スーパーロボット大戦//サイコドライバーズ:Re   作:かぜのこ

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αlll-1「DELTA RUNE」

 

 

 

 

 

 ――来たのか!

 

 

 ――遅ぇんだよ!

 

 

 ――待ちかねたぞ、少年!!

 

 

 

 ――刹那が来た! もう少しだ、一騎!

 ――ああ! 

 

 

 ――ったく、いつまで待たせてんの!  気合入れるわよ、気張りなさいヴィルキス!

 

 

 ――カレン、ゼロ! 俺たちで刹那の、ガンダムの路を開くんだ!

 ――わかったわ、ライ!

 ――了解した。……ルルーシュの遺したこの平和を、無くさせはしない……!

 

 

 ――刹那……! イオリアの理想が実現する時なのか……! 私たちも続くぞ、ファディータ!

 ――はい! ルシファード、メーザー・ビット展開します!

 

 

 

 

 

 ――行けッ、少年! 生きて未来を斬り拓け!!

 

 

 ――少年! 未来の道先案内人はこのグラハム・エーカーが引き受けた……!

 ――これは死ではないッ……!

 

 

 ――人類が生きるための……ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 封印戦争から約一ヶ月。

 途切れることのない砂嵐に閉ざされた超古代遺跡、バベルの塔――かつてはファースト・サイコドライバー、バビルの眠っていた場所であり、悪の秘密結社BF団の本拠地でもあった場所だ。

 現在はバビルの後継者、「バビル二世」ことイング・ウィンチェスターとその仲間が住まう彼らの本拠地である。

 

 新しく整備された居住スペースの一室。朽ちた外観とは裏腹に、航宙艦の内部を思わせる近未来的な内装の広々とした部屋。

 銀髪の少年――このバベルの塔の現在の主である“バビル二世”、イングは自室の執務机で資料を読みふけっていた。いつものクロークはハンガーにかけ、半袖状のボディスーツを身につけている。

 その傍らには、漆黒の毛並みを持つ大きな豹、バビルのしもべ、アキレスが静かに侍っている。

 

「ラダムどもは居るのに、アイバ一家が存在しない……」

 

 「ラダム樹」と呼ばれる侵略機構についてのレポートを読みつつ、イングは眉をひそめた。

 必要な登場人物(因子)が足りない。大事な主役(Dボゥイ)がいないのに、ラダム獣(敵役)だけはいるとはどういうことだ。

 

「この宇宙に、「ブレード」の因子は含まれていないのか?」

 

 ――いえ、それは早計かと。

 

「だよなぁ?」

 

 アキレスが思念によって主人の楽観を咎めた。

 原因と結果は常に=だ。例え結果が偶然の産物に見えても、必ず原因は存在する。逆もまたしかり。それがこの宇宙の摂理である。

 ラダムという原因があるなら、必ずやその()()は存在するのだ。

 

「ったく、こちとらただでさえ取れる手段が限られてるってのに、手も目も届かないところで悲劇を積み重ねられるとな。……さすがに参るぜ」

 

 ――心中御察しします。

 

 外なる世界――神の領域からの視点を持つイングは、その肉体に備わった資質と相まって高い精度で未来を予知・予測できる。

 だが、あまりにも大規模で強引な因果への干渉は、無限力のみならず“番人”からの攻撃をも誘発する。故にイングは封印戦争後、可能な限り()()()()に沿った事象の改変に努めてきた。

 力を持ちすぎた弊害というべきか、今のイングは無限力に監視されており、かつてテンカワ・アキト、ミスマル・ユリカ夫妻を救ったときよりも身動きが取りにくい状態が続いていたのだ。

 

「ご主人しゃま……さま!」

 

 不意に扉が開き、少女が飛び込んでくる。諸葛亮孔明――このバベルの塔の制御コンピューター、その対話用アバターである。

 イングが顔を上げた。

 

「ん、孔明か。どうした、そんなに興奮して」

「当該宙域に、クロスゲート出現に伴う次元震を関知しましたっ」

「! ……ついに、か」

 

 火急の報告に、イングは目を伏せる。

 

「ですが、これで我々も本格的な活動を開始できるということでしゅ……です」

「無限力の……イデの試しが始まった今なら、シナリオに対する直接的な干渉も出来るんだな?」

「はい。出来るかどうかは別にしても、運命にあらがうことは()()の望みでもありますから」

 

 主の問いに軍師はすらすらと解答する。

 僅かに考える仕草をするイング。その脳裏には、ここ一ヶ月の間に観測、準備した“因子”が思い浮かぶ。

 因子とはすなわち“因”、『直接的原因』であり、『間接的条件』、“縁”との組合せによってさまざまな『結果』、“果”を生起する。アズラエルとの接触と介入はそのうちの“縁”に当たり、アカシックレコードに記された因果(シナリオ)を変化させる波紋となりうる。

 さまざまな運命が交錯するこの宇宙には、本来ならあり得ない因果が頻繁に発生する。しかし、変えることが困難な定めというものも思いの外多い。

 イングは、そういったアカシックレコードの“絶対運命”を覆そうと足掻いているのだ。

 

「クロスゲートの出現とともに、境界面より大破したヱクセリオン級が現れたとのこと。バルマー戦役で撃沈した一番艦ヱクセリオンだと思われます」

「予想通りだな」

「それと……」

「それと?」

 

 主の質問に、切れ者軍師はらしくなく言い淀み、ややあって口を開いた。

 

「――金属生命体らしき存在と、フレームが剥き出しとなった青い“ガンダム”が確認されましゅた、あ、噛んじゃった」

「ぶはっ!?」

 

 

 

 小一時間後。

 一通り“無限力(イデ)”に対する罵倒を吐き出して落ち着いたイングが、改めて孔明に問う。

 

「孔明、ガルーダとネプチューンは?」

「“Dr.”の協力の下、鋭意改修作業中です。当面、ご主人さまの護衛がアキレスだけになってしまいますが……」

「んー……ま、アキレスがいれば十分だろ」

 

 孔明の懸念に、イングはあっけらかんと答えた。もともと彼は、深く物事を考えない楽観的な質であるし、自分としもべの力を信じている。

 そのアキレスだが、相も変わらず主の足元に寝そべっている。

 

「んじゃま、相方さんと妹様を呼びに行くかな。孔明、アキレス」

「は、はいっ」

 

 立ち上がった主に従い、軍師としもべが続く。

 テンプレートな執事風の青年男性(イケメン)に姿を変えたアキレスは、トレードマークとも言える黒いクロークをハンガーからとって、腕時計型通信端末を装着するイングに着せる。

 当初は嫌がっていたイングも、最近は素直に着せられている。諦めたとも言う。

 

 

 バベルの塔、格納エリア。

 オーバーホールを終え、返還された《エグゼクスバイン》と《ビルトファルケン・タイプL》がメンテナンス・べッドに横たわっている。

 また、奥のスペースには六〇メートル弱の真紅(あか)く厳めしい特機(スーパーロボット)が鎮座していた。

 

「クロスゲートとが現れれば、また戦争が始まる……そうなんだな、イルイ」

 アーマラが、いつものように腕を組んだ挑戦的なポーズでクールに立っている。

 

「うん……宇宙が、銀河がざわめいてるの……」

 一方イルイは、儚げな容貌に微かな怯えを浮かべて言う。

 

「だいじょぶですよ、イルイちゃん。イングさんとアーマラさんがなんとかしてくれます」

 イルイに抱えられたエクスは、いささか脳天気な発言で勇気づけていた。

 

 少女とロボットの微笑ましいやりとりをちらりと見やり、アーマラはイングに向き直る。

 

「しかしイング、やはりイルイまで連れて行くのは危険ではないか?」

「このバベルの塔の防御システムを疑ってるわけじゃないが、オレたちの手元に置いといた方が何かと安心だって」

「だが……」

 

 イングに諭されるアーマラの表情は苦い。存外、妹分には過保護なようだ。

 

「つーか、バルマーの連中には塔の存在はバレてるんだろうし、事実何度か探りに来てんのはお前だって知ってるだろ。そんな場所に留守番なんてさせられるかよ」

「む……」

 

 イングの指摘にアーマラが黙る。

 バルマーと思わしき集団に対しては、あえて姿を見せず静観に努めてきた。未だ彼ら新生BF団の存在を掴ませるわけにはいかないのだ。

 

「ありがと、アーマラ。わたしのこと、心配してくれてるんだよね」

「んっ、ああ」

 

 イルイの屈託のない笑みを前に、アーマラはバツが悪そうにそっぽを向く。その耳は真っ赤に染まっていた。

 こういうところはかわいいんだけどなぁ。イングは失礼なことを考えつつ、気を取り直す。

 

「さて、孔明。後のことは任せる」

「はい、ご主人さま」

 

 イングの言葉に、孔明が一礼した。

 

 

 《エグゼクスバイン》のコクピット。

 《ヒュッケバインEX》から改修に次ぐ改修を経て、もはや原形を留めていない、けれども馴染むシートに身を預けるイング。グラビコン・システムの改良により、ノーマルスーツを身につけなくなったのも久しい。

 メインコンソールに誂えた台座には、エクスがぴったり納まっている。

 

「緊張、してるんですか?」

「……ちょっと、な」

 

 これから赴くのは。宇宙の命運、それを背負っていると思えば尚更だ。

「だいじょぶです」エクスが明るく言う。

 

「だって、イングさんだけじゃなく、この世界にはたくさんのヒーローがいるんですもん! みんなで力を合わせれば、きっとどんなことだってできるはずですっ」

「……! そっか、そうだな」

 

 一人で気負うなど、自分らしくもないとイングは自嘲した。

 と、《ファルケン》からの通信が入る。サブモニターに挑戦的な笑みを浮かべたアーマラと、心配そうなイルイの顔が映った。

 

『どうしたイング、ビビってるのか?』

「び、ビビってねーしっ」

『ふんっ、どうだか』

「あ、お前今笑ったな? 鼻で笑ったなっ!?」

『ふふっ。お兄ちゃんとアーマラ、仲がいいのね』

「『よくないっ!」』

 

 

「ぃよしっ!」相方(アーマラ)とのコントでいつもの調子を取り戻したイングは、自分の両頬を叩いて気合いを入れ、コントロール・レバーを握り直す。

 

「行くぞ、エクス」

「はいっ、トロニウム・レヴおよびブラックホールエンジン、ミドルドライブ。――全機能、正常に稼働中ですっ」

 

 TーLINKシステムを通じてエクスがイングの念を感知し、トロニウム・レヴをドライブさせる。機体の全システムを掌握している彼女の自己診断が終了し、《エグゼクスバイン》の準備は完了した。

 メンテナンス・ベッドの固定が解除され、それと同時に頭上にある扉が開き、カタパルトが起動。テスラ・ドライブが甲高い音を立ててアイドリングする。

 

「イング・ウィンチェスター、エグゼクスバイン、出るぞ!」

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 ×月×日

 地球、某所

 

 ついに、アポカリュプシスが始まった。

 銀河を巻き込む大戦の始まりというわけだ。まったく、イヤになるぜ。

 

 さておき、極東地区日本エリアに向けて移動中、襲撃をかけてきた機動兵器部隊を蹴散らした。

 《チャクラム・シューター》を思わせる特徴的な武装を装備したオレンジ色の機動兵器群、封印戦争後から何度か交戦しているコイツらはおそらくバルマーの手の者。狙いはイルイか、あるいはオレか。

 今回は、隊長機らしき《サイバスター》に似たそこそこ手強い機体が出張っていた。

 やけにアーマラに突っかかっていたんだが、やっぱそういうことなのか?

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月○日

 地球、極東地区日本 サンジェルマン城

 

 今日は、クライン・サンドマン主催のパーティーに潜り込んでみた。

 おハイソな感じでやや場違いである。オレたち、一応パーティー衣装着てるんだけどね。

 会場には万丈さん、ネルガル重工現会長のアカツキ・ナガレ、フィッツジェラルド上院議員や北斗の祖父である西園寺氏。それからアズにゃんもといアズラエルもいたが、珍しく家族連れだった。娘さんは相変わらず洗濯板以下略。

 

 破嵐財閥を解体して身軽になった万丈さんだが、どうも竹尾ゼネラルコンツェルンに就職したらしい。営業担当で。

 それとは別にアズラエルとの関係を何気なく聴かれたので、包み隠さず答えておいた。

 あこがれの万丈さんに感心されて、鼻高々である。

 あと、葵さんとくららさんもいたな。二人ともお仕事だったらしいけど。

 

 さておき、突如現れた「ゼラバイア」の侵略兵器を《ゴッドグラヴィオン》が撃破した。「超重神グラヴィオン」第一期第一話のエピソードだ。メタいな。

 オレたちは、その後現れたラダム獣どもを駆逐して(《グラヴィオン》は重力子限界で撤退した)颯爽とその場を離れる、つもりだったのだが、サンドマン氏に打診されてサンジェルマン城への逗留することに。

 

 喧嘩腰な(しぐれ)エイジをあしらったり、ミヅキ・立花の素性をそれとなく示して警戒されてみたり。ふふん、国際警察機構の特A級エキスパート「ワンゼロワン」の名は伊達ではないのだ。

 斗牙(トウガ)? 今のあいつは、オレが相手をしてやるレベルじゃあないな。

 

 とりま、リアルメイドさんごちそうさまでした。

 ただ、あんな美女美少女おまけに美幼女に囲まれているのにあんま羨ましい感じがしないのが不思議だが。

 

 なお、大方の予想通りアーマラが(ぐすく)琉菜(ルナ)と衝突していた。アイツ、ほんと期待を裏切らないよな。

 まあ、さすがにプロ子は出ないだろうが。フラグじゃないぞ?ないよね?

