れる。

 三重スパイ、加持リョウジは真実を知るために命を懸けているんだ、俺が自衛官として命を懸けるようなもので。

 これ以上言えることは何もない。ゼーレの指示でややこしい展開にされないことを祈るばっかりだ。

 

 

 2週間経った、第14使徒の残した爪痕は包帯のような忙しさに覆い被せられ、第三新東京市は再び日常へと戻っていく。

 至る所で工事が行われており、新たにやってくる人もいれば転出していく人もいる。

 官も民もどこもかしこも忙しい、そんな中で第壱中学校は授業再開した。

 

 あの日、昼過ぎの使徒襲来によって市街から離れた学校のシェルターに避難していたクラスメイトや教員は無事だった。

 しかし、市街中心部で勤務していた家族が犠牲となったがゆえに転出せざるを得ない生徒もいて、総員35名いた2年A組は19名まで減ったし他のクラスはもっと人数が減っていた。

 

 第三新東京市を去った級友の中には米山君や坂田君も含まれていた。

 出発の日、俺やケンスケ、トウジはサバゲの時の写真を持ち寄って箱根湯本駅に集まり、五枚の記念写真の裏に名前と、思い思いのメッセージを書きこむ。

 

 __またいつか、みんなで集まろう(碇)

 __貴官の武運長久を祈る(相田)

 __またどっかで会おう、それまでガンバレ(鈴原)

 __落ち着いたら連絡する、みんな死ぬなよ(坂田)

 __サバゲ、楽しかった。元気でな(米山)

 

 こうして再会を誓って別れ、米山一家と坂田一家が乗ったロマンスカーがホームを出るとき、『みょうこう』の識別帽を被っていたケンスケは帽振れで、ネルフ礼服の俺は挙手の敬礼、トウジは両手を大きく振って見送った。

 そんな惜別ムードだったから駅からの帰り道、ケンスケが“同期の桜”を口ずさみ、いつの間にか俺も歌っていた。

 

  

 級友を送り出した翌日、登校するとガランとした教室に言いようのない寂しさがあった。

 

「ホンマ、えらい減ってもうたな」

「そうだな、みんな学校どころじゃないよな」

「みんな、いなくなっちゃうのかなあ」

 

 トウジの呟きにケンスケと宮下さんが応える。

 人の減った2年A組で唯一のいい出来事は、()()で重傷を負った宮下サトミが退院して今日から2ヵ月ぶりに学校に復帰したことくらいか。

 入院生活でショートカットだった髪が伸びて、肩上くらいまでのミディアムヘアーになって印象が変わっていたからかクラスの男子がざわついていた。

 

「宮下、もうええんか?」

「うん、激しい運動は出来ないけど、もう杖無しで歩けるようになったよ」

「そうだね、まあ無理せずに何かあったら言ってよ」

「そうなんか、ワシも手伝(てつど)うたるわ」

「ありがとう、鈴原、碇くん」

「シンジ、やけに宮下さんと仲良くないか」

「碇くんは辛いときもずっと私の傍にいてくれたから」

「どういうことだよシンジ」

「ケガさせちゃったし、お見舞いとリハビリの手伝いくらいするさ」

 

 ジトッとした目で俺を見るケンスケは、教室に洞木さんと一緒に入って来たアスカに話を振った。

 

「そのへんどう思われますか惣流さん」

「シンジ君は週3回のペースでお見舞いに行ってましたぁ」

「有罪! 両手に花なんてうらやましい、ああ、羨ましすぎる」

「おい、ケンスケ」

「まさかアスカと二股? 不潔よ碇くん」

「違う、違うから!」

 

 アスカの暴露にケンスケがギギギと暴走する。

 洞木さんもノリノリで便乗しなくていいから! 

 

「でも事実じゃない」

「碇くんって、色んなものをお見舞いで持ってきてくれたね、アイスとか」

「アンタってそんなところマメよね」

「何やセンセ、そんなんやっとったんか」

 

 ちょこちょこ見舞いに行ってたとはいえ、手ぶらで行くのもちょっと気が引けたのでいろいろ持って行ってたな。

 

「でも、これでようやくシンジも気が楽になるってもんよね」

 

 なんかアスカが嬉しそうだ。

 まあ、手に掛けた機体のパイロットが生きていて、一応、社会復帰できたからか。

 殺しかけたことを気にしてるのか、病院に行くたびにアスカの表情が曇ってたからな。

 

「碇くん、この度はご心配おかけしました……これからもよろしくね」

「おう」

「あら、宮下さん、()()()シンジだけじゃなくて他の人も頼っていいのよ」

「そうだね、でも、碇くんは優しいから」

 

 まさかとは思うけど、アスカ、もっと構って欲しいから不機嫌になってたとか言う事はないよね? 

