ジルフとディーンは向かい合う。ディーンは鉄砲を構えた。鉄砲には黄気が集中している。なるほど、こいつは気功銃術の使い手か。
ディーンの指先に力が入った。次の瞬間、気で強化した弾丸が一気に4,5発発射された。ジルフは慌てることなく剣先で弾の軌道をそらす。
しかし、そらしたはずの弾がこちらに向かって飛んできた。
ちっ。ホーミング弾か。
「ずああっ!」
ジルフは気で弾を受け止めると、弾は勢いなくポトリと落ちた。しかし、そのときにはもう次の弾が発射されていた。そこで、ジルフは、今度は弾をそらすのではなく、正確に斬りおとした。その高速の剣技に、ディーンの表情が曇る。
今度はこっちの番だ! ジルフは剣を構え、猛然と接近する。次々と弾を発射するディーン。しかし、それはことごとくかわされ、距離は詰まっていく。
そして、ジルフがディーンの目前に迫り、剣を振り上げたそのとき! ディーンは笑った。
「かかったな!」
至近距離で銃口から強烈な気砲が放たれた。それは、部屋の壁を貫いて、地面も貫いて、奥が見えなくなるまで飛んで行った。
ゆうやもゆかりも、あまりの威力にポカーンとして見ていた。ジルフさんは大丈夫なんだろうか。
しかし、ディーンが勝利を確信した瞬間、
「後ろだ」
の声とともに彼の背後にいたのはジルフだった。
ジルフは、彼が気砲を放ったとき、すでに残像を残し後ろに回り込んでいたのだ。
ディーンが振り返る暇もなく、彼は、ディーンを背中から一気に斬りつけた。ディーンは跳ね飛ばされ、その場に倒れ込んだ。
「勝負ありね」
メリスはその様子を特に驚くでもなく見ていた。しかし、ゆうやとゆかりは、自分の想像を遥かに超えた戦いに、まだ開いた口が塞がらなかった。こんなにすごいなんて……まだまだ自分たちが修行中だといった、その意味がはっきりと理解できた。
「黄色を見たら赤信号。絶対に立ち向かうな」
これが赤気使いの黄気使いに対する基本的な姿勢だと教えられた。もしも自分たちがディーンの相手をしたら、ものの数秒ももたずにやられてしまうだろう。
ディーンはうめく。
「わ、私は……まだ、負けるわけには……いかないんだ!」
しかし、体がついていかない。それほどジルフの一撃は芯に効いていた。
「ボ……ボスが負けた!」「俺たちはおしまいだー!」「無念!」
そんな声がそちらこちらから聞こえてくる。
ディーンは声を振り絞って言った。
「わ……私は……新しい国を作りたかったんだ……みんなが笑えるような国を……しかし、今日でその夢もおしまいだ! さあ、殺れ! ひと思いに殺してくれ! このまま捕まっても、拷問の末に打ち首になるだけだ!」
部下の一人がそれを聞いてジルフに申し出た。フェンルイだ。
「頼む! ボスは……ボスはこの国に必要な方なんだ! 俺はどうなってもいい、ボスは見逃してくれないか?」
「私だってそうさ! 死んだって構わない。でも、ボスは、ボスだけはなんとかしてあげて!」
ヒスミも同調するように頼んだ。
すると他の部下たちもそろって、自分の命を捨てても、ディーンは助けてほしいと頼みだしたのだ。
ゆうやもゆかりも、なんだか悪いはずの革命団員たちが気の毒になってきた。
ジルフは黙ってそれを聞いていたが、剣の切っ先をディーンの首に突きつけた。
「最後に聞きたい。おまえは、テロで罪もない市民を巻き添えにしてきたな。そのことについてはどう考えているんだ」
「今さら言い訳はすまい。テロは、この国の主要な人物を始末するのに必要なことだったんだ。そうやって段々と有力な権力者たち、国民の苦難の上にあぐらをかいている者たちを始末していき、最後は自分が国をひっくり返してトップになろうというつもりだったのさ。なるべく一般人に犠牲者は出ないようにしたさ。だが……」
「多少の犠牲は仕方ない……か」
ジルフはその言葉が分かっているかのように言った。ディーンはこれから言おうとしていたことを言い当てられ、非常に驚きながら言った。
「そ、そうさ! 多少の犠牲は仕方ない。私は、そう考えて、非常に苦悩したが、このテロを実行に移してきた。性根が腐っている連中がいる。どうしても殺さなきゃならないんだ。そうしなければ、この国に明るい未来などないのだから」