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月△日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 宇宙に上がる《ナデシコC》に便乗してロンデニオンにやってきた。

 待ち時間、ヤマダさんとゲキガンガーのメディアを見て過ごしてたんだが、あのひとやっぱディープすぎだわ。話題とノリについてけない。オレは広く浅くでわりと節操ないからなぁ。GEARの吉良国さんなんかは直撃世代で話が合うらしく、前大戦の時はよく一緒にいるのを見かけたっけ。

 

 ちなみに、民間人メンバーはさすがに退艦している。

 とはいえ、「次の決戦にも呼んでくれ(意訳)」とのこと。まったく、フリーダムなひとたちだ。イネス・フレサンジュ女史は引き続き搭乗しているのはありがたいことだ。「αナンバーズに居れば最先端の科学や、未知の文明に触れられるでしょう?」とは本人談。このひとも別ベクトルでフリーダムだ。

 なお、テンカワ夫妻(まだ籍は入れていない)だが、ソフィア・ネート博士の元で治療に専念していたりする。

 目には目を、歯には歯を、ナノマシンにはナノマシンを、といったところか。

 

 で、その道中、厄介なものと交戦した。人型のラダム獣、いわゆる《異星人テッカマン》である。いや、展開が速すぎるんだが? ラダムどもは、すでに地球文明を侵略対象ではなく敵対、排除するべしと判断しているのだろうか。

 だがしかし、実際に相対して改めて思うのは、ほんと等身大サイズの《テッカマン》は厄介と言うほかないってことか。タイマンなら生身でも制圧できそうなんだが、宇宙じゃさすがにな。

 

 さて、明日には、衛星軌道上のオービットベースへ到着する予定だ。大分待たせちまったが、ようやく平行世界からのお客さんとの面会することになるだろう。

 まあ、オレの知ってる彼らなら問題ないだろ。たぶんな。

 

 

   †  †  †

 

 

 新生GGGの拠点、オービットベース。

 衛星軌道上に存在する施設内にいくつもある小会議室にて。

 

『刹那』

「ああ」

 

 傍らから聞こえる声に、虹彩を金色に輝かせた青年が答える。彼の()()した頭脳が特徴的な“脳量子波”を捉えた。

 ややあって、ノックとともに入り口の自動ドアが空気の抜ける音とともに三人の男女と入室する。

 

「初めまして来訪者(ストレンジャー)、オレの名前はイング・ウィンチェスター。それから」

「アーマラ・バートンだ」

「イルイ・ガンエデンです」

「エクスですっ」

 

 ひときわ幼い少女の抱えた球体型のメカの声に、青年と傍らのもう一人は微かに表情をなごませた。

 こうしたサポートメカが多く居た組織にいた二人が殊更に反応したのは、大戦の中で共闘した仲間のうちの一人にその声が似ていたためだ。とはいえ、このように明るく朗らかではなかったが。

 ともに戦った戦友を脳裏の片隅に思い浮かべながら、青年は口を開いた。

 

「刹那・F・セイエイだ」

『このような姿で失礼する。ティエリア・アーデだ』

 

 褐色の肌に黒い頭髪の青年と、手のひらサイズのホログラムで映し出された紫の髪の青年が自己紹介を返した。

 《ダブルオークアンタ》のガンダムマイスターにして純粋種の“イノベイター”、刹那・F・セイエイと、対話のため《クアンタ》に搭載した量子型演算処理システム「ヴェーダ」の子機に意識を移したイノベイドにしてガンダムマイスター、ティエリア・アーデ。()()()()()()()()から迷い混んだ、「ガンダム」という因果に連なるものたちである。

 

『単刀直入ですまないが、君たちの何れかが僕らの事情を知っている人物、という認識で間違いないか?』

「それはオレだな。細かい原理だとかは省くが、まあ広義の意味でのサイキッカーってやつだ」

 

 ティエリアの疑問に、銀髪の少年――イングは、指先に小さな火を灯しながら軽く答えた。

 刹那が微かに目を細めた。“GN粒子”により革新した彼の脳が、イングの隠した強大な力を感じ取っていたのだ。

 

 一通りの挨拶を済ませた一同は、会議室に用意された机を挟んで顔を付き合わせた。

 

「遅くなって悪かったな。何しろオレたち、地球でやることがあったんでね」

「いや、かまわない。こうして場所や情報を提供してもらい、感謝しているくらいだ」

『待ち時間の間に資料を見せてもらった。 ()()()の状況は概ね理解しているつもりだ』

「そりゃよかった。退屈させなかったろ?」

「ああ」

『確かに、興味深い内容だった。君たちの地球も、余談を許さない状況のようだね』

「うわ、堅物!」

 

 場を和ませようと軽口を叩いたイングだが、仏頂面を崩すには至らなかった。

 困った顔をしたイングにどうすんの、これ、と視線を向けられたアーマラは、バカめと視線で返事をした。イルイとエクスはその様子を顔を合わせて潜み笑いを浮かべていた。

 

「それで、二人とも何か必要なものとかあるか。オレの権限が及ぶ範囲で手配させてもらうが」

「いや、こちらは特にない」

『僕もだ』

「よかった。で、さっそく本題なんだが、一応オレの()()()()()()()でソレスタル・ビーイングの活動とかは概ね識ってるんだが、その知識と二人が実際に体験した事実のすり合わせがしたい。実際、こうしてオレたちが対面してるってこと自体がイレギュラーだしな」

「了解した。ティエリア」

『わかった。こういった説明は、刹那よりも僕の方が適任だろう』

 

 君たちが“知っている”と前提して、単刀直入に説明しよう。そう、前置きをして、ティエリアは語り始めた。

 

『僕たちソレスタル・ビーイングが本格的な武力介入を始めたのは、()西()()()()()()だった』

 

 イングがわずかに眉をひそめ、困惑を見せたのを刹那は敏感に感じ取った。

 

 

 

「――なるほどな」

 

 両目を瞑り、眉間に皺を刻んだ難しそうな表情をしたイングは、微かに息を吐いたあと話始めた。

 なお、話に参加できないアーマラとイルイ、エクスは少し離れたところで適当に遊んでいた。

 

「確認するぞ。()西()()()()()()に活動を開始したソレスタル・ビーイングは一度崩壊、五年後の()西()()()()()()に復活。仮面の指導者ゼロや黒の騎士団ともに、世界を半ば統一していたブリタニア・ユニオンとその尖兵であるアロウズ、異次元からの侵略者“ドラゴン”――アウラの民、外宇宙から来た光子生命体“フェストゥム”、バイストン・ウェルから浮上した“サコミズ軍”と戦っていた、ってことでいいのか」

『それで間違いない』

「……。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが皇帝の座に着いた時はどうしたんだ。シュナイゼルと黒の騎士団側に荷担したのか?」

『まさか。どちらにも与してはいなかった。ソレスタル・ビーイングはゼロの正体について、早い段階から掴んでいたからね。ゼロ――ルルーシュとは共犯関係だったんだ。彼が悪逆した理由にも見当がついた』

「故の中立、か」

「ああ。あの時点で、世界の歪みと言えたのはシュナイゼル側だった。確かにルルーシュも虐殺をおこなっていたのは確かだが、同時にダモクレスとフレイア弾による恐怖支配など許すわけにはいかない」

『だが僕らは僕らでイノベイド――リボンズ・アルマークとの決戦や北極ミール攻略戦――、蒼穹作戦を控えていたから武力介入は出来なかったんだ』

「はーん、なるほどね。……そんなタイミングで内輪揉めからの内部分裂とか、黒の騎士団の首脳陣てバカなの?」

「……」

『否定はしない。繰り返すが僕らはルルーシュにいささか同情的だったし、彼の最終的な目的も知っていた。だから、ソレスタルビーイングの仲間の一人、ライは彼らの計画に協力していたんだ』

「あー、()()()()もいたのか」

『仮面の軍師、ジュリアス・キングスレイとしてね。事変の後はオルドリン・ジヴォンとともに、ゼロの副官として活動しているよ』

「なるほどね。因果は集束するわけだ」

 

 イングが呆れたように漏らした。

 なお、偽名を決めたのは他ならぬルルーシュだったという。アラン・スペイサーよりは幾分かマシな名だろう。

 

「しっかし、枢木スザクとライを相手に紅月カレンはよく持ったな? いくら聖天八極式とアルビオンに性能差があるって言っても、せいぜい“ギアス”込みで相討ちってとこだろ」

「確かにその推測は間違っていない。そういった情報も持っているのか」

「まあな。で、どうなの実際」

「当時のライのKNF、ヌァザ・アガートラムはランスロット・アルビオンとほぼ同等の戦闘力を有していた」

「じゃあなおさらだな」

『二人はあえて手加減していたようだからね。だが、最終的にはライが紅蓮を大破に追い込んだそうだ』

「なるほどね。……しっかし、“銀の腕”ヌァザってのは()()()愛馬(KNF)にピッタリのネーミングだな。おそらく、片腕が輻射波動機構になってんだろ?」

『その通りだ。クラウ・ソラスという専用の機構を持っている。しかしイング、この情報は君は知らなかったようだが?』

「そりゃあね、名前でわかるさ」

『なるほど。確かに、ナイトメアは慣例的に欧州の神話から名付けられることが多く、そこからコンセプトを割り出すのも容易か』

 

 打ち解けるためと情報収集を兼ねた四方山話をするイングの脳裏には、「輻射波動夫婦喧嘩」などという益体もない言葉が浮かんだ。

 閑話休題(話を戻す)

 

「で、北極ミールやイノベイドと一応の決着を着けた後にブリヲ……エンブリヲを打破した、と」

「ああ。奴はまさしく、俺たちが断ち斬るべき世界の歪みの根源だった」

『エンブリヲはイオリアの協力者ではあったが、元々彼の打倒も計画のうちに入っていた。ヴェーダが隠していた最重要任務にして、ソレスタル・ビーイングの来るべき対話の前の最終目標だった』

「まあ、アレが居座っているうちに対話の時代なんざ来ようはずもねーわな」

 

 仏頂面の二人が神妙な顔をして頷いた。短い時間だが敵対者として相対して得た所感もイングと同じだったからだ。そしてそれは紛れもない正解である。

 ちなみに、GN粒子及びEカーボン等の技術は、特にフェストゥムの到来を予期したイオリア・シュヘンベルクらによる同化現象対策だったとのことだ。

 GN粒子による意識の(トランザムバースト)空間は、フェストゥム最大の脅威とも言えるの同化現象を防いだ上で、対話を可能とする起死回生の方策だった。

 

「“ゼロ・レクイエム”と“ウィキッド・セレモニー”……ソレスタル・ビーイングや竜宮島勢は介入しなかったんだろ?」

『ああ。それが理由はあれど歪みの源となった彼らの、彼らなりのケジメの付け方だったからね』

「既存の体制が“地球連邦”にスムーズにシフトするように、生前ルルーシュは予め整えていた。世界の歪みを、全て自分たちで背負って行こうとしたんだ」

「……よくもやるもんだね、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアってヤツは。そして()西()()()()()()、第二次蒼穹作戦とELS来襲」

『皆月総士の奪還は急務だったが、予測されたELSの存在もあまりに大きかった。僕は当時肉体を無くしてヴェーダの中にいたが、正直どう対応するのかと途方にくれたものだ』

 

 発足して間もないにもかかわらず、このような重大事案に直面した彼らの世界の地球連邦政府は、まさしく死に物狂いで事態に当たったのだろう。イングは防衛戦の死者とともに、準備を整えた(デスマーチした)制服組や指導者層の苦労を思い、黙祷を捧げる。

 そうして、数多の犠牲の上に対話は成功したのだった。

 

「ELSの母星がこの次元宇宙にあるってことは、彼らから聞いた。二人がこのタイミングで辿り着いたのも納得したよ」イングはそう言って肩を竦めた。ELSほどの生命体でもこの宇宙に蔓延る無限力の影響には抗えないようだ。

 ELSの本星があるのはこの次元宇宙であり、刹那たちの次元宇宙には自然発生したワームホールにより偶然に(あるいは必然的に)たどり着いた。

 彼らの母星は銀河に蔓延する宇宙怪獣の度重なる襲撃を受け、ついには星系の恒星を奪われて巣にされ、種族絶滅の危機に陥っていたのだ。

 

「やはり、ELSの脳量子波を感じているんだな」

「ああ、幸い向こうが情報量を絞ってくれてるからな。なんつーか、人懐っこい大型犬みたいな感触だよ」

「そうなのか、イルイ?」

「うん。おっかなびっくり近寄ってくる……、感じ?」

「俺は動物と触れあった経験はあまりないが……イメージは掴める」

 

 刹那の言葉にイングは同意してみせ、傍らでそれを聞いていたイルイも同様の感想をアーマラに述べていた。

 おそらく、ELSはイングたちを慮って脳量子波を抑えているのだろう。そんな様子を指して、彼らは「人懐っこい大型犬」とイメージしているのだ。

 

「ELSたちには時期を見て太陽系に避難するよう提案したから、とりあえず今すぐ宇宙怪獣どもの餌食にはならないと思う。GN粒子を学習したから、量子ワープで来るみたいだな」

「そうか、ありがとう」

『手間をかける』

「地球連邦政府の議会と地球安全評議会には提案済みだ。オレはこう見えてそれなりにコネがあるんで、トップダウンで話をつけさせた。刹那たちの地球が文字通り命削って対話を成功させたんだ、これくらい安いもんさ」

『了解した。僕からも礼を言う。ありがとう』

「いいってことよ。今のELSはフェストゥムなんかよりずっと付き合いやすい種族だしな。ウチの地球は、今さら異星生命体が一種増えたところで混乱も起きようないし、なんならELSの ()()()()()()を当てにしてるとこもある」

