エヴァ体験系   作:栄光

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錯綜する状況の中で

 着信音からして緊急回線、第一種警戒態勢以上なので戦闘要員であるチルドレンは本部待機だ。

 なお、宮下さんは監視の都合上のチルドレンであって“非戦闘員”なので召集対象ではない。

 

「先生、碇、ほか二名、早退します!」

「わかった、気をつけてな」

 

 クラスメイトの前で英語教師に早退を告げると、学校の来客駐車場に向かって走る。

 

「加持さん!」

「シンジ君か、さっき本部と連絡が取れなくなった!」

「どういうことよ! 使徒は渚だけなんじゃ」

「使徒じゃない、おそらく対人戦闘になる」

「碇くん、彼らが動いたの?」

「わからないけど、でもその可能性は高いな」

 

 ネルフ本部に駆け付けると、ゲート前には国連軍、戦略自衛隊の部隊が集結していた。

 

 OD作業服あるいは旧迷彩服に身を包んで、89式小銃を装備しているのが国連軍自衛隊である。

 俺が普段よく見てる“戦自さん”はOD単色か新迷彩の“緑っぽい服装”の人たちだ。

 いま此処にいる戦自隊員は黒い市街地戦用“暗色迷彩”を着ているところから、対使徒戦には参加していない。

 

 おそらく戦略自衛隊の特殊部隊である“中央即応師団”の隊員だろうか。

 ミリタリー誌によると彼らは機動力に優れ、対テロ作戦、低強度紛争、国内の緊急事態に投入されているとか。

 

 それはさておき、どちらの所属車両かパッと見では区別がつかないが自衛隊車両がネルフの出入り口を抑えている。

 高機動車、3トン半、装輪装甲車、パジェロ……どちらも同じ車種を使っているのだ。

 黄色い移動式車止めが置かれて検問が張られている。その向こうは戦自所属の車両で塞がれている。

 当然業務車のウィッシュも止められ、車の周りにOD作業服の隊員が集まって来る。

 こうなれば強行突破も出来ない、車を降りて顔見知りの隊員の一人に尋ねる。

 

「これはどういうことですか?」

「碇くんか、34連隊は3号施設……ネルフ施設の警護出動を命じられて展開中だ」

 

 警護出動とは自衛隊施設や在日米軍施設がテロ等の攻撃にさらされるであろうと予期されるときに、内閣総理大臣より命ぜられるものである。

 つまり、日本政府を巻き込むような何かが起こっているのだ。

 

「えらく物々しいじゃないか」

「情報の出どころはわからんが、なんでも大量破壊兵器を積載している疑いが強い船団が領海内で発見されたらしい」

「それでどうして?」

「これ秘密だけど、瀬取り監視の哨戒機がヒト形っぽいシートの膨らみを見たんだってさ」

 

 普通科連隊の隊員曰く「ネルフ施設に向かっていると思わしき複数の()()()が発見された」という情報を受け、内閣総理大臣より国連軍を通じて()()()()()()が下達されたそうだ。

 だが不審なことに独自戦力である戦略自衛隊の一部の部隊には、ネルフ本部に「立ち入り検査を実施せよ」という行動命令が届いていたという。

 さらに、「エヴァンゲリオンを使っての大規模テロ(サードインパクト)を画策しているため、これを破砕せよ」という部隊行動の承認つきだ。

 

 押っ取り刀で到着した二つの自衛隊はお互いを抵抗勢力もしくは武装ゲリラと思い、あわや武力衝突という事態になった。

 真っ向から食い違う命令に戦自、陸自とも上級部隊に確認を取っているものの、ある一定のところでどうも止まっているらしい。

 次の命令が来るまでネルフ本部の警備を陸上自衛隊が行い、ネルフ本部前に集結しつつある戦略自衛隊の部隊とにらみ合っている状況だ。

 

「本部の中には入れないんですか?」

「戦自が誰も入れるなって言ってきてる、すっかりネルフを“カルト集団”と見てるよ」

「向こうさんは行治命、ええっと……ネルフに対する“治安出動”命令で来てるからな」

 

 ある小隊長が耳打ちしてくれたので戦自の方を見ると、雷光のマークの機動戦闘車が車両進入口に105㎜砲を向けている。

 小銃を持った隊員、無反動砲やら機関拳銃を装備した戦自隊員が近寄る車両を停めに掛かっている。

 

