エヴァ体験系   作:栄光

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ランナー

 朝、制服に着替えてテレビをつけ、アスカがシャワーを浴びている間に弁当と朝食を作る。

 トースト、目玉焼き、それに弁当の余りの焼肉、コーヒーという簡単モーニングだ。

 朝の報道番組を見て、情報収集をするわけだが……。

 

 アイドルの荒井弓子が結婚したというニュース。

 国会審議中に与党議員が漫画本を読んでいた問題。

 用地取得とかの政治スキャンダル。

 我が家のペットの“珍”行動、ビデオ投稿コーナー。

 2016年のふんわり春コーデ特集。

 

 うーん、どの局も長い尺使ってどうでも良いことしかやっていないよな。

 

 特に政治関連なんて、毎日ほぼ同じ内容を2時間くらいとってやるわけだけど、堂々巡りもいい所で何ら進歩があるわけでも無いしな。

 いち民放番組のコメンテーターと評論家・専門家とされる人の掛け合いが何の役に立つのだろうか。

 

 そんなことを考えていると、風呂場から呼ぶ声がする。

 

「シンジ!」

「どうしたの」

「今日、帰りにシャンプー買って帰るわよ」

「ああ、タマ切れか……俺のトニックシャンプー使っていいよ」

「あれスースーするから苦手!」

「それが良いんじゃないか、LCL臭さも抜けていい感じになるんだよな」

「アタシがLCL臭いっていうの?」

「そんなことはないよ、アスカはいつもバラの香りしていい匂いだよ」

「いい匂いって……変態っ!」

「ええ……」

 

 いや、臭いについて否定しても肯定してもダメなやつかよ。

 アスカは風呂から出てくると真っ赤なタオル片手にドライヤーで髪を乾かす。

 ふわりと香るバラの香り、結局ボデーソープで頭洗ったんだろうか。

 

「アスカ、ある程度乾いたら朝飯食べよう、遅れるぞ」

「わかってるわよ、あと3分」

 

 先に朝食を食べて、体操服の入った巾着袋を通学鞄の脇に置く。

 よく分からないキャラクターの描かれた巾着袋がアスカのやつで、訓練用品店で買ったOD色の巾着が俺のヤツだ。

 ちゃんと所属部隊枠に「2-A 碇」と記入している。2区隊A班? 

 余談だが、これが部隊に行くと「1TKBn 1Co 碇士長」みたいになるのだ。

 記名は大事で、物品管理の基本だから貰った物にはすぐ名前を書くようにしよう。

 

 アスカと二人で家を出ると、加持さんが送迎車の中から手を上げた。

 

「おはようございます」

「おはよう、シンジ君、アスカ。今日もいい天気じゃないか。マラソン日和だな」

「加持さん、アタシ達の授業内容知ってるんですか?」

「そりゃシンジ君から聞いてるさ、護衛だからね」

 

 窓の外にはいつも通りの街並みが広がっており登校する学生やサラリーマンで賑わっている。

 俺達を取り巻く緊迫した状況を忘れそうになるくらいだ。

 カーステレオのラジオからは、何処かの誰かがリクエストした陽気な音楽が流れ出す。

 MVでカーチェイスしてたり、アニメ版GTOのオープニングテーマのアレだ。

 

「おっ、懐かしいな」

「加持さん、歌います?」

「いや、マイクがあれば歌えるんだけどなあ」

「加持さん、知ってるの?」

「セカンドインパクト前の曲だよ、俺よりシンジ君が詳しいぞ」

「シンジってば、歌番組好きよね」

「そりゃそうだよ、歌は時代を思い出させてくれるんだからな」

 

 この世界では綾波が実際にいるわけだけど、あの漫画は連載されてるんだろうか? 

