エヴァ体験系   作:栄光

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番外編:芦ノ湖の怪生物編の最終話です



芦ノ湖のヒルコ

 2018年1月27日

 

 三が日、成人式もとうに過ぎ去って、気づけばもう1月の末。

 年末から世間を騒がせている“芦ノ湖の人食い怪生物”の駆除作戦がついに決行に移されることになった。

 芦ノ湖に流されたゼーレの“神の子”の()()()()()は“ヒルコ”と命名され、以降、対策本部内では“ヒルコ”と呼称される。

 イザナギとイザナミの子であり、不具の子もしくは奇形であったから葦船で流されてしまったという『古事記』の逸話からそう命名されたのだ。

 ヒルコ駆除作戦の概要としては、エヴァンゲリオンのA.Tフィールドでヒルコをおびき出す。

 エヴァ2体で抑え込んで細胞破壊弾“アポトーシスⅡ”を撃ちこむことでこれを撃滅するというものだ。

 内閣の承認を経て、使徒戦より2年ぶりにエヴァが大地に立つ。

 戦略自衛隊及び陸上自衛隊は編成完結式を終え、御殿場で集結し第三新東京市で特災研の車両と合流する。

 

「自衛隊さん、がんばってくれよ!」

「怪獣に負けんじゃねーゾ!」

 

 自衛隊車両には“災害派遣 東部方面隊”の幕が掛けられ、対岸の怪物騒ぎである第三新東京市の住民の歓呼を受けながら走り去っていく。

 相田ケンスケや鈴原トウジ、サクラもわざわざ沿道に見に行った住民の一人であった。

 特災研に移行し、車列に特務機関ネルフ時代のロゴマークが付いた車など居ない。

 そのためどの車に友人たちが乗っているか分からず三人、特に年長の二人は手当たり次第に声をかけていく。

 

「シンジ! 人食い怪獣なんてどついたれやぁ!」

「おにいウルサイわ……あのバス?」

「あれ惣流だよな! あっ、こっち見た! おーい!」

 

 OD色や二色迷彩塗装の3トン半トラックや装輪装甲車の間に挟まれるようにしてグレーのマイクロバスがいた。

 戦自の輸送隊から借りている人員輸送車であり、今作戦では特災研の職員の人員車として用いられている。

 聞き覚えのある声に外を見たアスカは、何やら叫んでいる様子のダウンジャケットと目が合ってしまった。

 小学生の妹の手を引いて叫び、周りからの目線が集中する様子を見たアスカはあまりの恥ずかしさに頭が痛くなった。

 隣にいる野戦帽を被った国民擲弾兵(てきだんへい)モドキなんか見なかったことにしたい。

 

「うげっ、あのバカは何騒いでんのよ」

 

 どうやら彼を呼んでいるらしいので、反対側に座るシンジに声をかけた。

 

「シンジ、ラブコールよ。良かったわねぇ」

「あはは……」

 

 敬礼するケンスケと手を振る鈴原兄妹に、手を振り返す。

 自衛官は移動や行進訓練中よく市民に手を振られ、声をかけられることがあるのだ。

 シンジはそんなときニコリと笑って大きく手を振ってやる、すると沿道の市民からの声も大きくなった。

 いつもの蒼い制服ではなく、プラグスーツの上にJSDFのワッペンの付いたOD色の簡易ジャンパーを着込んでいるシンジたちが自衛官に見えたのだろう。

 

「じえいたいのお兄ちゃんに手を振ってもらったの!」

「よかったねえ」

 

 そう嬉しそうに言う親子連れを見て、ケンスケはシンジが羨ましく思うとともに格好よく見えた。

 歯を見せず眼だけで笑って手を振る姿、そして、国民のために命を懸ける姿。

 進路調査票に“自衛官”と書こうとあらためて決意したのだ。

 

『1月27日午後4時より県道75号線全線、国道1号線の一部区間が特別災害対策法によって通行止めとなっております……元箱根方面へは行けません』

 