『なるほど、強かだな』

「彼らが太陽系の一宙域に留まって、自己防衛してくれるだけでもかなり助かるからなー」

「俺たちの地球に来訪した一団はどうなる?」

「そのまま残って現地のヒトたちと協力していくよう打診した。まだフェストゥムとは完全には和解できてないんだろ?」

「ああ、極一部のミーム以外、対話を拒絶し徹底抗戦を続けている」

「オレは、ELSがフェストゥムとの対話成功のカギになるんじゃないかと睨んでるんだ。だから、残ってもらうようお願いした」

『確かに。彼ら(ELS)とフェストゥムには生態が似通った部分がある』

 

 イングの言に、ティエリアが同意を示した。

 どちらも個を持たない総体であり、「同化」という手段を用いて他者を理解しようとする種族である。本格的に接触が始まれば、間違いなく何らかの変化が現れるだろう。それが人類と宇宙の平穏にとって、善であるか悪であるかはまた別の話しではあるが。

 

「それで、君らの“ガンダム”についてなんだが」

「……!」

『聞かせてもらおう』

 

 わずかな間とはいえ愛機とした《ダブルオークアンタ》の今後について話題に出され、刹那は身を乗り出すように。

 彼の仲間曰く「ガンダム馬鹿」の予想した通りの反応にイングは苦笑しつつ、話を切り出した。

 

「まずは前提条件。仮にあの“ガンダム”――ダブルオークアンタが完全な状態で量子ジャンプを敢行したとしても、今すぐ元の次元には戻れないと思う」

『今すぐ? つまり、いずれは戻ることができると?』

「ああ、そういうことになるね。現在この宇宙は“アポカリュプシス”と呼ばれる大変動に見舞われているんだ。その影響で、時空間と因果率がねじれにねじれて乱れに乱れ、来るもの拒まず去るもの許さずな内向きの結界というかバリアというか……そういう次元の断層が出来ている。それがなければ、二人の故郷の時空固有周波数を割り出すのもわけないんだが……」

 

 イングは、森羅万象、過去現在未来を余すことなく記したアカシックレコードを閲覧する権限を持つ、“完聖”したサイコドライバーである。平行世界の固有周波数(アース・ナンバー)を割り出すことなど、ましてやそこに由来する人品が側にあるのならば児戯に等しい。さらに、完成品の「クロスゲート・パラダイム・システム」とも言える、《エグゼクスバイン》を操っていれば格段に難易度が下がる。

 では、何故現在それが不可能なのか。

 アカシックレコード(無限力)そのものによる試練――アポカリュプシスによる現象である。意思持つ力とも言える

 

『なるほど。原理はともかく、現状は理解した』

「すまないな」

「いや、構わない。量子ジャンプを慣行した俺たちは、元より帰る宛のない旅のつもりだった」

『そうだ。むしろ、君たちという対話の可能な存在と出会えたことは行幸というべきだろう』

 

 刹那とティエリアは口々にそう言う。行き先も、距離も、どれだけの時間がかかるかもわからない遥か彼方への片道切符に、地球を救うためとはいえ躊躇なく飛び込む――そんな無鉄砲にも思える行為を平然と行えるのが、彼らがガンダムマイスターである所以だろう。

 ソレスタル・ビーイングの理念と理想に準ずる覚悟――、それこそがELSとの対話を成功させた最大の要因なのかも知らない。

 

『……』

 

 それからティエリアは、一瞬だけ思い悩むような素振りを見せたあと、刹那に語りかけた。

 

『さまざまな異種生命体と出会い、争いながらも対話を重ね、平和を模索し続けている――刹那、僕らはこの地球の戦争根絶に協力すべきだと思う』

「ああ、俺もそう感じていた。――イング、迷惑でなければ俺たちもお前たちに協力したい。戦うことだけでなく、対話することでも力になれると思う」

「迷惑だなんてとんでもない。助かるよ、ありがとう」

 

 諸手を上げた歓迎の言葉に、刹那が僅かに微笑んだことに気がついたのはティエリアと、そしてイングだ。「刹那・F・セイエイ」という人物を画面越しとはいえ多少なりとも知るイングは、珍しいものを見た、と感心して相好を崩した。

 ふと、イングは胸中に浮かんだ疑問を刹那とティエリアにぶつけることにした。

 

「……。なあ、最後にひとつ確認しておきたいことがあるんだが、いいか?」

『構わないが』

「ソレスタルビーイング以外にでもいいんだが、二人の仲間だった者の中に、()()()()()()()()()()()()()()を用いていた人物はいたか?」

「独自の技術体系……心当たりはある」

『そうだな。()()なら該当すると思う』

「! いるのか。どんなヤツなんだ?」

 

 ふと浮かんだ懸念が現実になり、イングは身を乗り出すようにして食い気味に疑問を重ねる。

 少しの困惑を見せつつ、刹那はその疑問に答えた。

 

「迫水タクマと日向サキ、ソレスタルビーイングの、いやイオリアの協力者だ」

「その名前、日本人か? いや待て、イオリアの協力者だって?」

 

 続く疑問点に、イングの表情が困惑に染まる。

 その疑問にティエリアが答える。

 

『迫水タクマ、これはもちろん偽名らしいが――はイオリアが初めて接触した異星生命体だ。彼のパートナー、日向サキは僕らイノベイドのオリジナルとなった生体ガイノイドだと聞く』

「異星生命体!? マジかよ。いや、生前すでに接触していたのだとしたら、未来を見通したかのような計画にも納得がいくか……」

『ああ。僕らの前に現れた彼らは当初、モビルスーツ(MS)ナイトメアフレーム(KNF)、パラメイルなどの既存技術を用いた“ヴォーテックス”と呼ばれる人型機動兵器を操っていた。僕らソレスタルビーイングが活動を開始した頃のことだ』

「エリア11……、日本で黒の騎士団が世に現れた時、俺たちソレスタルビーイングは活動できる状態ではなかったが、迫水タクマは変わらずイオリア・シュヘンベルクの()()()として彼らを監視していた」

『紛争が激化する中、彼は自身の故郷――いわゆるエイリアン・テクノロジーを主体に建造された“ルシファード”という人型機動兵器を持ち出した。地球で学んだ科学技術で随時アップデートされていたルシファードは、当時でも最高峰の機動兵器だったことは間違いない』

 

 ティエリアは『本人たちは()()()()()()()()()とも呼んでいたよ』と続けた。

 

「ルシファード……聞き覚えはないけど。しかし、イオリアの代理人ねぇ……?」

『どうやら、生前の友人だったようだな。イオリアがヴェーダに遺した情報によれば、バード星という地球型惑星の出身だそうだ』

「バード星人……? 人相がわかる画像とかないか?」

『ある。今見せよう』

「こ、こいつは……!」

 

 イングは困惑を息を飲む。何事かとアーマラやイルイが近づいてきた。

 ティエリアの示した画像には、癖のある短めの銀髪を整えた壮年の男の横顔が映っている。細めた目、ウェリントン型のリムの黒い眼鏡に知的な印象を残すが、表情は穏やかでリラックスしている様にも見える学者風の男だ。

 髪型と色、年の頃や険の取れた表情などの違いはあるが、その人相は紛れもなく――

 

「イングラム、だと……?」

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 ×月§日

 地球圏、衛星軌道上 オービット・ベース

 

 オービット・ベースに到着早々、妙ちくりんな来訪者と面談を行った。報告を聞いたときは正気度(SAN値)が直葬されそうになったけどな。

 それはさておき、交渉自体は無事に成功させたように思う。不安はなかったが、大事な一仕事を終えて肩の荷が降りた気分だ。まあ、たぶん気のせいだけど。

 「ガンダムOO」の登場人物(こういう言い方はあまりしたくないが)、刹那・F・セイエイとティエリア・アーデはオレの想像通りの人物だったし、劇場版まで終わっているのはまあ朗報だろう。とはいえ、向こうの地球はそれでもヤバそうな気配がプンプンしてるんだけど、いったん棚に上げておこうと思う。明日以降のオレが何とかするだろう、うん。

 ちなみに、歴史に関してはかなりの改編が入っているようだ。具体的な説明は避ける(理由は察してほしい)が、「新西暦が成立するまではオレたちの地球とまったく同じ」と理解してもらえば差し支えない。イデめ、辻褄合わせを放り投げてまでかなりの無理をするじゃないか。

 

 ともかく、これからさまざまな異種生命体と遭遇することになるであろうオレたちの地球に取って、彼らの参入は大きな助けになると思う。対話を成立させた純粋種のイノベイターが力を貸してくれるんだ、こんなに頼もしいことはないよな。

 

 さて、問題なのは「迫水タクマ」って男のことだ。

 ありゃあ、どう見てもイングラムじゃあない。間違いなくユーゼスだ。()()()()()()()()()()()()()()けどな。

 ということは、ユーゼスの平行同位体か? オレたちの宇宙で死んだヤツが生まれ変わったって可能性もなくはないが、この()()()宇宙の状態を考えればあり得ない。となれば、パラレルワールドのヤツと考えるのが妥当だろう。

 メタ読みしたら見事厄介ごとの種を掘り当てちまったわけだが、コイツの正体はなんにせよ、この「迫水タクマ」とやらとはいずれ合間見えることになるだろう。言うなれば、()()()()()ってとこかな。

 しかし、バード星と言えば一条寺烈こと宇宙刑事ギャバンの故郷だけど、なんか関係あったっけ?

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月□日

 地球圏、衛星軌道上 オービット・ベース

 

 イカロス基地周辺に出現したクロスゲートと、ゾンダーの親玉「機界31原種」によるGGGベイタワー基地破壊を受け、かつての仲間たちがGGGの新たな拠点、オービット・ベースに召集された。

 αナンバーズ再集結である。

 

 とはいえ、封印戦争決戦時よりかは大分戦力が目減りしているな。

 主な不参加者は以下の通り。

 オルファンとともに銀河に旅立ったノヴィス・ノアのメンバー、同じく外宇宙に出たアイビスら《ハイペリオン》チーム、ロゼの導きでズール皇帝に支配された星々を解放しに向かった《コスモクラッシャー》隊、契約が切れた《トライダーG7》。《キング・ビアル》と《ザンボット3》も仇敵を倒したことで不参加だ。勝平たちには平和に過ごしていてほしいところである。

 マオ社に戻ったリョウトらと別任務らしいゼンガー少佐とレーツェルさん、ヴィレッタ大尉。《ダンクーガノヴァ》、《ゼオライマー》、《サイバスター》、《グランゾン》、《ヴァルシオーネ》のパイロットたち。あと、シャッフル同盟の関係者に、ラビッドシンドローム(あの後、発症の兆候が見られたとか。治療方法自体は実はずいぶん前から実証されていたらしいのだが、怖ッ)の治療中の猿渡さんとダンナーベースの面々。ああ、それからどこぞでパン屋をやってるシーブックとセシリーもだな。

 なお、目的を果たして解散した宇宙海賊だが、トビアとベルナデットらは参加している。どうやらあの後、宇宙の運び屋をやっていたらしい。

 《X1》と《X3》を(大破したわけでもないのに)ニコイチにした《スカルハート》を新たな愛機にしていた。

 

 そうそう、ビルドベースの《鋼鉄ジーグ》こと司馬宙らも不参加だ。なんでも、阿蘇山の旧邪魔の跡地から新たな「銅鐸」が出土したとかなんとか。ちなみに、例によって安西エリ博士が発掘したらしい。あのひとって、なんていうかトラブルメーカーだよな。

 そういえば、ケーンたちは結局軍から抜けられなかったんだな。哀れ。

 あとはググれ。あるいは攻略本でも読んでくれ。

 

 さておき、まず重要なのはクロスゲートから現れた《ヱクセリオン》とタシロ提督、副長さんについてだろう。

 お二人は、バルマー戦役の雷王星宙域での決戦で自沈する《ヱクセリオン》と運命をともにしたはずであった。

 おそらくは役者を揃え、シナリオを円滑に推進するために無限力が手を加えたのだと思われる。

 で、シラカワ博士とかマサトがいないため、オレが代表してクロスゲートの成り立ちと仕組み、無限力の存在、そして「第一始祖氏族」あるいは「第六文明人」の残留思念がもたらす銀河の終焉「アポカリュプシス」について、可能な限り説明した。

 え?早くもぶっちゃけすぎだって? 回りくどいのは嫌いなんだ。

 つか、バビルたちはこれを活用していたわけで、そのへんの事情は知ってて当然である。

 

 さておき、ここで重要メンバーについて書き連ねようかね。

 

 クォヴレー・ゴードン。

 ロンド・ベル隊に新たに編入されることになっていた火星基地所属の新人パイロット、らしい。乗機は《量産型νガンダム》。

 現在クォヴレーは記憶喪失とのことで、アラドとゼオラと即席チームを組んでいた都合上、オレとアーマラが面倒を見ることになった。

 可能な限り経歴を洗ったが、怪しいところが一つもなくて逆に怪しい。だいたい、αナンバーズに新人パイロットってな

いだろ。素人ならまだしもさ。

 彼が乗っていたという謎の機動兵器《ベルグバウ》だが、どことなく《アストラナガン》を思わせる機体だ。

 これはかつて、《ガリルナガン》に搭乗していたアーマラも同様の旨の発言をしている。無理を言ってコクピットを見せてもらったのだが、あの人の残留思念は感じられなかった。

 あるいは、クォヴレーに?