 

 

 今日の体育は3クラスの男女混合で持続走だ。

 4時間目という事もあって、一番ポテンシャルを発揮できる昼食前の運動だ。

 適度な飢餓感があり、胃腸に消化する物が無いので運動能力に全振りできるらしい。

 

「イチ、ニ、サン、シー! ニー、ニー、サンッ、シー!」

 

 身体の可動域いっぱい()()()()()から()()()()()まで手足を動かし、前屈後屈する。

 ラジオ体操であろうが、自衛隊体操であろうが準備運動は念入りにやらないとケガのもとである。

 

「今日も碇、気合入ってるなぁ!」

「はい!」

 

 体育教師の“ゴリ”もとい郡山(こおりやま)先生にいつも通り、声を掛けられる。

 

 転入してすぐ、体育の授業を受けたときに暑い中でダレてる様子が目についた。

 声は小さい、体は伸ばし切らない、ダラダラと動きに節度をつけていない。

 男子中学生って、ダルそうにして力抜いてる感じがカッコいいと思っている節があるからなあ。

 人は易きに流れるというが、ここでやっていく以上みんなに合わせるべきか。

 その時、前で模範をやっていた先生が叫んだ。

 

「お前ら、声出せ! 怠そうにするな!」

 

 そんな先生の声は班長を思わせ、俺の心に火をつけた。

 

__中学生に合わせてやろうと考えてたけど、こうなったら本気でやってやろうじゃないか。

 

 腹の底から声を出して連続八呼称、生理的極限を極めて動作のキレをよくする。

 なよッとした雰囲気のシンジ君が、声を出し運動部に負けず力強く運動をしたもんだから、先生はいつも体操が終わると声を掛けてくるのだ。

 

 準備体操が終わり、女子の方をぼんやりと眺めているとトウジと小島君とケンスケが俺の後ろからにじり寄って来た。

 

「おお、みんなええ乳しとんなあ」

「いや、太ももだろ」

「俺は腰だね」

 

 エロ目線で盛り上がる三人に巻き込まれないように離脱しようとして捕まった。

 

「センセは誰見とんのや? 惣流か? 綾波か?」

「後、シンジが見るとしたら宮下か……霧島さんだろうね」

「霧島、結構スタイルいいよな」

「で、どうなんやセンセ」

 

 アスカや綾波がラジオ体操をしていて、当然だが霧島さんも体操をしている。

 こうしてみると後期教育以降のWAC感あるな。

 宮下さんはちょこんとワイヤレスアンプの傍で座っている。

 退院こそしたけれど持続走などの強い負荷を掛ける運動は出来ないのだ。

 あっ、こっちに気づいて手を振ってくれた。

 可愛いけど、アスカと霧島さんがジロリとこっち見たよ! 

 

「なんや宮下かいな」

「シンジは宮下のこと気にかけてるもんな」

「全く碇はモテてモテてたまりませんな」

 

 トウジとケンスケは俺が罪の意識から気にかけてるものだと思って追及をやめ、小島君はアスカの視線に気づいて撤退を決めたようだ。

 女子の準備体操が終わると、男女ともに校庭のトラックをランニングする。

 縦隊を組んでウォーミングアップがてら3周だ。

 

「なあ、シンジ」

「なんだよ」

「無言で走るのって退屈じゃないか」

「ケンスケ、えーっと?」

「『フルメタルジャケット』の軍曹ソングみたいなやつないのかよ?」

「ああ、連続歩調(れんぞくほちょう)のことか」

「そう、それだよ、ただ走るだけだと飽きてくるよな」

「ようは連続歩調掛けながら、ランニングしたいと」

「さっすがシンジ、わかってるねえ」

 

 ケンスケはこの縦列でのランニングに、新隊員教育の絵を見たらしい。

 教育隊に行けば、嫌でもできるぞと思いながらも付き合ってやる。

 

「それじゃ、左・右でいくから、途切れたところで『ソーレ』な」

「わかった」

 

 メガネを輝かせて言ったケンスケに、小声で歩調を掛けてやることにした。

 足を見て、左足が地面に着く瞬間を見てコールを始めた。

 