 第三新東京市から芦ノ湖の東岸を通って国道1号東海道につながる県道75号線を前進して、元箱根町の箱根出張所まで向かっていた。

 第14使徒戦後、超特大キャリアでの機動運用を前提として再建された6車線道路を目いっぱい使い、キャリアの前後はパトカーと戦略自衛隊の車両が固める。

 カーラジオからは交通規制が行われているという内容が繰り返し放送されていた。

 一般車が居るとエヴァ積載キャリアが通行できないからである。

 

 シンジは後ろを走るキャリアを見上げた。

 

 __ホントにデカいなあ。事故ったらこっちがぺしゃんこだな。

 

 車体の長さは40m以上あり、車幅だけで4車線道路くらいありそうだ。

 元箱根町内への展開という事もあって空挺降下が出来なかったため、ネルフ時代にもやったことのない初のキャリアトラック輸送である。

 

 住民の多くは使徒戦時に何らかの被害を受けていたこともあり、8割が既にシェルターに避難していた。

 僅かに残った民間人は町役場の職員と消防団員、移動困難な高齢者、重病者だけだ。

 町の各所に白いパジェロや白バイが停まっており、MPの腕章をつけた警務隊員が赤いLED誘導棒を振っている。

 戦略自衛隊警務隊の交通統制の下、エヴァンゲリオン2体を載せたキャリアは国道1号線に到着しリフトオフ。

 

「エヴァ初号機、弐号機、リフトオフ!」

 

 キャリアから起き上がった初号機と弐号機は、トレーラー積載されたエヴァ用拳銃を手に取る。

 箱根町箱根出張所脇の非常電源プラグから電源を取り、戦闘態勢へと移行する。

 

「久しぶりねママ。今回も頼むわよ……」

 

 アスカは久々の実機、弐号機の中に心が落ち着いてくるのを感じる。

 シンクロ率は89パーセントをマークし、射撃姿勢をとってみると滑らかな動作で、思ったように動く。

 

「もっと日本政府が渋ってくるかと思ったけどなぁ」

「あの時に痛い思いしたから、出し渋んのやめたんじゃないの」

 

 シンジはエヴァの使用許可が内閣からあっさり下りたことに拍子抜けしていた。

 少し動かすだけで数億円と戦車が3両~4両ほど調達できるくらいの費用が掛かるため、承認が降りないのではないかと思っていたのだ。

 ところが現内閣は使徒との戦いを経験していたから第14使徒戦のような「あの焼け野原を作るまい」とあっという間に承認が降りたのである。

 しかし予算の関係上エヴァは2機で精いっぱいであり、足りない数は戦略自衛隊の特機中隊のトライデント陸巡と従来の装備で揃えることになった。

 

「葛城課長、特機中隊からお電話です!」

「こっちに回して」

 

 ミサトは指揮通信車の中で無線電話を取る。

 電話の相手は特殊機甲中隊の坂本2佐であり、今作戦の指揮を執る指揮官だ。

 

「葛城さん、ウチのライデンはもう準備できている、そちらはどうか」

「ええ、こちらも準備は出来ています」

「了解、時間通りに」

 

 芦ノ湖上空を海自のSH-60K哨戒ヘリが飛び、MAD(磁気探知装置)とディッピングソナーでヒルコを捜索し始めていた。

 クジラを除く水棲動物より巨大であり、水中探査機という鎧を羽織ったがゆえに磁気探知装置に反応するのだ。

 暗闇に衝突防止灯の赤灯が見えているのでシンジはホバリングする哨戒ヘリにズームをしてみた。

 その状態で測距モードスイッチを入れると、自動でターゲットデジグネータが起動してズーム対象までの距離を視野の端に表示されるからだ。

 

 __距離4000。

 

「シンジ君、アスカ準備はいい?」

「バッチリよ」

「いつでもどうぞ」

 

 ミサトの最終確認にふたりは落ち着いた様子で返事を返すと、銃を構える。

 

「海自に発音弾を投下するように伝えて」

「目標位置、出ます!」

 