「ゼーレが動いたか」

「どうするんですか、エヴァに乗れなきゃ白兵戦だ」

「私に考えがあります」

 

 俺と加持さんの会話を聞いていた彼が機転を利かして入り口を固めている車両を動かすように命じた。

 

「碇さん、私が3トン半を動かしたら、その陰に隠れて突破してください」

「わかりました、恩に着ます……加持さん、お願いします」

「わかった」

「あなたは、身を挺して国民を守ってくれたんだ、……日本をよろしく頼みます」

 

 そう言うと幹部自衛官は警備部隊に車両移動をするように命じる。

 ドライバーの陸曹や、武器を持って立っていた陸士たちは「なんだなんだ」といきなりの車両移動に戸惑っていたようだが、俺と加持さんがアスカと綾波の待つ車に戻るのを見て察したようだ。

 

「加持さん、シンジ! 何なのコレっ!」

「ゼーレが補完計画を始めたのさ、飛ばすぞっ」

 

 加持さんは一気にバックして車止めが動かされるや否や、戦自車両の隙間を通って車両搬入口に向かって突進する。

 この異変に気付いた戦自隊員が拡声器で叫ぶ。

 

「そこの車両停まれ! さもないと発砲する!」

 

 銃を構えた一団とウィッシュの間に陸自の軽装甲機動車が飛び込んできた。

 MCVの砲身がこっちを向く。

 撃ってくるとしたら105㎜戦車砲か、それとも同軸の連装銃か。

 

「こっち見てる!」

 

 アスカが叫んだ。

 だが、すぐさま3トン半トラックが目隠しに入った、防弾性のないソフトスキン車両なので撃たれたらおしまいだ。

 彼らが射殺してでも阻止しようとしていたら、あるいはヒューマンエラーなどで暴発したなら俺らはもちろん、乗っている操縦手の命はない。

 G11小銃と無反動砲を持った戦自の小銃班が車の前に立ちはだかった。

 

 その時、エンジン音を響かせながら96式装輪装甲車が横から突っ込んできた。

 車長用キューポラにはさっきの幹部自衛官の姿があった。

 行け、というようにサッと手を振り下ろし、挙手の敬礼をした。

 

 轢かれてはたまらんと慌てて左右に飛びのいた戦自隊員が怒鳴る脇をウイッシュは駆け抜ける。

 ウイッシュで遮断機をぶち破りカートレインの手前までたどり着いたのだが、シャッターは固く閉ざされて行き止まりだ。

 

「ここからは歩いていくしかないな、シンジ君、銃を頼む」

「了解、下車戦闘用意」

「ちょっと、真っ暗じゃない!」

「搬入路は電気が落ちてるな、どうするんですか加持さん」

「迎えが来るはずなんだが、葛城もそれどころじゃないのか」

「抜け道ならあるわ」

 

 車に備え付けてあった懐中電灯と車載工具、拳銃をもって通路を進む。

 綾波が天井の一角、少し色の違うパネルを指さした。

 

「レイ、ダクトの中を進むっての?」

「電源が落ちているなら、それしかないわ」

「じゃあ俺が踏み台になるから、シンジ君、行ってくれ」

 

 加持さんが腰を曲げて馬跳びの馬を作ると、その上に綾波が乗って天井パネルの留めネジ4ヶ所を外した。

 綾波を先頭に、アスカ、俺とダクトに上る。

 電源コードや通信線がまとめられているパイプが通っており、少し窮屈だ。

 アスカと綾波に先行してもらい、最後に加持さんがダクトに入る。

 俺が投げ渡された銃を受け取ると、助走をつけてダクト開口部に飛びつき、腕力で登って来た。

 こういう時身長のある大人ボディが役に立つんだな。

 

 原作のネルフ停電回を思い出すような四つん這いでジオフロント直通リニアレールに出た。

 長いキャットウォークを歩いて降りる。

 電気が通っていないようで、内線電話もダメだ。

 

「加持さん、中も電源落ちてるところ見ると……居るんですかね」

「ああ、いるだろうな。破壊工作をするとしたら心当たりがある……」

 

