パトカーに先導され、高機動車でネルフ本部に駆け付けた俺が見たのは、原作とはかけ離れた姿の第16使徒だった。
「……みんな聞いて、使徒の複数出現が起こったわ」
突如、大平台付近で実体化した第16使徒の見た目はうっすらと光り、目とコアのような影がある巨人だ。
箱根湯本から絶対防衛線のある強羅までの間に大平台・宮ノ下地区があり進路上の木々を踏み倒しながら、国道138号線沿いに西進中であった。
従来までの使徒と違い棒状の物を持って、三体で行進してきている。
そう、まるで巨神兵だ。監督つながりかよ!
三体の光の巨人に、葛城三佐の顔色はとても悪い。
あの日、南極で見た第一使徒を思い出しているんだろうなあ。
それにしても微妙にエヴァに似せてきてるな。
……いや、エヴァが使徒のコピーなのだからむしろ“先祖返り”か。
使徒は甲、乙、丙と呼称され、初号機のような奴が甲、目は二つで参号機か弐号機のようなシルエットの奴が乙、単眼のやつが丙だ。
「嘘……」
「エヴァに似てるってところがムカつくわ!」
綾波は絶句し、アスカは進行中の第16使徒を見て怒っていた。
赤木博士が「どうするのよ」とばかりに俺を見る。
「人間が得意な“集団戦術”を学習したのでしょうね、シンジ君」
「そうですね、アイツらは俺達を模倣している、ご丁寧に槍まで持って」
「使徒も3機編成で武器を持っているなんて、それしか考えられないわ」
葛城三佐は観測ヘリからの映像に映る使徒を睨みつけて言った。
そう、虚数空間などの特殊例以外が順調に行きすぎたのだ。
槍を投げ、3機掛かりで袋叩きにし、銃剣で刺突して群体の利を説いた俺のせいだろうな。
発令所のオペレーターから次々と情報が入って来る。
「使徒、進行速度から強羅絶対防衛線突破まで40分」
「住民避難開始、国連軍より出動要請!」
「分かっている、国連軍はどうしている!」
冬月副司令の声に青葉さんが応える。
「空自の要撃機上がりました、到着まで10分」
「34普連はもう前進中だそうです」
「一戦大の即応中隊と戦自の即機連がこちらへ向かってます」
第14使徒戦に間に合わなかった分を取り返そうと、今回は駒門で即応待機していた戦車中隊が出動している。
滝ケ原駐屯地に隣接する戦略自衛隊東富士駐屯地の即応機動連隊もほぼ同時に出発したようだ。
駒門駐屯地から遷都計画に合わせてゴルフ場跡地を貫くように整備された国道511号線(富士岡新東京線)に乗って直線距離約5キロの道のりを向かっているようだが、74式戦車の路上最高速度が53㎞/hであるから、戦略自衛隊の即応機動連隊が先に着くかもな。
第三新東京市の北側につながる国道138号、西側につながる国道511号を機甲科部隊が走っている時、国連軍や戦自の航空部隊は強羅まで進出しているようだ。
「はい、はい……葛城さん! 国連軍の各部隊が住民避難のための時間稼ぎに出てくれるそうです!」
日向さんや作戦課のオペレーターがエヴァの戦闘団加入調整を行ってくれるのだが、第14使徒戦を生き残った部隊がこぞって、囮を志願しているようだ。
電話の向こうには命を懸けている隊員たちがいる。
「いいわ、やらせてあげて!」
今、この場で「税金の無駄遣いだ」なんていう者は一人もいない。
発令所の表示画面と、データリンクの戦域画面が作戦室のモニターに映る。
いろんな部隊記号が第三新東京市へと向かって動いているのがわかった。
「アラート待機中の戦略航空団が発進、空中待機を行うそうです」
「N2および1000ポンド爆弾混載機が上がりました」
「ネルフのパイロットに対して、『要請があれば直ちに支援する』と伝えてほしいと……」
思えば第四使徒の出現以降、ずっと助けられっぱなしだな。
塚田一佐、ありがとうございます。
「真鶴沖の艦隊から、艦載機が発進しました!」
使徒の複数出現という未曽有の事態に対する国連軍の本気が窺える。
たった3機の人型兵器では、同数の強大な敵と戦えるかどうか怪しいのだ。
陸自や戦自の攻撃飛行隊所属の重戦闘機、対戦車ヘリ隊が三体の使徒に対し射撃を始めた。
ハイドラロケット弾、TOW対戦車誘導弾、25㎜ガンポット、20㎜機関砲の射撃を受けても横隊を崩さず平然と歩いてくる。
