セバル   作:レストB

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第1部 2章 第4話「真夜中の密談」

 大臣は宮殿の客人用の一室を手配してくれていた。4人は部屋に入ると、荷物を置き、訓練場に向かった。

 

「それじゃあ、夕食までまだ時間があるし、修行の続きといこうかな。ゆうや、今日からおまえの修行の相手はこの俺だ。俺は先生と呼ばれるのはどうも苦手なんで、今まで通りジルフさんでいいぞ」

 

「はい! ジルフさん、よろしくお願いします!」

 

「ゆかりの相手は今まで通り私よ。ちゃんとメリス先生って呼びなさいね」

 

「はい。メリス先生、よろしくお願いします」

 

「これからあなたには気の応用を教えていくから。まだ赤気のあなたがやれることには限りがあるけど、いずれ黄気になったときの基礎になるから、頑張りましょう!」

 

「はい!」

 

 ゆかりとメリスは一足先に修行を始めたようだ。

 

「さあ、こっちも早速始めたいとこだが……まだおまえの実力を見ちゃいないから、さじ加減が分からない。まずは気を見よう。気を集中させて思いっきり俺の腹に打ちこんでこい!」

 

 そう言うと、ジルフは身構えた。

 

「本当にいいんですか?」

 

「他のものに打ったら宮殿がぶっ壊れちまうだろ。俺はおまえのパンチなんて痛くもかゆくもないから、気にせずやれ。これが一番おまえの実力が分かるんだ」

 

 ゆうやはうなずき、気合いを入れた。赤い気が全身からほとばしる。ほう、なかなかいい修行つけたじゃないか、メリスのやつ。ゆうやはその気を左拳に集中させた。それをジルフの腹目がけて一気に突き出す。

 

「はああっ!」

 

 鈍く響くような大きな音とともに拳は動きを止めた。ジルフの表情は一切変わらない。拳が全くのめり込んでいなかった。代わりに、ゆうやが顔をゆがませる。

 

「いってえ~~!」

 

 ゆうやが拳をさすりながら言った。

 

「なんて硬さだ! 岩より全然硬いですよ」

 

「はは。まあ鍛えてあるからな。そのくらいのパンチならなんてことはないのさ。でも、それなりに響いたぞ。今までの修行で頑張っていたのがよくわかる」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「今日からは気のコントロールもやるが、しばらくは剣術をやろうと思う」

 

「剣術……ですか」

 

「おまえは、メリスから、黄気と赤気ではできることが違うと聞いたな?」

 

「はい。何度か聞かされました」

 

 

「少しおさらいしておくと、赤気、これはいわゆる闘気とも呼ばれているが、この段階では、気をどこに集中するかという割合を変えることや、集中した気を圧縮して一時的に肉体を強化することしかできない。そのかわり、黄気と同じ強さで比較した場合、強度が約1.2倍というメリットがある。しかし、このメリットは直接打ち合いしたときでないと意味を持たないし、大抵の黄気使いは赤気使いよりも遥かに気の力が強いから、あんまり意味のないメリットだけどな」

 

 

「これに対し、黄気に覚醒すると、一気に様々なことができるようになる。体から気を放出する気功波なんかはその一例だな。その他にも、気をものに伝わらせて強化したり操ったり、回復気功といって回復術にも使える。さらに、形質変化させることによって実に様々な形状を取り、これによって多種多様な攻撃が生まれるんだ。もちろんおまえがやりたくてしょうがない舞空術も黄気じゃないとできない。このように、黄気と赤気じゃやれることに天と地ほどの差があるんだな」

 

「ここまでは覚えているか?」

 

「はい、なんとかですけど」

 

「じゃあ、ここからが本題だ。俺の専門は気功剣術と言うんだ。気と剣術を組み合わせたものだな。今日からおまえにはこれを教えようと思う。メリスいわく向いているらしいし、おまえの気の性質を見たら俺もそう思った。赤気じゃまだ気を剣に伝えることはできないから、しばらくはただの剣術になると思うが、ビシビシいくからそのつもりでな!」

 

「はい。頑張ります!」

 

 剣術か、どうなんだろう?