 ともかく彼の動向には、今後も注目していきたいと思う。

 

 トウマ・カノウ。

 炎のアルバイター、成り行きでスーパーロボット《雷鳳》のパイロットとなった青年である。

 《雷鳳》の開発者であるミナキ・トオミネとの参加だ。

 ズブの素人だが、その心根には見所がある。オレなんかは、バビル譲りの念動力っていう()()があってこそ、ここまで戦ってこられたって自覚があるから純粋に尊敬できるし、今後の彼のノビには期待を寄せたいところだ。

 格闘ロボ乗りということで、さっそく銀河と北斗にまとわりつかれていたな。今は火星にいる一矢さんや、地球のどこかで放浪しているであろうドモンさんに会わせてやりたいぜ。シゴかれるだろうからね。

 

 セレーナ・レシタール。

 連邦軍の特殊部隊「チーム・ジェルバ」の生き残り、潜入工作及び格闘が得意な女スパイだ。《アサルト(A)スカウター(S)ソルアレス》を乗機としている。

 実は、新生BF団のメンバーとしてスカウトしようとして目を付けていた人物だったり。ウチの幹部にぴったりじゃん?いろいろと。

 とりま、前回接触したときに「ヴィレッタ・バディムはあんたの復讐対象じゃないぜ」と情報を流しておいた。

 そのときは袖にされたわけだが、「あんたの言うとおりだったわ、ワンゼロワン」となかなかの好感触だった。

 もう一押しかな、と機会をうかがっている次第だ。

 ちなみにウチのエクスが、彼女の連れたサポートメカ、エルマと早速意気投合していた。

 

 なお、お馴染みクスハとブリットだが、《グルンガスト》シリーズの後継機と言える鋼機人(ヒューマシン)で参戦している。

 《龍王機》《虎王機》は封印戦争でのダメージを癒すためにテスラ研で療養中だ。

 

 そして刹那とティエリアだが、前述の通りELS本星の太陽系到着を見届けるためにαナンバーズに協力してくれるとのことで、以前はシーブックが乗っていたオリジナル《F91》(整備班に協力してもらってエクシアカラーにした)を任せることになった。同じ人型兵器とはいえ、操縦法が違うってのにあっさり乗りこなしてみせたのは、さすが“イノベイター”って感じだ。

 ちなみに、好意で(《クアンタ》の修復の必要もあり)一部提供してくれた彼らの世界のMSのデータは「Re:V計画」に送り付けておいた。イデの野郎、情報解禁のつもりか知らないが、アカシックレコードから太陽炉及び疑似GNドライブの構造やらがサルベージできたんで合わせて送ったんだが、今頃連中、まったく新しい系統のモビルスーツの登場に狂喜してんじゃねーの?

 

 さておき、いろいろと悩みは尽きないが、何とかやってこう。なんせ、オレは独りじゃないんだからな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月◎日

 太陽系、アステロイドベルト周辺宙域 《ラー・カイラム》の自室

 

 戦艦用フォールドブースターで一路やっていましたアステロイドベルト。「機界三一原種」を迎え撃ったオレたちだが、連中を取り逃した。慚愧の極みである。

 乱入してきた《オーガン》と追っ手のイバリューダー、そしてラダム獣と胃星人テッカマンに邪魔されたのだ。

 ゼラバイアといいラダムといいイバリューダーといい、どうしてこう忙しいときにやってくるのか。

 いや、正規軍のみなさんも防衛網構築にがんばってはいるんだよ。ただ、大半が《ジェガン》のような平凡な量産機では、連中と正面からやり合うのは困難だ。《ドラグーン》や《量産型F91》はいい機体なんだが、如何せん高いし扱いがやや難しい。それに、《イチナナ式》や《量産型ゲッターG》シリーズも十分揃ってはいるんだが、特機クラスの敵に当たると逆に強みを生かし辛いのだ。

 星間連合も本格的に再侵攻をかけてきたし、いよいよもってきな臭くなってきやがったぜ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月※日

 太陽系、アステロイドベルト周辺宙域 《ラー・カイラム》の自室

 

 クロスゲートでの帝国監察軍との戦闘から一夜あけて、現在αナンバーズ艦隊はアステロイドベルトに身を潜めている。激戦の傷を癒すためだ。

 

 異変を聞きつけ、クロスゲートを目指したオレたちを阻むギシン星間連合の再侵攻部隊はかなりの規模で、手を焼かされた。

 ズールは本格的に地球の武力制圧を目論んでいるらしく、支配下に置いた文明から相当数の戦力を差し向けてきた。

 新顔は、円盤型戦艦《マザー・バーン》と円盤獣が主力のベガ艦隊と、三隻の戦闘母艦と戦闘メカベムボーグからなるザール艦隊だな。さらに、ムゲの小型戦闘機や《ゼイファー》などもいた。

 つか、ムゲとズールってよくよく考えると嫌な組み合わせだよな。

 

 さておき、星間連合を辛くも撃退したαナンバーズはクロスゲートにたどり着く。

 そこには帝国監察軍、ゼ・バルマリィ帝国によって大破に追い込まれた《SRX》の姿があった。

 

 親友の、リュウセイの危機でオレってばひさびさにブチ切れた。

 サイコドライバーの力を全開にして、《ジュデッカ》を思わせる念動兵器(《ヴァイクラン》というらしい)のカルケリア・パルス・ティルゲムに外部から強制干渉、行動不能に追い込んでやった。サイコドライバーなめんなよ。ユーゼスに出来てオレに出来ないわけないんだよなぁ。

 まあ、やりすぎて、余波を受けたアーマラの《ファルケン》やクスハ、ブリット機のTーLINKシステムまで不具合が出ちまったけどな!

 大人げなかったと今は反省している。

 

 動けない《ヴァイクラン》撤退のために現れたバルマー軍の中には、グラドスのSPT部隊が混じっていた。

 事情は知らんが、ズールの一時敗退を受けて離反でもしたんだろう。元々はバルマーの支配下だったらしいから、元サヤといったところか。

 

 つーか、ル・カインうっぜー!

 《レイズナー》に猛攻する黄金のSPT《ザカール》と死鬼隊の相手をしたのだが、あのサイズの小ささと機動力はかなり厄介だった。

 《VーMAXレッドパワー》を使ってこなかっただけマシだがな。

 

 戦闘後、《SRX》から救助されたのはリュウセイとライ少尉のみだった。

 アヤ大尉は生死不明。だが、トロニウムエンジンとともに浚われた可能性は大いにある。

 今は彼女の無事を祈るばかりだ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月※日

 地球圏、アステロイドベルト周辺宙域 《ラー・カイラム》の自室

 

 マジでやりやがったよ、プラント。

 空気よめよー。これだからコーディネーターは嫌いなんだ。わかっていても失望感が強い。

 クソっ、今からアプリリウスに乗り込んで評議会ぶち壊してくるか?

 

 本題に入る。

 再び攻め寄せるズール星間連合と原種などに対抗し、地球連邦は「地球絶対防衛線」と称した防衛線を構築、迎え撃つ構えを見せていた。

 が、そこに地球連邦に対して宣戦布告したプラント軍、ザフト(Zodiac Alliance of Freedom Treaty=自由条約黄道同盟)が襲いかかってきたのである。

 

 さっきフォールド通信で知ったんだが、その理由は「ユニウス7に対する核攻撃の報復」と「地球連邦の不当な扱いへの抗議」だという。核ミサイルは予め派遣されていたロンド・ベルの《ネェル・アーガマ》隊が防いだはずなんだけど、ユニウス7は何故か()()()()()()()()()()()崩壊した。メタ読みで、孔明に命じて住民を(半ば拉致に近い形で)避難させて正解だったぜ。

 確かに核攻撃という事実はあるが、犠牲者は皆無(非合法な行為に従事していた人間については()()()だが)に等しい。つまるところ、プラントの主張は支離滅裂だ。やはり、ゲシュタルトが暗躍していると見て間違いないな。

 ちなみに時代遅れというか、時代錯誤なバッテリー駆動、実弾メインのザフトのモビルスーツだが、どうも連邦軍は押されているらしい。つーか、核融合炉機と互角以上ってのはいくらなんでも理不尽じゃね?

 

 ともかく、プラントの狙い澄ましたかのような横やりにより絶対防衛線は危機的状況に陥っている。

 本命の原種やラダムどもの地球降下は防がなきゃならん。

 

 だが、急ぎ地球圏に帰還を目指すオレたちαナンバーズを嘲笑うかのように、星間連合の艦隊が性懲りもなくちょっかいをかけてきた。

 今回は本格的にムゲ――、ムゲ・ゾルバドス帝国の戦力がお出でなすったわけだが。どうやらズールとムゲは対等の同盟者のようで、デスガイヤーがベガ艦隊のガンダル司令やザール艦隊の三将軍を顎で使っていた。奴らの名称が「星間連合」なのはこのためだろう。

 つーか、敵の中に忍者くさいのがちらほらいたんだけど?

 あれか、トラウマ忍者くるか?ランカスレイヤー=サンくるのかー? 

 いや、ランカいないけど。まだ生まれてもないだろ、多分。生まれてないよな?

 

 アカシックレコードにアクセスしてカンニングしたいところなんだが、このところプロテクトが堅く役に立つ情報を読みとれないんだよなぁ。特に先読みができねー。マジでフラグ管理で情報解禁してんのかよ?

 

 とりあえず、星間連合を地球圏から叩き出すのはもちろんだが、プラントの連中には特に目にもの見せてやるつもりである。

 しっかし、何だろうなこの胸騒ぎは。嫌な予感がしてならないぜ。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年、四月一日――

 

 突如、地球連邦に対して宣戦を布告したコロニー国家「プラント」は、独自開発したモビルスーツ《ジン》を以て攻勢を仕掛けた。

 対する地球連邦はこの時、地球に接近する「ギシン星間連合帝国」や「機界三一原種」、「ラダム獣」などの胸囲に対処するための絶対防御線を引いており、ザフト軍が雪崩れ込んだ戦線は一気に混乱の坩堝と化していた。

 αナンバーズはゼ・バルマリィ帝国監察軍との戦闘の傷も癒せぬまま、地球圏へと急行したのだった。

 

 

「イングさん、原種がまた地球に降下します!」

「わかってはいるが……邪魔だ!」

 

 ザフトのモビルスーツ、《モビルジン》を《ロシュ・ダガー》の一閃で蹴散らす《エグゼクスバイン》。性能の差は歴然だが、如何せん数が多くαナンバーズは苦戦を強いられていた。

 本命の機界三十原種と星間連合、漁夫の利とばかりに次々に襲来するラダム獣。これらに加えてザフトに対処せねばならない連邦宇宙軍は、刻一刻と戦力の消耗を強いられていた。

 

『やはり厄介だな、主義者というものは!』

「そう言ってやるなって。プラントの連中、時代の流れが見えてないのさ」

 

 赤と白に彩られた《ビルドファルケン・タイプR》が代名詞とも言えるフライトユニットを広げ、凄まじい速度と正確無比な射撃でもって戦域を掻き回す。

 他方、紫紺の《エグゼクスバイン》は、特徴的なゴーグルに覆われたデュアル・アイを光らせ、地球圏最高峰の機動兵器たるそのスペックを遺憾なく発揮して戦場を支配していた。

 ――αナンバーズの一員としてイングとアーマラは、五名の部下を引き連れて殺到する侵略者に対応していた。

 

『うわ、しくった! ヤバッ!?』

『こらアラドっ、突っ込みすぎ!』

『悪ぃゼオラ! ――行くぜ、アムロ大尉譲りのハンマーだ! 当たると痛てぇぞ! おぉぉりゃあっ!!』

 優秀なパートナー(ゼオラ)にフォローされながら、突撃小僧(アラド)の《ビルドビルガー》が時代錯誤の質量兵器(ブーストハンマー)を振り回し、《ジン》を粉砕する。

 一方、《量産型νガンダム》を操るクォヴレーは淡々と、危なげなく二人が撃ち漏らした敵機を破壊していく。

 

『……。隊長、時代の流れというのは?』騒ぎに乗じて、横槍を入れてきたラダム獣の群れを《ハイパー・ビーム・ライフル》で処理しながら、ラトゥーニはイングの先程の発言を掘り返していた。

「お? なんだなんだ、ラトちゃんってば興味あんの?」言いながらイングは、牽制の《フォトン・ライフルS》を雑にバラ撒いて《ジン》の小隊を散らし、本命の《グラビトン・ライフル》を放り込んでまとめて撃破する。

 

『(ラトちゃん……?)はい、少しだけ』

『ラト、今はそんな場合ではないわよ』

『姉様、でも』

「いいって、オウカ。()()()()()マトモにやってたら気が滅入るだけだろ」

 

 雑談に苦言を呈するオウカに、イングは普段よりもあっけらかんとした風な声色で取り成した。

 普段、相棒の四方山(よもやま)話にツッコミを入れたりするアーマラは口を挟まなかった。案外、自分も興味があるのかもしれない。

 

「つっても、大した意味じゃないぜ? 連中、長いことコロニーに引きこもってるもんだから地球圏の情勢に疎いのさ。だから、地球人類が新しい局面に踏み出したことに気付きもしないんだ」

 

 呆れを含む声色を隠そうともせず、イングは持論を展開した。

 昨今、地球圏の存亡を占う地球安全評議会では、異星人融和派と異星人排除派が日々しのぎを削って議論がなされている。他方、プラントはその流れに取り残されていると言っていい。

 

『つまり、コミュニティに閉じ籠った田舎者ということだな』それを受けて、アーマラが皮肉げに言う。

『田舎者って……』『ひでー言い方だけど、おれにもわかりやすいッス』ゼオラとアラドがげんなりとしている。

『ですが隊長、小さなコミュニティという割には、ザフトのMSの物量は異常では?』オウカが疑問を呈した。

 

「そりゃあ、あれだ、人工知能使ってかさ増ししてんのさ」

 