さながら
さらに国連海軍攻撃飛行隊のA-6イントルーダー攻撃機が到着すると、比較的安価な無誘導爆弾や旧式の対地誘導弾と次から次へと爆弾や対地攻撃兵器の雨を降らせる。
その時、真ん中にいた使徒甲こと角っぽい物のついた“偽初号機”の口が開いた。
ネルフの発進させた無人偵察機も同じように焼かれて砂嵐になり、強羅光学観測所の画像に切り替わる。
“偽初号機”は首を動かして青白く細長い炎を上下左右に振り、2分ほど連続放射して火は消えた。
「あれは何っ?」
「解析結果出ました、……あれは熱線です」
使徒の飛び道具に葛城三佐が悲鳴のように尋ねる。
青葉さんが偵察衛星の赤外線センサーや戦闘機の照準ポッドで得た情報から正体を割り出した。
「熱線? あれが?」
「なにあれ、めちゃくちゃ熱そうじゃない!」
「ガス切断トーチの中に突っ込めってか、うーん、加粒子砲とかじゃないからマシか?」
「シンジ君、あくまで赤外線センサでわかる範囲なの、油断しないで」
葛城三佐が攻撃の正体に対して首を傾げ、アスカは蒼白い炎に唖然とする。
第14使徒や第3使徒の目に見えなくてカンで回避しかない怪光線より、火炎放射という目に見えるこっちの方が恐怖をあおる。
……マジで巨神兵じみてんなアレ、でも第5使徒よりは何とかなるか?
高熱の熱線であるのだが、それが何を燃やしているのかも、ただの棒状の炎なのかどうかもわからない。
さすがにアセチレン炎ではないだろうし、放射線は発生していないだろうか?
しかし、熱線の命中精度は高いのか落下していた爆弾やロケットは空中爆発、射程圏内にいたVTOLの攻撃飛行隊は壊滅して山火事が発生していた。
「怪光線で対空攻撃が難しかったからか?」
「そうみたいね、使徒は明らかに飛行目標を追っているもの」
赤木博士が攻撃シーンの映像を再生すると、“偽初号機”は目のような部分を動かし、吐き出す熱線を追従させている。
第16使徒甲、乙、丙のうち、口から熱線が吐けるのがわかったのは甲のみだ。
乙と丙は甲が熱線を吐いてる間は停止している。
全部“連動出来ない”から止まっているのか、それとも動く“必要が無い”からただ突っ立っているのか、あるいは熱線を吐けないから迎撃を甲に任せているのかわからない。
甲の注意を引き付けている間に接近して近接戦闘をするにしても、近づいたときに乙と丙からズドンとやられるかもしれない。
“原作で居なかった存在”を俺は恐れているのだろうか、背中に冷や汗が伝うのがわかる。
出来る事ならもっと情報が欲しいけれど犠牲によって情報を得て、時間は作られているんだから、俺達も覚悟を決めなきゃならない。
こうしてエヴァ3機は使徒の接近経路と思われる“国道138号”及び“県道733号”にほど近い“小塚山”付近で迎撃することとなった。
小塚山を抜けられるともう背後は第三新東京市であるから、地形の起伏を活かした防衛戦闘が出来るのはここしかない。
零号機がスナイパーライフルを装備し中距離支援、初号機は
「エヴァンゲリオン、発進!」
プリ・ブリーフィングを終えた俺たちは、葛城三佐の号令と共に地表に射出された。
市街地の発進口から出た三機のエヴァは兵装ビルで武器を拾うと、徒歩で小塚山の手前まで前進する。
「シンジ、レイ、ちゃんとついてきてる?」
「ええ」
「しっかりと捉えてるよ」
弐号機、初号機、零号機と三機で徒歩行進を行うのだが、前を歩く弐号機のアンビリカルケーブルを踏まないようにわずかに斜め後ろを歩き、後ろに零号機が続く。
「ケーブル、踏まないでよね」
「おう」
「アスカ、ケーブルが引っかかるから団地群の方には入らないようにね」
「ミサト、ソケットリフターまであとどれくらい?」
「約300mよ」
「了解! ところで、レイのマンションってどれだったっけ」
「あの向こうの棟の7番目」
「うわっ、ボロッ。それにしても多すぎて俺なら帰れねえな」
「そう? 住んでいれば、見分けがつくようになるわ」
「そういうシンジ様はどんな家に住んでたのよ」
「一戸建てか、離れのボロ小屋……個室だな」
「ふーん、ボロ小屋って何?」
「“俺”がこっちに来る前に住んでいたところ」