 前回のネルフ停電の実行犯の疑いがある加持さん曰く、複数の破壊工作員が関与していたのではないかという。

 本部施設内で鉢合わせて銃撃戦なんて冗談じゃないぞ。

 

 本部施設の廊下を歩いて発令所に向かっている最中に、5人組の保安諜報部員が現れた。

 黒いスーツの上にフリッツ型の鉄帽、防弾ベストを付けて、拳銃を携行している戦闘服装だ。

 一番ガタイの良い、身長185センチはあるだろう大男がこちらに歩み寄って来た。

 

「緊急事態ですので、我々とともに来ていただきたい」

「迎えが来たわ!」

「急ぎましょう」

「ちょっと待ってくれ、作戦部の葛城は何処にいる?」

「……第一発令所でお待ちです」

「シンジ君っ!」

「アスカ、綾波っ! 走れッ!」

 

 俺と綾波、アスカは通路の曲がり角を駆け抜け、加持さんはすぐさま拳銃を向けて走り出す。

 

「ファースト、サードを確保しろっ」

「セカンドと加持は多少痛めつけてもいいっ」

 

 無条件射殺をするほど頭が沸いてるわけでも無いようで、闇の中を追って来るのがわかる。

 普通に鬼ごっこをしたんじゃ負ける。

 嫌がらせ程度でいいので時間を稼がないと……。

 休憩コーナーの空き缶をぶちまけて暗闇で走りづらくしたり、ABC小型消火器を天井に噴射してリン酸塩の煙幕を作ったりしながら逃げる。

 

「加持さん、アイツら何なのよ!」

「あれは、碇司令の子飼いの勢力だ、合言葉を知らないからな」

 

 合言葉は、『第七ケイジ』だ。

 

「レイちゃんを使ってサードインパクトを起こそうとしている」

「捕まったら、ドグマで儀式かなっ」

「それは、嫌」

 

 止まっているエスカレーターを駆け下りながら言う、メインシャフトの壁に反響して足音が幾重にも聞こえてくる。

 

「じゃあアタシと加持さんはっ」

「依り代の初号機()()はどうなってもいいんじゃないかっ? 綾波ッ次どこへ行けばいい」

「緊急エレベーターは独立してるから、まだ動いてるはずっ」

 

 綾波の話にケイジ直通エレベーターに向かう。

 もし全館系、中央縦穴(シャフト)系が破壊工作などで停電していたとしてもエヴァ周りは予備電源装置、ジーゼル発電機でバックアップが行われているからだ。

 直通エレベーターに駆け込むと、俺と加持さんが出口を警戒する。

 目的のアンビリカルブリッジのある階までとても短く感じた。

 

 ドアが開くとそこには、武装した9人の保安諜報部員とゲンドウが立っていた。

 こっちは拳銃2丁、向こうは拳銃1の短機関銃9丁、一発撃てば十発のお返しってか。

 

「碇、司令」

「レイ、約束の時だ。共に来い」

「嫌、私はまだやることがあるもの」

「司令、外じゃ戦自が動いてる。緊急事態なんだよ」

「分かっている、シンジ、お前が時間を稼げ」

「司令、葛城や発令所の皆はどうなったんです?」

 

 加持さんが尋ねると、ゲンドウはメガネを輝かせて言った。

 

「殺してはいない、彼らにはまだやってもらう事がある」

 

 そこに電話がかかって来た。

 

『碇、ゼーレが量産機をこちらに向かわせたそうだ、急がないと間に合わんぞ』

『あんた達、こんな事してる場合じゃないのよ、状況分かってるわけ!』

 

 電話の相手は冬月副司令だ、後ろで喚く葛城三佐の声が聞こえる。

 

「時間が無い、奴らを拘束しろ」

「抵抗するなよ、痛い思いをするだけだ」

「くそっ」

 

 保安諜報部の部員に取り囲まれ、俺と綾波、そして加持さんとアスカは拘束されてしまった。

 

 万事休す。

 

 俺と綾波は銃を突き付けられながら、第7ケイジに向かう。

 

「シンジ、エヴァに乗れ」

「その前に一つ聞いていいか」

「なんだ」

「アンタにとって、碇ユイはどんな存在なんだ」

「私にとってユイは全てだった、ようやく再会の時だ」

 