 青葉の声と共にデータリンク上に赤いアイコンが表示され、海上自衛隊機が“水中発音弾”を投下して離れていく。

 音波によって()()()()()()()に対する警告を発するこの弾は水中目標であるヒルコにもよく効き、バシャバシャと浮上してきた。

 そのままではあらぬ方向に逃げていくので、勢子(せこ)が射手であるエヴァの待つ方向へと追い込んでいくわけだ。

 その勢子役に選ばれたのが特機中隊のトライデント陸巡であり、強力なパワーパックから生み出された推力で水上を滑走して追い立てる。

 

「こちらライデン、目標を捕捉」

 

 山中に甲高いエンジン音が響き渡り、水面に巨大な影が現れる。

 はるか向こう側からやって来たその影は機首に設けられた目のような外部センサーを紅く輝かせ、失速寸前の機体で大きく左右に蛇行して突っ込んできた。

 

「ライデン、恩賜公園の方へ追い込んで!」

「わーってる! 撃っていいのか?」

 

 ライデンのパイロットである少年兵が機首の105㎜単装機関砲を撃っていいものか尋ねる。

 すぐさま対策本部の戦自指揮官、坂本2佐から応答があった。

 

「射撃は許可できない、繰り返す、射撃は許可できない」

「あんた、流れ弾が市街地に飛んだら危ないでしょーが!」

「俺らも箱根神社方向に撃てないから、頼むぞっ」

 

 今作戦においては、史跡や市街地に被害を与えるであろう重火器の使用は制限されているのだ。

 特に口径209㎜と規格外の大きさを誇るパレットライフルだと、流れ弾で重要文化財や避難シェルターなどを()()にするおそれがあったため、エヴァ専用拳銃が使用されることになり装弾数は3発だけだ。

 その3発もアポトーシス弾が1発、自衛用の通常弾が2発で初弾がアポトーシス弾であるから無駄撃ちが出来ない。

 シンジ、アスカとも初弾必中が要求されているのである。

 

「このウスノロがっ! 遅すぎて追い抜いちまうぜっ!」

 

 目標と岸までの距離が2000を切り、ライデンがいよいよ着水してしまうところで誘導が行われる。

「目標、前方水面1500、MG、撃てッ!」

 

 元箱根港に待機していた陸上自衛隊の120㎜迫撃砲RTが照明弾を一斉に撃ち上げ、湖面に浮かび上がったシルエットに対し装輪装甲車や軽装甲機動車ルーフ上の12.7㎜重機関銃を発射した。

 紅く伸びる曳光弾は予想通り、薄いA.Tフィールドによって弾かれているようだ。

 

「パターン青! 使徒です!」

「シンジ君、アスカ、今よっ!」

「A.Tフィールド全開!」

 

 シャアアア! 

 

 嫌がらせのように何かを飛ばしてくる奴らの居る元箱根港から、A.Tフィールドを持つ何かがいる方へとヒルコは向きを変えた。

 

「やっと来たわね、シンジ、ヘマすんじゃないわよ」

「そうだな、アスカこそ水中に引きずり込まれないように」

 

 ヒルコは勢いよく岸へと飛び、一里塚付近で上陸し四足歩行でエヴァへと近づいてくる。

 

「12月より明らかにデカくなってんじゃない! ミサトっ!」

 

 犬で例えるとポメラニアンがジャーマンシェパードになったかのような変わりようだ。

 そして体躯の大きさだけでなく、昨年12月の上陸時には無かった鞭のような舌をシュッと伸ばす。

 

「舌ぁ?」

「カメレオンみたいなことをっ」

 

 駐車していた車を舌で弾き飛ばすと、首をかしげて舌を戻してエヴァを狙う。

 1月の行方不明者はこのよく伸びる舌によって僅か数秒で捕食されてしまったのだろうか。

 

 

「アスカ、コイツ捕まえるから弾をッ」

「わかった!」

 

 初号機がひざ丈ほどのヒルコを押さえ込もうと近づくが2足歩行の人形と違って全高が低いこともあって掴みにくく、水かきの付いた手足ですばしっこく動き回られ翻弄される。

 

「踊ってないで早く押さえ込みなさいよ!」

「コイツカサカサと速いんだって」

 

 弐号機では射撃統制装置のピパーが忙しなく動き、偏差射撃モードでヒルコの将来位置を狙うが予想もしない急旋回などで再演算となって狙いが定まらない。

 

「そっちに行った!」

「向こうから来たわねッ!」

 

 ズトン! 

