エヴァ体験系   作:栄光

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今話は射撃訓練・武器教育回につき銃器用語および描写が多いので、冒頭の屋上イベント以降はさらりと読み飛ばしてもらっても構いません。

興味のある方は「ああ、銃撃つまでにこんなめんどくさい教育受けてるんだな」とご笑覧いただけたらと思います。


目標、正面の的!

 霧島マナは好奇心旺盛な中学生を侮っていた。

 休み時間の度にクラスの誰かに話しかけられ、拘束されるのだ。

 俺も転入当初はそんな感じだったな、その時話しかけてくれた子たちも転出していって今はだいぶ少なくなっちゃったけど。

 霧島さん、対象に接触する前に足止めを喰らって焦るのはわかるけど、こういうところから現地協力者を作って情報収集するんだぞ。

 俺は情報職種でもないので民心掌握とか人的情報収集とかの手段について偉そうに語ることができないけれど、職場の環境をちょっと良くする手段は知っているのだ。

 誰だって愛想笑いされるよりは、ちょっとオーバーでも話に乗ってくれて興味を持ってもらうほうが嬉しい。

 初日だからクラスメイトに囲まれて緊張しているんだなという好意的解釈も出来るけど、愛想笑いが引きつってるよ。

 

 一方、俺はと言うとトイレに行くフリをして、アスカ、宮下さん、綾波と作戦会議に入る。

 諜報員の可能性が高く、おそらく戦自の出身で練度はともかくそうした教育をされているのではないかということを三人に伝える。

 

「碇君のかっこいい整列法をやってたわ」

「シンジがよくやってる動きよね、あれ」

「スパイって、碇くんに近づいてエヴァの情報をとる気なの?」

「基本教練だろうね、で、スパイなんだけど、あの様子じゃ本職じゃなさそうだ」

 

 仮にも自衛隊と共同訓練やったり交流がある人間に対して、基本教練の動作を見せればピンとくるうえ、隣の席になったからっていきなり名前を確認してくるんじゃ警戒しろと言ってるようなものだ。

 少なくとも接触対象だろうチルドレン四人には十分警戒されているので諜報員としてはお粗末で“心理戦防護課程”などの()()()()を受けているとは思えない。

 となると原作ゲーム同様、戦自少年兵の中から年齢が近い少女をにわか作りの情報員に仕立て上げて派遣し、その()()を調査部や別室の“本ちゃん”がやってるんだろう。

 

「で、どうすんのよ、加持さんに連絡する?」

「加持さん、内務省に動きがあるって言ってたからそっちの部署じゃないか?」

 

 アスカや宮下さん、綾波にもわかるように人員を送って来た流れを軽く説明する。

 

「同じ内務省だし、年も近い戦自の少年兵から適当な子引っ張って来たんだろ」

「ねぇ、戦自にもシンジみたいなのいっぱい居んの?」

「向こうは俺と違って()()隊員だよ、士気が高いかどうかは別として」

「えっと、碇くんはあの子をどうしようと思ってる?」

「しばらくは泳がせておこう、あの子どうこうしたところで“トカゲの尻尾切り”だろうし」

 

 そう、霧島マナは替えがきく現地情報員にすぎず、たとえ捕まえてネルフがそれをネタにしたとしても「本省に関係のない人物だ」と言われ、「戦略自衛隊にも在籍していない」ので国内法をもってお好きにどうぞという展開が待っている。

 俺の居た世界でも自衛隊内部に“別班”という「闇の情報部署」があると共同通信の記者によって発表され話題になったことがある。

 別班員は自衛隊から籍を抜き、知己と交流を絶ち、海外やら国内で諜報活動をしているらしい。

 

 こっちの世界ではどういう名称かわからないが、おそらく似たような情報組織はあるだろう。

 そしてそんな組織が安全保障上怪しげな集団である人工進化研究所やネルフに対して調査をしないわけがない。

 

