真剣修行の翌日、ヒスミとフェンルイは仕事を休み、宮殿を出た。メリスとジルフは気配を消してあとを追う。
「しかし、こいつら背負っていくのはちょっとなあ」
「仕方ないじゃないの。仕事を見学させなきゃいけないんだから」
メリスにはゆかり、ジルフにはゆうやが背負われていた。
「あ、ほら、動いた。行くよ」
「わかったよ。おい、2人とも。尾行中はしゃべるなよ。高い声は響くからな」
「はー……」
「しっ。返事もいいから。あぶないあぶない。どうやら気づかれずに済んだようだな」
ヒスミとフェンルイが向かったのは、どうやら首都キンドーラの町外れにある一軒の酒場のようだ。表には、コディー・ベイド(コディーの酒場)の看板が掲げられている。とても市民が来なさそうな場所にその店はあった。
外からこっそり様子を窺うと、ヒスミとフェンルイは何やらカードのようなものを取り出し、酒場の主人に案内されて地下へ向かっていったようだ。
メリスが言った。
「なるほど、会員制ってわけね」
「ああ、それじゃ、ちょっくら行ってくるわ。子どもは酒場に入れないからちょっとお留守番な。メリス、少しの間2人を頼んだぞ」
ジルフはドアを開け、客として酒場に乗り込んだ。
「いらっしゃーい」
マスターがジルフに声をかける。
「お客さん、初めてだね。名前はなんて言うんだい?」
「ここは名乗らなきゃ飲むこともできねえのか」
「いや、そういうわけじゃないが……」
「まあいい。とりあえずキジン酒ひとつ」
「はい、キジン酒ですね。まいど」
キジン酒を適当に飲みながら、ゆっくりとあたりを見回す。この中のどれほどが一般人なのか。ちょっと揺さぶってみるか。わざと大きめの声で切り出す。
「ところで、マスター。最近、ここらでディーン・クルスレッドって革命勢力が暴れているらしいんだが、何か情報を知らないか?」
ピクッと、全員がわずかにだが反応を示した。なるほど、こいつら全員クロなのか。もしそうならば手っとり早い。
「そうだなあ。最近は特にぶっそうになってきてますからねえ」
「それで、ここがアジトだって情報もあるんだがな」
全員の顔色が変わる。あ~あ、こいつらクロ確定。
「いや、まさかそんなことはないですよ」
「じゃあ、後ろで銃構えてるやつはなんだ?」
「なに? どうしてそれがわか……」
「はあああ!」
ジルフは気の衝撃を部屋中にめぐらせる。
大きな衝撃が響き渡ったかと思いきや、酒場が静かになった。窓は全壊、テーブルはめちゃくちゃになって、革命団の一味と思われる者たちは一人残らず気を失っていた。
これ、一般人も巻き込むからなあ。全員がクロでよかったよ、ほんと。
それから、ジルフは3人を手まねきでよせる。
こうして4人とも酒場に入った。
「うわっ。すごいことになってますよ」「めっちゃくちゃですね」
とゆうやとゆかりの2人は驚きを隠せない様子。
「いつも思うけど、もうちょっと手加減きかないのかしら」
メリスもあきれ顔だ。
「いや、これが一番手っとり早い方法なんでな。さあ、さっさと地下に行くぞ」
地下に行くと、厳重なロックがかかった分厚い扉があった。
「パスワードを入力してください」
と音声が鳴る。
「どうせさっきの音で気づいてるだろうから、ここは強引にいくぞ」
「まったく。誰が大きな音を出したのさ」
「パスワードを……」
ジルフはガガーッと力ずくで扉をこじ開けた。当然だがサイレンが鳴る。
「逃げられたら厄介だ。急ぐぞ!」
「OK! 2人とも、気の膜を張るからね。ついてきなさい」
練られた気の膜は、多少の攻撃ならびくともしない強固な壁となる。2人は膜につつまれることでその身を守られた。
入口付近で、すでに何人かが銃を持って待機していたが、軽く蹴散らしながら進む。奥に進むにつれ、次第に人が増える。中には、寝室や食糧庫、自家発電設備などがあり、さながら地下要塞のようである。
ヒスミにはりつけた気を頼りにひたすら進む。するとついに奥の大きめの部屋に到着した。
そこには部下が数十名控え、ヒスミとフェンルイもいた。そして、奥には一人の男が。どうやらこの人がボスのようである。
ヒスミが驚いたように言った。
「侵入者が来たのは分かったけど、まさかあなたたちだなんて……」
奥にいる男が聞いた。
「こいつらか……すご腕のバルというのは」
「はい。そうです。マドラグに雇われた者たちです」
「そうか……それで、こいつらに後をつけられたというわけだな」
「ええ、申し訳ございません」
悔しさを噛みしめながらヒスミが言った。
ボスはジルフたちを見てこう言った。
「まさか、ヒスミの後をつけてこられるやつがいたとは驚いたぞ」
ボスはふと、ヒスミについた気を見つけた。
「うん? これは……探知用の気か。どうりで後をつけられるわけだ」
「ほう、探知用の気に気づくとはなかなかやるじゃないか」
ジルフが言った。
「その自信、ここから逃げなかったのも、おまえもまた気の使い手だからだな」
「そういうことです」
ボスはそう言って、それからその場にいる全員に指示を出した。
「おい! 君たちはこの人たちには手を出すな。君たちの実力じゃ、束になっても返り討ちに遭うだけだ」
「いい心がけね」
メリスも的確な指示にうなずいた。
ジルフはメリスを制した。
「ここは俺にまかせてくれ」
「ま、いいわ。今回はまかせた!」
「ゆうや、ゆかり、ジルフとあのボスの戦いをよく目に焼き付けておきなさい。これがあなたたちには最初の黄気使い同士の戦いだからね」
「はい!」
ジルフとボスは部屋の中央で対峙した。ボスが先に口を開く。
「私の名前はディーン。この革命団体、ディーン・クルスレッドのボスです。私たちがここまで活動してきたのは、民を蹂躙する悪しき国家を討ち、新政府を打ち立てるため。ここでやられるわけにはいかない!」
「俺はバルのジルフだ。お前たちの活動には興味はないが、やっていることが過激すぎると感じたんでな。今回はそれを止めに来たんだ」
「テロなどの行動はこの国を作りかえるのに必要なことだ。部外者のあなたにとやかく言われる筋合いはない。そして、ここがバレてしまった以上、どのみちあなたたちを生かしてはおけない。覚悟しろ!」
仕方ない。やはり戦わねばならないか。ジルフは剣を取り出した。それから右腕をまっすぐに伸ばし、左手を右腕に軽く添え、剣を突き付ける構えをとった。
ゆうやには、その構えがなんとも印象に残った。
ジルフは構えたまま言った。
「上等だ! かかってこい!」