 アスカと宮下さんがニコニコしながら牽制し合っているところに綾波が入って来た。

 

「おはよう、アスカ、碇くん」

 

 リツコさん家から通ってる綾波が一番時間がかかるのか遅い。

 

「綾波さんもおはよう!」

「おはよう」

 

 宮下さんに挨拶をされ、挨拶を返すことができるようになった綾波。

 

 みんな変わったな、綾波も、アスカも、原作じゃモブキャラだった宮下さんも。

 

 スタスタと席についた綾波の通学鞄からレジャー雑誌が現れた。

 青い海、サンゴ礁、白い砂浜に浮かぶヤマハの水上バイク。

 

「レイ、あんた、またソレ読んでるの」

「海、好きだもの」

 

 アスカはヤレヤレといった感じだが、元はというとアスカが沖縄でのダイビング体験のために買ってた雑誌で、地底湖での複合艇体験のあとにアスカが渡した物である。

 

「綾波がジェットスキーって、イメージ湧かないよなあ」

「ホンマ、何が出てくるか分からんのお」

 

 ケンスケとトウジはそういうこと言ってるが、綾波が“乗りモノ好き”であることを知ってる俺達からするとプラグスーツがウエットスーツに変わっただけのようなイメージだ。

 インドアな、無機質なイメージが根強い綾波がこんなアウトドアな趣味に興味を持っていることに洞木さんも驚いたようで、綾波に尋ねる。

 

「綾波さんって海に行ったことあるの?」

「ないわ」

「アスカ、綾波さんってこの街から出たことないの?」

「そうね、せいぜい温泉くらいじゃないの」

 

 それも浅間山で使徒戦やった後のね。

 一人で遊びに行くどころか、今まで綾波には娯楽という概念自体なかっただろうしな。

 全てが上手くいけば、海くらい行かせてくれねえかな。

 

「そりゃ一人で行くことも無いからなあ、こんど行くか?」

「連れてってくれるの?」

「ちょっとアスカっ……」

「何やセンセ、海に行くんかいな」

「俺らも行きたいな……なっ、シンジ」

「えっ、海に行くの? じゃあ私も行きたい!」

 

 真っ先に反応したのがアスカだ、トウジやケンスケも、宮下さんも身を乗り出してきた、行く気満々だ。

 洞木さんも止めに入ってるようでいて俺とトウジの方を何度も見ている。行きたそうだ。

 肝心の綾波はというと、赤い瞳でこっちをじっと見つめて言った。

 

「そう、海に行くのね……」

「ああ、外出許可が下りたら、みんなで行こうか」

 

 胸に雑誌を抱き、どこか楽しそうな声色だ。これは期待していると判断してよろしいか?

 碇司令(オヤジ)や副司令が許可出してくれるかどうかはわからないけど、外出許可申請出してみるか。

 アスカ、綾波、宮下さん、トウジ、ケンスケ、洞木さん、みんなで海に行くには次と、その次と何とか生き残らなくっちゃな。

 

 そう、決意をした翌日に空から使徒はやって来た。

 

 

 




原作ではS2機関の生成とかサルベージとかツッコミどころが多かったため、副司令が拉致されたり実行犯が処理されたりいろいろあるけれど、本作では死海文書通り順調に使徒を片っ端から倒していってる模様。(現時点までは)
戦闘のあとのモブに焦点を当てるとどうも暗くなる……。


用語解説

中SAM:ホーク改地対空誘導弾の後継として国産開発された03式中距離地対空誘導弾。方面高射部隊に配備されている。

近SAM:93式近距離地対空誘導弾、高機動車の車台に発射機を載せた対空車両で戦車などに随伴して近距離防空を担当する。本車の調達によって用途廃止になった対空砲L-90はネルフの擬装機関砲へと転用された。

短SAM:81式短距離地対空誘導弾、トラック荷台に発射機が設けられ画像誘導・レーダー誘導の二種類の弾を発射できる。空自の基地防空にA型、現在改良型のC型が陸自で運用中。

防衛共済会:民間の団体障害保険とともに加入させられる。戦闘職種などでは“いざというときのために積立・保険類は多くかけるように”言われ、何も知らない新隊員はホイホイと言いなりに加入してしまうのだった。

『炎の大作戦』:自衛隊土産では定番のまんじゅう、ハズレ?は七味味がする。駐屯地の売店や広報館などで販売されている。

保全隊:自衛隊情報保全隊のこと、調査第1部、2部と呼ばれていた情報職種をまとめて新編された。さまざまな脅威、不穏分子の調査や隊員の身上調査などを行う。職務の性質上市民団体などに目の敵にされている部署のひとつでもある。


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