『たしかに、モーションにAI特有のパターンがある』敵機を分析したラトゥーニが肯定の声を上げる。

『でも、モビルドールという可能性もあるんじゃ?』とゼオラは提示した。

()()()()()()()()()()()()が、()()()()()の作ったもんなんぞ使うかよ」とイングが若干の侮蔑を含めて言う。

『あー』とその意見に一同の実感の些か欠けた声が重なった。

 この新西暦という時代に生きる地球人類で、「ナチュラル」と「コーディネーター」という区分を意識するものがどれだけいるだろうか。「アースノイド」と「スペースノイド」、あるいは「オールドタイプ」と「ニュータイプ」ならばともかく、出生前の遺伝子組み換えによる差異などは翼や角を持った異星人種と比べれば、小さな違いでしかないだろう。良くも悪くも太陽系の外に目を向け始めた「地球人」にとって、プラントの宣戦布告はまさしく寝耳に水の事態だった。

 

『だがそれは、矛盾していないか』

「何がさ、クォヴレー」

『閉じた社会の中で形成された組織と言うなら、異星文明由来の人工知能を入手する機会は無いに等しいはずだ。しかし、実際にはEOTの影響が見られるのはおかしいだろう』

「たしかに。言われてみればそうです!」

「答えは簡単だ、連中から直接影響を受けてるのさ。バルマー戦役でのジュピトリアンのようにな」

『つまり、プラントは既に侵略者に取り込まれていると?』

「推測だが、おそらく間違いないだろうな。じゃなきゃ、こんな時にこんな愚行犯さないだろうさ。いやしかし、愚痴っても仕方ない」

「! イングさん! 敵、星間連合のものと思われる特機タイプ多数! 数20です!」

「おっと、お代わりかよ」

『お喋りはここまでだな。各機、迎え撃つぞ!』

 

『はい!』『了解』

 

 お馴染みのイングの軽口から、アーマラの号令で、皆は気を引き締める。

 精鋭揃いのαナンバーズでも特に指折りのメンバーを揃えたこのチームは、小隊単位で言えば最強クラスの戦闘能力を持っていると言っていいだろう。

 

『ゼオラはともかくアラド、お前のビルガーは実弾メインの機体だ。弾薬は余裕を見ておけ』

『了解ッス!』

『クォヴレー、お前もだ。武装の消耗には常に気を配れ。ゼオラ、お前と私は二人のバックアップだ。いいな?』

『了解』

『はい!』

 

「オウカ、ラトゥーニ、状態はどうだ」

『ラピエサージュ、実弾と武装のエネルギーの消耗はありますが、戦闘には支障ありません』

『ビルドラプター、同じく。戦闘続行可能です』

「補給、修繕が必要なら早めにな。お前たちは確かに()()()()()だが、体力の消耗はするんだ。無理するなよ」

『わかりました』『はい』

「連中だって無尽蔵なわけじゃない。必ず攻勢限界に達する――とは言え、だ!」

 

 まるで共闘するかのような動きを見せるザフトの《ジン》と、ギシン星間連合帝国のものと思われる種類雑多の機動兵器、そして時折襲い掛かってくるラダム獣を粉砕する《エグゼクスバイン》。

 国力の乏しいザフトが、これほどの軍勢を用意できたことには理由(ワケ)がある。星間連合由来の人工知能を《ジン》などに搭載することにより、数を揃えたのだ。

「“ナチュラル”のものじゃなけりゃ、侵略者でも構わないってのかよ!」プラントの思想が透けて見えて、イングが思わず毒づく。これらの人工知能はモビルドールほどの柔軟性はないが、安価でより数が揃えやすい。またモビルスーツの量産自体にも、星間連合の関与が疑われる。事態は深刻だった。

 

『それでどうする、イング。私たちはともかく、連邦軍はじきに限界を迎えるぞ。そうなれば――』

「地球がタイヘンなことになっちゃいますよ~っ!」

「こうなりゃαナンバーズお馴染みの一転突破しかないが――」

『しかし、私たちの隊がここを離れれば

戦線が崩壊しかねないな』

「だよなぁ。つーことはエグゼクスバイン単騎突入だが……」

「本機のみでの突入の成功率、64.1%です! でも――」

「足りない分は()()で補うってか? だが、そういうノリは嫌いじゃないぜ。勝率四割もあれば分のいい賭けだろ!」

 

 そのとき、一筋の光亡(メガ粒子)とともに白い流星が宇宙(ソラ)を切り裂く。

『イング!』白き“ガンダム”、《Hi-νガンダム》が展開したフィン・ファンネルを従えて現れた。

 

「大尉!」

『このままでは埒が明かない。ザフトの指揮官を叩く! 着いてきてくれ!』

「了解! よっしゃ、天の助けって奴だ! アーマラ、あとは頼むぞ!」

『まったく……わかった、任せろ。ゼオラ、アラドは右翼に、オウカとラトゥーニは左翼に展開しろ! 派手に動いて連中の目を惹け!』

『はい!』

『うッス!』

『わかりました』

『はい』

『クォヴレー、お前は私とだ! この宙域は我々で死守する!』

『了解』

 

 現状を打開すべく行動を起こしたアムロの要請を受け、イングは奮起する。

 バルマー戦役から第一線で共に戦い続けたアムロのイングに対する信頼は、「ホワイトベース隊」の旧友らに次ぐと言っていいだろう。

 四肢の運動のみで器用に反転する《エグゼクスバイン》に向けて、アーマラが声をかける。

 

『お前には余計な心配だと思うが、死ぬなよ、イング』

「ああ、お互いにな。よし、行くぞ、エクス!」

「はい!」

 

 

  *  *  *

 

 

『そこぉ! フィン・ファンネル!』

「オープン・ブレード! 切り裂けッ、レボリューター!!」

 

 地球圏最高峰のニュータイプ戦士とサイコドライバー、αナンバーズきってのスーパーエース二人は、並みいるモビルスーツを蹴散らして突き進む。

 行く手を阻もうと群がる《ジン》は瞬く間にメガ粒子と光子の弾丸に砕かれ、戦闘能力を喪失。草を刈るような勢いで突き進むその様は、まさしく鎧袖一触である。

 彼らの快進撃を阻むものはいない、そう思われたその時――

 

『――ッ、これは、邪気が来る!?』

「っ!」

 

 宇宙(ソラ)に漂う不穏な気配をいち早く察知した《ガンダム》がスラスターを吹かせて急速反転、一瞬反応に出遅れた《エグゼクスバイン》の直上に位置取る。直後、真っ二つになった《サラミス改》級の残骸の影から降り注いだ無数の弾丸がシールドを砕いた。

 用を成さなくなったシールドを破棄し、《ガンダム》は即座にビーム・ライフルを三連で応射した。

 

「大尉!」

『問題ない! それよりも――』

 

 ビームが直撃し爆発を起こす《サラミス改》の残骸、爆風の中から白い機影がスラスターの噴煙を引いて飛来する。

 それは、翼を持ったヒトツメの巨人だった。

 《エグゼクスバイン》と《ガンダム》が、それぞれ《フォトン・ライフルS》と《ビーム・ライフル》を発砲するが、。

 ZGMF-1017M《ジン・ハイマニューバ》――MMI-M729エンジンをバックパックに、両脚部には高機動スラスターを要した脚部増加装甲を装備した、ザフトの主力モビルスーツ《モビルジン》のカスタム機である。

 この機体は、《MA-M3重斬刀》を取り付けた《JDP2-MMX22試製27mm機甲突撃銃》の他、《M707028mmバルカンシステム内装防盾》を装備している。これは後に戦場に現れる《ジン》の上位機種、《シグー》の武装だ。

 

「白いハイマニューバ……! やっぱ指揮官はラウ・ル・クルーゼかッ! 直々のお出ましかよ!」

『来たか、アムロ・レイ。そして、ワンゼロワン。私のことはもうご存じのようだね?』

 

 見るものが見ればわかる、邪悪極まるオーラを纏う灰白色の《ジン・ハイマニューバ》。それから放たれる凶悪なプレッシャーに、イングは悪態を吐きつつも思わず息を飲んだ。

「マジかよ……冗談キツいぜ」そう溢したイングの頬を汗が伝う。闇の帝王、皇帝ズール、あるいは未だ姿を表さないムゲ・ゾルバトス――この世の半分を構成するマイナス()面の無限力――負念(マリス)を振るう闇よりも暗き闇黒(あんこく)のものたち。バビルが最大限に警戒し、対抗しようとした存在の関与を彼は感じ取っていた。

 

「このプラントの軽挙妄動、原因は貴様だな」

『フフ……だとしたら?』

『イング、気を引き締めろ! 奴は尋常な相手じゃない!』

『少し相手をしてもらおうか。()()()の試運転もしたいのでね』

 

 《ジン・ハイマニューバ》がモノアイを不気味に光らせる。

 翼を持つ単眼の巨人から、天然自然の尽くを滅ぼすオーラが迸る。おぞましいとしか形容できない力の波に、宇宙は末期の悲鳴を上げた。

 空間に伝播したクルーゼの邪念が負念(マリス)を呼び起こし、周囲に漂う破損した《ジン》たちがその影響を受けてにわかに動き出す。

 

『奴の邪気が拡がっていく……!?』

「ふ、フラッシュシステムですかっ!?」

「これは……! 宇宙の闇から霊魂が沸き上がってるのか?!」

『あながち、エクスの感想も間違ってはいないらしい。モビルスーツの中に奴の気を感じる。信じがたいことだが、ファンネルやビット兵器のように思念でモビルスーツを操っているのか……!』

『ネシャーマと言う、まっとうき全体より黄泉返(よみがえ)った死霊の群れ。私の思意の受け皿となる、便利なものさ』

「っち、全裸(フロンタル)みてーなことほざきやがって!」

『フフ……()()()()宿()()に我らが大願を阻む神の国のモノ(プレイヤー)……、相手にとって不足無しと言ったところかな?』

 

 独り、愉悦ぶる仮面の男は自機を操作した。灰白の悪魔が、そしてその邪気に操れたスクラップの群れが火砲を一斉に放つ。

 対する《ガンダム》と《エグゼクスバイン》は直ぐ様散会し、それぞれの銃を向けて一斉射撃する。

 その間に、灰白の《ジン》は特徴的なウィングバインダーから光の尾を引いて飛翔した。

 半壊した《ジン》たちが火砲の直撃を受けて火の玉と化していく。

 

「敵、ジンハイマニューバタイプ、想定の三倍の速度です!」

「三倍速だって? 赤い彗星かよ!?」

 

 そう口に出した瞬間、イングの脳裏に閃くインスピレーションと()()()()()()()。常時なら荒唐無稽な妄想と切って捨てるそれを、イングは拭い去ることができない。

 この因果と時空のとち狂った“世界”なら、あるいは――

 

()()()()……ここまでの戯れ言……、まさかこいつの正体は――」

「イングさん! 来ます!」

「あ、ああ!」

 

 エクスの悲鳴じみた声に正気を取り戻したイングは、一旦恣意を封じ、操縦桿を握り直した。

 

 

 *

 

 

 イングとアムロという地球圏最高峰の戦士を同時に相手にしながら、クルーゼはしかし圧倒と言っていいほどの戦闘を繰り広げていた。二人が攻めあぐねていたと言ってもいい。

 それは何故か。

 死霊に憑りつかれ、幾度となく黄泉反る傀儡と化した《ジン》の群れもさることながら、イングとアムロはクルーゼの放つ物理的な現象さえ伴う強烈な負念(マリス)に手を焼いていたのだ。

 

『フフフ……ハーハハハハッ! やはり素晴らしいなこの力は! 理解や対話など……ましてや平和などというもの費やすとは、実に愚かしい行為とは思わんかね?』

『チィ!』

 

 “ニュータイプ”(革新した人類)の感性に従い、負念(マリス)を伴って降り注ぐ弾丸の雨を回避し、アムロは舌打ちを洩らした。

 常軌を逸した速度で飛び回る《ジン・ハイマニューバ》は、亜光速に迫るメガ粒子を容易く掻い潜る。刻一刻と力を増していく強烈な負の強念に邪魔されて、アムロはクルーゼの思意を読めずにいた。

 

『クッ、奴の邪気が増している……!? 俺たちの力を吸っているのか!?』

「野郎、調子に乗りやがって!」

 

 吐き捨てたイングは、《エグゼクスバイン》に《T-LINKセイバー》を引き抜かせる。狙いはもちろん灰白単眼の巨人だ。

「エクス、戦況は!?」《ジン》を真っ二つに両断し、イングは焦りを滲ませながら相棒に問う。

「連邦軍の損害、20%を越えます! このままだと防衛線を維持できません!」状況をモニターしていたエクスが悲鳴のように叫んだ。

 

「クッ――!」

『こんなものかね、バビル二世!』

 

 《T-LINKセイバー》と《重斬刀》が激突し、火花がそれぞれの装甲を(あか)く照らす。

 その機動力を生かしたヒットアンドアウェイで斬り込む《ジン》を、《ガンダム》と《エグゼクスバイン》が迎え撃つ。銃剣などという、凡そ格闘戦には向かない形状の武器を器用に操り、打ち込んでくる《ジン》。パワー、スピードともに《Hi-νガンダム》や《エグゼクスバイン》に匹敵するか、あるいは凌駕しかねないそれは、明らかにこの世の道理を逸脱していた。

 

『これでは、()()()()()を乗り越えられるとは到底思えんな。所詮、()()()()()()とてこの程度か! やはり! 何一つ、この世の理を変えることは出来ぬと見える!』

「貴様、何を知っている!」

『知らぬさ! 所詮人は己の知ることしか知らぬ!』

「いちいちセリフの出番が早いんだよ!」

 

 ヤケクソ気味になってイングが吐き捨てた。

『うおおおッ!!』《エグゼクスバイン》と入れ替わるようにして、《Hi- ν》がバルカンと腕部ガトリングをバラ撒きながら斬り込んだ。

 

『見ろ、この宇宙の有り様を!!』

『何を!!』

 

