セバル   作:レストB

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第1部 2章 第1話「さらば、クレア山」

 オルキア歴9982年、10月の夕方、テミー大陸の西方、クレア山。メリスはゆうやとゆかりの2人にこう告げた。

 

「今日で基礎課程は修了よ。2人とも、よく頑張ったわね。ひとまずはお疲れさま」

 

「やっと終わったんだ!」

 

「ん〜っ。長かった!」

 

 ゆうやとゆかりは口々に喜ぶ。

 

「本当に長かったね。教えているこっちも大変だったけど、やりがいがあった。あ、そうだった! 終わったってことを実感してもらうために、2人についた気のおもりを今外してあげるね」

 

 メリスは2人についた気のおもりを解除した。

 

「体が嘘みたいに軽いや!」

 

「信じられないくらい!」

 

 このころ、このおもりの重さはなんと300kgに達していた。それをつけたまま訓練を続けていたのであるから驚きである。

 

「気のおもりは、昔からバルに伝わる基礎訓練の方法の一つなのよ。長く辛い修行に打ち勝つことができれば、大きな力を手にすることができる。私も昔やったわ。数百kg以上にあまり重くしすぎても、ある程度のレベルまでいくと効果は薄いから、大抵はあなたたちのような見習いがやるんだけどね」

 

「ちょっと走ったり跳んだりしてみなさい。驚くわよ」

 

 ゆうやは思い切り地を蹴って跳躍してみた。地面がぐんぐん離れていく。20メートルは跳び上がっただろうか。跳んだというよりはまるで宙に浮いているようだ。ほんのちょっとの空の旅を経験した後、彼は地面にすたっと着地した。まるで自分じゃないみたいだ。ゆうやは驚きとともに、しかし湧き上がる実感。これが、これが今の自分なんだ! そう思うと、ひどく感動してきた。

 

「すごい! すごいよ! メリス先生!」

 

 ゆかりも、向こうの木まで走ろうとして地面を蹴り出してみた。その刹那、自分の肉体の前に進む勢いが今までと明らかに違うことに気づく。驚く自分とは裏腹に、あまりにも軽快に体は進んでいく。あっという間に木のところに達してしまった。走るというよりはまるで流れるかのごとく。これがわたし? ホントにわたしなの? しかし、次の瞬間には感動がこみ上げる。

 

「すごい! ホントにすごい! 信じられない!」

 

 メリスも微笑みながら、驚く2人を見ている。今日まで本当によく頑張ってたもんね。私もときに厳しくあたったけど、ちゃんとついてきてくれてありがとう。何より、私もこの子たちの成長を近くで見られたこと、それがうれしかった。でも、まだまだ大変なのはこれからよ。

 

「そろそろこっちに集まる! これからのことを話すから」

 

 2人が戻ってくる。メリスが話し始めた。

 

「2人は基本的なことは身に付けた。とりあえずはおめでとう」

 

「だけど、まだまだ大変なのはこれからよ。戦いに関することはまだ何一つやっちゃいないし、それにあなたたちの気はまだ赤気。私から言わせれば、生まれたばかりのひよっこもいいところよ」

 

「そんな状態でバルの仕事に就くのは無謀というもの。すぐに死んでしまうのがオチね」

 

 ゆうやがたずねた。

 

「じゃあ、このくらいじゃまだバルにはなれないってことですか?」

 

「そういうことね。これからも引き続き精進しないとだめ。でも……これからは私たちの仕事についてくるくらいなら大丈夫。簡単な仕事の手伝いくらいはやらせてあげられるかもね」

 

 それを聞いて2人の顔が明るく輝いた。

 

「さて、これからあなたたちの修行は第二段階に入るわ。実戦的な組み手や、赤気の応用、戦闘技術なんかを旅の中で少しずつ教えていくわ。実際に戦闘経験を積むこともあるでしょう。そうやって、一歩ずつ一人前を目指して頑張りなさい」

 

「はい!」

 

 2人は勢いよく返事した。

 

「さあ、今日でこの別荘ともお別れよ。明日から旅立つから、今日の夜はちゃんと準備しておきなさいよ」

 

「わかりました」

 

 

 今日の夜、寝室ではゆうやがゆかりと楽しそうに日本語で話していた。

 

「明日からとうとう旅立つんだな。外の世界ってどんなのだろう。俺はちょっとしか見たことないからよく分からないな」

 

「わたしもあんまり覚えてない。でも、楽しみだね」

 

「うん。明日からバルの仕事を近くで見れるんだ。なんかわくわくしてきた!」

 

「きっといろんな仕事があって、見たこともない世界や、見たこともない人たちが待っているんだろうなー。本当に楽しみ!」

 

 そこにメリスがやってきた。

 

「もう寝るわよ。明日は早いんだから」

 

「はーい」

 

 ゆうやは結局みんなと同じ部屋で寝ていた。もちろんもうふとんは離して別に寝ていた。暗闇は克服できたのだが、あの約束以来ゆかりと仲良くなったこともあり、部屋を分けることにこだわるよりも、おしゃべりしている方が楽しいと感じていたからだ。ゆかりもそんなことでゆうやをばかにしたりはしなくなった。

 

 2人が眠った後、メリスも考えていた。これでここともおさらばか。2人を育てるのも楽しかったけど、明日からは4年ぶりにやっと仕事に復帰できるわね。ちょっとブランクが出たけど、すぐに調子を戻さなきゃ。ジルフに仕事を任せっきりだったし、足手まといにならないようにしないと。さあ、やるぞー!

 

 

 

 翌朝、出発のとき。メリスは2人を気の膜で包んだ。気の膜の中に入ったものを強制的に飛ばす技だ。

 

「ほんとはこれ、かなしばりと併用して主に攻撃に使うやつなんだけど……2人ともまだ自分で飛べないからしょうがないわね。あまり強く作らなかったから、暴れたらやぶれるかもしれないから気をつけてね」

 

 メリスは、気の膜を飛ばしながら、自分も空を飛ぶ。3人はぐんぐん山から離れていく。

 

 

 ゆうやは山のほうを見つめた。

 

 

 さよなら、クレア山。さよなら、俺たちの家。

 

 

 3人は、一路テミー大陸の中部、大都ケスミアへ向かう。

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