「“シンジ”も大変なのね」
“碇シンジ”の住んでいたところは“先生”の家の庭の小屋だ。
アスカは俺の記憶を見ているから、大阪の実家と自衛隊の生活隊舎を知っているわけで。
ゲンドウの居る発令所に知れ渡ることになるから俺は“碇シンジ”の設定で通す。
というか、よく“二重人格”(憑依)というオカルトじみた説明で納得したよな。
「シンジ君、アスカ、レイ、一人ずつソケットを交換して」
電気の中継ポイントに辿り着いた俺たちはミサトさんの指示に従い、ソケットを交換する。
これであと1キロ分は移動できるようになった。
切り離した古いほうのソケットとケーブルは、この後ソケット運搬車とケーブルピッカーという回収作業機材によって支援されながら電源ビルのドラムに巻き取られていく。
アスカも、綾波も落ち着いているな。
今までの“原作知識”という精神的優位性を失って、内心緊張バックバクの俺とは大違いだ。
戦闘するに当たってある程度の高揚感と緊張は必要だが、高すぎるのも問題だ。
気が
原作知識にあぐらをかいて、未知の敵性体と戦うということを舐めていたツケがやって来たのだろう。
ソケット交換が終わり、小塚山の麓までたどり着いた俺達はエヴァ用電源プラグの備え付けられている美術館の駐車場付近で待機する。
データリンク画面が更新され、日向さんの声が聞こえた。
「目標は強羅防衛線を通過、国道138号線、早川に沿って侵攻中!」
強羅から小塚山まで直線距離でおおむね4キロ弱しかない。
いよいよ、接敵だ。
二車線道路を踏み荒らしながら、弐号機先頭に右手側に見える小塚山の斜面の影に駆け込む。
俺達の頭を掠めるように4機のF-2A支援戦闘機が飛んでゆき、誘導爆弾を投下していく様子が見えた。
遠雷のような、ドドン、ドンという爆音のあと、熱線空に迸ったが蒼い翼は大きく旋回しひらりと躱す。
ネルフ主導の“戦闘機と迎撃施設による同時攻撃”が行われたようだ。
F-2戦闘機のスナイパー照準ポッドからデータリンクで送られてきた画像を見るに、対空迎撃は“偽初号機”が行い、ネルフの無人速射砲や擬装35㎜機関砲なんかには“偽零号機”が目を光らせて怪光線攻撃を行っているようだ。
これで沈黙を守っているのは“偽弐号機”だけである。
単一の使徒に対する飽和攻撃で隙を作り、突入して袋叩きにしていた俺達にとっては、こういった“分業”は有効な対抗策なのだ。
「向こうも知恵を付けたってわけね、日向くん、次!」
「了解、箱根山VLS射座1番から5番開け、春山荘地区の機動バルーン作動!」
葛城三佐もそれに気づいたようで、今度は射撃位置を目視出来ないようにして集中砲火を浴びせ、空気で膨らむエヴァのダミーに反応するかどうか確かめるようだ。
森の中に、高圧空気を送る400馬力コンプレッサー車数台とエヴァのバルーンが待機している。
俺の勤めている建機会社で取り扱っているコンプレッサーの上位機種だったから印象に残ったのだ。
この大型コンプレッサー車、ダミー以外にはエヴァの整備に使う特大サイズのエアーツールに使うらしいが、エヴァの“野整備”なんて状況見たことないぞ。
「あんなのあったんだ」
「ええ、前は船に曳かれてたわ」
「すぐ攻撃されて消滅したけどね、あっ、エンジン入れたら整備班も退避してください!」
アスカが木々の合間からせり上がって来るエヴァ初号機のダミーを見て呟く。
綾波は高速艇に曳航されていた映像を思い出したようだ、その流れで言えば操作要員が危ないんじゃ。
すぐに整備班の最上級者である赤木博士から返事がやって来た。
「シンジ君、技術局のスタッフも今から脱出するそうよ」
「脱出路が碓氷峠方面になったから、そっちに流れ弾を飛ばさないようにね!」
「ミサト、それって敵のいる方向じゃない!」
「国道138号はエヴァのケーブルや支援機材で通れないのよ」
くそ、ケーブル付きの巨大人型兵器はこんな時に……。
「彼らの脱出方向に攻撃が向かないようにすればいいのね」
「そうよ、11時の方向にある宮城野城跡、使徒の脇を抜けて宮城野サイトへ退避するわ」
俺は地下の本部にいる作戦部や技術局から「敵中突破をしろ」と仰せつかった整備班の心境は如何ばかりかと思うと同時に、普段よくしてくれる彼らの脱出を助けてやろうと決心した。
