セバル   作:レストB

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第1部 2章 第3話「バスチア王国 大臣の依頼」

 翌日、ジルフたちは数時間ほどでバスチア王国に到着した。ジルフにゆうやが、メリスにゆかりがつかまっての飛行だった。

 

 バスチア王国は、砂漠地帯にあり、サダという巨大な川の周りに作られた小規模の国家である。小規模とはいえ、この地方でとれる石油のおかげで、国はそれなりに潤っていた。かつては主に民間で石油の採掘が行われていたのだが、国家は、60年ほど前、レイバス戦争が終わったことを契機に、この権益の独占に乗り出した。今や油田は全て国有となり、民間にその利益が及ぶことはなかった。その上、近年は水の料金を跳ね上げ、国民のうち大部分を占める貧困層は悲鳴を上げていた。その背景もあり、革命勢力が台頭しだしたのである。多くの団体が掲げるスローガンは、「水と油の解放」であり、国民の大部分がその動きにはある程度同調していたが、テロなどが活発化し、軍隊が出動することも多々あり、情勢は不安定であった。

 

 

「あっつい」「あついよ~」

 

 砂漠に差し掛かると、ゆうやとゆかりの2人は気温と照りつける日差しに参っていた。なにせ日中は40度にも達するのである。

 

「こんなんで参ってるようじゃ、まだまだだな」

 

 涼しい顔でジルフは言った。

 

「でも、砂漠って生で初めて見たわ。広くて驚いちゃった」

 

「俺も初めて見た。こんなに一面砂だらけだと、迷ったら助からなさそう。俺たちには空を飛べる2人がいるから安心だけどさ」

 

 メリスは言った。

 

「これから初めて見る景色がどんどん出てくるわよ。世界は広いんだから」

 

「楽しみだなあ!」

 

 ゆうやはわくわくしている。しかし、そこに釘をさすようにジルフが言った。

 

「何も楽しい景色ばかりじゃない。血の嵐だったり、死体の山だって見ることもあるし、津波が町を飲み込んだり、炎が大地を焼き尽くすといった恐ろしい光景も見ることがあるさ。バルとしてやっていくなら、いずれはそんな光景にも出会う。そのときにも、きちんと向き合う強さを持たないといけないぞ」

 

「はい。でも……」

 

 ゆうやは想像していたら怖くなってきた。

 

「最初はトラウマになるでしょうね。でも、私たちもそれを乗り越えて今があるのよ」

 

 メリスが言った。

 

 ゆかりもまた考える。そんなもの、できれば見たくない。でも、いずれは向き合わなくちゃいけないのかな。向き合っている自分が想像できないや。

 

「お、見えてきたぞ。首都のキンドーラだ。ここらで降りて宮殿へ向かおう」

 

「了解。2人とも、降りるからしっかりつかまってなさいよ!」

 

 4人はキンドーラの少し手前で着陸し、依頼主の大臣が待つ宮殿へと向かった。

 

 宮殿につくと、ゆうやとゆかりは口々に、でっけえ~とかきれいとか言って見とれていた。こんなに大きくて立派な建物は見たことない。強固で巨大な宮殿のつくりと、ちりばめられた豪華絢爛な装飾の数々は、2人を固まらせるには十分であった。

 

「おい。ぼやっとしてないで行くぞ」

 

 言われて気づいた二人は、慌てて後を追った。

 

 

 入口の門番は、ぞんざいな態度で身分証明を求めてきたが、大臣が送ってくれた通行許可書と、ジルフの持つ、国際バル機関のSSライセンス(最上級ランク)を見せると、あなたが、あのジルフさんですか、失礼致しました、と非常に驚いて、急に改まってすんなりと通してくれた。

 

 入り口では従者の者が要件を窺い、大臣の部屋へ案内されることとなった。歩きながら4人は話していた。

 

「え、ジルフさんもメリス先生もSSだったんですか!?」

 

 ゆうやはそのことを初めて知って驚いた。

 

「え、ゆうや、ずっと知らなかったの? わたしはヘイロンさんから聞いてたよ。俺はSランクだが、もっとすごい人たちがいるから、その人たちに教えてもらえって」

 

「あ、そういえばゆうやにはまだ言ってなかったわね」

 

 メリスは思い出したように言った。

 

 

 この世界にはピンからキリまで、様々なバルが存在し、各地の争いを糧にして生活している。バルの数が増えてきたため、今から約300年前に国際バル機関は創設された。これは、依頼側が依頼しやすいようにと作られたもので、すでに様々なやり方で仕事をしていたバルをルールで縛る類のものではなかった。国際バル機関には、現在全体の約6割のバルが加盟していると言われている。残りのバルは私バルといったり、あるいは闇社会で活躍する者は闇バルという。

 

 