メリス、ゆうや、ゆかりの3人も含め、そこにいる全員が固唾を飲んで2人の会話を見守っていた。
ジルフは一呼吸置き、ゆっくりと語り出した。
「多少の犠牲は仕方ない。そう考えて、非情なやり方で国を動かそうというやつを、俺は何人も見てきた。そいつらには信念があった。理想があった。みんな良い目をしていたよ。おまえのようにな」
「だが、非情なやり方はいつしかその人間も非情に変えてしまうんだ。多少の犠牲が、だんだんとこれくらいの犠牲なら、になり、最後は、どんな犠牲も厭わなくなってしまう。かつての仲間ですら切り捨ててしまうほどにな」
「俺が経験した戦争だってそうさ。単なる侵略国家ではない、平和を掲げる国なら、最初はみんなそれぞれの名目があって、理想があって、戦いを始める。それがいつしか、血みどろの争いになり、単に憎しみがうごめくだけの、醜い戦いになってしまうんだ。一旦始まってしまえば、みんながみんな、狂気に堕ちてゆく」
「……………………」
ディーンは黙って聞いていた。
「非情な手段ってのは、こうも人を堕としてしまうものなのさ。だが、おまえなら、今ならまだ間に合うんじゃないか?」
「……それは、どういうことだ!?」
「俺の仕事は争いを止めることであって、おまえらを捕まえて国へ引き渡すことじゃない。だから、たったひとつの約束事を守れるのなら、別に今ここでこの組織を壊滅させる必要はないのさ」
「その約束事とはなんだ」
「一言でいえば、武力手段に訴えないことだ。今後一切のテロ行為をせず、一切の武力を持たず、言論のみによって活動していくということが誓えるのなら、ここは見逃してやってもいい」
「……どっちみち我々にそれ以外の選択肢はないのだろう? だったらその条件、謹んで飲ませてもらう」
「そうだぞ。こっちは破格の条件なんだ。おそらく報酬だってもらえない。それにな、言論の力は思ってるよりずっと偉大だぞ。国民の支持を取り付けられれば、国なんて簡単にひっくり返せるさ。実を言うとな、俺もあの大臣気に入らなかったんだよ」
「誓えるな? 今度何か起こしたら、そのときは俺がまた出向いて、今度こそおまえたちを皆殺しにするぞ!」
「ああ、私に二言はないさ!」
ジルフはその言葉を聞いて剣をしまった。
「健闘を祈ってるぞ。いつの日か、一滴の血もなく革命が成功するその日を」
「かたじけない……」
ディーンは感謝の気持ちで胸がいっぱいだった。
「さ、帰るぞ! こんなところにアジトはなかったようだしな」
ジルフはメリスたちに呼びかけた。
4人は、その部屋をあとにしようとした。すると、全員がそろって大きな声で言った。
「ありがとうございました! 本当に、ありがとうございました!」
深々と頭を下げる。その声を背にジルフたちはアジトを後にした。
ゆうやも、ゆかりも、本当に感動していた。強さだけじゃない。これが、これがジルフさんの、バルの本当のすごさなんだ。2人はジルフを尊敬のまなざしで見つめていた。いつかこんな人になりたい、心からそう思えた。
メリスも、ちょっとカッコつけすぎだったんじゃないの、と言いつつ少し感動していた。やっぱりジルフは昔から変わらないね、そういうとこ。
その日はそのまま宮殿に戻り、ゆっくりと休んだ。
翌日。ニュースをつけると、ディーン・クルスレッドからの声明が放送されていた。我々は、過去の過ちを反省し、今後は言論によって訴えていく、とのこと。他の革命勢力に対しても、武力的手段に訴えないよう働きかけていく、とのことであった。
大臣の部屋に訪問し、今朝のニュースを理由に、仕事のキャンセルを申し出た4人。
大臣マドラグは当然黙ってはいなかった。
「貴様、仕事を途中で放り出す気か! さっさと全員を探し出し、捕えないか! それが貴様たちの仕事だろう!」
ジルフがそれを制して言った。
「おい、大臣さんよ。あんたバルの仕事を勘違いしちゃいないか? バルの仕事は争い事を止めること。それがかなった今、もう仕事をする義理はないのさ」
ふう、と一息ついてから、ジルフは、自分を鬼の形相で見つめる大臣を背に、去り際にもう一言添えた。
「お国のことは、てめえでなんとかしな。俺たちは知ったこっちゃない。争いには関わっても、国には関わらない。それが、バルだ」