 

「まずは俺が用意した木刀を手にとれ。基本の型からいくからな!」

 

「は、はい。これですか」

 

 ゆうやは木刀を手に取る。軽いが、しっかりした作りだ。

 

「俺の動きを真似して、軽く素振り5000回からいくぞ!」

 

「はい! わかりました!」

 

 しばらくして、素振りの練習が終わると、今度は剣の稽古を始めた。そして最後は無手での組み手でしめる。

 

 最初は攻撃の仕方が分からないゆうやだったが、この日の修行で少しは分かるようになった。甘い! と何度もジルフには弾き飛ばされたけど。

 

「俺がこれからおまえにつけてやる修行のメニューは大体こんなもんだ。時間のあるときは体を鍛えるようにしとけよ。1分1秒も惜しむな。伸び盛りだからな」

 

 客人用の部屋に戻ると、ゆうやはメリスに聞いた。

 

「先生の専門はなんですか?」

 

「ああ、私はね、気功変化を専門にしてるの。様々な気の技の使い手ね。気功剣術の、気をものに伝わらせる技術も気功変化に入るわね。応用が広いから、気功変化に関してある程度精通しておくことは、気をマスターする上では重要なことよ。回復気功なんかも人よりは強力かな。あなたを助けた時も、回復気功を使って体力を回復させたのよ」

 

「そうなんですか」

 

 ゆうやがメリスの話を聞いていると、使用人がやってきて、料理をお持ちしました、といって去っていった。

 

「あ、ごはんだ! すっごい豪華だな~」

 

「おなかすいたし、早速食べよ」

 

 ゆかりが促した。そういえば自分の腹も鳴っている。今日の修行で腹が減ってるな。

 

「うん。もう食べちゃおう!」

 

2人はそろって皿を取り、

 

「いっただきま――」

 

 

 

「待て!」

 

 

 

ビクッとして手が止まった。声の方を見ると、ジルフだった。

 

 

「皿を置くんだ! そいつを食べるな!」

 

 2人がびっくりして、皿を置くと、ジルフはほんのひとかけら料理をなめた。やはりな……

 

「この料理には即効性の毒が入っている。俺とメリスには効かないが、おまえたち2人がこれを食べていたら危なかったな」

 

 毒!? それを聞いて2人はへなへなと体の力が抜けてしまった。あ、あぶなかった。

 

 ジルフとメリスにささやくように小声で話し始めた。

 

(こうも手回しが速いとは、連中はよほど俺たちを始末したいと見える)

 

(今後もどんな手を使ってくるか分からないわね)

 

(ああ。俺たちはいいとして……あの子たちが心配だ)

 

(仕事を急ぎましょう。今度はヘマをやらないようにしっかりとね)

 

(そうだな。今のこのことから、可能性としては……)

 

(あやしいのはあの従者一人じゃないかもしれない)

 

(そうだ。複数の者が内通者である可能性がある。あの従者がこっそり料理に毒を盛るなんてまねはできそうにない。完全にポストが違うしな)

 

(あの従者、今度会ったら探知用の気をつけておけ。気の使い手ではないし、おそらく問題はないはずだ)

 

(わかった。それで、従者に動きがあれば後をつけて、情報をつかみましょう)

 

「あ、あの……私たち、狙われてるんですか……?」

 

 ゆうやとゆかりは怯えた目でこちらを見つめてくる。

 

「ああ、そうだな。たしかに狙われてる。でも、こんなことはしょっちゅうあるぞ。いちいち怖がっていたらキリがない。今のうちに経験して慣れておけ」

 

「ただ、外を一人で出歩くんじゃないよ。気の力は一般人よりはだいぶ強くても、戦い方はまだそんなに教えてないんだからね。今日は私たちのすぐ横で寝なさい」

 

「逃げなくていいんですか?」

 

 とゆうやが聞くと、ジルフは答えた。

 

「逃げる必要はない。下手に逃げれば、余計変なところで狙われるかもしれないし、どこかのホテルにでも泊まろうものなら、テロでも起きかねない。ここにいる限りは、向こうも毒とかのこそこそした手段しかやってこれないさ」

 

「……わかりました」

 

(向こうも必ず確認に来るはずだ。このまま待っていよう)

 

(わかった)

 

「2人はこれから私たちのすることを何もしゃべらずに見ていなさいよ」

 

「はーい」

 

 しばらくすると、例の従者が部屋にやってきた。従者は、料理に手が付けられてないのを見ると一瞬表情が変わったが、

「お風呂の用意ができております」

 

 とだけ一言言って去ろうとした。そこにメリスが口を割って入る。

 

「案内してもらえるかしら。場所が分からないものでして」

 

「いえ、そこの角を奥に行けばすぐにお分かりになると思われますので」

 

「じゃあ、そこの料理を下げてくれないかしら。私たちの口には合わなかったみたい」

 

「は、はい。かしこまりました」

 

 従者が料理の乗ったカートを下げようと気がそちらに行ったその瞬間。メリスはこっそりと気を発し、従者の体に付着させた。

 従者はそれに気づいた様子はない。よし、成功よ。従者が去っていった後、メリスとジルフはまた耳元で話す。

 

(これであの人の動きが把握できるわね。動きがあったら連絡を入れるから、後をつけましょう)

 

(これでうまく進展してくれるといいが……)

 