 この機関では、バルのプロフィールとともに、主な仕事の経歴などが登録され、その仕事や本人の能力などを合わせてランク分けされる。D,C,B,A,S,SSの6段階のランクがあり、Aランク以上はすべからく黄気の使い手であり、数が少ない。最上級のSSランクに至っては、世界にも数十人しか存在しない。実質世界で活躍できるのはBランクまでであり、Cランクは国の中の小さな争いや、村の小さなごたごたを解決するだけの者が多い。Dランクに至っては、兼業であったり、バルの仕事をしていない者もいる。これは、登録だけなら簡単な手続きで誰でも出来てしまうからである。そして、この仕事の過酷さを知った者の多くが、二度とはやるまいと仕事を放棄している。あるいは正義感にまかせて続けても、その多くが回復しないほどの重傷を負ったり、死亡したりしている。大怪我や死亡は上級ランクの者でも例外ではない。それほどまでにバルとは厳しい仕事なのだった。

 

 

 

 世界に数十人しかいないと言われるSSランクのバルが、今目の前に2人もいる。そのことを知って、ゆうやは非常に驚くとともに、改めて尊敬した。どうりですごいと思ったわけだ。当たり前のように空を飛んだり、自身の何十倍もの大きさの岩を軽く破壊したり、とても人間業とは思えない所業の数々。その理由が、なんとなく分かったような気がした。でも……

 

「あの、SSランクならなんであのとき、カーサなんて小さな町に行ったんですか?」

 

「俺たちはランクなんか気にしちゃいないんだ。もともと私バルをやろうと思ってたんだが、こっちの方が色々と便利なんで登録しているだけさ。だから小さな仕事でも関係なく、時間が取れればやっているんだよ」

 

「でも、あのときはゆうやに気をかけるあまり、焦ってしまって、結果的にあなたを危険にさらしてしまったし、あきひろ君を死なせてしまった……反省してるわ」

 

「……いいよ。ごめんなさい、辛いことを思い出させてしまって」

 

 ゆうやはあきひろのことを思い出していた。あのとき、彼が死に際にかけてくれた言葉が、今も自分の心で生きている。もう年は並んじゃったね。これから、君の分も生きていくから、どうか天で見守っていてください。

 

「ねえ、あきひろって誰?」

 

 ゆかりが聞いてきた。

 

「俺の友達だったお兄ちゃんさ。今はもういないけどね……」

 

「……そうだったの。大変だったわね。」

 

 ゆかりは聞かない方が良かったかなと思った。

 

 そうしていると、大臣の部屋に到着した。

 

「こちらが大臣の部屋でございます」

 

 従者はそう言った後、コンコン、とドアをノックして、

 

「バルのお二人がお見えになっています」

 

 と言うと、奥から、通しなさい、と声がした。

 

 従者はドアを開け、4人は部屋へ入った。

 

 大臣が椅子から立ち上がり、4人を迎え入れた。

 

「きみはもう下がっていなさい」

 

 そう大臣が言うと、従者はお辞儀をして、部屋のドアを閉めて出て行った。

 

 メリスは、ゆうやとゆかりの2人に、しゃべるんじゃないよ、と小声で注意した。

 

「さて、よく来てくださいました。あのレイバス戦争の英雄に会えるとあって、こちらも光栄です」

 

「いや、あれは昔の話なんで、気にしないでくれ」

 

「そんなことをおっしゃらずに。あなたの名声は、この小国にも届いておりますよ」

 

「で、そちらの3人は奥さんとお子さんですか?」

 

 ジルフは、連れを家族のように言われてちょっと動揺したが、そのそぶりは見せずに言った。

 

「いや、相棒のメリスと、弟子たちだ」

 

「ほう、あのメリス様もご一緒ですか。はじめまして、大臣のマドラグと申します」

 

「はじめまして」

 

 メリスは頭を下げた。

 

 

「では、早速だが、仕事の要件を詳しく聞きたい。依頼書によると、ディーン・クルスレッドという革命団体を鎮圧してほしい、ということだが、こいつらについて出来る限り詳しい情報を教えてほしい」

 

「はい。ディーン・クルスレッドは、革命勢力のいわゆる過激派の一味で、10年ほど前から、テロなどの武力活動を行っている困った連中なのです。我々も何度も軍隊を出動させ、鎮圧にあたったのですが、やつらのしっぽはなかなかつかめない。どうやら、宮殿内部に内通者がいるようなのです」

 

「そこで俺たちバルの出番ということか」

 

「その通り。外部の者に頼るのは心苦しい選択でしたが、これ以上やつらを野放しにはできません。どうか内通者を探し出し、ディーン・クルスレッドを潰していただきたい。処刑してしまっても構いません」

 

「俺は殺しが趣味じゃないんで、それはなるべく遠慮しとくよ。要はとっ捕まえればいいんだな」

 

「ぜひともお願いします」

 