発令所に映像中継を切り替えてもらい、宮城野
先頭を歩く偽初号機と、怪光線を放つ偽零号機が立ち上がったエヴァ初号機と黄色い零号機の姿を見つけた。
瞬間的に何らかの攻撃で蒸発するものだと思ったが、どういうわけか怪光線攻撃も熱線攻撃もされない。
おかしいなと感じた次の瞬間、“偽弐号機”が槍状の物を振りかぶって
拳銃を構えた零号機バルーンはあっという間に頭から真っ二つだ。
そして、続く突き動作で初号機バルーンは腹に大穴を開けられ、萎んでいった。
数方向から襲い掛かった巡航ミサイルはというと、偽初号機が熱線で薙ぎ払った。
「あいつヤバいぞ」
「パチモンのくせに!」
「そう、アスカみたいに近接戦担当なのね」
近距離、中距離、遠距離と三機でカバーしてんのかこれ。
第13使徒並みの俊敏さに、アスカや俺の格闘能力を持ってるなんて悪夢でしかない。
これは、通常の戦い方じゃ勝てない。
「使徒は高度な分業制をとっているわ、そこでエヴァは小塚山稜線に潜伏、使徒の通過時に側面二方向から奇襲を仕掛けます」
葛城三佐の指示にアスカが言った。
「アタシもレイも近接戦闘用装備じゃないわよ、拳銃で戦えって言うの?」
「ええ、シンジ君の銃剣突撃を援護してほしいの」
無反動砲手という事もあって弐号機の肩のラックにはエヴァ用拳銃が収まっている。
零号機もスナイパーライフルとプログナイフだけであり、槍を持った使徒と殴り合うには不安なのだ。
しかし兵装ビルは遠く、プラグを差し替えたりしながら取りに行ってる間に使徒が小塚山を通過してしまうだろう。
そうなると俺と二人のうちのどちらかが残って、あとの一機の武装交換の時間を稼ぐしかない。
使徒の接近はそんな悠長なことを許してはくれなかった。
A.Tフィールド中和圏内に入ったやつらはゆっくりと小塚山の方へと向かってくる。
綾波とアスカは木々をなぎ倒しながら稜線上へと頭を出し、スナイパーライフルと無反動砲を構えた。
「目標は、使徒甲、丙」
「ミサトッ、甲と丙ってどれなの?」
「ニセ初号機とニセ零号機よ!」
火力を持っている奴に初弾を命中させ、中距離戦闘を優位に進めようという策だ。
初弾も効くかどうか怪しいだけに初号機は、その場に伏せの姿勢を取って早川に半身をうずめる。
射撃開始と同時に使徒のどれかに向かって駆けだして、応射を妨害しなくてはいけない。
そして、空中待機中の戦略航空団に航空支援要請をしてもらう。
「十分に引き付けて!」
「ええ」
「わかってるわ!」
気が逸って“勇み足射撃”にならないように、葛城三佐が声をかける。
「シンジ君、準備はよろしい?」
「初号機、発進準備よし!」
初号機の準備については赤木博士が確認を取り、俺は「準備よし」という。
なんか新隊員教育でやった戦闘訓練の突撃を思い出すなあ。
味方戦車の攻撃があり、榴弾砲の攻撃があった後に着剣して敵陣地目掛けて突入するのだ。
いや、森の中の死闘といえばベトコンが、「奴らのベルトにしがみつけ」っていうフレーズで至近戦闘しかけて、それに相対する米軍は誤爆覚悟の至近爆撃を要請していたっけか。
映画『プラトーン』とか『ワンス・アンド・フォーエバー』でおなじみのアレだ。
今、俺達がやるのは米兵に飛びつく勢いで近接戦をやるベトコン役と、近接航空支援を受ける米兵の役の兼ね役だが。
青葉さんが国連軍の爆撃隊と通話したのか、攻撃タイミングと方向について教えてくれる。
「東側より爆撃機接近、2分後に初弾投下とのことです」
「了解、着弾と共にアスカとレイはA.Tフィールドを全開にして射撃開始!」
「初弾弾着まであと3分!」
「5、4、3、2、1、だんちゃーく、今っ!」
「A.Tフィールド全開!」
「フィールド全開」
作戦課所属オペレーターの減秒が終わるや否やアスカと綾波のフィールド全開の声が聞こえた。
そして遅れてやって来たジェットの爆音が聞こえると共に爆発が使徒を襲う。
「初号機、吶喊!」
デンジャークロース、至近距離爆撃だがエヴァの装甲なら凌ぎきれる。
使徒も防御力は同じなので最終弾落下を待っていたら目つぶしにもなりやしない!