 ゲンドウがそう言って綾波の下へと近づいていく。

 その時、ケイジを激しい横揺れの振動が襲った。

 保安諜報部員とゲンドウ、俺も揃って転ぶ。

 

「うおっ!」

 

 尻もちをついた状態から立ち上がると、今まで立っていたアンビリカルブリッジが動いているではないか。

 ロックボルト解除シークエンスの放送も無いし退去指示ブザーも鳴ってない。

 

「いったいなにが……うわぁぁ!」

 

 保安諜報部員の一人が、アンビリカルブリッジの脇を指さし、銃を構える。

 そこには赤い巨人が両手で力任せにメキメキとアンビリカルブリッジをこじ開けているではないか

 

「エヴァ弐号機だと? セカンドチルドレンが乗っているのか?」

 

 ゲンドウの疑問に答えるように一人の少年が宙に浮いてやって来た。

 ひとりの保安諜報部員が恐怖にかられて、カヲル君に向かって短機関銃を乱射した。

 しかし、9mmの弾はA.Tフィールドによって阻まれ、傷1つ付けられない。

 ゲンドウは黄色く輝いて見える強固なA.Tフィールドに対し、拳銃を仕舞った。

 

「シンジ君、助けに来たよ」

「カヲル君、アスカと加持さんは?」

「無事だよ、僕が弐号機でロックを外している間にプラグスーツに着替えてもらっている」

「でかしたっ、どうやら量産機がこっちに向かってるらしいな」

「そうみたいだね、アレは僕のデータで作った()()()()さ。ダミープラグと呼んでいたね」

「ダミープラグ、私のものもある」

「量産機は全部カヲルタイプなのか?」

「そうだよ、レイ……綾波さんは情報の無いファーストチルドレンだったからね」

 

 下の名前を呼んだ瞬間、「馴れ馴れしく呼ばないで」とジロッと睨む綾波。

 カヲル君は訂正すると、何事も無かったかのように続ける。

 俺が綾波に同じことされたらしばらくへこむぞ。

 

「ダミープラグ突っ込んだらどうなるんだ」

「ある一定の段階までは制御できるけど、戦闘モードに移行したらエヴァの闘争本能任せさ」

「つまりは、暴走みたいな動きになるわけだ」

 

 カヲル君の一言で、俺は覚悟を決めた。

 ダミープラグはおそらく、ヒトという“理性を司る部分”がないため辺りに被害を出すだろう。

 原作で参号機を潰したダミーシステムのように、劇場版の量産機が弐号機を喰い散らかしたように。

 親父の補完計画についてどうこうするのはその後だ。

 

 カヲル君がゲンドウの前に降り立った。周囲を保安諜報部の奴らが取り囲み銃を構える。

 一瞥こそするものの涼しい表情で白手袋の下のモノを見る、三島沖で加持さんが持って逃げたアダムの胎児だ。

 

「僕の分け身を使ってリリスと融合をしようとしたのか、でも彼女には()()()()が芽生えている」

「フィフス、どういうことだ」

「シンジ君風に言うと、『詰み』って事さ」

「そういう事らしい。発令所でここの会話を聞いてる冬月先生も残念だったな」

「シンジ……」

「碇司令、もっと言いたいこともあるんだけどそれは後だ、出撃命令出してくれ!」

「……ああ。発進」

「碇シンジほか二名の者は、量産機迎撃任務にあたります!」

 

 ゲンドウに正対して姿勢を正す敬礼をすると、左向け左でエントリープラグに乗りこんでエントリーを開始する。

 整備班が銃を突き付けられながらも、プラグを半挿入の状態にしていたらしい。

 国連軍や戦略自衛隊との戦術データリンク回線はまだ途絶していない

 ゼーレとしてもそこまで手を加えてしまうと直接占拠に支障が出ると考えたんだな。

 MAGI経由のリアルタイム音声画像中継システムは死んでるけど、エヴァ単体の機能はまだ生きている。

 広域戦術画面にし部隊の状況を確認するとともに、プリセットされている国連軍系の音声回線を繫げる。

 発令所との間の直通回線は映像伝送も生きているようで、ウィンドウが開いた。

 