「ひだーり、ひだーり、左、右!」

「ソーレ!」

「左、右、左、右!」

 

 ここで連続歩調入れてやるか。

 

「連続歩調、ちょー、ちょー、ちょー、数えっ」

 

「イチ!」

「ソーレ」

 

「二ー!」

「ソーレ!」

 

「サン!」

「ソーレ!」

 

「シー!」

「イチ、ニー、サンシー、ニーニー、サンシー」

 

 ケンスケは“パリスアイランドの新兵訓練所”にトリップしているようだ。

 ここにいる男子十数名は同期であり、訓練を共にする仲間なのだ。

 

「ケンスケ、えらい楽しそうやな」

「なになに、碇が号令掛けてんの?」

「何か聞こえると思ったら軍隊でやってるアレかよ」

 

 列の前後にいたトウジやクラスメイトが俺とケンスケの様子を見て、「俺もやろうかな」なんて言ってくる。

 みんなでやるなら声出していかないとダメじゃねえか、そこまで身内ノリを広げる気はないぞ。

 

「ケンスケ、これで満足したか?」

「おう、じゃあ次は俺にやらせてよ?」

「マジか?」

 

 __俺たち無敵の、海兵隊

 __今日もライフル、光ってる

 __戦車もハリアーも持ってるぞ! 

 __ワン、ツースリーフォー、アイラブマリンコォ! 

 

 合衆国海兵隊(USMC)かよ! 日本語で歌うなら別の所なかったのかよ。

 

 なんかのゲームで曲しか聞いたことないんだけど、そういや『奇跡の戦士エヴァンゲリオン』とか作詞作曲してたよなコイツ。

 ケンスケ自作のミリタリーケイデンスを聞きながら、俺たちはグラウンドを3周した。

 ウォーミングアップが終わると、いよいよ持久走のコースを走ることになる。

 学校の校庭を出て、裏山に入って林道をぐるっと回って帰ってくるという片道2.6キロのコースを男子は2周、女子は1周するらしい。

 

 今まで訓練していただけあって、気づけば先頭集団の中を走っていた。

 学校の正門を抜けて外周をグルッと半周、舗装も無い山道に入って上り坂を駆け上がると森の中に不似合いなコンクリートの巨大な構造物が現れる。

 金網にはネルフのマークと立ち入り禁止の注意書きが張り付けられており、エヴァ支援関連の施設であるらしい。

 前を通る時によく見ると非常用の電源プラグであり、こう見るとめちゃくちゃデカいよなあ。

 学校のすぐ裏手にも発進口があるので、そこから発進した際に使えそうだ。

 

 電源プラグを抜けて、整地されて砂利が引かれた坂道を登りきると送電鉄塔の下をくぐって折り返し地点にくる。

 風が体に当たって気持ちいい、膝やアキレス腱を傷めないように歩幅を小さくして坂道を下る。

 下から駆け上がって来てくるクラスメイトとすれ違う。

 

「シンジ、もう下りなのかよ!」

「センセ、飛ばし過ぎちゃうか」

「ペース掴んでるからいけるいける!」

 

 トウジとケンスケには電源プラグ近くで出会った。

 そしてしばらく森の中を下っているとアスカが走って来た。

 女子は1周だから出発が男子よりも遅いのだ、アスカは先頭かな? 