早速降って来る1000ポンド爆弾に“偽初号機”が熱線攻撃を放つ。
青白い棒状炎が空に伸びてゆく下を姿勢を低くし、早駆け。
急に目の前に現れた俺を迎撃しようとした偽零号機の頭やコアのような部位で激しく火花が散る。
そして、脳天から串刺しにしようと槍を持って跳んできた偽弐号機のどてっ腹で840㎜砲弾の爆発が起きて俺の後ろに着地する。
突き出した銃剣が偽初号機のコアっぽいところに突き刺さったので銃を捨てて前蹴り。
無反動砲を空中で喰らい体勢を崩した偽弐号機の着地に俺はそのまま背後から
綾波の執拗な狙撃を受けていた偽零号機がこっちを向いたので、すかさず偽弐号機を抱いたまま半回転し盾にした。
目の前で十字の光が上がった、偽弐号機が誤射されたのだ。
銃剣を突き刺され斜面に吹っ飛ばされた偽初号機が再起動し、手に持っていた長い槍で突きを放ってくる。
偽弐号機を槍の先へと
こう言った銃剣などの長物攻撃をかわし、複数いる敵と戦うのは自衛隊徒手格闘の基本だ。
俺やアスカの模倣、数での勝負をしたはいいけれど敵味方混じった乱戦には弱いみたいだな。
「アスカ、綾波、こいつらのコアも連動してる!」
「わかった! シンジ、そいつ押さえてなさいよ!」
「私も行くわ!」
弐号機が無反動砲を捨て、拳銃を抜いて突進してきた。
零号機は早川の中にあっただろう岩を持っている。
人類側兵器とは段違いな威力の光線で誤射されて腹が焼け、動きを止めていた偽弐号機にアスカが蹴りをかました。
前につんのめり地面に倒れる偽弐号機に容赦なく追撃を入れる。
「アタシの弐号機の真似すんなぁ!」
自己回復をしようとしていたところに至近距離で4発、5発と撃ちこまれ、地面で跳ねる偽弐号機。
「だめ、させないわ」
一方、偽零号機は俺達に向かって怪光線を撃とうとしたところ、綾波の投げた岩で頭を吹き飛ばされていた。
自己回復で頭を生やそうとしたが走って来た零号機に膝蹴りされ、吹っ飛んだところをマウントポジションを取られてコアをめった打ちにされていた。
俺に殴られていた偽初号機も闘志は十分なようで、槍を捨てて殴りかかって来る。
しかし人の形を模した以上、腰が入ってないし体勢を崩すには十分だ。
手首を掴んでこっちに引き、胸と胸がしっかり密着した状態から腰に乗せてやって半回転、いわゆる“払腰”だ。
第3使徒の時は地面に引き倒した状態から怪光線の反撃を喰らった。
同じ轍は踏まない、間髪入れずに顔を全力で殴る。
熱線発射をする口も黒い影のような目も潰れ、青い血が噴き出した。
他の二体からは出血が見られないことから、コイツが本体なのかもしれないな。
俺は肩のウェポンラックからプログレッシブナイフを抜き、コアに突き立てる。
「今だ、やれ!」
「分かってるわ、レイ!」
「ええ!」
コアのようなところをエヴァ三機で同時に潰す。
俺と綾波はプログナイフで、アスカは逆さに持った拳銃の握杷で殴りつけて。
もだえ苦しんでいた使徒の動きが止まる。
「やったの?」
「油断するな、まだ何かしてくるぞ」
「くるわ!」
いきなり人型の使徒が変形して初号機の拳に張り付いてきた。
自爆する気かコイツ!