 青白い《ビーム・サーベル》と《重斬刀》の刀身をぶつけ合いながら、クルーゼは高らかに叫ぶ。

 

『さまざまな外敵に晒されながらも、未だ同じ種同士で争い合う! これが愚かと言わずなんと言う!』

『それをしているのは貴様だろうに!』

『違うな! これがヒトというものの本質、持って生まれた業だよ! 知りたがり、欲しがり! やがてそれが何の為だったかも忘れ、命を大事と言いながら弄び殺し合う! 奪い、壊すことしか出来ない!』

 

 持論を並べ立て、クルーゼは猛攻する。

 圧倒される《ガンダム》。しかし、アムロは独りではない。両手の《グラビトン・ライフル》から放たれた重力波とともに、《エグゼクスバイン》が直上から乱入する。

 一旦、距離を取ったクルーゼの指示により直ぐ様、数機の《ジン》が立ち塞がる。《グラビトン・ライフル》を組み合わせて集束、さらに強力になった重力波を照射してそれらを粉砕。両手に持っていた銃器を投げ捨てるように重力空間に返しながら、イングがそれを追い縋る。

 無造作に引き抜いた《ロシュ・ダガー》を二振り投げつけて二機を足止めし、強烈な蹴りと鉄拳をそこに叩き込んで粉砕する。さらに全身の《T-LINKスライダー》が射出され、次々と傀儡を破壊していく。

 

『何を知ったとて! 何を手にしたとて変わらない! 最高だなヒトは! 妬み! 憎み! 殺し合うのさ! ならば存分に殺し合うがいい! それが望みなら!』

「自殺がしたいなら、一人で勝手にしていろ!」

『ハッ! 君ならそう言うだろうさ! バビル二世にして神の視点を持つもの(プレイヤー)たる君ならね!』

「知れば誰もがオレのようになりたい、とでも言うつもりか!?」

『それこそまさかだ。それだけの力を持ちながら、()()()()()に甘んじる君こそが最も愚かな存在だろう!』

「ッチ! ああ、そうかよ!」

『もっと自由に、傲慢に振る舞ってみてはどうかね! 抑圧された精神を解放するのは清々しいものだよ!』

「大きなお世話、だ!」

 

 出力を上げて重力場の刀身を伸ばした《ロシュ・ダガー》が、青い光の弧を描いて放たれる。

 全身のアポジモーターにより、一閃を紙一重で回避した《ジン・ハイマニューバ》。

 蹴り飛ばされた《エグゼクスバイン》と入れ替わり、《Hi-νガンダム》が単眼の悪鬼に再び猛追する。

 

『あの光を見てもなお、お前は闇を広げるというのか!』

心の光(あんなもの)など、一時(ひととき)の気の迷いだよアムロ・レイ! ニュータイプ、ヒトの革新を謳った()()()とて、身勝手にも他者を絶望し、見たいものだけ見て決め付け! 自身のエゴに呑まれて死と破滅と不幸だけを振り撒いた!』

『あの男……シャアのことか!』

『フフ……、()()()()()()()()()()()()()のことさ!』

 

 クルーゼは嘲笑う。

 激しく激突する二機のモビルスーツ。もはやアムロに敵を侮る意識は微塵もない。前大戦で決着を付けた宿敵以上の強敵、打倒すべき存在だと直感が強く訴えていた。

 《ガンダム》の全ての武装、あるいは自身の命ですら使ってでも倒すべき存在だと――

 

『シャアはそこまで絶望しちゃいない! 絶望するとしたら、貴様のようなエゴの塊の人間ばかりとなった世界にだ!』

『フフ、ハハハハ! 言っただろう、アムロ! 所詮人は己の知ることしか知らぬと!』

『何だと!』

『君は知らないのさ、あの男が犯した所業を! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をね!』

「! 貴様、やはり!」

『ハハハハ! ()()()()()()()()()()()かね、バビル二世!!』

 

 激しく縺れ合い、攻守を入れ換えながら、《Hi-νガンダム》と《エグゼクスバイン》、そして《ジン・ハイマニューバ》の三機は火花を散らして激突する。その余波に巻き込まれた死霊の操る《ジン》が粉々に砕かれ、《フィン・ファンネル》と《T-LINKスライダー》が次々に破壊されていく。

 熾烈な戦闘の最中、戦場はデブリ帯へと突入した。

 これはアムロとイングがそう誘導しているからであり、クルーゼがあえてその誘いに乗っているからである。

 

『全ての生きとし生けるものは、自らが育てた負念(マリス)の闇に喰われて滅ぶ!!』

『人は、俺たちはそんなものじゃない!!』

『ヒトの革新を待つ? そんな時は、どれだけ永劫待とうとも訪れはしない! 殺し、奪い合うのが生命の、そして()()()()()()()()が発生したその瞬間から不変の本質、業だからだ!!』

 

 デブリを足場に緩急を付け、縦横を駆け回る《ジン・ハイマニューバ》。それに惑わされるアムロとイングではないが、少なくともその狙いを散らす結果にはなる。

 そのとき、一筋の()()影が宇宙(ソラ)(はし)った。

 

『君もそうは思わんかね、()()()()()()?』

『……!』

 

 デブリの影から凄まじい速度で現れた青と白のモビルスーツ――《F91》が《ビーム・サーベル》を一閃させたが、灰白の《ジン》はそれを銃剣で難なくいなし、さらには反撃に蹴りを繰り出す。

 約一五メートルの《F91》と約二八メートル《ジン・ハイマニューバ》、大人と子供ほどの体格差はただの蹴りであっても甚大な被害を出すだろう。

 しかし――――

 

『対応された!? ――だが!』

 

 完全な形の不意討ちに対応された《F91》のパイロット――刹那は、キックを躱して最速に設定した《V.S.B.R》と《ビーム・ライフル》による偏差射撃を敢行する。

 三本のメガ粒子の射線のうち一つが《バルカンシステム内装防盾》の砲身を削り取り、《ジン》は役に立たなくなった盾ごと投げ捨てた。

 

『刹那!』

『わかっている。()() は、俺が破壊すべきこの世界の歪みの根源だ!』

『その手を、数多(あまた)の無辜の命で汚した分際でよくも言うな! ガンダムマイスター!』

『だからこそだ! 俺は、俺のこの命が尽きるその時まで戦争を根絶し続ける!』

『戦うだけの人生を、まだ続けるつもりかね!』

『だが今は!  そうでない自分がいる! 世界から見放されようと、俺は、俺たちは世界と対峙し続ける!』

『そうだ! 僕らは!』

「フルパワーで行く! エクス! 何とでもなるはずだ!!」

「はい! トロニウム・レヴ、リミッター解除! エグゼクスバイン、フルドライブです!」

『貴様のエゴは、この宇宙(ソラ)(トキ)を停める!! いや、過去に戻す!』

 

 《F91》が各部を展開し、最大稼働を開始する。質量を持った残像を伴って宇宙を斬り裂く《F91》のコックピット、刹那は瞳を金色に輝かせた。

 リミッターを解除した《エグゼクスバイン》の装甲が、トロニウム・レヴが産み出す膨大なエネルギーにより赤熱化する。全身のプラットホームから念動力による刃を生やしたこの姿は、その機体に宿る魂に肖り、《エクス・フェーズ》と名付けられた。

 そして、アムロの恣意に従い、サイコフレームが発するエメラルドグリーンの“虹”を纏いながら《ガンダム》が翔ぶ。

 

『Hi-νガンダムは伊達じゃない!』

「オレたちの未来は貴様に! ましてや、無限力(イデ)なんかに押し付けられるものじゃない!」

『無駄だよ、バビル二世! すでに銀河の終焉への引き金は引かれた! 奪い、殺し合うだけの生者の世界の幕を、()()()が引いてみせようと言うのだ!!』

「その前に、貴様はここで――ッ!?」

 

 戦闘がヒートアップしていくそのときである。

 

『ぐあっ――これは!?』

『なんだ、宇宙(ソラ)が軋んでいる……!?』

『ム……!?』

 

 激しい頭痛とともに、刹那とアムロが異変を感じ取る。

 それはサイコドライバーたるイングと、そして()()()()()()()()()()()クルーゼも同じだった。

 

「この強念、イデか!? エクス!」

「地球付近の宙域に、強力な重力場及び時空間異常を感知! タキオン、ゲッター線、ビムラー、その他すべての値が異常値を示してます!!」

「重力場異常!?」

『何が起きた……? ほう……なるほど、そういうことか。此度の無限力(イデ)は、なかなか味な真似をするようだ』

 

 困惑するイングらを尻目に、独り納得の言葉を漏らすクルーゼは自機を反転させる。

 

『諸君、今回の戯れはここまでとしよう』

「! 待て、クルーゼ!」

『ふむ、もはや私などに構っている余裕はないと思うがね、バビル二世』

「どういう意味だ!」

『それは直ぐに解るさ。では、いずれまた会おう。さらばだ』

 

 捨て台詞を残し、クルーゼの《ジン》は宇宙の闇よりも(くら)い闇のカーテンに消えていく。

 ――その瞬間、この銀河(ウチュウ)すべてを揺るがす大激震が襲ったのだった。

 

 

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 ×月☆日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》の自室

 

 

 イデ馬鹿なの? 頭おかしいの? 死ぬの?

 いやこれマジやばくね?

 ガラじゃないとか言ってられん。直ぐにブライト艦長にみんなを集めてもらわないと。刹那とティエリアに協力してもらって、ゴップ閣下とグローバル議長、あと大河長官にも連絡とらなきゃ。

 いや、この際だし使えるコネ全部使って片っ端から人を集めるか。秘密だなんだなんてもはや言ってられない。

 

 この宇宙は地獄だ。

 ともかくマジでイデは頭おかしい。

 

 

   †  †  †

 

 

 αナンバーズ艦隊、《ラー・カイラム》。

 実質的な旗艦とも言える《大空魔竜》が火星防衛に赴いている関係で、今回の作戦での指揮を取っていた。

 

 連邦の軍艦としては広い会議室は、緊張感に包まれていた。

 《ラー・カイラム》の艦長ブライト・ノアを筆頭に、連邦軍極東支部の両看板、神隼人と剣鉄也、科学班及び整備班の代表として兜甲児、機動部隊総隊長アムロ・レイ、G.E.A.R.副司令ベガがこの会議室に揃っている。

 そして《ナデシコC》のホシノ・ルリと《アルビオン》のエイバー・シナプス、防衛戦より合流した《ネェル・アーガマ》のミットー・オタスの三名が、それぞれ自らの艦からオンラインで参加していた。

 

「全員、揃ったようですね」

 

 司会を勤めるブライトが口火を切った。

 U字型の大きなテーブルの正面、複数の空間投影式のモニターが表示されている。光子力ネットワークを利用したオンライン回線を用いて地球圏の全域から、GGG長官にしてαナンバーズの総責任者大河長官を始め、極東支部の岡防衛長官、連邦宇宙軍からミスマル総司令など、封印戦争時からαナンバーズを表だって支援してきた歴々が顔を並べている。

 さらに今回は()()()を始め、αナンバーズのコネクションを最大限使って、地球圏の様々な防衛組織組織の責任者や著名な科学者、官民問わず幅広い有力者が集められていた。

 

 

『……』

 

(うっわ、マジで()()来てんじゃん! まあ、呼んだのオレなんだけど)

 

 中には()()()()()()()()姿()()()()()()()()もおり、数名の事情通はもちろん、呼び寄せたイング本人すらも驚きをもって迎えている。

 なお、この会議はαナンバーズ艦隊各艦内にもライブ中継されていた。

 

「ではイング、よろしく頼む」

「わかりました」

 

 ブライトに促され、神妙な面持ちでイングが頷く。今回の会議を召集した張本人は柄にもなく緊張を見せていた。

 

(上手くやれよ、イング! ここがおそらく、この銀河(セカイ)の正念場だ)

 

 自身に言い聞かせ、壇上に立つイング。そんな様子を会議室の影からイルイとアーマラが見守っている。特にイルイは心配そうな面持ちで見つめていた。

 ブライト以下、この場にいるαナンバーズ首脳陣とは事前に内容を協議済みで甲児やアムロなどは、特に目をかけている 後輩(イング)に進行を任せるつもりでいた。

 そんなイングの手元にあるタブレットデバイスの、本人肝いりで実装したコメント欄(横に流れるいわゆる“弾幕”ではなく、縦に流れていくチャットタイプ)に「イングのヤツ、ガラでもなく緊張してやがる」「笑」「草」「lol」などと表示されている。

「コメ見えてんぞ、號と豹馬とドラグナーチーム(三馬鹿)……!」などと額に青筋を立てつつ、イングは口を開く。

 

「皆さん、お忙しいところ集まっていただき感謝します。早速ですが、本題に入らせて――」

『ちょっと待ってくれないかい、イング君』

「なんです、アキツキ会長」

 

 開口一番、会議を始めようとしたイングを遮ったのは、ネルガル重工のアキツキ・ナガレだ。彼は同じくオンラインで参加している金髪の優男に鋭い視線を向けていた。

 半ば予想していたこととはいえ、イングは出鼻を挫かれてウンザリした。

 

『この未曾有の事態に、僕らが集められるってのはごく自然なことだとは思うんだけど、()()()()()はどうしてこの場にいるんだい?』

『これはこれは、ネルガルの坊やが何か口走っていますネ』

 

 ()()()()()ことムルタ・アズラエルは、軽薄な笑みを浮かべて舌鋒を翻した。

 