 

「シンジ、もう下って来たの?」

「うん、そうだけど」

「あんた、なかなかやるじゃない」

「アスカも先頭なんだろ。頑張ってな!」

「アイム・ナンバーワン!」

 

 日頃、カヲル君と自主錬成しているせいか、前に比べてだいぶ体力がついているな。

 アスカと別れるとちらほらと女子が現れ、綾波、霧島さんが走って来る。

 

「あっ、シンジくーん!」

「ふっ、ふっ……碇君ッ!」

 

 よく似た声の二人が走ってくる。

 同じ林原さんボイスというメタなこと抜きにしても、息が荒い時の声はよく似ているように聞こえる。

 綾波の後ろから霧島さんがブンブンと手を振っている、元気だな。

 俺は綾波と霧島さんに手を上げると、勢いもそのままに登山道を出て舗装路に入る。

 学校の敷地に入り、トラックを半周したところで記録係の宮下さんが出迎えてくれて一周目のタイムを読み上げてくれる。

 1キロ6分ペースでこんなものか、運動部のやつはやっぱり速いなあ。

 上には上が居て、走って追いつこうと思うのなんて武装障害走競技会以来だな。

 目指せ、“武装走最優秀中隊”とひたすら走っていた課業外を思い出す。

 

 そして2周目に入って長い上り坂を駆け上がっていると、左の脇道の先から女の子の情けない声が聞こえてきた。

 

「ひーん、足くじいちゃった! 助けてぇ!」

 

 先生を呼びに行くなりなんなりすればよかったんだが、同級生の女の子を一人放っておくことなんて俺にはできなかったのだ。

 登山道より少し低いところにある獣道の脇の斜面でうずくまっていた女の子は、霧島マナだった。

 

「シンジ君、右足が痛いの……」

「どうしてこんなところに」

「道を間違えてこっちに落ちちゃったの、信じて!」

「わかったから、掴まれ」

 

 右手を伸ばして霧島さんの手を取ると引き上げてやる。

 そして、くじいた右足を動かさないように背中に負ぶって学校まで下る。

 ミント香料の混ざった汗の臭い、柔らかい感触と共に背中がジトッと熱い。

 お互い、つい今しがたまで走っていたんだからそりゃそうか。

 

「シンジ君って優しいんだね」

「そうか、ケガ人が出たら助けにいくだろ」

「ううん、助けに来てくれたのはシンジ君だけ、他の人には気づいても貰えなかった」

「確か綾波と一緒に走ってたはずじゃ」

「綾波さんとは折り返し地点で差がついちゃったから、まだ降りてきてないわ」

 

 俺の背中にしがみつき、首の脇から垂らした手で胸やらお腹やらをペタペタと触り始める彼女。

 

「シンジ君って意外と筋肉あるんだね」

「錬成してるからね……余裕出て来たなら降ろすぞ」

「もうちょっとだけ、だめ?」

 

 これは接触するための策だったか、やられたなあと思いつつも黙々と歩く。

 

「シンジ君はどうしてエヴァに乗るの?」

「またいきなりだな、……我が国の平和と安全を守るためかな」

「そっちじゃなくて、君の理由よ」

「最初はなりゆきだったけど、戦ってるうちに国民のため、仲間のためってなったんだよ」

「強いんだね」

「そうでもないさ。死ぬのは怖いし、助けられなかった人たちもいる」

 

 目の前で沈みゆく輸送船、山に墜ちてゆく戦闘機、追悼式典の隊員たち、エヴァでもどうしようもなかった。

 

「私は、なんにもできなかったから」

 

 それはトライデント操縦課程の事を言ってるのか、あるいは別の事なのか。

 

 黙って聞いてやると、話題を変えようと霧島さんはとりとめのない話をする。

 ()()()のように喋り、それから()()()()を起こしたかのように話題が途切れた。

 

「シンジ君、薄々気付いているんじゃないの?」

「まあね」

「だから、何処かよそよそしいんだ。任務、失敗かなあ」

「いや、君は任務を遂行すればいいよ。俺はそれどころじゃないから」

「それどころじゃないって?」

「いちパイロットにはどうしようもない、()()()()()()()()

 

 そこまで言った時、後ろから2人が走って来た。

 アスカと綾波だ。

 