 

 飛び込んで来る目標にピパーが合いジャストミート!とばかりに弐号機の拳銃が火を噴いた。

 ところが特殊弾頭の弾は……ヒルコの背中を掠めるように貫通して飛んで行き、路面に穴を穿った後跳弾してどこかに飛んで行ってしまった。

 

「ゴメン外れたぁ!」

「アスカァ!」

 

 無駄になった貴重な一発に、ミサトは思わず叫ぶ。

 

「ヤバい、本部がっ」

「シンジ、追っかけるわよ!」

 

 ()()()()のヒルコはアスカの膝元をすり抜けると、指揮所のある箱根出張所方面へと向かって走っていく。

 振り回されるアンビリカルケーブルによる周辺危害を防ぐため、急旋回が出来ず弐号機が緩旋回で向きを変えてる横を初号機が駆けていく。

 それでも、数秒の差というものは大きいものであっという間に目標は離れていく。

 本部の前には直掩の機動戦闘車部隊がいるものの、近距離で跳んだり跳ねたりする相手に105㎜砲が追随できるかというと……とても難しい。

 結局は砲手やオーバーライド機能で操作する車長の腕にかかってくるわけだが、今回の目標は素早くて敵戦車や装甲車とはわけが違うのだ。

 

「出力最大、フィールドジェネレータ作動!」

「第2中隊、電磁境界柵起動!」

「退避! 15秒後通電、いそげっ!」

 

 ああ間に合わないと二人が思った瞬間、リツコの声が聞こえた。

 行政放送用のスピーカーからサイレンが鳴り、電源車やユニットまわりの戦自隊員たちが一斉に離れていく。

 熊蜂の羽音のような低い音と共に2本の棒から発生した“半透明の壁”に勢いよく激突した。

 そう、ユニゾンアタックで空から投げつけて第7使徒を分断するのに使ったジェネレーターはこういう防壁代わりにもなるのだ。

 

 キャアアアアアア! 

 

 勢いよく鼻先を打ち付けた目標は、ボート小屋のほうからまた湖へと転進する。

 

「リツコッ! そんなのあるなら教えてよっ」

「こんな事もあろうかと、準備しておいてよかったわね」

「リツコさん、それ言いたかっただけでしょ?」

「否定はしないわ」

「シンジ君、アスカ、目標が湖に逃げるわ、何としても食い止めて!」

 

 ヒルコはかすり傷がなかなか治らないなと思いながらも、追ってくる巨人から逃れようと芦ノ湖を目指す。

 

 __また湖底で身を潜めてやり過ごそう。そして、餌をとって傷を癒すのだ。

 

 そう考えてヒルコが湖に飛び込んだ瞬間、水柱が上がり共に着込んだ探査機の外板が吹き飛んだ。

 射弾による地上危険が無いと判断したアスカが、牽制射撃として撃ったのである。

 そこに拳銃を捨てた初号機が飛び込み、グーパンチで殴りつける。

 手だけで殴っており大した威力こそなかったが進行方向を恩賜公園側に向けることには成功し、初号機はザブザブと水から上がると木をへし折りながらヒルコと組み合う。

 

 さながら巨大アリゲーターと戦う漁師、街中の猪を捕まえようとする警察官のような情景だ。

 

 指揮所からその様子を見ている職員や隊員から、「エヴァはああも動けるものか」という声だけでなく、「ああっ植樹したところが」っという悲鳴も上がる。

 ミサトは悲鳴を上げる役場の職員に「何を呑気な事を」と思いながらも次の指示を出す。

 

「アスカ、シンジ君の銃を使って!」

「うおりゃあぁあ!」

 

 初号機の銃を拾った弐号機も助走をつけて飛び込み、対岸の乱闘現場に向かって駆け付ける。

 

「初号機、アンビリカルケーブル断線ッ!」

「この野郎!」

「シンジ!」

 

 バタバタと暴れるヒルコを後ろから羽交い絞めにして残り電源僅かの初号機に、アスカは銃を向けた。

 