「じゃあシンジはあの女と仲良くするってわけェ」

「距離をとっても詰められるなら、最初から目の届くところにいてもらった方がマシだよ」

「うーん、理屈はわかるけど、なんかムズムズするね」

 

 アスカと宮下さんは複雑そうな表情になり、綾波はよく分からないと首を傾げた。

 あくまで表面上の付き合いとはいえ、ポッと出の女の子と楽しそうにしている姿を二人は見たくないんだろうな。

 休み時間の作戦会議が終わり、教室に戻って授業を受ける。

 相変わらず、隣から後ろから視線が集まっていて何とも居心地がよくない。

 

 授業が終わって放課後になると、霧島さんは俺のもとへとやって来た。

 

「私は君のこと、どっちの名前で呼んだらいい?」

「お好きなほうでどうぞ」

「じゃあ、シンジ君で」

「霧島さん、それで?」

「本日、霧島マナは午前6時に起きて、この制服を着てまいりました! どう? 似合うかしら」

 

 おどけた様子で姿勢を正した霧島さんは申告を始める。

 マルロクマルマル、午前6時ね、起床ラッパ通りの生活だ。

 俺やアスカもあの共同生活以降だいたいそれくらいには起きてるな。

 

「講評、元気があって大変よろしい!」

「ありがとうございます! ……なんちゃって」

 

 つい、班長や区隊長のノリで返すと霧島さんは力強く返事を返し、そのあとに我に返ったか照れ隠しのように冗談めかす。

 こんだけ反応いいと、ネタで「指摘事項3点!」からの「その場に腕立て伏せの姿勢をとれ」とか言ったらマジでやりそうで怖いな。

 

「ところでシンジ君、この学校、屋上には出られるのかな?」

「出られるけど、どうして?」

「私、シンジ君と一緒に眺めたいな」

 

 少し離れたところで見ていたアスカがつかつかとやって来た。

 

「変わったナンパをするのねぇ、霧島さん」

「ナンパなんてしてません! シンジ君にこの街のいい所を教えてほしくって」

「へーぇ、それならシンジ以外にもいい奴いるんじゃなぁい?」

 

 ソフトモヒカンに髪型が変わり、少しイケてる感じのケンスケとか。

 アイツはいいやつなんだけど、女子に対して押しの弱いところがあるからな。

 

「ケンスケはもう帰ったのか、トウジも居ない……」

 

 放課後でいつものメンツはみんなすぐに帰ってしまってる。

 霧島さんに捕まった俺のほかで、男子といえばサッカー部の佐藤君が居たはずだ、彼ならなんとか引っ掻き回してくれるはず……。

 そちらに目を向けると、宮下さんが話しかけて拘束していた。

 どういうわけだか、アスカの邪魔はさせないという意思を感じた。

 

「シンジ君、話しやすいから、案内してくれそうだと思ったの」

「アスカも一緒でいいなら、屋上に行こう」

「わかった、じゃあ行こっ!」

 

 こうしてアスカと俺、そして霧島さんの3人で屋上に出る。

 第壱中学校は第三新東京市の外れにあって見晴らしがよく、ゼロエリアの摩天楼や青々とした山がよく見える。

 

「綺麗ねぇ」

 

 手すり間際まで歩み寄っていった霧島さんがそう呟く。

 

「そうか、どの辺が」

「ビルの向こうの山、自然が残ってるのね」

「右が金時山、ビルの奥が丸岳、長尾峠方向、左手側に芦ノ湖と山の中だよ」

「ずいぶん詳しいんだね」

「そりゃ、住んでる地域の立地条件くらい調べるさ」

「シンジってば真面目なんだから……」

 

 いつの間にか横にいたアスカがそういった。

 グーグルマップが無いどころかインターネット自体あんまり一般社会に浸透していない世界で、道路地図やら『るるぶ』等の観光誌片手に駒ヶ岳、強羅防衛線、二子山陣地とアニメで登場するスポットを探しているうちに地名と特徴を覚えたのだ。