「シンジ!」

「碇君!」

「遅かったじゃないか」

「はぐれたって聞いてたけど、こんなとこで何やってんのよ!」

「どうしてその人を背負っているの?」

「道間違えて()()だって」

「ホントかしらぁ、シンジを一人にして拉致する気だったんじゃないのぉ」

「違います! そんなことしません!」

「アスカ先頭走ってたはずだよな、どうして山側から?」

「アンタたちを探すためにレイと合流して、2周目したんだからね!」

「遭難時は稜線に出るって聞いたから」

 

 アスカは降りてきた綾波と共に捜索のために学校からわざわざ折り返し地点まで登ってくれたようだ。

 

「二人ともありがとう、要救助者も回収できたし先生には俺が説明しておくよ」

 

 4人で下山して、みんないる中に霧島さんをおぶって戻って来たのだ。

 そりゃあ大騒ぎにもなろうもので「碇軍曹、白昼の救出劇」なんてケンスケには言われ、トウジや他の男子生徒からは「なんでアイツばっかり女の子と触れ合えるんじゃ」という声が上がった。

 ゴリ先生と女子担当の体育教師に霧島さんを引き渡すともう昼休みだ。

 

 朝起きて作った弁当を机の上に広げる。

 甘辛いタレを絡めた焼肉、レタスにトマトの付け合わせ、茶碗1.5杯相当のご飯。

 焼肉弁当なんて男の昼飯感があるが、手軽に作れてボリュームも出せる、肉の味付けを変えればバリエーションも増やせることから俺もアスカも焼肉弁当が好きだ。

 綾波は肉が苦手なので、自炊にあたって魚と卵料理のバリエーションを増やしたらしい。

 トウジは洞木さんの作ったお弁当を食べているわけだが、きんぴらごぼうとか里芋の煮っころがしとか煮物系も入ってて和風だなあ。

 ケンスケはコンビニで買ったおにぎり二個と、鶏のから揚げを食べている。

 

「トウジは今日も手作り弁当、シンジは焼肉弁当か」

「本部からの帰りに割引のこま切れ肉買っておけば、焼いてタレ絡めるだけだからな」

「惣流は怒らないのか?」

「いいや、アスカもよくやるからな、バーベキューソース風味の日はアスカ担当だぞ」

「綾波のは手作りか?」

「いいえ、最近の真空保存技術の賜物よ」

「サバ味噌煮が好きだから、いつもレトルト買ってんのよ」

 

 トウジの質問に答える綾波、アスカは「飽きないのかしら」なんて言っている。

 サバ味噌煮レンジ爆発事件以降リツコさん立会いの下、温め方の練習をしたらしくパック食品の調理は上手くなったとか。

 

 この件に関する赤木博士のコメント。

 「ミサトみたいにレトルトすらマトモに作れない子にはならないでね」

 

 アスカ、綾波、俺、宮下さんのチルドレン四人組と、トウジと洞木さん、ケンスケは教室の後ろのほうで食べてるわけだけど、7人って大所帯だよなあ。

 そこに、保健室から戻って来た霧島さんがやって来た。

 

「シンジ君、お昼、一緒にどうかな」

「別にいいけど、あの辺の空いてるところ座ってよ」

「ありがとう、じゃあここにするね」

 

 空いている席から椅子を持ってきて、俺の横に着ける。

 いや、向こうの空いてるところ指したよね俺、ここ明らかに密だよな。

 そこに座られると隣のアスカが怖いんだけど。

 

「ちょっとアンタ、空いてるところなら、向こうにあるでしょうが!」

「私はシンジ君に言ったんですぅ、アスカさんはお昼そこで食べてるじゃないですか」

「アンタが来ると、ここ狭いのよ!」

「ちょっとアスカ、霧島さん仲間外れはかわいそうよ」

「ヒカリ! あーもうッ!」

 

 洞木さんにネルフとチルドレンを取り巻く状況について、説明できなかったのでアスカは渋々折れる。

 