「撃てェ!」

 

 2発の銃声が闇夜に轟き、腹に大穴を開けられたヒルコは最後の力を振り絞って電源切れの初号機を弾き飛ばし、湖へと逃げ込もうとする。

 

「ダメかっ」

 

 そう、この場から離れさえすれば餌を喰らうことで使徒由来の超回復能力によってより強靭に進化が出来るのだから。

 水上巡航形態のトライデントが一周して戻ってくる前に水中に逃げなきゃ、と青い血を流しながら湖面へと這って行く。

 その時、弾頭に充填されていたアポトーシスⅡが効果を発揮し始め、身体の各所が炎症と共に壊死し、血と吐瀉物を吐きながらヒルコは激痛にのたうち回る。

 ゆっくり歩いてきたアスカは苦しんでいる様子を見て銃を構える。

 

「悪く、思わないでね」

 

 最後の銃声が響き、“神の子”の出来そこないはその短い生を終えた。

 偵察ヘリコプターからの映像に拳銃を構えた弐号機と、頭を撃ち抜かれて事切れたヒルコの姿が現れた。

 

「戦闘終了、アスカは初号機を回収地点まで連れてきて」

「了解」

「目標細胞片の回収および処分急いで」

 

 運用課の職員がエヴァの回収をしている時、リツコや自衛隊の特殊武器防護隊は実験体の亡骸を確保する作業を行っていた。

 アポトーシスが指先に至るまで完全に効果を発揮するまでには2時間が掛かる、それ以前に飛び散った肉片からプラナリア的増殖をされないように回収し焼却や強酸処理を行う。

 戦略自衛隊の普通科隊員たちは火炎放射器を持って肉片の()()()に駆り出される。

 一方、国連軍自衛隊は不発弾や細胞片などが無いか探して、町の安全確認を行うとシェルターの住民の帰宅を見守っていた。

 

 

 こうして芦ノ湖に棲む人食い怪生物は退治され、近隣の街に平和が戻りましたとさ。

 めでたしめでたし……の一文で締めたかったのだが、この一件には続きがある。

 

 人類補完計画の失敗によって、先進国、とくに日本国内での活動が出来なくなったゼーレは中東や中国、旧ソ連加盟国などの未だに政情の安定していない地域に行き、細々と宗教的遺物の研究をしていたのだ。

 ゲンドウに掠め取られたあげく、“神の子計画の実験体”として芦ノ湖畔で朽ち果ててしまったアダムに代わり、アダムとリリスという生命の種をこの星に落とした“第一始祖民族”と呼ばれる“神のような”存在に近づこうと “聖遺物”と呼ばれるオーパーツを集め始めたのである。

 例によって“ネブカドネザルの鍵”やら“神殺しの槍”など怪しげなもので、聖遺物と先史文明の技術、錬金術と言ったオカルト方面に力を注ぎ始めたのである。

 日本を始めとした世界各国の諜報機関、特にイスラエルの諜報特務庁(モサド)は宗教絡みとあって神経を尖らせていた。

 

 

 

 

 そんな世界の裏側とは全く関係ないところで日常は過ぎてゆく。

 

「あーっ、寒ぅー」

「おはよう、アスカ。コタツ温まってるよ」

「うーん」

 

 起き抜けでボサボサの髪を撫でながら洗面所に消えていくアスカ。

 シンジはオーブントースターで自分の分の切り餅を焼き、砂糖を付けて食べる。

 

「冬の朝はモチに限るね」

 

 アコーディオンカーテンがシャッと開くと、シンジはカゴに入ったアスカの着替えをコタツから取り出して渡す。

 薄くメイクして身だしなみを整え、温めてあったハイネックシャツと毛糸のパンツに着替えるとコタツに滑り込むのだ。

 こうなったアスカは出勤直前までカメになって出てこないので、シンジが朝食を作る。

 

「シンジ、アタシの分は?」

「今焼いてるよ、何付ける?」

「砂糖醤油」

 