『仮にもボクはキミと同じ国防産業連合の理事ですシ、ナニもおかしいことはないのでハ?』』

『……。プラントに対する核攻撃未遂は()()()()()の仕業だろう』

『アレ、()()じゃあありませんヨ。大方、ボクら(ブルーコスモス)の名前を騙った誰かさんの仕業でショウ』

『白々しいね。そもそも、アンタがなんでここに呼ばれてるんだい?』

『なんでもなにも、イング君に呼ばれたからですガ。キミも同じでハ?』

『アンタみたいなレイシストと一緒にはされたくないね』

『おやおや、さすがにそれは聞き捨てならない発言ですネ』

 

『ご両人、そこまでにしていただきたい』ヒートアップする両者を止めようと、口を開きかけたイングに先んじて発言したのは、――マオ・インダストリーの社長、リン・マオだ。その傍らには、イルムの姿もある。やれやれとばかりに呆れ顔で肩を竦めていた。

 彼らと同じ、国防産業連合理事であり性格上曲がったことが嫌いな彼女が仲裁に入るのはイングの予期していたことだ。

 なお、アナハイムの代表はいない。「アナハイムだからね、仕方ないね」とはイング談である。「Re: V計画」にもニナ・パープルトン以下個人的に協力しているもの以外は、基本的に企業としてのアナハイムは閉め出されている。

 

『すまないイング、話を進めてくれ』

「いえ、こちらこそありがとうございます、マオ社長」

 

 両者を取り成したリンではあるが、アズラエルが同席していることについてはアカツキ同様、納得しているわけではない様子が伺える。これも予期していたことで個別で釈明の必要がありそうだ、とイングはふたたびゲンナリした。

 

「改めて、状況を説明させていただきます」

 

 気を取り直したイングは端末を操作し、備え付けの大型スクリーンに画像を表示させた。

 表示したのは、地球絶対防御線をめぐる戦闘の推移を簡素化したものである。

 

「先だっての一連の防衛戦については、皆さん聞き及びのことと思います」

『地球降下は防げなかったようだね』

「面目次第もありません」

『いや、規模が縮小しているとはいえ、君たちαナンバーズの精鋭が参加して失敗したのなら、どうあっても不可能だったのだろう。プラントの横やりもあったのだしね』

『うむ、ゴップ議長の仰る通りだ。イング君、我々を集めた本題はそちらではないのだろう? 続けてくれたまえ』

「はい、こちらをご覧下さい」

 

 グローバルに促され、スクリーンが切り替わる。

 現在衛星軌道上に駐留している《ラー・カイラム》から撮影した宇宙空間の映像だ。

 真円の巨大な構造体を中心として、《《三つの碧い惑星》がちょうど正三角形の頂点の位置に存在しているように見えた。

 画面の向こう側からどよめきが聞こえてくる。ここに呼び寄せられたものは皆、それぞれに独自の方法でこの事態を把握していたが実際に目にすればやはり動揺は隠せないようだ。

 

「ご覧になられています通り、現在“クロスゲート”を中心として、我々の地球と酷似した惑星が二つ出現しました。クロスゲートの詳細についてはこちらのデータをご覧下さい」

 

 イングは、バベルの塔の把握しているクロスゲートについての情報を送付した。

 特に秘匿性の高い情報は伏せているが、今回の事態を説明するのにはクロスゲートという第一始祖氏族の遺産を無視するわけにはいかなかったし、すでにαナンバーズ内部では公開している内容だ。

 

「さらに、こちらがこれらの惑星が現れた瞬間をアステロイドベルト、イカロス基地から捉えた映像です」

 

 イングがパネルを操作すると、会議室の大画面が移り変わる。また、会議に参加する全員にも光子力通信により参加者それぞれのもとへと送られた。

 

『おお』

 

 フォールド通信によりもたらされた映像がスクリーンに表示される。誰からともなく、感嘆とも畏怖とも取れない声が漏れ聞こえた。

 クロスゲートを中心にして、エメラルドグリーンの光が輝くと、水面に拡がる波紋のように虚空に伝播していく。時に、“虹”とも称される緑色の光の波形が碧い宇宙を迸って、地球の衛星軌道上を取り巻いたかと思うと、未知の文字(ルーン)にも見える複雑怪奇な幾何学模様を描き出す。

 光が形成した図形は、まるで「魔法陣」のようだ。

 さらに拡がった光は、地球を取り巻いて真円を形作り、それをちょうど頂点とした正三角形(デルタ)を形成した。そして、正三角形であることを示すかのように頂点には真円が他にも二つ存在していた。

 空白となっている二つの円の内側、巨大極まる――まさしく惑星(ホシ)に匹敵する質量が、隠されていたベールを剥がすかのように徐々に姿を表していった。

 

『……。確認するが、あれらの惑星はホログラム等の幻像ではないのだね?』

「はい、そうなりますゴップ閣下。お手元にある地上からの観測データは、宇宙科学研究所から提供いただきました」

『ふーむ……』

「簡易的なものですが、これと兜博士ら科学班がαナンバーズ各艦から観測したものと合わせると、我々の地球と等しい質量が確かに存在していることがわかります」

 

 モニター越しのざわめきが大きくなる。今回集められたメンバーは、分野は違えど地球有数の頭脳の持ち主たちである。まさしくこれが異常事態であると理解した。

『あれだけ巨大な質量が近隣に存在すれば、地上に何かしらの変化が現れるはずだが、どうか?』ミスマル提督が、連邦軍人らしく地上の被害を心配する。

『不思議なことに、潮汐の変化等の報告は今のところ見られませんな』すると、岡長官が短い時間でかき集めた生の情報で答えた。

『あの構造体、クロスゲートが周囲の空間と重力を操作し、地球の環境を保っていると考えられますな』早乙女博士は、地球が誇る頭脳たちを代表し、意見を述べる。

『どちらかと言えば、ラダム樹発生による混乱の方が大きいだろう』ゾンダーを始め、地球外の存在に対応するGGG大河長官が懸念を示した。

『先程閉会した地球安全評議会の臨時会議だが、紛糾を極めていたよ。情報も方針もないのだから仕方ないが』グローバルが僅かに疲労を滲ませながら、評議会の様子を話す。

()()()()()ですガ、この事態は寝耳に水のようデ。大慌てのようですネェ』アズラエルが流れに便乗して、自身のツテからの情報を開示した。

 

「防衛線崩壊の影響ももちろん大きいのですが、皆さんに集まっていただいたのはこれらの惑星――仮称()()β()及び()()γ()について対策を検討したいからなのです」

()()()()()()α()として、ということかね?』

「そうなります」

『なるほど。対策の検討、か』

「はい。この問題は政府と軍、官民が統一見解で以て断行しなければ、我々の文明に致命的な結果をもたらすと考えます」

『それほどの事態か……。多数の外敵に、地球文明間の戦争ともなれば共倒れも必定だな』

「はい」

 

 《マクロス》の艦長としてゼントラーディと渡り合ったグローバルから、実感の伴った言葉がこぼれる。

 

『しかし四月一日(エイプリルフール)とはいえ、限度があるだろうに』

()()()()()()()()()()()()()()とでも名付けようか、グローバル君』

『この現状は、まさしく“難局”ですな』

 

(お、原作ワード。いや、それどころじゃないか)グローバルとゴップが場を和ませるつもりか、四方山話を繰り広げている。

 実際、今回の大変動を人々は「エイプリルフール・クライシス」と記憶した。なお、重ねて記するが「血のバレンタイン」事件はユニウス7が崩壊しているとはいえ未然に防がれている。これを理由の一つに地球連邦に宣戦布告したザフトは無理筋と言えるだろう。

 

 

『あえて訊くのだけれど、』

 

 とここで探るような声色で発言したのは、新光子力研究所の弓さやかだ。

 

『あの二つの地球にも私たちと同じホモ・サピエンスが住んでいて、レベルはともかく何らかの文化文明を築いている、と考えていいのかしら』

 

 封印戦争終結後、甲児と正式に婚約を発表したばかりの才女は、()()()()にも波及する光子力というエネルギーを扱う科学者として意見を述べる。極東地区日本行政区首相を務める彼女の父、弓弦一郎や早乙女博士を始め、日本の誇るスーパーロボットを開発した博士たちは彼女に発言を委ねたようだ。

 まだ若輩であり、前途有望な彼女を彼らはまさしく娘を見るような眼差しで見守っている。

 

「ええ、今しがたグローバル議長にも仰いましたが、まさしく問題はそこなんです、弓所長」

『問題?』

「こちらをご覧下さい」

 

 イングが端末を操作して、二つある地球の内の一つをフォーカスした。

 には、惑星の赤道上を取り巻くようなリング状の人工物と、地上から衛生軌道上まで延びる三本の構造体が確認できた。

 

「これは、仮称“地球β”を倍率を上げて撮影した映像になります」

 

『少数の島2号型スペースコロニーに、惑星を取り巻く円環状の人工物……太陽光発電用の施設のようですな』『では、この地上から伸びる構造体は軌道エレベーターじゃろうな』と意見を交わすのは宇門博士と早乙女博士である。どちらも宇宙開発の分野で一言も二言もある地球圏を代表する専門家だ。

『うーむ。月近くに存在するこの巨大な人工物は、もしや宇宙船じゃろうか』『その可能性は大いにありますな』GGGの獅子王博士とGEAR長官の渋谷である。どちらもEOTを扱う組織に在籍し、それらに精通した人物と言える。

『この巨大な花弁のような金属の集合体……拡大すると脈動している? ある種の生命体のように見えるわね』と独自の観点で述べるのはダンナーベースの葵博士だ。長年、擬態獣と戦い続けてきた見識が生きている。

 

『これを見れば、確かに高度な文明が存在することがわかるわね』

「ええ。さらに付け加えますと、我々はこの地球の住人とすでに接触を持っています」

『なんですって!?』

 

 さやかが驚愕の声を上げる。

『ふむ、それは初耳だな』とはゴップの漏らした言葉だ。またグローバルも発言こそしないが、《マクロス》艦長時代からのトレードマークの制帽を被り直し、パイプを咥えた。

 

「報告が遅れ、申し訳ありません」

『私の判断で報告を止めさせていました。彼らに責はありません』

『いや、大河君がそう判断したのならそれが正しいのだろう。気にしていないよ』

『恐縮です』

 

 流石の大河幸太郎といえど政界の重鎮とまで言われ、αナンバーズの強力な支援者の一人であるゴップには頭が上がらない。

 ゴップ本人こそ風見鶏が如く日和見をし、表立っては動かないが、その影響力で有形無形の形でαナンバーズを助けている。自称「地球の寄生虫」はかつてはホワイトベース隊の後ろ楯をしていた経験から、そういった宿()()に致命的な危機に関しては嗅覚が利くのである。

 

「こちらが、彼らから聞き取ったこの地球についての主な情報になります。ご覧下さい」

 

 提出用に用意していた詳細なものと、ごく簡略化して確認し易くしたデータを提示する。なお、最低限の暗号化のみを施してネットワークに乗せて送っているのたが、これはプラントなどの勢力が読み解くことを期待したものである。情報漏洩よりも、未曾有の危機に対して理性と自制心が働くことを期待して。

 概ね、自分達の地球と同じく大乱を幾つも経ていることに眉を潜めている者が大半の様子だ。

 

『“新西暦”が成立するまでは、私たちの地球と同じ歴史を歩んでいる……宇宙進出を契機に別たれたパラレルワールド、と言ったところかしら?』

「おそらくは。ちなみに、兜博士も同意見でしたよ」

『あ、あら、そうなの』

 

 そんなイングの言葉に、さやかは俄に視線を泳がせ、挙動不振な様子を見せる。揶揄されて照れ入るような初な小娘ではないが、研究者としての見識についての場合は勝手が違うらしい。

 なお、引き合いに出された当の甲児だが、周囲の視線を集めたことに照れたように頬を掻いていた。

 

『それにしても、新西暦成立までの歴史は不自然なほどに似通っているのね。元々は別々のものを、無理矢理に継ぎ接ぎしたような違和感――いえ、似通っているからこそこういう事態になったとも考えられるけれど』

「ええ、まあ、そうなりますね」

 

 さやかの鋭すぎる指摘に、イングは苦笑いを浮かべて言葉を濁す。この世界の神(アカシックレコード)の都合であるとはさすがに言えまい。

 と、その時にイングの端末に一報が入る。

 

『イング』

「ティエリア! どうだ、うまく行ったか?」

『ああ、トレミーとの連絡が取れた。クアンタの識別コードを抹消しないでいてくれて助かったよ。それから、ヴェーダ経由で政府ともコンタクトに成功した。こちらはライが口添えしてくれたらしい』

 

 異変発生後、現状を重く見たイングとαナンバーズ首脳陣はいち早く来訪者たちに協力を要請。これを快諾した刹那とティエリアは、《クアンタ》を使って「ソレスタルビーイング」との接触を試みていた。

 

「失礼しました。先程ご説明しました協力者が、仮称“地球β”の地球連邦政府とのコンタクトに成功したそうです」

『朗報だな』

「はい」

『しかし、()()()()か……』

『奇縁と言うべきか、必然と言うべきか……』

『公文書作成では、官僚たちが頭を抱えそうですなぁ』

『コープランドくんには一層の苦労をかけそうだね』

 

 グローバルとゴップは存外気が合うのだろう、また益体もない話を広げて盛り上がっている。現職大統領をくん付けで呼べるのは、ゴップぐらいのものだろう。

 事態解決に微かな光明が見えたからだろう、会議の緊張感は僅かに緩み、参加者の顔色もどこかよくなったように見えた。それを画面越しながら感じつつ、イングはティエリアとの通話を続けた。

 

「ティエリア、ゼロと直接会談って出来るか? オンラインで構わないけど、なるべく速い方がいい」

『おそらく可能だが、直ぐには難しいな。彼らも相応に混乱しているようだ』

「わかってる、こっちだって意見が纏まってるとは言い難いしな。ただ政府間での公式的な交渉の前に、事前に情報交換をしておきたいんだ」

『なるほど、君たちの持っている情報は緊急性の高いものが多い。それに、異種生命体との接触の経験が豊富だからね』

「そういうこと。タイミングは向こうに任せる」

『了解した。早期に実現できるよう努力しよう』

「頼む」

 