「あーあ、モテるやつはいいよな。せっかくイメチェンしたってのにさ」

「ちょ、ちょっと相田? 隣のクラスの子で気になってるって子がいるから諦めないで」

「宮下、それホント? シンジへの橋渡し役だったりしない?」

「多分違うと思う」

「よっしゃあ、俺、がんばるよ、相田少尉、吶喊します!」

「ケンスケ、落ち着けや、そんなんやったらアカンのちゃうか?」

「そうね、鼻息荒くして迫って来たらドン引きよ、アタシなら蹴り入れてるわ」

「いや、ワシら迫ってなくても船の上でどつかれたんやけど」

「何か言った?」

「シンジ、鬼嫁なんとかせえ、霧島といちゃついとる場合ちゃうやろ」

「誰が鬼嫁よ」

「おまえじゃい!」

「シンジ君、お肉ひとつちょうだい!」

「いいよ」

「あーん」

 

 俺の箸の先の肉に喰らい付く霧島さん。

 

「ちょっとシンジ、餌付けしてんじゃない!」

「あーっ、間接キスだ!」

「おいしい!」

「信じらんない、弁当箱に置かれるまで待つのが当たり前じゃないの?」

「こういうのは、直接貰うから良いの」

 

 宮下さんの指摘に、アスカは指を突き付け、霧島さんは笑顔だ。

 こうしてワイワイと霧島さんを入れて8人で昼ご飯を食べたわけだがアスカと霧島さん、ケンスケが気になって飯の味どころじゃなかった。

 

 そして昼を過ぎ、胃腸が消化しようと動いて眠くなってきたころ、突然、非常呼集がかかった。

 久方ぶりの非常呼集に、折り返し電話をしようとしたところ突然ブツッと切れてしまう。

 何が起こってるんだ?




用語解説

1TKBn1Co:第1戦車大隊第1中隊を示すアルファベット表記。TKが戦車、Bnが大隊で、Coは中隊を表す。

GTO:学園ものギャグ。藤沢とおる『GTO』。元暴走族のいち教師22歳が主人公。エヴァもネタになっており、いじめられっ子の少年のキャラデザがシンジ君っぽかったり、ある女子生徒が髪色を青く染めた際に、「もみあげを内側にカールさせると綾波にクリソツ」というネタがあった。教頭のクレスタは毎回全損になる。

声が小さい:新隊員教育隊や部隊でよく聞くワード。陸士だとこの言葉に反応して声が枯れるまで声を出すようになる。これは無駄に気合を入れるためだけにやっているわけではなく、戦車のエンジン音や砲爆撃、その他戦闘騒音下で意志の伝達や命令の復唱などにおいて声が小さいと聞き取れないためである。
また「大砲耳」といって砲撃音などで聴力が低下し、小さな音が聞き取れなくなってる者もいるためだ。戦闘職種の職業病である。


自衛隊体操:陸上自衛隊で行われる体操。体力の増進を図るのが狙いで、新隊員教育で習い部隊に行っても続く体力増進運動。陸曹は陸士の指導にあたるため、陸曹教育隊などで鏡動作を練習させられる。軽やかな音楽が流れるのだが、部隊によっては毎朝行われるため、曲だけで憂鬱になるものもいる。

WAC:女性陸上自衛官のこと。空自はWAF、海自はWAVEという呼び名である。戦略自衛隊ではどのような呼ばれ方をするのであろうか……。

パリスアイランド:合衆国海兵隊のブートキャンプが所在する地名。フルメタルジャケットで登場することで有名。

ミリタリーケイデンス:日本語では連続歩調。ランニング時に選ばれた者や教官助教がコールし列中の他の者が答える。有名なものが前述した『FMJ』のもので、ファミコンウォーズのCMにも用いられた。

武装障害走:鉄帽、戦闘装備、小銃を付けた状態で様々な障害物を突破する障害物競走。中隊対抗などで行われ、団結の強化という効果を得られるのだ。タイムがよい者が多く総合点が高い中隊に、「武装走最優秀中隊」という木の看板が授与され、中隊事務所前に飾ることができる。

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