 メリスはゆうやとゆかりに小声でこう話して説明した。

 

「今、この宮殿の内部に革命組織の内通者と見られる者がいるの。さっきの気はその候補を探知するためにつけた気よ。あなたたちが声を上げると警戒されるから、黙っておくように言ったわけ」

 

「それから、今日はお風呂はやめときましょう。裸のときは狙われやすいからね。そして、もしさっき気をつけた人に動きがあれば、後を追って様子を見ることになるわ。もしかしたら今日の夜中かもしれないから、今のうちによく寝ておきなさい」

 

 

 

 その日の夜、ゆうやとゆかりはぐっすり眠っていたが、ジルフとメリスは目を瞑りながらも従者の動きを待った。夜中の2時をまわったころだろうか、従者が寝室と思われる部屋から突然動きを見せた。

 

(来たわ。ジルフ、そこの2人をよく見ていて。私、ちょっと行ってくる)

 

(ああ。なにかつかめるといいな)

 

 メリスは部屋をそっと出ると、気配を消して従者の向かった先へ急いで向かう。そこは中庭の片隅だった。中庭で確認できたのは、例の従者と、男の2人。数十メートル先にいた。

 

 なるほど、中庭とは考えたわね。ここなら見晴らしもいいし、誰かが来ればすぐにわかる。小声で話していれば何を話していたか分からない。でも、相手が悪かったわね。

 

 メリスは耳に気をわずかに集中させ、聴力を一時的に上げた。これで数十メートル先の声も楽に届く。

 

「誰か後をつけてなかったか?」

 

 と男が言うと、

 

「私がそんなヘマをやるわけないでしょ。それに、見渡してもそんな人どこにもいないわよ。フェンルイは心配症ね」

 

 従者は自分たちに対するのとは打って変わった砕けた口調で言った。フェンルイと言われた男は言った。

 

「で、ヒスミ、あの作戦はどうなった?」

 

 従者の名はヒスミというらしい。ヒスミは首を横に振った。

 

「だめよ。一発で毒だって見抜かれちゃってたわ。あなたの作戦は失敗ね」

 

「やっぱりバルってのはただもんじゃないな。あの毒、ほとんど無味無臭なのに」

 

「ちっ。厄介なやつらを雇ってくれたもんだぜ!」

 

「とりあえずボスに報告よ。ここの通信は傍受されるから、近い内にまたお休みをもらってアジトに行かなきゃならないわね」

 

「しっかし、まさか自分の秘書ともいうべき存在が裏切り者だなんてマドラグのやつは考えてないだろうな」

 

 フェンルイは笑っている。

 

「なんで暗殺しないのかしらね。いくらでもそのスキはあるのに」

 

「ボスが言ってるじゃないか。我々はただの暗殺者ではない。マドラグには、公衆の面前で、その罪を悔いながら死んでもらうって。それをもって革命を成した証としたいのだと。そうしないと次のマドラグみたいなのが出てきちゃって意味がないんだとよ」

 

「そういうものかね。そうそう、バルに対する次の手を考えないと」

 

「子どもをさらうってのはどうだ?」

 

「うーん。それは難しいね。いつもくっつけているようだし。今日だって風呂に入らないほど警戒していたからね」

 

「毒もダメ、誘拐もダメとなると……今から寝込みでも襲いに行くか。」

 

「それこそダメでしょ。しくじって正体がバレたら一巻の終わりよ」

 

「冗談だよ。……これ以上変なことしたら危ないかもしれないな。ヒスミ、おまえはすでに警戒されているようだし」

 

「そうね。食事を下げるときは冷や汗かいたわ。まあ、ずっといるわけじゃないだろうから、しばらくはやり過ごすしかないかな」

 

「所詮雇われにこの国のことは興味ないさ。金にならねえとわかったら帰っていくだろ」

 

「じゃあ、バルは静観で。ボスへは一応報告と。アジトに行くのは……」

 

「明後日くらいがいいかな」

 

「それで決定! 今日はこのくらいね」

 

「ああ、帰り道気をつけろよ」

 

「あなたこそね」

 

 ヒスミという従者とフェンルイという男が別れた。メリスも気配を消して自分の部屋へ戻る。

 

 ジルフが体を起こした。

 

(おう。帰ってきたか。して、どうだった?)

 

(ビンゴよ。今のところ内通者は2人で、あの従者とフェンルイっていう男。従者の名前はヒスミっていうわ)

 

(あの2人がアジトに行くのは明後日。そこがチャンスね)

 

(しっぽがつかめたな。これで一網打尽にできるかもしれない)

 

(そうね。とりあえず今日はもう寝ましょう)

 

 2人は警戒を残しつつも、眠りに落ちた。どうやら何事もなく夜は過ぎて行った。

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