 まあ、第2芦ノ湖、第3芦ノ湖といった使徒爆発後のクレーターで変わってしまったところもあるけどな。

 

 25キロ行進訓練で大休止地点の山頂展望台に着いたとき「風景を見て綺麗だねで終わるのはただのお兄ちゃんだ」と普通科出身の区隊長もおっしゃっていた。

 

 そう、デキる自衛官は常日頃から情報を収集して担任区域の地名、簡単な特徴くらい覚えているものらしい。

 土地を知ることで郷土を愛し、ひいては国民を想い、そうでなくても“即応態勢をとれる心構え”で居るべきだと。

 そういう教育が今になって活きてくるのだから、人の話は聞いておくものだと思う。

 

「シンジ君ってエヴァのパイロットなんだってね、だから?」

「ちょっと霧島さん、シンジはともかくこのアタシもパイロットなんですけどぉ?」

「えっと……あなたは……」

「アタシがエヴァンゲリオン弐号機パイロット、惣流・アスカ・ラングレーよ!」

 

 アスカは急に自己紹介に入った、まあ、国連軍との共同作戦で名前が公表されてるけどさあ……。

 そんな男塾塾長江田島平八みたいな名乗り方しなくても。

 

「アスカさん、シンジ君とはどういう関係なんですか?」

「シンジはアタシと住んでんのよ」

「まあ、そうだな。もう結構経つんだよな」

「ええっ?」

 

 霧島さんがたじろいでるのがわかる、俺とアスカの同居生活なんて真っ先に調べられてそうなもんだけどな。

 事前に対象の生活情報手渡されてなかったのか、この娘は。

 

「そういうことだから、お望み通り案内もしたし行きましょシンジ、アウフヴィーターゼーン!」

 

 アスカに腕をとられて俺は半ば引きずられるように屋上を後にした。

 加持さんの運転するウィッシュの中で今日の出来事を報告する。

 

「へえ、女の子か。シンジ君、モテモテだな」

「もっとマシな人居なかったんですかね、ねえ、加持さん」

「ははは、でも良いじゃないか見つけやすくて、それにその子の原隊がわかれば背後も洗いやすくなる」

 

 加持さんはアスカ、宮下さん、綾波からの冷えた目線に後ろを見ないようにしながらそう話す。

 原隊ねえ、確かトライデント級陸上巡洋艦の操縦課程から内臓損傷で脱落したんだっけか。

 エヴァの構造を聞いたところで、乗り心地が改善されるとは思えないけどね。

 

 日本の装備開発は要求仕様に合わせて完成したら、あとは現場努力任せでアップデートが無いってのが通例で、仮に改修されてもお金が無いから数機止まりという悲しさだ。

 ま、「天にも昇る気持ちで地獄行き」って劣悪な操縦環境以前に、根本から間違ってる気がするけどなあ……。

 

 ネルフ本部に着くと、カヲル君と合流して射撃訓練場に集合する。

 今日から、対人要撃システムの訓練が始まるのだ。

 仮眠室に置いてある黄色い毛布を転用した武器毛布を机の上に広げて、その上に武器庫から搬出したウージーモドキこと“9㎜機関短銃”を人数分並べる。

 

「銃、ヒトの生み出した携行武器の極みだね」

 

 そんな事を言ってカヲル君はしげしげと銃を眺めている、鋭い牙も爪もない人間が生み出し、女子供でも容易に使える戦闘手段に何を思うのだろうか。

 

「これが、鉄砲……重い」

「そうよ、実際に弾が出て、人を殺すことができるのよ」

 

 宮下さんが銃を手に取っている時に、葛城三佐がそんなことを言う。

 銃の重さは責任の重さという武器授与式後に行われる定番の説話があるが、この中で武器を扱ったことが無いのは宮下さんとカヲル君くらいで、他はみんなエヴァで命のやり取りを経験しているので今更だろう。