 砂糖に醤油を垂らした甘辛いモチを食べるアスカを横目に、シンジは朝のワイドショーを見る。

 相変わらず新作映画の宣伝やら、一向に解決を見ない政治スキャンダル、わりとどうでも良い内容がほとんどだ。

 時計代わりの情報番組を見ながらの朝食が終わると、二人は家を出る。

 シンジは高校の制服を着て高校に、アスカは黒いスーツを着て特災研本部のあるジオフロントへと。

 

 駅へと歩いていると、後ろからトウジとケンスケがやって来た。

 

「おーっす、シンジ」

「おはようさん」

「おはよう」

「ほな、ボチボチ学校行こか」

 

 環状線の“湖尻”で降りて学校までのゆるい下り坂を降りていくときに、後ろから原付が近づいてくる。

 振り向くとダブルコートに赤マフラーをたなびかせレイが走り抜けていった。

 レイの愛車をよく見ると“赤木改”とパロディステッカーまで貼られている。

 

「アレ、特注なんだってさ」

「ホンマ好きなやっちゃなぁ」

「リツコさんもバイクも好きなんだろうなあ……」

 

 シンジたちが教室に着くと、面白系イケメンことカヲルがいい笑顔で出迎えてくれる。

 

「おはよう、そういえば昨日のアニメは考えさせられたね、リリンの特徴をよく表しているよ」

「カヲルが見てるのって、動物が擬人化(フレンズ)してるアレか」

「朝っぱらから深夜アニメの話かいな!」

 

 ケンスケはシンジと共にカヲルをオタクの道に引きずり込んだ主犯の一人であり、カヲルの考察力には一目置いてるのだ。

 そんな彼が2話目にしてどこか不穏な雰囲気のアニメをカヲルに勧めないはずもなく、あっという間にふたりは世界にどっぷりと浸かってしまったのである。

 

「人は道具を作り、群れ、投擲が出来る生き物なんだね、シンジ君」

「そう、武器と戦術が使えて、悪辣だったから繁栄したんだよ」

「僕は実際に経験したからね、よく分かるよ」

「分かるんかい!」

「俺らエヴァで袋叩きにしたし、槍投げたし」

「なあ、使徒が()()()したらどうなるんだよ、カヲルみたいになるのか?」

「どうだろうねぇ」

「それただの“使徒XX(ダブルエックス)”じゃねーか」

「知ってるのかい? シンジ君」

「民明書房引用で良ければ話すけど」

「なんや、ホラかいな……」

 

 同じ人が書いた擬人化デザインの()()()()()()()なんだよ……とは言えずに窓の外を見た。

 キラキラ輝く芦ノ湖の水面と空に伸びゆく飛行機雲にシンジはふと、先月の出動を思い出す。

 

 

 あの実験体はおそらく、使徒XXの様な使徒と人(レイクローン)の融合を果たした存在になるはずだったのだ。

 ところが、出来たのは人を喰らう可哀想な怪物であった。

 この世を謳歌することも出来ないまま最期はもがき苦しみ、見かねたアスカに引導を渡された。

 願わくば、こんな悲しい存在をもう作らないで欲しい。

 

 人類補完計画もポシャったし、こんな()()的なやつもやったし、他に俺の知らないエヴァの外伝系イベントとかないよな? 

 ここから唐突に世界滅亡でエヴァQみたいな展開になったりしないよな? 

 

 よっしゃ、何はともあれ“新世紀エヴァンゲリオン”完! 

 

 

番外編:芦ノ湖の怪生物 完

 




番外編これにて終了です。

切除されたゲンドウの腕のアダム、トライデントの水上滑走能力、第7使徒戦で登場したフィールドジェネレータ―をどう活用しようか考えていたら何故かこんなストーリーになってしまいました。

吉崎先生デザインの「使徒XX」については、後付けですが設定的にゼーレ(第7分室)が目指した成功例という事になりました。
成功:タブリスXX(タブ子)、失敗:ヒルコ

蛇足の感もありましたが、なんとか完結させることが出来ました。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
沢山のご感想、ご意見をエネルギーにほぼ週刊で書き上げられた事に自分でも驚いております。

また読んでいただける機会があれば、よろしくお願いします。

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