血管が浮いたようになり、むず痒い感触に襲われる左腕。
最後の最後で侵食だったか!
「うわああああああ!」
「初号機、生体部品侵されていきます!」
「シンジ君!」
俺はマヤちゃんの報告を聞く前に左腕の関節にプログナイフの刃を入れた。
飛び散る火花、激痛に意識が飛びそうだ。
ある程度の痛覚フィルタリングなるものがパイロット保護機能にあったらしいが最大にして、なおかつドバドバとアドレナリンを出してもこの痛みだ。
高周波振動で生体部品の切断を始めたプログナイフで浸食にブレーキがかかったらしい。
「マヤ! 神経接続をカット! 左腕を強制排除!」
「ダメです! 信号受け付けません!」
「あああああっ……綾波ィ、俺の腕を撃てぇ!」
「シンジッ!」
「碇君!」
「罠にかかった狼は足を噛み千切るんだ! やれッ!」
偽初号機の体からすっぽ抜けて道路に転がっていたパレットガンを拾った綾波が、駆け寄ってきて引き金を引く。
銃剣があれば良かったが、折れ飛んでいたので接射しかない。
腕の人工筋肉がずたずたになり、吹き飛んでいく。
リツコさん、アスカの叫び声、暗転するプラグ、衝撃音。
そして暗闇にひとり佇む誰か。寂しそう?
こうして俺の意識はプツリと落ちた。
次に目を覚ましたとき、ネルフ中央病院の病室だった。
腕の感触が無い、腕があるはずなのに無くなったような喪失感がある。
最期の瞬間、ふっとイメージが流れ込んできたのは何だろうな。
「碇くん大丈夫! 大けがしたって」
「ちょっとアンタ落ち着きなさいよ!」
「気が付いたの?」
宮下さんとアスカ、綾波が病室にやって来た。
途端に騒がしくなる病室、あんまり騒ぐとまた婦長さんが来るぞ。
さっきまで俺は何を考えていたんだろうか、思い出せなくなってしまった。
「碇くん、リハビリには呼んでね! 付き合うから」
「シンジはアタシが面倒見るから良いわよ!」
「碇君はいつ退院なの?」
「さっき起きたばっかりで何も聞いてないな、ところで使徒は?」
「アイツなら、レイが吹っ飛ばした時に殲滅されたわ」
俺の疑問にアスカが答えてくれた。
「死なば諸共とかほんっとうに、迷惑な話よね」
「一矢報いてやるって感じじゃなかったような」
「一人じゃ寂しいもの」
「レイ、それでも道連れにされた方はたまったもんじゃないわ……」
綾波は使徒の意図を薄々感じとったか自分に重ね合わせて考えたらしい、アスカはそれに嫌な顔をする。
母親に無理心中させられそうになったからだろうな。
事情を知らない宮下さんは二人の様子に首を傾げながらも、俺への差し入れの箱を開ける。
中には色とりどりのドーナツが詰まっていた。
それを見てわいわい騒ぐアスカと宮下さん、そして物欲しそうな顔で見つめる綾波に俺は「みんなで食べよう」と提案する。
ドーナツの中央の穴のようにぽっかりと空いた左腕の喪失感は、いつの間にか感じなくなっていた。
原作にない、今までの大型使徒の総決算みたいな相手だったわけだが、次は何が起こるんだろうな。
本当に第17使徒としてカヲル君でてくるんだろうかね?
オリジナル使徒登場回、見た目は発光している庵野版巨神兵イメージ。
精神的接触や今までの結果を全部取り込んだのが第16使徒です。
特徴:集団戦術、武器を手に持って使用、怪光線および熱線、侵食
槍を持ったり、複数体で侵攻とエヴァとの白兵戦闘に備えていたが、地形を用いたり近距離での乱戦、徒手格闘には対応しきれなかった。
宮ノ下→早川沿いに強羅、小塚山→第三新東京市北東部より侵入というルートでした。