 人を殺すという事と、そういう心構えなんて第13使徒の時に嫌ってほど実感したわ。

 葛城三佐と作戦課の大野二尉が今回の指導を行うようだ。

 

「まずは諸元だけど、全長390㎜、引き出し銃床展開で450㎜、重量2.7キログラム、弾は9㎜通常弾、腔線(こうせん)は6条右転……」

 

 ネルフの採用している“9㎜機関短銃”は某国内銃器メーカーがセールスに失敗して売れ残ったものを()()()調()()したものらしく、何とも中途半端な装備品だった。

 装弾数が25発、発射速度は毎分600発……命中精度も微妙ということで保安諜報部は“MP5短機関銃”を調達することになり、いまや発令所のコンソール下やD級職員の自衛火器ボックスの中でひっそりと眠っている。

 そんな裏話をしてくれたわけだが、どうやら楽しく聞いていたのは俺だけのようだ。

 

「ようは、『安物買いの銭失い』って言うのよ、そんなの」

「おいしい話には裏があるって赤木博士も言ってたわ」

「相田君が好きそうな話だよね、ねえ、男の子ってこんな話が楽しいの?」

「どうだろう、シンジ君はこういう話、詳しいんじゃないのかい?」

 

 アスカと綾波はまあそんな物よねとサラッと流し、宮下さんは話の笑いどころというかツッコミどころがわからなかったのか俺に聞いてくる。

 カヲル君は俺の記憶などに影響されているものの、話を振られてもミリタリーオタクではないのでわからないようでこっちに振って来た。

 

 研究所上がりのネルフが銃器メーカーの不良在庫つかまされたあげく、結局はちょっと値の張る短機関銃を調達することになった。

 そして追い出された“二線級火器”を俺達が今から使うことになる……と話のポイントを教えてあげた。

 

「ええ……」

 

 そんな微妙な雰囲気のまま、武器教育は進んでいく。

 銃身部、機関部、引金室体部(ひきがねしつたいぶ)といった大きな部品に分けて、組み立てる分解結合で綾波がダントツで早い。

 次点で俺、アスカとなるわけだが、綾波は記憶力がよくて助教の大野二尉の模範動作を一発で覚えたらしい。

 

 俺は部品点数が多く複雑な造りの64式小銃の引金室体部の連発機構を見たことがあったので、ああ逆鉤(ぎゃっこう)がこんな引っかかり方してるんだな、ここで連発を制限してるのねとイメージしながら何回かやってるうちに出来た。

 アスカは模範動作を見て、カチャカチャと自分なりに試行錯誤してモノにしたようだ。

 原作でも天才少女だなんだと言われていたけど、こういう努力で自分の技術にしてしまえるのがアスカのいい所だ。

 最後にカヲル君と一般の女子中学生だった宮下さんだが、大野二尉に付き合ってもらい分解結合練習やってるうちに何とか覚えたようで、分解6分および結合9分の時間内に完了できるようになった。

 

「え? 逆鉤が入らない? こんなのチャっとバネ引っ掛けてバーッと圧して入れたらいいのよ」

 

 葛城三佐は擬音が多くて、こうしたまっさらな人の指導に関してはアテにしてはいけないと実感した。

 

「葛城三佐、たぶん聞きたいのはバネの圧し方だと思いますよ」

「ちょっとシンちゃん、できるの?」

「多分、引き金止め枠をこうライターみたいに持って、バネ入れた逆鉤をこう引っ掛けて親指で軽く押さえて逆鉤留め軸を入れる……」

「ほんとだ」

「組んだ状態の引き金部を室体部に入れて、入るようにしか入らない撃鉄(げきてつ)遊底(ゆうてい)を組み込んでやったら、ほら」

 