「シンジ君! そこにいるの?」

「はい、カヲル君に助けてもらいました」

「赤木博士、データリンクの一部機能がシステム障害起こしてるんですけど」

「シンジ君、MAGIタイプを含む数百か所から攻撃を受けて防壁を張っています。MAGIの支援はないものだと思って」

 

 映像回線の向こうではオペレーターや葛城三佐が出撃準備をしていた。

 赤木博士もマヤちゃんの後ろについて、キーボードを叩いていろいろ作業しているようだ。

 先ほどまで銃を構えていたであろう保安諜報部員がポケーっと壁際で立っている。

 

「葛城三佐、今、エヴァ量産機が接近中だそうですけど状況は?」

「国連海軍が三宅島沖の不審船団を臨検中に突如起動、羽のようなもので飛行中よ」

「エヴァ零号機、起動しました!」

「綾波っ!」

「本部施設内のパターン青消失、弐号機起動!」

「渚のやつ、アタシの弐号機で好き勝手やっちゃって……」

「アスカっ!」

「碇が戻るまで私が指揮を執る。……シンジ君、発進したまえ」

「それじゃ、行こうか!」

 

 冬月副司令の指示に従い、整備班によって発進シークエンスは進んでいく。

 射出用リニアレールに乗ると、地表まで4分半で到達する。

 

「エヴァ全機、リフト・オフ」

 

 発進口前に戦略自衛隊のMCVが数台止まっており、上空には戦自の重戦闘機が複数機居る。

 ネルフ本部立ち入り検査における、近接航空支援にやって来ていたようだ。

 俺は外部スピーカーを作動させる。

 

「所属不明の人型兵器が複数こちらに向かって飛行中、住民の皆さん、シェルターに避難してください」

 

 思ったよりデカい音量だったせいか、窓ガラスが数枚割れたようだ。

 弐号機、零号機が続いて上がって来ると、避難を呼びかけ、足元の車両に気を付けながら街の外れまで行進する。

 エヴァが引きずっているアンビリカルケーブルに巻き込まれたら死ぬので自衛官らには離れるよう呼び掛ける

 

「所属不明機接近中、危険ですから足元の部隊は離れて!」

 

 旧来の音声デジタル無線機で国連軍の師団司令部を呼び出す。

 合同演習以降にこうした有事の際のホットライン作っておいて正解だったな。

 

「我、エヴァ初号機、派遣中の部隊に住民の避難をさせてください。送れ」

「ネルフからの要請という事ですか?送れ」

「はい、現在、本部コンピューターがクラッキングを受けているので師団系加入で交信します、送れ」

「了解、終わり」

 

 通常であれば視界内にMAGIで処理された戦術情報などが表示されるのだが、かろうじて使えるLINK16ネットワークの情報だけが頼りだ。

 国連軍や戦自の関わらないような状況に対しては、C4I導入前の昔ながらの戦車や普通科隊員みたいに音声通話のみですべてを判断しないといけない。

 

「空自より、9機の正体不明機に対し問い合わせがあります」

「目標はエヴァのような形状でIFF応答なし、警告射撃に応じないとのことです」

「そりゃカヲル君のダミープラグだからな、無人機だよ」

「シンジ君、何か知ってるの」

「さっき5号機について聞いた、無人で()()()()()()()から飛び道具はなし」

「じゃあアタシ達が射撃してやったら手も足も出ないってわけね」

「油断は禁物、もうすぐ来るわ」

 

 戦域マップに赤い脅威マークが表示された、空自の要撃機(FI)を伴って小田原方面より飛来してくるようだ。

 武装ビルから剣付きパレットライフル改Ⅱ型を取り出し、装備する。

 弐号機はポジトロンライフル20番、零号機はスナイパーライフルを装備して接近を待つ。

 

「強羅防衛線より連絡、東よりエヴァシリーズの接近を確認」

「戦自の技術実験団から通報、実験機2機が()()してそちらに向かったとのこと」

 

 こんな時に暴走事故かよ……HOSでも積んでたのか? 