 心強い言葉とともに、ティエリアからの通信が終わった。

 これまでの経験とメタ視点から、トップダウンで物事を決めなければこの空前絶後の危機には対応できないと感じていたイングは、この集まりも含めて過去になくイニシアティブを取っている。

 例え遺恨を残すくらいに強引でも、自らアクションを起こしていかなければ今もどこかで暗躍するものたちに、そして何より“運命”そのものに足を掬われるだろう。

 “バビル二世”であるイングは、手段を選ばないのだ。

 

 

 

「バルマー戦役以来の接触となるゼ・バルマリィ帝国、先の大戦から記憶に新しいギシン星間連合帝国は、どちらも戦力を増強させている節があります」

 

 端末を操作しながら、イングが言う。

 αナンバーズの直近での交戦記録が映し出され、新たなタイプの機動兵器の登場に特に軍関係者が渋い顔をする。

 また、科学者たちはそれぞれに抱えた事情を思い浮かべて苦悩する。特に、宇門博士は円盤型の特機級侵略兵器に複雑な視線を向けていた。

 

「地下勢力が完全に制圧されたとは未だ言いがたく、またプラントの武装組織ザフトの脅威もあります。さらには、宇宙怪獣、機界原種やラダム獣、ゼラバイア、ガルファなどに加えて未知の敵対的存在はこの宇宙に無数に存在しているでしょう」

 

 イングは参加しからの協力を取り付けるため、バルマー戦役での混乱を想起させて危機感を煽るつもりでいた。

 だが――

 

「そこで皆さんには――」

『似合わぬ回りくどい言い方は止せ、ワンゼロワン』

 

 些か舞台じみた口上を遮って言い放つのは、豊かなアゴヒゲを湛えた年齢不詳の男――国際警察機構長官、黄帝・ライセである。

 これまで無言を貫いてきたライセは、その鋭い眼光をモニター越しにイングへと突き付けた。

 研ぎ澄まされたナイフを目の前にしたかのような圧力を感じてイングは唾を飲み込み、喉を鳴らした。強力な超能力者であるライセならば、実際に画面越しに宇宙空間へとプレッシャーを送り付けることが出来るかもしれない。

 

『すでに(はら)(うち)は決まっているのだろう?』

「……」

『であればだ』

 

 この地球において、イングの直接的な後見人になるライセの言い様は、一見する突き放すようなものだが――聞くものによっては、言い聞かせるかのようなニュアンスを含んでいるように感じられるだろう。

 

『お前は、我々にただ頼むだけでよいのだ。力を貸してほしいと』

「……!」

『お前は“バビル二世”であり、地球圏を背負って立つ汎超能力者(サイコドライバー)だが……未だ子供なのだ』

 

 その言葉は、この場に集まったものの胸に突き刺さった。

 甲児、アムロ、竜馬――かつては子供だったものたち。そして、ブライトを始めとした彼らを戦わせるしかできなかったものたちが、悲痛な表情を浮かべる。皆、誰もが大小の差はあれど忸怩たるものを抱えながら、守らなければならないはずの子供たちを戦いへと駆り出しているのだ。

 歴史は繰り返される。

 因果は収束する。

 生き物が生まれ、そして死んでいくように。

 かつてとある少女が例えたように。

 この宇宙は、「誕生」と「死滅」と「転生」と――「闘争」と「革命」と「調和」が延々と続く、終わりのないワルツのようなものだ。

 

()()()()が戦争の矢面に立つことを、我々は止めることが出来ん。それはお前たちが、この世の理不尽と不条理に対して抗い、戦うことを自ら選び取ったからだ。経緯や理由は何れにせよ、な』

 

 ライセが双貌を伏せる。

 厳めしい表情に、余人には到底理解できない複雑な内心と思考を秘めて、しかし本心から自身の立場を表明する。

 

『ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは先達として、彼らの前を歩く存在なのだから』

 

 年長者はその背で子供たちを守り、育み、次代へと繋いで行くのだという、至極当然な、しかしてこの末法の世にはいっそ夢想にも思える難しい道理だ。

 だが、混沌とした時勢だからこそ、そういった理想論が必要なことを少なくもここにいるものたちは知っているだろう。

 

 バルマー戦役中からの工作により、SDF艦隊が解体された際にいち早くサイコドライバー(イング)を自身の傘下に納め、イージス事件、封印戦争と続いた戦乱の中で彼の元に正しき力が集うよう、陰ながら取り計らったのはこの黄帝・ライセである。

 かつてはビアン・ゾルダークや東方不敗ことショウジ・クロスを盟友として共に、BF団やその他の様々な勢力――時には連邦政府とも――と暗闘を繰り広げてきた男は、宿敵の後継者にして銀河宇宙の命運を握る少年を導く役目を自らに科した。

 ――あるいは、()()()()()()()()()()()()()には成らぬようにしたかったのかもしれない。

 

『そして何より、この宇宙を死と転生の無間地獄より解き放つのは、バビルから使命を受け継いだお前の――、今この時を生きる我々の成すべきことなのだから。()()()()()()()()――故に、我々自身もまたも当事者なのだ。子供らに、誰かに命運を託すだけでは駄目なのだ。自らも拳を握り、立ち上がらねば』

 

 盟友(とも)の残した言葉を引用し、ライセは決然と告げる。

 そのオブシディアンの相貌に迷いはない。

 連綿と続く死と転生の輪廻――終わりのない悲しみを三千大千世界へと広げ続ける“運命”という強大な摂理に終止符を打つ。陣営や手段は違えど、ライセと宿敵(バビル)はその一点で言えば協力者であり、仲間だった。

 バビルは支配で、ライセは協調で地球を、銀河を纏めることを模索していた。全ては、“アポカリュプシス”を真の意味で乗り越えるため、この閉塞した世界に新たな未来を切り開くためだった。

 

『答えを急ぐな、()()()()()()()()()()()()。全ての壁を取り払い、人々が互いを互いに認め合うには()()()()()()()。だからこそ、言葉を尽くし、心を尽くさねば、真に勝ち取るべき未来――“運命”を乗り越えることは出来ん』

 

 ライセは静かに、だが力強く断言する。

 どこか呆気に取られた表情をしていたイングは、唇を引き締め、徐に腰を折った。

 

「皆さん、どうかオレに……オレたちに力を貸してください。地球だけじゃない、この宇宙(せかい)から悲しみを消すために」

 

 イングは、自分の心を素直に吐露する。直に言葉にしなければ、ヒトは解り合えないことをライセに思い出されたから。

 そして彼らの答えは、もちろん決まっていた。

 

 

 

   †  †  †

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月☆日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》の自室

 

 先日は我ながら錯乱して散文的な内容を残してしまった。

 とりあえず、状況を説明しよう。

 

 各勢力の野放図な侵攻により、絶対防衛線が事実上崩壊したそのとき、発動したクロスゲートから新たに地球が二つ現れた。

 地球が、二つ、現れたのだ。

 

 あ…ありのまま

 今起こった事を話すぜ!

 『いきなりクロスゲートが発動したと思ったらいつのまにか地球が三つに増えていた』

 な…何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…

 頭がどうにかなりそうだった…

 催眠術だとか次元振動弾だとか

 そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

 

 と、思わずポルナレフ構文を使ってしまうのも許してほしい。まだ地球がひとつに融合したほうがマシだったのでは? いやそうでもねーか。

 ともかく、地球圏は未曾有の大混乱である。当たり前だバカヤロウ。「イデのヤロー頭おかしいのか」、と叫びたい気持ちで一杯だ。「多次元設定は甘え」とか言うユーザーの声を真に受けたの?バカなの?

 冗談じゃないレベルで異常事態だっての。

 

 さておき、現状を整理しよう。

 木星付近のアステロイドベルトにあったクロスゲートは、発動ともに三つの地球のちょうど中心の位置に移った。その時空間を繋ぐ機能により周辺の重力、空間を安定化させていると思われる。

 そのため、各地球では天変地異等の異変は今のところ起きていないようだ。

 

 刹那とティエリアの協力で、彼らの故郷(()()()()()()()()α()とし、それに対して()()β()と呼称することになった)の「地球連邦」とは比較的容易にコンタクトが取れた。さすがのゼロ、というかシュナイゼルも困り果てていたらしいな。

 幸いなことに彼らの地球はラダム降下をほぼ免れたらしい。主にELSの活躍だという。さすエル、と言いたいところだが彼らでさえ「ほぼ」なのだから、あの瞬間の混沌具合がうかがい知れるだろう。

 ただ、フェストゥムという厄ネタ中の厄ネタを抱えているので予断を許さないのは間違いない。

 早急に協力体制を敷くべく、地球安全評議会はリリーナ・ドーリアン外務次官とスーグニ・カットナル議員を代表として交渉に送ることになった。リリーナ嬢は向こうに受けがいいだろうし、カットナルにはタフな交渉を期待したい。もちろん、刹那たちにも同行を依頼してある。こちらはまあ上手くいくだろう。いかなくちゃ困るが。

 

 次に正体不明のもうひとつの地球(こちらは()()γ()と仮に呼称する。やはり、統治国家は「地球連邦」というらしい)についてだが、こちらはラダム被害を受けてしまった模様だ。

 地表から発射された核ミサイルやら六体の大型人型マシンが種子を粉砕していたが、対応しきれなかったようだ。

 

 日本列島を守っていたらしい大型の人型マシンは六体おり、オレはその中の白い機体に目を奪われた。こいつは、両肩の突き出た突起とリーゼントのような頭部が特徴的だ。

 あれ?これ「iDOL」じゃね?と気づいたオレ氏。

 

 じ ゃ あ あ れ イ ン ベ ル さ ん か よ !

 

 ゼノマスとかありかよ! イデの野郎、わかってたけど節操ねーな! ゼノマス時空だけどワンチャンしぶりんいるのでは?とかなんとか。

 とまあ、こんな感じで正体不明なこの地球ではどんなトラブルが待ち構えているかわかったものじゃない。情報が何一つないのだから、結果的に事情に通ずることになるオレが直接赴かなければならないだろう。

 地球安全評議会からは、ハマーン・カーン議員、それとGGGの大河長官が代表団の一員として先方の政府と交渉に当たる。こちらにオレとアーマラが護衛として同行することになるわけだ。

 ちなみに、会見の場は向こうの連邦議会のある「ヌーベルトキオシティ」。まあ、そういうことだ。

 

 両地球連邦政府とはどうなるかはわからないけど、どちらにせよ惑星っていう巨大な防衛目標が新たに二つも増えたのは実際辛いよなぁ。

 ともかく、一刻の猶予もない。

 早急に各地球間の協力体制を整えなければ。

 

 最後に、あの()()()()()()()()()()()()()()、そして背後にいる存在について。

 ヤツの正体は概ね察しがついたとはいえ、「そんなことってある!?」と叫び出したい気持ちがふつふつと沸いてくるのはさておき。幾つかの発言から組織だっていること、さらに()()()()()()()()()()()ことがわかった。つまり「地球β」の情勢に詳しく、向こうでも暗躍している可能性が高いってことだ。あるいは「地球γ」にも?

 負の無限力の勢力はオレの考えている以上なのかもしれない。かつてのBF団のようなオールスター状態になっていてもおかしくないぞ。

 モロにメタ読みになって恐縮だが、()()()()()

 リボンズは思想的にそんなタマじゃないし、クルーゼと役割が被る。エンブリヲならウザいだけで、むしろオレにとってはある意味与し易い相手とも言えるがこれも被ってるな、中の人的に。

 オレが相対して驚異に感じる人物、例えばマリアンヌとか? ありえそうだな、これ。まあ、今ウダウダと考えていても仕方ないし頭の片隅に留めておくとしよう。

 







 30発表はおろか、発売日にすら間に合わなかった敗北者はこちらです。
 てか、前回の更新から約半年が経過したってマ?
 カムラの里でオロミド教入信してスラアクぶん回したり、プラモ熱が燃え上がって30MMに散財したり、ノルマンディー号に乗って銀河を救ったりしてましたm(__)m



 ゲッペラ「(まさかのアニメ出演と推し達の活躍に満足した顔)」
 カイザーさん「(推しの曇りながらもヒーローをしている姿に感動した顔)」
 おっちゃん「(久々に訪れた仕事をやりきった顔)」

 くぅ~疲れました(以下略
 書き下ろしの三人称パートが多くて大変でした。長い、分割しろ?ごもっともなご意見です。
 個人的にはクルーゼのレスバが書けてわりと楽しかった( ・ω・)
 本編の解説は特にありません。ネタバレ回避。

 ナイツマどうしようかなぁ。単体なら出せる(どうせダイジェストなので)けど、出すならコンビでグリッドマン(というかアカネくん)も出したい。
 自分で広げた風呂敷を畳むのに難儀している愚か者の発言です。


 完全なる余談
 30についての感想は主に、「ゲッター1いねーのぉ?」です。
 真ゲッターが使えないのはともかく、マジンガーとおっちゃんがいてゲッター1がいないのはなぁ……。Vの使い回しでブラックゲッターでもいいし、INFINITISM版ドラゴンとかでもよかったんだぜ。チェンゲだけど。
 総じてゲーム面、シナリオ面では満足のできですがキャラゲームとしては脇が甘いなぁ、というのが自分の意見ですね。ファイナルダイナミックスペシャルも現状ではないしね!!ガッテム!!



 さておき、読書の皆様におかれましては、次回の更新もいつになるかわかりませんがお待ちいただければ幸いです。
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