 切り替え金を単発にし碍子(がいし)を指で圧した状態で引き金を引いて、逆鉤が外れて撃鉄が動くコトンという小気味よい音がしたら動作点検はオッケーだ。

 

 ここで音がしない場合引金→逆鉤→撃鉄の繋がりに変なところがあるのでやり直し。

 

 結節ごとに動作点検を行うことは重要で、サラッと流してやると組み上がった後に異常に気付き、泡を食うことになる。

 89式小銃は部品点数が少なかったし、構造がなるようにしかならないのでそういう事態は起こりにくいのだが、64式小銃は“誤った状態でも組めてしまい”最後の動作点検で異常に気付くのだ。

 

 スライドよし、薬室点検!

 あれ? スライドが元の位置に戻らないぞ、どうしてだ!

 

 ……A.撃鉄が上下逆方向に入ってたため、閉鎖不良。

 

 そうなると撃鉄の向きを変えるためだけに銃床外してバネ外して圧抜いて……と分解しないといけない。

 早い段階で結合不良を見つけられたら、それだけ取り外す部品が少なくて済むのだ。

 

 全員が結合不良を起こさないレベルになると、次は射撃予習といって弾倉(だんそう)を挿さずに銃を構える練習だ。

 センサー類と射撃統制システムが連動しているエヴァと違って補正が利かないので、構え方が悪いと弾はまともに飛ばない。

 

「正しい見出(みいだ)し、正しい射撃姿勢をとれてれば大体当たる」

 

 引き出し式銃床を鎖骨と肩の中間の窪みに当て、銃の中ほどについている照門(しょうもん)を通して、先端の照星(しょうせい)(てき)を捉えるのがこの銃においては正しい射撃姿勢だ。

 正しい見出しとは、照準線がきちんととれてる状態であり、照星と照門がぼやけている状態だ。

 

「こうかな?」

「カヲル君、頬の位置が高い、照星の下見てないか?」

「シンジ君、こんな切り欠きと棒で狙ったところに弾を飛ばすなんて、よく考えてるね」

「石を手で投げてるときから、人間はそういう()()()()が得意だったんだろうな」

 

 カヲル君の脇について指導している横では宮下さんが大野二尉の指導を受けていた。

 

「こう?」

 

「宮下さんは何処がはっきりと見えてる?」

「前の棒がよく見えてるよ」

「ピントがそこに合ってるってことは照準線が低いな。弾が天井に飛ぶよ」

 

 目のピントが銃の照星に合ってると銃口に対して視線が高く、弾は狙ったところのはるか()を飛んで行く。

 

「アスカ、レイ、エヴァじゃないんだから、銃を見て狙わないと当たんないわよ」

 

 アスカや綾波はエヴァに乗っていた経験が長いので、パレットライフル同様に構えて葛城三佐に突っ込まれていた。

 

「目標をセンターに入れてスイッチ」

 

 葛城三佐が言ってるのは原作シンジ君のセリフにあるセンサー射撃のことだろう。

 俺も最初はシンクロ率が低かったので自動モードを使っていたけど、パレットライフルに関しては結局手動モードにして戦闘照準で撃っていた。

 戦闘照準で弾着見ながら補正したり、牽制射撃でばら撒くだけならセンサ連動無しで腰だめ射撃や大体の位置狙いで良いのだ。

 

「シンジ君は……手慣れてるわね」

「日本の兵隊さんとお巡りさんは()()()()()()()()()してなるべく弾を使わず、初弾必中が基本ですからね」

「カッコいいこと言うわね」

「まあ、使徒には全弾命中させようが全く効果なかったんですけどね、カヲル君」

「そうだねシンジ君、こころの壁、A.Tフィールドがある限り僕に届きはしないさ」

「渚君、ちょっとあなたで射撃訓練させてもらってもいいかしら」

 

 葛城三佐はカヲル君の「射撃なんて無意味だよ」的発言に携行しているUSP拳銃を抜きそうになっていた、冗談が冗談に聞こえないんだよな。

 