「で、ちょっと聞きたいんだが……」

 

「なんでしょう」

 

「最近国が水の値段を跳ね上げたりして国民が困っていると聞くが、あなたはこのことをどう考えているんだ」

 

「我々も軍備の拡張、油田の拡張など、すべきことがあります。その税金を確保するため、水の値上げはやむおえないことなのですよ。国民には、その点理解が足りないようで、困ったものです」

 

「……わかった。早速仕事に取り掛かろう。だが、最後に少し頼みたいことがある」

 

「この2人の弟子を訓練できるような場所を一つ貸してくれないか」

 

「ええ、それならお安いご用です。広い訓練場がありますので、そちらを手配しましょう」

 

「ありがたい。では、失礼する」

 

「良い知らせを期待していますよ」

 

 4人が出て行ったあと、大臣マドラグはほくそ笑んでいた。これで、やつらも終わりだ。貧民のクズのくせに抵抗しやがって。あのジルフというバル、言葉使いが少々生意気だったが実力と名声は本物。きっと素晴らしい仕事をやってくれるに違いない。

 

 

 部屋を出た後、ジルフとメリスは警戒を強めていた。2人は小声で耳元で話す。

 

(さっき大臣と話しているとき、あの従者、聞き耳を立てていたな。あやしいかもしれない)

 

(そうね。向こうとしてはうまく気配を消したつもりでしょうけど、こちらにはバレバレだったわ)

 

(あとで動きがあればつけてみるか)

 

(そうしましょう)

 

(それで、大臣なんだが……やはりあの大臣じゃこの国は持たんな)

 

(あの質問ではっきり分かったが、本心では自分の利益しか考えていない)

 

(やっぱりね。どのみち近いうちに革命は成るんじゃないかと思うわ)

 

(まあ、国の内情は俺たちがつっこむところじゃない)

 

(ディーン・クルスレッドがテロで多くの死者を出しているのは事実だからね)

 

(そうだ。今回は内情を抜きにしても、テロを止める価値はある。仕事は引き受けよう)

 

「あの、何話してるんですか?」

 

 ゆうやが気になってジルフとメリスに尋ねた。

 

「いや、これから仕事をどうしようかって話だ。おまえはまだ気にするな。そのうち現場には連れてってやるから」

 

「はーい」

 

「あっ、そうだ。ちょっと気になったことがあるんですけど」

 

「レイバス戦争って今から60年前くらいに5年に渡って続いたって授業でメリス先生は言ってましたよね?」

 

「ええ、そうよ」

 

「で、ジルフさんはそのレイバス戦争の英雄なんですよね……?」

 

「まあな。あまり気に入らないが、世間ではそういうことになってる」

 

「…………ってことは、もしかして、ジルフさんってものすごい年寄りなんですか!?」

 

 メリスが答えた。

 

「そうねえ、私たち、どっちも100年ちょっとは生きてるかしら」

 

 ゆうやとゆかりはどっちも仰天した。

 

 

「ええええええーーーーー!」

 

 

「驚くことじゃないでしょう? この世界では大人になったらそれ以上体は変化しないって言ったじゃないの。肉体はずっと20歳くらいのときの状態を保ったままなのよ。だから、一度成長すればもう年は関係ないの。100年以上生きてる人だって普通にいるわ。でも、様々な死因によって平均寿命は70歳くらいだし、何百年も生きるような人はほとんどいないけどね」

 

 ゆかりがまだ驚きながらも言った。

 

「じゃあ、私たちが年をとっちゃって、メリス先生とジルフさんより先に死んじゃうってことがあるんですか?」

 

「いや、その心配はないわ。どうも地球人もこの星に来ると衰えない体になるらしくてね。実際に100年以上若々しさを保った人がいるって報告例があるのよ」

 

「そうなんだ。でもびっくりした~。今日がこの年で一番びっくりしましたよ」

 

 ゆうやがそう言うと、

 

「おいおい。今年はまだあと2か月残ってるぞ。そんなんで驚いてるようじゃ身が持たんぞ」

 

 とジルフが笑いながらつっこんだ。

 

メリスが首をかしげながら笑って言う。

 

「それほど年齢で死なないってのは驚きなのかしら。」

 

「そうですよー!」

 

 ゆうやとゆかりは口を揃えて主張した。

 

 メリスも急に思い出したように言った。

 

「そういえば、あの大臣、私をあんたの奥さんだなんて言ってたわね。あんたもまんざらじゃなさそうだったわよ」

 

「ばかいえ。いくら長年パートナー組んでも、それはさすがにないだろ。ちょっとびっくりしただけさ」

 

「今も夫婦みたいに見えるよね」「うん、お似合いよね」

 

ゆうやとゆかりにそう言われ、ジルフとメリスはお互いに見つめたままちょっと赤くなってしまった。

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