 いや有人機だし、タイミング的にゼーレの仕組んだことかな。

 

「おそらく、意図的なものでしょうね、実験機って何なの」

「2足歩行の陸上巡洋艦だそうです」

「シンジ、陸上巡洋艦ってなんなの?」

「字面で見たら馬鹿デカい戦車ってところだけど、足つきっていうのが曲者だな」

「どうして?」

「こっちに向かって突っ込んでくる以上、ノロくて重い飾りじゃなくて走破性がある。使えるってことだよ」

 

 ゲーム版通りのトライデントなら恐竜のようなデザインで、限定的に飛行能力もあるらしい。

 あれもこれも詰め込んだハイコスト装備よく予算通ったな。

 

「人は乗っているの?」

「わからないわ、でも、無人機とは言ってなかったような」

 

 綾波の疑問にネルフのオペレーターも困る。

 なにせ、防衛秘密の厚いヴェールに包まれた実験機が暴走したわけだ。

 戦自技実団は出来る限り開示情報を絞ろうとする、そのため制御周りは何も教えてくれない。

 

 前門の量産機、後門のトライデントっていうわけか。

 

 

 




今作の国連軍自衛隊はOD装備と熊笹迷彩の混用された90年代のような装備です。

情報源に関しては陸幕2部やら調査部別室などの情報機関であり、電波の傍受や様々な手段で収集した情報を防衛庁長官や総理大臣にあげていました。

偽の命令はコンピューターのファイル改ざんやら複数の決裁印の偽造など複数の人間(ゼーレのシンパ)が関わり作成され、さも正規の手段で降りてきた命令のように下級部隊へと届けられました。


用語解説

迷彩作業服1型:熊笹迷彩・旧迷彩という通称があり、北海道の植生に合わせたという大柄な迷彩。地下鉄サリン事件で着用されていた化学防護衣が迷彩1型である。

新迷彩(迷彩2型):コンピューターで合成したという現行の陸自迷彩。シト新生のビデオのパッケージのイラストにそれらしい迷彩帽を被っていた戦自隊員が居たため、今作では戦自の野戦迷彩という位置づけに。後に陸自・海自の陸警隊にも採用され、合衆国軍のマルチカム迷彩みたいな存在となる。

中央即応師団(CRD):有事における即応対処、機動運用部隊および特殊部隊等の専門性の高い部隊の一元管理のために作られた。
旧劇場版のネルフ施設占拠の際には隷下の特殊部隊や重戦闘機隊などを運用していたようだ。
元ネタは陸自の中央即応集団(CRF)

警護出動:日本国内におけるテロ攻撃、武力攻撃事態において攻撃が予想される場合に自衛隊が施設等の防護に回るための法律。
内閣総理大臣が命令を下し対象となる施設は1号(自衛隊施設)、2号(在日米軍施設)とある。
今作の設定においてネルフ施設は架空の3号(国際連合機関等の施設)に該当する。
こちらは国会の承認を必要とせず、事態がまだ起こっていないときに発令されるもの

治安出動:通称行治命、警察力で対処できない暴動、過激派団体による攻撃など治安が維持できないときに発令される最後の切り札。こちらは“すでに事態が起こり”国会の承認を経てから総理大臣命令で下達される。要請まではあったが出動した試しはなく、こんなややこしい命令をサラリと捏造して発令してしまったゼーレ構成員がいるとか。

C4I:指揮・統制・通信・コンピューター、そして情報の頭文字を組み合わせた現代の軍事情報概念。戦闘団と情報を共有し効率よく指揮統制するシステムの事を指す。なお、10式戦車からC4Iシステム対応機器が搭載され上級部隊や中隊の僚車と敵の位置や画像などを共有できるようになった。

IFF:敵味方識別装置、受信電波に対して特定の信号を発信するトランスポンダによって敵味方を識別している。

HOS:篠原重工が世に送り出した人型産業機械用OS、開発者は帆場暎一。画期的なOSであったものの特定の条件によって暴走して操作を受け付けなくなるほか、たとえ電源を落としていようが勝手に起動して機械が無人で暴れ出すといったとんでもない罠が仕掛けられていたのだった。元ネタは『機動警察パトレイバー』

陸上巡洋艦:巨大な砲を持った超重戦車、構想としてドイツの『ラーテ』などがあったが大きすぎて実現には至らなかった。重すぎて動けない、橋が渡れないなどの欠点をエンジン出力で克服し、飛行能力、潜水能力を身に付けたのが研究中のトライデント級である。

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