「ちょっとミサト、渚を撃つのはいいけど跳弾(ちょうだん)で危ないじゃない!」

「……そう、この人を撃つなら、ポジトロンライフルを持ってくるといいわ」

 

 アスカと綾波は葛城三佐に乗っかった、特に綾波の殺意が高すぎる。

 目の前で笑っているのが、今まで敵対していた使()()であると実感のない宮下さんは困惑して助けを求めるような目でこっちを見てくる。

 

「射場でそういう冗談は不味いよ、効くかどうかは別として銃持ってるんだからさ」

「僕の味方はシンジ君しかいないのかい?」

「射撃訓練する前にそんなことを言うからだよ!」

「アンタが渚に振ったんでしょうが!」

 

 アスカに怒られてしまった。

 そんな一幕こそあったものの、一度構え方の基礎が出来ればあとはそれぞれの姿勢に当てはめていくだけだ。

 立射、膝撃ち、()撃ちと姿勢を変えて構え、射手と補助者で二人一組のカラ撃ち練習をする。

 

 パチン

 

「いっぱーつ」

 

 カシャコン

……パチン

 

「にはーつ」

 

 カシャコン

……パチン

 

「さんぱーつ、撃ち終わり!」

 

 という感じに補助者がカラ撃ちに合わせて槓桿(こうかん)を勢い良く引いて、次弾の装填を模擬してやりながら弾数を数える。

 

 実弾の場合、発射ガス圧で遊底を押し下げ、カラ薬莢を抜いて次の生弾(なまだん)を装填してくれる。

 

 そのため、弾を使わない射撃予習では遊底が動かないので補助者がいかに()()()()スライド、槓桿を引けるかが重要だ。

 勢いの良さに膝撃ちしていたアスカが後ろにこけそうになる。

 

「ちょっとシンジ! そんなに強く引く必要あるわけ?」

「これくらい耐えられないと撃った時に反動でエライことになるぞ」

「じゃあ交代!」

 

 アスカがさっきの雪辱とばかりに勢い良く引いてくれるので踏ん張る。

 7.62㎜弾を発射する64式小銃を初めて撃った時、俺もアスカみたいに後ろに倒れそうになったのだ。

 体重の軽い男でさえそうだったのだから、女性自衛官教育隊の女の子たちはめちゃくちゃシンドイと思う。

 

「撃ち終わりッ!」

 

 射撃予習で大体形が出来て、ようやく実弾射撃がやってくる。

 ……と思いきや、分解結合が長引いたのか気付けば21時になっていたため、今日は射撃予習で終わってしまった。

 

 

 武器庫に返納して食堂に向かうと、各部署専門分野で研修を受けていた教育支援隊のメンバーとばったり出くわす。

 技術部や整備班、管理・事務系の人はリツコさんや技官たち、研修先の長にしごかれている日々だという。

 だけど、ここで得た技能、運用ノウハウをドイツに持って帰るのだと士気は高そうだ。

 拙い日本語ではあったものの、彼らが何を学ぼうとしているのかはよく分かった。

 原作じゃ目の前で話している彼らが送り出したであろうエヴァ量産機に襲われている頃だろうから、何が起こるかわからないものだ。

 

 晩御飯を食べ終わると送迎車で帰るわけだが、綾波は結構疲れているのでリツコさんと二人乗せて帰ることになった。

 前から加持さん、リツコさん、二列目に俺、アスカ、宮下さん、三列目に綾波だ。

 警戒態勢にある俺と運転手の加持さん、そしてリツコさん以外は疲れ切って眠っていた。

 車に揺られること15分、家の前で宮下さんを降ろすと次はリツコさん宅に向かう。

 

「美人が隣に座っているって言うのは華があっていいねえ」

「加持君はホント、そういうところ変わらないわね」

「そうでもないさ、最近はずっと葛城一筋さ」

「あなた、ミサト以外にも気になる子がいるんじゃないの?」

「えっと、誰のことかな。リッちゃん」

「シンジ君、最近、加持君とよくつるんでるそうじゃない」

「加持さんは護衛担当ですし、話しやすいんですよ。いろいろとね」

「そうね、ミサトが急に加持君を護衛に組み込みたいって言った理由がわかったわ」

 

 リツコさんも俺達が複数の部署から監視対象にあり、ゼーレの補完計画阻止、あるいはネルフ解体の際に軟着陸できるように裏から色々やってることを知っているようだ。

 ネルフ内の協力者、内偵中の内調職員にはいろいろと情報を持たせて帰した。この事で内務省側がいきなり戦略自衛隊を動かすことはなさそうだという。

 国連軍に編入されてる自衛隊、在日米軍側にも動きはないそうで、それどころか対使徒演習の打診があったそうだ。

 

「最近、エヴァに乗ることも少なくて、使徒がいかに楽だったか感じるようになってきました」

「フィフスの少年の影響かしらね」

「カヲル君がどうこうより、使徒は謀略使ってこないですし」

「使徒は非日常だけどその場限り、日常の中の非日常を長く続ける方が人間きついのさ」

 

 リツコさんも協力してくれるそうだが、今のリツコさんをもってしてもゲンドウとユーロ、中国の動向が不透明だ。

 補完計画関連で何かあるとしたら、国外からかな? 

 

 隣に目をやると俺にもたれかかって寝息を立てているアスカ、後ろで船を漕いでいる綾波。

 使徒を倒し切った俺がこれからやらなきゃならないのは、二人を何としてでも平和な世界に導いてやる事だ。

 

 

 

 翌日は朝から丸一日実弾射撃だった。

 ネルフの屋内射場で()撃ち、膝撃ち、立射、連発、検定射と第5習会までやるのだ。

 射場指揮官が葛城三佐でその下に作戦課の課員が係をやっていて、俺たちは射場指揮官の命令に合わせて射撃を行うのだ。

 

「安全点検」

「右かたよし、左かたよし、安全よし!」

 

 左右を見て安全を確かめる。

 

「安全装置、弾込め!」

「安全装置、弾込め!」

 

 耳栓をしているため大きな声で複命復唱(ふくめいふくしょう)し、動作をおこなう。

 切り替え金を確認すると槓桿(こうかん)を引き薬室を覗いて確認し、弾倉を挿入してスライドを戻す。

 

「弾込めよーし!」

 

 これでいよいよ弾が出る状態だ。

 

「目標正面の(てき)、伏撃ち、10m、点検射3発、時間無制限!」

 

 目標と射弾数、時間についての号令がかかる。

 習会が進むと、減秒されるんだよな、25秒以内に5発とか。

 

「安全装置、単発、撃ち方よーい」

「安全装置、単発、撃ち方用意!」

 

 

 切り替え金を安全の“S”から単発の“1”の位置に動かし、構える。

 自衛隊の火器ならばア・タ・レ(安全・単発・連発)と表記されていて、俺は思わず「タ、よし!」と言いそうになった。

 

「撃てっ!」

 

 小銃とは違う、パン! という軽い弾けた音と共に銃口から発射炎が広がり、10メートル先の人型標的、F的(エフてき)に弾が飛んでいった。

 

 屋内射場でF的に対して10m射撃だが、第一習会は全然当たらなかった。

 3発点検射で撃って3点監査法、3発の弾痕を線でつないで三角形を作って狙いがどのあたりにあるのかを調べるのだがこれはひどい。

 

 俺の弾痕を調べると大きな二等辺三角形が出来上がり、初弾と次弾が大きくぶれて的の上と下に当たって、3発目でようやく的の左側に当たっている。

 アスカと綾波も右寄り、左寄りという違いがあるもののおおむね二等辺三角形だ。

 カヲル君と宮下さんに至っては的から弾が大きく逸れている「弾痕不明」が出ていた。

 

 修正射でまた3発撃つも初弾と次弾が大きくずれて二等辺三角形だ。

 狙いはF的中央の25点圏だから、この銃は上下に弾が散るのか。

 

 カヲル君と宮下さんは修正射でようやく的の近くに弾着させられるようになった。

 弾の散り方的に、宮下さんは銃声に対する恐怖で目をつぶって撃ち、引き付け不足らしく銃が大きくぶれている。

 カヲル君は銃に対し視線が低くて見出しが甘いので銃口が下を向き、的の遥か下を撃ってる可能性が高い。

 

 そして、点検射の後に5発射撃するのだが弾が全然集まらず弾痕がF的いっぱいに大きく散っている。

 もちろん、連発いわゆる“フルオート”で撃ったわけではない。

 セミ・オートの単発で撃ったのだが、初弾以降どういうわけだか弾が散るのだ。

 

 2回目の射撃でようやくF的の近くに弾が集まった。

 ああ、発射後一息ついて次弾というリズムが大事なんだなこの銃は。

 

 こうして撃ち終わると一回ごとに薬莢拾いをして、発射弾数と撃ちガラ薬莢の数を確かめると弾薬係の黄色いトレーに返納する。

 ひとり3・3・5・5の16発無いといけないのだ。

 

「1射群1的、16発異常無し!」

「よし」

 

 こうして1的から5的まで5人でパンパン撃っているうちに習会は進み、昼も過ぎた頃に第4習会がやって来た。

 9㎜拳銃弾使用という事もあって反動こそ大したことないのだが、連発にするとめちゃくちゃ手の中で暴れるのだ。

 ただでさえ命中精度の悪い銃だったが、それこそ当たらなくなる。

 

 綾波は狙いをつけることを放棄したのかおおよそで弾を撒いたらしく、それでも狙ってた俺とあまり変わらない弾痕の散り具合だ。

 うん、引き出し銃床あってこれだから、なかったら使い物にならないかもね。

 

 旧劇場版で青葉さんが戦自隊員に向かって撃ってたけど、何発当たったんだろうな。

 最後にやった検定射では慣れもあってか、なんとかF的に全弾命中させることができた。

 

 今日の総まとめである検定射撃が終わったあと、分解しての武器手入れをして帰る。

 俺が思うに射撃訓練の6割は武器手入れが占めている。

 

 映画や漫画なんかで「硝煙の臭いが最高だ」というキャラがいるが、武器手入れをしたことが無いからそういう事が言えるんだろう。

 今も俺達は部品にこびりついた発射ガスを取ろうと、裁断布や真鍮ブラシに整備油を付けてひたすら擦っている。

 分解した部品をオイルパンに入れて白い洗浄油に漬け込み、掬い上げてはブラシで擦るのだが一向に赤茶色の染みが抜けない。

 アスカは最初「ここまでする必要あるの?銃なんて撃ったら汚れるじゃない」 なんて文句を言いながらやってたわけだが、次第に疲れてきて無口になった。

 綾波とカヲル君も、銃身の火薬の燃えカス相手に銃口通しを何度も突き込み格闘していた。

 

 ……ああ、なかなか取れないぞこれ。

 

 こうしてチルドレンにネルフの機関短銃はめんどくさいという印象を残した射撃訓練は幕を閉じたのだった。

 




ネルフ採用の機関短銃の性能諸元や特性、構造は独自設定です。
雑誌『エヴァンゲリオンクロニクル』では“ソシミ タイプ812”に似ているとのこと。
グロッグ17やUSPも配備されてるところを見るに、余り使い勝手がよくないのかも。


ネットで見つけた部品名一覧(not 教範)
https://pbs.twimg.com/media/ESQcS1AUMAAdrZb.jpg:medium
自衛隊における火器用語なのでピンとこない方も多いでしょうがご了承ください。

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